説明

栽培物保持器

【課題】高い根入率を確保するとともに播種作業の効率を向上し、製造工程での作業性を改善して製造効率を高めること。
【解決手段】播かれた種子を保持するともに幼苗の根を通過させることができる網目状の不織布と、該不織布の1面に一体化された樹脂ネットとから構成され、樹脂ネットは、経糸と緯糸の曲げ強度を異ならせることにより、所定方向に折り曲げ易く該方向と交差する方向には折り曲げにくくされた栽培物保持器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水耕栽培において、培養液上に浮かべた定植パネルと組み合わせて使用する栽培物保持器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の栽培方法の一つに、土に代えて培養液を用いて植物に必要な成分を補給する水耕栽培がある。この水耕栽培において、栽培物の種子を育苗しその苗を保持するために、栽培物保持器が使用されている。
【0003】
この水耕栽培において、培養液上に浮かべた定植パネルと組み合わせて使用する栽培物保持器としては、従来、図4、図5に示されるものが知られている。
この栽培物保持器52は、水滴が滴下する程度の幅に形成された切欠き部53aを有し、この切欠き部53aを中心として断面V字型に折り曲げ可能に、例えば発泡ポリスチレン等にて形成された支持部材53と、この支持部材53の上面に設けられた、親水性を有する例えばポリビニールアルコール等の粘着性を有する粘着部材55と、上記支持部材の下面に上記切欠き部を塞ぐようにして設けられた保持部材54とからなり、該保持部材54は、幼苗の根を通過させることができる程度の連続気泡を有した、例えばポリウレタン発泡体等の多孔質体で形成されたものである。
【0004】
種子51は、離型紙56を剥がしてから上記粘着部材55に1粒づつ貼り付けられる。
種子が貼着された栽培物保持器52は、切欠き部53aを中心として断面V字型に折り曲げられて、定植パネル57に形成された開口部57aに組みつけられる。この定植パネル57が培養液59上に浮かべられ、種子が発芽して殻と幼苗58とに分離し、幼苗58が殻から離脱して上記切欠き部53aに落下したとき、上記保持部材54に受け止められる。そして、幼苗58の根は、この保持部材54の連続気泡を通過して培養液59に達して、成長が可能となっている。
【0005】
しかし、この栽培物保持器52は、定植パネル57と組み合わせて使用する前に、種子51を上記支持部材53の上面に設けられた粘着性を有する粘着部材55に付着させる作業が極めて面倒で、作業効率が著しく低いという欠点があった。
【0006】
この改善策として、図7、図8に示されるような、定植パネル57の開口部57aに組み付けられ、栽培物を成育させる栽培物保持器62において、種子の径よりも大きな幅に、プレスにより打抜き形成された切欠部64を有する、例えば発泡ポリスチレンシート等にて形成された支持部材63と、この支持部材63の下面に上記切欠部64を塞ぐようにして設けられ、播かれた種子を保持するともに幼苗58の根を通過させることができる網目状の不織布65とからなる栽培物保持器62が提案された。
【0007】
この栽培物保持器62によれば、種子は該栽培物保持器62内に投入するだけでよいから、従来の栽培物保持器52に比べて上記粘着部材55に1粒づつ貼り付ける手間が省けて、播種作業の効率を上げることができるものの、上記切欠部64以外の部位では根が通過できないため、その部分に根を伸ばした種子は発芽後生育できずに枯死する。
【0008】
また、支持部材63が発泡ポリスチレンシートを材料として作成されているから、上記切欠部64を形成するに当たってはプレス加工により打抜く必要があり、支持部材63と網目状の不織布65とを一体化する工程では、両者を接着剤を塗布して張り合わせ、該シートをロール状に巻き取ることができないことからシート状物としてハンドリングする必要があり、製造工程での作業性が必ずしもよくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実公平5−1255号公報
【特許文献2】特許第2588690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこれら問題点を解決すること目的として創案されたものであって、高い根入率を確保するとともに播種作業の効率を著しく向上し、製造工程での作業性を改善して製造効率を高め、栽培物保持器の製造コストを低廉化することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、播かれた種子を保持するともに幼苗の根を通過させることができる網目状の不織布と、該不織布の1面に一体化された樹脂ネットとから構成された栽培物保持器において、前記樹脂ネットは、経糸と緯糸の曲げ強度を異ならせることにより、所定方向に折り曲げ易く該方向と交差する方向には折り曲げにくくされたことを特徴としている。
