説明

構造物の健全度評価方法及び構造物の健全度評価システム

【課題】予め評価対象となる構造物について振動試験を行なわなくともよく、更には得られた結果についての信頼性に優れた健全度評価方法を提供する。
【解決手段】構造物に振動を加えることにより検出される振動データに基づいて、構造物の固有振動数f(Hz)と、nを自然数とした場合に互いに異なる質量m(kg)を構造物に負荷したn個の状態におけるその構造物の固有振動数f2n(Hz)とを算出する。次に、算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと構造物に負荷した質量mと下記式(1)に基づき評価時における構造物の質量を推定する。次に、推定した構造物の質量に基づき、評価時における構造物の曲げ剛性を算出してこれを評価値とする。次に、評価値に基づいて構造物の健全度を評価する。
【数1】


・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の固有振動数に基づいてその健全度を評価する構造物の健全度評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁における主桁、橋脚等の構造物は、老朽化や地震等により劣化、損傷してしまうため、現時点においてのその構造物の健全度を評価する方法が必要となる。この構造物の健全度評価方法としては、例えば、目視により評価を行なうものや、特許文献1、特許文献2に開示されているような、振動試験を利用して評価を行なうものが提案されている。
【0003】
この特許文献1に開示の方法においては、構造物に対して重錘による衝撃力を加えて構造物の振動波形を測定して、その際の構造物の固有振動数を算出し、事前に予め行なった振動試験により算出しておいたこの構造物についての固有振動数と、振動試験により算出した固有振動数とを比較することによって、現時点においての構造物の健全度を評価することとしている。
【0004】
また、特許文献2においては、特許文献1と同様に、構造物に対して衝撃力を加えて得られた振動波形に基づき固有振動数を算出し、この固有振動数や、評価時におけるその構造物のヤング率、厚みに基づき構造物に加わる最大応力を算出し、この算出した最大応力から構造物の劣化度、即ち、健全度を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−180951号公報
【特許文献2】特開2002−22596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に開示の評価方法においては、構造物の健全度を適切に評価するために、構造物の設置直後の健全な状態でのその構造物についての固有振動数が必要となる。しかし、一般には、そのような状態での構造物の固有振動数を振動試験により算出している場合は少なく、このような場合には構造物の健全度を評価することができないという問題がある。
【0007】
また、構造物の設置直後のその構造物についての固有振動数を設計図面等から得られる材料強度や寸法等の設計値から推定し、推定した固有振動数と評価時において行なった振動試験により算出した固有振動数とを比較することによって、構造物の健全度を評価することも考えられる。しかし、構造物の材料強度や寸法等は、設置前の設計値と設置直後の実測値とで誤差が大きく、このような手法によって健全度を評価することは信頼性に欠けたものとなってしまう。
【0008】
また、特許文献2に開示の方法によれば、構造物の設置直後の健全な状態でのその構造物についての固有振動数が無くとも、構造物の健全度を評価することが可能となっている。ここで、同方法においては、健全度の評価をするにあたっての指標となる最大応力の算出時に、評価時におけるその構造物のヤング率、厚みを求めることが必要となっているが、評価時におけるヤング率等は正確な値を求めることは困難であり、やはりこのような手法によって健全度を評価することは信頼性に欠けたものとなってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、構造物の固有振動数に基づいて構造物の健全度を評価するにあたって、予め評価対象となる構造物について振動試験を行なわなくともよく、更には得られた結果についての信頼性に優れた構造物の健全度評価方法及び健全度評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の構造物の健全度評価方法及び構造物の健全度評価システムを発明した。
【0011】
第1発明に係る構造物の健全度評価方法は、構造物の固有振動数に基づいてその健全度を評価する構造物の健全度評価方法において、上記構造物に振動を加えることにより検出される振動データに基づいて、上記構造物の固有振動数f(Hz)と、nを自然数とした場合に互いに異なる質量m(kg)を上記構造物に負荷したn個の状態における上記構造物の固有振動数f2n(Hz)とを算出し、上記算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから評価時における上記構造物の質量を推定し、上記推定した構造物の質量に基づき、評価時における上記構造物の曲げ剛性を算出してこれを評価値とし、上記評価値に基づいて上記構造物の健全度を評価することを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る構造物の健全度評価方法は、第1発明において、上記構造物の曲げ剛性は、fa×Maを変数として表される関数に対して、faについて上記固有振動数fを代入するとともに、Maについて上記推定した構造物の質量を代入することにより、又は、faについて上記固有振動数f2nの何れか一つを代入するとともに、Maについて上記推定した構造物の質量にその何れか一つの固有振動数f2nの算出時に負荷した質量mを加算したものを代入することにより算出することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る構造物の健全度評価方法は、第1又は第2発明において、上記算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから、下記式(1)に基づき数値Mを算出し、これを評価時における構造物の質量として推定することを特徴とする。
【数1】

