説明

毛羽検出方法及び毛羽検出器

【課題】 糸掛け作業に支障が少なく、遠心力により毛羽を糸条本体から分離させずとも毛羽を検出でき、さらには油煙等によって検出精度が低下することのない毛羽検出器を提供することにある。
【解決手段】 走行するマルチフィラメント糸条Yに生じた切断されたフィラメント(毛羽)を糸玉状の毛羽Sにし、スリット状の間隙Gを形成させた一対のガイド11の前記間隙Gにマルチフィラメント糸条Yを導入し、導入したマルチフィラメント糸条Yが前記間隙Gを通過するときに一対のガイド11から受ける通過抵抗を荷重検出器、動歪検出器、又は振動検出器からなる通過抵抗検出器13によって、力、動歪又は振動(周波数及び/又は振幅)に変換して定量化し、定量化した値が予め毛羽の通過とみなせる値として設定した値を満足した場合に毛羽を有するマルチフィラメントが通過したと異常判断手段15が判断する毛羽検出方法とその検出器1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製糸工程において走行する糸条に発生した糸玉状の毛羽(スラブ)をオンラインで精度良く検出することができる毛羽検出方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの合成繊維の製造工程、特に、タイヤコード、シートベルト、エアバック等の産業資材用繊維の製造工程において、紡糸した糸条を一旦巻き取ることなく、直接延伸する直接紡糸延伸方法が盛んに行われている。
【0003】
このような製糸工程においては、一方では製糸速度が2000m/分以上と高速化するとともに、他方では高強力、高タフネスおよび高耐久性などの高品質の糸条を製造するための過酷な延伸熱処理が要求される。このため、過酷でかつ高速な延伸熱処理によって単繊維切れ(以下、“毛羽”という)が発生しやすい状況にある。
【0004】
このような毛羽の発生は生産工程調子の悪化を招くばかりでなく、産業資材用繊維としての品質面においても問題となる。また、このような毛羽を有する糸条がタイヤコード、シートベルト、エアバック等の最終製品に仕上げるための高次加工工程に供されると、その取扱性にしばしば問題が生じる。
【0005】
そこで、このような毛羽を有する糸条が製糸工程以降の工程へ供されることを防止するために、製糸工程において生じた毛羽をオンラインで直接監視して、毛羽が発生した製品を取り除くと同時に発生を速やかに減少させる対策を講じる必要が生じる。このような見地から、毛羽が発生したら、直ちにその発生をオンラインで監視するための毛羽検出器が必要とされる。このような従来の毛羽検出器としては、合成繊維の製造分野においては、主として静電容量式センサーを用いたものと光学式センサーを用いた非接触式の毛羽センサーが使用されてきた。
【0006】
しかしながら、このような従来の非接触式毛羽センサーでは、糸条の走行速度が遅い場合には測定の再現性や精度に問題が生じることは少ないが、糸条の走行速度が例えば2000m/分以上と高速化するとその測定精度に問題が生じる。また、測定精度を上げようとすると、その感度調整が難しくなる上に取り付け位置や使用環境の制限(粉塵や油煙が多い場所では使用できない)を受ける。更に、長期使用による汚れの影響によって測定条件を常に一定に維持することが困難であるといった問題もあり、設置後の管理が難しく、それ故に充分活用できていないのが現状である。
【0007】
そこで、前述のような非接触式毛羽検出器に代わって、特公昭52−18819号公報や特開2000−199167号公報、あるいは特公昭62−261号公報などにおいて提案されているように、糸条に発生した毛羽を毛羽検出プローブに直接接触させて毛羽を検出する接触式毛羽検出器を使用することが考えられている。
【0008】
例えば、この特公昭52−18819号公報で提案されている接触式毛羽検出器は、毎秒数m程度の低速で走行する糸条に発生した毛羽を確実に検出するためには効果がある。しかしながら、この毛羽検出器では、毛羽が糸条本体から余り遊離していない場合、あるいは毛羽の遊離位置が毛羽検出針の設置方向とは逆方向にある場合などでは、毛羽を良好に検出することができないという問題がある。特に、高速走行する糸条においては、一瞬の内に毛羽検出針の設置部を通過するため、この問題は深刻である。
