説明

機能性微粒子が固着した繊維素材の製造法とその製品

【課 題】繊維表面に多くの微粒子の突起が突出しているので、抗菌剤、美白剤、保湿剤、抗酸化剤等の微粒子の本来機能を十分に発揮でき、しかも風合いよい、柔軟な加工に仕上げる
【解決手段】湿熱接着性繊維を平行に配列されたスライバーを含有する繊維素材を原料として機能性微粒子を仮固定して熱水処理を行い、該熱水処理による該繊維素材のクリンプ収縮によって空隙を生じるとともに該繊維素材の表面に微粒子の少なくとも一部が湿熱接着することによって繊維表面に微粒子よる多くの突起が突出した柔軟性繊維素材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱水により繊維間に空隙を発生させて柔軟性を有する繊維表面に、抗菌剤のような機能性微粒子を接着剤の使用なしに湿熱接着して柔軟性の繊維素材を製造する方法に関する。
さらに詳しくは、本発明は、湿熱接着繊維を平行に配列されたスライバーを用いて、熱水により発生したクリンプ収縮により空隙を生じるとともに該繊維素材の表面に微粒子の少なくとも一部が湿熱接着することによって繊維表面に微粒子よる多くの突起が突出し、各微粒子の本来機能を発揮するようにした柔軟性繊維素材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性効果を有する微粒子を繊維に固着することによって、該微粒子の有する固有の機能を活用した繊維製品は公知であるが、微粒子を繊維に固着する従来技術としては、繊維の中に混合して紡糸する手段と、繊維表面に固着する手段とが知られている。
前者の混合紡糸には、例えば特開平03−205436号公報、特開昭62−195037号公報があり、合成繊維のポリマーに5μm以下の銀系抗菌剤の微粒子を混合して紡糸する方法がある。
【0003】
上述する従来の微粒子の繊維に固着する手段は、製造工程の煩雑さに加え、混合紡糸により抗菌剤微粒子の多くが繊維の内部に存在したままとなり、繊維表面に必要な抗菌剤微粒子のブリーディングが少なくなるので、漸次、薬剤が外部に滲出してくることによって抗菌効果が発揮され難いという問題がある。
後者の後加工には、接着剤を用いて繊維製品に担持する方法が一般的で、代表的には、特開平02−021916号公報の技術がある。しかしながら、この技術では、微粒子が接着剤に包埋されて機能剤の効果が低い上に、接着剤により風合が硬化する欠点がある。
また、特開昭59−037956号公報や特開昭63−175117号公報によれば、低融点の合成繊維を含む繊維構造体を用いて、低融点繊維の溶融により銀抗菌剤粒子を固着するホットメルト固着方式も提案されているが、この技術は銀抗菌剤微粒子のブリーディングが多く、ブリーディングの本来機能は期待できるが、使用した低融点繊維の溶融により、隣接する繊維を融着固化して製品の風合が硬くなる欠点がある。
上述するように微粒子のブリーディングが適切で、柔軟な風合に加工できる微粒子の固着方法を熱望されているが、未だ知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平03−205436号公報
【特許文献2】特開昭62−195037号公報
【特許文献3】特開平02−021916号公報
【特許文献4】特開昭59−037956号公報
【特許文献5】特開昭63−175117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述する従来技術の適用では、微粒子、特に銀抗菌剤、防カビ剤、美白剤、皮膚保湿剤等の機能を有する微粒子や薬剤を繊維表面に微粒子を固着する場合に、耐久性を得ようとするほど、微粒子が接着剤に包み込まれて微粒子が繊維の表面からの突出せず、機能性粒子の本来機能が発揮されなくなる。
例えば銀系抗菌剤の例で言えば、接着剤に銀抗菌剤の微粒子が包み込まれると、抗菌の機能性の効果は得られなくなるが、銀抗菌剤微粒子を使用している目的は、本来有している機能を活用することで、そのためには銀抗菌剤の微粒子の一部が外側に突出することにより抗菌効果を発揮させることが必要である。
ところが、低融点繊維を使用してのホットメルトによる固着は、低融点繊維の溶融により隣接する繊維を融着することになり、微粒子の本来の効果はあっても、低融点の繊維を使用しているので、繊維フィラメントの熱融着に接点が多くなり、得られた繊維製品は必然的に風合いが悪く、硬くなる欠点があった。
