説明

核酸検出用核酸断片および核酸検出方法

【課題】検出精度の優れた核酸試料中の目的核酸の変異または多型を検出するための核酸断片および検出方法を提供する。
【解決手段】核酸断片セットは、複数の標的配列のそれぞれに対してハイブリダイズ可能な複数の核酸断片からなる核酸断片セットであって、各核酸断片が、互いに連結可能な領域を有し、かつ、この連結可能な領域同士の親和性が、標的配列と核酸断片との親和性よりも高くなるように設定されてなるものである。核酸断片は、核酸断片のセットにおいて用いられるものである。核酸断片は、核酸検出用プローブまたは核酸検出用コンペティターとして用いることができる。例えばヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、T細胞受容体遺伝子、赤血球型決定遺伝子、Rh抗原遺伝子の検出を高精度で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国特許出願である特願2004−335874号(出願日:2004年11月19日)に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体は参照することによりここに組み込まれる。
【発明の背景】
【0002】
発明の分野
本発明は、核酸試料中の目的核酸の変異または多型を検出するための核酸断片およびそのセットに関する。詳細には本発明は、同一核酸鎖上に存在する複数の不連続な領域に含まれる遺伝情報を同時に識別することが可能な核酸検出用プローブ、核酸検出用コンペティターおよびこれらを用いた目的核酸の検出方法ならびに核酸検出用キットに関する。
【0003】
背景技術
ヒトゲノムの解読が終了して、ヒト染色体の全配列が明らかとなり、今後は個々の遺伝子のもつ情報についての研究がますます精力的に進められると予想される。既に多くの疾患と遺伝子の変異または多型との関連性について研究が進められており、遺伝子の変異または多型と、単一遺伝子疾患、多因子疾患の原因遺伝子との関係が次々と明らかにされている。多くの遺伝子で多型が報告され、個人識別や病因遺伝子の探索において有用なマーカーとなっている。さらには赤血球のABO型多型やHLA遺伝子に見られる多型においては、輸血、または骨髄移植において、その適合性が治療成績等に重要な影響を与えることが報告されている。
【0004】
このような状況の下で、標的の遺伝子またはそれを含む領域内に存在する遺伝子変異、遺伝子多型を簡便かつ正確に検出する技術が求められている。このような変異または多型を検出する方法としては、例えば、目的とするフラグメント全体の配列情報に基づき、遺伝子の変異または多型を検出する方法として、PCR−SSCP法(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 2766 (1989)(非特許文献1)参照)、PCR−PHFA法(例えば、Nucl. Acids Res. 22, 1541- (1994)(非特許文献2)参照)、PCR−DGGE法(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 232 (1989)(非特許文献3)参照)、PCR−RSCA法、およびSequencing法等が挙げられる。これらの方法では、理論的にはフラグメント内のいかなる領域に変異または多型が存在する場合にも、1本鎖の構造の違い、アニーリングの仕方の違い、変性の仕方の違い、ヘテロ2本鎖の構造の違い、または、解読された配列自体に変化を与え、その違いを検出すること、によって遺伝子変異または多型を知ることが可能となる。
【0005】
一方、非常に限られた領域における遺伝子変異または多型を検出する方法としては、PCR−SSP法、Invader法、PCR−RFLP法などが挙げられる。これらの方法では非常に限られた領域内に存在する変異または多型によって、プライマー末端からの伸長反応、Cleavaseによる切断反応、制限酵素による切断反応に影響を与え、それを検出することによって遺伝子変異または遺伝子多型を知ることが可能となる。
【0006】
また、この中間に位置するものとして、PCR−SSO法、Taqman法、Light Cycler法等が挙げられる。これらの方法は、標的領域に変異または多型を有するDNA分子と、標的領域に相当する配列を有する合成オリゴヌクレオチドとの親和性の違いに基づくものである。これらの方法では、合成オリゴヌクレオチドの結合領域に変異または多型が存在した場合に、合成オリゴヌクレオチドとの親和性が変化し、それによってオリゴヌクレオチドプローブの結合、ポリメレースによる切断、または蛍光エネルギー転移の有無に変化を生じさせ、それを検出することによって遺伝子変異または多型を知ることが可能となる。
【0007】
HLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球抗原)は自己または非自己の認識に重要な役割を果たし、その遺伝子には非常に多くの多型が存在する。主な遺伝子としてはHLA−A、−B、−C、−DR、−DP、−DQがある。移植時に供給者と被移植者の間でこれらの遺伝子の型を予め検査し、それを適合させることによって骨髄移植等における治療効果を大きく向上させることができる。これまで報告されている多型の種類はそれぞれの遺伝子で数十から数百種にも及ぶ。これらの遺伝子のアレル(対立遺伝子)(allele)を決定することは容易ではなく、特に非血縁者の場合には適合した遺伝子型を持つ人を見つけることは非常に困難で、公的な骨髄バンクを組織し、多くのドナー登録により、適合者を見つけることが行われている。
【0008】
HLAなどの遺伝子多型を決定する方法としては、例えば、PCR−SSP法、PCR−SSO法、Direct sequencing法等(例えば、今日の移植vol.7 SUPPL (1994)(非特許文献4))がある。
このうち、PCR−SSO法は多検体処理に適した方法として、最も広く用いられている。この方法では各HLA遺伝子内で多型を示す多数の領域に相当するオリゴヌクレオチドプローブを設定し、それらの反応様式から遺伝子型を決定する。しかしながら、ヒトの遺伝子は父親由来のものと母親由来のものの2セットからなり、しかもHLA遺伝子は非常に多型に富むために、従来のプローブを使用するPCR−SSO法では遺伝子型を決定できないことがある。例えば、一方のアリル(対立遺伝子)の2つの近接する位置#1、#2の塩基の配列がそれぞれAとTで、他方のアリルの相当する位置の塩基の配列がTとGの場合には、通常の方法では#1の位置からはAとTが、#2の位置からはTとGの塩基が検出されることになる。これは一方のアリルがそれぞれの位置にAとGを、他方のアリルがTとTを持つ場合と結果的に同じ塩基が検出されることになる。すなわち、通常のPCR−SSO法では、物理的に連結した状態と、そうでない状態とを区別することはできない。連続した遺伝子から連続した蛋白が転写、翻訳されることが一般的であるため、各々のアリル単位で遺伝子の配列を知ることが重要である。前記したように、それぞれのアリル単位で配列が特定できない場合は正確な多型決定を行うことはできない。この点はDirect sequencing法についても同様である。
【0009】
Saitoらは、1つのプロ−ブ分子内に核酸塩基により互いを隔てた、2つの特異的な配列領域を有する核酸検出用プローブを提案している(国際公開公報WO 03/027309号(特許文献1)を参照)。このプローブ中に存在する2ヶ所の特異的な配列領域(標的配列を識別するプローブ領域)はそれぞれ、ハイブリッド形成条件下において、検体核酸上の標的核酸配列と相補鎖を形成するものである。プローブ上の2カ所の特異的な領域に相補的な標的領域が、別々の鎖である検体核酸中に存在する場合は、2カ所の特異的な領域が、2本の鎖上に物理的に隔てられることなり、形成される相補鎖は、充分な強度の2本鎖とはならない。しかしながら、2カ所の特異的な領域に相補的な標的領域が、同一鎖に存在する場合には、形成される相補鎖は充分な強度の2本鎖となる。したがって、前記プローブを利用することによって、2ヶ所の特異的な配列領域に相補的な標的領域が、2本の鎖上に物理的に隔てられて存在している場合と、一本鎖上で物理的に近接して存在している場合とを、形成される2本鎖の強度に基づいて区別することができる。
