機器診断方法及び機器診断装置
【課題】機器異常の判定精度を向上させることができる機器診断方法を提供する。
【解決手段】原子力プラントに設けられた機器の診断を行う方法である。ドリフト算出手段3が、原子力プラントの設けられた各センサから出力された診断データ(計測データ)のドリフト量を算出する。ドリフト分布計算手段6が、センサの校正データを用いてドリフト分布を求める。ドリフト妥当性評価手段5が、算出したドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定する。ドリフト補正手段7が、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在するとき、診断データをドリフト量を用いて補正し、補正診断データを出力する。ドリフト補正手段7が、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在するとき、診断データを補正しないでそのまま補正診断データとして出力する。機器診断手段8は、補正診断データを用いて機器の診断を行う。
【解決手段】原子力プラントに設けられた機器の診断を行う方法である。ドリフト算出手段3が、原子力プラントの設けられた各センサから出力された診断データ(計測データ)のドリフト量を算出する。ドリフト分布計算手段6が、センサの校正データを用いてドリフト分布を求める。ドリフト妥当性評価手段5が、算出したドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定する。ドリフト補正手段7が、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在するとき、診断データをドリフト量を用いて補正し、補正診断データを出力する。ドリフト補正手段7が、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在するとき、診断データを補正しないでそのまま補正診断データとして出力する。機器診断手段8は、補正診断データを用いて機器の診断を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器診断方法及び機器診断装置に係り、原子力プラントに適用するのに好適な機器診断方法及び機器診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおけるセンサ、回転機及び弁などの機器は、原子力プラントの定期検査ごとに保守作業が行われている。機器の保守作業は主に定期検査において行われ、校正、分解点検及び取替えなどの機器の保守作業の作業量は膨大なものとなっている。
【0003】
原子力プラントを安全かつ効率的に稼動させることを目的として、これまでの一定期間ごとに保守作業を行う時間保全に代わり、機器の状態を監視して必要な時期に保守作業行う状態監視保全の導入が検討されている。
【0004】
機器の状態監視は、機器に取り付けられた温度計及び振動計などのセンサによって行われる。このため、センサ(検出器)にドリフトが発生して、計測値が正しい値からずれていれば、機器の状態を正確に診断することができない。センサによって計測した機器のプロセス値に何らかの異常が認められた場合に、機器を保守すべきか、センサを保守すべきかを判断するためには、機器の異常とセンサドリフトとを区別する必要がある。また、何らかの異常を検知した場合、センサのドリフトが原因であっても、それを区別できなければ、原子力プラントの停止に至る可能性もある。したがって、機器の異常とセンサドリフトの区別は重要な課題となっている。
【0005】
機器の診断方法の一例が特開平6−167363号公報に記載されている。この機器の診断方法では、プロダクションルール及びメンバーシップ関数が用いられる。機器の状態量の大きさと機器に発生する複数の異常現象の発生度合いの関係をプロダクションルールとメンバーシップ関数で表現し、測定した複数の状態量をプロダクションルール及びメンバーシップ関数を参照してファジィ演算し、複数の異常現象についての各発生度合いを定量化して適合度を求める。このようにして、機器に発生した異常の種類を特定している。
【0006】
特開2003−207373号公報がセンサの校正支援方法の一例を記載している。この校正支援方法は、被検出対象に設けられた互いに相関のある複数のセンサから出力された検出信号を利用している。被検出対象に応じて用意された、真値を推定するための推定モデルを用い、検出信号の実測値に基づいて真値を推定し、その実測値及び推定した真値に基づいて、センサのフルスパンに渡ってドリフト量を推定する。推定されたドリフト量に基づいてセンサの校正量を求める。
【0007】
特開2005−43121号公報は計器校正支援システムを記載している。このシステムは、センサの校正データを用いてセンサの校正周期を予測し、この予測結果、及びオンラインによるドリフト検出の結果に基づいてセンサの校正周期を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−167363号公報
【特許文献2】特開2003−207373号公報
【特許文献3】特開2005−43121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
機器の異常の有無を診断する際には、前述したように、機器の異常とセンサドリフトとを区別する必要がある。特開平6−167363号公報に記載された機器の診断方法及び特開2003−207373号公報がセンサの校正支援方法を組み合わせても、機器の異常とセンサドリフトとを区別することはできない。センサドリフトによる計測値のずれが発生すれば、機器診断において誤診断が生じる可能性がある。逆に、機器異常によるプロセス値の変化をセンサドリフトと誤診断する可能性がある。その結果、機器診断とセンサ診断のいずれにおいても異常と診断する可能性があるが、どちらが誤診断であるかを区別するのは困難となる。
【0010】
特開平6−167363号公報に記載された機器の診断方法では、異常の種類を区別できるので、機器異常及びセンサドリフトのそれぞれの異常が発生したときのデータを予め計測しておくことによって、両者の異常を区別できる。しかしながら、原子力プラントにおいて、異常発生時のデータを予め計測しておくことは困難な場合が多い。
【0011】
本発明の目的は、機器異常の判定精度を向上させることができる機器診断方法及び機器診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、プラントに設けられたセンサで計測された計測データのドリフト量を算出し、そのセンサの複数の校正データに基づいてセンサのドリフト分布を求め、算出されたドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定し、算出されたドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、ドリフト量の算出に用いた計測データを出力したセンサの計測データを、ドリフト量を用いて補正し、補正された計測データに基づいてプラントに設けられた機器の診断を行うことにある。
【0013】
センサの、機器の診断に用いる計測データのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差内に存在しているとき、ドリフト量を用いて補正された計測データを用いて機器診断を行うので、機器異常の判定精度が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラントに設けられた機器の異常判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の機器診断装置の構成図である。
【図2】図1に示すセンサ構成データベースに格納されている校正データの一例を示す説明図である。
【図3】図1に示す正常データベースに格納された正常データの一例を示す説明図である。
【図4】図1に示す機器診断装置での診断対象となる系統の一例を示す構成図である。
【図5】図4に示す系統における計測データの一例を示す説明図である。
【図6】図1に示す機器診断装置で実行される機器診断の手順を示すフローチャートである。
【図7】図1に示すセンサ構成データベースに格納されている校正データの他の例を示す説明図である。
【図8】各計測データにおけるドリフト量の算出概念を示す説明図である。
【図9】機器診断の説明図である。
【図10】異常原因特定テーブルの一例を示す説明図である。
【図11】図1に示す機器診断装置での診断対象となる他の系統の一例を示す構成図である。
【図12】本発明の他の実施例である実施例2の機器診断装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者等は、センサから出力された検出信号に基づいて行われる機器診断において、機器の異常とセンサドリフトを区別し、機器診断の精度を向上できる方法を検討した。原子力プラントにおいて異常発生時のデータを予め計測しておくことは困難であるが、そこで、発明者等は、原子力プラントの定期検査時に得られたセンサの校正データを利用することに着目した。そして、発明者等は、ドリフト分布を考慮することによって、機器異常の判定精度を向上できることを新たに見出した。
【0017】
センサをその機種及び設置場所などで分類した場合、センサのドリフト量は正規分布に従う特性がある。この特性により、ある時刻におけるセンサのドリフトの平均値及び分散を推定できる。このドリフト分布を用いれば、原子力プラント等のプラントの運転中に発生するセンサのドリフト量を精度良く評価することができる。計測データからセンサのドリフト量を補正し、ドリフト量が補正された計測データを用いることによって機器診断を精度良く行うことができる。
【0018】
