説明

殺菌性・抗菌性基材製造方法および抗菌性基材

【課題】ナノ粒子を酸化チタン基材に付けた高い殺菌効果を発揮できる抗菌性基材の製造方法、並びに抗菌性基材を提供する。
【解決手段】 メソポーラス酸化チタン基材を形成し、それにシングルナノサイズの銀ナノ粒子を坦持して滅菌性を上げる。アークプラズマ蒸着源で銀ナノ粒子を、下方のガラス基板上につけたメソポーラスな酸化チタン粒子からなるメソポーラス酸化チタン基材にシングルサイズのナノ粒子を付けて紫外線で大腸菌に照射することで略100%死滅させることができ

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子を酸化チタン基材に付ける殺菌性・抗菌性基材製造方法、並びにこれによって製造された抗菌性基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バクテリア、ウィルス、菌類および他の寄生動物によって引き起こされる疾病は、何百万もの人々の死、病気および社会・経済混乱の主な原因となっている。例えば、病院内における伝染病は、患者及び保険制度にとって重大な負担となっている。
毎年、950万人以上が、開発途上国の感染症により死亡する。環境のバクテリア汚染によって、多くの種類の疾病(例えばリステリア症、敗血性咽頭炎)が引き起こされている。大腸菌、淋菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌バクテリア、連鎖球菌および腸チフス菌は、バクテリアとして有名である。
【0003】
例えば、大腸菌は下痢を引き起こす場合がある非常に危険なバクテリアである。
したがって、様々な危険の原因となるバクテリアを死滅、あるいは不活性化できる材料を開発することにより、これらの病気を予防することができる。
高い抗菌特性を備えた新素材の開発が期待されている。今まで、最も一般に使用された抗菌剤は環境には非常に有毒なものである。また、それらの残留物は環境に不利益な影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−523344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、新しいタイプの抗菌性フィルムは、複雑な高分子基材と混合するかCVD(Chemical Vapor Deposition)のような特殊装置を使用して製造され、その製造プロセスは複雑である。
強健な無機の材料は、それらの高い熱抵抗および長命のために、抗菌性市場および光触媒製品で広く用いられている。
特に、酸化チタン(チタニウム(TiO))は、その生物学・化学的な不活性、強い酸化力、非毒性および長期安定のために広範囲の環境に適用し、最もよく知られている物質である。
最近、酸化チタンのナノ材料は、バクテリアを非活性化するために、空気浄化、有害廃棄物改善(環境上の浄化)、水処理のような広い分野で使用されている。
酸化チタンの抗菌性は強く、その抗菌性は結晶構造、表面積および表面の形態に依存する。
【0006】
従来の酸化チタンの生成は、一度塩化チタンとした後、高温で酸素と反応させて酸化チタンとする方法、または硫酸チタンを加水分解した後に焼成する方法の2種類が主である。
これらのいずれかの方法で製造された酸化チタン上に銀が坦持される。このとき、銀のナノ粒子の担持は、電折法で行われる。
具体的には、硫酸中に所定の大きさの酸化チタン粉末を入れ、さらに銀粉末を入れて硫酸中で銀を溶解する。そして、その溶液に2次電解法により電折させて銀のナノ粒子を酸化チタン粉末上に固定させる。
【0007】
図3は、上述した方法で製造された銀ナノ粒子が担持された酸化チタン基材に、大腸菌等を紫外線照射して殺菌作用を施した場合の菌の数を示す図である。
図3に示されるように、メソポーラス(Mesoporous)ではない酸化チタン基材上につけた銀ナノ粒子(図3に示す「Antese film without mesoporous」)では、紫外線を50分程度照射しても菌は50%程度しか死滅しない。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされ、ナノ粒子を酸化チタン基材に付けた高い殺菌効果を発揮できる抗菌性基材の製造方法、並びに抗菌性基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した従来技術の従来技術の問題点を解決し、上述した目的を達成するために、本発明の抗菌性基材製造方法は、メソポーラスの酸化チタン基材を得る第1の工程と、前記メソポーラスの酸化チタン基材に金属ナノ粒子を付けて抗菌性基材を製造する第2の工程とを有する。