【0010】
しかしながら、ひとつのプローブで2ヶ所の配列を認識させるためには、2ヶ所の配列をそれぞれ最適化し、その最適な組合せのものを探索する必要がある。例えば同一核酸鎖上に2ヶ所(例えば一方がm個の候補があり、他方がn個の候補がある場合)存在する標的配列を同時に認識させる場合、1本鎖のプローブを用いると、そのプローブ領域の最適化を行う際には、m×n種類のプローブを調製する必要がある。mが10で、nが20であった場合には、10×20=200種類のプローブを調製し評価する必要がある。結果として、最適化作業は煩雑となり、開発期間は長期化し、必然的に開発コストが増大する。このようなことから、プローブの調製が容易で、かつ、検出精度の高い、操作性に優れた方法が望まれていた。
【特許文献1】国際公開第03/027309号パンフレット
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 2766 (1989)
【非特許文献2】Nucl. Acids Res. 22, 1541- (1994)
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 232 (1989)
【非特許文献4】今日の移植 vol.7 SUPPL (1994)
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは今般、同一鎖上に複数の標的配列を有する目的核酸を検出する目的で、核酸検出用プローブとして調製する際、一つの分子上に連続した複数のプローブ領域を持つものではなく、複数のプローブが互いに連結可能な領域によって連結されたプローブを形成させることにより、一つの分子上にある場合と同等もしくはそれ以上の検出感度を有することを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0012】
よって、本発明は、検出精度の優れた、2以上の複数のプローブ領域を有する核酸の検出に用いられる核酸断片およびそのセット、そのような核酸断片セットを含む核酸検出用プローブ、および、そのようなプローブを用いる検出方法の提供をその目的とする。
【0013】
本発明による核酸断片セットは、複数の標的配列のそれぞれに対してハイブリダイズ可能な複数の核酸断片からなる核酸断片セットであって、
各核酸断片が、互いに連結可能な領域を有し、かつ、
この連結可能な領域同士の親和性が、標的配列と核酸断片との親和性よりも高くなるように設定されてなるものである。
【0014】
本発明による核酸断片は、本発明による核酸断片セットにおいて用いられるものである。
【0015】
本発明による核酸検出用プローブは、本発明による核酸断片セットからなる。
また本発明による核酸検出用コンペティターは、本発明による核酸断片セットからなる。
【0016】
本発明によれば、複数の標的配列が同一核酸鎖上に存在しうる目的核酸を検出する方法であって、
(a) 請求項7または8に記載の核酸検出用プローブと、核酸試料とを、ハイブリダイズ可能な条件下にて接触させる工程、および
(b) 前記プローブと核酸試料とがハイブリダイズしたか否かによって、核酸試料中の目的核酸の存在を判定する工程
を含んでなる方法が提供される。
【0017】
本発明による核酸検出用キットは、本発明による核酸検出用プローブと、本発明による核酸検出用コンペティターとを少なくとも含んでなる。
本発明によれば、複数の標的配列が同一核酸鎖上に存在しうる目的核酸を検出するための、本発明による核酸断片セットの使用が提供される。
【0018】
本発明の別の態様によれば、本発明による核酸断片は、複数の標的配列に対してハイブリダイズ可能な複数の核酸断片が、互いに連結可能な領域を有し、かつ、連結可能な領域同士の親和性が標的配列と核酸断片との親和性よりも高くなるように設定された核酸断片であることができる。
また本発明の別の態様によれば、前記核酸断片からなる核酸検出用プローブが提供される。さらに本発明の別の態様によれば、前記核酸断片からなる核酸検出用コンペティターを提供される。
【0019】
本発明の別の態様によれば、複数の標的配列が同一核酸鎖上に存在する目的核酸を検出する方法であって、(a')核酸試料を用意する工程、(b')上記核酸検出用プローブを用意する工程、(c')上記核酸検出用プローブと核酸試料とをハイブリダイズさせる工程、および(d')上記核酸検出用プローブと核酸試料との間で形成される特異的なハイブリッドの有無によって、核酸試料中の目的核酸の存在を判定する工程を含んでなる、検出方法が提供される。
【0020】
さらに本発明の別の態様によれば、前記核酸検出用プローブおよび/または核酸検出用コンペティターを含んでなる、核酸検出用キットが提供される。
【0021】
本発明による核酸検出用プローブは、遺伝子多型を複数個所もつ遺伝子を検出する精度が高いことから、例えばヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、T細胞受容体遺伝子、赤血球型決定遺伝子、Rh抗原遺伝子の検出に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
核酸断片およびそのセット
本発明による核酸断片セットは、複数の標的配列のそれぞれに対してハイブリダイズ可能な複数の核酸断片からなる核酸断片セットであって、各核酸断片が、互いに連結可能な領域を有し、かつ、この連結可能な領域同士の親和性が、標的配列と核酸断片との親和性よりも高くなるように設定されてなるものである。そして本発明による核酸断片は、本発明による核酸断片セットにおいて用いられるものである。
ここで、目的核酸から標的配列の選択については、入手可能な遺伝子変異または多型に関する遺伝子情報に基づいて、適宜決定することができる。
【0023】
ここで言う「連結」とは、反応液中で複数の分子が結合することをいい、任意の結合であってよい。好ましくは、非共有結合であり、さらに好ましくは、アデニン−チミン、グアニン−シトシンの結合のような、水素結合をいう。連結の強度においては、核酸の場合は、配列の長さ、核酸の種類によって適宜調整することができる。
【0024】
本発明において「親和性」とは、核酸断片と標的配列、あるいは互いに連結可能な領域同士の結合状態の強さを示し、核酸同士であれば、Tm値(溶解温度)で表わすことができる。Tm値が高いほど、結合状態が強く安定である。Tm値は、慣用の方法、例えば、下記文献に従って測定することができる:
i)Wallace R.B., Shaffer J., Murphy, R.,F Bonner ., Hirose T., and Itakura K.,(1979)Hybridization of synthetic oligodeoxyribonucleotides to phi chi 174 DNA: the effect of single base pair mismatch.-Nucleic Acids Res. ;6(11):3543-3557 ; または
ii)Breslauer K.J., Frank R., Blocker H., Markey L.A. (1986) Predicting DNA duplex stability from the base sequence - Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83, 3746-3750.