【0009】
そこで、このような方式の接触式毛羽検出器に代えて、特公昭52−18819号公報や特開2000−199167号公報などにおいて、高速領域においても毛羽を検出できる接触式毛羽検出器が提案されている。なお、これらの技術は、高速走行する糸条がその走行方向を変える際に発生する遠心力を利用して、毛羽を遠心力によって糸条本体から遊離させ、遊離させた毛羽を毛羽検出端部に衝突させ、その衝突時に発生する衝撃力を検出する技術である。この技術によると、遊離する毛羽の方向が遠心力の作用方向となり、この部分に毛羽検出端を設けることができるため、特公昭62−261号公報に記載されているような技術が有する問題を解消することができる。
【0010】
しかしながら、上記技術では、毛羽を糸条本体から遊離させる遠心力を得るために、糸条の走行方向を変更するためのローラなどの遠心力を生成させるための機器と組み合わせることが要求される。そうすると、高温高速で回転しているローラの極近傍に検出器を設置する事になるが、使用環境を考えると現実的ではない。更には、本質的にこれらの技術は、糸条の走行方向を変更させて遠心力を得ることが必須となるために、直進走行する糸条に対しては良好に毛羽を検出することが難しいという根本的な問題を内包していることは言うまでもない。
【0011】
【特許文献1】特公昭52−18819号公報
【特許文献2】特公昭62−261号公報
【特許文献3】特開2000−199167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、以上に述べた従来技術が有する諸問題を解決することにある。すなわち、走行するマルチフィラメント糸条の揺動が大きい高速延伸にもオンラインで用いることができ、しかも、設置場所の制約を受けず、さらには、油煙等の周囲の環境に係わる影響による検出精度の低下も起こさない毛羽検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに、上記課題を解決するための毛羽検出方法である、請求項1に係わる発明として、「走行するマルチフィラメント糸条に生じた切断されたフィラメント(毛羽)を糸玉状にし、スリット状の間隙を形成させた一対のガイドの前記間隙にマルチフィラメント糸条を導入し、導入したマルチフィラメント糸条が前記間隙を通過するときに一対のガイドから受ける通過抵抗を力、動歪又は振動(周波数及び/又は振幅)に変換して定量化し、定量化した値が予め毛羽の通過とみなせる値として設定した値を満足する場合に毛羽を有するマルチフィラメント糸条が通過したと判断する毛羽検出方法」が提供される。
【0014】
その際、上記発明は、請求項2に係わる発明のように、前記糸玉状のフィラメントをマルチフィラメント糸条を構成するフィラメント同士を交絡処理することによって形成することを特徴とする、請求項1に記載の毛羽検出方法とすることが好ましい。また、上記発明は、請求項3に係わる発明のように、紡糸直接延伸工程の交絡処理の後に用いることを特徴とする、請求項2に記載の毛羽検出方法とすることが好ましい。
【0015】
そして、上記発明は、請求項4に係わる発明のように、前記糸玉状の毛羽がマルチフィラメント糸条を構成するフィラメント(単繊維)の直径の3〜20倍の大きさを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の毛羽検出方法とすることが好ましい。
【0016】
次に、前記課題を解決するための毛羽検出器として、請求項5に記載の「糸玉状の毛羽を有して走行するマルチフィラメント糸条の前記糸玉状毛羽の大きさよりも小さくしたスリット状間隙を形成したガイドと、前記糸玉状毛羽が前記間隙を通過した際に生じる通過抵抗を検出する通過抵抗検出器と、前記通過抵抗検出器によって検出された通過抵抗から糸玉状毛羽の通過を判断する異常判断手段とを含む毛羽検出器」が提供される。
【0017】
