説明

気体測定用装置

【課題】材料や部品等からの化学物質放散量が昇温状態で測定可能な気体測定用装置を提供する。
【解決手段】気体入口2と気体出口3を有する空洞型容器1と、空洞型容器1に付した断熱手段4と、空洞型容器1の気体入口側上流に設置した気体供給手段5と、気体供給手段5に付した流量制御手段6と、気体供給手段5に付した気体浄化手段7と、気体供給手段5に付した加熱気体を生成する加熱手段8と、空洞型容器内部の気体温度を制御する温度制御手段9を備え、数100℃程度での被測定物10からの化学物質放散量測定が可能な装置ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体表面および内部から揮発する化学物質放散量を測定するための気体測定用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の揮発性化合物量の測定は、被測定物を一定容積の容器に設定し、所定の温湿度において一定の換気条件の下、気体中の化学物質量を定性定量分析することで行われ、これに必要な気体測定用装置は、温度や不純物濃度などの所定の測定条件を満足するために、測定対象となる物体(被測定物)を設置する容器を備え、また容器内部とその容器を設置する空間の気体浄化や温湿度制御が可能な手段を有している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図3は、非特許文献1に記載された従来の気体測定用装置を示すものである。図3に示すように、所定の内部体積を有する容器13と、空気供給手段14と、空気清浄手段15と、流量制御手段16、温度制御手段17、空調手段18などから構成されている。被測定物からの揮発性化合物の放散量は、温度によって変化するため、測定時の温度は重要な要因であり、可能な限り一定に維持しなければならない。従って、気体測定用装置において温度制御手段は重要な構成要素となっている。
【0004】
また従来の気体測定用装置によれば、単一材料だけでなく複数の材料や部品から構成される物品からの化学物質量の測定も可能である。
【非特許文献1】監修 村上周三、編集委員長 田辺新一、「シックハウス対策に役立つ小型チャンバー法 解説[JIS A 1901]」、日本規格協会発行、2003年4月21日、P.37−51
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような気体測定用装置を必要とする分野は多岐にわたり、例えば種々の家庭用機器において、それらを構成する材料や部品等からの化学物質放散量を求める必要性が高まっている。それらの中には、数100℃程度の加熱条件下での測定が必要とされているものが少なくない。
【0006】
これに対して上記従来の装置構成では、種々の材料や部品等からの化学物質放散量を測定することは可能であるが、数100℃程度の加熱条件下で測定するには、装置に対する十分な対応がなされていなかった。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、目的とする材料や部品等から放散される化学物質について、実使用状態を想定した任意の昇温条件下で化学物質放散量を測定できる気体測定用装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の気体測定用装置は、気体流通可能となる気体入口と気体出口を有する空洞型容器と、空洞型容器に付した断熱手段と、空洞型容器の気体入口側上流に設置した気体供給手段と、気体供給手段に付した流量制御手段と、気体供給手段に付した気体浄化手段と、気体供給手段に付した加熱気体を生成する加熱手段と、空洞型容器内部の気体温度を制御する温度制御手段を備える構成としたものである。
【0009】
