説明

樹脂成形品製造方法及びフィルム

【課題】ガラス繊維強化樹脂を用いて射出成形をする場合に、製品表面の平滑性を向上させる。
【解決手段】樹脂成形品製造法は、以下の工程を有している。ガラス繊維強化樹脂25を射出成形する際に被加飾体27aの第1面27bに転写シート19の非加飾層部分21を対応させた状態で被加飾体27aを製造する。被加飾体27aの第1面27bに図柄27cを付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾が行われる樹脂成形品製造方法及びフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属又は樹脂の成形品の表面に加飾が施された製品は、自動車、家庭電化製品、携帯電話、パーソナルコンピュータ等のあらゆる分野で使用されている。成形品の表面の加飾は、例えば、転写層を有する転写シートに樹脂を接触させ、成形と同時に転写層の模様を成形品に転写することで行う。
【0003】
近年においては、製品の薄肉軽量化実現のために、ガラス繊維強化樹脂が用いられている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−169212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ガラス繊維強化樹脂ではガラス繊維に起因して製品表面の平滑性が低下することで、外観不良が発生する。そこで、特許文献1では、布地を開口部に張設した射出成形用金型を用いて合成樹脂を射出成形して得た表面に布地が付着した成形品から該布地を剥離することで、表面の良好な薄肉射出成形品を製造している。
【0006】
本発明の課題は、繊維強化樹脂を用いて射出成形をすることで得られた成形品に加飾する場合に、製品表面の平滑性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
【0008】
本発明の一見地に係る樹脂成形品製造法は、以下の工程を有している。
◎繊維強化樹脂を射出成形する際に成形品の面にフィルムの非加飾層部分を対応させた状態で成形品を製造する。
◎成形品の前記面に加飾する。
この製造方法では、繊維強化樹脂を用いていても、フィルムの非加飾層部分を対応させた状態で成形品を製造するので、製品表面の均一化が実現され、その結果、加飾後の成形品の表面に繊維が浮き上がって見えることが無いようになる。
【0009】
フィルムの非加飾層部分は、60°グロス値が20.0以下であってもよい。
【0010】
フィルムの非加飾層部分は、Ra値が0.15以上であってもよい。
【0011】
加飾は、フィルムによる転写であってもよい。
【0012】
フィルムは加飾層部分と非加飾層部分とを有しており、加飾を行うときは加飾層部分を用いて圧縮成形を行ってもよい。この場合は、フィルムを交換する必要が無いので、生産性が向上する。
【0013】
非加飾層部分は、先の加飾を行う工程で加飾層部分から加飾層が無くなった部分であってもよい。この場合は、フィルムの同じ箇所が2つの工程で使用されるので、フィルムの使用量が低減される。
【0014】
成形品を作成するときには、プライマー処理層を前記面に同時に形成してもよい。この場合は、後の工程で加飾層の成形品への密着性が向上する。
【0015】
本発明のさらに他の見地に係るフィルムは、繊維強化樹脂を用いて成形品を製造するのに用いられ、非可飾層部分と、加飾層部分とを交互に備えている。非可飾層部分は、繊維強化樹脂を射出成形する際に成形品の面に対応させて配置される。加飾層部分は、成形品の前記面に加飾を行うのに用いられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る樹脂成形品製造方法では、ガラス繊維強化樹脂を用いて射出成形をする場合に、製品表面の平滑性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図2】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図3】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図4】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図5】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図6】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図7】転写加飾品の断面模式図。