【0010】
好適には、本発明の抗菌性基材製造方法の前記第2の工程は、前記メソポーラスの酸化チタン基材に前記金属ナノ粒子を担持する。
好適には、本発明の抗菌性基材製造方法の前記金属ナノ粒子は、白金、銀および銅のいずれか、あるいは、これらの合金である。
【0011】
好適には、本発明の抗菌性基材製造方法は、ナノ銀水溶液を用いて前記ナノ粒子を形成する。
好適には、本発明の抗菌性基材製造方法は、同軸型真空アーク蒸着法を用いて、前記ナノ粒子を前記メソポーラスの酸化チタン基材に担持させる。
【0012】
好適には、本発明の抗菌性基材製造方法の前記第1の工程は、界面活性剤をエタノールに溶解して第1の溶液を生成する第3工程と、オルトチタン酸テトライソプロピル(別名:チタン(IV)テトライソプロポキシド)を塩酸と混合して第2の溶液を生成する第4の工程と、前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合して第3の溶液を生成する第5の工程と、ガラス基板上で前記第3の溶液を回転する第6の工程と、前記第6の工程後に、前記第3の溶液をフィルム上で一定期間保管して前記メソポーラスの酸化チタン基材を得る第7の工程とを有する。
【0013】
本発明の抗菌性基材は、メソポーラスの酸化チタン基材に金属ナノ粒子を付けている。
【0014】
好適には、本発明の抗菌性基材の前記金属ナノ粒子は、前記メソポーラスの酸化チタン基材に担持されている。
好適には、本発明の抗菌性基材の前記金属ナノ粒子は、白金、銀および銅のいずれか、あるいは、これらの合金である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされ、ナノ粒子を酸化チタン基材に付けた高い殺菌効果を発揮できる抗菌性基材の製造方法、並びに抗菌性基材を提供することを目的とする。これにより、銀などのナノ粒子の担持量が少なくても滅菌効果が非常に向上する抗菌性基材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係わる微粒子形成装置の模式図である。
【図2】図2は、メソポーラス酸化チタン基材の銀蒸着後のSEMイメージを示す図である。
【図3】図3は、本発明の各実施例についての放射時間と菌の活性割合との関係を説明するための図である。
【図4】図4は、10発の銀ナノ粒子イオンを蒸着した場合の銀ナノ粒子のTEM像を示す図である。
【図5】図5は、50発の銀ナノ粒子イオンを蒸着した場合の銀ナノ粒子のTEM像を示す図である。
【図6】図6は、200発の銀ナノ粒子イオンを蒸着した場合の銀ナノ粒子のTEM像を示す図である。
【図7】図7は、異なる量の銀が蒸着されたメソポーラス酸化チタン基材に対するWideangleXRDパターンを示す図である。
【図8】図8は、X線の光電子分光法(XPS)を用いて、銀ナノ粒子の電気的な状態を分析した結果であり、Ti2pピークを示す図である。
【図9】図9は、X線の光電子分光法(XPS)を用いて、銀ナノ粒子の電気的な状態を分析した結果であり、Ag3dピークを示す図である。
【図10】図10は、「Meso−10Ag」についてのガウシャン−ローレンツ関数によるAg3d5/2信号のXPS解析スペクトラムを示す図である。
【図11】図11は、「Meso−50Ag」についてのガウシャン−ローレンツ関数によるAg3d5/2信号のXPS解析スペクトラムを示す図である。
【図12】図12は、「Meso−200Ag」についてのガウシャン−ローレンツ関数によるAg3d5/2信号のXPS解析スペクトラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。
結晶化されたアナテーゼ・ナノ粒子(例えばデグサP−25)は、潜在的に汚染物質を容易かつ安価に浄化できる優れた光触媒機能を発揮する。
【0018】
非常に高い表面積を有するメソポーラス酸化チタン基材(メソポーラス・アンテーゼ・フィルム)は、既にある製品と比較して、高い抗菌性効果を発揮できる。また、より高い量のヒドロキシル・ラジカルを提供することができる。
我々の研究では、バクテリアの優れた不活性化効果は、表面のエリア、アンテーゼ結晶度および表面の形態のようないくつかの要素を調整することで実現される。
例えば、図3において、「Meso−10Ag」、「Meso−50Ag」、「Meso−200Ag」で示されるように、紫外線放射をわずか10分行った後に、大腸菌の98%以上が不活性化された。それはこれまで報告されたすべての酸化チタン基材のなかで最も高い成果である。
