説明

核酸の増幅検出方法およびキット

【課題】逆転写が可能であり、デオキシウリジン三リン酸を用いることができ、合成した核酸鎖の分解を防ぐことができる、長鎖の標的核酸を迅速に増幅および検出する方法を提供する。
【解決手段】試料に含まれる核酸を増幅する方法であって、(a)該核酸の任意の領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、および核酸増幅基質のヌクレオチドと、該核酸を含む試料とを混合する工程、並びに(b)該領域をポリメラーゼ反応により増幅する工程を含み、該ポリメラーゼが、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を増幅し、増幅した核酸を検出するための方法、およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
PCRを用いてDNAを増幅するためには、標的となる核酸をその一対間の領域とするプライマー核酸、ポリメラーゼ、そのポリメラーゼの基質となり増幅後の核酸を形成するヌクレオチド三リン酸が必要とされる。増幅後は、任意の手法、例えば標的配列と相補的な配列を有する特異的なプローブ核酸を用いて、標的となる核酸を検出することが出来る。
また、逆転写(RT)PCRを用いてcDNAを増幅する方法もあるが、そのような場合には、逆転写活性を有するポリメラーゼを利用することができる。
さらに、増幅産物のコンタミネーション防止のために、非天然型のヌクレオチド三リン酸であるデオキシウリジン三リン酸を用いる、ウラシルDNAグリコシラーゼ (UNG
)法も知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、このような先行技術には、一般的に、(1)逆転写活性を有するポリメラーゼは種類が限られている、(2)一般的なポリメラーゼは、増幅時の基質となるデオキシウリジン三リン酸を取り込まないことが多く、UNG法でのウラシルNグリコシラーゼでは分解できず、コンタミネーションを防止できないことがある、(3)増幅の速度は速い方が好まれる、という課題が存在していた。
【0004】
このように、逆転写が可能であり、デオキシウリジン三リン酸を用いることができる、長鎖の標的核酸を迅速に増幅および検出する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3392863号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、逆転写が可能であり、デオキシウリジン三リン酸を用いることができ、合成した核酸鎖の分解を防ぐことができる、長鎖の標的核酸を迅速に増幅および検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、配列番号1における第651位のアルギニンをグルタミン酸に置換したTaqポリメラーゼが、逆転写活性を有し、デオキシウリジン三リン酸を取り込むことができること、そして、さらに、配列番号1における第1〜235番目のアミノ酸を欠失させることにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を低下できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)試料に含まれる核酸を増幅する方法であって、
(a)該核酸の任意の領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、および核酸増幅基質のヌクレオチドと、該核酸を含む試料とを混合する工程、並びに
(b)該領域をポリメラーゼ反応により増幅する工程を含み、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、方法。
(2)試料に含まれる核酸を増幅して検出する方法であって、
(a)該核酸の任意の領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、核酸増幅基質のヌクレオチド、および増幅された核酸を検出するためのプローブと、該核酸を含む試料とを混合する工程、
(b)該領域をポリメラーゼ反応により増幅する工程、並びに
(c)該プローブを用いて該領域を検出する工程を含み、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、方法。
(3)前記(c)の検出する工程が、増幅反応中に蓄積されるPCR産物の検出または融解
曲線分析によって行われる、(2)に記載の方法。
(4)前記増幅する核酸がDNAもしくはRNAである、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)前記(b)の増幅する工程がPCRもしくはRT−PCRである、(4)に記載の方法。
(6)前記核酸増幅基質のヌクレオチドが、デオキシウリジン三リン酸を含む、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)前記ポリメラーゼが、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失もしくは低下させるために、N末端側のアミノ酸を欠失させた改変Taqポリメラーゼである、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)前記ポリメラーゼが、配列番号1のアミノ酸配列における第1〜235番目のアミノ酸が欠失された改変Taqポリメラーゼである、(7)に記載の方法。
