説明

歯磨剤

【課題】水分量が多いにもかかわらず軽い使用感を付与しながら良好な味と泡立ちにより、優れた使用感を有する歯磨剤を提供する。
【解決手段】次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)吸油量が150〜500mL/100gの増粘性シリカ 3〜10質量%、
(B)水溶性カルシウム化合物、及び
(C)水 50〜75質量%
を含有し、成分(B)のカルシウム原子換算量(BCa)が、0.003〜0.05質量%である歯磨剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分含有量の多い歯磨剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤には、歯ブラシへの取りやすさ、口腔内での分散性、生産性、歯面における滞留性の目的から適度な粘弾性と形状を付与することが求められ、その目的のために含有する水分量はある程度限られており、概ね50質量%未満が一般的である。
【0003】
一方、水不溶性のカルシウムである炭酸カルシウム(20℃の水への溶解度が0.0014g/100mL)と増粘性シリカとを含有し、水を多量に含んだ歯磨剤も知られている(特許文献1)。
【0004】
また、歯肉炎抑制を目的としたHippophae抽出物を含有する口腔ケア組成物において、無機物の増粘剤として非晶質シリカ化合物を含有し、カルシウムイオン供与体を約0.001%〜約60%含有し、水を少なくとも約10重量%と多量に含有することも知られている(特許文献2)。
【0005】
さらに、再石灰化のための液状製品に、無機増粘剤を約1.0〜10.0重量%と、部分水溶性カルシウム塩とを含有することも知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−280616号公報
【特許文献2】特表2010−515749号公報
【特許文献3】特表2000−504037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の水分含有量の少ない歯磨剤は、保形性は優れているものの、感触が重く、口腔内での分散性が充分でない傾向があるが、保形性の低下や泡立ちの悪化を招くおそれがあることから、水分量を増やすことは困難である。このような状況のなか、本発明者らは以前、水不溶性のカルシウムである炭酸カルシウムと増粘性シリカとを特定の比率で配合することにより、水分含量が多いにもかかわらず充分な保形性を有する歯磨剤を得ることに成功した(特許文献1)。とはいうものの、この歯磨剤では水不溶性のカルシウムである炭酸カルシウムが必須構成成分であるため、開発の自由度の点から更なる検討の余地があった。
【0008】
また、カルシウムイオン供与体を約0.001%〜約60%含有する口腔ケア組成物(特許文献2)では、過剰量の水溶性カルシウム化合物を含有する状態や、微量の水溶性カルシウム化合物を含有する状態が想定されるが、これらの場合、良好な泡立ちが保持できなくなったり、保型性が保てなくなったりすることが想定される。
【0009】
またさらに、再石灰化のための液状組成物(特許文献3)で必須構成要素となっている部分水溶性カルシウム塩は、20℃の水への溶解度がかなり低いカルシウム化合物であり、かつ未溶解のカルシウム塩が存在することを前提としていることからも、水分量が多い歯磨剤に適用して使用感の向上を図るのは困難である。
【0010】
従って、本発明の課題は、水分量が多いにもかかわらず、充分な保形性を有し、良好な味と泡立ちにより、優れた使用感を有する歯磨剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、増粘性シリカの保形性向上におけるメカニズムについて鋭意検討を行ったところ、カルシウム原子換算量が特定量となる水溶性カルシウム化合物と、特定の増粘性シリカを特定量含有すれば、水分量が多いにもかかわらず充分な保形性と良好な味と泡立ちとを有する歯磨剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)吸油量が150〜500mL/100gの増粘性シリカ 3〜10質量%、
(B)水溶性カルシウム化合物、及び
(C)水 50〜75質量%
を含有し、成分(B)のカルシウム原子換算量(BCa)が、0.003〜0.05質量%である歯磨剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯磨剤によれば、水分量が多いにもかかわらず高い保形性を有しており、水以外の成分が多くないことから口腔内での分散性が良好で、従来の歯磨剤にはない軽い使用感を有し、優れた泡立ちを発揮し、良好な味を保持することができる。さらに、粘結剤の量を低減しても充分な保形性を確保することが可能であり、コスト面からも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明の歯磨剤は、成分(A)吸油量150〜500mL/100gの増粘性シリカを含有する。増粘性シリカは、通常研磨性シリカとして歯磨剤に配合されるシリカより吸油量が大きいものである。特定量の成分(A)の増粘性シリカと、カルシウム原子換算量が特定量となる後述する成分(B)の水溶性カルシウム化合物とを水に分散させることにより、水中で溶解した水溶性カルシウム化合物から遊離したカルシウムイオンがシリカの三次元構造のゲル形成に良好に作用し、歯磨剤として良好な保形性を発揮することができる。増粘性シリカの好ましい吸油量は、保形性の点から、200〜400mL/100gであり、さらに好ましい吸油量は250〜380mL/100gである。かかる増粘性シリカとしては、富士シリシア化学製SYLOPURE25、CROSFIELD社製SORBOSILTC15等の市販品を使用することができる。なお、吸油量は、JISK5101−13−2に準ずる方法によって測定することができる。また用いられる増粘性シリカの平均粒子径は1〜10μmが好ましく、1.5〜9μmがより好ましく、2〜8μmが最も好ましい。