・・・(1)
【0014】
第4発明に係る構造物の健全度評価方法は、第1〜第3の何れか一つの発明において、上記固有振動数f及び固有振動数f2nとして、複数の振動モードでの固有振動数を算出し、上記算出した各振動モードでの固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから各振動モードごとに評価時における上記構造物の質量を算出するとともに、算出した各振動モードごとの構造物の質量を算術平均したものを推定すべき上記構造物の質量とすることを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る構造物の健全度評価方法は、第1〜第4の何れか一つの発明において、上記算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから、評価時における上記構造物の質量を複数算出するとともに、算出した複数の構造物の質量を算術平均したものを推定すべき上記構造物の質量とすることを特徴とする。
【0016】
第6発明に係る構造物の健全度評価方法は、第1〜第5の何れか一つの発明において、予め定められた指標値と上記評価値とを比較し、比較結果に基づいて上記構造物の健全度を評価することを特徴とする。
【0017】
第7発明に係る構造物の健全度評価方法は、第6発明において、上記予め定められた指標値が、上記構造物についての設計値に基づき得られるものであることを特徴とする。
【0018】
第8発明に係る構造物の健全度評価システムは、構造物の固有振動数に基づいてその健全度を評価する構造物の健全度評価システムにおいて、上記構造物に発生する振動を検出する振動検出手段と、上記振動検出手段により検出された上記構造物の振動データに基づいて、上記構造物の固有振動数f(Hz)と、nを自然数とした場合に互いに異なる質量m(kg)が上記構造物に負荷されたn個の状態における当該構造物の固有振動数f2n(Hz)とを算出する固有振動数算出手段と、上記算出された固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷された質量mとから評価時における上記構造物の質量を推定する質量推定手段と、上記推定した構造物の質量に基づき、評価時における上記構造物の曲げ剛性を算出してこれを評価値とする評価値算出手段と、上記評価値に基づいて上記構造物の健全度を評価する健全度評価手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1発明、第8発明によれば、評価時における構造物の曲げ剛性を評価値として直接把握することができるため、例えば、構造物として安全性を確保するために要求される設計値に基づき算出される曲げ剛性をこの評価値と比較することによって、信頼性の高い構造物の健全度評価を行なうことが可能となる。また、健全度の評価をするにあたって、構造物の設計値が把握できさえすれば本発明に係る方法を実行することができるため、予め振動試験を行なっていない構造物に対してでも健全度評価を行なうことが可能となる。また、健全度の評価をするにあたって、評価時における構造物のヤング率や厚み等の正確な数値を求める必要がないため、これらの数値が経年的に変化し得る構造物の評価でも容易に実行することが可能となる。また、健全度の評価をするにあたって、足場等を設置するような大掛かりな作業が必要とならないので、非常に容易に実現することができる。
【0020】
第4発明によれば、計測誤差や構造物の強度のばらつきによる、推定される構造物の質量の誤差が少なくなり、推定される構造物の質量の信頼性が向上することになる。
【0021】
第5発明によれば、計測誤差や構造物の強度のばらつきによる、推定される構造物の質量の誤差が少なくなり、推定される構造物の質量の信頼性が向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は健全度評価方法を実現するための健全度評価システム及びシステムにより健全度が評価される対象の一例としての橋梁を側面から示すブロック図であり、(b)はその橋梁の主桁についての平面図である
【図2】本発明に係る健全度評価方法の理論的な背景について説明するためのモデル図である。
【図3】本発明に係る健全度評価方法を実行するにあたっての手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】(a)は評価対象となる構造物に対して質量負荷用重錘を取り付けた状態を示す側面図であり、(b)はその平面図である。
【図5】振動試験により検出された振動データを周波数分析して得られた振動数成分ごとの振幅スペクトルを示す図である。