上記した知見を考慮した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の好適な一実施例である機器診断装置を、図1を用いて説明する。本実施例の機器診断装置1は、診断データ入力手段2、ドリフト量算出手段3、異常原因特定手段4、ドリフト妥当性評価手段(第1ドリフト判定手段)5、ドリフト分布計算手段6、ドリフト補正手段7及び機器診断手段8を備える。機器診断装置1は、センサ校正データベース9及び正常データベース10を含む記憶装置(図示せず)を有する。ドリフト量算出手段3は、診断データ入力手段2、異常原因特定手段4、ドリフト妥当性評価手段5、ドリフト補正手段7及び記憶装置に接続される。ドリフト分布計算手段6は、ドリフト妥当性評価手段5及び記憶装置に接続される。ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2、ドリフト妥当性評価手段5及び機器診断手段8に接続される。機器診断手段8は、異常原因特定手段4及び記憶装置に接続される。異常原因特定手段4は表示装置11に接続される。
【0020】
センサ校正データベース9には、流量計、温度計、圧力計及び水位計などのそれぞれのセンサに対して、原子力プラントの定期検査時に行った校正作業の記録である校正データが格納されている。図2にセンサ校正データベース9に格納されている校正データの一例を示す。センサの校正作業では、図2に示す基準値となる信号をセンサに加えたときにこのセンサから出力される出力値(図2の校正前出力値)を記録する。この出力値と基準値の差がドリフト(図2の校正前ドリフト)であり、このドリフトがセンサごとに決められた値以下になるようにセンサの校正作業が行われる。0%、25%、50%、75%、100%、75%、50%、25%、0%の各基準値をセンサに順に加えたときに得られたそのセンサに対する校正前出力値、校正前ドリフト、校正後出力値及び校正後ドリフトが、記憶装置に格納され、センサ校正データベース9が更新される。この校正データは、原子力プラントに設けられた各センサに対して、定期検査ごとにセンサ校正データベース9に蓄積される。定期検査が行われていない新設の原子力プラントでセンサの校正データがない場合には、既設の原子力プラントに設けられた同じセンサの校正データを使用する。
【0021】
正常データベース10には、センサ及び機器が正常であるときにそのセンサによって計測された機器のプロセス値(正常データ)が格納されている。この正常データは、例えば、起動試験時、及びプラント起動から数ヶ月の期間で計測された正常なデータである。図3に正常データベース10に格納されている正常データであるプロセス値の一例を示す。図3に示されたプロセス値1及び2は、例えば、流量、温度、圧力、水位、回転数、振動の変位、及び弁の開度などのうちの2つのプロセス値の時間変化を示している。
【0022】
ドリフト分布計算手段6は、センサ校正データベース9に格納された校正データを入力し、任意の時刻におけるセンサのドリフト分布を算出する。任意の時刻におけるセンサのドリフト分布は、具体的には、後述するように(1)式、(2)式及び(3)式に基づいて求められる。診断データ入力手段2は、各センサで計測されたプロセス値(計測データ)を診断対象物の診断データとして入力する。ドリフト量算出手段3は、診断データ入力手段2から入力した診断データ、及び正常データベース10から入力した正常データに基づいて、ドリフト量を算出する。ドリフト妥当性評価手段5は、ドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量がドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内にあるか否かを判定する。
【0023】
ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2から診断データを入力し、ドリフト妥当性評価手段5においてドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量がドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、その診断データからドリフト量を差し引いて補正診断データを作成する。また、ドリフト補正手段7は、ドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在しないと判定されたとき、そのドリフト量に基づいた診断データの補正を行わずに、入力した診断データをそのまま補正診断データとして出力する。
【0024】
機器診断手段8は、ドリフト補正手段7から入力した補正データ、及び正常データベース4から入力した正常データを用い、診断対象である機器の診断を実施する。異常原因特定手段4は、ドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量、ドリフト妥当性評価手段5で得られた判定結果の情報、及び機器診断手段8で得られた機器診断結果の情報に基づいて、診断対象物である機器に異常が生じているとき、その異常の原因を特定する。表示装置11には、異常原因特定手段4によって特定された異常の原因が表示される。また、表示装置11には、ドリフト量算出手段3で求められたドリフト量、ドリフト妥当性評価手段5で得られた判定結果の情報、及び機器診断手段8で得られた機器診断結果の情報を表示してもよい。
【0025】
本実施例の診断対象であるプラントシステムの一例を、図4を用いて説明する。このプラントシステムは、A系統の冷却水供給系20A及びB系統の冷却水供給系20Bを有する。このプラントシステムは原子力プラントの一部の構成である。冷却水供給系20Aは、冷却水が流れる配管21Aにポンプ22Aを設けている。流量センサ23Aがポンプ22Aの下流で配管21Aに設けられ、回転計24Aがポンプ22Aに設けられる。冷却水供給系20Bは、冷却水が流れる配管21Bにポンプ22Bを設けている。流量センサ23Bがポンプ22Bの下流で配管21Bに設けられ、回転計24Bがポンプ22Bに設けられる。配管21Aと配管21Bは、ポンプ22A,22Bより上流で1つの配管から分岐されている。ポンプ22A,22Bの回転速度を制御する制御装置25が設けられる。
【0026】
制御装置25は、流量センサ23A,23Bで計測された、ポンプ22A,22Bから吐出されたそれぞれの冷却水の流量、及び回転計24A,24Bで計測された各ポンプの回転数を入力する。ポンプ22A,22B、流量センサ23A,23B及び回転計24A,24Bが正常な時には、流量センサ23A,23Bでそれぞれ計測された各流量は同じ値であり、回転計24A,24Bで計測された各回転数も同じ値である。制御装置25は、流量センサ23Aで計測された流量、及び回転計24Aで計測された回転数に基づいて、ポンプ22Aの回転数を制御し、流量センサ23Bで計測された流量、及び回転計24Bで計測された回転数に基づいて、ポンプ22Bの回転数を制御する。ポンプ22A,22Bの制御は、制御装置25によって連動して制御される。
【0027】
機器診断装置1は、冷却水供給系20Aの機器であるポンプ22Aの状態を、流量センサ23Aで計測された流量、及び回転計24Aで計測された回転数に基づいて診断し、冷却水供給系20Bの機器であるポンプ22Bの状態を、流量センサ23Bで計測された流量、及び回転計24Bで計測された回転数に基づいて診断する。センサ、例えば、流量センサ23A,23B等のセンサ診断では、流量センサ23Aで計測された流量及び流量センサ23Bで計測された流量の比較によりセンサのドリフトを診断する。
【0028】
流量センサ23Aで計測された流量(流量Aという)、流量センサ23Bで計測された流量(流量Bという)、回転計24Aで計測された回転数(回転数Aという)及び回転計24Bで計測された回転数(回転数Bという)のそれぞれの計測例を、図5に示す。これらの計測例では、プラントシステムの運転開始から100日を経過した時点で、何らかの異常により流量Bが徐々に低下している。従来の機器診断では、冷却水供給系20Bでポンプ22Bの回転数が一定であるのに対して流量Bが低下しているので、ポンプ22Bが異常であると診断する。一方、センサ診断では、流量Aに比べて流量Bの値が低下しているので、流量センサ23Bにドリフトが発生していると診断する。したがって、ポンプ22B及び流量センサ23Bの両者が異常であると診断されるので、どちらが誤診断であるかを区別しなければ、機器異常とセンサドリフトとを区別することができない。
【0029】
機器診断装置1を用いた本実施例における機器診断の手順を、図6に基づいて説明する。この機器診断は、一例として、図5に示すプラントシステムを対象に行った。
【0030】
ドリフト分布計算手段6が、センサ構成データベース9に格納されている校正データを用いてセンサのドリフト分布を算出する(ステップS1)。センサのドリフトは、同じ機種のセンサ及びセンサの設置場所によりグループ化して評価した場合に、正規分布に従う特性を有する。図5に示す各センサの校正データがセンサ校正データベース9に格納されている。図4に示されたプラントシステムに設けられた流量センサと同様のセンサにおける校正データの一例を図7に示す。図7に示された各センサの校正データは、図2に示す基準値100%におけるドリフト量を示している。これらのドリフト量は、原子力プラントの定期検査でのセンサの校正作業において求められ、この例では前回の校正作業の日から400日後に校正作業を行っている。なお、定期検査によりセンサの校正までの日数が異なる場合には、各センサのドリフト量は時間に比例すると仮定して、例えば400日分に換算する。基準値100%の校正データを用いてステップS1におけるドリフト分布の算出を例に挙げて以下に説明するが、他の基準値についても同様に算出できる。
【0031】
