説明

水不溶性カンプトテシンの脂質複合体の凍結乾燥

【課題】本発明の目的は、9−AC又は他の水不溶性カンプトテシンの薬学的に許容できる剤形を提供することである。
【解決手段】本発明は、水不溶性カンプトテシン、リン脂質及び薬学的に許容できる凍結乾燥賦形剤の凍結乾燥物を含有する医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、水不溶性カンプトテシンのための薬学的に許容できる剤形に関し、更に詳細には、癌及び他の病気の治療のために、液体状に戻され、静脈注射、皮下注射又は経口投与に用いられる剤形で患者に投与される9−アミノ 20(S)−カンプトテシン(以下、9−ACという)及び9−アミノ−20(R)−カンプトテシンに関する。
【背景技術】
【0002】
カンプトテシン及びその類似物は、結腸癌、白血病及びマウスへの白血病L1210 又はラットへのWalker 256腫瘍等の実験的に移植した悪性腫瘍に対して抗腫瘍活性を示す。Potsmiesel,M.,癌におけるDNAトポイソメラーゼを参照されたい。カンプトテシンは、キノリン(A及びB環)、ピロリン(C環)、α−ピリドン(D環)及び六員環ラクトン(E環)の特徴的な融合五員環系を含む五員環アルカロイドである。無傷のラクトン環、環E及び20位のヒドロキシル基が抗腫瘍活性に必須であることが見出された。
カンプトテシン類似物の研究は、該化合物のDNA切断誘導能力と抗腫瘍活性との間の相関を示唆する。それは、真核細胞内でDNAのトポロジーを変化させることができる単量体酵素、トポイソメラーゼIの存在下におけるDNA損傷を引き起こす作用のユニークな機構を有する。トポイソメラーゼIは、DNAに結合し、二重らせんを巻き戻し、その後DNA鎖が分離する前に切断を再結合する。カンプトテシンは、DNAヘリックスの1つのストランドが破壊され従ってDNAの再結合を妨げる、共有結合DNA−トポイソメラーゼI複合体に結合して安定化すると信じられている。
カンプトテシン及びその類似物の治療への利用はその水への溶解性の乏しさ、及び高い毒性のために厳しく制限されている。カンプトテシンの抗腫瘍活性を減少させずに毒性を減少させる多くの試みが、誘導体の開発によって行われてきた。5−、7−、9−、10−及び11位が置換されたカンプトテシン誘導体が研究された。少なくとも3種のカンプトテシン誘導体、即ち7−エチル−〔14−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジン〕カルボニルオキシカンプトテシン(CPT−11);20−(S)−カンプトテシン;10−〔(ジメチルアミノ)メチル〕−4−エチル−4,9−ジヒドロキシ−1H−ピラノ〔3’,4’:6,7〕インドリジノ〔1,2−b〕キノリン−3,14(4H,12H)ジオンモノヒドロクロライド(トポテカンヒドロクロライド);及び9−アミノ−20(S)−カンプトテシン;が臨床段階の種々の段階にある。
【0003】
9−ACは水に全く不溶性である(0.002mg/ml)。これは、無菌で貯蔵安定な剤形として作ることを困難にする。国立癌研究所(NCI)により行われた研究では、該薬剤の溶解限界を克服するため、9−ACを有機溶媒ジメチルアセトアミド(DMA)に配合した。このNCIの配合は、DMA1ml中5mgの9−ACを含む。利用に際して、生成物をポリエチレングリコール(米国薬局方)及びリン酸からなる希釈剤で希釈した。NCI配合には、該配合1mlに対して49mlの希釈剤を加えた。
NCI配合は、商品として利用するには不都合な欠点を有する。DMACはゴムストッパーを侵食するので、生成物は、栓をしたバイアルで供給することができず、アンプルで供給しなければならない。アンプルは、開封するために切り目を入れて破壊するので、労働者に対するけが及び汚染の危険が存在するので、使用するのには不都合である。更に、破壊したアンプルの開封物由来の生成物中のガラス小片をろ過しなければならない。
DMAは、静脈投与のための好ましい媒体(vehicle)でなく、有毒な副作用の潜在的な供給源である。DMAは、5.4ml/kgの値のLD50を有し、この値は薬剤の投与において考慮されなければならない因子である。