【0025】
本発明において「ハイブリダイズ」とは核酸同士の相補性が高い場合、二本鎖を形成することをいう。通常、互いの核酸が相補的になるように設計されているが、必要に応じて、検出する上で問題が生じない範囲において、その中に、1または数個(例えば、2〜3個)のミスマッチを含んでいてもよい。存在しても良いミスマッチの数は、要求される検出精度、および核酸断片の長さに応じて制限される。なお、検出に際して、核酸断片と標的核酸とのハイブリッド形成条件を適宜変更することにより、ミスマッチが存在する場合を排除したり、許容できるミスマッチの数を調整することができる。
【0026】
核酸検出用プローブ
本発明における核酸検出用プローブは、目的核酸中の標的配列に対してハイブリダイズ可能な複数の核酸断片であって、この各核酸断片が互いに連結可能な領域を有し、かつ、連結可能な領域同士の親和性が標的配列と核酸断片との親和性よりも高くなるように設定されてなる核酸断片を含んでなる。例えば、目的核酸がn個の標的配列を有し、それとハイブリダイズ可能なn個の核酸断片をプローブとして使用する場合は、互いに連結可能な領域が少なくともn−1ヶ所存在し、そこで互いに結合した核酸断片のセットをプローブとして用いることができる。ここで、nは、例えば、2〜6であり、好ましくは2〜4であり、より好ましくは2〜3、さらに好ましくは2である。その一例として、例えば図1のように調製することができる。
【0027】
本発明における核酸断片は、目的核酸の標的領域に特異的に結合する核酸性のものであれば特に制限はない。具体例として、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)、RNA(Ribo Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid)が挙げられ、1種または2種以上用いることができるが、好ましくはDNA、PNAであり、より好ましくは、DNAである。核酸断片は、目的核酸の配列情報に基づいて、慣用の方法を適用することによって適宜合成することができる。
【0028】
核酸断片の長さは、特に制限はないが、例えば、5〜100塩基の長さであり、好ましくは8〜30塩基、更に好ましくは、10〜28塩基である。
【0029】
本発明における連結可能な領域とは、複数の標的配列に対してハイブリダイズ可能な核酸断片以外の部分に存在し、特異的な親和性により互いが連結可能な領域を示す。この様な領域は、該核酸断片の3’末端あるいは5’末端または両末端に存在してもよい。具体的には、例えば抗原−抗体、リガンド−レセプター、あるいは核酸−相補的な配列を持つ核酸、などの組み合わせが挙げられるが、好ましくは核酸−相補的な配列を持つ核酸の組み合わせである。
【0030】
連結可能な領域が核酸である場合、その長さは典型的には4〜50塩基で、好ましくは8〜40塩基、より好ましくは、10〜30塩基である。これらの組み合わせにおける塩基は任意の配列でもよく、また予め決められた組み合わせの塩基対を形成するように設計された配列群の中から選ばれたものでも良い。多くの場合は4塩基程度からなる配列のユニットを組み合わせることによって、配列に多様性を持たせた一連の配列群から選ばれる。連結したプローブ同士のTm値(溶解温度)は、標的領域とプローブ領域とのTm値と比べて高く、その温度差は2℃以上であり、好ましくは10℃以上である。
【0031】
本発明によるプローブは、プローブとしての機能に影響を及ぼさない範囲において、複数の核酸断片のうち、少なくとも一つの核酸断片に利用可能な標識物質や任意の配列または修飾物質をさらに含んでいてもよい。
【0032】
また、本発明による検出用プローブは、複数の核酸断片のうち、少なくとも一つの核酸断片を固相に固定化することができる。その場合に使用される固相担体としては、本発明による検出用プローブまたは検体核酸が非特異的に吸着しうるもの、または、官能基が導入できその官能基と核酸との間で共有結合できるものであれば、いずれの材質またはいずれの形状のものであっても利用可能である。具体例としては、いわゆるポリマー製のマイクロプレート、チューブ、平板上、ビーズ形状のものが挙げられる。本発明においては、マイクロプレート、平板上、またはビーズ形状を用いるのが、その機械化の容易性から好ましく、ビーズ形状が特に好ましい。
【0033】
本発明による核酸断片を固相に固定化する方法としては、例えば、化学結合法が挙げられる〔Nucleic Acids Res., 15, 5373-5390 (1987)〕。具体例としては、カルボキシル基を導入した担体と、5’−末端にアミノヘキシル基を導入した核酸をEDCなどの水溶性カルボジイミドのような架橋剤を用いて両者を結合させる方法が挙げられる。
【0034】
その他の固定化方法としては、吸着などの非特異的結合によって核酸を直接担体に固定する方法が挙げられる。担体がポリスチレン製である場合は、紫外線照射または塩化マグネシウムの添加により吸着効率を上げることが可能である(特開昭61−219400号公報)。また、核酸とタンパク質を適当な方法によって化学結合または非特異的に吸着させ、そのタンパク質と担体との非特異的吸着を利用して固定化する方法等が挙げられる。また固相に固定化するものが、検体核酸であってもよく、固定担体および固定化方法は、本発明核酸検出用プローブの場合と同様である。
【0035】
本発明による核酸検出用プローブは、検体中に存在し得る標的核酸の検出または検査対象となる核酸の同定に用いられる。本発明によるプローブの検出の対象となる核酸としては、同一鎖中に複数の標的領域を有する目的核酸であればいずれのものであってもよく、好ましくは、ヒト由来の遺伝子であり、より好ましくは、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、T細胞受容体遺伝子、赤血球型決定遺伝子、またはRh抗原遺伝子である。
【0036】
また、配列に類似性のある一連の遺伝子群を検出、あるいは捕獲する際にもこのようなプローブは有用である。すなわち、一連の遺伝子群の塩基配列中に、連続する共通配列が短いために、その領域だけでは安定な二本鎖を形成できない場合がある。このような場合に、近接する領域に同様な箇所が存在すれば、本発明による複数の領域を同時に認識することが可能なプローブによって検出、あるいは捕獲することが可能となる。
【0037】
核酸検出用コンペティター
また、本発明は、上記核酸断片を核酸検出用コンペティターとして使用することもできる。本発明核酸断片を核酸検出用コンペティターとして使用する際、目的核酸中の複数の標的配列に対してハイブリダイズ可能な複数の核酸断片の親和性は、該核酸断片を核酸検出用プローブとして使用する際のそれと同等またはそれ以下に設定されたものである。標的配列と核酸断片の親和性を核酸検出用プローブのそれと同等またはそれ以下に設定するためには、標的配列に対してハイブリダイズ可能な核酸断片をプローブと同等にするか、標的配列に対してハイブリダイズ可能な塩基数を少なくするように設定することができる。