(9)前記(b)の工程が、20塩基以上/秒の条件で核酸を増幅する工程である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)前記(b)の工程が、600塩基以上の塩基長を増幅する工程である、(9)に記載の方法。
(11)任意の核酸領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、および核酸増幅基質のヌクレオチドを含む、試料に含まれる核酸を増幅するためのキットであって、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、キット。
(12)任意の核酸領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、核酸増幅基質のヌクレオチド、および増幅された核酸を検出するためのプローブを含む、試料に含まれる核酸を増幅して検出するためのキットであって、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、キット。
(13)前記核酸増幅基質のヌクレオチドが、デオキシウリジン三リン酸を含む、(11)または(12)に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明において使用されるポリメラーゼは、逆転写活性を有するため、DNAもしくはRNAのいずれの核酸も増幅することができる。
本発明において使用されるポリメラーゼは、デオキシウリジン三リン酸を取り込むことができるので、UNG法を好ましく実施して、増幅産物のコンタミネーションを防止することができる。
本発明の方法により、20塩基以上/秒の条件で核酸を増幅することができ、増幅スピ
ードを向上させることができる。本発明の方法は、特に、600塩基以上の長鎖塩基長を増幅する際に、極めて有効である。
本発明において使用されるポリメラーゼは、さらに、配列番号1における第1〜235番目のアミノ酸を欠失させることにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失もしくは低下させることができる。本発明の方法はそれにより、反応液中の核酸プローブを分解することが無くなり、増幅中のプローブ検出行為や増幅後の融解曲線分析が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】実施例1の、基質dNTPmixおよびTaqを用いる場合のNAT2遺伝子についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図1B】実施例1の、基質dNTPmixおよび改変Taqを用いる場合のNAT2遺伝子についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図1C】実施例1の、基質dAUGCmixおよびTaqを用いる場合のNAT2遺伝子についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図1D】実施例1の、基質dAUGCmixおよび改変Taqを用いる場合のNAT2遺伝子についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図2A】実施例2の、基質dAUGCmixおよびTaqを用いる場合のRNA(SWlnfH1領域)についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図2B】実施例2の、基質dAUGCmixおよび改変Taqを用いる場合のRNA(SWlnfH1領域)についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図3A】実施例3の、基質dAUGCmixおよびTaqを用いるCYP2D6遺伝子についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【図3B】実施例3の、基質dAUGCmixおよび改変Taqを用いるCYP2D6遺伝子についてのTm解析における単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)の変化を示す。縦軸は、単位時間当たりの蛍光強度の変化量(-d蛍光強度増加量/t)、横軸は、温度(℃)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1>本発明の増幅および検出方法
本発明の方法は、試料に含まれる核酸を増幅する方法であって、
(a)該核酸の任意の領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、および核酸増幅基質のヌクレオチドと、該核酸を含む試料とを混合する工程、並びに
(b)該領域をポリメラーゼ反応により増幅する工程を含み、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換さ
れていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の方法は、上記工程(a)および(b)の後に、(c)プローブを用いて当該領域を検出する工程を含んでいてもよい。
すなわち、本発明の方法は、試料に含まれる核酸を増幅して検出する方法であって、
(a)該核酸の任意の領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、核酸増幅基質のヌクレオチド、および増幅された核酸を検出するためのプローブと、該核酸を含む試料とを混合する工程、
(b)該領域をポリメラーゼ反応により増幅する工程、並びに