これによって、空洞型容器内部に設置した被測定物の温度を数100℃程度に昇温させることが可能となり、加熱された被測定物から放散された化学物質は、容器内で気体中に拡散した後、気体出口において捕集され、目的とする放散量を求めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の気体測定用装置は、加熱手段と温度制御手段を備えることにより、任意の材料や部品等からの揮発性化合物の放散量評価が可能となり、放散量の低減化など環境保全分野での有効な技術開発に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の発明は、気体流通可能となる気体入口と気体出口を有する空洞型容器と、空洞型容器に付した断熱手段と、空洞型容器の気体入口側上流に設置した気体供給手段と、気体供給手段に付した流量制御手段と、気体供給手段に付した気体浄化手段と、気体供給手段に付した加熱気体を生成する加熱手段と、空洞型容器内部の気体温度を制御する温度制御手段を備える構成とすることにより、加熱気体を空洞型容器の上流側で生成し、空洞型容器内に設置した被測定物をヒータで直接加熱することなく、加熱気体によって任意温度へ昇温することが可能となると同時に、容器内では加熱空気が十分に拡散するので温度ムラを小さくすることができる。
【0012】
第2の発明は、特に第1の発明の気体測定用装置で、空洞型容器を石英もしくは内面を不活性処理したガラスまたは金属で構成することにより、放散された揮発性化合物の容器内壁への付着が防止され、捕集前の放散物質の損失を抑制することができるため、より確からしい放散量を求めることができる。
【0013】
第3の発明は、特に第1または第2の発明の気体測定用装置で、加熱手段が、石英もしくは内面を不活性処理したガラスまたは金属でなる気体流通管を備える構成とすることにより、加熱部の変質、あるいは変質による不純物の発生による加熱気体の汚染を抑制することができる。
【0014】
第4の発明は、特に第1〜第3の発明の気体測定用装置で、空洞型容器が、容器内部の気体を冷却する冷却手段を有する構成とすることにより、気体温度を室温程度まで低下させることにより捕集剤の吸着作用が十分に機能し、捕集効率の低下を防止できる。
【0015】
第5の発明は、特に第1〜第4の発明の気体測定用装置で、空洞型容器の気体供給を垂直方向として、下方流入、上方流出となる縦型配置とすることにより、対流による気体の濃度ムラや温度ムラ影響を抑制できるので、放散物質を含有する気体の濃度ムラや温度ムラを抑制できる。
【0016】
以下、本発明の気体測定用装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における気体測定用装置の模式的構成図である。
【0018】
図1において、容器1は内部に任意体積の空洞を有し、合わせて清浄気体を流すために気体入口2および気体出口3を有している。また、容器1の気体入口2側即ち気体上流側には断熱手段4を設けている。清浄空気は、気体供給手段5および流量制御手段6、気体浄化手段7によって任意流量で容器1に供給される。容器1の内部温度は、温度検知手段9aを有する温度制御手段9と、制御用接続手段9bで接続された清浄気体の加熱手段8とによって所定温度に昇温可能となる。
【0019】
容器1は、耐熱性を有する素材で構成することが必要である。特に加熱環境での清浄気体の汚染を防止するために、石英もしくは内面を不活性処理したガラスまたはステンレス等の金属で管状構造にすることが好ましい。不活性処理は良好な酸化ケイ素被膜を形成するなど化学物質に対する吸着性が低いものが良い。
【0020】
気体供給手段5から気体出口3までの気体流路は、管状の石英もしくはポリテトラフルオロエチレン、あるいは内面を不活性処理したガラスまたはステンレスで構成される。ポリテトラフルオロエチレンについては、加熱手段8及びその近傍での使用は好ましくない。
【0021】
気体入口2及び気体出口3は、気体流路である管と容器1との接続点でもあり、容器1内への汚染を抑制できる素材で構成する。また、気体の漏れがないようにしなければならない。断熱手段4は、容器1の外部に配置するので、熱による放散ガスが少ない材料を選択する。
【0022】
気体供給手段5は、高圧ガスボンベあるいはエアポンプによる圧送式でよい。いずれの場合も、容器1内の圧力は大気レベルとなるようにする。図1の構成では、流路の終端が開放であるので、圧力は概ね大気レベルに維持できる。供給気体は、大気或いは室内空気でよい。エアポンプは市販のものでよい。高圧ガスボンベは、気体の室が安定している点で有効である。一方、高価かつ量的制約があるため、長期的維持費用が安価かつ量的制約が殆どない連続した気体供給手段としてはエアポンプが好ましい。
【0023】