研究されたカンプトテシン剤形を設計するための他のアプローチは、リポソームの使用である。T.G.Burke らは、Biochemistry 1993,32,5352-64(1993)において、カンプトテシンのドラッグデリバリーシステムとしてリポソームを用いることを提案している。Burke らは、カンプトテシンがジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)及びジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)と結合し、DMPC及びDMPGリポソーム二重層の両方の中で安定であることを見出した。ラクトン環がリポソーム層を貫通すると、彼らは仮定する。リポソームと結合したカンプトテシンはラクトン環の安定を示した。
ヒトに容易に投与することが可能な、満足な9−ACの薬学的に許容できる配合はまだ存在ない。9−AC’の薬学的活性に不可欠な構造上の要素を保持しながら、癌患者に好都合に投与できる安定な薬学的剤形が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
要約
本発明の目的は、9−AC又は他の水不溶性カンプトテシンの薬学的に許容できる剤形を提供することである。また、本発明の他の目的は、9−AC及び他の水不溶性カンプトテシンの脂質複合体を提供することである。更に、本発明の他の目的は、3種の脂質複合体の凍結乾燥物を提供することである。凍結乾燥物は、水、生理食塩水又は他の電解液で液体状に戻され、静脈投与又は皮下投与用のコロイド分散系を形成するか、ペースト状に形成され、経口投与用の軟ゼラチン又は硬ゼラチンカプセルに詰められる。以前は、カンプトテシンは壊死性であるため、皮下投与することができなかった。しかし、脂質複合体が、皮下投与が可能な水不溶性カンプトテシンの放出を十分に遅くすると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に脂質複合体の調製及び9−ACの脂質複合体の凍結乾燥物について詳述するが、当業者は、以下の方法が脂質複合体の調製、及びカンプトテシンそれ自体のように水に不溶性である、他のカンプトテシンの凍結乾燥物の調製に適用されることを理解するだろう。
本発明によれば、注射用水等の薬学的に許容できる水性希釈剤で液体状に戻すことができ、9−ACのジメチルアセトアミド溶液に比較して毒性が低く、より安定で、特に重要なことはこの配合及び投与は、9−ACの溶解性に制限されない、9−ACのリン脂質複合体の凍結乾燥物が調製される。
本発明によれば、凍結乾燥物は、第一の有機溶媒で9−ACの溶液を調製し、第二の有機溶媒でリン脂質溶液を調製し、リン脂質溶液と9−AC溶液とを混合し、混合溶液に水を加えて9−ACの脂質複合体を形成させ、第一及び第二の有機溶媒を除去して水相として水中の脂質複合体の分散液を与え、分散液の水相中に薬学的に許容できる賦形剤(excipient)を溶解し、そして脂質複合体の分散液を凍結乾燥して凍結乾燥物を得る工程からなる方法によって調製することができる。この凍結乾燥物は、生理的に許容できる水性希釈液で液体状に戻すとき、コロイド分散系を形成する。
【0006】
本発明の好ましい実施態様によれば、凍結乾燥物は、9−ACのジメチルスルホキシド濃厚溶液を形成し、リン脂質DMPC及びDMPGのクロロホルム濃厚溶液を形成し、リン脂質溶液と9−AC溶液とを混合し、注射用水等の水性溶液を加えて9−ACの脂質複合体を形成し、かつ水相として水中の脂質複合体の分散液を与え、該分散液を散布してダイアフィルター(diafilter)して溶媒を除去し、脂質複合体の分散液の粒子サイズを減少させ、薬学的に許容できる凍結乾燥賦形剤としてマンニトール水溶液を分散液に加え、凍結乾燥する工程を含み、凍結乾燥物は、水で再構成すると9−AC脂質複合体のコロイド分散系を与える。
本発明の他の実施態様によれば、9−アミノカンプトテシン又は他の水不溶性カンプトテシンを含む凍結乾燥組成物が提供され、それは9−AC、リン脂質及び薬学的に許容できる凍結乾燥賦形剤を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
発明の詳細な説明
本明細書において、「水不溶性カンプトテシン」なる用語は、23℃における水に対する溶解度が0.01mg/ml未満の、カンプトテシン又は前述したようなカンプトテシン系の特徴的な融合五員環を有する、他の五員環アルカロイドを意味するものとする。
「脂質複合体」なる用語は、当業界において受け入れられている用語である。
脂質複合体は、脂質とカンプトテシンの間の非共有結合として特徴づけられ、示差走査熱量計による相転換として観察される。