その際、この発明は、請求項6に記載の「前記通過抵抗検出器が荷重検出器、動歪検出器又は振動検出器である請求項5に記載の毛羽検出器」とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上に説明してきた通り、請求項1及び請求項5に係わる本発明は、走行するマルチフィラメント糸条の糸道上に設けられたスリット状間隙を有するガイドによって走行糸条の糸道を規制しながら、このガイドの間隙を走行する糸条に発生した糸玉状の毛羽(スラブ)をガイドに衝突させて、毛羽を検出する。したがって、例え糸条が揺動したとしても、糸条はガイドに確実に捉えられているために、揺動の影響を受けない。
【0019】
しかも、本発明は、糸玉状になった毛羽(スラブ)をこの大きさよりも小さくした(狭くした)前記スリット状間隙を通過させて、そのときの通過抵抗を検出するため、糸条が例え高速で走行していても確実にスラブの通過を検出することができる。それどころか、糸条が高速で走行すればするほど、糸条がガイドに衝突して生じる反力が大きくなるため、糸条の通過抵抗をより精度よく検出することができる。
【0020】
その際、請求項2に記載のように、マルチフィラメント糸条を構成するフィラメント群を互いに交絡させる交絡処理を通過した糸条に対して本発明を適用すると、紡糸工程や紡糸直接延伸工程などの製糸工程が通常備える交絡処理によって、切断したフィラメントを糸玉状にすることができる。このため、糸玉状にする工程を省略でき好ましい。
【0021】
さらには、光量変化検出方式や静電容量変化検出方式などの非接触型毛羽検出方式と異なり、本発明は接触式毛羽検出方式を採用しているので、油煙等によって環境変化によって検出精度が低下することもない。また、遠心力を利用してマルチフィラメント糸条Yから毛羽を遊離させる方式でもないため、高速で回転する回転体などの危険な場所に毛羽検出器を設置する必要もなく、直進する糸条Yに対しても適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の方法と装置を適用するための工程について、溶融紡糸工程から順に説明する。先ず、溶融紡糸工程において溶融押出機などを使用して前記ポリエステルなどのポリマーを常法により溶融し、ギヤポンプ等の計量供給手段によってスピンブロックのパックドームに装着された紡糸パックへ前記ポリマーを送る。ついで、この紡糸パックに装着された紡糸口金に多数穿設されたポリマー吐出孔群から溶融されたポリマーを連続的に定量吐出してマルチフィラメント糸条Yを形成する。
【0023】
このとき、紡糸口金の直下に設けた加熱筒により紡糸口金のポリマー吐出面を保温することで、紡出されたマルチフィラメント糸条Yの細化を最適に制御するために紡出糸条Yの遅延冷却制御を行い、冷却紡糸筒から冷却風を紡出された糸条Yに図の矢印方向へ吹き付け、ガラス転移温度以下に一旦冷却する。その後、冷却された糸条Yに対して、油剤付与装置で紡糸油剤を付与した後、引取りローラにより引取られて溶融紡糸工程を完了する。
【0024】
次に、このようにして溶融紡糸されたマルチフィラメント糸条Yは、それぞれ一対の加熱ローラからなる多段の延伸ローラ群へと導き、これらの多段延伸ローラ群間において多段延伸する延伸工程へと供される。その際、前記延伸ローラ群に導かれたマルチフィラメント糸条Yは、糸条Yが各延伸ローラ群に接触する時間が十分に確保されるように、これらの多段延伸ローラ群に数ターン〜数十ターン巻回される。そして、このようにして、延伸ローラ群との十分な接触によって所定の延伸温度にまで加熱された糸条Yは、各段の延伸ローラ間でそれぞれ所定の延伸倍率に引き伸ばされる。
【0025】
次いで、前記延伸ローラ群で延伸された糸条Yは、最終的に第二交絡付与装置で交絡処理が施された後、毛羽検出器1を介して、巻取機にて巻き取られる。このとき、前記第二交絡付与装置は、巻糸体としてボビンなどに巻取って糸条パッケージとし、その後、糸条はパッケージからマルチフィラメント糸条Yを解舒しようとした場合に、糸条の解舒性を向上させるために極めて重要な役割を果たすものである。何故ならば、巻取った糸条のマルチフィラメントY同士が微小に交絡していなければ、各フィラメントがバラバラな状態で巻き取られているため、解舒時にフィラメントが引っ掛かったりして解舒性が著しく悪化するからである。