上述した「Meso−10Ag」、「Meso−50Ag」、「Meso−200Ag」は、それぞれ後述する微粒子形成装置1によって10発、50発、200発の銀ナノ粒子を蒸着して得られたメソポーラス酸化チタン基材に関する結果を示している。
【0019】
さらに抗菌性特性を増強するために、発明者は、メソポーラス酸化チタン基材に金属ナノ粒子を付着することに着目した。
半導体金属合成物への処理によって、金属蒸着は、触媒作用を高めることが分かった。
半導体物質上の金属微粒子(例えばAg、Au、Pt)は、効率的に電子空孔分離を促進することができる。
【0020】
いくつかの金属ナノ粒子のなかで、銀は最もポピュラーな金属で、二酸化チタン表面を調整するために使用される。
発明者は、メソポーラス酸化チタン基材に一様に銀ナノ粒子を付けることにより、抗菌性を増強することができることを確認した。
銀ナノ粒子を備えたメソポーラスな酸化チタン・フィルムは、わずかに2分以内で90%の大腸菌を不活性化した。
ゾル・ゲル化学に基づいた本実施形態のプロセスは非常に単純、兼価であり、前述した従来技術の問題を解決できる。
【0021】
本実施形態では、メソポーラス酸化チタン基材を形成し、それにシングルナノサイズの銀ナノ粒子を坦持して滅菌性を上げる。ここで、シングルナノサイズの銀ナノ粒子は、直径10nm未満の粒子である。
本実施形態では、アークプラズマ蒸着源で銀ナノ粒子を、下方のガラス基板上につけたメソポーラスな酸化チタン粒子からなるメソポーラス酸化チタン基材にシングルサイズのナノ粒子を付けて紫外線で大腸菌に照射することで略100%死滅させることができる。
【0022】
メソポーラス酸化チタン基材は、界面活性剤を酸化チタンの水溶液に還元剤とともに添加し、界面活性剤の疎水基と酸化チタン表面の相互作用を利用して酸化チタン表面にナノレベルの微細な凹凸を形成する。
図2は、メソポーラス酸化チタン基材の表面を示す図である。
本実施形態では、上述した金属ナノ粒子の坦持を、以下に示すように同軸型真空アーク蒸着法により行う。
【0023】
以下、本実施形態の金属ナノ粒子を担持したメソポーラス酸化チタン基材の製造方法を説明する。
[材料の準備]
酸化チタン基板の基となるオルトチタン酸テトライソプロピル(別名:チタン(IV)テトライソプロポキシド)(TTIP)、トリブロック共重合体、塩化水素水,エタノール、並びにスライド・ガラスを準備する。
例えば、オルトチタン酸テトライソプロピル(別名:チタン(IV)テトライソプロポキシド)は、和光ケミカル社から取得した。
トリブロック共重合体(プルロニック(Pluronic) P123(PEO20-PPO70-PEO20))はオールドリッチ社から取得した。
濃度35%の塩化水素水およびエタノールは、ナクライテスキュー(Naclai Tesque)社および和光ケミカル社からそれぞれ取得した。
28mmx48mmのスライド・ガラスは、トロイシンコ(Toroishinko)社から取得した。
【0024】
[メソポーラス酸化チタン基材(メソポーラス・アナターゼ・フィルム)の準備]
以下の手順により、メソポーラス酸化チタン基材を準備した。
0.2gのプルロニックP123(界面活性剤)を2.8gのエタノールに溶解する。
次に、1.05gのオルトチタン酸テトライソプロピル(別名:チタン(IV)テトライソプロポキシド)を、0.74gの高濃度の塩酸HCIによくかき混ぜる。ここで、オルトチタン酸テトライソプロピル(別名:チタン(IV)テトライソプロポキシド)の代わりに,テトラメトキシチタン(IV)(別名:チタン(IV)テトラメトキシド),オルトチタン酸テトラエチル(別名:チタニウム(IV)エトキシド),テトラ(tert−ブトキシ)チタン(IV)(別名:チタニウム(IV)tert−ブトキシド)などの各種チタンアルコキシドや塩化チタンなどを用いることができるが,これに限られるものではない。
上述したプロセスで得た2つの溶液を混合し、約24時間かき混ぜることで、分子比1のTTIP/0.01 P123/17.6 COH/1.9 HCl/7.2 HOを含む酸化チタン前駆体溶液(Precursor solution)を得る。
【0025】
次に、24時間かき混ぜた後に、上記酸化チタン前駆体溶液を、クリーンなガラス基板上で、23℃、60〜65%の相対湿度で回転駆動する。回転速度および時間は、例えばそれぞれ3000rpmおよび30秒である。
次に、上記酸化チタン前駆体溶液を、準備された薄いフィルム上で、低温(−20℃)および低い湿度(20RH%)で3日間保管した後、450℃で焼いて生石灰化する処理を4時間行い、メソポーラス酸化チタン基材を得る。
【0026】
次に、後述する微粒子形成装置1を使用して上記メソポーラス酸化チタン基材に銀ナノ粒子の蒸着を行う。
円柱形状の陰極が中心に設けられ、円筒状の陽極が同軸にマウントされている。