本明細書において用いられる、「薬学的に許容できる水性希釈剤」とは、注射用水、生理食塩液及び他の既知水性賦形剤を意味するものとする。
「凍結乾燥賦形剤」なる用語は、色、テクスチャー、強度及びケーキ容量等の特徴を向上させるために、凍結乾燥前に溶液に添加する物質を意味するものとする。凍結乾燥賦形剤の例を下記に挙げる。
9−ACを、9−ニトロカンプトテシンを錫又は鉄と鉱酸との組み合わせ等の還元試薬により還元して調製する(Miyasakaらの米国特許第4,604,463 号明細書を参照)。9−アミノ−20(S)−カンプトテシン及び9−アミノ−20(R,S)−カンプトテシンの調製は、米国特許第5,106,742 号明細書及び第5,225,404 号明細書に記載した。他の水不溶性カンプトテシンは当業界で知られており、その調製は文献に記載されている。
9−アミノ−20(S)はカンプトテシンC20H17N3 O4の化学式を有し、下記構造式を有する。
【0008】
【化1】

【0009】
本発明によれば、9−ACの有機溶媒の濃厚溶液を調製する。この溶液を調製するのに用いられる最も典型的な例はジメチルスルホキシド(DMSO)である。しかし、ジメチルホルムアミド等の他の有機溶媒を用いることもできる。有用な溶媒はカンプトテシン類似物と安定な溶液を形成するものでなければならず、例えば、薬剤と相互作用せず、不安定化せず、及び/又は非活性化しないものでなければならない。更に、溶媒中のカンプトテシン類似物の溶解性は、カンプトテシン類似物が脂質複合体の商業的有効量を形成するほど十分に高い量で溶解することができるほど高くなければならず、溶媒は、後述するような脂質複合体の水性分散液から容易に除去できるものでなければならない。好ましくは、約5〜50mg/ml、更に好ましくは約20〜40mg/ml、最も好ましくは40mg/mlの濃度のカンプトテシン溶液が用いられる。濃度は溶媒の性質及び温度に依存して変えることができるが、脂質/カンプトテシン複合体の調製に濃厚なカンプトテシン溶液を用いることが重要である。これは、工程の後で除去されなければならない溶媒の量を最小限にし、それは、カンプトテシンが溶液から出てきて水の添加により脂質と脂質/カンプトテシン複合体を形成するのを助けるからである。
リン脂質溶液を調製するのに用いる有機溶媒は、カンプトテシン溶液について概説したものと同様、要求に合ったものでなければならない。それは、リン脂質と相溶性があり、リン脂質又はカンプトテシンを不安定化させるものであってはならない。更に、複合体を形成するのに脂質の十分な量を導入でき、かつ後で除去しなければならない溶媒の量を最小限にできるように、脂質は溶媒に十分溶解性であるべきである。脂質複合体の分散液から容易に除去することができる溶媒が最も好ましい。この溶液を調製するのに用いられる最も典型的な溶媒はクロロホルム又はメチレンクロライドである。典型的には、このリン脂質溶液の濃度は約10〜250mg/mlである。
【0010】
リン脂質はその性質として両親媒性である。即ち、分子は長鎖炭化水素等の疎水性の尾及び親水性の頭を有する。水又は生理食塩水等の水性媒体中では、尾は水分子から離れ、お互いに一列に並び、頭は水相の中の表面に向かっている。9−AC等の非常に不溶性の薬剤を調剤するのに便利にするのは、リン脂質のこのような性質である。
本発明で用いられるリン脂質は、相転移温度が体温又は37℃以下で、複合体は体内で薬剤を放出する。有用なリン脂質の代表的な例は、合成リン脂質DMPC、DMPG、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)又はこれらの混合物を含む。リン脂質の他の例は、Marsh,M.A による、CRC Handbood of Lipid Bilayers,CRC Press(1990)に見られる。DMPC及びDMPGを、DMPC/DMPGを約7:3の比率で用いると、それらは細胞膜に近いものとなる。
脂質溶液を、9−AC溶液に、9−AC/脂質の重量比が約1:80〜1:5、好ましくは約1:80〜1:10、更に好ましくは約1:60〜1:10、最も好ましくは約1:45〜1:25となるように加える。