(c)該プローブを用いて該領域を検出する工程を含み、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されていることを特徴とする。
前記(c)の検出する工程は、増幅反応中に蓄積されるPCR産物の検出または融解曲線
分析によって行われることが好ましい。
【0013】
本発明の方法は、上記工程(a)、工程(b)、必要に応じて工程(c)により行われるが、ポリメラーゼとして、特定のポリメラーゼを用いる以外は、従来の方法と同様にして、工程(a)〜(c)を行うことができる。
【0014】
本発明において使用されるポリメラーゼは、好熱菌Thermus aquaticusが産生するポリ
メラーゼ(EC.2.7.7.7)(すなわち、Taqポリメラーゼ)である配列番号1のアミノ酸配列の第651位のアルギニンがグルタミン酸に置換されていることを特徴とする。
本発明において使用される配列番号1の第651位のアルギニン(配列番号1の第651位周辺のアミノ酸配列は、− Phe Gly Val Pro Arg Glu Ala Val Asp −で示され、下
線部が651位のアルギニンを示している)がグルタミン酸(配列番号1の第651位周辺のアミノ酸配列は、− Phe Gly Val Pro Glu Glu Ala Val Asp −で示され、下線部が
置換された651位のグルタミン酸を示している)に置換された改変Taqポリメラーゼは、第651位のアルギニンがグルタミン酸に置換されていない野生Taqポリメラーゼと比較して、ポリメラーゼ活性が増加している。
本発明において使用されるポリメラーゼは、配列番号1の第651位のアルギニンがグルタミン酸に置換されていることに加えて、配列番号1における第1〜235番目のアミノ酸が欠失し、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が欠失もしくは低下しているポリメラーゼであってもよい。
本発明において使用される野生ポリメラーゼをコードする塩基配列としては、例えば、GenBank Acc. No. J04639として登録されている塩基配列が挙げられる。
【0015】
本発明において、ポリメラーゼは、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有する。
本発明の方法においては、上記のようなTaqポリメラーゼが使用されるが、配列番号1の第651位のアルギニンがグルタミン酸に置換され、かつ、ポリメラーゼ活性が失われない限り、例えば、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1における第1〜235番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列において、1又は複数、2〜10個、または2〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。
上記アミノ酸置換変異の位置は、配列番号1のTaqポリメラーゼのアミノ酸配列における位置であるが、配列番号1のアミノ酸配列において、前記特定の変異以外に、1又は複数のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有するTaqポリメラーゼのホモログ又はバリアントにおいては、配列番号1のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて、前記アミノ酸置換の位置に相当する位置を示す。例えば、1〜650
位の領域において1個のアミノ酸残基の欠失を有するTaqポリメラーゼの保存的バリアントにおいては、651位とは、前記バリアントの650位を示す。また、第1〜235番目のアミノ酸残基の欠失を有するTaqポリメラーゼの保存的バリアントにおいては、651位とは、前記バリアントの416位を示す。
同様に、本発明のTaqポリメラーゼは、配列番号1の第651位のアルギニン(配列番号1の第651位周辺のアミノ酸配列は、− Phe Gly Val Pro Arg Glu Ala Val Asp
−で示され、下線部が651位のアルギニンを示している)がグルタミン酸(配列番号1の第651位周辺のアミノ酸配列は、− Phe Gly Val Pro Glu Glu Ala Val Asp −で示
され、下線部が置換された651位を示している)に置換され、かつ、ポリメラーゼ活性が失われない限り、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1における第1〜235番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、または95%のアミノ酸同一性を有するタンパク質であってもよい。
【0016】
なお、本発明において使用されるポリメラーゼは、逆転写活性を有しているため、DNAおよびRNAのいずれを鋳型としても増幅することが可能であり、RT−PCRも可能である。逆転写酵素とDNAポリメラーゼを混合して用いる場合は、酵素反応の適切な調整が必要とされる場合があるが、本発明において使用されるポリメラーゼであれば細かな調整をせずに用いることが可能である。また、逆転写反応とPCRを単一の酵素を用いて実施できるため、逆転写反応とPCRを別々のチューブ内で行うツーステップ操作が不要となり、ワンステップ操作でRT−PCRを実施することが可能となる。
【0017】
本発明において使用されるプライマーは、目的の領域を増幅するように設計される限り、特に制限されず、通常の方法を用いて設計すればよい。
【0018】