センサのドリフトが正規分布に従う場合、時刻tにおけるドリフト量の分布f(x)は(1)式を用いて計算することができる。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、xはドリフト量、μはドリフト分布の平均値、σはドリフト分布の標準偏差である。
【0034】
図7に示す校正データのセンサ1、センサ2、センサ3を同じ種類のセンサのグループとして、これら全てのデータを用いて計算した場合、校正前基準値100%のドリフト分布は、μ=−0.76%、σ=0.31%の正規分布である。また、簡単のため、校正後のドリフト量はすべて0.0%と近似する。このとき、正規分布の再現性により、ドリフト分布の平均値μが(2)式によって求められ、ドリフト分布の標準偏差σは(3)式によって求められる。
【0035】
μ=μ0×t/t0 ……(2)
σ=σ0×(t/t0)0.5 ……(3)
ここで、μ0は時刻t0におけるドリフト分布の平均値であり、σ0は時刻t0におけるドリフト分布の標準偏差である。したがって、(1)式で表されるドリフト分布は時刻tによって変化する分布であり、ある時刻tにおけるドリフト分布を計算することができる。具体的には、ある時刻におけるドリフト分布の平均値と標準偏差を求める。例えば、t=200日におけるドリフト分布は、μ=−0.38%、σ=0.22%と推定できる。
【0036】
原子力プラントの運転時において、流量センサ23A,23B及び回転計24A,24B等の原子力プラントに設けられた各センサでの計測信号が、診断データ入力手段2に入力され、A/D変換によりディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換されたこれらの計測信号(計測データであり、診断データである)は、診断データ入力手段2からドリフト量算出手段3に入力される。ドリフト量算出手段3が、診断データからセンサのドリフト量を算出する(ステップS2)。ドリフト量算出手段3は、診断データ入力手段2から入力した診断データ、及び正常データベース10から入力した、この診断データに対する正常データに基づいて、このセンサのドリフト量を算出する。ドリフト量は、入力した各センサに対する全診断データに対して算出される。
【0037】
ポンプ22A及び22Bのあるポンプ回転数における流量A及び流量Bの正常データの分布と流量A及び流量Bの診断データの関係は、図8に示すようになる。図8の横軸は流量Aを示しており、縦軸は流量Bを示している。図8に示された正常データの分布を作成する流量Aと流量Bは、同じ値を示す関係にある。ドリフト量算出手段3は、正常データベース10から流量A及び流量Bのそれぞれの正常データを入力し、図8に示す正常データの分布を求めて、さらに、この分布の中心での流量A及び流量Bのそれぞれの値を求める。図8に示された流量A及び流量Bの診断データは、ある時点で流量センサ23A,23Bでそれぞれ計測された計測データである。図8に示された例では、流量Aのドリフト量A及び流量Bのドリフト量Bのそれぞれは、正常データの分布の中心から診断データまでの距離に基づいて算出することができる。流量センサAのドリフト量Aが+2%、流量センサBのドリフト量Bが−12%である。ドリフト量の算出は、公知であるニューラルネットなどの方法を用いて行ってもよい。
【0038】
ドリフト妥当性評価手段5が、ドリフト量の妥当性を評価する(ステップS3)。ドリフト妥当性評価手段5は、ステップS2においてドリフト量算出手段3で算出した、センサのドリフト量xが、ステップS1においてドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内に入っているかを判定する。具体的には、センサのドリフト量xがμ−3σ<x<μ+3σを満足していれば、ドリフト妥当性評価手段5が、算出された、センサのドリフト量xがドリフト分布の標準偏差内に入っていると判定し、算出したドリフト量が妥当であると評価する。
【0039】
ドリフト妥当性評価手段5がセンサのドリフト量xが妥当であると判定したとき(ステップS4)、ドリフト補正手段7がセンサのドリフト量を用いて診断データを補正する(ステップS5)。ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2から入力した診断データからこの診断データを計測したセンサのドリフト量を差し引いて診断データを補正する。このように補正された診断データを補正診断データと称する。また、ドリフト妥当性評価手段5が、センサのドリフト量がドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内に入っていなくセンサのドリフト量が妥当でないと判定したとき(ステップS4)、ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2から入力した診断データをドリフト量で補正しないで、入力した診断データをそのまま補正診断データとして出力する。
【0040】
機器診断手段8が、補正診断データを用いて機器診断を実施する(ステップS6)。機器診断手段8はドリフト補正手段7から補正診断データを入力する。機器診断手段8は、ある診断データに対して算出したセンサのドリフト量が妥当であるとドリフト妥当性評価手段5で判定されたときにはこの診断データを実質的に補正した補正診断データを用いて、算出したドリフト量が妥当でないとドリフト妥当性評価手段5で判定されたときにはその診断データのままである補正診断データを用いて、対象機器の診断を行う。
【0041】
冷却水供給系20Bにおいて流量センサ23Bで計測された流量B及び回転計24Bで計測された回転数Bの、過去の正常データの分布と、ある時点で計測された診断データが、図9に示す状態になったとする。図9に示された正常データの分布を作成する2つの状態量(流量及び回転数)は、互いに比例関係にある。機器診断手段8は、正常データベース10から格納されている流量B及び回転数Bのそれぞれの正常データを入力し、図9に示す流量B及び回転数Bの正常データの分布を求めて、さらに、この分布の中心での流量B及び回転数Bのそれぞれの値を求める。図9に示された流量B及び回転数Bの診断データは、ある時点で流量センサ23B及び回転計24Bでそれぞれ計測された計測データである。機器診断手段8は、例えば、正常データの分布の中心から診断データまでの距離(異常度)がしきい値を超えたとき、異常であると診断する。機器診断手段8で実施する機器診断において、公知であるクラスタリングなどの方法を用いもよい。
【0042】
異常原因特定手段4が、異常原因を特定する(ステップS7)。異常原因特定手段4は、ドリフト量算出手段3で求められたドリフト量(ステップS2の処理で得られたドリフト量)、ドリフト妥当性評価手段5で得られたドリフト量の妥当性の判定情報(ステップS3,S4の処理で得られた判定情報)及び機器診断手段8で得られた機器診断の情報(ステップS6の処理で得られた機器診断情報)を入力し、異常が発生している場合に、これらの入力情報に基づいて異常原因を特定する。異常原因特定手段4は、図10に示す異常原因特定テーブルを記憶しており、異常原因の特定に際してはこの異常原因特定テーブルの情報を用いる。
【0043】
ドリフト妥当性評価手段5でドリフト量が妥当であると判定されたときには、ドリフト量がドリフト分布の範囲、すなわち、ドリフト分布の標準偏差内に存在し、ドリフト量を用いて診断デ−タが補正され、さらに、機器診断手段8が補正診断データを用いて機器の診断を行うので、機器診断手段8での機器診断の結果はドリフトの影響を受けていない。したがって、ドリフト妥当性評価手段5でドリフト量が妥当であると判定されたときには、異常原因特定手段4は、機器診断手段8で診断対象の機器が正常であると診断されたときにはその機器が正常であると判定し、機器診断手段8で診断対象の機器が異常であると診断されたときにはその異常になっている機器が異常であると判定する。
【0044】
異常原因特定手段4は、ドリフト妥当性評価手段5でドリフト量が妥当であると判定されたとき、さらに、ドリフト量算出手段3で求められたドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定する。もし、センサのドリフト量がドリフト許容値よりも大きい場合には、診断データを計測したセンサが、校正が必要な状態になっているので、異常原因特定手段4はそのセンサに対してセンサドリフトであると判定する。異常原因特定手段4での「センサドリフト」の判定は、ドリフト量が妥当であるときにおいて「機器正常」及び「機器異常」のいずれの判定結果が出された場合でも行われる。センサのドリフト量がドリフト許容値以下である場合は、センサの校正が不要な状態であるので、「センサドリフト」であると判定されない。
【0045】
ドリフト妥当性評価手段5においてドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に入っていなくドリフト量が妥当でないと判定された場合での異常原因特定手段4における異常原因の特定処理について説明する。
【0046】
異常原因特定手段4は、ドリフト量がドリフト分布外に存在し(ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在し)て、機器診断手段8で診断対象の機器が異常であると診断された場合には、その異常の原因が機器診断手段8で診断対象になったその機器にあると判定する。このため、センサ診断で診断された異常は機器異常の影響を受けた誤診断である。したがって、異常原因特定手段4は診断対象の機器が異常であると判定する。
【0047】
異常原因特定手段4は、ドリフト量がドリフト分布外に存在し(ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在し)て、機器診断手段8で診断対象の機器が正常であると診断された場合には、その他の異常であると判定する。これは、診断対象の機器である程度の異常が発生し、この影響で該当するセンサの診断でセンサ異常と診断されているが、機器診断ではこの機器の異常度がしきい値を下回っているので機器診断で正常と診断されているからである。