【図6】構造物の曲げ剛性について設定される指標値や設計値等の関係について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態として、構造物の固有振動数に基づいてその構造物の健全な度合いを評価する健全度評価方法及び健全度評価システムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)は、本発明に係る健全度評価方法を実現するための健全度評価システム1及びシステムにより健全度が評価される対象の一例としての橋梁30を側面から示すブロック図であり、図1(b)はその橋梁30の主桁35についての平面図である。
【0024】
橋梁30は、橋軸方向の両側の橋台31と、橋台31上に設置された支承装置33と、支承装置33を介して橋台31間に架設された主桁35とを備えており、単純桁橋をなすように構成されている。本実施形態においては、主桁35の健全度を評価するものとする。
【0025】
なお、ここでいう健全度とは、評価対象となる構造物3についての安全性を示す指標となるもののことをいい、この健全度が高いと損傷、劣化によって構造物3が崩壊する危険性が低く、これが低いと構造物3が崩壊する危険性が高いことを意味する。
【0026】
また、本発明において評価対象となる構造物3は、橋梁30やビルそのもののような構造物全体系であってもよいし、橋梁30における主桁35、橋脚や、構造物を構成する柱部材、梁部材、床部材等のような構造物部分系であってもよい。
【0027】
健全度評価システム1は、振動センサ11と、情報処理装置13とを備えて構成されている。
【0028】
振動センサ11は、構造物3に振動を加えた場合における構造物3の振動による加速度、速度、変位等の振動データを検出する振動検出手段として機能するものである。振動センサ11は、例えば、本実施形態のように、評価対象となる構造物3表面に複数設置されて設けられるものである。振動センサ11を設置する個数については、特に限定するものではない。振動データの検出は時系列に行なわれる。振動センサ11は、例えば、圧電素子が用いられた圧電型センサや、可動板が用いられたサーボ型センサ等の公知のものから構成される。
【0029】
振動センサ11は、検出した振動データを情報処理装置13に送信できるように、情報処理装置13に接続されている。この接続は、有線によるものでもよいし、無線によるものでもよい。
【0030】
振動センサ11により検出された振動データは、アナログ情報として取得されたデータであるので、情報処理装置13にて演算処理が行なえるようにデジタル情報にA/D変換する。A/D変換するのは、振動センサ11によって行なわれてもよいし、情報処理装置13によって行なわれてもよい。また、振動データは、アンプによって振動センサにより検出された検出信号を増幅してからA/D変換するようにしてもよい。
【0031】
なお、構造物3に振動を加える加振手段としては、図1に示すように、重機等を用いて加振用重錘15を構造物3上に落下させる手段を適用すればよい。本実施形態においては、図1(b)に示すような二点鎖線で囲まれた範囲内を加振位置として、この加振位置に対して加振用重錘15を落下させるものとする。この他の加振手段としては、作業員がハンマー等で構造物3に打撃する手段等が挙げられる。また、構造物3に加える振動としては、構造物3上においての作業員の歩行、又は構造物3に当たる風等に起因して発生する
微弱振動を利用してもよい。
【0032】
情報処理装置13は、固有振動数算出部21と、質量推定部23と、評価値算出部25と、健全度評価部27とを備えている。情報処理装置13は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、ディスプレイ等のハードウェアにより構成されている。情報処理装置13は、これらのハードウェアの構成要素がプログラム等により動作することによって、上述の固有振動数算出部21等の各機能を発揮することができるものである。これら固有振動数算出部21等の機能については、本発明に係る健全度評価方法の手順とともに後述において説明する。
【0033】
続いて、本発明における構造物の健全度評価方法についての理論的な背景について説明する。
【0034】
図2は、本発明に係る健全度評価方法の理論的な背景について説明するためのモデル図である。図2(a)に示すような、ヤング係数E(Pa)、断面二次モーメントI(m)、質量M(kg/m)、支間長l(m)の両端が単純支持された構造物3について考える。この構造物3の固有振動数fは、下記式(11)によって表されることが知られている(例えば、『‘06 Design Data Book P281 8-15 桁の曲げ振動』参照。)。ここで、λnは、境界条件と振動モードによって定まる無次元係数である。
【数2】

