説明

気象レーダシステムとその降水量算出方法

【課題】観測パラメータから降水粒子のカテゴリーを判定し、それぞれに適した方法で高精度の降水量算出を可能とする。
【解決手段】垂直、水平偏波によるレーダ波の同時送受信によって二重偏波観測を行い、観測パラメータとしてレーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、比偏波間位相差(KDP)、偏波間相関係数(ρHV)を作成する。降雨算出時には、ρHV値から降水粒子のカテゴリーが雨かそれ以外かを判定し(S1)、「雨」と判定された場合、KDPにより低い空間分解能で降水量を算出した後(S2)、Zを併用して高分解能の降水量を算出する(S3)。S1で「雨以外」と判定された場合、Z、ZDR、KDP、ρHVから「雪」、「あられ」、「融解層」を判定する(S4)。判定されたカテゴリー毎に用意した降雨算出パラメータB、βにより、降水量を算出する(S5)。最終的に、S3で算出した降水量とS4のカテゴリー別降水量を合算する(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチパラメータレーダ(別名、二重偏波ドップラーレーダ)を用いて、ダム・河川・道路・下水道管理等における雨量算出などの気象防災に資する気象レーダシステムに係り、特に降水粒子を考慮した降水量算出方法を関する。
【背景技術】
【0002】
従来の気象レーダシステムでは、季節による大まかな降水量算出パラメータを用意しておき、季節ごとにパラメータを変更して観測結果から降水量を求めている。このため、時として雨のための降水量算出パラメータを雪に適応してしまい、降水量算出の誤差が増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】V.N.Bringi and V.Chandrasekar, POLARIMETRIC DOPPLER WEATHER RADAR, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS, p.517-518, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の如く、従来の気象レーダシステムでは、季節ごとにパラメータを変更して観測結果から降水量を求めているため、時として不適切な降水量算出パラメータを使用してしまい、降水量算出の誤差が増大するという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、観測パラメータから総合的に降水粒子のカテゴリー(雨、雪、あられ、融解層)を判定し、それぞれに適した方法で精度の高い降水量算出を可能とする気象レーダシステムとその降水量算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る気象レーダシステムは、水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信する送受信装置と、前記送受信装置の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出する信号処理装置と、前記複数の観測パラメータに基づいて降水粒子のカテゴリーを判定し、カテゴリー別に用意した最適な降雨算出パラメータを用いてそれぞれの降水量を算出し合算する降水量算出手段とを具備することを一態様とする。
【0007】
前記複数の観測パラメータは、レーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、比偏波間位相差(KDP)、偏波間相関係数(ρHV)であることを一態様とする。
【0008】
前記降水量算出手段は、初期段階で、前記偏波間相関係数(ρHV)により降水粒子のカテゴリーが雨かそれ以外かを判定し、雨以外のときは他の観測パラメータを用いて雨以外のカテゴリー別に用意される降雨算出パラメータを用いて降水量を算出することを一態様とする。
【0009】
また、本発明に係る気象レーダシステムの降水量算出方法は、水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信し、前記反射波の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出し、前記複数の観測パラメータに基づいて降水粒子のカテゴリーを判定し、カテゴリー別に用意した最適な降雨算出パラメータを用いてそれぞれの降水量を算出し合算することを一態様とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、観測パラメータから総合的に降水粒子のカテゴリー(雨、雪、あられ、融解層)を判定し、それぞれに適した方法で精度の高い降水量算出を可能とする気象レーダシステムとその降水量算出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る気象レーダシステムの一実施形態を示すブロック構成図。
