説明

水中浮力体の回収方法および回収用金具

【課題】ある程度の範囲の径の係留索でも一点集中にならずに確実に連結して、シンカーを含む中層浮魚礁の全体を海中から簡単かつ確実に引き上げることのできる中層浮魚礁の回収方法よび回収用金具を提供すること。
【解決手段】主係留索31と副係留索32との連結部分は主係留索31が折り返され、その折り返し部分の周囲にロープ33aがコイル状に巻かれて端末加工部33を形成しており、回収用金具1の上部には、主係留索31の径より太く、かつ、ロープ33aが巻かれた端末加工部33の径より小さい幅のU字溝を有するストッパーが設けられており、回収索7の巻上げの際は、そのストッパーが端末加工部33のロープ33a端部に当接し、ロープ33aがクッションの役目を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底に沈設したシンカー(「アンカー」ともいう。)に対して、係留索を介して海域や淡水域の中層水深に浮遊状態で係留される中層浮魚礁や観測ブイ等の水中浮力体をシンカーごと回収する水中浮力体の回収方法および回収用金具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の水中浮力体としては、広い深度領域に亘って集魚効果が得られるように、水中浮力体を柱状に形成すると共に、この水中浮力体を繊維強化プラスチック管や鋼管による密閉構造として浮体を兼ねた構造のものが知られている。また、複数の環状の枠体を上下に配置し、これら環状枠体の外周に網を張設すると共に、この内部にブイ状の浮体を設けた構造の水中浮力体も知られている。斯かる水中浮力体は、水面下20〜300m程度の水深に定位するように、シンカーと係留索を用いて設置されるが、水中浮力体の耐用年数が経過した場合などには、環境保全等の理由から、水中からの引上げ、回収が求められている。
【0003】
そこで、例えば、設置場所の水深がそれほど深くない場合には、ダイバーが潜水して係留索を切断し、水面上に浮き上がった水中浮力体を作業船上に引き揚げている。一方、大水深型の水中浮力体では、ダイバーによる潜水作業が困難であることから、作業船からの信号で水中浮力体がシンカーから離脱するようなシステムが提案されている(特許文献1)。すなわち、このシステムでは、水中浮力体と水底に沈設されたシンカーとを連結する係留索のシンカーに近い位置に、超音波信号で作動する切離し装置を介在させることにより、必要時に水中浮力体を水面上に浮き上がらせて回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3101433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術においては、分断した位置よりも下方の係留索とシンカーとをそのまま水中に放置するため、水底近くに放置されたこれら部材が、漁業者の操業の妨げとなることもあり、その改善が強く望まれていた。特に、国際的な環境への配慮から、水中浮力体の耐用年数の超過後はシンカーを含め全て回収することが要求されている。ところで、シンカーは一般的にコンクリートで製作されており、その重さは水中重量で約6t、引き上げ力を考慮すると約10t程度の力で持ち上げる必要がある。このため、シンカーに連結されている係留索を切断しないようにその一部分を確実に抱持し、シンカーごと水上まで引き上げ可能な回収方法および回収用金具が要求されている。
【0006】
また、通常、係留索は合成繊維製のロープであるため、一点を集中して強い力で挟持して引っ張ると切断のおそれがある。また、係留索はその径が統一されておらずまちまちである。そのため、ある程度の範囲の径の係留索に対応でき、しかもシンカーに連結された係留索を高速に巻き上げても係留索が切断されないような回収方法および回収用金具が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みなされたもので、ある程度の範囲の径(太さ)の係留索でも一点集中にならずに確実に連結して、シンカーを含む水中浮力体の全体を水中から簡単かつ確実に引き上げることのできる水中浮力体の回収方法よび回収用金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の問題点を解決するため、請求項1の発明の水中浮力体の回収方法は、水底に沈設されたシンカーに結合する係留索を介して水面下の所定域に浮遊状態で係留される水中浮力体に対して、作業船から繰り出す回収索の先端側と結合した回収用金具が着脱可能に取り付けられた遠隔操作無人探査機を、作業船と水中浮力体とを繋ぐ案内索を利用しながら水中浮力体の近くまで吊り降ろし、その回収用金具に係留索を抱持させ、その後、回収用金具と遠隔操作無人探査機とを分離し、遠隔操作無人探査機を引き上げ、作業船で回収索を巻き上げて水中浮力体をシンカーごと引き上げる水中浮力体の回収方法であって、係留索は、シンカーと連結された主係留索と、水中浮力体と連結された副係留索とからなり、それら主係留索と副係留索との連結部分は主係留索が折り返され、その折り返し部分の周囲にロープがコイル状に巻かれており、回収索の巻上げの際は、回収用金具が主係留索を抱持した状態で該回収用金具の上端部が前記コイル状のロープ下端部に当接することを特徴とする。この方法によると、主係留索に対して回収用金具が緩く包み込んだ状態で連結され、回収索を巻き上げたとき、回収用金具の上端部がコイル状のロープ下端部に当接し、そのロープがコイルの軸心方向に圧縮されることによりクッションの役目を果たすので、回収索を高速で巻上げても、主係留索の一点に力が集中することがなくなり、主係留索の切断を確実に防止して、シンカーを含む水中浮力体の全体を水中から簡単かつ確実に引き上げることができる。
また、請求項2の発明の回収用金具は、請求項1記載の水中浮力体の回収方法に使用する回収用金具であって、回収索が連結され、上端部から下端部に向かうに従い内側に傾斜するガイド面部を有するケーシングと、外側に該ケーシングのガイド面部に当接して案内される被ガイド面部を備える一方、内側に主係留索の外径とほぼ同じ湾曲面により両側から主係留索を抱持する湾曲面部をそれぞれ有する一対のチャッキングブロックと、その一対のチャッキングブロックを下方に押圧する押圧部と、係留索を抱持するまでは前記押圧部に押圧状態を保持させたまま各チャッキングブロックの一部分に係合して各チャッキングブロックの下方への移動を阻止し、該主係留索が各チャッキングブロックの湾曲面部の間に位置すると、各チャッキングブロックの一部分への係合を解放して、前記押圧部により各チャッキングブロックの被ガイド面部をケーシングのガイド面部に案内させながら各チャッキングブロックをケーシングに対し前進させ、その湾曲面部に主係留索を抱持させる揺動フックと、前記コイル状のロープ下端部に当接し、前記主係留索を引っ張る際の引張力を受けるストッパーと、を有することを特徴とする。この回収用金具によると、湾曲面部により主係留索を抱持、すなわち緩く包み込むような状態で保持すると共に、ストッパーがコイル状のロープ下端部に当接して主係留索を引っ張る際の引張力を受けるので、ある程度の範囲の径(太さ)の主係留索でも一点集中にならずに確実に連結して、シンカーを含む水中浮力体の全体を水中から簡単かつ確実に引き上げることができる。
また、請求項3の発明の回収用金具は、請求項2記載の回収用金具において、一対のチャッキングブロックは、高密度ポリエチレンで構成されていることを特徴とする。これにより、チャッキングブロックの湾曲面部と主係留索との間の摩擦抵抗が小さくなるので、主係留索を抱持してもチャッキングブロック内で主係留索が滑り易くなり、主係留索の一点に強い力が働くことをより効果的に防止でき、金属で製作した場合に比べて軽量化できる。
また、請求項4の発明の回収用金具は、請求項2または請求項3記載の回収用金具において、前記チャッキングブロックには、それぞれ、回転可能に取り付けられた回転体の一部分が切り欠かれた切欠部を有し、その切欠部により主係留索を受けて回転し該主係留索を捕捉するロープ止め金具を有する。これにより、主係留索がロープ止め金具に当ると、ロープ止め金具が回転して主係留索を抜けないように補足するので、主係留索を確実にチャッキングブロックの湾曲面部間に案内することができる。