・・・(11)
【0035】
この構造物3は、図2(b)に示すように、年数の経過によって表面に亀裂、損傷が生じたり、腐食を受けてその表面が変質して劣化すること等によって、その剛性に寄与し得る部位が減少する。これは、年数の経過によって、構造物3のヤング係数E0、質量M0等も変化することを意味している。この年数経過後の状態における構造物3のヤング係数、断面二次モーメント、質量をそれぞれE(Pa)、I(m)、M(kg/m)とすると、この状態における構造物3の固有振動数fは、下記式(12)によって表されることになる。

【数3】

・・・(12)
【0036】
ここで、この構造物3に対して、図2(c)に示すように、質量m(kg)の質量負荷用重錘17を構造物3の剛性に寄与しない態様で載せる等して取り付けることによって、構造物3に対して質量mを負荷した状態について考える。この質量mが負荷された状態における構造物3の固有振動数fは、下記式(13)によって表されることになる。

【数4】

・・・(13)
【0037】
そして、この式(12)、(13)に基づいて、固有振動数f、fの比について考えると、これは質量M、mを用いて下記式(14)によって表される。
【数5】

・・・(14)
【0038】
この式(14)より、評価対象となる構造物3に負荷する質量mと、構造物3について算出される固有振動数f、fとが決定できれば、式(14)に基づき構造物の質量Mが得られることになる。本発明においては、この質量Mを、評価時における構造物3の質量Mestとして推定して、この質量Mestを利用して構造物3の健全度を評価する。
【0039】
また、式(12)、式(13)より、下記のような式(15)、式(16)が得られる。この式(15)、式(16)の右辺は、固有振動数f、fの測定時における構造物3の曲げ剛性を示している。
【数6】

・・・(15)
【数7】

・・・(16)
【0040】
従って、faを振動試験により算出した固有振動数とし、Maをその固有振動数の算出時において算出のために構造物3に負荷した質量も含めた構造物3全体の推定される質量とした場合に、下記式(17)のようなfa×Maを変数として表される一次関数Y(fa、Ma)によって、構造物3の評価時におけるその構造物3の曲げ剛性を表すことが可能となる。なお、下記式(17)におけるzは、下記式(18)に示すように、λn、lによって表される係数である。
【数8】

・・・(17)
【数9】

・・・(18)
【0041】
例えば、関数Y(fa、Ma)のfaに対して算出した固有振動数fを代入する場合には、Maとして推定した構造物の質量Mestを代入し、faに対して算出した固有振動数fを代入する場合には、Maとして推定した構造物の質量Mestに予め数値が分かっている質量mを加算したものを代入し、得られた数値によって測定時における構造物3の曲げ剛性が表されることになる。
【0042】
なお、式(14)は、構造物3の固有振動数fと、質量mが負荷された状態における構造物3の固有振動数fとを算出した場合における固有振動数f、固有振動数fの比について表したものであるが、これを更に一般化させた場合として、構造物3に負荷すべき質量として互いに異なる質量m、m、・・・、mが負荷されたn個の状態における構造物の固有振動数f21、f22、・・・、f2nが算出された場合について考える。この場合、得られた構造物3の固有振動数f、f21、f22、・・・、f2nの比は、下記式(1)で表されることになる。なお、nは1以上の自然数とする。
【数1】