【0012】
請求項2に係る発明の樹脂ネットは、異なる径の経糸と緯糸とが織成されたものであることを特徴としている。
【0013】
請求項3に係る発明の樹脂ネットは、経糸と緯糸の織成密度が異なるものであることを特徴としている。
【0014】
請求項4に係る発明の樹脂ネットは、経糸と緯糸が曲げ強度の異なる材料から構成されていることを特徴としている。
【0015】
請求項5に係る発明の栽培物保持器は、前記不織布と前記樹脂ネットとが熱融着されて一体化されていることを特徴としている。
【0016】
請求項6に係る発明の樹脂ネットは、高融点樹脂からなる芯材を低融点樹脂からなる被覆樹脂にて被覆構成した経糸と緯糸のいずれか一方と、低融点樹脂からなる他方とが熱融着されたモノフィラメント織布であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、栽培物保持器が簡単な手段により所定方向に折り曲げ易く該方向と交差する方向には折り曲げにくくされていることから、手間取ることなく所定方向に折り曲げることができるので、栽培物保持器を定植パネルに形成された開口部に簡単に組み付けることができ、播種作業の効率を大幅に向上することができる。
また、栽培物保持器を構成する不織布と樹脂ネットには、幼苗の根の通過を阻害する部位が存在しないので、高い根入率を確保することができる。
さらに、不織布2と樹脂ネット3はいずれもロール巻き可能な材料であるから、これらを別々に巻いたロールから不織布2と樹脂ネット3をアンロールして両者を積層したうえで、加熱・加圧ロール間を通過させ、その後に所定サイズに裁断するだけで、栽培物保持器1を製造することがすることができるから、製造工程での作業性を大幅に改善して製造効率を著しく高め、製造コストを大幅に低廉化することが可能である。
請求項2乃至請求項4に係る発明によれば、簡単な構成で請求項1に係る栽培物保持器を製作することができる。
請求項5に係る発明によれば、接着剤塗布工程を省略することができるから、栽培物保持器の製作が容易である。
請求項6に係る発明によれば、樹脂ネットの強度を高めながら熱融着にて栽培物保持器を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施例の栽培物保持器の上面側に画いた不織布の一部を除去し、下側に画いた樹脂ネットを露出した一部破断斜視図である。
【図2】図2は、不織布と樹脂ネットを分解して示す分解斜視図である。
【図3】図3は、樹脂ネットの拡大図である。
【図4】図4は、第1の従来技術の水耕栽培用栽培物保持器の斜視図である。
【図5】図5は、その栽培物保持器を定植パネルに組み付けた状態を示す縦断面図である。
【図6】図6は、第2の従来技術の水耕栽培用栽培物保持器の斜視図である。
【図7】図7は、その栽培物保持器を定植パネルに組み付けた状態を示す縦断面図である。
【実施例】
【0019】
本発明の一実施例を示す図1乃至図3を参照して、本発明の栽培物保持器について詳細に説明する。
この栽培物保持器1は、播かれた種子を保持するともに幼苗の根を通過させることができる網目状の不織布2と、該不織布の少なくともいずれか1面に一体化された樹脂ネットとから構成されている。
【0020】
この不織布2は、繊度2.20〜3.30dtのポリエステル短繊維とレーヨン短繊維を配合してなる目付量40g/m2の繊維層を、例えば通常のウォータージェット法により繊維層繊維の交絡によって物理的に結合させて形成したものである。
この不織布2は、目付量が上記したように少なくしてあるので繊維層厚さが薄く、ウォータージェットまたはニードルパンチにより、種子の脱落を防ぎつつ発根を阻害しない程度の小孔が形成される。
このためこの不織布2は、播かれた種子を保持するともに幼苗の根を通過させることができる。
【0021】
一方、上述した樹脂ネット3は、例えばポリプロピレン等の高融点樹脂からなる芯材4を、例えばポリエチレン等の低融点樹脂からなる被覆樹脂5にて被覆構成した経糸6と、例えばポリエチレン等の低融点樹脂からなる緯糸7とが熱融着されたモノフィラメント織布である。
また、栽培物保持器を構成する不織布と樹脂ネットには、従来の発泡スチロールの非開口部のような、幼苗の根の通過を阻害する部位が全領域において存在しないので、播かれた種子はの発芽後の生存率を従来技術と比較して高くすることができる。
【0022】
樹脂ネット3は、経糸6と緯糸7の曲げ強度が異なっている。
このため、栽培物保持器1は所定方向に折り曲げ易く形成され、この所定方向と交差する方向には折り曲げにくくされている。
このことによって、この栽培物保持器1を定植パネル57に形成された開口部57aに挿入定着する作業を簡易化することができる。
【0023】