【0038】
本発明において、核酸検出用コンペティターは、目的核酸と上記核酸検出用プローブとのハイブリダイゼーション反応の精度を高め、目的核酸のみを選択的に検出する目的で使用することができる。一般的に、本発明核酸検出用コンペティターは核酸試料に対して1/10量から200倍量の範囲である事が好ましく、さらに1/2量から100倍量である事がより好ましい。
【0039】
よって本発明の一つの好ましい態様によれば、核酸検出用コンペティターは、標的配列と核酸断片との親和性が、請求項7または8に記載のプローブにおいて用いられる核酸断片と標的配列との親和性に比べて、低いかまたは同等に設定されてなるものである。
【0040】
核酸検出方法
前記したように、本発明によれば、複数の標的配列が同一核酸鎖上に存在しうる目的核酸を検出する方法であって、
(a) 請求項7または8に記載の核酸検出用プローブと、核酸試料とを、ハイブリダイズ可能な条件下にて接触させる工程、および
(b) 前記プローブと核酸試料とがハイブリダイズしたか否かによって、核酸試料中の目的核酸の存在を判定する工程
を含んでなる方法が提供される。
【0041】
核酸検出用プローブと核酸試料とをハイブリダイズさせる工程は、特に制限はないが、あらかじめ核酸検出用プローブ同士を連結した後に、核酸試料をハイブリダイズさせる方法、一部の核酸検出用プローブを核酸試料と混合させた後、残りの核酸検出用プローブを添加しハイブリダイズさせる方法、核酸検出用プローブと核酸試料それぞれを同時に加えてハイブリダイズさせる方法等がある。
【0042】
ここで、核酸検出用プローブと核酸試料とをハイブリダイズさせることが可能な条件は、使用するプローブおよび標的核酸等によって変化し得るが、一般的な条件は、適宜設定可能である。ハイブリッド形成条件の具体例としては、1〜5xSSC(0.75M NaCl、75mM クエン酸ナトリウム)であり、好ましくは、このときの温度は、25〜80℃である。
【0043】
本発明による核酸の検出方法としては、通常の遺伝子検出法に用いられている慣用の方法を応用することが可能である。このような方法としては、例えば、下記(1)〜(5)のような方法が挙げられる:
(1) 本発明による検出用プローブを予め固相上に固定化しておき、検出可能な標識を有する目的核酸、または予め標識が導入された目的核酸を固定化したプローブにハイブリダイズさせ、固相上に残存する標識を検出する方法、
(2) 目的核酸を予め固相上に固定化しておき、予め検出可能な標識を導入しておいた本発明プローブを固定化した目的核酸にハイブリダイズさせ、固相上に残存する標識を検出する方法、
(3) 本発明によるプローブと、目的核酸とを、それぞれ別々の懸濁可能な固相に結合させておき、これらをハイブリダイズさせることにより、凝集反応を起こさせ、その凝集を確認する方法、
(4) 本発明によるプローブと目的核酸とを液相中でハイブリダイズさせ、2本鎖形成により生ずる蛍光エネルギー転移を検出する方法、および
(5) 前記(1)〜(4)を任意に組み合わせてなる方法。
【0044】
本発明においては、前記(1)の方法が好ましい。前記(1)の方法において、目的核酸は、固定化された本発明プローブに容易に捕獲され、目的核酸以外の核酸は、捕獲されないので、固相上の標識レベルを測定することにより容易に目的核酸を検出することができる。
【0045】
本発明による核酸検出用プローブ、または検体核酸を標識する方法としては、例えば、
(A)標識すべき核酸に標識物を直接導入する方法、
(B)標識化されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、標識すべき核酸または標識すべき核酸と相補的な核酸を合成する方法、および
(C)標識された単位核酸の存在下、オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、標識すべき核酸または標識すべき核酸と相補的な核酸を合成する方法、
などが挙げられる。
【0046】
前記(A)の方法としては、標識すべき核酸に光反応でビオチン誘導体を導入し、酵素を結合したストレプトアビジンで検出する方法〔Nucleic Acids Res., 13, 745 (1985)〕、標識すべき核酸をスルホン化し酵素標識抗スルホン化抗体を用いて検出する方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 3466-3470 (1984)〕などが挙げられる。
【0047】
前記(B)および(C)の方法としては、特定の核酸配列を増幅する方法〔BIO/TECHNOLOGY, 8, 291 (1990) 〕を利用することができる。例えば、PCR法〔Science, 230, 1350-1354 (1985)〕にあっては、標識したプライマーを利用するか、または、標識したモノヌクレオチドトリリン酸を利用することにより、標識された伸長生成物または増幅生成物を得ることができる。また、Qβレプリカーゼを利用する増幅法〔BIO/TECHNOLOGY, 6, 1197 (1988)〕にあっては、同様に標識したモノヌクレオチドトリリン酸を利用することによって標識された伸長生成物または増幅生成物を得ることができる。また、前述した以外の核酸増幅法においても、伸長反応または増幅反応によって取り込まれるモノヌクレオチドトリリン酸やオリゴヌクレオチドを標識しておくことによって伸長生成物または増幅生成物を標識することができる。
【0048】
ここで使用する標識物質は、ハイブリダイゼーション操作後にこの物質を検出し得るものであるならば、放射性、非放射性を問わない。取扱いの容易性、保存性、廃棄処理等の観点から、非放射性の標識物質が好ましい。
【0049】
非放射性の標識物質としては、例えば、ビオチン、2,4−ジニトロフェニル基、ジゴキシゲニン等のハプテン、フルオレセインおよびその誘導体〔例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)等〕、ローダミンおよびその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミンイソチオシネート(TRITC)、テキサスレッド等〕、4−フルオロ−7‐ニトロベンゾフラン(NBDF)およびダンシルなどの蛍光物質あるいはアクリジン等の化学発光物質が挙げられる。これらにより標的核酸または本発明によるプローブを標識する場合は、いずれも公知手段(特開昭59−93098号、特開昭59−93099号各公報参照)により、標識化を行うことができる。
【0050】
本発明において、本発明によるプローブと標的核酸との間で形成される特異的なハイブリッドの有無を検出する操作は、存在する標識の種類に応じて適宜選択され、決定される。
【0051】