・・・(1)
【0043】
そして、上記のように評価時における構造物3の質量Mestを推定するにあたっては、算出した固有振動数f、f21〜f2nの何れか二つの比から、上記式(1)に基づき数値Mを算出し、これを評価時における構造物3の質量Mestとして推定すればよいことになる。なお、上記の式(12)〜(14)は、式(1)におけるn=1とした場合におけるものである。
【0044】
本発明に係る健全度評価方法においては、例えば、上記の式(1)、式(17)のような式を利用した点をその主要な特徴の一つとしており、その手順としてはまず、質量mを負荷していない状態の構造物3の固有振動数fと、互いに異なる質量mを構造物3に負荷したn個の状態における構造物3の固有振動数f2nとを振動データに基づいて算出し、算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと質量mとから、上記の式(1)に基づき数値Mを算出してこれを測定時における構造物3の質量Mestとして推定する。
【0045】
そして、予め数値が分かっている質量mや推定した構造物3の質量Mest、算出した固有振動数f、f2nから式(17)に基づき評価時における構造物3の曲げ剛性を
算出し、これを評価値とする。この評価値は、構造物3の曲げ剛性を表しているので、これに基づいて構造物3の健全度を評価することが可能となる。
【0046】
続いて、図3のフローチャートを用いて、本発明に係る健全度評価方法を実行するにあたっての手順の一例について説明する。
【0047】
まず、図3のステップS11及び図1に示すように、質量mが負荷されていない状態における構造物3に対して加振手段によって振動を加え、この状態においての構造物3の振動データを検出する。
【0048】
次に、図3のステップS12及び図4に示すように、構造物3に対して質量mの質量負荷用重錘17を構造物3の剛性に寄与しない態様で載せる等して取り付けることによって、構造物3に質量mを負荷した後、この質量mが負荷された状態における構造物3に対して加振手段によって振動を加え、この状態においての構造物3の振動データを検出する。この操作は、健全度の評価時に必要となるn個の状態について、それぞれの状態で負荷すべき質量mを変化させて繰り返し行なう。
【0049】
ステップS11、ステップS12において検出した振動データは、A/D変換されるとともに情報処理装置13に送信されて、メモリ等に一時的に格納される。なお、ステップS12を先に実行した後にステップS11を実行することとしてもよいし、ステップS12の途中でステップS11を実行することとしてもよい。
【0050】
なお、構造物3に対して質量負荷用重錘17を、その剛性に寄与しない態様で取り付ける理由であるが、これは、剛性に寄与する態様で取り付けてしまうと算出される構造物3の固有振動数が変動してしまい、正確な固有振動数が得られなくなってしまうためである。構造物3の剛性に寄与させないためには、構造物3全体の大きさに対して十分に小さい大きさの質量負荷用重錘17を取り付ける等すればよい。また、構造物3の剛性に寄与させないためには、評価対象となる構造物3の予測される質量の10%程度、又はこれよりも大きい質量を負荷するようにすることが好ましい。また、互いに異なるn個の質量mを構造物3に負荷するにあたっては、先に取り付けた質量用負荷用重錘17はそのままとしておき、これとは別の新たな質量負荷用重錘17を取り付ける等して構造物3に負荷すべき質量を変化させるようにしてもよいし、負荷すべき質量mを有する質量負荷用重錘17をその都度取り付けるようにしてもよい。また、構造物3に対して質量mが負荷できれば、質量負荷用重錘17を取り付ける以外の手段を採用してもよい。
【0051】
次に、図3のステップS13に示すように、情報処理装置13の固有振動数算出部21において、振動センサ11により検出された振動データに基づいて、質量mが負荷されていない状態においての構造物3の固有振動数fと互いに異なる質量mを負荷したn個の状態においての構造物3の固有振動数f2nとを算出する。具体的には、振動センサ11により検出された波形データとしての振動データを高速フーリエ変換等によって周波数分析し、図5に示すような振動数成分ごとの振幅スペクトルを得て、ピークを示す振動数を読み取ることによって構造物3の各モードの固有振動数を求める。
【0052】
ここで、図5は、振動データを周波数分析して得られた振幅スペクトルの例について示す図であり、質量mが負荷された状態における構造物3の振幅スペクトルと、質量mが負荷されていない状態における構造物3の振幅スペクトルとを示している。このように、質量mの負荷によって算出される各振動モードの固有振動数が変化することになる。
【0053】
なお、このステップS13は、ステップS11及びステップS12において構造物3の振動データを検出するごとに実行してもよい。
【0054】
次に、図3のステップS14に示すように、情報処理装置13の構造物質量推定部23において評価時における構造物3の質量Mestを推定する。具体的には、算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと構造物に負荷した質量mとから、上記の式(1)に基づき数値Mを算出して、これを評価時における構造物3の質量Mestとして推定する。
【0055】