いくつかの応用においては、脂質複合体にコレステロール又はそのヘミコハク酸誘導体を添加することが好ましいことが見出された。コレステロールは、より密接に包装される二重層をもたらし、それによって薬剤の放出を遅くすると思われる。このアプローチは、薬剤が非常に速く放出されると危険な壊死をもたらす皮下注射に特に好ましい。コレステロールがリン脂質溶液に添加される。コレステロールは、リン脂質100部当たり約0.5〜15部の量で用いられる。
【0011】
脂質の溶媒溶液とカンプトテシンを混合した後すぐに、水又は水性溶液を迅速に加え、混合液を数分間かき混ぜる。水の添加が、9−AC及び脂質を、それぞれの溶媒から出させ、互いに複合化されると思われる。100mlの水に対して9−ACが約0.05〜0.5mgの量存在するように水を添加するのが好ましい。凍結乾燥工程の間に除去しなけばならない水の量を最小化するように水の量を制限することが好ましい。大量の水は、後に続く凍結乾燥工程の間に除去しなければならない水の量を増加させるので好ましくない。複合化は、約30分で完全に進むと思われる。しかし、複合化の完全化を保証するため、約1時間分散液をかき混ぜることが好ましい。
上述した脂質複合体分散液を溶媒を除去するために処理する。この目的のため、多種の技術を用いることができる。例えば、分散液を窒素ガス等のガスにより散布させると、クロロホルムが除去できることが見出された。ダイアフィルトレーション(diafiltration)工程が(接線フローろ過工程として知られる)、DMSOを除去するために用いられる。5〜150キロダルトンのポアサイズを有する中空繊維のカートリッジが用いられる。用いられるダイアフィルトレーション(diafiltration)カートリッジはA/G Technology Corporation of Needham,Massachusettsから、商標XPRESSので得られる。用いられる他の技術は遠心を含む。
薬学的に許容できる凍結乾燥賦形剤を、分散液の水相に溶解する。典型的には賦形剤としてマンニトールを用いるが、脂質複合体の薬剤と相互作用しない他の賦形剤も用いられる。本発明において、リン酸ナトリウム又はリン酸カリウム、クエン酸、酒石酸、ゼラチン、マンニトール、ラクトース、デキストロース、デキストラン、ヘタスターチ(hetastarch)等の炭化水素等が有用であると思われる賦形剤の一般例である。液体状に戻す場合において水に容易に分散するように、良い質のケーキを供給するために、賦形剤は単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
【0012】
賦形剤は、典型的には水溶液として分散液に添加される。また、凍結乾燥により除去する水の量を最小限にするため、濃厚溶液を用いることが好ましい。容易に溶解し、良好な外観を与えるように、賦形剤の量は、ひびが入らず、縮小せず多孔性のケーキを与えるために、当業界で公知の方法で調整される。マンニトールは有用であることが見出された。マンニトールは、約5〜150mg/mlの濃度の溶液として分散液に添加される。マンニトールは、9−AC1部に対して約1〜100重量部の量添加される。
溶媒を除去し賦形剤を添加した後、分散液をホモジナイザー(例えば、Tekmar rotor/stator homogenizer,Model T25、又はmicrofluidics submerged jet homogenizer,Model M110Y)に通す。一般に、分散液の粒子サイズが小さければ小さいほど凍結乾燥サイクルの間の配合物の乾燥が早い。約10〜500nmの範囲の粒子サイズ分布及び約250nmの平均粒子サイズを有する分散液が凍結乾燥に十分であることが見出された。好適な粒子サイズは投与方法に依存して変化してもよい。
本発明による、典型的で有用な凍結乾燥サイクルを下記に詳述する。サイクルは、当業界で公知の方法に有用な装置及び設備に依存して変えてもよい。
ホモジナイズされた配合を、公称容量5〜50mlバイアルに注ぐ。バイアルを約5℃の凍結乾燥チャンバー内に置く。バイアルのサイズは、通常それぞれのバイアルが9−ACの単一の投与量を含むように選択される。チャンバーの温度を1時間にわたって−30℃にまで下げ、この温度を約4時間の間−30℃に維持する。凍結乾燥チャンバー内の圧力をサイクルの残りの間、200〜250マイクロに下げる。チャンバー内の圧力を下げた後、温度を15時間にわたって+25℃に上げ、生成物を5時間の間25℃に保持する。次いで、温度を20分にわたって+40℃にあげ、40℃を2時間保持する。凍結乾燥生成物は好ましくは約5%未満の最終水分含有量であり、通常は約1〜2%である。
【0013】