【図8】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図9】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図10】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図11】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図12】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図13】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図14】転写加飾品の製造工程を示す模式図。
【図15】転写シートの構造を示す模式図。
【図16】比較例と実施例におけるクリアフィルムと成形品の表面特性表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.第1実施形態
(1)転写加飾品
図1〜図7を用いて、第1実施形態を説明する。図1〜図6は、いずれも転写加飾品の製造工程を示す模式図である。図7は、転写加飾品の断面模式図である。
【0019】
転写加飾品27は、図7に示すように、被加飾体27aと、被加飾体27aの第1面27bに形成された図柄27cと、を備えている。転写加飾品27は、薄型(例えば、1mm程度又はそれ未満)の樹脂成形品である。
【0020】
(2)転写加飾装置
転写加飾品27の製造に用いられる転写加飾装置1は、図1に示すように、転写加飾用金型3と、媒体注入装置5と、転写シート送り機構7とを有している。
転写加飾用金型3は、第1金型11と、第2金型13とを有している。第1金型11は、キャビティ11aを有している。第2金型13は、第1金型11に対して接近・離反可能である。第2金型13は、第1部材13aと、第2部材13bと、第3部材13cとを有している。
第1部材13aは、キャビティ13dを有している。キャビティ13dは、第1金型11との型締めによって、キャビティ11aとの間に、樹脂が注入可能なキャビティを形成する。第2部材13bは、第1部材13a内を移動自在に装着されている。図1では、第2部材13bはキャビティ13d内に入っていないが、キャビティ13d内に入る位置まで移動可能である。第3部材13cは第2部材13bに固定されている。
【0021】
転写シート送り機構7は、第1ローラ15と、第2ローラ17とを有している。第1ローラ15と第2ローラ17との間には、転写シート19が掛け回されている。転写シート19は、ロール状の長尺フィルムであるある。
転写シート19は、基体シートとその上に形成された転写層とから構成されており、転写層が被加飾体27aの第1面27bを加飾する。なお、以下の説明では、転写が行われた結果転写層が無くなった部分を非加飾層部分(クリアフィルム部分)21として、転写が行われていない部分を加飾層部分23とする。
【0022】
基体シートは、公知の転写シートの基体シートを使用することができる。基体シートの構成材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂及びアクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂が好ましい。基体シートは、上記の合成樹脂から形成された単層シート、単層シートを2以上積層した積層シート、又は上記の合成樹脂を用いた共重合シートである。特に、各実施形態による転写加飾品の製造方法では、寸法安定性のよい、印刷乾燥により変形しにくいポリエチレンテレフタレート樹脂等の基体シートが選ばれる。
【0023】
転写層は、例えば、文字や絵柄を表現する図柄層、被加飾体と転写層との接着性を向上させる接着層を備えている。図柄層等は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等の印刷法、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法等のコート法により基体シート上に形成される。転写層は、被加飾体の表面の強度を確保し耐擦傷性を向上させるハードコート層若しくは層間密着性を向上させるアンカー層を備え、又は複数の図柄層などの同種の層を複数備えていてもよい。
なお、基体シートと転写層との間に、基体シートからの転写層の剥離性を向上させる離型層が設けられていてもよい。
【0024】