次に、図3のステップS15に示すように、情報処理装置13の評価値算出部25において、上記の式(17)で表される関数Y(fa、Ma)に基づき構造物3の曲げ剛性を表す数値を算出して、得た数値を評価時における構造物3の評価値とする。具体的には、上記の式(17)に対して、faについて算出した固有振動数fを代入するとともに、Maについて推定した構造物3の質量Mestを代入する、又は、faについて固有振動数f2nの何れか一つを代入するとともに、Maについて推定した構造物3の質量Mestにその何れか一つの固有振動数f2nの算出時に負荷した質量mを加算したものとを代入して、構造物3の評価値を算出する。
【0056】
なお、式(17)のzを求めるにあたって、構造物の支間長lについては、年数経過によって変動しないことから、評価時における構造物の支間長を測定して得られたものを代入してもよいし、構造物3に応じて設計時に決定される設計値を代入してもよい。また、λnについては、境界条件及び振動モードに応じて定まる公知の数値を代入すればよい。
【0057】
次に、図3のステップS16に示すように、情報処理装置13の健全度評価部27において、ステップS15において求めた評価値に基づいて構造物3の健全度を評価する。評価は、構造物3について予め設定された指標値と評価値とを比較し、比較結果に基づいて行なう。
【0058】
この比較方法について具体例とともに説明する。図6は、構造物3のEI(N・cm)で表される曲げ剛性について設定される指標値や設計値等の関係について示す図である。この図に示すように、構造物3は、通常、安全性を高める観点から、後述するような設計値よりも高い数値の曲げ剛性を初期値として有して設置される。この構造物3は、年数の経過による損傷、劣化によってその曲げ剛性に寄与し得る部位が減少して曲げ剛性が初期値から減少する。本発明に係る健全度評価方法においては、構造物3について予め指標値を設定しておき、この指標値と評価値とを比較し、比較結果に基づいて構造物3の健全度を評価する。例えば、図6における矢印P1で示すように、指標値よりも評価値が大きい場合は構造物の健全度が高いものと評価する。また、図6における矢印P2で示すように、指標値よりも評価値が小さい場合は構造物の健全度が低いものと評価し、必要に応じて構造物3の補修、更新を行なう。
【0059】
ここで指標値は、構造物3に応じて設計時に決定される設計値に基づき得ることができる。具体的には、構造物3の設計時においては、構造物3としての安全性を確保するため、実験結果や設計指針等の基準に基づいて構造物3に応じて要求される曲げ剛性が確保されるよう、ヤング係数や断面二次モーメント等が設計値として決定され、この設計値に基づき現実の構造物が設置される。このため、例えば、設計値として得られるヤング係数と、断面二次モーメントとの積は、構造物3として安全性を確保するために要求される曲げ剛性を表すものとなるので、これを指標値として利用して評価値と比較することによって、予め評価対象となる構造物について振動試験を行なわなくとも信頼性の高い構造物3についての健全度評価が可能となる。
【0060】
この設計値は、構造物3の設計時において用いた設計図面や、その構造物3の設置前又は設置後において行なった構造解析に用いた電子データ等から得るようにすればよい。
【0061】
実際には、図6に示すように、評価対象となる構造物3についての更なる安全性を見積もって、この設計値に対して安全係数のような補正値を掛けるか足す等したものを指標値として用いればよい。この補正値は、構造物3の管理者が構造物3の設置環境や設置条件に応じて適宜設定するようにしてもよいし、設計指針等に基づき設定するようにしてもよい。
【0062】
また、この補正値については、年数の経過により予測されるEIについての低減率を実験、解析、統計的手法によって予め求めておき、この求めた低減率を反映させたもの、即ち、時間を変数とした関数を用いるようにしてもよい。このように時間を変数とした関数を用いることによって、設置後から所定年数経過した後の理想的な構造物のEIが予測できる。これにより、例えば、この理想的な構造物3のEIよりも評価時における評価値が大きく低下している場合、この構造物3に対して予測されるより大きい損傷、劣化等の異常が生じていると評価することが可能となる。
【0063】
また、指標値としては、現時点よりも前の時点において振動試験を行なうことによって予め実測値としての評価値を得るようにしておき、この実測値を指標値として現時点における評価値と比較することによって構造物3の健全度を評価するようにしてもよいのは勿論である。
【0064】
これらの指標値は、例えば、情報処理装置13内においてサンプルデータとして複数のものを予め格納しておき、構造物3に応じたものを引用するようにすればよい。また、これらの指標値は、一つの構造物3につき複数設定しておき、複数の指標値と評価値との比較により何れかの指標値を下回った場合に、その指標値に応じた補修、更新を行なうようにしてもよい。
【0065】
このような、本発明に係る健全度評価方法によれば、評価時における構造物3の曲げ剛性を評価値として直接把握することができるため、例えば、構造物3として安全性を確保するために要求される設計値に基づき算出される曲げ剛性をこの評価値と比較することによって、信頼性の高い構造物3の健全度評価を行なうことが可能となる。
【0066】
また、健全度の評価をするにあたって、構造物の設計値が把握できさえすれば本発明に係る方法を実行することができるため、予め振動試験を行なっていない構造物3に対してでも健全度評価を行なうことが可能となる。
【0067】
また、健全度の評価をするにあたって、評価時における構造物3のヤング率等の材料強度や厚み等の寸法の正確な値を求める必要がないため、これらの数値が経年的に変化し得る構造物の評価でも容易に実行することが可能となる。
【0068】