【0048】
図10に示す異常原因特定テーブルは一例であり、センサのドリフト量及び機器診断の異常度を用いてさらに詳細に分類した異常原因特定テーブルを用いてもよい。
【0049】
異常原因特定手段4で得られた各異常原因特定情報は、表示装置11に出力され(ステップS8)、表示装置11に表示される。表示される異常原因特定情報は、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在している(ドリフト量がドリフト分布内に存在している)ときには、「機器正常」、「機器正常、センサドリフト」、「機器異常」及び「機器異常、センサドリフト」のいずれかであり、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在している(ドリフト量がドリフト分布外に存在している)ときには、「その他の異常」及び「機器異常」のいずれかである。
【0050】
以上に述べた機器診断装置1での機器診断の具体例を、図5に示す各センサの計測データ(診断データ)を用いて説明する。図5に示す計測結果では、200日において流量センサ23Bの計測値に−10%のドリフトが発生している。例えば、校正データによる200日における流量センサ23Bのドリフト分布がμ=−7%、σ=2%であるとする。ステップS2で算出されたドリフト量はドリフト分布内に存在するので、ステップS5でドリフト量を用いて流量センサ23Bの計測データ(診断データ)を補正する。この補正された診断データを用いた機器診断(ステップS6)において正常と判定される。ステップS7の異常原因特定処理で、センサドリフトが原因と判定される。もし、μが−1%、σが0.5%である場合には、ドリフト量がドリフト分布外に存在するので、診断データがドリフト量を用いて補正されない。補正されない診断データを用いた機器診断(ステップS6)では異常と判定されるので、機器異常が原因と判定する(ステップS7)。
【0051】
本実施例は、センサの、機器の診断に用いる計測データのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差内に存在しているとき、ドリフト量を用いて補正された計測データを用いて機器診断を行うので、機器異常の判定精度が向上する。従来、センサドリフトの影響で診断できなかった機器の異常も精度良く判定することができる。また、センサの、機器の診断に用いる計測データのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差外に存在しているとき、ドリフト量を用いて補正されない計測データを用いて機器診断を行うので、ドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差外に存在しているときも、機器診断の精度が向上する。
【0052】
本実施例は、センサの、機器の診断に用いるセンサのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差内に存在しているときに、異常原因特定手段4において、そのドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定しているので、機器の異常、正常の判定とは別にセンサドリフトが生じていることも判別することができる。
【0053】
原子力プラントは、例えば、図11に示す系統を含んでいる。この系統は、冷却水が流れる配管21に、この冷却水を昇圧するポンプ22を設けている。回転計24がポンプ22に設置され、流量センサ23Cがポンプ22の上流で配管21に設けられ、さらに、流量センサ23Dがポンプ22の下流で配管21に設けられている。流量センサ23C及び流量センサ23Dは、正常時では、それぞれのセンサの流量の計測データが同じになる。
【0054】
本実施例の機器診断装置1は、図11に示す系統であっても、機器であるポンプ22の異常診断を、図4に示す系統と同様に、図6に示す処理手順により上記したように行うことができる。流量センサ23Cで計測した流量C及び流量センサ23Dで計測した流量Dのそれぞれのドリフト量は、図8に示すように、流量C及び流量Dのそれぞれの正常データ、及び流量センサ23C,23Dでそれぞれ計測した計測データ(診断データ)を用いて、求めることができる。
【0055】
機器診断手段8で実行される、機器であるポンプ22の診断は、図9に示すように、回転計24での計測データ、及び流量センサ23Dの計測データの各正常データの分布、及び回転計24での計測データ及び流量センサ23Dの計測データを用いて行われる。図11に示す系統に設けられた機器の診断によっても、上記した各効果を得ることができる。
【実施例2】
【0056】
本発明の他の実施例である機器診断装置を、図12を用いて説明する。本実施例の機器診断装置1Aは、実施例1の機器診断装置1をコンピュータを用いてソフト的に実現したものである。
【0057】
本実施例の機器診断装置1Aは、情報処理装置であるコンピュータで構成され、中央処理装置(CPU)26、メモリ27、入出力インターフェース28及び入力装置29を有する。中央処理装置(CPU)26、メモリ27、入出力インターフェース28及び入力装置29は、機器診断装置1Aの内部ランで互いに接続されている。原子力プラントに設けられた流量センサ23A,23B及び回転計24A,24B等のセンサ、及び表示装置30が入出力インターフェース28に接続される。
【0058】
原子力プラントの運転中において、各センサにて計測された計測データが、入出力インターフェース28から機器診断装置1Aに入力され、メモリ27に格納される。図6に示すステップS1〜S8の処理手順を含むプログラムが、メモリ27に記憶される。メモリ27は、センサ校正データベース9及び正常データベース10を含んでいる。CPU26は、メモリ27から読み込んだステップS1〜S8の処理手順を含むプログラムに基づいて、実施例1と同様に、機器診断を実行する。すなわち、CPU26は、ステップS1〜S8の処理を順次実行し、実施例1で行われる機器診断を実行する。
【0059】
本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0060】
実施例1及び2は、原子力プラントだけでなく、火力プラント及び化学プラントと等の他のプラントに設けられた機器の診断に適用することができる。
【0061】
センサのドリフト量を求めるセンサ(例えば、図4に示す流量センサ23Aと流量センサ23B、及び図11に示す流量センサ23Cと流量センサ23D)間の関係は、お互いが計測する状態量が相関を持って変化する関係にある。具体的には、一方のセンサで計測した状態量が、他方のセンサで計測した状態量と同じ値を示したり、または前者の状態量が後者の状態量と比例関係にあるなど、両方のセンサの関係は、一方のセンサで計測される状態量を他方のセンサで計測された状態量で推定できる関係にある。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、原子力プラント等のプラントに設けられた機器の診断に用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1,1A…機器診断装置、2…ドリフト分布計算手段、3…ドリフト量算出手段、4…異常原因特定手段、5…ドリフト妥当性評価手段、6…ドリフト分布計算手段、7…ドリフト補正手段、8…機器診断手段、9…センサ校正データベース、10…正常データベース、26…中央処理装置(CPU)、27…メモリ、28…入出力インターフェース。
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器診断方法及び機器診断装置に係り、原子力プラントに適用するのに好適な機器診断方法及び機器診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおけるセンサ、回転機及び弁などの機器は、原子力プラントの定期検査ごとに保守作業が行われている。機器の保守作業は主に定期検査において行われ、校正、分解点検及び取替えなどの機器の保守作業の作業量は膨大なものとなっている。
【0003】
原子力プラントを安全かつ効率的に稼動させることを目的として、これまでの一定期間ごとに保守作業を行う時間保全に代わり、機器の状態を監視して必要な時期に保守作業行う状態監視保全の導入が検討されている。
【0004】
機器の状態監視は、機器に取り付けられた温度計及び振動計などのセンサによって行われる。このため、センサ(検出器)にドリフトが発生して、計測値が正しい値からずれていれば、機器の状態を正確に診断することができない。センサによって計測した機器のプロセス値に何らかの異常が認められた場合に、機器を保守すべきか、センサを保守すべきかを判断するためには、機器の異常とセンサドリフトとを区別する必要がある。また、何らかの異常を検知した場合、センサのドリフトが原因であっても、それを区別できなければ、原子力プラントの停止に至る可能性もある。したがって、機器の異常とセンサドリフトの区別は重要な課題となっている。
【0005】
機器の診断方法の一例が特開平6−167363号公報に記載されている。この機器の診断方法では、プロダクションルール及びメンバーシップ関数が用いられる。機器の状態量の大きさと機器に発生する複数の異常現象の発生度合いの関係をプロダクションルールとメンバーシップ関数で表現し、測定した複数の状態量をプロダクションルール及びメンバーシップ関数を参照してファジィ演算し、複数の異常現象についての各発生度合いを定量化して適合度を求める。このようにして、機器に発生した異常の種類を特定している。
【0006】