【図2】上記レーダシステムに用いられる第1のハイブリッド雨量算出方法の処理の流れを示すフローチャート。
【図3】上記レーダシステムに用いられる第2のハイブリッド雨量算出方法の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態として、マルチパラメータレーダを用いた気象レーダシステムの構成を示すブロック図である。このシステムは、空中線装置(アンテナ)11、送信装置(水平偏波)12、受信装置(水平偏波)13、周波数変換装置(水平偏波)14、送信装置(垂直偏波)15、受信装置(垂直偏波)16、周波数変換装置(垂直偏波)17、信号処理装置18、監視制御装置19、データ変換装置20、データ表示装置21、データ蓄積装置22、データ通信装置23、遠隔監視制御装置24、遠隔表示装置25から構成される。
【0014】
上記構成において、遠隔監視制御装置24からの監視制御信号が監視制御装置19を通して信号処理装置18に送られると、信号処理装置18内では、内部に格納されている種信号のデジタルデータが発生され、D/A変換された後、送信IF信号として水平偏波係の周波数変換装置14及び垂直偏波系の周波数変換装置17に送られ、それぞれRF信号にアップコンバートされる。
【0015】
周波数変換装置14,17で得られた水平偏波、垂直偏波の送信RF信号は、送信装置12,15により遠距離の観測可能な送信電力に増幅される。増幅された水平偏波、垂直偏波の2波は、空中線装置11より空間に送出される。
【0016】
空間上の降水からの水平偏波、垂直偏波による反射波はいずれも上記空中線装置11にて水平偏波/垂直偏波別に捕捉され、それぞれ受信装置13,16にて受信され、周波数変換装置14,17でIF信号に変換された後、共に信号処理装置18に送られる。
【0017】
信号処理装置18は、水平偏波/垂直偏波に送られた水平偏波/垂直偏波の受信IF信号をそれぞれA/D変換し、I/Q検波した後、受信電力(水平偏波、垂直偏波)、偏波間位相差、偏波間相互相関、ドップラ速度を算出する機能を持つ。
【0018】
データ変換装置20は、信号処理装置18で得られる受信電力からレーダ反射因子などの算出機能をもつ。具体的には後述の複数の手法が考えられる。
【0019】
データ表示装置21はデータ変換装置20で解析されたデータを表示する。データ蓄積装置22はデータ変換装置20で解析されたデータを蓄積する。データ通信装置23はレーダサイト外に通信手段を講じてデータ変換装置20で解析されたデータを転送する。遠隔表示装置25はレーダサイトから転送されてきたデータを表示、または解析等を実施する。また、遠隔監視制御装置24は監視制御装置19と同様にレーダシステムの監視が可能である。
【0020】
上記構成による気象レーダシステムにおいて、図2を参照して本発明の降水量算出方法を説明する。
【0021】
(第1の実施例)
図2は上記気象レーダシステムのデータ変換装置20に用いられる第1のハイブリッド降水量算出方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0022】
まず、信号処理装置18及びデータ変換装置20の前段により、観測パラメータとしてレーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、比偏波間位相差(KDP)、偏波間相関係数(ρHV)が作成される。
【0023】
データ変換装置20において、まず偏波間相関係数ρHVにより降水粒子のカテゴリーが雨かそれ以外かを判定する(ステップS1)。一般に、偏波間相関係数ρHVが1に近い場合は雨である可能性が高いので、一定のしきい値により、雨かそれ以外かを判定することができる。
【0024】
ステップS1で「雨」と判定された場合、比偏波間位相差KDPにより低い空間分解能で降水量を算出した後(ステップS2)、レーダ反射因子Zを併用することにより高分解能の降水量を算出する(ステップS3)。
【0025】
ステップS1で「雨以外」と判定された場合、Z、ZDR、KDP、ρHVから「雪」、「あられ」、「融解層」を判定する(ステップS4)。判定されたカテゴリー(「雪」、「あられ」、「融解層」)毎に用意した降雨算出パラメータB、βにより、降水量を算出する(ステップS5)。
【0026】
最終的に、低い空間分解能で算出した降水量とカテゴリー別に算出した降水量を合算し、高い空間分解能の降水量を算出する。合算の際には時空間分布におけるカテゴリー間の段差を解消するため、データのスムージングを実施する。(ステップS6)。
【0027】
(第2の実施例)
図3は上記気象レーダシステムのデータ変換装置20に用いられる第2のハイブリッド降水量算出方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0028】
信号処理装置18及びデータ変換装置20の前段により、観測パラメータとしてレーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、比偏波間位相差(KDP)、偏波間相関係数(ρHV)が作成される。