【0026】
以上に述べた本発明の毛羽検出方法と毛羽検出器の一大特徴とするところは、切断したフィラメント(毛羽)を糸玉状となった状態で検出することである。なお、本発明において、「糸玉状」とは、「単一のフィラメント(単繊維)あるいは複数のフィラメント群(単繊維群)が切断された後に、切断フィラメントが糸条の周りに巻きついて絡み合った状態」を指すものとする。ただし、この場合において、「糸条から遊離した切断フィラメント群が糸条本体には絡みつかずに糸条本体から離れて互いに絡まりあった状態」を形成することもあるので、このような状態も含むものとする。
【0027】
以上のことを念頭に置いた上で、実施態様例において、本発明の毛羽検出器1が、第二交絡付与装置の後に設けられているのは、まさに毛羽を糸玉状にするためである。言うまでもなく、切断したフィラメント(毛羽)は、噴射された圧縮空気の力によってフィラメント同士を互いに絡み合わる交絡処理を行うための前述の第二交絡付与装置に通される。しかしながら、このとき同時に、マルチフィラメント糸条Yに毛羽が生じていれば噴射された圧縮空気の作用によって糸玉状の毛羽(以下、“スラブ”ともいう)に成長する。そうすると、このようにして形成されたスラブは、前述のマルチフィラメント糸条の周りに絡みついた糸玉状の毛羽(以下、“スラブ”という)を形成する。
【0028】
そこで、本発明の毛羽検出方法と毛羽検出器1は、このようにして形成させたスラブを有効に利用して確実に毛羽を検出しようとするものである。以下、図面(図1及び図2)を参照しながら、本発明の毛羽検出方法と毛羽検出器について詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明に係わる毛羽検出器1を用いた毛羽の検出方法を説明するために、模式的に例示した説明図(斜視図)である。また、図2に関しては、図2(a)が模式側面図であって、図2(b)は図2(a)におけるX−X’方向矢視断面図(模式平断面図)である。
【0030】
これらの図1及び図2に例示した実施形態では、本発明に係わる毛羽検出器1は、スリット状に形成された間隙Gを有するガイド11(図示した例では一対の棒状ガイド11a及び11bで構成されている)を、弾性を有する支持部材12で支持して本体部14に取付ける。したがって、この支持部材12はガイド11が図3(b)に示した矢印方向(ガイド11を押し広げる方向の振動モード)にのみ動けるように運動の自由度が規制され、かつ弾性力を持って緩やかにマルチフィラメント糸条Yの糸道を規制するようになされている。
【0031】
また、この支持部材12には、図1及び図2の実施形態例では振動検出器13が接触しており、その詳細については後述するように、マルチフィラメント糸条Yがガイド11に接触して発生する振動を検出する。なお、ガイド11は、その材質を酸化アルミニウム、酸化チタンなどのセラミックとすると共に、適当な表面粗さを付与しておくことが望ましい。何故ならば、マルチフィラメント糸条Yがガイド11と接触して走行する際の擦過損傷を抑制するための摩擦係数を低減でき、更には、糸条Yとの摩擦で発生する静電気も低減できるからである。
【0032】
さらに、本発明の毛羽検出方法とその装置では、前述のように一対の棒状ガイド11aと11bとの間に形成されたスリット状間隙Gを、スラブS(糸玉状になった毛羽)が形成されたマルチフィラメント糸条Yが高速(例えば、1000m/分)で通過すると、スラブSはこれらガイド11aと11bを急激に押し広げるように作用する。したがって、ガイド11a及び11bの両方が高い周波数を有する振動を同時に惹起するので、特に振動検知センサーを用いれば、この特定範囲の周波数を有する振動を検出することにより、従来の接触式毛羽検出器で生じていたようなノイズによる検出精度の精度低下や誤動作を防ぐことができる。ちなみに、このような振動検出センサーの例としては、市販のキーエンス社製振動センサー(センサヘッド型式:GH-513、アンプユニット:GA-223)などを挙げることができる。
