説明

殺菌液

【課題】殺菌効果を有し、殺菌効果の持続性が高い殺菌液を提供する。
【解決手段】殺菌液は、カルシウム濃度が1.3g/L〜32g/L、pHが5.5以上であるカルシウムイオン水を主成分として含有する。また、口腔内殺菌に用いる場合、カルシウム濃度が3.2g/L〜32g/L、pHが5.5〜9.5であることが好ましい。上記範囲のカルシウム濃度及びpHである殺菌液は、殺菌効果に優れ、殺菌効果の持続性が高いという利点を有する。口腔内の殺菌や医療器具等、殺菌が要求される様々な用途にて使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌液に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は海域に囲まれており、水産資源も豊富なことから、古くから水産加工業が主要な産業として発展してきた。水揚げされたカキやホタテ等では、食用とされている部位以外の貝殻は加工残渣となり、漁業系廃棄物(未利用資源)として排出され、土木資材、稚貝の養殖資材、土壌改良材、飼料、肥料などに利用されている。
【0003】
しかし、まだ多くの貝殻が再利用されておらず、廃棄されているのが実情である。このため、これら未利用の貝殻の再利用技術が提案されている。
【0004】
貝殻にはカルシウム分を豊富に含有しており、貝殻を原料に用いたカルシウムイオン水やセメント硬化体の製造など、貝殻の再利用が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−222458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、貝殻を焼成して得られる酸化カルシウムを酸性水溶液に溶解するカルシウムイオン水の製造方法、並びに、このカルシウムイオン水を用いたセメント硬化体の製造方法について開示されている。しかし、カルシウムイオン水の殺菌効果について何ら開示されていない。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、殺菌効果を有し、殺菌効果の持続性が高い殺菌液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る殺菌液は、
カルシウム濃度が1.3g/L〜32g/L、pHが5.5以上であるカルシウムイオン水を主成分として含有する、
ことを特徴とする。
【0009】
また、カルシウム濃度が3.2g/L〜32g/L、pHが5.5〜9.5であり、口腔内殺菌に用いられることが好ましい。
【0010】
また、カルシウム濃度が4g/L以上であることが好ましい。
【0011】
また、前記カルシウムイオン水は焼成した所定量の貝殻を酸性水溶液に溶解し、pH調整剤を添加して得られることが好ましい。
【0012】
また、前記酸性水溶液が酢酸水溶液であることが好ましい。
【0013】
また、前記pH調整剤が炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る殺菌液は、殺菌効果に優れ、殺菌効果の持続性が高いという利点を有する。口腔内の殺菌や医療器具等、殺菌が要求される様々な用途にて使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における殺菌液B2及び市販含嗽液の細菌残存率の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例1における殺菌液のpHと細菌残存率の関係を示すグラフである。
【図3】実施例1における殺菌液のカルシウム濃度と細菌残存率の関係を示すグラフである。
【図4】図4(A)〜(E)は、それぞれ実施例2における細菌培養後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る殺菌液は、カルシウム濃度が1.3g/L〜32g/Lであり、pHが5.5以上であるカルシウムイオン水を主成分として含有している。殺菌液は、原理は明らかではないが、殺菌効果を有するとともに、殺菌効果の持続性が高い。
【0017】
殺菌液中では、後述の製造方法に記すように、酸性水溶液に酸化カルシウムを溶解して得られるため、カルシウムイオンが解離した状態を安定的に保つ。
【0018】