【0016】
本発明の歯磨剤全量中における成分(A)増粘性シリカの含有量は、3〜10質量%であり、適度な保形性、口腔内の分散性、使用感の点から、好ましくは4〜9質量%であり、さらに好ましくは5〜8質量%である。
【0017】
本発明の歯磨剤は、成分(B)としてカルシウム原子換算量(BCa)が0.003〜0.05質量%となる量の水溶性カルシウム化合物を含有する。成分(B)の水溶性カルシウム化合物は、後述する成分(C)の水に溶解することによって、カルシウムイオンを遊離し、かかるカルシウムイオンと成分(A)の増粘性シリカとが三次元構造のゲルを形成することができる。また、非常に微量な量のカルシウムイオンで堅固なゲルを効果的に形成できることから、良好な味を保持することが可能であり、かつコスト面でも有利である。このように、本発明の歯磨剤は、成分(A)と成分(B)とを含有することによって堅固なゲルが形成されることから、水分量が多いにもかかわらず良好な保形性及び味を保持することができる。
【0018】
なお、水溶性カルシウム化合物とは、20℃の水への溶解度が、2〜100g/100mL以下であるカルシウム化合物を意味する。なかでも、口腔内で使用可能な水溶性カルシウム化合物が好ましい。ここで、上記溶解度とは、20℃における水100mLに溶解する水溶性カルシウム化合物の量(g)を意味する。本発明では、水溶性カルシウム化合物の含有量は非常に微量の値であるため、水への溶解度を超えない範囲内の量で水溶性カルシウム化合物を水中に投入することとなり、投入量のカルシウム原子換算量(BCa)に相当する量のカルシウムイオンをすみやかに放出する。
【0019】
かかる水溶性カルシウム化合物としては、具体的には、例えば、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、臭化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、グリセロリン酸カルシウム又はこれらの水和物が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、溶解度が特に高い点から、20℃の水への溶解度が5g/100mL以上の高水溶性カルシウムである、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、乳酸カルシウム又はこれらの水和物がより好ましく、さらに同理由より、20℃の水への溶解度が20g/100mL以上の超高水溶性カルシウムである、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、酢酸カルシウム又はこれらの水和物がさらに好ましい。
【0020】
本発明の歯磨剤全量中における成分(B)水溶性カルシウム化合物のカルシウム原子換算量(BCa)は、適度な保形性及び口腔内の分散性の点、並びに良好な泡立ちと味を保持する点から、好ましくは0.004〜0.04質量%であり、さらに好ましくは0.006〜0.02質量%である。なお、成分(B)の水溶性カルシウム化合物の含有量は、水に溶解させた際、上記量のカルシウムイオンを放出し得るよう、カルシウム原子換算量を元に適宜算出して調製すればよい。例えば、水溶性カルシウム化合物として塩化カルシウムを用いる場合、塩化カルシウムの含有量は、本発明の歯磨剤全量中に、0.008〜0.139質量%、好ましくは0.012〜0.111質量%である。
【0021】
本発明の歯磨剤は、成分(C)の水を50〜75質量%含有する。上述のように、成分(A)と成分(B)とを含有することによって堅固なゲルが形成され、かかるゲル内に多量の水が包含されるので、水分量が多い歯磨剤でありながら良好な保形性を保持することができ、また泡立ちが低下するおそれがない。そのため、口腔内での分散性が良好で、かつ使用感が軽く良好であり、かつコスト面で有利である。本発明の歯磨剤全量中における水の含有量は、好ましくは55〜70質量%であり、より好ましくは60〜65質量%である。なお、本発明の歯磨剤中の水の含有量には、ソルビトール液や水溶性カルシウム化合物等の配合成分中に含まれる水と、別途配合した水とを含む。
【0022】
なお、本発明の歯磨剤中の水の含有量は、配合した水分量及び配合した成分中の水分量から計算によって算出することもできるが、例えば、カールフィッシャー水分計で測定することもできる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業)が挙げられる。この装置では、歯磨き組成物を2gとり、無水メタノール100mlにより懸濁させ、この懸濁液5mlを分取して水分量を測定することができる。
【0023】