樹脂ネット3の経糸6と緯糸7の曲げ強度を異ならせるためには、経糸6と緯糸7の径を異なるものとするか、あるいは、経糸同士の間隔を緯糸同士の間隔より蜜にして織成密度を異なるものとするか、あるいは、経糸と緯糸が曲げ強度の異なる材料から構成とするか、あるいは、それらを組合わせることが考えられる。
【0024】
この実施例においては、図2、図3に示されるように両者を組合わせて、経糸6の径を緯糸7の径より大きくするとともに、経糸同士の間隔を緯糸同士の間隔より蜜にして経糸6の織成密度を大きくしてある。
なお、本実施例においては、経糸の曲げ強度を緯糸のそれよりも大きくしているが、その逆の構成を採用してもよい。
要するに、経糸と緯糸の曲げ強度を異ならせることにより、樹脂ネットが所定方向に折り曲げ易く該方向と交差する方向には折り曲げにくくされていればよい。
また、経糸緯糸の一方を、同一の材料組成から成る低融点樹脂からなる、延伸したモノフィラメントを、他方を未延伸のモノフィラメントを織成することによっても、経糸と緯糸の曲げ強度を異ならせることが可能である。
【0025】
不織布2と樹脂ネット3はいずれもロール巻き可能な材料であるから、これらを別々に巻いたロールから不織布2と樹脂ネット3をアンロールして両者を積層したうえで、加熱・加圧ロール間を通過させ、その後に所定サイズに裁断するだけで、栽培物保持器1を製造することができる。
それ故に、ロール巻できずハンドリングが容易でない発泡スチロール板を搬送して切欠き部を打ち抜く打ち抜き工程や、接着剤を塗布する接着剤塗布工程を必要としていた従来の栽培物保持器に比し、格段に製造コストを縮減することができるものである。
【0026】
この実施例の栽培物保持器1を使用する際には、図1に示される栽培物保持器1の短手方向の両端に指をかけて長手方向のほぼ中心線が下になるようにU字状に折り曲げ、定植パネル57に形成されている開口部57aに組み付ける。
そして、定植パネルの開口部に対して播種器によって種子を播き、散水機で水をまいて種子の催芽を行い、その後気温を一定に保った発芽室に2、3日入れて発芽させる。
【0027】
芽が所定の大きさまで生育した段階で、定植パネル57を発芽室から取り出して培養液中に浮かべる。
幼苗58の根は、不織布2に形成された小孔を貫通して培養液10に向けて生長する。この時、網目状の不織布12を用いているので、いわゆる発芽勢の弱い真夏においても、不織布の小孔を通って根が生えやすく、高い根入率を実現できる。
【符号の説明】
【0028】
1 栽培物保持器
2 不織布
3 樹脂ネット
4 高融点樹脂からなる芯材
5 低融点樹脂からなる被覆樹脂
6 経糸
7 低融点樹脂からなる緯糸
52 第1の従来の栽培物保持器
62 第2の従来の栽培物保持器
57 定植パネル
58 幼苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
播かれた種子を保持するともに幼苗の根を通過させることができる網目状の不織布と、該不織布の1面に一体化された樹脂ネットとから構成された栽培物保持器において、
前記樹脂ネットは、経糸と緯糸の曲げ強度を異ならせることにより、所定方向に折り曲げ易く該方向と交差する方向には折り曲げにくくされていることを特徴とする栽培物保持器。
【請求項2】
前記樹脂ネットは、異なる径の経糸と緯糸とが織成されたものであることを特徴とする請求項1に記載された栽培物保持器。
【請求項3】
前記樹脂ネットは、経糸と緯糸の織成密度が異なるものであることを特徴とする請求項1に記載された栽培物保持器。
【請求項4】
前記樹脂ネットは、経糸と緯糸が曲げ強度の異なる材料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載された栽培物保持器。
【請求項5】
前記不織布と前記樹脂ネットとは、熱融着されて一体化されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された栽培物保持器。
【請求項6】
前記樹脂ネットは、高融点樹脂からなる芯材を低融点樹脂からなる被覆樹脂にて被覆構成した経糸と緯糸のいずれか一方と、低融点樹脂からなる他方とが熱融着されたモノフィラメント織布であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載された栽培物保持器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−213619(P2010−213619A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63629(P2009−63629)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000218362)渡辺パイプ株式会社 (20)
【出願人】(503218104)有限会社 クレストパック (1)
【Fターム(参考)】