また、請求項5の発明の回収用金具は、請求項4記載の回収用金具において、前記チャッキングブロックそれぞれのロープ止め金具は、上下方向にずれた位置に設けられていることを特徴とする。これにより、上下2箇所のずれた位置で対向するチャッキングブロックに設けられたロープ止め金具がそれぞれ反対方向に回転して主係留索を補足するので、より広範囲で主係留索を捕捉できると共に、主係留索が抜けないようより確実にチャッキングブロックの湾曲面部間に案内することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る水中浮力体の回収方法よび回収用金具では、回収用金具が主係留索に対して緩く包み込むような状態で連結すると共に、その上端部が主係留索と副係留索の連結部分に設けられたコイル状のロープ下端部に当接し、引き上げる際にコイル状のロープがコイルの軸心方向に圧縮されることにより、クッション層としての役目を果たすので、回収索を高速で巻上げても、主係留索の一点に力が集中するということがなくなり、係留索の切断を確実に防止して、シンカーを含む水中浮力体の全体を水中から簡単かつ確実に引き上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】水中浮力体の一例を示す図である。
【図2】回収索取付前の状態を示す図である。
【図3】回収索取付後の状態を示す図である。
【図4】主係留索と副係留の連結部分である端末加工部の構造を示す図である。
【図5】主係留索に回収用金具を抱持させ引き上げる際の挙動を示す部分拡大図である。
【図6】水中浮力体やコンクリートシンカーを作業船上に回収している状態を示す図である。
【図7】本発明に係る回収用金具の一例の底面図である。
【図8】係留索を抱持する前の回収用金具の状態を示す構成図である。
【図9】係留索を抱持するときのロープ止め金具や揺動ピンの動きを示す図である。
【図10】係留索を抱持したときの回収用金具の状態を示す構成図である。である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る水中浮力体の回収方法よび回収用金具の実施形態について説明する。なお、以下では、水中浮力体として、海底に沈設されたシンカーに結合する係留索を介して海面下の所定域に浮遊状態で係留される中層浮魚礁を一例に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想内での種々の変更実施ができるものである。
【0012】
≪中層浮魚礁(水中浮力体)≫
図1は、中層浮魚礁の一例を示す図である。中層浮魚礁2は、主係留索31と副係留索32とを介してコンクリートシンカー4に連結され、海中に所定域に係留され、魚礁として使用されるもので、剛体タイプと柔体タイプとがある。なお、主係留索31と副係留索32との間に下部浮力体を設けたものも存在する。
【0013】
≪中層浮魚礁の回収方法≫
次に、中層浮魚礁の回収方法について、図2〜図6を参照して説明する。
【0014】
図2に示すように回収索取付前は、まず、作業船5から案内索(ガイドロープ)6を中層浮魚礁2の上部等に引っ掛ける。そして、この案内索6を利用して、先端に回収用金具1が連結された回収索7を、ROV(Remotely operated vehicle;遠隔操作無人探査機)8に取り付けて中層浮魚礁2下端の主係留索31に向けて送り出す。ROV8は、遠隔操作により作動するものであるが、海中カメラを備えており、その映像を海上で確認しながら操作する。なお、ROV8には、ROVコード81の一端が接続され、その他端が海上の作業船5の制御装置(図示せず。)に接続されることにより、作業船5上から海中におけるROV8の動作を精度よく自在に操作することができる。
【0015】
次に、図3に示すように、ROV8に取り付けられた回収用金具1が中層浮魚礁2の下端付近の主係留索31に連結されると、ROV8は回収用金具1を離脱する。ここで、回収用金具1は、後述するように、主係留索31に対して緩く包み込んだ状態で連結する。その理由は、強く挟さんだ場合には、主係留索31の挟持部分に一点集中の力が働き、特に合成樹脂製のロープからなる主係留索31では、応力集中による強度低下を招き、破断するおそれがあるからである。なお、回収用金具1による主係留索31との連結は、制御装置からのROV8の操作で行うか、あるいは回収用金具1が主係留索31に到達したときのROV8の操作によることなく、回収用金具1自体に設けた仕掛けにより行うようにしても良い。その後、作業船5のウインチ51等を使用して回収索7を巻き上げる。
【0016】