非加飾層部分21の厚みは、25〜75μmの範囲にあることが好ましく、38〜50μmの範囲にあることがさらに好ましい。
また、非加飾層部分21は、表面に微細な凹凸が形成されたマット状になっていることが好ましい。
【0025】
非加飾層部分21は、60°グロス値が例えば20.0以下であることが好ましい。上記値は7.0〜17.0であることがより好ましい。
また、非加飾層部分21のRa値は、0.15以上であることが好ましい。上記値は0.15〜0.47であることがより好ましい。
【0026】
第2金型13には、媒体注入装置5からガラス繊維強化樹脂25が射出されるゲート(図示せず)が形成されている。そして、第1金型11と第2金型13との型締めした状態において、ゲートからキャビティ(キャビティ11a及びキャビティ13d)にガラス繊維強化樹脂25が注入される。
【0027】
ガラス繊維強化樹脂25は、粘度を有する液体又は流動性を有する溶融樹脂であり、樹脂本体にガラス繊維が混入されたガラス繊維強化樹脂である。樹脂本体については、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。ガラス繊維は、30〜50%の範囲であるが、50%を超えていてもよい。
【0028】
(3)樹脂成形の処理手順
(3−1)クリア成形工程
図1に示すように、転写シート19の非加飾層部分21を第1金型11のキャビティ11aに配置した状態で、第2金型13を第1金型11に対して型締め位置に配置する。なお、この状態では、第2部材13bは、第1部材13aのキャビティ13d内に突出していない。
【0029】
次に、媒体注入装置5からキャビティ内にガラス繊維強化樹脂25を注入する。このとき、キャビティに注入されたガラス繊維強化樹脂25によって、転写シート19が第1金型11のキャビティ11a内に押し込まれる。キャビティ内に充填されたガラス繊維強化樹脂25が冷却されることで、被加飾体27aが形成される。なお、被加飾体27aの第1金型11側の第1面27bは、非加飾層部分21に押し付けられた状態で成形される。
このとき、金型温度は80〜100°になっているが、転写層がないのでインキ流れの問題が生じない。
また、非加飾層部分21は前述のように十分に薄く設定されているので、熱がこもることがない。したがって、金型温度が高温になっていても、フィルムが溶融しにくい。
【0030】
次に、図2に示すように、第2金型13は第1金型11から離れる方向に移動して、型開きが行われる。このときに、被加飾体27aは、第2金型13とともに第1金型11から離れる。
【0031】
(3−2)圧縮成形による転写工程
次に、図3に示すように転写シート送り機構7は、転写シート19の加飾層部分23を第1金型11のキャビティ11aに対応する部分に移動させる。さらに、加飾層部分23は、図示しない吸引装置によってキャビティ11aの底面に密着させられる。
【0032】
次に、図4に示すように、第2金型13が第1金型11に対して接近して型締めが行われる。さらに、第2部材13bが第1部材13aのキャビティ13d内に突出する。この結果、キャビティ13dは環状の凹部13eの形状になり、それにより被加飾体27aは環状の凸部が形成される。以上の状態において被加飾体27aはキャビティ内で圧縮されて、第1面27bに加飾層部分23の転写層が図柄27cとして転写される。
【0033】
図5に示すように、溶融樹脂が硬化した後、第2金型13を第1金型11から離間することで型締めを開放する。さらに、第2金型13に設けられた押し出し棒(図示せず)により転写加飾品27を押し出して取り出す。
なお、第1金型11には転写シート19の非加飾層部分21が残っているので、この後に転写シート19の送りは行われない。つまり、この非加飾層部分21が、次の成形品の射出成形動作に用いられる。
【0034】
本実施形態では、成形工程ではフィルムのインキが無い部分を利用するので、ゲート部インキ流れの問題が生じない。したがって、金型内にゲートを自由に設置できる。つまり、サイドゲートである必要が無くなるので、後処理も不要になる。なお、インキ流れとは、従来技術において、基体シートと共に図柄層を加熱するときに、射出成形時の流れに伴って図柄層が流れてしまうことをいう。
また、本実施形態では、金型温度を80度以上、例えば80〜100°にできるので、ウェルドライン及びフローマークの発生を抑えることもできる。なお、ウェルドラインとは、加熱された溶融樹脂が型内に射出され、型内に広がって充満していくときに、ゲートの位置、形状及び個数等と成形品形状との関係で、溶融樹脂が分流後に合体する際に、合体部分に生じる樹脂同士の不完全な合体現象である。また、フローマークとは、金型内に最初に流入し冷却し始めた樹脂と次に流れ込んでくる樹脂との間に境界ができて流動軌跡を示す縞模様の生じる現象である。