静脈又は皮下投与のために、凍結乾燥物は、水、生理食塩水又は他の電解液等の水性媒体で液体状に戻される。凍結乾燥生成物への水の添加は、賦形剤の水溶液中で脂質複合体のコロイド分散系を与える。9−ACも脂質も水に溶解しない。コロイド分散系は、少なくとも2つの分離した相を含む。第一は、分散した、即ち内側相である。第二は、連続した、即ち外側相である。コロイド状の系は、少なくとも1つの寸法が10〜100Å〜数μmの範囲の物質を1つ又はそれ以上含有する。Remington's Pharmaceutical Sciences,18th Edition,1990,Mack Publishing Company,Easton,PA 18042 の第19章 272-4頁のDisperse Systems 参照。本発明のコロイド分散系においては、分散即ち内側相は、10nm〜1000nmの範囲の粒子サイズの9−AC脂質複合体を含有する。水性媒体の選択において、分散体が分離する傾向を最小にするために脂質複合体(推定1.09g/cc)と等しい比重を有するものを用いることが好ましい。静脈投与のために、脂質複合体の凍結乾燥物は水、生理食塩水、又は他の薬学的に許容できる水性希釈剤で液体状に戻される。液体状に戻されることにより、注射に適した分散液が得られる。凍結乾燥物は、水性懸濁液又はペーストとして経口投与することもできる。カンプトテシンは壊死を引き起こすので、通常は皮下投与されず、脂質が脂質複合体を皮下投与することを可能にする、組織へのカンプトテシンの放出速度を遅くすることが観察された。
経口投与のために、凍結乾燥物は、経口分散液として液体状に戻されるか、ペーストに練り上げることができる。また、凍結乾燥物を経口投与用の軟ゼラチンカプセルに充填することができる。
9−AC及びカンプトテシンの適当な投与量は、約35〜250mg/m2/時である。薬剤は、好ましくはプログラム可能な連続輸液移動性ポンプを用いて3〜21日間連続輸液として投与することが好ましい。薬剤は顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)と共に投与されるだろうことが期待される。
本発明においては、脂質/カンプトテシン複合体はその安定性を向上させるために凍結乾燥されるだろうことが意図されるが、脂質/カンプトテシン複合体は薬学的に活性であり凍結乾燥なしでも経口、静脈又は皮下投与用剤形に形成されることが理解される。抗菌剤及び酸化防止剤等の配合補助剤が、複合体の安定性を向上させるために用いることができる。
本発明を以下に更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
実施例1〜8
9−ACの凍結乾燥物を、表1に示す量の溶媒、リン脂質及び賦形剤を用いて調製した。それぞれのケースにおいて、9−ACを表に示す量でDMSOに溶解し、DMPC及びDMPGをクロロホルムに溶解した。溶液を混合し、注射用水を添加した。得られた分散液を約1時間攪拌し、約95分間窒素を分散することによりクロロホルムを除去した。DMSOを、分散液を遠心分離し上清を除去することにより除去し、注射用水でプラグ(plug)を再懸濁した。(いくつかの実施例においては、Millipore 又はAGテクノロジータンゲンシャルフローフィルター(tangential flow filters)をDMSOを除去するために用いた。)
次いで、賦形剤水溶液を分散液に加え、該分散液をULTRA TURREXホモジナイザーを用いて室温で10,000rpm でホモジナイズした。次いで、ホモジネートを上述したプロトコール又は同様な方法を用いて凍結乾燥した。
【0015】
【表1】

【0016】
実施例1で得られた凍結乾燥物を、4℃、27℃及び37℃で安定性試験を行った。最初の検定は、バイアル当たり0.299mgの9−ACを示し、研究の結果を表2に示した。
【0017】
【表2】

【0018】
研究の結果は、脂質/カンプトテシン複合体の凍結乾燥物の劣化のどんな証拠も示さない。
【0019】
実施例9