微粒子形成装置1では、メソポーラス酸化チタン基材は、ラジアル方向に垂直に置かれる。そして、チャンバ内を排気後に、トリガーによってターゲット棒の表面上にアーク放電を引き起こす。そして、高度にイオン化された金属プラズマが、ターゲット棒から、放電ガスを用いることなく生成され、メソポーラス酸化チタン基材の表面に銀ナノ粒子を蒸着する。
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係わる微粒子形成装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は、同軸型真空アーク蒸着5を用いた微粒子形成装置1の模式図である。
図1に示す微粒子形成装置1は、例えば、真空雰囲気のチャンバ内にスライドガラス72(2cm×4cm)を設け、モータ74でスライドガラス72を回転駆動して、それにメソポーラスナノ粒子をディップコートさせて付着し、そのスライドガラスを基板ステージに3〜4枚載せて、それに対してアークプラズマで銀をナノ粒子を蒸着する。
【0028】
[同軸型真空アーク蒸着源5]
同軸型真空アーク蒸着源5は、カソード電極に取付けられたシリコンで成る円柱状の蒸着材料11と、アルミナで成るハット状の絶縁碍子14(以下、ハット型碍子と呼ぶ)と、トリガ電極13とを有する。
カソード電極に取付けられた蒸着材料11と、ハット型碍子14と、トリガ電極13は同心円状に密着させて取り付けられている。
【0029】
アノード電極23は、ステンレスで成り、円筒状をしている。また、このアノード電極23は、カソード電極に取付けられた蒸着材料11と同心円状に取付けられている。
なお、同軸型真空アーク蒸着源5は、図示しない支柱と図示しない真空フランジを介して、真空チャンバ2の壁面に取付けられている。
【0030】
また、図1中に簡易的な配線図で電源装置6を示す。
電源装置6は、トリガ電源31、アーク電源32、コンデンサユニット33を有する。
トリガ電源31は、パルストランスからなり、入力200VのμS単位のパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV、数μS単位のプラス極性のトリガパルスを出力する。
【0031】
アーク電源32は、100V数Aの容量の直流電源であり、コンデンサユニット33に充電している。充電時間は約1秒必要とするので放電周期は1Hzとなる。
コンデンサユニット33は、720〜1800μFに設定され、耐圧100Vである。コンデンサユニット33は、アーク電源32により、100Vで充電される。
【0032】
トリガ電源31のプラス出力端子は、トリガ電極13に接続され、マイナス端子はアーク電源32のマイナス出力端子と同じ電位に接続され、さらにカソード電極に接続されている。コンデンサユニット33の両端子は、アーク電源32のプラスおよびマイナス端子間に接続されている。
【0033】
真空排気系9は、ターボ分子ポンプ51、仕切りバルブ52、ロータリポンプ53、調整バルブ54を有する。
ターボ分子ポンプ51からロータリポンプ53までは、金属製の配管で接続されており、真空チャンバ2内の真空排気を行っている。真空排気を行うことで、真空チャンバ2内は、10−4Pa以下に保たれている。
【0034】
以下、図1に示す微粒子形成装置1の動作例を説明する。
[同軸型真空アーク蒸着源5の動作例]
アーク電源32により、100Vで電荷を充電しておく。ここで、コンデンサユニット33は、720〜1800μFとする。
トリガ電極13にトリガ電源31からの3.4kVのトリガパルスを印加し、カソード電極に取付けられた蒸着材料11とトリガ電極13の間に、ハット型碍子14を介して印加することで、ハット型碍子14表面で沿面放電が発生し、カソード電極とハット型碍子14とのつなぎ目から電子が発生する。このとき、蒸着材料11とアノード電極23との間でコンデンサユニット33に蓄電された電荷が放電され、カソード電極に多量の電流が流入し、銀(触媒金属材料)で成るカソード電極に取付けられた蒸着材料11が液相から気相、さらに銀のプラズマが形成される。
【0035】
この時、カソード電極に多量の電流(2000A〜5000A)が、200μS〜500μSの間に流れるので、カソード電極に取付けられた蒸着材料11に磁場が形成される。このとき発生したプラズマ中の電子(カソード電極からアノード電極円筒内面に飛行する)が、カソード電極に取付けられた蒸着材料11の形成した磁場によるローレンツ力を受けて、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。
【0036】