ここで、標識が直接検出可能なものである場合、すなわち標識が例えばラジオアイソトープ、蛍光物質、色素などである場合には、標識した核酸が固相に結合した状態で検出操作を行うかまたは標識物を核酸と結合したまま、あるいは標識物を核酸から切り放した状態で溶液中に遊離させた後、その標識に応じた方法によって検出操作を行なうことができる。また、標識が間接的に検出可能なものである場合、すなわち標識が例えばビオチン、ハプテンなどの特異的結合反応のリガンドである場合、一般的にそれらの検出に用いられているように、直接信号を発生する標識あるいは信号を発生する反応を触媒する酵素を結合した受容体(たとえばアビジンまたは抗体)を使用して検出操作を行うことができる。
【0052】
本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明による検出方法は、工程(a)の前に、検体中の検体核酸を増幅させる工程をさらに含むものである。すなわち、本発明による検出方法において、検出に先立って、検体核酸を鋳型として、慣用の遺伝子増幅方法によって、検体核酸を増幅させておくことが好ましい。このような増幅法としては、PCR法(Polymerease Chain reaction)のように温度変化を必要とするもの、および、LAMP法(Loop mediated amplification)のように等温で行われるものが挙げられる。
【0053】
本発明の別の一つの好ましい態様によれば、工程(a)において、本発明による核酸検出用コンペティターをさらに用いる。コンペティターを使用することで、検出精度を高めることができる。
【0054】
本発明における検出方法は、検体中に存在し得る標的核酸の検出または検査対象となる核酸の同定に用いられる。本発明による検出の対象となる核酸としては、同一鎖中に複数の標的領域を有する標的核酸であればいずれのものであってもよく、好ましくは、ヒト由来の遺伝子であり、より好ましくは、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、T細胞受容体遺伝子、赤血球型決定遺伝子、またはRh抗原遺伝子である。
【0055】
核酸検出用キット
本発明による核酸検出用キットは、試料核酸中の目的核酸の標的配列の存在を検出するためのものであり、本発明による核酸検出用プローブと、本発明による核酸検出用コンペティターとを少なくとも含んでなる。
【0056】
本発明によるキットは、目的核酸を増幅するためのプライマーをさらに含んでなることが好ましい。さらに本発明によるキットは、遺伝子増幅反応を行うために必要な試薬、ハイブリダイゼーション反応を行うために必要な試薬、さらに、遺伝子増幅物と本発明によるプローブとが特異的なハイブリッドが形成されているか否かを判定するために、必要な試薬等を含んでいてもよい。これらの試薬は、慣用のものを適宜使用することができる。例えば、ハイブリッドが形成されているか否かを判定するための試薬としては、二本鎖に特異的に反応するインターカレーター類などが挙げられる。
【0057】
本発明によるキットは、検体中に存在し得る標的核酸の検出または検査対象となる核酸の同定に用いられる。本発明による検出の対象となる核酸としては、同一鎖中に複数の標的領域を有する標的核酸であればいずれのものであってもよく、好ましくは、ヒト由来の遺伝子であり、より好ましくは、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、T細胞受容体遺伝子、赤血球型決定遺伝子、またはRh抗原遺伝子である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を説明するがこれらは本発明を限定するものではない。
【0059】
例1: HLA−DRB1*150201とDRB1*150101、*0101、*040501、および*140701との識別
本発明の核酸検出用プローブを使用してHLA−DRB1遺伝子(HLA−DRB1*150201(配列番号1)とDRB1*150101(配列番号2)、*0101(配列番号3)、*040501(配列番号4)、および*140701(配列番号5))の識別を行った。
【0060】
核酸検出用プローブとして、プローブ98−1LD(配列番号6)、98−2LD(配列番号7)および98−11UD(配列番号8)/Lin1−9D(配列番号9)を用意した。これらは、HLA−DRB1*150201遺伝子のアミノ酸番号69番〜72番に相当する領域(第1のプローブ領域)と、84番〜88番に相当する領域(第2のプローブ領域)を認識するプローブ配列を有するものであった。
ここで、プローブ98−1LDは、2つのプローブ領域の間に何も持たず、連続して存在するものである。98−2LDは二つの領域の間にチミジル酸が4つ(TTTT)つながったものである。これに対しての98−11UD/Lin1−9Dは二つの領域に対応するプローブ領域をそれぞれ98−11UD、Lin1−9Dが有している。更に、98−11UDのプローブ領域の5’側に(ACTC)のユニットを6つ、Lin1−9Dのプローブ配列の3’側に(GAGT)のユニットを6つ有している。両プローブはこの部分で相補鎖形成によるアーム構造をとることが可能で、二つのプローブ領域はアーム構造を介して隣接した形となる。これらのプローブを、EDCなどの水溶性カルボジイミドを用いてカップリングすることにより、オリゴヌクレオチドの末端に存在するアミノ基を介して、カルボキシ化ポリスチレンビーズに固定化した。
【0061】
一方、HLA−DRB1*150201、*150101遺伝子に関しては各遺伝子を組み込んだプラスミドを鋳型とし、ビオチン標識プライマーを用いて、PCR反応(ここで反応は94℃/30秒、55℃/30秒、72℃/30秒を1サイクルとして、これを30サイクル実施した)を行い、増幅物を得た。また、表2中に記したHLA−DRB1遺伝子を有することが予め判定されている検体#1〜#5については、染色体DNAを用いて増幅物を得た。各遺伝子について得られたビオチン標識増幅物を、それぞれ、固定化したプローブとハイブリッド形成条件下にてハイブリダイズさせた。これにストレプトアビジン−フィコエリスリン(蛍光物質)を作用させ、洗浄後、ビーズ上に残存する蛍光強度を測定し、その相対値を結果の表2に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1には使用したプローブの第一領域、第二領域の配列とそれぞれのDRB1遺伝子の間のミスマッチの数を示した。本実施例に使用したプローブ配列はDRB1*150201遺伝子に対しては二つの領域とも完全マッチの配列であるが、その他の遺伝子とはどちらかの領域にミスマッチが存在する。
【0065】
表2は各鋳型DNAから調製したビオチン標識DNAを用いてハイブリダイゼーションを行った後にビーズ上に残存した蛍光強度を示したものである。鋳型DNAとしてPlasmidの実験例から明らかなように、本発明のプローブは第一領域、第二領域の両方を認識していることがわかる。すなわち、第一領域、第二領域ともにミスマッチのないDRB1*150201に対しては強いシグナルを与えるのに対し、第二領域にミスマッチのあるDRB1*150101に対しては弱いシグナルを示している。また、その識別度においては2種の比較例のプローブと同等、あるいはより高性能であることがわかる。
