説明

植物生長促進剤及びその製造方法

【課題】新規且つ有用な植物生長促進剤の提供。
【解決手段】3−(3−ターシャリブチル−4−ヒドロキシフェニル)ープロピオン酸、3−(4−ヒドロキシフェニル)ープロピオン酸、または3−(3−ベンゾイルー4−ヒドロキシフェニル)ープロピオン酸を有効成分として含有することを特徴とする植物生長促進剤。3−(3−ターシャリブチル−4−ヒドロキシフェニル)ープロピオン酸は紫外線吸収剤としてプラスチック製品に含まれているベンゾトリアゾール系化合物の亜臨界水処理により製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規且つ有用な植物生長促進剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック類は、自動車部品、医療機器、家電品、日常雑貨品などに幅広く使用されているが、その特性から埋め立てて廃棄するとなると環境問題を引き起こす一因となるため、処分に非常に困っているのが現状である。従って、上記したような廃プラスチック類を再生して有効活用することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−113096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、プラスチック類を再生する試みが既に始まっているが未だ試行錯誤の段階である。
また、種々の植物の生長を促進させる作用を有する薬剤が種々市販されているが、価格、特性等の観点より更なる植物生長促進剤の開発が要求されていることは言うまでも無い。
本発明は、上記のような廃プラスチック類の処理工程で製造された化合物の有効利用の途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、廃プラスチック類を埋立て以外の方法で処分することを模索している中でそれを可溶化することに成功し、さらにその可溶化した溶液を排出した場合に植物へ悪影響を及ぼさないかどうかを調べていたところ、却って植物の生長を促進する効果を有することを見出したので、その知見に基づいて、有効成分たる化合物を単離・同定し、その化合物の植物生長促進剤としての利用を提案するに至った。また、当該化合物の構造から、類似した化合物についても試験してみたところ、植物の生長を促進する効果を有することを見出したので、併せてその化合物の植物生長促進剤としての利用を提案するに至った。
【0006】
第1の植物生長促進剤は、下記の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0007】
【化1】

【0008】
また、第2の植物生長促進剤は、下記の一般式(2)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0009】
【化2】

【0010】
また、第3の植物生長促進剤は、下記の一般式(3)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0011】
【化3】

【発明の効果】
【0012】
本発明の有効成分たる化合物は、植物の生長促進効果、特に胚軸または根の伸長促進効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】分画手順のフローチャートである。
【図2】PP処理溶液の各種の水相画分の測定結果である。
【図3】酢酸エチル画分の測定結果である。
【図4】1H-NMR及び13C-NMRのケミカルシフト測定値のデータである。
【図5】BHPPAを含む溶液のレタスに対する伸長促進効果の測定結果である。
【図6】HPPAを含む溶液のレタスに対する伸長促進効果の測定結果である。
【図7】HPPA、BHPPA、HPOPAのカイワレ大根に対する伸長促進効果の測定結果である。
【図8】HPPA、BHPPA、HPOPAのブロッコリーに対する伸長促進効果の測定結果である。
【図9】HPPA、BHPPA、HPOPAのマスタードに対する伸長促進効果の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(BHPPAとHPPAの構造)
本発明の第1の植物生長促進剤は、以下の一般式(1)で表される化合物(以下、「BHPPA」と略記)を有効成分として含有するものである。
このBHPPAの化学名は、3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-フェニル)-プロピオン酸(3-(3-tert-butyl-4-hydroxy-phenyl)-propionic
acid)である。
BHPPAは水溶性でないため、合成の場合にはトルエン等で抽出したり、亜臨界水抽出した場合には、酢酸エチル等で単離精製したりすることになる。
【化1】

【0015】
本発明の第2の植物生長促進剤は、以下の一般式(2)で表される化合物(以下、「HPPA」と略記)を有効成分として含有するものである。
このHPPAの化学名は、3-(4-ヒドロキシ-フェニル)- プロピオン酸(3-(4-hydroxy-phenyl)-propionic
acid)である。
HPPAは水溶性であり、他の成分からの単離精製の際には水相として取り出すことができる。
【0016】
【化2】