殺菌液は、食品工場における床、壁、配管や食器類などの殺菌、或いは、医療現場における医療器具や医療機器等の殺菌など、殺菌が要求される種々の用途に用いることができる。殺菌液のpH及びカルシウム濃度は、用いる用途に応じ、上記の範囲で適宜設定される。
【0019】
例えば、殺菌液は、口腔内殺菌液として好適に用いることができる。口腔内殺菌液の場合、カルシウム濃度が3.2g/L〜32g/Lであることが好ましい。カルシウム濃度が上記範囲であれば、口腔内の殺菌効果が高く、そして、殺菌効果の持続性が高い。より好ましくは、カルシウム濃度が4g/L以上である。後述の実施例に示すように、含嗽2時間後の細菌の残存率(含嗽前の細菌数に対する含嗽後の細菌数の割合)が市販されている含嗽液に比べて低く、殺菌効果の持続性がより高い。更に好ましくは、カルシウム濃度が6.4g/L以上である。なお、カルシウムの飽和濃度が32g/Lであるため、32g/Lを超えるとカルシウムがイオン化せず析出することになるので殺菌効果は望めない。
【0020】
また、口腔内殺菌液は、pHは5.5〜9.5であることが好ましい。pHが9.5より高いと人体に悪影響を及ぼしかねない。pHが9.5以下であれば、アルカリイオン整水器協議会において、臨床試験にて安全性・有効性が科学的に確認されている範囲であり、人体への支障はないものと考えられる。また、pHが5.5より下回ると、殺菌効果の持続性が劣ることになる。
【0021】
口腔内殺菌液は、本発明の目的を損なわない範囲で、液体歯磨剤や洗口剤等に使用しうることが知られている各種の物質を含有していてもよい。例えば、精製水、エタノール等の溶剤、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の湿潤剤、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム等の発泡剤、パラベン、安息香酸、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等の防腐剤、サッカリンナトリウム、ステビアエキス等の甘味料、ハッカ油、スペアミント油、調合香料、メントール等の香料、その他フッ化物、銅クロロフィリンの金属塩、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその塩類、塩化ナトリウム、アラントイン誘導体、イソプロピルメチルフェノール、エピジヒドロコレステリン、グアイアズレン及びその塩類、クロルヘキシジン類、エデト酸塩、炭酸水素ナトリウムなどの抗炎症剤、殺菌剤、酵素等の薬効成分などを適宜含有していてもよい。
【0022】
殺菌液は、一例として、以下のように貝殻を原料として得られる。貝殻の主成分は炭酸カルシウム(CaCO)であり、カルシウム分が豊富に含まれている。
【0023】
まず、貝殻を焼成する。1000〜1200℃の温度範囲で貝殻を焼成することにより、貝殻の主成分である炭酸カルシウムが酸化カルシウム(CaO)になる。
【0024】
この酸化カルシウムと炭酸水素ナトリウムとを酸性水溶液に添加し、貝殻粉末を溶解する。炭酸水素ナトリウムが分解して発生する炭酸ガスにより、酸化カルシウムの溶解が促進され、カルシウムイオンになる。なお、炭酸ガスによって炭酸カルシウムが生成するが、更に炭酸水素ナトリウムを添加し、過剰に炭酸ガスを発生させることで、生成した炭酸カルシウムが分解し、カルシウムイオンになる。
【0025】
酸性水溶液として、酢酸水溶液、クエン酸水溶液、ギ酸水溶液、酒石酸水溶液等の水溶液を好適に用いることができる。なかでも酢酸水溶液を用いることが好ましい。酸化カルシウムの溶解が最も促進されるとともに、カルシウムの溶解度が高く、溶液中のカルシウムイオン濃度を高くすることができる。
【0026】
なお、貝殻は、一般的に種々の重金属(カドミウム、鉛、ヒ素、水銀等)を含んでいるので、これらの重金属を除去することが好ましい。これらの重金属は溶解過程で重金属イオンとなり、酸化物や水酸化物、或いは炭酸塩を形成し、沈降する。このため、得られた水溶液を静置してこれらの酸化物等を沈降させ、上澄み液と分離し、分離した上澄み液を濾過することにより、不純物を除去したカルシウムイオン水を得ることができる。
【0027】
そして、得られたカルシウムイオン水のpHが上述した範囲になるよう、pHを調製する。pHの調整は、カルシウムイオン水に炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤を添加して行えばよい。このようにして、殺菌液を得ることができる。