【0066】
また、染色体DNAを検体とした場合にもDRB1*150201を含む検体に対しては本発明のプローブ、および比較例のプローブとも強いシグナルを示したのに対し、これを含まない検体の場合には弱いシグナルを与えていることがわかる。
【0067】
本発明のプローブは第一領域、第二領域が異なる分子上に存在しており、連結可能な領域によって連結するように設計されている。本実施例で示したように、このような構造を有するプローブが実施例における他の形状のプローブと同様に、2個所の塩基配列を認識し、双方の配列がマッチしている場合にその塩基対がより安定となり、特異的に検出可能であることがわかる。
【0068】
例2: HLA−DRB1*150201とDRB1*150101、*030101、*040301、*070101、*130201、*140101および*140701との識別
本発明の核酸検出用プローブを使用してHLA−DRB1遺伝子(HLA−DRB1*150201と*150101、*030101(配列番号10)、*040301(配列番号11)、*070101(配列番号12)、*130201(配列番号13)、*140101(配列番号14)および*140701)の識別を行った。
【0069】
核酸検出用プローブとしてプローブ98−11UD、Lin1−9D、Lin2GT−1(配列番号15)、Lin3GT−1(配列番号16)の4種を単独で固定化したもの、および98−11UDとLin1−9Dの混合物、98−11UDとLin2GT−1の混合物、98−11UDとLin3GT−1の混合物を用いた。
ここで、98−11UDはアミノ酸番号69〜72(第一領域)に相当するプローブ領域を有し、その5’側に(ACTC)のユニットを6つ有している。Lin1−9Dはアミノ酸番号84〜88(第二領域)に相当するプローブ領域を有し、その5’側に(GAGT)のユニットを6つ有している。Lin2GT−1は第二領域のプローブ領域を有し、その5’側に(GTAG)のユニットを6つ有している。Lin3GT−1第二領域のプローブ領域を有し、その5’側に(ATGG)のユニットを6つ有している。これらのうち、98−11UDとLin1−9Dの組み合わせの場合には、それぞれのユニットが相補的な配列となっており、連結によってアーム構造をとることが可能となる。
【0070】
例1と同様の方法で各プロ−ブを単独、あるいは2種の混合物としてカルボキシビーズ上に固定化した。また、プラスミドあるいは染色体DNAを鋳型としてビオチン標識プライマーによってPCR増幅を行い、ビオチン標識PCR産物を得た。
【0071】
各遺伝子について得られたビオチン標識増幅物を、それぞれのプローブが固定化されたビーズとハイブリッド形成条件下にてハイブリダイズさせた。これにストレプトアビジン−フィコエリスリン(蛍光物質)を作用させ、洗浄後ビーズ上に残存する蛍光強度を測定し、その相対値を表4に示した。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
表3には使用したプローブの第一領域、第二領域の配列とそれぞれのDRB1遺伝子の間のミスマッチの数を示している。本実施例に使用したプローブ領域はDRB1*150201遺伝子に対しては二つの領域とも完全一致の配列であるが、その他の遺伝子とは少なくともどちらかの領域にミスマッチが存在する。
【0075】
第一領域に相当するプローブ領域を有する98−11UDはDRB1*150101と*150201に対して完全一致の配列を有し、その他の遺伝子に対してはミスマッチが存在する。このプローブに対しては染色体DNAを検体として用いた場合には完全一致の*150201遺伝子を含む検体#1、#2に対して比較的高いシグナルを与えている。しかしながら、プラスミドを鋳型として増幅したものについては完全マッチのDRB1*150201よりもミスマッチを含む*040301、*070101の方が高いシグナルを与えており、本来のプローブの性能が見出せていない。
【0076】
第二領域に相当するプローブ配列を有するLin1−9D、Lin2GT−1、Lin3GT−1に関しては、いずれもDRB1*070101、*130201、*150201と完全一致であり、*030101、*040301、*140701および*150101とは2塩基のミスマッチを有する。これら3種のプローブはプローブ部分の配列は同一であり、ユニットの配列が異なるだけである。これらのプローブはいずれも完全マッチとミスマッチの遺伝子でシグナルに差が見られていない。
【0077】
これらのことから、第一領域、第二領域をそれぞれ単独で有するプローブ分子においては二つの領域を同時に認識することは不可能であると思われる。
【0078】
一方、二つの領域に相当するプローブを同時に固定化した98−11UD/Lin1−9D、98−11UD/Lin2GT−1、98−11UD/Lin3GT−1について、染色体DNAを検体とした場合において、二つの領域ともに完全マッチである*150201を含む染色体DNA検体#1、2において高いシグナルを与え、*150201を含まない検体#3、#4においては低いシグナルとなっている。ここで、二つのプローブに含まれるユニット部分が相補的な配列となっている98−11UD/Lin1−9Dの組み合わせは、相補的でない他の二つよりも識別が明確となっている。
【0079】
プラスミドDNAを鋳型とした場合には98−11UD/Lin1−9Dプローブは二つの領域に完全マッチなDRB1*150201に対してのみ特異的なシグナルを与えているが、他の二つのプローブに関しては98−11UDプローブに対して見られたように、ミスマッチを有するDRB1*040301、*070101に対して強いシグナルを与えており、期待されるプローブの性能が見られていない。
【0080】
以上のことから、二つの領域が相補的なユニットで連結されたプローブにおいてはアーム構造を介して二つの領域が隣接した構造となることが予想され、その結果二つの領域を同時に認識するプローブの識別能が高いことが考えられる。
【0081】
例3: HLA−DRB1*130201とHLA−DRB1*130101、HLA−DRB1*1403との識別
本発明の核酸検出用プローブを使用してHLA−DRB1*130201と*130101(配列番号17)、HLA−DRB1*1403(配列番号18)との識別を行った。
【0082】