本発明において使用される、好ましいデオキシリボヌクレオチドの組み合わせは、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、およびチミジン三リン酸(dTTP)の組み合わせ、または、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、およびデオキシウリジン三リン酸(dUTP)の組み合わせであるが、ddNTPや修飾ヌクレオチドなどを用いても良い。
本発明のポリメラーゼは、デオキシウリジン三リン酸を取り込むことができるので、本発明の方法において、好ましくは、UNG法を実施して、増幅産物のコンタミネーションを防止することもできる。
【0019】
本発明の方法において使用される、増幅された核酸を検出するための核酸プローブは、例えば、特開2001−286300号公報および特開2002−119291号公報などに記載されるような、末端部が蛍光色素により標識された消光プローブを使用することができる。核酸プローブは、標的配列にハイブリダイゼーションしないときと比較して、標的配列にハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が減少または増加することが好ましい。本発明における核酸プローブは、好ましくは、ハイブリダイゼーションしないときに蛍光色素の蛍光が発光し、ハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が消光する、消光プローブである。
【0020】
核酸増幅を行う際の鋳型となる核酸を含む試料としては、核酸を含んでいればよく、特に制限されないが、例えば、血液、口腔粘膜懸濁液、爪や毛髪等の体細胞、生殖細胞、乳、腹水液、パラフィン包埋組織、胃液、胃洗浄液、腹膜液、羊水、細胞培養などの任意の生物学的起源に由来する又は由来しうるものである。鋳型となる核酸は、該起源から得られたままで直接的に、または該サンプルの特性を改変するために前処理した後で使用することができる。
また、一般的に、試料中の核酸は、DNAまたはRNAであり、一本鎖または二本鎖のいずれ
であってもよい。
【0021】
本発明の方法における上記工程(a)は、上記ポリメラーゼ、プライマー、および基質ヌクレオチド、必要に応じて核酸プローブを、核酸を含む試料と共に、反応液に所定量添加し、混合することにより、行うことができる。
【0022】
本発明の方法における上記工程(b)は、通常の核酸増幅方法、例えば、PCR、RT-PCR
等によって行うことができる。また、ICAN法により、DNA-RNAキメラプライマー、RNase H、上記ポリメラーゼを用いて標的遺伝子を増幅することができる。また、LAMP法により、インナープライマー、アウタープライマー、ループプライマー、上記ポリメラーゼを用いて標的遺伝子を増幅することもできる。
増幅核酸の検出を行う場合には、核酸プローブの存在下で増幅を行うことが好ましい。すなわち、上記工程(c)を行う場合には、工程(a)でプローブを追加することが好ましい。
本発明の方法における上記工程(b)は、本発明のポリメラーゼを用いることにより、好ましくは、20塩基以上/秒の条件で核酸を増幅することができる。
【0023】
本発明の方法における上記工程(c)は、好ましくは、前記プローブを用いて融解曲線分析を行い、増幅領域を検出する工程である。本発明の方法においては、本発明のポリメラーゼを用いることの他は、通常の核酸増幅および融解曲線分析(Tm解析)の方法に従って行うことができる。より好ましくは、工程(c)は、増幅された核酸について、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて、蛍光色素の蛍光を測定することにより融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて増幅領域を検出する工程である。本発明の方法における工程(c)は、通常の融解曲線分析(Tm解析)の方法に従って行うことができる。
あるいは、本発明の方法における工程(c)は、増幅反応中に蓄積されるPCR産物の検
出によって行われてもよい。具体的には、工程(c)は、増幅産物の量に依存して蛍光が変化する系を用いて、蛍光の測定によりPCRにおける増幅産物の定量をリアルタイムに行い、その結果に基づいてサンプル中のDNAを定量する定量的PCRであってもよく、公知の方法に従って行うことができる。このような方法の例としては、増幅産物にハイブリダイゼーションする、蛍光標識したプローブを用いる方法が挙げられ、蛍光標識したプローブとしては、前記プローブを用いることができる。本発明の方法における工程(c)は、前記プローブを用いることの他は、蛍光色素の蛍光を測定することによるリアルタイムPCR法に従って行うことができる。用いるプローブに応じて、増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。
なお、本発明の方法において、前記工程(c)は、前記工程(b)と同時に行われてもよい。
【0024】
本発明の方法における工程(c)は、核酸の増幅後にプローブのTmを解析するかまたはPCR産物の量を蛍光値として検出するだけなので、反応終了後増幅産物を取り扱う必要が
ない。よって、増幅産物による汚染の心配がない。また、増幅に必要な機器と同じ機器で検出することが可能なので、容器を移動する必要すらない。
【0025】
<2>本発明キット
本発明キットは、本発明の検出方法に用いるためのキットである。