【0028】
また、カルシウム濃度の調整は、酸性水溶液に溶解させる焼成貝殻の量を適宜調節して上記範囲のカルシウム濃度に調節してもよい。
【0029】
また、酸性水溶液に焼成貝殻を飽和状態まで溶解させた後に、水等の希釈液を加えて上記範囲のカルシウム濃度にしてもよい。
【0030】
また、カルシウム濃度を高濃度に調製した殺菌液を用意しておき、使用する際に、上記のカルシウム濃度の範囲になるように、水等の希釈液で希釈して使用する形態であってもよい。
【実施例1】
【0031】
種々のカルシウム濃度及びpHの殺菌液を調整して用い、口腔内の殺菌効果を検証した。
【0032】
上述の製造方法に従い、焼成したカキ殻を酢酸水溶液に溶解し、カルシウム濃度32g/Lのカルシウムイオン水を調製した。このカルシウムイオン水に4%生理食塩水を添加して、種々のカルシウム濃度に調整するとともに、炭酸水素カルシウム(NaHCO)を添加して、種々のpHに調整し、殺菌液として用いた。
【0033】
用意した殺菌液のカルシウム濃度及びpHの組み合わせを表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
殺菌効果は以下のようにして評価した。
【0036】
被験者は20mLの殺菌液を口に含み、15秒間の含嗽を行った。この含嗽は、計3回行った。
【0037】
殺菌液による含嗽1時間前、含嗽直後、含嗽60分後及び含嗽120分後に、それぞれ生理食塩水10mLを使用し、10秒間含嗽した。そして、これらの口腔洗浄液を生理食塩水で10倍まで希釈した各希釈液を500μLずつ血液寒天培地上に添加し、35℃48時間炭酸ガス培養した。培養後、各培地上のコロニーをコロニーカウンターで計測し、CFU/mLとして表示した。
【0038】
そして、含嗽1時間前の細菌数を100%とし、含嗽直後、含嗽60分後、含嗽120分後の細菌数をカウントし、含嗽1時間前の細菌数に対するそれぞれの細菌数の割合(以下、この割合を細菌残存率(%)と記す)を算出して評価を行った。
【0039】
また、酢酸水溶液の代わりに乳酸水溶液を用いて調製した殺菌液(カルシウム濃度:6.4g/L、pH:12.1)(以下、殺菌液D1)を用い、上記と同様に行った。
【0040】
更には、参照実験として、食塩水、及び、市販含嗽液(商品名:システマ薬用デンタルリンス、ライオン株式会社製)についても上記と同様に行った。
【0041】
その結果を表2に示す。また、図1に殺菌液B2及び市販含嗽液の細菌残存率の経時変化を示す。また、図2に殺菌液のpHと細菌残存率の関係、図3に殺菌液のカルシウム濃度と細菌残存率の関係をそれぞれ示す。
【0042】
【表2】

【0043】
食塩水による含嗽効果は、含嗽1時間後には、ほぼ消失していた。
【0044】
また、市販含嗽液では、含嗽直後に細菌数が含嗽1時間前に比べて40%に減少した。しかし、含嗽1時間後では含嗽直後の細菌数から増加に転じており、含嗽2時間後では更に増加していた。即ち、含嗽直後では殺菌効果が高いものの、殺菌効果が続かず、持続性が低いことがわかった。
【0045】
一方、殺菌液では、含嗽直後に市販含嗽液ほどの細菌数の大幅な減少は見られなかった。しかしながら、含嗽1時間後、2時間後にも殺菌効果が持続する傾向が見られる。
【0046】
特に、図1に示しているように、殺菌液B2(pH:8.1、カルシウム濃度:6.4g/L)では、含嗽直後、含嗽1時間後、含嗽2時間後と順に細菌数が減少しており、含嗽2時間後では、市販含嗽液よりも細菌数の残存率が低く良好である。したがって、殺菌効果の持続性が高いことが示された。
【0047】
また、図2は、カルシウム濃度6.4g/Lの殺菌液A2、B2、C3の含嗽2時間後における細菌残存率を、横軸をpHとして表したものである。図2を見ると、およそpHが5.5以上で、市販含嗽液の細菌残存率よりも良好である。したがって、pHが5.5以上で長時間に渡り殺菌効果が持続するものと考えられる。
【0048】