核酸検出用プローブとして、一方の領域のみを認識する95−26UD(配列番号19)を固定化し、他方の領域を認識するLinGT2−2D(配列番号20)、GT2−2(配列番号21)、あるいはGT2−2T(配列番号22)をハイブリダイゼーションの際に添加した。ここで、95−26UDはアミノ酸番号69〜72(第一領域)に相当するプローブ領域を有し、その3’側に5'-CACACCTCCTCTCCACCACACCTC-3'のTag配列(配列番号23)を有している。LinGT2−2Dはアミノ酸番号84〜88(第二領域)に相当するプローブ領域を有し、その5’側に5'-GAGGTGTGGTGGAGAGGAGGTGTG-3'のTag配列(配列番号24)と4つのチミジル酸を有している。GT2−2は第二領域のプローブ領域を有しているが、5’側にいかなる配列も有していない。GT2−2Tは第二領域のプローブ領域を有し、その5’側に28塩基のチミジル酸からなる配列を有している。これらのうち95−26UDとLinGT2−2Dとの組み合わせは、それぞれのTag配列が相補的になっており、95−26UDを固定化した担体にLinGT2−2Dを添加することで、相補鎖形成によってアーム構造をとることが可能となり、第一領域を認識する部分と第二領域を認識する部分がアーム部分を介して隣接した構造となる。一方、95−26UDとGT2−2または95−26UDとGT2−2Tとの組み合わせでは相補鎖形成によるアーム構造をとることが出来ないために、第一領域、第二領域を認識する部分は隣接した構造とはならない。
【0083】
例1と同様の方法で95−26UDを単独でカルボキシビーズ上に固定化した。また、ビオチン標識増幅物は、各遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを鋳型として、ビオチン標識プライマーによってPCR増幅を行うことで調製した。
【0084】
各遺伝子について得られたビオチン標識増幅物を、95−26UDが固定化されたビーズとハイブリッド形成条件下にてハイブリダイズさせた。このとき液相中にLinGT2−2D、GT2−2または、GT2−2Tを共存させた。これにストレプトアビジン−フィコエリスリン(蛍光物質)を作用させ、洗浄後ビーズ上に残存する蛍光強度を測定し、その相対値を表6に示した。
【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
表5には使用したプローブの第一領域、第二領域の配列とそれぞれのDRB1遺伝子の間のミスマッチの数を示している。本実施例に使用したプローブ領域はDRB1*130201遺伝子に対しては二つの領域とも完全一致の配列であるが、DRB1*130101とは第ニ領域に、DRB1*1403とは第一領域にミスマッチが存在する。
【0088】
表6は各鋳型DNAから調製したビオチン標識増幅物を用いてハイブリダイゼーションを行った後にビーズ上に残存した蛍光強度を示したものである。固定化プローブと相補鎖形成により、第一、第二領域が隣接した構造をとりうるプローブをハイブリダイゼーション中に添加した場合に限り、第一領域、第二領域の両方を認識していることがわかる。すなわち、固定化プローブ95−26UDと相補的なユニットをもち、相補鎖形成によって2つの領域が隣接した構造をとりうるLinGT2−2Dをハイブリダイゼーション中に混合した場合では第一領域、第二領域ともにミスマッチのないDRB1*130201に対しては強いシグナルを与え、一方の領域にミスマッチのあるDRB1*130101、DRB1*1403に対しては低いシグナルを与えた。これに対し、第二領域の配列は同一であるが、固定プローブとアーム構造をとることができず、二つの領域が隣接した構造をとることができないないGT2−2およびGT2−2Tをハイブリダイゼーション中に添加した場合では、添加しない場合と同等の低い蛍光強度を示した。
【0089】
本発明のプローブは第一領域、第二領域が異なる分子上に存在しており、それぞれが連結可能な領域によって隣接するように設計されている。本実施例で示したように、一方の領域のみを固定化し、他方を液相に添加した場合においても、2つの領域の塩基配列がそれぞれマッチし、かつ、2つの領域が隣接した構造をとりうるプローブの場合には、形成された塩基対がより安定となり、特異的に検出可能であることがわかる。
【0090】
例4: 核酸断片の添加によるHLA−DRB1*130101とDRB1*130201、およびDRB1*1403との識別能の向上
本発明の核酸断片をコンペティターとして使用し、HLA−DRB1遺伝子(HLA−DRB1*130101と*130201、DRB1*1403)の識別を行った。
【0091】
核酸の配列を特異的に検出する際に、その特異性を向上させる目的でプローブ配列、あるいは検体の配列に類似した配列の核酸を共存させる方法はよく知られている。本出願の核酸断片についても同様の作用を持つことが期待される。
【0092】
核酸検出用プローブとして、本発明によって示された核酸断片を固相上に固定化したものを用いた。これに、本発明による核酸断片を液相中に添加し、検体のプローブへの結合と競合させることで、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能か否かを検討した。
【0093】
なお、本実施例においては、一方の領域を認識するプローブをあらかじめ固相に固定化し、ハイブリダイゼーションの際に他方の領域を認識するプローブを添加しているが、両方のプローブを同時に固定化することも可能である。また、互いに連結可能な領域を有する一方の領域を認識するプローブと他方の領域を認識するプローブをハイブリダイゼーションの際に、同時に添加して連結させているが、あらかじめ連結した形としてから添加することも可能である。第一領域のみを認識する95−42UD(配列番号25)を固定化し、第二領域のみを認識するLinTG3−5(配列番号26)をハイブリダイゼーションの際に添加することによって、二つの異なる領域を認識するプローブを調製した。また、これと同時にコンペティターとして第一領域を認識する95−25UD(配列番号27)、第二領域を認識するLinGT2−2D、あるいは両者を同時にハイブリダイゼーションの際に添加した。ここで、95−42UDはアミノ酸番号69〜72(第一領域)に相当するプローブ領域を有し、その3’側に(ACTC)のユニット6つからなるTag配列を有している。LinTG3−5はアミノ酸番号84〜88(第二領域)に相当するプローブ領域を有し、その5’側に(GACT)のユニット6つからなるTag配列と4つのチミジル酸を有している。両者は相補的なTag配列を有しており、混合した場合には容易に連結することが可能となる。コンペティターとして用いた95−25UDはアミノ酸番号69〜72(第一領域)に相当するプローブ領域を有し、その3’側に5'-CACACCTCCTCTCCACCACACCTC-3'のTag配列(配列番号23)を有している。LinGT2−2Dの配列は例3で示したように、第二領域に相当するプローブ領域のほかにTag配列 5'-GAGGTGTGGTGGAGAGGAGGTGTG-3'(配列番号24)を有している。
【0094】
これらのうち、95−42UDとLinTG3−5とはそれぞれのTag配列が相補的になっており、95−42UDを固定化した担体にLinTG3−5を添加することで、相補鎖形成によってアーム構造をとることが可能となり、第一領域を認識する部分と第二領域を認識する部分がアーム部分を介して隣接した構造となる。また、95−25UDとLinGT2−2DとはそれぞれTag配列が相補的になっており、それぞれを液相中に添加することで相補鎖形成によってアーム構造をとることが可能となり、第一領域を認識する部分と第二領域を認識する部分がアーム部分を介して隣接した構造となる。