本実施形態では、フィルムの非加飾層部分のグロス値及びRaの値が上記の条件が満たせば、ガラス繊維の含有量が30%以上のガラス繊維強化樹脂を用いた場合でも、加飾後の成形品できれいなマット感が得られて、ざらつきは気にならない。また、製品の反りも低減する。
【0035】
2.第2実施形態
(1)成形装置
図8〜図14を用いて、第2実施形態を説明する。図8〜図14は、いずれも転写加飾品の製造工程を示す模式図である。
【0036】
転写加飾品の製造に用いられる成形装置41は、図8に示すように、金型43と、媒体注入装置45と、クリアフィルム送り機構47とを有している。
金型43は、第1金型51と、第2金型53とを有している。第2金型53は、第1金型51に対して接近・離反可能である。
第1金型51は、平坦面51aを有している。第2金型53は、キャビティ53aを有している。キャビティ53aは、第1金型51との型締めによって、樹脂が注入可能なキャビティを平坦面51aとの間に形成する。
【0037】
クリアフィルム送り機構47は、第1ローラ55と、第2ローラ57とを有している。第1ローラ55と第2ローラ57との間には、クリアフィルム59が掛け回されている。クリアフィルム59は、ロール状の長尺フィルムであるある。
クリアフィルム59は、転写層を有さないクリアフィルムであり、基体シートから主に構成されている。クリアフィルム59は、前記実施形態における非加飾層部分21と同等である。なお、クリアフィルム59には、離型層が設けられていてもよい。
【0038】
第2金型53には、媒体注入装置45からガラス繊維強化樹脂65が射出されるゲート(図示せず)が形成されている。そして、第1金型51と第2金型53との型締めした状態において、ゲートからキャビティ(キャビティ53a)にガラス繊維強化樹脂65が注入される。ガラス繊維強化樹脂65は、前記実施形態におけるガラス繊維強化樹脂25と同等である。
【0039】
(2)樹脂成形の処理手順
(2−1)クリア成形工程
図8に示すように、クリアフィルム59を第1金型51に配置した状態で、第2金型53を第1金型51に対して型締め位置に配置する。
【0040】
次に、図9に示すように、媒体注入装置45からキャビティ内にガラス繊維強化樹脂65を注入する。このとき、キャビティ内にガラス繊維強化樹脂65が充填されさらに冷却されることで、被加飾体67aが形成される。なお、被加飾体67aの第1金型51側の第1面67bは、クリアフィルム59に押し付けられた状態で成形される。
【0041】
次に、図10に示すように、第2金型53は第1金型51から離れる方向に移動して、型開きが行われる。このときに、被加飾体67aは、第2金型53とともに第1金型51から離れる。
【0042】
次に、図11に示すように、被加飾体67aが第2金型53から取り外される。
【0043】
(2−2)転写工程
転写加飾品の製造に用いられる転写加飾装置71は、図12に示すように、第1チャンバ81と、第2チャンバ83とを有している。転写加飾装置71は、3次元形状の筐体に転写が可能な装置である。
第1チャンバ81は、上面に被加飾体67aが載置される載置部81aを有している。また、第1チャンバ81には、図示しない減圧機構が設けられている。
第2チャンバ83は、第1チャンバ81に対して接近・離反可能である。第2チャンバ83は、第1チャンバ81の載置部81aとの間に密閉空間を形成する凹部83aを有している。また、第2チャンバ83には、図示しない気圧調整機構が設けられている。
【0044】
転写シート91は、転写シート91は、基体シート93とその上に形成された転写層95とから構成された枚葉であり、転写層95が被加飾体67aの第1面67bを加飾する。転写層95は、一般的に、剥離層と、接着層と、それらの間に配置された図柄層とを有している。なお、基体シート93と転写層95との間に、基体シート93からの転写層95の剥離性を向上させる離型層が設けられていてもよい。
【0045】
図12に示すように、被加飾体67aを第1チャンバ81の載置部81aに配置し、さらに転写シート91を被可飾体67aの上方に配置する。この状態で、被可飾体67aの第1面67bは、転写シート91の転写層95に対向している。