流量制御手段6は、調整バルブ付フロート式流量計、あるいはそれと同等のものでよい。流量計によっては、供給気体を汚染することがあるので注意が必要である。
【0024】
気体浄化手段7は、供給気体中の不純物成分を除去するために配置する。除去方式は、活性炭等の吸着剤を用いた吸着除去方式もしくは同等の手段でよい。その場合、予め気体流量と除去効率を評価し、高い除去率を長時間維持できるだけの吸着剤を使用するなどの工夫が必要である。具体的には、ステンレスなどの筐体内に顆粒状活性炭を適量充填し、粉塵飛散防止のためのフィルターを浄化手段の出入り口に設置したものである。
【0025】
加熱手段8は、気体入口2の上流側に配置し、容器1内の温度を検知する温度検知手段9aを備えた温度制御手段9と制御用接続手段9bによって接続されている。加熱手段8は、容器1内が所定温度になるように気体入口2の上流側の流路で、清浄空気を加熱制御する。既述したように、気体流路は、管状の石英もしくはポリテトラフルオロエチレン、あるいは内面を不活性処理したガラスまたはステンレスで構成されるが、特に加熱手段8の被加熱部は、石英もしくは内面を不活性処理したガラスまたは金属でなる耐熱性に優れた気体流通管を用いる。
【0026】
所定温度が高い場合、気体出口3近傍での温度降下が不十分な場合がある。その場合、吸着作用による捕集剤の捕集効率が低下するため、流出する気体温度を下げることが必要である。そのために、図2にあるように冷却手段12を設置する。冷却手段12は、送風ファンによる空冷方式もしくは水冷方式など、同程度の冷却効果を有する手段を用いる。また、十分な冷却効果を得るため、容器1の冷却部は流路方向に沿って必要な長さを確保する。
【0027】
被測定物10は、容器1を断熱材4が囲む範囲内に配置し、加熱放散された化学物質は容器1内で供給気体中に拡散するので、気体出口3の下流側で捕集装置11を用いて捕集剤に捕集する。捕集装置11は、定量吸引が可能な吸引ポンプもしくは同等品でよい。捕集した化学物質の定性定量分析は、ガスクロマトグラフ−質量分析装置などを用いて行う。
【0028】
供給気体流量は、捕集装置11の吸引量以上に設定し、気体流出口11aからは気体が常時流出している状態を維持し、流量超過分のベント流路とする。
【0029】
以上のように構成された気体測定用装置について、以下その動作、作用を説明する。
【0030】
まず、容器1の内部が空の状態で、気体供給手段5及び流量制御手段6によって、大気あるいは室内空気から一定流量の空気を気体入口2から供給する。流量は、流量制御手段5の流量計によって容器内が所定の換気回数になるように調整する。供給された空気は、気体浄化手段7で活性炭などの吸着剤によって揮発性化合物が除去され、清浄空気になる。
【0031】
清浄空気によって容器1や流路などの内部を浄化するが、浄化程度は気体出口3からの流出空気中の化学物質量を測定し評価する。被測定物10からの想定される放散量に対して、十分に小さいレベルまで容器1や流路内部を清浄化する。清浄化に必要な時間は、換気回数などによって異なるので、諸条件に対応する清浄化に要する時間などを予め評価しておくことが好ましい。
【0032】
装置内が清浄化されたら容器1内を所定温度に昇温させる。必要であれば、昇温開始と同時に冷却手段12を動作させ、容器1内を所定温度にする。容器1は、加熱源である加熱手段8によって直接加熱されることがないので、熱的劣化による容器内壁の腐食などの進行速度を抑制することができる。
【0033】
容器1が所定温度で安定したら、気体出口3からの流出空気中の化学物質量を測定する。
【0034】
この量が、被測定物10からの想定される放散量に対して、十分に小さいレベルまで容器1の保温を続ける。流出空気中の化学物質量が測定可能レベルになった後、被測定物10を容器1内の所定の場所に挿入設置する。容器1内には、予め被測定物設置台を設けてもよい。設置台の素材は、石英もしくは同程度の性状を有する素材が好ましい。被測定物10は、気体出口3側から挿入する。従って、気体出口3は被測定物10の移動可能な広さを確保する。被測定物10の取出しは、挿入と逆操作を行う。
【0035】
被測定物10を設置後、経過時間に応じて分析に必要とする気体捕集を実施する。捕集剤は、揮発性有機化合物に対しては専用品として市販されているTENAXあるいは活性炭など、アルデヒド類に対してはカートリッジ式のDNPHなどがある。分析装置は、一般的に、揮発性有機化合物にはガスクロマトグラフ−質量分析装置(GCMS)、アルデヒド類には高速液体クロマトグラフ装置を使用する。その具体方法は、JIS1901Aなどを参照できる。