【0033】
以上に述べたように、本発明では、ガイド11に形成されたスリット状間隙Gに走行するマルチフィラメント糸条Yを導くことを大きな特徴とする。このとき、導いたマルチフィラメント糸条YにスラブSが生じていると、このスラブSは前記スリット状間隙Gより大きな糸玉状になっているが、この糸玉状のスラブSは無理に狭い間隙Gを通過せざるを得ないため、ガイド11から大きな通過抵抗を受ける。すなわち、スラブSを持たないマルチフィラメント糸条Yが間隙Gを通過する場合に比べて、スラブSが通過する際には、より大きな通過抵抗あるいは衝撃力がガイド11に加わる。
【0034】
本発明では、このようにしてガイド11に伝わった通過抵抗あるいは衝撃力を検知して、マルチフィラメント糸条Yに生じた毛羽(フィラメント切れ)を力(荷重)としてロードセルや歪として動歪ゲージで検出したり、あるいは、特に好ましくは振動(振幅の大きさ、あるいは振動周波数)として検出したりするものである。なお、図2及び図3の実施形態例では、一対の棒状ガイド11a及び11bのそれぞれに対応させて一対の通過抵抗検出器13a及び13bが設けられている。
【0035】
以上に述べたようにして、ガイド11a及び/又は11bへ伝播した力をそのまま反力として荷重検出器(ロードセル)によって検出したり、伝播した反力を動歪あるいは振動(周波数又は振幅)などの形態に一旦変換したりして通過抵抗を通過抵抗検出器13により検出する。そして、検出した通過抵抗を定量化して、これを数値化してスラブS(つまり、“毛羽”である)が通過したか否かを判断する。
【0036】
このとき、走行するマルチフィラメント糸条Yが大きく揺動するようなことがあっても、糸条Yの糸道上に設けられ、かつスリット状間隙が形成された一対の棒状ガイド11によって糸条Yが拘束されているため、確実に糸条Yの通過抵抗を検出することができる。しかも、光量変化検出方式や静電容量変化検出方式などの非接触型毛羽検出方式と異なり、本発明は接触式毛羽検出方式を採用しているので、油煙等によって環境変化によって検出精度が低下することもない。また、遠心力を利用してマルチフィラメント糸条Yから毛羽を遊離させる方式でもないため、高速で回転する回転体などの危険な場所に毛羽検出器を設置する必要もなく、直進する糸条Yに対しても適用することができる。
【0037】
以上に述べた通過抵抗検出器13では、マルチフィラメント糸条YのスラブSがガイド11を通過する際の通過抵抗あるいはガイド11にスラブSが衝突して発生する反力(衝撃力)を確実に検出することができる。なお、このような通過抵抗を反力(衝撃力)として検出する通過抵抗検出器とその検出方法については、周知の技術、例えば、ガイド11の根元に動歪ゲージを貼り付けて反力によって生じる歪量を検出する技術、あるいは、荷重検出器(ロードセル)をガイド11の根元部に設けて反力を荷重として直接検出する技術などを適用することができることは明らかである。したがって、その詳細説明はここでは省略する。
【0038】
なお、これ以外の検出技術としては、特に、スラブSがガイド11に衝突して生じた振動の伝播を振動の周波数や振幅(振動強度)によって検知する振動検出器をガイド11の両側部に取付けて使用することもできる。この場合、スラブSがガイド11に衝突して生じる振動の周波数は、正常な繊維径を有するマルチフィラメント糸条Yが間隙Gを通過する場合と明らかに異なるため、スラブSの通過をよりクリアに判断することができる。ちなみに、このような振動検出センサーの例としては、市販のキーエンス社製振動センサー(センサヘッド型式:GH-513、アンプユニット:GA-223)などを挙げることができる。
【0039】
以上に述べたような通過抵抗検出器13により、スラブSが間隙Gを通過する際の通過抵抗が荷重値、動歪、振動(振幅値)などからなるアナログ電気信号(電圧値あるいは電流値など)として検出されると、必要に応じて信号増幅器(図示せず)を介して検出信号を増幅した後、図示省略したA/D変換器(アナログ信号/ディジタル信号変換器)などによってディジタル信号化される。そして、ディジタル化された信号値は、マイクロコンピュータなどによって構成される異常判断手段15にインターフェース回路(図示せず)などを介して入力されて、事前の実験によって求めて予め設定した通過抵抗のしきい値レベルと比較され、この閾値レベルを超えたと前記異常判断手段15が判断すると、マルチフィラメント糸条YのスラブSがガイド11の間隙Gを通過したと認識される。