次に、図13に示すように、第2チャンバ83を第1チャンバ81に対して近接させ、第1チャンバ81と第2チャンバ83とを当接させる(型締めする)。次に、図示しない減圧機構が第1チャンバ81と第2チャンバ83との間の密閉空間の第1チャンバ81側(図示せず)を減圧しつつ、図示しない気圧調整機構が第1チャンバ81と第2チャンバ83との間の密閉空間の第2チャンバ83側(図示せず)に高圧空気を送入する。その結果、転写シート91が被可飾体67aの第1面67bに押し付けられ、転写層95によって被可飾体67aの第1面67bに図柄67cが転写される
【0046】
図14に示すように、被可飾体67aに対する転写シート91による加飾が終了すると、気圧調整機構及び減圧機構の動作を停止し、次に第2チャンバ83を第1チャンバ81から離間させ、最後に、成形品67を第1チャンバ81から取り出す。
【0047】
3.第3実施形態
第1実施形態では、転写シートは最初は全ての面に転写層が形成されており、1つの面が転写工程とその次の成形工程に使われていたが、本発明はそのような実施形態に限定されない。
例えば、図15に示す実施形態では、転写シート19には加飾層23と非加飾層21が交互に形成されている。この実施形態では、第1実施形態で説明した成形工程と転写工程ごとに転写シート19が送り出される。
4.実施例
【実施例1】
【0048】
実施例1は、上述の実施形態2の一例である。
(1)成形工程
(a)クリアフィルムの準備
平均粒径5μmのシリカを含有する50μm厚みのPETフィルムの上に、メラミン樹脂を1μm全面に塗布した。その結果、フィルム表面のRa値=0.42、グロス値=16.2のクリアフィルムが得られた。
【0049】
(b)成形動作
上記のクリアフィルムを用い、成形同時転写法を実行した。具体的には、ガラス繊維50%含有のPA樹脂にて、金型温度90℃で成形した。その後、基体シートを成形品から剥離し三次元形状を有する厚み1mmのガラス繊維強化樹脂成形品が得られた。
得られた成形品は表面のRa値=0.28、グロス値=7.3の表面性を有し、ガラス繊維の浮きが見られない均一な表面のものであった。また、成形品は、反りの無いものであった。
【0050】
(2)転写工程
(a)ハードコート転写シートの準備
25μm厚みのPETフィルムの上にメラミン樹脂を1μm全面に塗布し、その上にグラビアコート法を用いて熱硬化性かつ紫外線硬化性の樹脂を10μm塗布し、150℃で1分間加熱して半硬化させ、その後、半硬化状態の樹脂の上に黒色顔料でパターンを形成し、最後に接着層を形成した。その結果、ハードコート転写シートが得られた。
【0051】
(b)転写動作
ハードコート転写シートを用いて、真空圧空3次元転写法を実行した。具体的には、成形品の表面に転写層を転写した。さらに、基体シートを剥離した後、当該中間成形品に紫外線を照射し、三次元形状を有するガラス繊維強化加飾成形品を得た。
得られた成形品はRa値=0.04、グロス値=101.7の表面性を有し、ガラス繊維の浮きが見られないものであった。
【実施例2】
【0052】
実施例2は、上述の第1実施形態又は第3実施形態の一例である。
(1)成形工程
(a)ハードコートマット転写シートの準備
平均粒径5μmのシリカを含有する50μm厚みのPETフィルムの上に、メラミン樹脂を1μm全面に塗布した。その結果、フィルム表面のRa値=0.46、グロス値=14.2のマット転写シートが得られた。マット転写シート上にグラビア印刷法を用いて熱硬化性かつ紫外線硬化性の樹脂を6μm塗布し、続けて、熱硬化性かつ紫外線硬化性の樹脂の上に黒色顔料で図柄パターンを形成し、最後に接着層を形成した。以上の結果、ハードコートマット転写シートが得られた。そして、当該シートに紫外線を照射し、ハードコート層の硬化を完了させた。
【0053】
(b)成形動作
成形品の表面にマット転写シートの図柄の無い部分を対応させた状態で、成形同時転写法を実行した。具体的には、ガラス繊維40%含有のPC樹脂を用いて金型温度70℃で成形した。成形品の圧縮及び冷却前に一度、型を開き、基体シートを成形品から剥離した。
(2)転写工程
シートの黒色顔料で形成された図柄パターン部をキャビティ内へ送り、型閉め後、金型圧縮機構で成形品厚みを0.3mm圧縮した。これにより、転写シートの転写層が成形品の表面に転写された。冷却後、型を開きで転写シートを剥離した後、成形品を取り出した。そして、当該中間成形品に紫外線を照射することで、三次元形状を有する厚さ1mmのガラス繊維強化加飾成形品が得られた。
得られた成形品はRa値=0.34、グロス値=14.0の表面性を有し、ガラス繊維の浮きが見られないものであった。また、成形品は、反りの無いものであった。
【実施例3】
【0054】
実施例3は、上述の第1実施形態又は第3実施形態の一例である。
(1)成形工程
(a)ハードコートマット転写シートの準備
