説明

梅セラミド組成物

【課題】梅から溶媒抽出されるセラミドであって、アミグダリンを含まないことを特徴とする梅セラミド組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、核(タネ)を取り除いた梅果実からセラミドを抽出することにより、アミグダリンを含まない、安全性の高い梅セラミド組成物を得ることができる。これにより、セラミドが持つ機能性を活かした安全な化粧品、医薬品、飲食物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梅から抽出されるセラミドであって、アミグダリンを含まないことを特徴とする梅セラミド組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
梅(Prunus mume
Sieb.et Zucc)は、古くから梅干し、梅酒、梅肉エキスなどに加工され広く利用されてきた日本人には馴染みの深い果実である。クエン酸やアミノ酸、カリウムやポリフェノールなど我々の健康に貢献する有効成分を豊富に含んでいる。一方、未熟な梅果実にはアミグダリンが含まれており、このアミグダリンが梅果実中の酵素エルムシンの作用で加水分解されると、そのときに発生するシアン化水素が強い毒性を示すことが懸念される。したがって未熟果実の摂取には注意が必要であるが、梅果実が熟してくると、アミグダリンが分解されて糖に変わるため、果肉中のアミグダリンは消失し、中毒のような心配がないこと、また、適度に熟した梅果実を梅干しや梅酒などに加工することによっても、アミグダリンの分解を促進するため、日常的に食している梅加工品については、健康被害への影響はなく(農林水産省消費者の部屋 平成21年6月回答より)、梅加工品は、安全な食品として長年広く利用されてきた歴史がある。
【0003】
セラミドとは、細胞間脂質の主成分であり、肌の角質層でスポンジのように水分や油分を抱え込み、何層にも重なっている角質細胞を一つ一つ接着する役割を担っている。肌や髪にうるおいをあたえる重要な生体成分である。セラミドは加齢や気候の変化、環境の変化になどにより減少することが報告され、そうなると肌にうるおいが無くなり、乾燥肌や荒れ肌、老人性乾皮症など肌に関するトラブルが懸念される。
【0004】
これまでは、牛脳由来のセラミドが化粧品用途に使用されてきたが、狂牛病問題から動物由来のセラミドに関する安全性が疑問視され、植物由来のセラミドが注目されるようになっている。植物由来のセラミドに関しては、茶葉より抽出したセラミド類を含む組成物が報告されている(特許文献1)。また、りんごから抽出したセラミド(特許文献2)や、カンキツ類から抽出したセラミド(特許文献3)についても報告がなされているが、梅にセラミドが含まれること、また、アミグダリンを含まない梅セラミド組成物およびその製造方法については何ら明らかにされていない。
【0005】
また、梅に含まれるアミグダリンの除去については、種皮付き梅仁から種皮を剥離した後、その梅仁を水晒しすることにより、梅仁に含まれるシアン化合物を除去する処理方法が報告されている(特許文献4)。これは、これまで利用できなかった梅仁を食用として利用するための処理方法であり、こちらの文献にも梅にセラミドが含まれること、また、アミグダリンを含まない梅セラミド組成物およびその製造方法については何ら明らかにさていない。
【特許文献1】特開2008−208284
【特許文献2】特開2005−060323
【特許文献3】特開2010−248140
【特許文献4】特開2002−010759
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、梅にはこれまでセラミド抽出原料として用いられてきた植物素材と比較して、同等もしくはそれ以上のセラミドが含まれていることを明らかにした。しかし、梅からセラミドを抽出する際に、梅に含まれるアミグダリンが高濃度化する課題を新たに発見した。本発明は、梅から抽出されるセラミドであって、アミグダリンを含まないことを特徴とする梅セラミド組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水または水溶液に不溶性の梅の画分を調製し、当該画分から溶媒抽出することにより、驚くべきことにアミグダリンを含まず、かつセラミドが濃縮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記本発明の課題は、下記する本発明により一挙に解決される。即ち、本発明は、
(1)梅から抽出されるセラミドであって、アミグダリンを含まないことを特徴とする梅セラミド組成物、
(2)梅が水または水溶液に不溶性の画分である請求項1記載の梅セラミド組成物、
(3)梅が核(タネ)を取り除いた梅果肉である請求項1又は請求項2に記載の梅セラミド組成物、
(4)請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物を含有する化粧料、
(5)請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物を含有する医薬品、
(6)請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物を含有する飲食物、
(7)請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、梅由来のセラミドをアミグダリンを含まない形で抽出することができ、安全性の高い梅セラミド組成物およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】試験例1の結果を示すTLCのスポットである。