【0029】
まず、データ変換装置20において、Z、ZDR、KDP、ρHVにより、降水粒子のカテゴリーが「雨」、「雪」、「あられ」、「融解層」のいずれのカテゴリーであるかを判定する(ステップS11)。
【0030】
「雨」と判定された場合、KDPにより低い空間分解能で降水量を算出した後(ステップS12)、レーダ反射因子Zを併用することにより高分解能の降水量を算出する(ステップS13)。
【0031】
「雪」、「あられ」、「融解層」と判定された場合、それぞれのカテゴリーに対応付けて用意した降雨算出パラメータB、βにより、降水量を算出する(ステップS14,S15,S16)。
【0032】
最終的に、低い空間分解能で算出した「雨」の場合の降水量とカテゴリー別に算出した降水量とを合算し、高い空間分解能の降水量を算出する。合算の際には時空間分布におけるカテゴリー間の段差を解消するため、データのスムージングを実施する。(ステップS17)。
【0033】
以上のように、上記実施形態におけるマルチパラメータレーダを用いた気象レーダシステムでは、水平偏波と垂直偏波を同時に送受信し、二重偏波観測により観測パラメータとしてレーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、比偏波間位相差(KDP)、偏波間相関係数(ρHV)を算出し、これらの観測パラメータをもとに降水粒子のカテゴリーを判定し、予め用意したカテゴリー別の最適な降雨算出パラメータを用いて降水量を算出し、最終的に各カテゴリー別の降水量を合算するようにしているので、季節等によらず、より高い空間分解能でより高精度な降水量を算出することができる。
【0034】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、本発明によれば、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0035】
11…空中線装置(アンテナ)、12…送信装置(水平偏波)、13…受信装置(水平偏波)、14…周波数変換装置(水平偏波)、15…送信装置(垂直偏波)、16…受信装置(垂直偏波)、17…周波数変換装置(垂直偏波)、18…信号処理装置、19…監視制御装置、20…データ変換装置、21…データ表示装置、22…データ蓄積装置、23…データ通信装置、24…遠隔監視制御装置、25…遠隔表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信する送受信装置と、
前記送受信装置の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出する信号処理装置と、
前記複数の観測パラメータに基づいて降水粒子のカテゴリーを判定し、カテゴリー別に用意した最適な降雨算出パラメータを用いてそれぞれの降水量を算出し合算する降水量算出手段と
を具備することを特徴とする気象レーダシステム。
【請求項2】
前記複数の観測パラメータは、レーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、比偏波間位相差(KDP)、偏波間相関係数(ρHV)であることを特徴とする請求項1記載の気象レーダシステム。
【請求項3】
前記降水量算出手段は、初期段階で、前記偏波間相関係数(ρHV)により降水粒子のカテゴリーが雨かそれ以外かを判定し、雨以外のときは他の観測パラメータを用いて雨以外のカテゴリー別に用意される降雨算出パラメータを用いて降水量を算出することを特徴とする請求項2記載の気象レーダシステム。
【請求項4】
水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信し、
前記反射波の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出し、
前記複数の観測パラメータに基づいて降水粒子のカテゴリーを判定し、カテゴリー別に用意した最適な降雨算出パラメータを用いてそれぞれの降水量を算出し合算することを特徴とする気象レーダシステムの降水量算出方法。
【請求項5】
前記複数の観測パラメータは、レーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、比偏波間位相差(KDP)、偏波間相関係数(ρHV)であることを特徴とする請求項4記載の気象レーダシステムの降水量算出方法。
【請求項6】
前記降水量の算出は、初期段階で、前記偏波間相関係数(ρHV)により降水粒子のカテゴリーが雨かそれ以外かを判定し、雨以外のときは他の観測パラメータを用いて雨以外のカテゴリー別に用意される降雨算出パラメータを用いて降水量を算出することを特徴とする請求項5記載の気象レーダシステムの降水量算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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