本発明の歯磨剤中は、さらに成分(D)フッ化ナトリウムを本発明の歯磨剤全量中に、0.05〜1質量%含有するのが好ましい。フッ化ナトリウムはフッ素イオンの作用により優れた虫歯予防効果を発揮するものの、カルシウムイオン等の金属イオンが過剰に存在すると、金属フッ化物が形成されて一部のフッ素イオンが不活性化されてしまい、活性フッ素イオンの量が減少するため、虫歯予防効果を充分に発揮できなくなるおそれがある。これに対し、本発明の歯磨剤では、水溶性カルシウム化合物のカルシウム原子換算量(BCa)が非常に微量である上、水溶性カルシウム化合物から遊離したカルシウムイオンが増粘性シリカとゲルを形成するので、CaF2を形成し得る余剰のカルシウムイオンが極めて少なく、フッ素イオンが不活性化するのを有効に抑制することができる。
【0024】
本発明の歯磨剤全量中における成分(D)フッ化ナトリウムの含有量は、歯磨剤中に有効な量の活性フッ素イオンを存在させる点から、より好ましくは0.07〜0.7質量%であり、さらに好ましくは0.09〜0.5質量%である。
【0025】
なお、従来、フッ化ナトリウムは、歯磨剤の粘度を低下させる作用を有しているため、保形性向上のためには粘結剤や増粘性シリカの配合量を増やさざるを得ず、これらを多量に配合することによって泡立ちの低下や味の低下を招くおそれがあった。こうした傾向は特に水分量の多い歯磨剤において顕著であった。しかしながら、本発明の歯磨剤であれば、成分(B)から放出されるカルシウムイオンと成分(A)の増粘性シリカとが三次元構造のゲルを形成するため、粘結剤や増粘性シリカを多量に配合せずとも、水分量が多い歯磨剤でありながら懸念される泡立ちの低下や味の低下を招くおそれがないため、非常に好ましい。
【0026】
また、成分(D)フッ化ナトリウムのフッ素原子換算量(DF)に対する成分(B)水溶性カルシウム化合物のカルシウム原子換算量(BCa)は、虫歯予防効果に有効な量の活性フッ素イオンを確保する点から、モル比(B/DF)で、好ましくは0.005〜0.47であり、より好ましくは0.01〜0.08である。なお、フッ化ナトリウムは水への溶解度が非常に高いため(20℃、4.0g/100mL)、フッ化ナトリウムの含有量が上記範囲内である限り、フッ化ナトリウムのフッ素原子換算量(DF)を水中に放出されるフッ素イオンの量とみなすことができる。
【0027】
本発明の歯磨剤全量中における活性フッ素イオンの量は、下記式(I)により算出される活性フッ素イオン率(%)によって近似された値として表すことができる。
活性フッ素イオン率(%)
=[{DF(モル)−2BCa(モル)}/DF(モル)]×100 ・・・(I)
F:フッ化ナトリウムのフッ素原子換算量
Ca:水溶性カルシウム化合物のカルシウム原子換算量
【0028】
本発明の歯磨剤では、上記活性フッ素イオン率は、歯磨剤中に有効な量の活性フッ素イオンを保持して良好な虫歯予防効果を発揮させる点から、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
【0029】
本発明の歯磨剤は、カルシウムイオンと成分(A)の増粘性シリカとが三次元構造のゲルを良好に形成し保形性を向上させる点から、そのpHは通常4〜11であるとよく、本発明の歯磨剤は、アルカリ性環境下であっても保形性が低下しない特性を有するため、さらにpH6〜10.5、殊更好ましくはpH7.5〜10であってもよい。
【0030】
本発明の歯磨剤は、歯ブラシ上に吐出可能な歯磨剤であって、ゲル状歯磨剤、練歯磨剤とするのが可能で、練歯磨剤とするのが好ましい。練歯磨剤とした場合における粘度(25℃)は、軽い使用感、口腔内における分散性と保形性とのバランスの点から、好ましくは800〜5000dPa・sであり、より好ましくは900〜4000dPa・sであり、さらに好ましくは1000〜3000dPa・sである。
【0031】
本発明の歯磨剤には、上記成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに粘結剤、研磨剤、界面活性剤、湿潤剤、香料、甘味料、殺菌剤、防腐剤、pH調整剤、各種薬効成分等を必要に応じて含有させることができる。
【0032】
例えば、上記粘結剤としては、その量を低減しても充分な保形性を確保することが可能な点から、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキプロピルセルロース、ペクチン、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びメトキシエチレン無水マレイン酸共重合体等が挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン及びキサンタンガムが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの粘結剤の含有量は、上述の点で、本発明の歯磨剤全量中に好ましくは0.01〜3質量%であり、より好ましくは0.1〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0033】
このように、本発明の歯磨剤であれば、成分(B)から放出されるカルシウムイオンと成分(A)の増粘性シリカとが三次元構造のゲルを形成するため、粘結剤の量を低減しても、優れた保形性を発揮することができる。
【0034】