【0040】
このとき、通過抵抗検出器13として、振動の周波数によって通過抵抗を定量化して、異常判断手段15によってスラブSの通過を検出する場合には、走行するマルチフィラメント糸条Yの張力などで代表される通過抵抗は、スラブSがガイド11を通過する時に急激に変動して、正常時よりも高い周波数成分を持った振動が出現する。したがって、通過抵抗検出器13により、このような周波数を検出することによって通過抵抗を定量化又は数値化し、この情報を異常判断手段15へ送ってスラブSの通過を異常判断手段15によって判断できる。この場合、通過抵抗検出器13が特定範囲の振動数(周波数)を検出する振動周波数検出方式であるために、当然のことながら、毛羽検出器1に伝わる機械振動などの固有周波数を予め除去することができるため、ノイズの影響を受けずに毛羽が間隙Gを通過したものと判断することができるという利点を有している。
【0041】
なお、前記ガイド11は、スラブSを持たない正常なマルチフィラメント糸条Yが通過しても、ガイド11との接触による擦過損傷を受けないように、適当な表面粗さを付与しておくことが好ましい。また、ガイド11の形状は、本発明の趣旨を満足する限り特に限定されることはない。しかしながら、薄い平板状棒ガイドを用いたのでは、その柔軟性のために剛性が失われて振動などを惹起し、これによるノイズによって検出精度が低下し、仮にスラブSが通過してもこれを正確に捉えることができない。
【0042】
以上に述べたような理由から、ガイド11は、スラブSが当たった際にその衝突力に十分に耐えて簡単に変形しない剛性を持った形状を有することが必要(ただし、支持部材12は弾性を有することが好ましい)であって、その接糸部が丸断面などの適当な曲率を持った曲面を有する棒状ガイド11が特に好ましい。何故ならば、ガイド11をこのような棒状の丸断面形状とすれば、スラブSなどの異常のないマルチフィラメント糸条Yがこのガイド11に接触しても、ガイド11からダメージを受けることが少なくなるからである。
【0043】
このとき、一対の棒状ガイド11a及び11bによって形成される間隙Gの具体的な値としては、マルチフィラメント糸条Yの繊度、走行速度、ポリマー種などの条件によって、最適な値を適宜決定すべき設計事項である。すなわち、間隙Gを余りにも狭くすると、毛羽なしで正常に走行するマルチフィラメント糸条Yに対しても大きなダメージを与えたり、スカムが蓄積したりして好ましくなく、反対に間隙Gを余りに広くすると、糸玉状になった毛羽の通過抵抗が小さくなって、精度よく毛羽の発生を検知することが困難となる。したがって、適正な間隙Gの値は、対象とするマルチフィラメント糸条Yに対して実験によって決定することが好ましい。
【0044】
しかしながら、敢えてガイド11aと11bの間隙Gを設定するとするならば、この間隙GはスラブSよりも小さいことが望ましく、具体的にはフィラメント(単繊維)の直径の3倍〜20倍である。もし、間隙Gがフィラメント(単繊維)の直径の3倍未満であれば、マルチフィラメント糸条Yを構成するフィラメント群は、間隙Gを通過する際に、容易に扁平状に変形できることを考慮して、より大きな通過抵抗を受けることとなって、ダメージを受けるからである。逆に、20倍より大きくなると、糸玉状の毛羽が大きな通過抵抗を受けずに間隙Gを通過してしまうため、毛羽の検出精度が低下する。
【0045】
このとき更に、ガイド11の間隙Gに対して走行糸条Yが直角に入るように毛羽検出器1のガイド11の設置方向が互いに90°の角度をなすように異ならせて二箇所に設けることが好ましい。何故ならば、スラブSが扁平化していて一つ目のガイド11のスリット状間隙Gを大きな通過抵抗を受けずにすり抜けたとしても、今度はスラブSの扁平面と直交するスリット状間隙Gに捕まって、大きな通過抵抗を受けることになるからである。