図3に、カルシウム濃度3.2g/L、6.4g/L、32.0g/Lの殺菌液B1、B2、B3の含嗽2時間後の細菌残存率を示している。図3を見ると、カルシウム濃度がおよそ4g/L以上で、細菌残存率が市販含嗽液(69%)よりも低くなっている。したがって、カルシウム濃度が4g/L以上だと市販含嗽液に比べて殺菌効果が長時間持続する。なお、カルシウム濃度が6.4g/L以上32g/L以下、特に10g/L以上32g/L以下では、殺菌効果の持続性はさほど変わらないことから、カルシウムのコスト等を考慮して適宜設定すればよいと考えられる。
【0049】
なお、殺菌液D1では、殺菌効果が見受けられなかった。殺菌液D1は乳酸水溶液に酸化カルシウムを溶解して調整しており、カルシウムの溶解度が酢酸水溶液に比べて低く、カルシウムイオンの解離状態が安定していなかったためと考えられる。
【実施例2】
【0050】
カルシウムイオン水の器具消毒効果について検証した。
【0051】
まず、一般口腔内細菌1.0×10個/mLの菌液を作成した。この菌液200mL中に未使用の歯科矯正用のピンカッターを10分間浸漬し、菌を付着させた。
【0052】
菌を付着させた後、ピンカッターを菌液中から取り出し、各殺菌液100mLに15分間浸漬した。
【0053】
殺菌液は、実施例1にて調製したカルシウム濃度が6.4g/Lで、pHがそれぞれ5、8.1、12.1の殺菌液A2、B2、C3を用いた。
【0054】
その後、それぞれのピンカッターを100mLの生理食塩水中に移し、超音波による機械的振動を加え、ピンカッターに残存している付着菌を回収した。
【0055】
回収した液(10μL)と普通寒天培地とを混釈し、付着菌を培養(37℃、24時間)した。培養した後、形成されたコロニーの数から、ピンカッターに残存する生菌数を算出した。
【0056】
また、対照実験として、生理食塩水100mL、及び、市販の歯科小器具用の消毒剤(商品名:ラスノンメディカル、日本歯科薬品株式会社製)についても上記同様にそれぞれ行った。
【0057】
培養後の写真を図4(A)〜(E)に示す。図4(A)が生理食塩水、図4(B)が殺菌液A2、図4(C)が殺菌液B2、図4(D)が殺菌液C3、図4(E)が市販消毒液を用いた場合の写真である。また、それぞれの算出した生菌数を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
殺菌液A2、B2、C3の結果を見ると、pHが高くなるにつれて、細菌が減少している。そして、pHが12.1の殺菌液C3では、市販消毒液と同様に、細菌を検出できなかった。この結果から、器具等の消毒液としても利用できることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上述したように、殺菌液は殺菌効果に優れ、殺菌効果の持続性が高い。口腔内の殺菌や医療器具の殺菌等、殺菌が要求される様々な用途に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム濃度が1.3g/L〜32g/L、pHが5.5以上であるカルシウムイオン水を主成分として含有する、
ことを特徴とする殺菌液。
【請求項2】
カルシウム濃度が3.2g/L〜32g/L、pHが5.5〜9.5であり、口腔内殺菌に用いられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の殺菌液。
【請求項3】
カルシウム濃度が4g/L以上である、
ことを特徴とする請求項2に記載の殺菌液。
【請求項4】
前記カルシウムイオン水は焼成した所定量の貝殻を酸性水溶液に溶解し、pH調整剤を添加して得られる、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の殺菌液。
【請求項5】
前記酸性水溶液が酢酸水溶液である、
ことを特徴とする請求項4に記載の殺菌液。
【請求項6】
前記pH調整剤が炭酸水素ナトリウムである、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の殺菌液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28544(P2013−28544A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163631(P2011−163631)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(507270171)株式会社イシカワ (3)
【Fターム(参考)】