動物における研究は、本発明の9−ACの凍結乾燥物がin vivo において抗腫瘍活性を表すことを示す。凍結乾燥物のコロイド分散系を、上記実施例6の凍結乾燥物1mgを注射用水10mlに分散させて調製した。分散液を、メスの無胸腺マウス中のHT29ヒト結腸腫瘍異種移植片に対して評価を行った。静脈投与及び経口投与の両方を用いた。腫瘍異種移植片は、化学療法前に200mgまで成長した。腫瘍のサイズは、腫瘍の容量をベースに決定された。治療の比較は、3種の腫瘍のダブリングタイム(TTTD)の時間(日)に基づいた。結果を表3に要約した。治療の第一段階の間配合中に高濃度のクエン酸が存在し、高静脈注射濃度レベルで媒体に関連する死亡率の高い範囲をもたらした。配合は、Q2Dx14スケジュールにおいて毒性がなく経口的に活性であった。
【0020】
【表3】

CDF=コロイド分散液配合(脂質配合);TTTD=腫瘍サイズが2倍になるための時間(日)
静脈注射のために12日に治療開始、経口投与のために13日、N=10/群
a 最初の投与即ちクエン酸を含むCDF。ほとんどの死は媒体に帰する。第二及び残りの投与はクエン酸を含まない。
b クエン酸を含むDMSO/内部脂質の第一段階。ほとんどの死は媒体に帰する。第二及び第三の段階はクエン酸を含まない。
c 1部退行
【0021】
詳細に記述した発明及びその好ましい具体例を参考にし、添付した特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱せずに改良及び変形することが可能であることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性カンプトテシン、リン脂質及び薬学的に許容できる凍結乾燥賦形剤の凍結乾燥物を含有する医薬組成物。
【請求項2】
カンプトテシン及びリン脂質が脂質複合体として存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
上記組成物が、生理的に許容できる水性希釈剤で再構成したとき、コロイド分散系を形成する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
上記リン脂質が、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
上記リン脂質が、ジミリストイルホスファチジルコリン及びジミリストイルホスファチジルグリセロールの混合物である、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
上記ジミリストイルホスファチジルコリンが、上記ジミリストイルホスファチジルグリセロールに対して約7:3の重量比で存在する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
上記組成物中、上記カンプトテシンの上記リン脂質に対する比が約1:80〜1:5である、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
上記賦形剤がマンニトールである、請求項5記載の組成物。
【請求項9】
上記水不溶性カンプトテシンが9−アミノカンプトテシンである、請求項5記載の組成物。
【請求項10】
9−アミノカンプトテシンが9−アミノ−20−(S)−カンプトテシンである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
9−アミノカンプトテシンが9−アミノ−20−(R,S)−カンプトテシンである、請求項9記載の組成物。
【請求項12】
静脈投与に適している、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
経口投与に適している、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
皮下投与に適している、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
更にコレステロールを含む、請求項5記載の組成物。
【請求項16】
上記希釈剤が、脂質複合体とほぼ同等の比重を有する、請求項3記載の組成物。

【公開番号】特開2008−24717(P2008−24717A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242506(P2007−242506)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【分割の表示】特願平8−513489の分割
【原出願日】平成7年10月11日(1995.10.11)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)
【Fターム(参考)】