図4は、主係留索31と副係留索32の連結部分である端末加工部の構造を示す図である。主係留索31および副係留32は、その径が特に統一されているものではなく、例えば、直径約38mm〜45mmの合成繊維製ロープが比較的数多く使用されている。図4(a)に示すように、主係留索31と副係留索32とは、主係留索31の先端を所定長だけ折り返してリング部31aを構成し、このリング部31aに対して、同じように端部をリング状にした複数本(ここでは、便宜上、3本とする。)の副係留索32を挿通することにより連結する。また、主係留索31の折返し部分31bに、直径8mm程度の細径のロープ33aをコイル状に巻き付けて端末加工部33としている。
【0017】
図5(a)〜(c)は、それぞれ、主係留索31に本発明に係る回収用金具1を取り付け、引き上げる際の挙動を示す部分拡大図である。図2に示すようにROV8先端に取り付けられた回収用金具1が中層浮魚礁2下方の主係留索31に到達し、回収用金具1に主係留索31が当ると、図5(a)に示すように回収用金具1が主係留索31を抱持した状態で連結され、その確認がなされた後、ROV8から回収用金具1を離脱する。主係留索31から離れたROV8は、作業船5上に引き上げる。そして、作業船5上のウインチ51で回収索7を巻き上げると、回収索7先端に連結された回収用金具1が上昇し、図5(b)に示すように、回収用金具1の上端部が主係留索31と副係留索32の連結部分である端末加工部33のコイル状のロープ33aの下端に当接する。さらに、ウインチ51で回収索7を巻き上げると、図5(c)に示すように、端末加工部33においてコイル状に巻き付けられた状態のロープ33aは、回収用金具1の上端部と主係留索31上部のリング部31aとの間に挟まれ、あたかもスプリングのように軸心方向に圧縮される。そのため、ウインチ51が回収索7を高速に巻き上げても、端末加工部33に巻かれたロープ33aが圧縮してクッションの役割を果たし、主係留索31に急激に過大な引張力がかかることを防止するので、主係留索31の切断を防止することができる。
【0018】
そして、図6に示すように、ウインチ51で回収索7をさらに巻き上げ、回収索7により、中層浮魚礁2、主係留索31および副係留索32、コンクリートシンカー4の全てを作業船5上に回収する。この回収方法によれば、ある程度の範囲内の外径の主係留索31であれば、局部的に挟みつけることなく確実に回収用工具1が抱持状態で連結し、しかも端末加工部33に巻かれたコイル状のロープ33aのクッション作用を利用して、コンクリートシンカー4を含む中層浮魚礁2の全体を海中から簡単かつ確実に引き上げることができる。
【0019】
≪回収用金具の構成≫
次に、上述の水中浮力体の回収方法に使用する回収用金具1の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
図7は、本発明に係る回収用金具の底面図である。また、図8(a),(b)は、主係留索と連結する前の回収用金具の状態を示す正面図、側面断面図、図9(a)〜(d)は、主係留索と連結するときのロープ止め金具や揺動ピンの動きを示す図、図10(a),(b)は、それぞれ、主係留索を抱持した状態で連結しているときの回収用金具を示す正面図、側面断面図である。
【0021】
図7〜図10において、この回収金具1は、主な部材として、ケーシング11と、上面フランジ板12と、スライドガイド13a,13bと、一対のチャッキングブロック14a,14bと、押圧部材15a,15bと、揺動フック16、ストッパー17などを有して構成されている。
【0022】
ケーシング11は、断面コ字状に形成されており、左右両側のフランジ部11a,11b内側に上端部から下端部に向かうに従い内側に傾斜した一対のガイド面部11a1,11b1を有する。ガイド面部11a1,11b1には、それぞれ、チャッキングブロック14a,14bが図7上、手前側に飛び出さないようにスライドガイド13a,13bがボルト等により取り付けられる。また、左右両側のフランジ部11a,11b外側にはアイプレート11c,11dが溶接され、アイプレート11c,11dには、回収索7と連結するためのダブリング11c1,11d1が設けられている。また、左右両側のフランジ部11a,11bの上部に上面フランジ板12が取り付けられる。上面フランジ板12には、主係留索31上部の端末加工部33より径の大きい溝12aが形成されている。従って、上面フランジ板12に端末加工部33が当接して圧縮することはない。
【0023】