平均粒径5μmのシリカを含有する38μm厚みのPETフィルムの上に、メラミン樹脂を1μm全面に塗布した。フィルム表面のRa値=0.46、グロス値=14.2の表面状態が得られた。フィルム表面上に、グラビアコート法を用いて熱硬化性かつ紫外線硬化性の樹脂を10μm塗布し、150℃で1分間加熱して半硬化させた。その後、半硬化した樹脂の上にグラビア印刷法を用いて、図柄層を黒色顔料で形成した。最後に、図柄層の上に接着層を形成することで、ハードコートマット転写シートを得た。
【0055】
(b)成形動作
マット転写シートのインキ層の無い状態のシートがキャビティ内で保持された状態で、成形同時転写法を実行した。具体的には、溶融樹脂は、ガラス繊維40%含有のPPS樹脂(曲げ弾性率11,800MPa)であった。成形条件は、シリンダー温度300℃、金型温度80℃であった。成形品の圧縮及び冷却前に一度、型を開き、基体シートを剥離した。なお、インキ層が無い状態は、インキ層が1つ前の成形で成形品へ転写されることで得られた(後述の工程)。
【0056】
(2)転写工程
シートの黒色顔料で形成された図柄パターン部をキャビティ内へ送り、型閉め後、金型圧縮機構で成形品厚みを0.4mm圧縮した。その結果、転写層が成形品の表面に転写された。冷却後、型を開きで転写シートを剥離した後、成形品を取り出した。そして、当該中間成形品に紫外線を照射し、三次元形状を有する厚さ0.8mmのガラス繊維強化加飾成形品を得た。
得られた成形品はRa値=0.34、グロス値=14.0の表面性を有し、ガラス繊維の浮きが見られないものであった。また、成形品は、反りの無いものであった。ゲート部のインキ流れの無いものであった。
【0057】
(比較例)
(a)ハードコート転写シートの準備
100μm厚みのPETフィルムの上にメラミン樹脂を1μm全面に塗布し、Ra値=0.04、グロス値=101.7の表面状態の上にグラビアコート法を用いて熱硬化性かつ紫外線硬化性の樹脂を10μm塗布し、150℃で1分間加熱して半硬化させた。その後、半硬化状態の樹脂の上にグラビア印刷法を用いて、図柄層を黒色顔料で形成し、最後に接着層を形成した。その結果、鏡面ハードコート転写シートが得られた。
【0058】
(b)成形動作
鏡面ハードコート転写シートを用いて、成形同時転写法を利用して成形品の表面に転写層を転写した。その後、基体シートを剥離した後、当該中間成形品に紫外線を照射し、三次元形状を有する厚さ1mmのガラス繊維強化加飾成形品を得た。
得られた成形品は金型温度50℃でもゲート部の図柄層、接着層が射出成形時の熱及び圧で流れて無くなっていた。
また、成形品の表面のRa値=0.07は低いが、グロス値=101.6と高く、不均一な表面で、ガラス繊維の浮きが見られる外観の悪いものであった。
さらに、成形品は端で2mm以上浮きのある反りの大きいものであった。
さらに、多点ゲートによるウェルドラインが発生しゲート回りにフローマークも発生した。
【0059】
さらに、図16を用いて、クリアフィルムと成形品の表面の特性の関係を説明する。いずれの例もポリカーボネートに40%のガラス繊維を混ぜたガラス繊維強化樹脂を用いている。比較例1及び比較例2では、クリアフィルムの60°グロス値が7.0〜17.0の範囲を超えており、クリアフィルムのRa値が0.15〜0.47の範囲を超えている。その結果、比較例1の成形品は、ザラザラしているが光沢はあるので、評価は×である。比較例2の成形品は、きれいなマット感が得られてざらつきは気にならないがグロス値が大きいので、評価は×である。実施例1〜3では、クリアフィルムの60°グロス値が7.0〜17.0の範囲内であり、クリアフィルムのRa値が0.15〜0.47の範囲内である。その結果、実施例1〜3の成形品は、きれいなマット感が得られてざらつきは気にならないので、評価は○である。
【0060】
5.実施形態の作用効果
上記実施形態は、下記のように表現可能である。
【0061】
(A)樹脂成形品製造法は、以下の工程を有している。
◎ガラス繊維強化樹脂25(繊維強化樹脂の一例)を射出成形する際に被加飾体27a(成形品の一例)の第1面27b(面の一例)に転写シート19(フィルムの一例)の非加飾層部分21(加飾層が無い部分の一例)を対応させた状態で被加飾体27aを製造する。
◎被加飾体27aの第1面27bに図柄27c(図柄の一例)を付与する。
この製造方法では、ガラス繊維強化樹脂を用いていても、フィルムの非加飾層部分を対応させた状態で成形品を製造するので、製品表面の均一化が実現され、その結果、ガラス繊維が浮き上がって見えることがないようになる。
【0062】