【図2】試験例2の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の梅セラミド組成物は、梅(Prunus mume Sieb.et Zucc)から抽出することを特徴とする。梅の品種は特に限定されないが、例えば南高、小粒南高、古城、白加賀、鶯宿などが挙げられる。梅の熟度は特に限定されないが、果実を加工する観点から、より軟化した完熟果実が好ましい。
【0012】
核(タネ)を取り除く方法は特に限定されないが、梅果実からペンチ等で核(タネ)をくり抜いてもよく、あらかじめ梅果実を割り、割れた果実から核(タネ)を除いてもよい。このとき核(タネ)を割ったり、傷つけたりして、アミグダリンを高含有する梅仁を露出させたりせず、丸のまま核(タネ)を取り除くことが重要である。また、連続搾汁機など、機械的に核(タネ)を丸のまま取り除いてもよい。核(タネ)を取り除いた梅果実はそのままでも良く、ミキサーなどでピューレ状に破砕してもよく、乾燥後粉末にしてもよい。
【0013】
梅が水または水溶液に不溶性の画分である場合、梅果実から核(タネ)を取り除いた梅果肉を利用することも出来るし、この梅果肉から果汁分を分離した後の搾汁残渣を利用しても良い。更には、上記梅果肉を水または水溶液に接触させ、可溶性成分を除去しても良い。このときの水溶液とは、水に様々な物質が溶解した液体のことを指し、例えば、糖類を溶解した水溶液や塩類を溶解した水溶液など、水に溶ける性質の物質であれば何でも利用可能である。この処理により、水溶性であるアミグダリンが除去され、脂溶性であるセラミドが濃縮される。
【0014】
抽出に用いる溶媒は、梅からセラミドを抽出できる溶媒であれば特に限定されないが、例えば、低級アルコールであるメタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等、脂質を溶解可能なものであればいずれも利用できる。化粧品、医薬品、飲食物への用途を考慮するとエタノールが最も好適である。
【0015】
抽出に使用する溶媒の量は、原料である梅果実に対して好ましくは1〜100倍量程度、さらに好ましくは5〜20倍量程度がよい。抽出条件は特に制限されるものはないが、通常、常温、常圧下での溶媒の沸点の範囲内であればよく、抽出操作は1回のみの操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶媒を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶媒を複数回抽出原料に接触させることも可能である。また、脱臭や脱色などの精製処理を加えてもよく、エバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより濃縮することができる。
【0016】
本発明による梅セラミド組成物は、液状であっても、エキス状であっても、固状であっても構わない。梅セラミドを含有していれば、アミグダリン以外のその他の梅由来の成分を含んでいてもよく、またアミグダリン以外のその他の成分を添加してもよい。
【0017】
本発明による梅セラミド組成物を含有する化粧料としては、特に制限されるものではないが、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、ファンデーション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅などが挙げられる。
【0018】
本発明による梅セラミド組成物を含有する医薬品としては、特に限定されるものではないが、例えば散在、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、丸剤、カプセル剤、チュアブル剤などが挙げられる。液体製剤としては、乳剤、液剤、シロップ剤などが挙げられる。
【0019】
本発明による梅セラミド組成物を含有する飲食物としては、特に限定されるものではないが、例えば栄養補助食品(サプリメント)としての錠剤、タブレット剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤、またはエリキシル剤などの剤型に調製することができる。また、一般の飲料、食品、調味料の組成物であってもよい。飲料としては、スポーツ飲料、ドリンク剤、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、炭酸飲料、野菜飲料、茶飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料などが挙げられる。
食品としては、麺類、パン粉のような穀物加工品;味噌のような豆類加工品;米粉、小麦粉、きな粉のような粉類;即席麺、即席スープのような乾燥食品;スープ、カレーのようなレトルト食品;クッキー、ビスケット、スナック、ゼリー、ガム、グミ、飴、チョコレート、アイスクリームのような菓子などが挙げられる。調味料としては、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、しょうゆ、ソース、つゆ、たれなどが挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
和歌山県産南高梅の完熟果を洗浄し、ペンチを用いて果実から丸のまま核(タネ)を取り除き、果汁を含んだ果肉を得た。果肉はミキサーにて破砕し、遠心分離機(日立工機社製 CR-22G)にて3000rpmで遠心搾汁することにより、搾汁後の梅果肉と梅果汁を得た。得られた梅果肉を水道水の流水中に1時間浸漬させ、水洗を行った。最終的に南高梅の完熟果10kgから梅果肉2.7kg、梅果汁6.0kg、核(タネ)1.3kgが得られた。
次に、水洗後の梅果肉2.7kgを遠赤外線乾燥機(ヴィアノーベ社製 V7513)に投入し、60℃で20時間乾燥させた。得られた梅果肉乾燥物(水分6.1質量%)をミルミキサー(大阪ケミカル社製