【0036】
容器1の内容積に対する被測定物の容積や表面積の比で表す試料負荷率が大きい場合、化学物質の放散量が抑制されることがある。これは、試料負荷率が大きいほど容器1内での被測定物10の占有比率が高いため気体中にある化学物質濃度が高くなり、材料や部品表面と気体中にある化学物質の濃度勾配が小さくなり、結果として化学物質の放散量が抑制されることによる。従って、定量評価が主目的の場合、抑制状態にならないような試料負荷率での測定が必要である。
【0037】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における気体測定用装置の模式的一部構成図である。
【0038】
図2において、容器1は清浄空気の供給を垂直方向として、下方流入、上方流出となる縦型配置としている。水平方向の配置に比較して、容器1内部での空気対流による気体の濃度ムラや温度ムラ影響を抑制できるので、放散物質を含有する気体の濃度ムラや温度ムラを抑制できる。動作及び作用は、実施の形態1と同様であるが、使用中に気体出口3より容器1内部に不純物が混入しない様に注意を払わねばならない。
【0039】
以上のように、本実施の形態では、空洞型容器内部およびそこに設置した被測定物を予め加熱された気体によって数100℃程度に昇温可能で、昇温状態で放散された化学物質の捕集と定性定量分析ができる。これによって、昇温状態で使用される部品や材料等の仕様と、それらから放散される化学物質との相関関係が明らかになる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明にかかる気体測定用装置は、被測定物が放散する化学物質を数100℃程度の昇温状態で測定できるので、化学物質放散源である材料や部品等からの化学物質放散の相関関係の解明が可能となり、放散量の低減化など環境保全分野での有効な技術開発やその評価等、種々の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態1における気体測定用装置の模式的構成図
【図2】本発明の実施の形態2における気体測定用装置の模式的構成図
【図3】従来の気体測定用装置の概略構成図
【符号の説明】
【0042】
1 容器
2 気体入口
3 気体出口
4 断熱手段
5 気体供給手段
6 流量制御手段
7 気体浄化手段
8 加熱手段
9 温度制御手段
12 冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体流通可能となる気体入口と気体出口を有する空洞型容器と、前記空洞型容器に付した断熱手段と、前記空洞型容器の気体入口側上流に設置した気体供給手段と、前記気体供給手段に付した流量制御手段と、前記気体供給手段に付した気体浄化手段と、前記気体供給手段に付した加熱気体を生成する加熱手段と、前記空洞型容器内部の気体温度を制御する温度制御手段を備えた気体測定用装置。
【請求項2】
空洞型容器が、石英もしくは内面を不活性処理したガラスまたは金属である請求項1記載の気体測定用装置。
【請求項3】
加熱手段が、石英もしくは内面を不活性処理したガラスまたは金属でなる気体流通管を有する請求項1または2に記載の気体測定用装置。
【請求項4】
空洞型容器が、容器内部の気体を冷却する冷却手段を有する構造とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項5】
空洞型容器の気体供給を垂直方向として、下方流入、上方流出となる縦型配置である請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体測定用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−91311(P2010−91311A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259258(P2008−259258)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】