(B)非加飾層部分21は、60°グロス値が20.0以下である。
【0063】
(C)非加飾層部分21は、Ra値が0.15以上である。
【0064】
(D)図柄を付与することは転写によって行われる。
【0065】
(E)第1実施形態では、転写シート19は加飾層部分23(加飾層がある部分の一例)と非加飾層部分21(加飾層が無い部分の一例)とがあり、図柄を付与するためには加飾層部分23を用いて圧縮成形を行う。この場合は、転写シート19を交換する必要が無いので、生産性が向上する。
【0066】
(F)第1実施形態では、非加飾層部分21は、先の図柄を付与する工程で加飾層部分23から転写層が無くなった部分である。この場合は、フィルムの同じ箇所が2つの工程で使用されるので、フィルムの使用量が低減される。
【0067】
(G)成形品を作成するときには、プライマー処理層を第1面27bに同時に形成してもよい。この場合は、後の工程での加飾層の成形品への密着性が向上する。
プライマー処理層は成形品の樹脂表面と加飾層の両方に接着性を有する性質を持つ必要があり、例えば、塩ビ系、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系等を単独あるいは組み合わせて使用する。
【0068】
6.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【0069】
(1)前記第1及び第2実施形態では、成形品への加飾は転写で行っていたが、本発明はそのような実施形態に限定されない。例えば、塗装によって成形品を加飾してもよい。
(2)前記第1〜第3実施形態では、樹脂強化用繊維としてガラス繊維が用いられていたが、本発明はそのような実施形態に限定されない。例えば、カーボン繊維が用いられていてもよい。
(3)前記実施形態では加飾工程では、基体シートが最終的に製品から剥離される転写シートが用いられていたが、基体シートが製品に残るラミネートシートが用いられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、加飾が行われる樹脂成形品製造方法に広く適用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 転写加飾装置
3 転写加飾用金型
5 媒体注入装置
7 転写シート送り機構
19 転写シート
21 非加飾層部分
23 加飾層部分
25 ガラス繊維強化樹脂
27 転写加飾品
27a 被加飾体
27b 第1面
27c 図柄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂を射出成形する際に成形品の面にフィルムの非加飾層部分を対応させた状態で成形品を製造し、
前記成形品の前記面に加飾する、
樹脂成形品製造方法。
【請求項2】
前記フィルムの前記非加飾層部分は、60°グロス値が20.0以下である、請求項1に記載の樹脂成形品製造方法。
【請求項3】
前記フィルムの前記非加飾層部分は、Ra値が0.15以上である、請求項1又は2に記載の樹脂成形品製造方法。
【請求項4】
前記加飾はフィルムによる転写である、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂成形品製造方法。
【請求項5】
前記フィルムは加飾層部分と前記非加飾層部分とを有しており、
前記加飾を行うときは前記加飾層部分を用いて圧縮成形を行う、請求項4に記載の樹脂成形品製造方法。
【請求項6】
前記非加飾層部分は、先の加飾を行う工程で前記加飾層部分から加飾層が無くなった部分である、請求項5に記載の樹脂成形品製造方法。
【請求項7】
前記成形品を作成するときには、前記面にプライマー処理層を同時に形成する、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂成形品製造方法。
【請求項8】
繊維強化樹脂を用いて成形品を製造するのに用いられるフィルムであって、
前記繊維強化樹脂を射出成形する際に成形品の面に対応させて配置される非加飾層部分と、
前記成形品の前記面に加飾を行うのに用いられる加飾層部分と、
を交互に備えたフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−111917(P2013−111917A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261942(P2011−261942)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】