チャッキングブロック14a,14bは、それぞれ、ケーシング11のガイド面部11a1,11b1に当接する被ガイド面部14a1,14b1を備え(図9参照)、被ガイド面部14a1,14b1がそれぞれガイド面部11a1,11b1に接触して上下動すると、その間の間隔が大から小に変化する。また、チャッキングブロック14a,14bは、それぞれの内側に主係留索31を抱持する湾曲面部14a2,14b2を有する。湾曲面部14a2,14b2は、それぞれ、主係留索31を挟持せずに抱持、すなわち挟み付けることなく、多少の隙間を空けて保持するように、主係留索31の最大径より少し大きい径の湾曲溝が形成されている。そのため、チャッキングブロック14a,14bが下方へ下がり、その対向する面同士が接触しても、湾曲面部14a2,14b2の間では、主係留索31を挟持せず、主係留索31を抱持した状態となる。そのため、この回収金具1では、回収索7を巻上げても、重量のあるシンカー4や中層浮魚礁2等が連結された主係留索31を挟持していないので、主係留索31の一点に力が集中するということがなくなり、主係留索31の切断を確実に防止して、シンカー4を含む中層浮魚礁2の全体を海中から確実に引き上げることができる。また、湾曲面部14a2,14b2の上下方向の長さは、例えば、主係留索31の最大径の5倍以上とする。この点でも、主係留索31の1点に力が集中することを防止して、主係留索31の切断を確実に防止できる。
【0024】
また、チャッキングブロック14a,14bには、それぞれ、回転可能に支持されたロープ止め金具14a3,14b3が設けられている。ロープ止め金具14a3,14b3は、それぞれ、図7や図9に示すように円盤からほぼ半円部分を切り欠くと共に上端部を突出させた形状の切欠部14a31,14b31を有している。ロープ止め金具14a3,14b3は、この切欠部14a31,14b31に主係留索31が当ると回転し、その回転により主係留索31を抜けないように捕捉しながらチャッキングブロック14a,14bの湾曲面部14a2,14b2間に案内する。そのため、ロープ止め金具14a3,14b3に主係留索31が当たると、主係留索31がロープ止め金具14a3,14b3から外れずに湾曲面部14a2,14b2間に確実かつ迅速に案内できる。また、主係留索31が湾曲面部14a2,14b2間から多少ずれていても、ロープ止め金具14a3,14b3が主係留索31を捕捉し回転して湾曲面部14a2,14b2間に案内するので、主係留索31を容易に抱持できることになる。特に、ロープ止め金具14a3,14b3が回転可能であるので、湾曲面部14a2,14b2との間で押さえても強い力で挟持することはあり得ない。また、主係留索31の径は、一般的に直径約38mm〜45mmのものが使用され、必ずしも統一されていないので、細い38mmの主係留索31の場合、45mm以上の主係留索31に合わせた湾曲面部14a2,14b2では、隙間が空き過ぎて動き(暴れ)過ぎる場合があるが、ロープ止め金具14a3,14b3によりその動きを抑えることも可能となる。さらに、ロープ止め金具14a3,14b3は、それぞれ反対方向に回転して主係留索31を捕捉するので、その先端により広範囲で主係留索31を捕捉できるだけでなく、主係留索31の動きを抑えることが可能となる。またさらに、ロープ止め金具14a3,14b3は、チャッキングブロック14a,14bの上下方向にずれた位置に設けられている。これにより、上下2箇所のずれた位置でロープ止め金具14a3,14b3がそれぞれ反対方向に回転して主係留索31を押さえるので、より広範囲で主係留索31を捕捉できる。また、ロープ止め金具14a3,14b3同士が当ることも防止できるので、チャッキングブロック14a,14bの端面同士をより近接させることが可能となり、より確実に主係留索31の抱持と抜け止めを行うことができる。なお、湾曲面部14a2,14b2の溝径は、前述のように直径約38mm〜45mmのものが使用されるのであれば、予めその最大径の45mmを抱持できるように、45mmとほぼ同じかそれよりやや大きな溝径にして一の溝径のチャッキングブロック14a,14bにより対応しても良いし、主係留索31の径に合わせてチャッキングブロック14a,14bを交換して湾曲面部14a2,14b2の溝径を変更し、常に最適な状態で主係留索31を抱持できるようにしても良い。
【0025】