上記研磨剤としては、本発明の上述の効果を妨げない点から、炭酸カルシウム等の水不溶性カルシウム化合物、含水シリカ、吸油量が50〜120mL/100gの無水シリカ、リン酸水素カルシウム、不溶性メタリン酸カリウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、ベントナイト、ゼオライト、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、レジン等が挙げられ、特に含水シリカ、吸油量が50〜120mL/100gの無水シリカ、リン酸水素カルシウムが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの研磨剤の含有量は、上述の点で、本発明の歯磨剤全量中に好ましくは5〜40質量%であり、より好ましくは8〜30質量%である。
【0035】
なお、成分(D)フッ化ナトリウムを含有する場合、有効な量の活性フッ素イオンを確保することができるので、研磨剤を必ずしも配合せずとも、虫歯予防等に優れた効果を発揮することができる。
【0036】
上記湿潤剤としては、充分な保形性を確保する点で、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、トレハロース等を挙げることができ、なかでもソルビトール、グリセリンが好ましい。湿潤剤の含有量は、上述の点で本発明の歯磨剤全量中に好ましくは5〜40質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。
【0037】
上記界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が用いられる。なかでも、優れた泡立ちを発揮する点で、アニオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。かかるアニオン性界面活性剤としては、例えば、アシルグルタミン酸ナトリウム、アシルサルコシンナトリウム等のアシルアミノ酸塩、アルキルリン酸ナトリウム等のアルキルリン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、高級脂肪酸スルホン化モノグリセリド塩、イセチオン酸の脂肪酸エステル塩、N−メチル長鎖アシルタウリンナトリウム塩、ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸塩が挙げられる。これらのアニオン性界面活性剤における疎水基のアルキル基、アシル基は炭素数6〜18、特に10〜14のものが好ましい。また、その塩としてはナトリウム塩が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、発泡性が良く、また、安価に入手可能な点からアルキル硫酸エステル塩が特に好ましい。アニオン性界面活性剤の含有量は、上述の点で、本発明の歯磨剤全量中に好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0038】
なお、本発明の歯磨剤には、成分(D)のフッ化ナトリウム以外のフッ素化合物を含有させてもよい。かかるフッ素化合物としては、フッ化スズ、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化アンモニウムが挙げられる。これらフッ素化合物を配合する場合、フッ素イオンによる虫歯予防効果の点から、フッ素化合物のフッ素原子換算量及び成分(D)のフッ化ナトリウムのフッ素原子換算量(DF)の合計フッ素原子換算量と、上記カルシウム原子換算量(BCa)とのモル比(合計フッ素原子換算量のモル量/カルシウム原子換算量のモル量)が、0.4以下であるのが好ましく、0.05以下であるのがより好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1〜8、比較例1〜15]
【0041】
表1〜5に示す処方にしたがって歯磨剤を作製した。増粘性シリカの吸油量及び歯磨剤の粘度の測定、並びに歯磨剤に関する各評価項目については以下の方法にしたがった。評価結果を表1〜5に示す。
【0042】
《吸油量の測定》
増粘性シリカ(無水ケイ酸)の吸油量は、JIS K5101−13−2に準ずる方法により、無水ケイ酸に吸収される煮あまに油の量を測定した。具体的には、測定対象の無水ケイ酸に煮あまに油を滴下しつつ鋼ヘラで練り合わせ、全体が鋼ヘラでラセン状にまくことができた時点を終点とし、吸収される煮あまに油の量を特定した。なお、煮あまに油はJIS K5421に規定するものを用いた。
【0043】
《粘度の測定》
歯磨剤の粘度は、ヘリパス粘度計(東機産業株式会社製 TVB-10R)により、測定温度25℃、ロータC、回転速度2.5rpm、1分間の測定条件により測定した。
【0044】
《pHの測定》
歯磨剤に蒸留水を加えて10質量%溶液に調整した後、25℃に保ちながら、pH電極を用いて測定した。
【0045】
《保形性》
保形性は、吐出口の口径(内径)が8mmのチューブから歯磨剤をハブラシ上で水平に約1.5cm絞り出し、30秒後に測定したハブラシ最上端から歯磨剤先端までの高さ(mm)と、ハブラシ上に絞り出してから30秒後の歯磨剤のハブラシ上からの垂れ具合いとから、下記基準にしたがって総合的に評価した。