【0017】
(BHPPAおよびHPPAの製造方法)
BHPPAやHPPAは、例えば、以下の一般式(4)で表されるベンゾトリアゾール系化合物を前駆体として使用し、それを(熱分解+加水分解)処理することにより製造できる。この前駆体化合物の化学名は、benzenepropanoic acid, 3-(2H-benzotriazol-yl)-5-(1,1-di-Methylethyl)-4-hydroxy-,
C7-brached and linear alkyl estersl-methoxy-2-propyl acetate である。
【0018】
【化4】

【0019】
上記した前駆体化合物の熱分解+加水分解により推定される反応機構は以下の通りである。
【0020】
【化5】

【0021】
上記したように、前駆体化合物の熱分解+加水分解により、先ずBHPPAが生成され、更に熱分解が進むと、HPPAが生成される。
【0022】
この前駆体化合物は紫外線吸収作用を有することから、紫外線吸収剤(商品名:EVERSORB81、販売元:株式会社ソート)として市販されており、種々のプラスチック製品に含まれている。従って、これらの廃プラスチック製品に含まれるものを用いて上記した反応機構よりBHPPAやHPPAを製造することもできる。
また、共存するプラスチック成分が植物等を含有する環境に悪影響を及ぼさないものであれば、BHPPAやHPPAを単離せずに植物の生長促進剤としてそのまま使用できるので、廃プラスチック類の処分も同時に行うことができる。
但し、プラスチック類に含まれるベンゾトリアゾール系化合物からBHPPAやHPPAを製造する場合にはプラスチック類を可溶化させてベンゾトリアゾール系化合物を先ず表出させて反応させることが必要であり、また、反応には水が必要とされる。
従って、溶媒を水として用いて高温高圧条件下で行う亜臨界水処理に供するのが効率的である。
【0023】
亜臨界水処理の条件(最高温度、最高圧力、反応時間)により、プラスチック類の可溶化や反応機構の進展が影響されるので、プラスチック類の種類に応じて最適化な条件で見出し、その条件で処理することで収率を上げることが望まれる。
熱可塑性プラスチックの代表的なポリプロピレン(PP)を、亜臨界水処理することにより、プロピレンを可溶化させると共に、そこに含まれていたベンゾトリアゾール系化合物からBHPPAやHPPAを製造できることは既に確認されている。
【0024】
また、前駆体化合物は単独で市販されており、それから上記した反応機構より製造することもできる。
上記のようにして得られたBHPPAやHPPAは、必要に応じて、公知の分離精製手段、例えば濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、晶出、再結晶、転溶、クロマトグラフィーなどにより単離精製することができる。
【0025】
また、HPPAから、以下の合成方法によりBHPPAを製造することもできる。
【0026】
【化6】

【0027】
すなわち、HPPAをトルエンに溶解し、リン酸(85 重量%)を加え80℃に昇温した後、トルエンに溶解させたt−ブチルアルコールを加えて、80℃で6時間反応させる。次いで、40℃に下げた後、水を加え40℃に引き続き保持しながら30分間攪拌する。その後、水層を除去し、精製して、BHPPAを得る。
【0028】
(HPOPAの構造)
本発明の植物生長促進剤は、以下の一般式(3)で表される化合物(以下、「HPOPA」と略記)を有効成分として含有するものである。
このHPOPAの化学名は、3-(4-ヒドロキシ-3-フェニルオキシフェニル) プロピオン酸(3-(4-hydroxy-3-phenyloxyphenyl)propionic
acid)である。
【0029】
【化3】