また、チャッキングブロック14a,14bそれぞれの上部には、湾曲面部14a2,14b2が主係留索31を抱持したときに、主係留索31上部の端末加工部33の下端に当接するように主係留索31の最大径より大きく、かつ端末加工部33の最大径部分より小さいU字溝が形成されたストッパー17が設けられている。これにより、湾曲面部14a2,14b2が主係留索31を抱持し、ウインチ51が回収索7を巻き上げると、ストッパー17が端末加工部33下端のコイル状のロープ33aに当接して、端末加工部33に巻かれたロープ33aが圧縮してクッションの役割を果たす(図5参照。)。そのため、主係留索31等に急激に大きな力がかかることを防止して、主係留索31等の切断を防止できる。なお、図8(a)および図10(a)では、ストッパー17は、後述するガイドプレート14a4,14b4により隠れている。ただし、チャッキングブロック14a,14bの上端部や上面フランジ板12等によりストッパー17を代用可能であれば、ストッパー17は省略できる。また、チャッキングブロック14a,14bの前面には、それぞれ、主係留索31をチャッキングブロック14a,14b間にガイドする先広形状のガイドプレート14a4,14b4が設けられている。なお、チャッキングブロック14a,14bやロープ止め金具14a3,14b3は、金属性に限らず、強度が高く、かつ、摩擦係数の低い高密度ポリエチレン等のプラスチックで構成可能である。このようにすると、チャッキングブロック14a,14bの湾曲面部14a2,14b2と主係留索31との間の摩擦抵抗が小さくなるので、主係留索31を抱持しても主係留索31が滑り易くなり、主係留索31の一点に強い力が働き切断することをさらに防止できると共に、軽量化できる。また、湾曲面部14a2,14b2の湾曲面には、抱持した主係留索31が撓うよう長手方向、すなわち図上上下方向にローレット加工等の溝加工を施しても良い。
【0026】
押圧部材15a,15bは、それぞれ、圧縮ばね(図示せず)を内蔵したばねカバー15a1,15b1と、圧縮ばねに連結された押さえピン15a2,15b2とを有し、圧縮状態の圧縮ばねの復元力により押さえピン15a2,15b2を押圧することにより、一対のチャッキングブロック14a,14bを下方に押し出す。
【0027】
揺動フック16は、取り付けピン16aによりケーシング11裏面等に揺動可能に取り付けられており、主係留索31を抱持するまでは、図8(a),(b)および図9(a)に示すように押圧部15a,15bに押圧(圧縮)状態を保たせた状態で揺動フック16先端がストッパー17の底面に当接して、チャッキングブロック14a,14bが下方に移動することを阻止している。そして、ROV8によりこの回収用工具1が主係留索31のところまで運ばれてきて、図9(b)に示すように回転するロープ止め金具14a3,14b3により抑えられ、湾曲面部14a2,14b2間に案内されると、図9(c)に示すように移動阻止状態の揺動フック16先端に主係留索31が当接する。すると、図9(d)に示すように揺動フック16先端を後退させ、図10(b)に示すように揺動フック16が揺動して、揺動フック16先端がケーシング11裏面側に押されて後退する。図10(b)に示すようにすると、ストッパー17底面に揺動フック16先端が存在しなくなるので、チャッキングブロック14a,14bは、その被ガイド面部14a1,14b1をケーシング11のガイド面部11a1,11b1に接触させた状態でケーシング11に対し前進、すなわち図上では下方に移動して、図10(a)に示すようにその湾曲面部14a2,14b2で主係留索31を抱持した状態となる。そして、回収索7を巻き上げると、図5(b)に示すようにチャッキングブロック14a,14bの上部のストッパー17に主係留索31上部の端末加工部33の下端が当接して、図5(c)に示すように端末加工部33に巻かれたコイル状のロープ33aが圧縮してクッションの役割を果たして、主係留索31等の切断を防止する。その結果、この回収用工具1では、ある程度の範囲の径の主係留索31でもチャッキングブロック14a,14bの湾曲面部14a2,14b2が一点集中にならずに確実に抱持し、しかもチャッキングブロック14a,14b上部のストッパー17が端末加工部33に巻かれたロープ33aのクッション作用を利用して、主係留索31等が切断されないようにコンクリートシンカー4を含む中層浮魚礁2の全体を海中から簡単かつ確実に引き上げることができる。
【0028】