すなわち、本発明のキットは、任意の核酸領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、核酸増幅基質のヌクレオチド、および増幅された核酸を検出するためのプローブを含む、試料に含まれる核酸を増幅して検出するためのキットであって、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換さ
れていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明のキットは、核酸の増幅のみに使用することもできる。
すなわち、本発明のキットは、任意の核酸領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、および核酸増幅基質のヌクレオチドを含む、試料に含まれる核酸を増幅するためのキットであって、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されていることを特徴とする。
【0027】
プライマー、ポリメラーゼ、基質ヌクレオチド、およびプローブについては、本発明の方法に関し、上記に説明した通りである。本発明のキットでは、基質ヌクレオチドは、好ましくは、デオキシウリジン三リン酸を含む。
本発明のキットは、プライマー、ポリメラーゼ、基質ヌクレオチド、およびプローブの他に、本発明の検出方法における核酸増幅を行うのに必要とされる試薬類をさらに含んでいてもよい。本発明のキットにおいて、プライマー、ポリメラーゼ、基質ヌクレオチド、プローブおよびその他の試薬類は、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
【0028】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0029】
実施例1(NAT2遺伝子を検出する場合)
N-acetyltransferase 2 (NAT2)のNAT2*5の遺伝子を含む部位(640bp)を増幅できるよう
に、表1に示すプライマーおよびプローブを用いた。このようなプライマーおよびプローブはWO2008/066161に記載されている。
【0030】
【表1】

【0031】
ヒト精製ゲノムを103コピー含み、以下の表2の濃度となるように各成分を混合した25
μlを、Smart Cycler(タカラバイオ株式会社製)を用いてPCRおよびTm解析を行った。PCRおよびTm解析の条件は下記の表3の通りである。Tm解析はOpticsをCh1に設定した。
基質(※1)は、dNTPmixまたはdAUGCmixであった。dAUGCmixはdUTPのみ最終濃度600nM
とした。dNTPmixの組成は、 dATP, dCTP, dGTP, dTTPであり、dAUGCmixの組成は、dATP, dCTP, dGTP, dUTPであった。
酵素(※2)は、Taq もしくは改変Taqであり、Taqは、アミノ酸第1〜235位が欠失した野生型Taqポリメラーゼを示し、改変Taqは、アミノ酸第1〜235位が欠失したR651E
変異導入Taqポリメラーゼを示す。Taqは、大腸菌により作製したリコンビナント酵素として生産した。改変Taqは、部位特異的変異導入によって651位のアルギニンをグルタミ
ン酸に置換した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
dNTPmixを基質に用いて反応時間を6秒にした場合、TaqではTm解析による検出が不可(
図1A)であったが、改変TaqではTm解析の検出が可能(図1B)であった。640bpを6秒
で増幅できたことから106bp/秒で核酸の増幅が可能であることがわかる。
dAUGCmixを基質に用いて反応時間を10秒にした場合、TaqではTm解析による検出が不可
(図1C)であったが、改変TaqではTm解析の検出が可能(図1D)であった。640bpを10秒で増幅できたことから64bp/秒で核酸の増幅が可能であることがわかる。
【0035】
実施例2(RNA(SWlnfH1領域)を検出する場合)
SWlnfH1領域を増幅できるように、表4に示すプライマーおよびプローブを用いた。こ
のようなプライマーおよびプローブは、WHOが発行しているインフルエンザウイルス増幅用のプロトコル(CDC realtimeRT-PCR protocol for influenza A(H1N1) 28 April 2009)に記載の配列を参考に作製した。
【0036】
【表4】

【0037】
RNA(SWlnfH1領域)を104コピー含み、以下の表5の濃度となるように各成分を混合した25μlを、Smart Cycler(タカラバイオ株式会社製)を用いてRT-PCRおよびTm解析を行った。PCRおよびTm解析の条件は下記の通りである。Tm解析にはOpticsをCh1に設定した。
酵素(※1)は、Taq もしくは改変Taqであり、Taqは、アミノ酸第1〜235位が欠失した野生型Taqポリメラーゼを示し、改変Taqは、アミノ酸第1〜235位が欠失したR651E変異導入Taqポリメラーゼを示す。
基質(※2)は、dAUGCmixであった。dAUGCmixは、dUTPのみ最終濃度600nMとした。dAUGCmixの組成は、dATP, dCTP, dGTP, dUTPであった。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
TaqではRT-PCR増幅後の検出ピークが確認できなかったが(図2A)、改変Taqでは検出ピークが確認できた(図2B)。
【0041】
実施例3(CYP2D6遺伝子を検出する場合)
CYP2D6遺伝子を含む部位(5.1kbp)を増幅できるように、表7に示すプライマーおよびプローブを用いた。このようなプライマーおよびプローブはClinical Chemistry 46, No.8,