特開2003−207373号公報がセンサの校正支援方法の一例を記載している。この校正支援方法は、被検出対象に設けられた互いに相関のある複数のセンサから出力された検出信号を利用している。被検出対象に応じて用意された、真値を推定するための推定モデルを用い、検出信号の実測値に基づいて真値を推定し、その実測値及び推定した真値に基づいて、センサのフルスパンに渡ってドリフト量を推定する。推定されたドリフト量に基づいてセンサの校正量を求める。
【0007】
特開2005−43121号公報は計器校正支援システムを記載している。このシステムは、センサの校正データを用いてセンサの校正周期を予測し、この予測結果、及びオンラインによるドリフト検出の結果に基づいてセンサの校正周期を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−167363号公報
【特許文献2】特開2003−207373号公報
【特許文献3】特開2005−43121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
機器の異常の有無を診断する際には、前述したように、機器の異常とセンサドリフトとを区別する必要がある。特開平6−167363号公報に記載された機器の診断方法及び特開2003−207373号公報がセンサの校正支援方法を組み合わせても、機器の異常とセンサドリフトとを区別することはできない。センサドリフトによる計測値のずれが発生すれば、機器診断において誤診断が生じる可能性がある。逆に、機器異常によるプロセス値の変化をセンサドリフトと誤診断する可能性がある。その結果、機器診断とセンサ診断のいずれにおいても異常と診断する可能性があるが、どちらが誤診断であるかを区別するのは困難となる。
【0010】
特開平6−167363号公報に記載された機器の診断方法では、異常の種類を区別できるので、機器異常及びセンサドリフトのそれぞれの異常が発生したときのデータを予め計測しておくことによって、両者の異常を区別できる。しかしながら、原子力プラントにおいて、異常発生時のデータを予め計測しておくことは困難な場合が多い。
【0011】
本発明の目的は、機器異常の判定精度を向上させることができる機器診断方法及び機器診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、プラントに設けられたセンサで計測された計測データのドリフト量を算出し、そのセンサの複数の校正データに基づいてセンサのドリフト分布を求め、算出されたドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定し、算出されたドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、ドリフト量の算出に用いた計測データを出力したセンサの計測データを、ドリフト量を用いて補正し、補正された計測データに基づいてプラントに設けられた機器の診断を行うことにある。
【0013】
センサの、機器の診断に用いる計測データのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差内に存在しているとき、ドリフト量を用いて補正された計測データを用いて機器診断を行うので、機器異常の判定精度が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラントに設けられた機器の異常判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の機器診断装置の構成図である。
【図2】図1に示すセンサ構成データベースに格納されている校正データの一例を示す説明図である。
【図3】図1に示す正常データベースに格納された正常データの一例を示す説明図である。
【図4】図1に示す機器診断装置での診断対象となる系統の一例を示す構成図である。
【図5】図4に示す系統における計測データの一例を示す説明図である。
【図6】図1に示す機器診断装置で実行される機器診断の手順を示すフローチャートである。
【図7】図1に示すセンサ構成データベースに格納されている校正データの他の例を示す説明図である。
【図8】各計測データにおけるドリフト量の算出概念を示す説明図である。
【図9】機器診断の説明図である。
【図10】異常原因特定テーブルの一例を示す説明図である。
【図11】図1に示す機器診断装置での診断対象となる他の系統の一例を示す構成図である。
【図12】本発明の他の実施例である実施例2の機器診断装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者等は、センサから出力された検出信号に基づいて行われる機器診断において、機器の異常とセンサドリフトを区別し、機器診断の精度を向上できる方法を検討した。原子力プラントにおいて異常発生時のデータを予め計測しておくことは困難であるが、そこで、発明者等は、原子力プラントの定期検査時に得られたセンサの校正データを利用することに着目した。そして、発明者等は、ドリフト分布を考慮することによって、機器異常の判定精度を向上できることを新たに見出した。
【0017】
センサをその機種及び設置場所などで分類した場合、センサのドリフト量は正規分布に従う特性がある。この特性により、ある時刻におけるセンサのドリフトの平均値及び分散を推定できる。このドリフト分布を用いれば、原子力プラント等のプラントの運転中に発生するセンサのドリフト量を精度良く評価することができる。計測データからセンサのドリフト量を補正し、ドリフト量が補正された計測データを用いることによって機器診断を精度良く行うことができる。
【0018】
上記した知見を考慮した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の好適な一実施例である機器診断装置を、図1を用いて説明する。本実施例の機器診断装置1は、診断データ入力手段2、ドリフト量算出手段3、異常原因特定手段4、ドリフト妥当性評価手段(第1ドリフト判定手段)5、ドリフト分布計算手段6、ドリフト補正手段7及び機器診断手段8を備える。機器診断装置1は、センサ校正データベース9及び正常データベース10を含む記憶装置(図示せず)を有する。ドリフト量算出手段3は、診断データ入力手段2、異常原因特定手段4、ドリフト妥当性評価手段5、ドリフト補正手段7及び記憶装置に接続される。ドリフト分布計算手段6は、ドリフト妥当性評価手段5及び記憶装置に接続される。ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2、ドリフト妥当性評価手段5及び機器診断手段8に接続される。機器診断手段8は、異常原因特定手段4及び記憶装置に接続される。異常原因特定手段4は表示装置11に接続される。
【0020】
センサ校正データベース9には、流量計、温度計、圧力計及び水位計などのそれぞれのセンサに対して、原子力プラントの定期検査時に行った校正作業の記録である校正データが格納されている。図2にセンサ校正データベース9に格納されている校正データの一例を示す。センサの校正作業では、図2に示す基準値となる信号をセンサに加えたときにこのセンサから出力される出力値(図2の校正前出力値)を記録する。この出力値と基準値の差がドリフト(図2の校正前ドリフト)であり、このドリフトがセンサごとに決められた値以下になるようにセンサの校正作業が行われる。0%、25%、50%、75%、100%、75%、50%、25%、0%の各基準値をセンサに順に加えたときに得られたそのセンサに対する校正前出力値、校正前ドリフト、校正後出力値及び校正後ドリフトが、記憶装置に格納され、センサ校正データベース9が更新される。この校正データは、原子力プラントに設けられた各センサに対して、定期検査ごとにセンサ校正データベース9に蓄積される。定期検査が行われていない新設の原子力プラントでセンサの校正データがない場合には、既設の原子力プラントに設けられた同じセンサの校正データを使用する。
【0021】
正常データベース10には、センサ及び機器が正常であるときにそのセンサによって計測された機器のプロセス値(正常データ)が格納されている。この正常データは、例えば、起動試験時、及びプラント起動から数ヶ月の期間で計測された正常なデータである。図3に正常データベース10に格納されている正常データであるプロセス値の一例を示す。図3に示されたプロセス値1及び2は、例えば、流量、温度、圧力、水位、回転数、振動の変位、及び弁の開度などのうちの2つのプロセス値の時間変化を示している。
【0022】
ドリフト分布計算手段6は、センサ校正データベース9に格納された校正データを入力し、任意の時刻におけるセンサのドリフト分布を算出する。任意の時刻におけるセンサのドリフト分布は、具体的には、後述するように(1)式、(2)式及び(3)式に基づいて求められる。診断データ入力手段2は、各センサで計測されたプロセス値(計測データ)を診断対象物の診断データとして入力する。ドリフト量算出手段3は、診断データ入力手段2から入力した診断データ、及び正常データベース10から入力した正常データに基づいて、ドリフト量を算出する。ドリフト妥当性評価手段5は、ドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量がドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内にあるか否かを判定する。
【0023】
ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2から診断データを入力し、ドリフト妥当性評価手段5においてドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量がドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、その診断データからドリフト量を差し引いて補正診断データを作成する。また、ドリフト補正手段7は、ドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在しないと判定されたとき、そのドリフト量に基づいた診断データの補正を行わずに、入力した診断データをそのまま補正診断データとして出力する。