また、健全度の評価をするにあたって、足場等を設置するような大掛かりな作業が必要とならないので、非常に容易に実現することができる。
【0069】
本発明においては、以下のような手順を行なうようにしてもよい。
【0070】
即ち、ステップS14において、固有振動数f及び固有振動数f2nとして、複数の振動モードでの固有振動数を算出しておき、この算出した各振動モードでの固有振動数f及び固有振動数f2nと構造物3に負荷した質量mとから、上記の式(1)に基づき各振動モードごとに評価時における構造物3の質量Mを算出して、算出した各振動モードごとの数値Mを算術平均したものを評価時における構造物3の質量Mestとして推定することとしてもよい。
【0071】
例えば、質量mを負荷した1個の状態における構造物の固有振動数f21と、質量mを負荷していない状態における構造物3の固有振動数fとを算出する場合について考える。この場合、固有振動数fとして、一次モードでの固有振動数fa1と二次モードでの固有振動数fb1とを算出するとともに、固有振動数f21として、一次モードでの固有振動数fa21と、二次モードでの固有振動数fb21とを算出する。次に、一次モードでの固有振動数fa1と固有振動数fa21との比から、上記の式(1)に基づき第1の数値Mを算出するとともに、二次モードでの固有振動数fb1と固有振動数fb21との比から、上記の式(1)に基づき第2の数値Mを算出する。次に、算出した第1の数値Mと第2の数値Mとを算術平均し、得られた数値を測定時における構造物3の質量Mestとして推定する。
【0072】
これによって、計測誤差や構造物3の強度のばらつきによる、推定される構造物の質量Mestの誤差が少なくなり、推定される構造物の質量Mestの信頼性が向上することになる。
【0073】
また、このステップS14においては、算出した固有振動数f及び固有振動数f2nから、上記の式(1)に基づき数値Mを複数算出しておき、算出した複数の数値Mを算術平均したものを測定時における構造物3の質量Mestとして推定するようにしてもよい。
【0074】
例えば、算出した固有振動数fと固有振動数f21との比から、上記の式(1)に基づき第1の数値Mを算出するとともに、算出した固有振動数f1と固有振動数f22との比から、上記の式(1)に基づき第2の数値Mを算出する。次に、算出した第1の数値Mと第2の数値Mとを算術平均し、得られた数値を測定時における構造物3の質量Mestとして推定する。
【0075】
これによっても、計測誤差や構造物3の強度のばらつきによる、推定される構造物の質量Mestの誤差が少なくなり、推定される構造物3の質量Mestの信頼性が向上することになる。
【0076】
なお、本発明に係る評価方法において、質量負荷用重錘17等によって構造物3に荷重を負荷する位置や、加振手段によって構造物3に振動を加える位置、更には振動センサ11を設置する位置については、図1、図4に示すようなものに特段限定するものではないが、評価対象となる構造物3の振動モードに応じた位置に設けられるようにすることが好ましい。例えば、一次モードの固有振動数を特に精度良く算出したい場合は、一次モードの振動の腹となる部位に振動を加えたり振動センサ11を設置したりすれば、周波数分析により得られた振幅スペクトルの一次固有振動数に応じた振動数成分の強度が強くなり、一次固有振動数を求めることが容易となる。この場合、構造物3の振動モードについては、有限要素法を用いた構造解析等をすることによって求めればよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0078】
1 :健全度評価システム
3 :構造物
11 :振動センサ
13 :情報処理装置
15 :加振用重錘
17 :質量負荷用重錘
21 :固有振動数算出部
23 :質量推定部
25 :評価値算出部
27 :健全度評価部
30 :橋梁
31 :橋台
33 :支承装置
35 :主桁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の固有振動数に基づいてその健全度を評価する構造物の健全度評価方法において、
上記構造物に振動を加えることにより検出される振動データに基づいて、上記構造物の固有振動数f(Hz)と、nを自然数とした場合に互いに異なる質量m(kg)を上記構造物に負荷したn個の状態における当該構造物の固有振動数f2n(Hz)とを算出し、
上記算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから評価時における上記構造物の質量を推定し、
上記推定した構造物の質量に基づき、評価時における上記構造物の曲げ剛性を算出してこれを評価値とし、
上記評価値に基づいて上記構造物の健全度を評価すること
を特徴とする構造物の健全度評価方法。
【請求項2】
上記構造物の曲げ剛性は、fa×Maを変数として表される関数に対して、faについて上記固有振動数fを代入するとともに、Maについて上記推定した構造物の質量を代入することにより、又は、faについて上記固有振動数f2nの何れか一つを代入するとともに、Maについて上記推定した構造物の質量にその何れか一つの固有振動数f2nの算出時に負荷した質量mを加算したものを代入することにより算出すること
を特徴とする請求項1記載の構造物の健全度評価方法。
【請求項3】
上記算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから、下記式(1)に基づき数値Mを算出し、これを評価時における構造物の質量として推定すること
を特徴とする請求項1又は2記載の構造物の健全度評価方法。
【数1】