【0095】
例1と同様の方法で95−42UDを単独でカルボキシビーズ上に固定化した。また、ビオチン標識増幅物は、各遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを鋳型として、ビオチン標識プライマーによってPCR増幅を行うことで調製した。
【0096】
各遺伝子について得られたビオチン標識増幅物を、95−42UDが固定化されたビーズとハイブリッド形成条件下にてハイブリダイズさせた。このとき液相中に固相化プローブの95−42UDと相補鎖形成をするLinTG3−5を共存させ、第一領域と第二領域が隣接したプローブ構造を形成させた。さらに、コンペティターとして95−25UDのみ、LinGT2−2Dのみ、あるいは95−25UD、LinGT2−2Dの両者を共存させた。これにストレプトアビジン−フィコエリスリン(蛍光物質)を作用させ、洗浄後ビーズ上に残存する蛍光強度を測定し、その相対値を表8に示した。
【0097】
【表7】

【0098】
表7には使用したプローブの第一領域、第二領域の配列とそれぞれのDRB1遺伝子の間のミスマッチの数を示している。本実施例に使用したプローブ領域はDRB1*130101遺伝子に対しては二つの領域とも完全一致の配列であるが、DRB1*130201とは第二領域に、DRB1*1403とは第一領域、第二領域にミスマッチが存在する。
【0099】
【表8】

【0100】
表8は各鋳型DNAから調製したビオチン標識増幅物を用いてハイブリダイゼーションを行った後にビーズ上に残存した蛍光強度を示したものである。コンペティターを添加しなかった場合では、DRB1*130201に対してクロスハイブリダイゼーションとみられる高い蛍光値がみられた。一方、相補鎖形成できるコンペティターを添加した場合では、添加していないものと比べてDRB1*130201の蛍光値が大きく低下していることがわかり、コンペティターの使用によりクロスハイブリダイゼーションを有意に抑制していることが確認できた。
つまり、本発明の核酸検出用プローブをコンペティターとして用いた場合、クロスハイブリダイゼーションの抑制が可能であり、検出プローブの識別精度を向上させることができるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明による核酸検出用プローブ(n=2の場合)を模式的に示した図である。
【図2】例1において用いたHLA−DR遺伝子と核酸検出用プローブとの関係を示す図である。
【図3】例2において用いたHLA−DR遺伝子と核酸検出用プローブとの関係を示す図である。
【図4】例3において用いたHLA−DR遺伝子と核酸検出用プローブとの関係を示す図である。
【図5】例4において用いたHLA−DR遺伝子とコンペティターとの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の標的配列のそれぞれに対してハイブリダイズ可能な複数の核酸断片からなる核酸断片セットであって、
各核酸断片が、互いに連結可能な領域を有し、かつ、
この連結可能な領域同士の親和性が、標的配列と核酸断片との親和性よりも高くなるように設定されてなる、核酸断片セット。
【請求項2】
互いに連結可能な領域が核酸からなる、請求項1に記載の核酸断片セット。
【請求項3】
複数の核酸断片のうちの少なくとも一つの核酸断片が、固相に固定化されてなる、請求項1または2に記載の核酸断片セット。
【請求項4】
固相がビーズ状または平面状である、請求項3に記載の核酸断片セット。
【請求項5】
複数の標的配列が同一核酸鎖上に存在する場合に、該核酸鎖とハイブリダイズし得るものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の核酸断片セット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸断片セットにおいて用いられる、核酸断片。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸断片セットからなる、核酸検出用プローブ。
【請求項8】
ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、T細胞受容体遺伝子、赤血球型決定遺伝子、およびRh抗原遺伝子からなる群より選択される遺伝子の検出に用いられる、請求項7に記載のプローブ。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸断片セットからなる、核酸検出用コンペティター。
【請求項10】
標的配列と核酸断片との親和性が、請求項7または8に記載のプローブにおいて用いられる核酸断片と標的配列との親和性に比べて、低いかまたは同等に設定されてなる、請求項9に記載のコンペティター。
【請求項11】
複数の標的配列が同一核酸鎖上に存在しうる目的核酸を検出する方法であって、
(a) 請求項7または8に記載の核酸検出用プローブと、核酸試料とを、ハイブリダイズ可能な条件下にて接触させる工程、および
(b) 前記プローブと核酸試料とがハイブリダイズしたか否かによって、核酸試料中の目的核酸の存在を判定する工程
を含んでなる、方法。
【請求項12】
工程(a)において、請求項9または10に記載の核酸検出用コンペティターをさらに用いる、請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
工程(a)の前に、核酸試料中の目的核酸を増幅させる工程をさらに含んでなる、請求項11または12に記載の検出方法。
【請求項14】
目的核酸が、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、T細胞受容体遺伝子、赤血球型決定遺伝子、およびRh抗原遺伝子からなる群より選択されるものである、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項7または8に記載の核酸検出用プローブと、請求項9または10に記載の核酸検出用コンペティターとを少なくとも含んでなる、核酸検出用キット。
【請求項16】
目的核酸を増幅するためのプライマーをさらに含んでなる、請求項15に記載の核酸検出用キット。
【請求項17】
複数の標的配列が同一核酸鎖上に存在しうる目的核酸を検出するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸断片セットの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−166911(P2006−166911A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335631(P2005−335631)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】