【0046】
以上に詳細に述べたように、本発明の毛羽検出方法とその検出器は、高物性を有する糸条を得るために過酷な熱処理化での延伸を受けるが故に、フィラメント切れ(単繊維切れ)が発生し易い直接紡糸延伸法による合成繊維の製糸プロセスに好適に使用できる。しかも、このような製糸プロセスにおいては、マルチフィラメント糸条Yは、例えば1000m/分以上の高速で走行しているが、このような高速走行状態にあるマルチフィラメント糸条Yであっても、オンラインで毛羽の発生を検知することができる。なぜならば、直接紡糸延伸法では、既に述べたように、フィラメント同士を行楽させる交絡処理が必須となるため、この交絡処理によって糸玉状の毛羽を生成することができるからである。したがって、糸玉状にした毛羽を狭いスリット状の間隙Gに通すことによって、確実に毛羽を検出することができる。
【0047】
ただし、以上に説明した本発明に係る毛羽検出方法とその検出器は、直接紡糸延伸プロセスを実施態様例として説明したが、その他、多錘のマルチフィラメント糸条を紡糸する紡糸工程にも広く適用できるものであることは、その趣旨より明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係わる毛羽検出器を用いた毛羽の検出方法を説明するために、模式的に例示した説明図(斜視図)である。
【図2】本発明の毛羽検出器例の模式説明図であって、図2(a)は模式側面図、そして、図2(b)は図2(a)におけるX−X’方向矢視断面図(模式平断面図)である。
【符号の説明】
【0049】
1:毛羽検出器
11(11a,11b):ガイド(一対の棒状ガイド)
12:ガイドの支持部材
13(13a,13b):通過抵抗検出器
14:毛羽検出器の本体部
15:異常判断手段
G:間隙
S:スラブ(糸玉状の毛羽)
Y:マルチフィラメント糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するマルチフィラメント糸条に生じた切断されたフィラメント(毛羽)を糸玉状にし、スリット状の間隙を形成させた一対のガイドの前記間隙にマルチフィラメント糸条を導入し、導入したマルチフィラメント糸条が前記間隙を通過するときに一対のガイドから受ける通過抵抗を力、動歪又は振動(周波数及び/又は振幅)に変換して定量化し、定量化した値が予め毛羽の通過とみなせる値として設定した値を満足する場合に毛羽を有するマルチフィラメント糸条が通過したと判断する毛羽検出方法。
【請求項2】
前記糸玉状のフィラメントをマルチフィラメント糸条を構成するフィラメント同士を交絡処理することによって形成することを特徴とする、請求項1に記載の毛羽検出方法。
【請求項3】
紡糸直接延伸工程の交絡処理の後で前記毛羽をオンライン検出することを特徴とする、請求項2に記載の毛羽検出方法。
【請求項4】
前記糸玉状の毛羽がマルチフィラメント糸条を構成するフィラメント(単繊維)の直径の3〜20倍の大きさを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の毛羽検出方法。
【請求項5】
糸玉状の毛羽を有して走行するマルチフィラメント糸条の前記糸玉状毛羽の大きさよりも小さくしたスリット状間隙を形成したガイドと、前記糸玉状毛羽が前記間隙を通過した際に生じる通過抵抗を検出する通過抵抗検出器と、前記通過抵抗検出器によって検出された通過抵抗から糸玉状毛羽の通過を判断する異常判断手段とを含む毛羽検出器。
【請求項6】
前記通過抵抗検出器が荷重検出器、動歪検出器又は振動検出器である、請求項5に記載の毛羽検出器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−265791(P2006−265791A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88243(P2005−88243)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】