・・・(1)
【請求項4】
上記固有振動数f及び固有振動数f2nとして、複数の振動モードでの固有振動数を算出し、
上記算出した各振動モードでの固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから各振動モードごとに評価時における上記構造物の質量を算出するとともに、算出した各振動モードごとの構造物の質量を算術平均したものを推定すべき上記構造物の質量とすること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の構造物の健全度評価方法。
【請求項5】
上記算出した固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷した質量mとから、評価時における上記構造物の質量を複数算出するとともに、算出した複数の構造物の質量を算術平均したものを推定すべき上記構造物の質量とすること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の構造物の健全度評価方法。
【請求項6】
予め定められた指標値と上記評価値とを比較し、比較結果に基づいて上記構造物の健全度を評価すること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の構造物の健全度評価方法。
【請求項7】
上記予め定められた指標値が、上記構造物についての設計値に基づき得られるものであること
を特徴とする請求項6記載の構造物の健全度評価方法。
【請求項8】
構造物の固有振動数に基づいてその健全度を評価する構造物の健全度評価システムにおいて、
上記構造物に発生する振動を検出する振動検出手段と、
上記振動検出手段により検出された上記構造物の振動データに基づいて、上記構造物の固有振動数f(Hz)と、nを自然数とした場合に互いに異なる質量m(kg)が上記構造物に負荷されたn個の状態における当該構造物の固有振動数f2n(Hz)とを算出する固有振動数算出手段と、
上記算出された固有振動数f及び固有振動数f2nと上記構造物に負荷された質量mとから評価時における上記構造物の質量を推定する質量推定手段と、
上記推定した構造物の質量に基づき、評価時における上記構造物の曲げ剛性を算出してこれを評価値とする評価値算出手段と、
上記評価値に基づいて上記構造物の健全度を評価する健全度評価手段とを備えること
を特徴とする構造物の健全度評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−13192(P2011−13192A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160085(P2009−160085)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(307018542)日鉄トピーブリッジ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】