プラズマ中の蒸着材料である銀イオンは、分極することでクーロン力により、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行する電子に引き付けられるようにして同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。
【0037】
一方、プラズマ中の蒸着材料である銀のイオンは、分極することでクーロン力により、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行する。その結果、銀のイオンは、原子を核にして成長し、ナノメートル単位の銀ナノ粒子が形成される。
【0038】
このように銀イオンを照射しながら、メソポーラスな酸化チタンが塗布されたガラスステージを30〜100rpmで回転させて蒸着する。これを継続することで、均一に銀ナノ粒子を形成する。
【0039】
本実施形態では、真空中での銀ナノ粒子を担持する際に放電電圧を70V,コンデンサ容量720μFでおこなった。
蒸着量は、0発、20発、50発,200発の4種類でおこなった。
銀の蒸着量は、それぞれ0発の場合は0、20発の場合は2.77×10−5
mg・cm−2、50発の場合は1.39×10−4 mg・cm−2、そして200発の場合は5.54×10−4
mg・cm−2となる。
【0040】
図3において、「Meso−0Ag」は酸化チタンのメソポーラスのみ(銀を蒸着していない)での滅菌効果である。この場合は約30分で全部死滅している。
50発(「Meso−50Ag」),200発(「Meso−200Ag」)だけ銀ナノ粒子を蒸着したものは約20分で全部死滅した。10発(「Meso−10Ag」)だけ蒸着したものは約10分で全部死滅した。
【0041】
この10発、50発、200発の銀ナノ粒子イオンを蒸着した時の粒子の大きさを観察した。
そのTEM像を図4、図5および図6にそれぞれ示す。
本実施例では図1に示す同軸型アークプラズマ蒸着源でナノ粒子を蒸着したが坦持方法はこれに限ることなく銀ナノ粒子ペーストを付着させても効果がある。
【0042】
本実施形態では、メソポーラス酸化チタン基材上にシングルサイズのナノ粒子を坦持することによって従来の酸化チタン材に銀ナノ粒子を担持したものよりも優れた殺菌効果を得ることができる。
【0043】
抗菌特性の調査の前に、発明者は、銀ナノ粒子を備えたメソポーラス酸化チタン基材の特徴を調べた。
メソポーラス酸化チタン基材の銀蒸着後のSEMイメージを、図2に示す。
メソポーラス酸化チタン基材は、クラックのない非常に滑らかな表面をしている。メソポーラス構造は、Nガス吸着脱着等温線によって検知された。
【0044】
平均細孔サイズは約10nmである。異なる量の銀を持つメソポーラス酸化チタン基材に対するWideangle
XRDパターンは、図7に示すように、アナターゼフェーズに割り当て可能な2θ=25°で広い回析ピークを示した。
「Meso−10Ag」および「Meso−50Ag」のフィルムは、銀の粒子の塊のないフィルム表面上で銀ナノ粒子が素晴らしく分散したことを示し、銀と関係するピークを示さない。銀蒸着後でさえ、開いたメソポーラスは、依然としてフィルム表面に存在した。
【0045】
しかしながら、パルス回数が200まで増加したとき、より高い角度(2θ=38°)の銀ピークが、大型の銀ナノ粒子が形成されることに起因して生じる。図2に示されるように、大型の銀ナノ粒子の塊の形成がメソポーラス酸化チタン基材の表面上で形成されたことが分かる。
【0046】
一般的に、酸化チタンの表面に残された銀の粒子サイズは抗菌特性に大きな影響がある。定量的に置かれた銀ナノ粒子のサイズを評価するために、粒径分布は直接のTEM観察(図4、図5、図6)によって計算された。
平均サイズは、それぞれ3.7nm(「Meso−10Ag」)、3.9nm(「Meso−50Ag」)および5.6nm(「Meso−200Ag」)である。少数の大きなナノ粒子(直径約6nmを備えた)が観察されたが、「Meso−10Ag」のための銀ナノ粒子は3.2nmの直径で中心に集まっている。
【0047】
したがって、図1に示す微粒子形成装置を用いた場合には、一様に分類されたナノ粒子は、フィルム表面上で形成することができる。
しかしながら、「Meso−50Ag」および「Meso−200Ag」の場合には、粒径分布が2つのピークを示した。「Meso−200Ag」については、この傾向ははるかにより明白になる。5nm未満の銀ナノ粒子はすべてのサンプルにおいて目立って形成されているが、第2の粒径分布はより大きなサイズへ変わり、それによって、平均粒子サイズを増加させる。
【0048】