【0024】
機器診断手段8は、ドリフト補正手段7から入力した補正データ、及び正常データベース4から入力した正常データを用い、診断対象である機器の診断を実施する。異常原因特定手段4は、ドリフト量算出手段3で算出されたドリフト量、ドリフト妥当性評価手段5で得られた判定結果の情報、及び機器診断手段8で得られた機器診断結果の情報に基づいて、診断対象物である機器に異常が生じているとき、その異常の原因を特定する。表示装置11には、異常原因特定手段4によって特定された異常の原因が表示される。また、表示装置11には、ドリフト量算出手段3で求められたドリフト量、ドリフト妥当性評価手段5で得られた判定結果の情報、及び機器診断手段8で得られた機器診断結果の情報を表示してもよい。
【0025】
本実施例の診断対象であるプラントシステムの一例を、図4を用いて説明する。このプラントシステムは、A系統の冷却水供給系20A及びB系統の冷却水供給系20Bを有する。このプラントシステムは原子力プラントの一部の構成である。冷却水供給系20Aは、冷却水が流れる配管21Aにポンプ22Aを設けている。流量センサ23Aがポンプ22Aの下流で配管21Aに設けられ、回転計24Aがポンプ22Aに設けられる。冷却水供給系20Bは、冷却水が流れる配管21Bにポンプ22Bを設けている。流量センサ23Bがポンプ22Bの下流で配管21Bに設けられ、回転計24Bがポンプ22Bに設けられる。配管21Aと配管21Bは、ポンプ22A,22Bより上流で1つの配管から分岐されている。ポンプ22A,22Bの回転速度を制御する制御装置25が設けられる。
【0026】
制御装置25は、流量センサ23A,23Bで計測された、ポンプ22A,22Bから吐出されたそれぞれの冷却水の流量、及び回転計24A,24Bで計測された各ポンプの回転数を入力する。ポンプ22A,22B、流量センサ23A,23B及び回転計24A,24Bが正常な時には、流量センサ23A,23Bでそれぞれ計測された各流量は同じ値であり、回転計24A,24Bで計測された各回転数も同じ値である。制御装置25は、流量センサ23Aで計測された流量、及び回転計24Aで計測された回転数に基づいて、ポンプ22Aの回転数を制御し、流量センサ23Bで計測された流量、及び回転計24Bで計測された回転数に基づいて、ポンプ22Bの回転数を制御する。ポンプ22A,22Bの制御は、制御装置25によって連動して制御される。
【0027】
機器診断装置1は、冷却水供給系20Aの機器であるポンプ22Aの状態を、流量センサ23Aで計測された流量、及び回転計24Aで計測された回転数に基づいて診断し、冷却水供給系20Bの機器であるポンプ22Bの状態を、流量センサ23Bで計測された流量、及び回転計24Bで計測された回転数に基づいて診断する。センサ、例えば、流量センサ23A,23B等のセンサ診断では、流量センサ23Aで計測された流量及び流量センサ23Bで計測された流量の比較によりセンサのドリフトを診断する。
【0028】
流量センサ23Aで計測された流量(流量Aという)、流量センサ23Bで計測された流量(流量Bという)、回転計24Aで計測された回転数(回転数Aという)及び回転計24Bで計測された回転数(回転数Bという)のそれぞれの計測例を、図5に示す。これらの計測例では、プラントシステムの運転開始から100日を経過した時点で、何らかの異常により流量Bが徐々に低下している。従来の機器診断では、冷却水供給系20Bでポンプ22Bの回転数が一定であるのに対して流量Bが低下しているので、ポンプ22Bが異常であると診断する。一方、センサ診断では、流量Aに比べて流量Bの値が低下しているので、流量センサ23Bにドリフトが発生していると診断する。したがって、ポンプ22B及び流量センサ23Bの両者が異常であると診断されるので、どちらが誤診断であるかを区別しなければ、機器異常とセンサドリフトとを区別することができない。
【0029】
機器診断装置1を用いた本実施例における機器診断の手順を、図6に基づいて説明する。この機器診断は、一例として、図5に示すプラントシステムを対象に行った。
【0030】
ドリフト分布計算手段6が、センサ構成データベース9に格納されている校正データを用いてセンサのドリフト分布を算出する(ステップS1)。センサのドリフトは、同じ機種のセンサ及びセンサの設置場所によりグループ化して評価した場合に、正規分布に従う特性を有する。図5に示す各センサの校正データがセンサ校正データベース9に格納されている。図4に示されたプラントシステムに設けられた流量センサと同様のセンサにおける校正データの一例を図7に示す。図7に示された各センサの校正データは、図2に示す基準値100%におけるドリフト量を示している。これらのドリフト量は、原子力プラントの定期検査でのセンサの校正作業において求められ、この例では前回の校正作業の日から400日後に校正作業を行っている。なお、定期検査によりセンサの校正までの日数が異なる場合には、各センサのドリフト量は時間に比例すると仮定して、例えば400日分に換算する。基準値100%の校正データを用いてステップS1におけるドリフト分布の算出を例に挙げて以下に説明するが、他の基準値についても同様に算出できる。
【0031】
センサのドリフトが正規分布に従う場合、時刻tにおけるドリフト量の分布f(x)は(1)式を用いて計算することができる。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、xはドリフト量、μはドリフト分布の平均値、σはドリフト分布の標準偏差である。
【0034】
図7に示す校正データのセンサ1、センサ2、センサ3を同じ種類のセンサのグループとして、これら全てのデータを用いて計算した場合、校正前基準値100%のドリフト分布は、μ=−0.76%、σ=0.31%の正規分布である。また、簡単のため、校正後のドリフト量はすべて0.0%と近似する。このとき、正規分布の再現性により、ドリフト分布の平均値μが(2)式によって求められ、ドリフト分布の標準偏差σは(3)式によって求められる。
【0035】
μ=μ0×t/t0 ……(2)
σ=σ0×(t/t0)0.5 ……(3)
ここで、μ0は時刻t0におけるドリフト分布の平均値であり、σ0は時刻t0におけるドリフト分布の標準偏差である。したがって、(1)式で表されるドリフト分布は時刻tによって変化する分布であり、ある時刻tにおけるドリフト分布を計算することができる。具体的には、ある時刻におけるドリフト分布の平均値と標準偏差を求める。例えば、t=200日におけるドリフト分布は、μ=−0.38%、σ=0.22%と推定できる。
【0036】
原子力プラントの運転時において、流量センサ23A,23B及び回転計24A,24B等の原子力プラントに設けられた各センサでの計測信号が、診断データ入力手段2に入力され、A/D変換によりディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換されたこれらの計測信号(計測データであり、診断データである)は、診断データ入力手段2からドリフト量算出手段3に入力される。ドリフト量算出手段3が、診断データからセンサのドリフト量を算出する(ステップS2)。ドリフト量算出手段3は、診断データ入力手段2から入力した診断データ、及び正常データベース10から入力した、この診断データに対する正常データに基づいて、このセンサのドリフト量を算出する。ドリフト量は、入力した各センサに対する全診断データに対して算出される。
【0037】
ポンプ22A及び22Bのあるポンプ回転数における流量A及び流量Bの正常データの分布と流量A及び流量Bの診断データの関係は、図8に示すようになる。図8の横軸は流量Aを示しており、縦軸は流量Bを示している。図8に示された正常データの分布を作成する流量Aと流量Bは、同じ値を示す関係にある。ドリフト量算出手段3は、正常データベース10から流量A及び流量Bのそれぞれの正常データを入力し、図8に示す正常データの分布を求めて、さらに、この分布の中心での流量A及び流量Bのそれぞれの値を求める。図8に示された流量A及び流量Bの診断データは、ある時点で流量センサ23A,23Bでそれぞれ計測された計測データである。図8に示された例では、流量Aのドリフト量A及び流量Bのドリフト量Bのそれぞれは、正常データの分布の中心から診断データまでの距離に基づいて算出することができる。流量センサAのドリフト量Aが+2%、流量センサBのドリフト量Bが−12%である。ドリフト量の算出は、公知であるニューラルネットなどの方法を用いて行ってもよい。
【0038】
ドリフト妥当性評価手段5が、ドリフト量の妥当性を評価する(ステップS3)。ドリフト妥当性評価手段5は、ステップS2においてドリフト量算出手段3で算出した、センサのドリフト量xが、ステップS1においてドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内に入っているかを判定する。具体的には、センサのドリフト量xがμ−3σ<x<μ+3σを満足していれば、ドリフト妥当性評価手段5が、算出された、センサのドリフト量xがドリフト分布の標準偏差内に入っていると判定し、算出したドリフト量が妥当であると評価する。
【0039】
ドリフト妥当性評価手段5がセンサのドリフト量xが妥当であると判定したとき(ステップS4)、ドリフト補正手段7がセンサのドリフト量を用いて診断データを補正する(ステップS5)。ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2から入力した診断データからこの診断データを計測したセンサのドリフト量を差し引いて診断データを補正する。このように補正された診断データを補正診断データと称する。また、ドリフト妥当性評価手段5が、センサのドリフト量がドリフト分布計算手段6で求めたドリフト分布の標準偏差内に入っていなくセンサのドリフト量が妥当でないと判定したとき(ステップS4)、ドリフト補正手段7は、診断データ入力手段2から入力した診断データをドリフト量で補正しないで、入力した診断データをそのまま補正診断データとして出力する。