WDL-1)により粉末状に粉砕し、梅果肉乾燥粉末530gを得た。この梅果肉乾燥粉末に95%エタノールを加えて室温で攪拌後、懸濁液をろ紙(ADOVANTEC社製 FILTER PAPER QUALTIATIVE 2)でろ過した。得られたろ液をロータリーエバポレーター(yamato社製 RE400)で乾固し、梅セラミド画分を188.4g得た。
【0022】
[比較例1]
和歌山県産南高梅の完熟果を洗浄し、核(タネ)を含んだままの梅果実をミキサーにて破砕し、遠心分離(3000rpm)することにより、核(タネ)の粉砕物を含んだ梅果肉と梅果汁を得た。最終的に南高梅の完熟果10kgから搾汁後の梅果肉3.4kg、梅果汁6.6kgが得られた。
次に、搾汁後の梅果肉3.4kgを遠赤外線乾燥機(ヴィアノーベ社製 V7513)に投入し、60℃で20時間乾燥させた。得られた梅果肉乾燥物(水分6.1質量%)をミルミキサー(大阪ケミカル社製 WDL-1)により粉末状に粉砕し、梅果肉乾燥粉末830gを得た。この梅果肉乾燥粉末に95%エタノールを加えて室温で攪拌後、懸濁液をろ紙(ADOVANTEC社製 FILTER PAPER QUALTIATIVE 2)でろ過した。得られたろ液をロータリーエバポレーター(yamato社製 RE400)で乾固し、梅セラミド画分を193.2g得た。
【0023】
[試験例1]
実施例1で得られた梅セラミド画分と、比較例1で得られた梅セラミド画分について、セラミド定性試験と定量試験を行った。セラミド定性試験は薄層クロマトグラフィーにより行った。定性条件は各梅セラミド画分0.45gにクロロホルム2.5ml、メタノール2.5ml、メタノール性の0.8M水酸化カリウム5mlを加えて超音波処理を行い、42℃で30分間保温した後、クロロホルム10ml、蒸留水5mlを加えてよく混合し、3500rpmで15分間遠心分離した。クロロホルム層を乾固した。その後、0.5mlのクロロホルムと0.5mlのメタノールの混合溶液に溶解し、その1μlをTLC(ワットマン社製 FLEXIBLE PLATES FOR TLC)にスポットし、クロロホルム:メタノール:水(6.5:1.0:0.1)の混合溶液を展開溶媒として室温にて展開した。セラミド標品は大豆由来のグリコシルセラミド(Matereya社製)を使用した。TLCの展開後のスポットを図1に示す。実施例1および比較例1双方に、セラミド標品と同一のRf値にスポットが確認され、梅にセラミドが含まれていることが明らかとなった。定量方法は各スポットを画像処理ソフト Image
J(アメリカ国立衛生研究所製)に取り込み、スポットの発色強度を数値化し、あらかじめ作成した検量線から濃度を算出した。なお本定量法は、高速液体クロマトグラフ質量分析において得られる定量値とほぼ同一であることを確認している。
【0024】
[試験例2]
実施例1で得られたセラミド画分と、比較例1で得られたセラミド画分についてアミグダリン含有量を測定した。
アミグダリン含有量は、水蒸気蒸留により抽出後、ピリジンカルボン酸ピラゾロン定量
に準じて行った。すなわちセラミド画分1.8gに、クエン酸緩衝液100ml、β‐グルコシダーゼ酵素(4unit/ml)5mlを加えて混合後、密栓し38℃で4時間インキュベートした。その後、蒸留水100mlを加え、1%水酸化カリウム溶液を5ml入れた三角フラスコを受器として、蒸留液が80mlになるまで蒸留した。蒸留後、蒸留液を蒸留水で100mlに定容した。定容後の溶液2mlにリン酸緩衝液1ml、1.25%のクロラミンT溶液を0.2ml加えて25℃で5分間放置後、ピリジンカルボン酸ピラゾロン溶液1mlを加えて密栓し、38℃で40分間インキュベートした。その後、分光光度計(日立工機社製 U−3900)を用いて測定波長638nmで吸光度を測定し、シアン化カリウム標準液の測定値より定量計算を行った。
結果を表1、図2に示す。実施例1の梅セラミド組成物にはアミグダリンは検出されなかった。一方、比較例1の梅セラミド組成物では、高濃度のアミグダリンが検出され、その毒性の観点から産業上利用価値の無いことが明らかとなった。さらに、実施例1のセラミド量は比較例1のセラミド量より約1.5倍に濃縮されていることがわかった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、アミグダリンを含まない、安全性の高い梅セラミドを提供することが可能となり、セラミドがもつ機能性を活かした化粧品、医薬品、飲食物を提供することができる。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅から抽出されるセラミドであって、アミグダリンを含まないことを特徴とする梅セラミド組成物。
【請求項2】
梅が水または水溶液に不溶性の画分である請求項1に記載の梅セラミド組成物。
【請求項3】
梅が核(タネ)を取り除いた梅果肉である請求項1又は請求項2に記載の梅セラミド組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物を含有する化粧料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物を含有する医薬品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物を含有する飲食物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の梅セラミド組成物の製造方法。





























【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−254953(P2012−254953A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128755(P2011−128755)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(591137628)中野BC株式会社 (12)
【Fターム(参考)】