そこで、従来の願望とする、微粒子による本来の突出効果は維持しつつ、柔軟な風合いの繊維製品とする繊維素材の製造法を現実化することを課題とするものものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、繊維素材を柔軟に加工するために、原料素材として湿熱接着性繊維を平行に配列されたスライバーを用いて、該スライバーが熱水処理による熱収縮によりクリンプを形成し、繊維間に空隙を発生することによって繊維素材は柔軟性を発揮することとなり、さらに繊維素材の表面には微粒子の一部が湿熱接着して固着することとなるので、微粒子の一部が外部に突出して微粒子の本来機能は発揮しつつ、得られた繊維素材は風合いよく、柔軟にすることができる。
本発明では、スキン及びコアの2部分よりなる湿熱接着性繊維のスレイバーを用いることによって可能としたもので、繊維のスキン部がエチレンビニールアルコール共重合体、コア部がポリエステルから形成されているので、熱水処理によっても繊維表面に接着性を有するが繊維全体が溶けることはない。
【0007】
本発明は、以下の構成を基本として上記の課題を解決したものである。
(1)湿熱接着性繊維を平行に配列されたスライバーを含有する繊維素材を原料として機能性微粒子を仮固定して熱水処理を行い、該熱水処理による該繊維素材のクリンプ収縮によって空隙を生じるとともに該繊維素材の表面に微粒子の少なくとも一部が湿熱接着することを特徴とする繊維表面に多くの微粒子の突起が突出した柔軟性繊維素材の製造方法。
(2)上記湿熱接着性繊維が、スキン及びコアの2部分より形成されてなり、スキン部がエチレンビニールアルコール共重合体、コア部がポリエステルであることを特徴とする(1)に記載の柔軟性繊維素材の製造方法。
(3)上記機能性微粒子が、銀系抗菌剤微粒子、ジンクピリチオン微粒子、化粧料微粒子、皮膚に機能性を付与する薬剤のマイクロカプセル微粒子又は石英斑岩微粒子より選ばれたものであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の柔軟性繊維素材の製造方法。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により得られた繊維素材より形成されたことを特徴とする繊維製品。
(5)不織布、織物、ニット、パイル織物又はパイルニットより選ばれたことを特徴とする(4)に記載の繊維製品。
【0008】
本発明で使用する湿熱接着性繊維素材としては、「ソフィスタ」(株式会社クラレ製品)を代表的なものとして用いるが、本発明では、特にこれらの繊維の有する、熱水の存在によって繊維表面への接着性を有する物性が活用可能なものである。
このような湿熱接着性繊維は、スキン部がエチレンビニールアルコール共重合体で、コア部がポリエステルよりなっており、織物やニットの製造原料として多用されているが、本発明では、単糸繊度2Dtexの500Dtexと250Dtexのスライバー、特にスライバー100%又は他の繊維と混用してスライバーとして用いるので、収束が少ないざっくりした組織のスライバーが好ましい。
本発明では、スライバーパイルニットでは海綿状の構造に抗菌性を付与した柔軟なボディ用スポンジを作成し、濡らして陰干しによって臭いの発生しない製品を得ることができる。
【0009】
本発明において、このような湿熱接着性繊維の表面に5μm以下の微粒子を付与して仮固定するには、該微粒子の分散液に湿熱接着性繊維製品を浸漬・絞液・乾燥する工程が必要であるが、上述する微粒子の仮固定は、接着剤を使用する必要はなく、分散安定剤として、公知の増粘剤の澱粉、マンナン、微生物産生グルカン、PVA等の使用が可能である。
また、本発明における熱水処理は、90℃以上で20〜30分で行うか、マイクロ波を用いて短時間に熱水処理を行うことのいずれもが可能である。
繊維素材として、単に湿熱接着性繊維を用いただけでは、繊維が収束した状態で湯水処理を行うと、繊維間の接着により硬化することとなるので、湿熱接着性繊維を平行に配列されたスライバーにより湯水処理により繊維間に空隙を発生させて柔軟性を得ることが可能となる。
【0010】
本発明の繊維素材への微粒子の固着状態を図面で示すと、図1は、その概念図で、1は繊維、2は銀系抗菌剤微粒子のような微粒子、3は繊維同士の熱固着による接触交点、4は繊維間の空間であり、本発明では、熱融着交点が少ないので、柔軟性があり、風合いが優れている。
【0011】
本発明で使用する微粒子は、銀系抗菌剤微粒子、ジンクピリチオン微粒子、化粧料微粒子、皮膚に機能性を付与する薬剤のマイクロカプセル微粒子又は石英斑岩微粒子等の微粒子で、5μm以下の大きさがよく、5μm以上の大きさの微粒子では、湿熱接着繊維の太さ2Dtexに対して固着するには好ましくない。
銀系抗菌剤微粒子としては、銀ゼオライトにはゼオミック(シナネンゼオミック株式会社製品)があり、銀ガラスにはミリオンキラー(興亜硝子株式会社製品)があり、銀燐酸ジルコニウムにはノバロン(東亜合成株式会社製品)がある。
ジンクピリチオン(ZPT)のように水に不溶性の微粒子を、固着して防カビ効果を得ることができる。