【0040】
機器診断手段8が、補正診断データを用いて機器診断を実施する(ステップS6)。機器診断手段8はドリフト補正手段7から補正診断データを入力する。機器診断手段8は、ある診断データに対して算出したセンサのドリフト量が妥当であるとドリフト妥当性評価手段5で判定されたときにはこの診断データを実質的に補正した補正診断データを用いて、算出したドリフト量が妥当でないとドリフト妥当性評価手段5で判定されたときにはその診断データのままである補正診断データを用いて、対象機器の診断を行う。
【0041】
冷却水供給系20Bにおいて流量センサ23Bで計測された流量B及び回転計24Bで計測された回転数Bの、過去の正常データの分布と、ある時点で計測された診断データが、図9に示す状態になったとする。図9に示された正常データの分布を作成する2つの状態量(流量及び回転数)は、互いに比例関係にある。機器診断手段8は、正常データベース10から格納されている流量B及び回転数Bのそれぞれの正常データを入力し、図9に示す流量B及び回転数Bの正常データの分布を求めて、さらに、この分布の中心での流量B及び回転数Bのそれぞれの値を求める。図9に示された流量B及び回転数Bの診断データは、ある時点で流量センサ23B及び回転計24Bでそれぞれ計測された計測データである。機器診断手段8は、例えば、正常データの分布の中心から診断データまでの距離(異常度)がしきい値を超えたとき、異常であると診断する。機器診断手段8で実施する機器診断において、公知であるクラスタリングなどの方法を用いもよい。
【0042】
異常原因特定手段4が、異常原因を特定する(ステップS7)。異常原因特定手段4は、ドリフト量算出手段3で求められたドリフト量(ステップS2の処理で得られたドリフト量)、ドリフト妥当性評価手段5で得られたドリフト量の妥当性の判定情報(ステップS3,S4の処理で得られた判定情報)及び機器診断手段8で得られた機器診断の情報(ステップS6の処理で得られた機器診断情報)を入力し、異常が発生している場合に、これらの入力情報に基づいて異常原因を特定する。異常原因特定手段4は、図10に示す異常原因特定テーブルを記憶しており、異常原因の特定に際してはこの異常原因特定テーブルの情報を用いる。
【0043】
ドリフト妥当性評価手段5でドリフト量が妥当であると判定されたときには、ドリフト量がドリフト分布の範囲、すなわち、ドリフト分布の標準偏差内に存在し、ドリフト量を用いて診断デ−タが補正され、さらに、機器診断手段8が補正診断データを用いて機器の診断を行うので、機器診断手段8での機器診断の結果はドリフトの影響を受けていない。したがって、ドリフト妥当性評価手段5でドリフト量が妥当であると判定されたときには、異常原因特定手段4は、機器診断手段8で診断対象の機器が正常であると診断されたときにはその機器が正常であると判定し、機器診断手段8で診断対象の機器が異常であると診断されたときにはその異常になっている機器が異常であると判定する。
【0044】
異常原因特定手段4は、ドリフト妥当性評価手段5でドリフト量が妥当であると判定されたとき、さらに、ドリフト量算出手段3で求められたドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定する。もし、センサのドリフト量がドリフト許容値よりも大きい場合には、診断データを計測したセンサが、校正が必要な状態になっているので、異常原因特定手段4はそのセンサに対してセンサドリフトであると判定する。異常原因特定手段4での「センサドリフト」の判定は、ドリフト量が妥当であるときにおいて「機器正常」及び「機器異常」のいずれの判定結果が出された場合でも行われる。センサのドリフト量がドリフト許容値以下である場合は、センサの校正が不要な状態であるので、「センサドリフト」であると判定されない。
【0045】
ドリフト妥当性評価手段5においてドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に入っていなくドリフト量が妥当でないと判定された場合での異常原因特定手段4における異常原因の特定処理について説明する。
【0046】
異常原因特定手段4は、ドリフト量がドリフト分布外に存在し(ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在し)て、機器診断手段8で診断対象の機器が異常であると診断された場合には、その異常の原因が機器診断手段8で診断対象になったその機器にあると判定する。このため、センサ診断で診断された異常は機器異常の影響を受けた誤診断である。したがって、異常原因特定手段4は診断対象の機器が異常であると判定する。
【0047】
異常原因特定手段4は、ドリフト量がドリフト分布外に存在し(ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在し)て、機器診断手段8で診断対象の機器が正常であると診断された場合には、その他の異常であると判定する。これは、診断対象の機器である程度の異常が発生し、この影響で該当するセンサの診断でセンサ異常と診断されているが、機器診断ではこの機器の異常度がしきい値を下回っているので機器診断で正常と診断されているからである。
【0048】
図10に示す異常原因特定テーブルは一例であり、センサのドリフト量及び機器診断の異常度を用いてさらに詳細に分類した異常原因特定テーブルを用いてもよい。
【0049】
異常原因特定手段4で得られた各異常原因特定情報は、表示装置11に出力され(ステップS8)、表示装置11に表示される。表示される異常原因特定情報は、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差内に存在している(ドリフト量がドリフト分布内に存在している)ときには、「機器正常」、「機器正常、センサドリフト」、「機器異常」及び「機器異常、センサドリフト」のいずれかであり、ドリフト量がドリフト分布の標準偏差外に存在している(ドリフト量がドリフト分布外に存在している)ときには、「その他の異常」及び「機器異常」のいずれかである。
【0050】
以上に述べた機器診断装置1での機器診断の具体例を、図5に示す各センサの計測データ(診断データ)を用いて説明する。図5に示す計測結果では、200日において流量センサ23Bの計測値に−10%のドリフトが発生している。例えば、校正データによる200日における流量センサ23Bのドリフト分布がμ=−7%、σ=2%であるとする。ステップS2で算出されたドリフト量はドリフト分布内に存在するので、ステップS5でドリフト量を用いて流量センサ23Bの計測データ(診断データ)を補正する。この補正された診断データを用いた機器診断(ステップS6)において正常と判定される。ステップS7の異常原因特定処理で、センサドリフトが原因と判定される。もし、μが−1%、σが0.5%である場合には、ドリフト量がドリフト分布外に存在するので、診断データがドリフト量を用いて補正されない。補正されない診断データを用いた機器診断(ステップS6)では異常と判定されるので、機器異常が原因と判定する(ステップS7)。
【0051】
本実施例は、センサの、機器の診断に用いる計測データのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差内に存在しているとき、ドリフト量を用いて補正された計測データを用いて機器診断を行うので、機器異常の判定精度が向上する。従来、センサドリフトの影響で診断できなかった機器の異常も精度良く判定することができる。また、センサの、機器の診断に用いる計測データのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差外に存在しているとき、ドリフト量を用いて補正されない計測データを用いて機器診断を行うので、ドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差外に存在しているときも、機器診断の精度が向上する。
【0052】
本実施例は、センサの、機器の診断に用いるセンサのドリフト量が、センサのドリフト分布の標準偏差内に存在しているときに、異常原因特定手段4において、そのドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定しているので、機器の異常、正常の判定とは別にセンサドリフトが生じていることも判別することができる。
【0053】
原子力プラントは、例えば、図11に示す系統を含んでいる。この系統は、冷却水が流れる配管21に、この冷却水を昇圧するポンプ22を設けている。回転計24がポンプ22に設置され、流量センサ23Cがポンプ22の上流で配管21に設けられ、さらに、流量センサ23Dがポンプ22の下流で配管21に設けられている。流量センサ23C及び流量センサ23Dは、正常時では、それぞれのセンサの流量の計測データが同じになる。
【0054】
本実施例の機器診断装置1は、図11に示す系統であっても、機器であるポンプ22の異常診断を、図4に示す系統と同様に、図6に示す処理手順により上記したように行うことができる。流量センサ23Cで計測した流量C及び流量センサ23Dで計測した流量Dのそれぞれのドリフト量は、図8に示すように、流量C及び流量Dのそれぞれの正常データ、及び流量センサ23C,23Dでそれぞれ計測した計測データ(診断データ)を用いて、求めることができる。
【0055】