【0030】
(HPOPAの製造方法)
HPOPAは、例えば、以下のような反応機構により合成される。
【0031】
【化7】

【0032】
すなわち、ベンゾイルクロライド(benzoyl chloride)(3.1g,
22mmol)を、CHCl2CHCl2(50ml)に溶解し、AlCl3(5.32g, 40mmol)を加えて室温にて30分間反応させる。次いで、メチル3-ベンゾイル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート (methyl 3-benzoyl-4-hydroxyphenylpropionate)(3.6g,
20mmol)を加え、105℃にて24時間反応させる。次いで、放冷後、氷冷下濃HClで分解させ、反応混合物をCHCl3水溶液で洗浄する。次いで、MgSO4上で乾燥し、CHCl3を留去する。次いで、残留物をシリカゲルカラム・クロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン、AcoEt (10:1))で分離して、1.14g(10%)の目的物Methyl ester体を得る。
次いで、Methyl ester体(2.84g,
10mmol)に、MeOH (50ml)及び20%KOH液(50ml)を加え、加熱攪拌下6時間反応させる。次いで、減圧下で溶媒を留去し、残留物をH2Oに溶解した後、20%HClを加えて酸性とする。次いで、CHCl3にて抽出する。CHCl3層はbrineで洗浄後、MgSO4上で乾燥し、CHCl3を留去する。次いで、残留物をヘキサンで再結晶化して1.4gの目的物を得る。
【0033】
(植物生長促進剤としての使用方法)
HPPAはそのまま水に溶かして、BHPPAは乳化剤の併用により水に溶かして共に水溶液とすることも、HPPAおよびBHPPAとも、濃縮・析出させて固形物とすることもできる。従って、植物生長剤として用いる場合には、植物の培地に水溶液としてかけることも固形物として播くこともできる。また、シードテープのシートにBHPPA等を含ませておけば、種子と一緒に栽培者に提供することができ、取り扱いが容易となる。
【実施例1】
【0034】
以下のようにして試験を行った。
<亜臨界水処理>
プラスチック類としてベンゾトリアゾール系化合物(商品名:EVERSORB81)を含有するポリプロピレン(PP)を破砕したもの(20 g)と、純水(20ml)を、Nガスと共に亜臨界水処理装置の容器に封入して、初期圧力を1MPaに調整した。そして、以下の条件で亜臨界水処理した。
・最高温度:0 290℃
・最高到達圧力:7.39MPa
・処理時間: 90分
因みに、最高温度まで上げた後は保持せずに直ぐに下げており、昇温開始から100 ℃までに低下するまでに掛かった時間が処理時間になっている。
その後は、適当な冷却機で冷却した後、暗所下で44℃に保存した。そして、図1に示すように、得られたPP処理溶液を順次分画した。
【0035】
<植物根伸長試験>
以下の手順で試験した。
1.処理
(1)シャーレ(60mm)にろ紙(No.1)を置く。
(2)試料溶液2.5mLを加える。
(3)レタスの発芽種子(根端:約3mm)6個を均等に並べる。
(4)シャーレを蓋で閉じる。
(5)培養室(25℃、暗所)で24時間静置する。
2.測定
根長を測定する。
【0036】
測定結果をグラフで示した。縦軸の相対的根伸長量(%)は処理濃度0%(蒸留水のみ)を100(%)として表した相対値であり、横軸の処理濃度(5)は画分の含有量(%)である。
図2は各種の水相画分の測定結果である。水相画分(2)と(4)で根の伸長促進効果が認められたが、水相画分(6)では根の伸長促進果は認められず、水相画分(8)では却って根の伸長阻害効果が認められた。従って、酢酸エチル画分(7)に根の伸長促進効果を有する物質が含まれていると推測された。
図3は酢酸エチル画分(7)の測定結果である。なお、酢酸エチル画分(7)を溶解するために、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を使用した。酢酸エチル画分(7)では根の伸長促進効果が有ることが認められた。
【0037】
酢酸エチル画分(7)に対してシリカゲルカラム・クロマトグラフィー(Wakogel C-300, EtOAc:Chloroform=1:4(Fr.1 〜 Fr. 14), EtOAc=Fr. 15 〜 Fr.
17)にて分離処理を行い、Fr. 2とFr. 3を合一し、Fr. 12とFr. 13を合一し、それぞれ化合物Xと化合物Yとした。