皮膚に美白効果や保湿効果やスキンケア効果を有する薬剤を含有するマイキロカプセル微粒子としては、ビタミン、抗酸化剤、保湿剤等を含有するマイクロカプセル微粒子があり、サイクロデキストリンによる包接された微粒子を用いることもできる。
石英斑岩微粒子は、遠赤外線効果とK−40の効果があり、衣類に用いて湿熱効果や結構改善を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、繊維製品に対して機能性微粒子を固着するのに、多年の願望であった、繊維表面に多くの微粒子の突起が突出し、該微粒子の本来機能、例えば抗菌剤、美白剤、保湿剤、抗酸化剤等の多くの作用効果を十分に発揮でき、しかも風合いよい、柔軟な加工に仕上げることが可能である。ボディ用スポンジ、肌着、病院用寝衣、サポーター、等の肌に接する繊維製品では肌になじむ柔軟性が得られるのが本発明の効果である。
【0013】
(実施例1〜3)
湿熱接着性繊維の単糸繊度2Dtex250Dtexのスライバーを横糸として、縦糸にポリエステル糸80Dtex/40fを用いたガーゼ生地を用いる。
一方、PVA2重量%を溶解した水溶液に機能性微粒子を1重量%分散して分散液を調製しておく。
機能性微粒子の種類を変え、実施例1では銀ゼオライトとしてゼオミック(粒子径5μm)、実施例2では銀ガラスとしてミリオンキラー(粒径3μm)、実施例3ではジンクピリチオン(粒径2μm)をそれぞれ用いる。
上記調製した分散液に、上記機能性微粒子を各1重量%を分散した分散液に、浸漬し、絞液して、70℃で乾燥してガーゼ生地に銀抗菌剤微粒子を仮定着した。
次いで、得られた銀抗菌剤微粒子を仮定着したガーゼ生地を95℃に加熱した熱水に入れて20分間熱水処理をして乾燥した。
乾燥後に柔軟で抗菌効果を有する生地を得ることができた。
抗菌効果は表1に示す通りであった。
表中の「0hr」は植菌した初期の菌数であり、「12hr」は、12時間後の菌数を「抗菌効果」として示した。また、機能性微粒子として抗菌剤による効果を実施例に示したのは、微粒子のブリーディングの良否を抗菌効果により具体的に数値表現できるからである。
なお、比較例として抗菌剤を固着しないブランクの微生物に対する影響を示すと、大腸菌では1.0×10の植菌数(0hr)が12時間後には3.2×1012に増殖がされ、黄色ブドウ球菌では1.3×10の植菌数(0hr)が12時間後には2.5×1013に増殖がされる。このことから抗菌剤を固着しない場合、微生物が増殖し、汚染に対して弱いものであることがわかった。
【0014】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の繊維素材への微粒子の固着状態の概念図である。
【符号の説明】
【0016】
1 繊維
2 微粒子
3 接触交点
4 空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿熱接着性繊維を平行に配列されたスライバーを含有する繊維素材を原料として機能性微粒子を仮固定し、熱水処理を行い、該熱水処理による該繊維素材のクリンプ収縮によって空隙を生じるとともに該繊維素材の表面に微粒子の少なくとも一部が湿熱接着することを特徴とする繊維表面に多くの微粒子の突起が突出した柔軟性繊維素材の製造方法。
【請求項2】
上記湿熱接着性繊維が、スキン及びコアの2部分より形成されてなり、スキン部がエチレンビニールアルコール共重合体、コア部がポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の柔軟性繊維素材の製造方法。
【請求項3】
上記機能性微粒子が、銀系抗菌剤微粒子、ジンクピリチオン微粒子、化粧料微粒子、皮膚に機能性を付与する薬剤のマイクロカプセル微粒子又は石英斑岩微粒子より選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の柔軟性繊維素材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により得られた繊維素材より形成されたことを特徴とする繊維製品。
【請求項5】
不織布、織物、ニット、パイル織物又はパイルニットより選ばれたことを特徴とする請求項4記載の繊維製品。











【図1】
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【公開番号】特開2008−63690(P2008−63690A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241986(P2006−241986)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000212005)
【Fターム(参考)】