機器診断手段8で実行される、機器であるポンプ22の診断は、図9に示すように、回転計24での計測データ、及び流量センサ23Dの計測データの各正常データの分布、及び回転計24での計測データ及び流量センサ23Dの計測データを用いて行われる。図11に示す系統に設けられた機器の診断によっても、上記した各効果を得ることができる。
【実施例2】
【0056】
本発明の他の実施例である機器診断装置を、図12を用いて説明する。本実施例の機器診断装置1Aは、実施例1の機器診断装置1をコンピュータを用いてソフト的に実現したものである。
【0057】
本実施例の機器診断装置1Aは、情報処理装置であるコンピュータで構成され、中央処理装置(CPU)26、メモリ27、入出力インターフェース28及び入力装置29を有する。中央処理装置(CPU)26、メモリ27、入出力インターフェース28及び入力装置29は、機器診断装置1Aの内部ランで互いに接続されている。原子力プラントに設けられた流量センサ23A,23B及び回転計24A,24B等のセンサ、及び表示装置30が入出力インターフェース28に接続される。
【0058】
原子力プラントの運転中において、各センサにて計測された計測データが、入出力インターフェース28から機器診断装置1Aに入力され、メモリ27に格納される。図6に示すステップS1〜S8の処理手順を含むプログラムが、メモリ27に記憶される。メモリ27は、センサ校正データベース9及び正常データベース10を含んでいる。CPU26は、メモリ27から読み込んだステップS1〜S8の処理手順を含むプログラムに基づいて、実施例1と同様に、機器診断を実行する。すなわち、CPU26は、ステップS1〜S8の処理を順次実行し、実施例1で行われる機器診断を実行する。
【0059】
本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0060】
実施例1及び2は、原子力プラントだけでなく、火力プラント及び化学プラントと等の他のプラントに設けられた機器の診断に適用することができる。
【0061】
センサのドリフト量を求めるセンサ(例えば、図4に示す流量センサ23Aと流量センサ23B、及び図11に示す流量センサ23Cと流量センサ23D)間の関係は、お互いが計測する状態量が相関を持って変化する関係にある。具体的には、一方のセンサで計測した状態量が、他方のセンサで計測した状態量と同じ値を示したり、または前者の状態量が後者の状態量と比例関係にあるなど、両方のセンサの関係は、一方のセンサで計測される状態量を他方のセンサで計測された状態量で推定できる関係にある。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、原子力プラント等のプラントに設けられた機器の診断に用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1,1A…機器診断装置、2…ドリフト分布計算手段、3…ドリフト量算出手段、4…異常原因特定手段、5…ドリフト妥当性評価手段、6…ドリフト分布計算手段、7…ドリフト補正手段、8…機器診断手段、9…センサ校正データベース、10…正常データベース、26…中央処理装置(CPU)、27…メモリ、28…入出力インターフェース。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに設けられた機器を前記プラントに設けられた複数のセンサで計測した計測データを用いて診断する機器診断方法において、
前記センサで計測された計測データのドリフト量を算出し、前記センサの複数の校正データに基づいて前記センサのドリフト分布を求め、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定し、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを出力した前記センサの前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正し、補正された計測データに基づいて前記機器の診断を行うことを特徴とする機器診断方法。
【請求項2】
前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差外に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正せず、この補正しない計測データを用いて前記機器の診断を行う請求項1に記載の機器診断方法。
【請求項3】
前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定する請求項1または2に記載の機器診断方法。
【請求項4】
プラントに設けられたセンサで計測された計測データのドリフト量を算出するドリフト量算出手段と、前記センサの複数の校正データに基づいて前記センサのドリフト分布を求めるドリフト分布計算手段と、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定する第1ドリフト判定手段と、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを出力した前記センサの前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正するドリフト補正手段と、補正された計測データに基づいて前記プラントに設けられた機器の診断を行う機器診断手段とを備えたことを特徴とする機器診断装置。
【請求項5】
前記ドリフト補正手段が、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差外に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを出力した前記センサの前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正せずに、補正計測データとして出力するドリフト補正手段であり、
前記機器診断手段が、この補正計測データを入力したとき、この補正計測データに基づいて前記機器の診断を行う機器診断手段である請求項4に記載の機器診断装置。
【請求項6】
前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定する第2度リフト判定手段を備えた請求項4または5に記載の機器診断装置。
【請求項1】
プラントに設けられた機器を前記プラントに設けられた複数のセンサで計測した計測データを用いて診断する機器診断方法において、
前記センサで計測された計測データのドリフト量を算出し、前記センサの複数の校正データに基づいて前記センサのドリフト分布を求め、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定し、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを出力した前記センサの前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正し、補正された計測データに基づいて前記機器の診断を行うことを特徴とする機器診断方法。
【請求項2】
前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差外に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正せず、この補正しない計測データを用いて前記機器の診断を行う請求項1に記載の機器診断方法。
【請求項3】
前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定する請求項1または2に記載の機器診断方法。
【請求項4】
プラントに設けられたセンサで計測された計測データのドリフト量を算出するドリフト量算出手段と、前記センサの複数の校正データに基づいて前記センサのドリフト分布を求めるドリフト分布計算手段と、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在するかを判定する第1ドリフト判定手段と、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを出力した前記センサの前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正するドリフト補正手段と、補正された計測データに基づいて前記プラントに設けられた機器の診断を行う機器診断手段とを備えたことを特徴とする機器診断装置。
【請求項5】
前記ドリフト補正手段が、前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差外に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量の算出に用いた前記計測データを出力した前記センサの前記計測データを、前記ドリフト量を用いて補正せずに、補正計測データとして出力するドリフト補正手段であり、
前記機器診断手段が、この補正計測データを入力したとき、この補正計測データに基づいて前記機器の診断を行う機器診断手段である請求項4に記載の機器診断装置。
【請求項6】
前記算出されたドリフト量が前記ドリフト分布の標準偏差内に存在すると判定されたとき、前記ドリフト量がドリフト許容値以下であるかを判定する第2度リフト判定手段を備えた請求項4または5に記載の機器診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−75373(P2011−75373A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226216(P2009−226216)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
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