A:保形性が良好である:歯磨剤の高さ(mm)=4.5〜8.0 全く垂れない
B:保形性がやや良い :歯磨剤の高さ(mm)=3.5〜4.5未満 垂れない
C:保形性がやや悪い :歯磨剤の高さ(mm)=3.0〜3.5未満 垂れる
D:保形性が悪い :歯磨剤の高さ(mm)=3.0未満 非常に垂れる
【0046】
《泡立ち》
専門パネル3名が、歯磨剤1gを歯ブラシにとって3分間ブラッシングした後、歯磨剤の口腔内での泡の広がりの速さから泡立ちの良さを下記基準にしたがって評価し、その平均を求めた。
◎:口腔内での泡の広がりが非常に良好である
○:口腔内での泡の広がりが良好である
×:口腔内での泡の広がりが遅い
【0047】
《味》
専門パネル3名が、歯磨剤1gを歯ブラシにとって3分間ブラッシングした後、味を2段階で評価し、その平均を求めた。
○:味が良好である
×:後味が渋く、味が悪い
【0048】
【表1】

【0049】
表1によれば、実施例1〜2に比して、カルシウムイオンが存在しない比較例1は、保形性が低下することがわかる。また、比較例2のようにカルシウムイオンの量が過剰であると、良好な泡立ちを保持できなくなり、比較例3のようにカルシウムイオンの量が不十分であると、良好な保形性を保持できなくなることがわかる。
【0050】
【表2】

【0051】
表2によれば、実施例3〜4に比して、カルシウムイオンが存在しない比較例4は、保形性が低下することがわかる。また、比較例6のようにカルシウムイオンの量が不十分であると、良好な保形性を保持できないことがわかる。一方、比較例5のように過剰な量のカルシウムイオンが存在すると、良好な泡立ちを保持できなく、さらにフッ化ナトリウムを含有している場合においては、活性フッ素イオンの量を低減してしまうことがわかる。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
表3〜4によれば、実施例5〜8に比して、成分(A)の増粘性シリカの含有量が3質量%未満である比較例7〜8は、保形性が低下し、かつ泡の広がりが遅くなることがわかる。また、成分(A)の増粘性シリカの含有量が10質量%を超える比較例9は、渋みが強く味が悪いことがわかる。さらに、シリカとして吸油量が150ml/100g未満のもののみを配合した比較例10〜11や、成分(C)の水の含有量が75質量%を超える比較例12では、保形性が悪いことがわかる。
【0055】
【表5】

【0056】
表5によれば、比較例13〜15のように成分(B)水溶性カルシウム化合物に該当しないカルシウム化合物を配合した場合、充分な保形性を保持できないことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)吸油量が150〜500mL/100gの増粘性シリカ 3〜10質量%、
(B)水溶性カルシウム化合物、及び
(C)水 50〜75質量%
を含有し、成分(B)のカルシウム原子換算量(BCa)が、0.003〜0.05質量%である歯磨剤。
【請求項2】
水溶性カルシウム化合物が20℃の水への溶解度が2〜100g/100mLである請求項1に記載の歯磨剤。
【請求項3】
さらに、粘結剤を0.01〜3質量%含有する請求項1又は2に記載の歯磨剤。
【請求項4】
さらに、成分(D)フッ化ナトリウムを0.05〜1質量%含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯磨剤。
【請求項5】
成分(D)フッ化ナトリウムのフッ素原子換算量(DF)に対する成分(B)水溶性カルシウム化合物のカルシウム原子換算量(BCa)のモル比(BCa/DF)が、0.005〜0.47である請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯磨剤。
【請求項6】
活性フッ素イオン率が、90%以上である請求項4又は5に記載の歯磨剤。
【請求項7】
pH4〜11である請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯磨剤。
【請求項8】
増粘性シリカの平均粒子径が、1〜10μmである請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯磨剤。
【請求項9】
25℃における粘度が、800〜5000dPa・sである請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯磨剤。
【請求項10】
さらに、研磨剤を5〜40質量%含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯磨剤。
【請求項11】
さらに、湿潤剤を5〜40質量%含有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の歯磨剤。
【請求項12】
さらに、アニオン性界面活性剤を0.05〜5質量%含有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の歯磨剤。

【公開番号】特開2013−18710(P2013−18710A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150847(P2011−150847)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】