2000 p.p.1072-1077や特許第4437207号に記載されている。
【0042】
【表7】

【0043】
ヒト精製ゲノムを4.8×103コピー含み、以下の表8の濃度となるように各成分を混合した25μlを、Smart Cycler(タカラバイオ株式会社製)を用いてPCRおよびTm解析を行った。PCRおよびTm解析の条件は下記の表9の通りである。Tm解析はOpticsをCh1に設定した。
基質(※1)は、dAUGCmixであった。dAUGCmixは、dUTPのみ最終濃度600nMとした。dAUGCmixの組成は、dATP, dCTP, dGTP, dUTPであった。
酵素(※2)は、Taq もしくは改変Taqであり、Taqは、アミノ酸第1〜235位が欠失
した野生型Taqポリメラーゼを示し、改変Taqは、アミノ酸第1〜235位が欠失したR651E変異導入Taqポリメラーゼを示す。
【0044】
【表8】

【0045】
【表9】

【0046】
Taqでは5.1kbpの長鎖増幅後の検出ピークが弱かったが(図3A)、改変Taqでは強い検出ピークが確認できた(図3B)。5.1kbpを420秒で増幅できたことから約12bp/秒で核酸の増幅が可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる核酸を増幅する方法であって、
(a)該核酸の任意の領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、および核酸増幅基質のヌクレオチドと、該核酸を含む試料とを混合する工程、並びに
(b)該領域をポリメラーゼ反応により増幅する工程を含み、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、方法。
【請求項2】
試料に含まれる核酸を増幅して検出する方法であって、
(a)該核酸の任意の領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、核酸増幅基質のヌクレオチド、および増幅された核酸を検出するためのプローブと、該核酸を含む試料とを混合する工程、
(b)該領域をポリメラーゼ反応により増幅する工程、並びに
(c)該プローブを用いて該領域を検出する工程を含み、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、方法。
【請求項3】
前記(c)の検出する工程が、増幅反応中に蓄積されるPCR産物の検出または融解曲線分
析によって行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記増幅する核酸がDNAもしくはRNAである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記(b)の増幅する工程がPCRもしくはRT−PCRである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸増幅基質のヌクレオチドが、デオキシウリジン三リン酸を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリメラーゼが、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失もしくは低下させるために、N末端側のアミノ酸を欠失させた改変Taqポリメラーゼである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリメラーゼが、配列番号1のアミノ酸配列における第1〜235番目のアミノ酸が欠失された改変Taqポリメラーゼである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記(b)の工程が、20塩基以上/秒の条件で核酸を増幅する工程である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記(b)の工程が、600塩基以上の塩基長を増幅する工程である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
任意の核酸領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、および核酸増幅基質のヌクレオチドを含む、試料に含まれる核酸を増幅するためのキットであって、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、キット。
【請求項12】
任意の核酸領域を増幅するためのプライマー、ポリメラーゼ、核酸増幅基質のヌクレオチド、および増幅された核酸を検出するためのプローブを含む、試料に含まれる核酸を増幅して検出するためのキットであって、
該ポリメラーゼが、配列番号1からなるアミノ酸配列または配列番号1と相同なアミノ酸配列を有し、該アミノ酸配列の651位に相当するアミノ酸残基がグルタミン酸で置換されている、キット。
【請求項13】
前記核酸増幅基質のヌクレオチドが、デオキシウリジン三リン酸を含む、請求項11または12に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2013−17426(P2013−17426A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153454(P2011−153454)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】