それぞれの化合物の構造を1H及び13C-NMR、HMBC、ESI-MASSにより解析した結果、化合物XをBHPPAと同定し、化合物YをHPPAと同定した。参考のために、図4に1H-NMR及び13C-NMRのケミカルシフト測定値を以下に示す。
【0038】
それぞれの化合物をDMSOで溶解して、上記の画分と同じようにして測定した。図5はBHPPAを含む溶液の測定結果であり、図6はHPPAを含む溶液の測定結果である。図6の処理溶液も、全て0.5%DMSOを含む。
BHPPAについては強い根の伸長促進効果が認められ、HPPAについても濃度によってはある程度の伸長促進効果が認められた。
【実施例2】
【0039】
以下のようにして試験を行った。
<各種植物生長剤>
粉末状のHPPA(=h)、BHPPA(=b)、およびHPOPA(=o)と、比較対照用に、液体状の市販の植物生長剤HB−101(=hb)(株式会社フローラ製造・販売)を準備した。
HPPA(=h)、BHPPA(=b)、HPOPA(=o)については、濃度調整をコントロール(0.5%DMSO含有脱イオン水)で行った。すなわち、濃度が100ppmの場合には、試料10mgをDMSO 0.5mlに溶かして、DWを99.5ml加えて試験用液100mlを作製した。
また、HB−101(=hb)については、その製造・販売元が推奨している希釈濃度(1000倍)に希釈して試験に供した。
【0040】
<植物根伸長試験>
以下の手順で試験した。
1.処理
(1)カイワレ大根、ブロッコリースプラウト、マスタードスプラウトの種子をDWで一晩浸漬した。
(2)その後に、試験用液100mlを入れたポッドにウレタン製の保持板を入れ、保持板上に種子を播いた。1ポッド当たり、カイワレ大根、ブロッコリースプラウト、マスタードスプラウトの種子は、それぞれ5.0g、2.5g、1.7gとした。それを1濃度に対して3ポットずつ作製した。
(3)発芽室(暗室、23℃)にカイワレ大根の種子を1日、ブロッコリースプラウトとマスタードスプラウトの種子をそれぞれ2日入れて発芽させた後、そこから出しビニールハウス内に入れて日光下で栽培した。
(4)播種してから5日後に測定した。
【0041】
2.測定
1ポッドから3個のサンプル、3ポッドで合計9サンプルを採取して、1つの品種の各々の濃度での測定サンプルとした。
そして、各測定サンプルの胚軸(スプラウトの茎の部分)の長さを測定し、最大値と最小値の測定サンプルを排除し、残りの7つの測定サンプルの平均と標準偏差を求めた。
【0042】
結果は、図7、図8、図9(100%がコントロールの値)に示すように、HPPA、BHPPA、HPOPAは、適当な濃度(10ppm程度)に調整すれば、市販の植物生長剤HB−101より、強い胚軸の伸長促進効果が認められた。
HPPAはレタスについて根の伸長促進効果はさほど認めらなかったが、カイワレ大根等の胚軸の伸長促進効果は強く、植物によって効果の作用する部位が異なることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、有用な植物の生長促進剤が提供される。また、廃プラスチック材からも製造することができるので、その製法による場合には廃プラスチック材の有効利用も同時に図れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)、(2)または(3)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする植物生長促進剤。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
請求項1に記載した植物生長促進剤において、胚軸または根の伸長促進剤であることを特徴とする植物生長促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載した植物生長促進剤の有効成分である化合物(1)の製造方法において、以下の一般式(4)で表されるベンゾトリアゾール系化合物を、熱分解および加水分解することにより製造することを特徴とする製造方法。
【化4】

【請求項4】
請求項3に記載した化合物の製造方法において、ベンゾトリアゾール系化合物を含有するプラスチック類を原料として亜臨界水処理により製造することを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−162454(P2011−162454A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24328(P2010−24328)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(310019590)
【Fターム(参考)】