パルス・アカウントの増加で、銀ナノ粒子はより大きな粒子を形成するために互いに集める。選択された領域において、電子線回析(ED)パターンは銀
fcc構造に割り当て可能な輪を示す。
【0049】
さらにX線の光電子分光法(XPS)を用いて、銀ナノ粒子の電気的な状態を分析した。
図8および図9に示すように、Ti 2pおよびAg 3dピークの両方がすべてのサンプルに現われた。ここで、Ti
2pおよびAg 3dピークは、それぞれの元素がサンプル中に存在することを意味する。
Ag 3d5/2領域では、368.2、367.7および367.3eVに3のピークが解析により検出された。これら3つのピークは、それぞれメタリックAg(0)、酸化Ag(I)(AgO)および酸化Ag(II)
(AgO)に対応している(図10、図11、図12)。
その結果、メタリックAg(0)(Ag/(Ag(0)+Ag(I)+Ag(II))の相対的な原子比率は、52%(「Meso−10Ag」)、33%(「Meso−50Ag」)および24%(「Meso−200Ag」)となる。
【0050】
本発明は、上述した実施形態には限定されない。
上述した実施形態では、金属ナノ粒子として銀を例示したが、白金あるいは銅、または白金、銀および銅の合金を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、本発明は、ナノ粒子を酸化チタン基材に付ける抗菌性基材製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0052】
1…微粒子形成装置
2…真空チャンバ
5…同軸型真空アーク蒸着源
7…被蒸着体
11…蒸着材料
13…トリガ電極
14…ハット型碍子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラスの酸化チタン基材を得る第1の工程と、
前記メソポーラスの酸化チタン基材に金属ナノ粒子を付けて抗菌性基材を製造する第2の工程と
を有する抗菌性基材製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程は、前記メソポーラスの酸化チタン基材に前記金属ナノ粒子を担持する
請求項1に記載の抗菌性基材製造方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子は、白金、銀および銅のいずれか、あるいは、これらの合金である
請求項2に記載の抗菌性基材製造方法。
【請求項4】
ナノ銀水溶液を用いて前記ナノ粒子を形成する
請求項3に記載の抗菌性基材製造方法。
【請求項5】
同軸型真空アーク蒸着法を用いて、前記ナノ粒子を前記メソポーラスの酸化チタン基材に担持させる
請求項3に記載の抗菌性基材製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程は、
界面活性剤をエタノールに溶解して第1の溶液を生成する3工程と、
オルトチタン酸テトライソプロピル(別名:チタン(IV)テトライソプロポキシド)を塩酸と混合して第2の溶液を生成する第4の工程と、
前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合して第3の溶液を生成する第5の工程と、
ガラス基板上で前記第3の溶液を回転する第6の工程と、
前記第6の工程後に、前記第3の溶液をフィルム上で一定期間保管して前記メソポーラスの酸化チタン基材を得る第7の工程と
を有する請求項5に記載の抗菌性基材製造方法。
【請求項7】
メソポーラスの酸化チタン基材に金属ナノ粒子を付けた抗菌性基材。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子は、前記メソポーラスの酸化チタン基材に担持されている
請求項7に記載の抗菌性基材。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子は、白金、銀および銅のいずれか、あるいは、これらの合金である
請求項8に記載の抗菌性基材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−201623(P2012−201623A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67386(P2011−67386)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける出願
【出願人】(000192383)アルバック理工株式会社 (26)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】