なお、本実施形態では、揺動フック16によるチャッキングブロック14a,14bの解放は、主係留索31がチャッキングブロック14a,14b間に挟まれている揺動フック16先端を主係留索31が当接してケーシング11裏面側に後退させることにより行うが、この回収用金具1を主係留索31まで運ぶROV8の操作により行うようにしても良い。また、本実施形態の中層浮魚礁の回収方法では、図7〜図10に示す回収用金具1を使用して説明したが、本発明では、これに限らず、端末加工部33に巻かれたコイル状のロープ33aを回収時のクッションとして利用できる回収用金具であれば、他の形態の回収用金具を使用するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の中層浮魚礁の回収方法および回収用金具は、ダイバーが潜れないような深い水深に設置された各種の水中浮力体を、主係留索や副係留索を切断することなくシンカーを含めたすべての部材を簡単かつ確実に引き上げることができる。そのため、本発明は、係留索を介して海水や淡水中の中層域に浮遊状態で係留される中層浮魚礁や観測ブイ等の水中浮力体をシンカーごと回収する技術分野に産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0030】
1…回収用金具、11…ケーシング、11a1,11b1…ガイド面部、12…上面フランジ板、13a,13b…スライドガイド、14a,14b…チャッキングブロック、14a1,14b1…被ガイド面部、14a2,14b2…湾曲面部、14a3,14b3…ロープ止め金具、14a31,14b31…切欠部、15a,15b…押圧部材、16…揺動フック、17…ストッパー、2…中層浮魚礁、31…主係留索、32…副係留索、4…コンクリートシンカー、5…作業船、6…案内索、7…回収索、8…ROV(遠隔操作無人探査機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に沈設されたシンカーに結合する係留索を介して水面下の所定域に浮遊状態で係留される水中浮力体に対して、作業船から繰り出す回収索の先端側と結合した回収用金具が着脱可能に取り付けられた遠隔操作無人探査機を、作業船と水中浮力体とを繋ぐ案内索を利用しながら水中浮力体の近くまで吊り降ろし、その回収用金具に係留索を抱持させ、その後、回収用金具と遠隔操作無人探査機とを分離し、遠隔操作無人探査機を引き上げ、作業船で回収索を巻き上げて水中浮力体をシンカーごと引き上げる水中浮力体の回収方法であって、前記係留索は、シンカーと連結された主係留索と、水中浮力体と連結された副係留索とからなり、それら主係留索と副係留索との連結部分は主係留索が折り返され、その折り返し部分の周囲にロープがコイル状に巻かれており、前記回収索の巻上げの際は、前記回収用金具が主係留索を抱持した状態で該回収用金具の上端部が前記コイル状のロープ下端部に当接することを特徴とする水中浮力体の回収方法。
【請求項2】
請求項1記載の水中浮力体の回収方法に使用する回収用金具であって、
回収索が連結され、上端部から下端部に向かうに従い内側に傾斜するガイド面部を有するケーシングと、
外側に該ケーシングのガイド面部に当接して案内される被ガイド面部を備える一方、内側に主係留索の外径とほぼ同じ湾曲面により両側から主係留索を抱持する湾曲面部をそれぞれ有する一対のチャッキングブロックと、
その一対のチャッキングブロックを下方に押圧する押圧部と、
主係留索を抱持するまでは前記押圧部に押圧状態を保持させたまま各チャッキングブロックの一部分に係合して各チャッキングブロックの下方への移動を阻止し、該主係留索が各チャッキングブロックの湾曲面部の間に位置すると、各チャッキングブロックの一部分への係合を解放して、前記押圧部により各チャッキングブロックの被ガイド面部をケーシングのガイド面部に案内させながら各チャッキングブロックをケーシングに対し前進させ、その湾曲面部に主係留索を抱持させる揺動フックと、
前記コイル状のロープ下端部に当接し、前記主係留索を引っ張る際の引張力を受けるストッパーと、を有することを特徴とする回収用金具。
【請求項3】
請求項2記載の回収用金具において、一対のチャッキングブロックは、高密度ポリエチレンで構成されていることを特徴とする回収用金具。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の回収用金具において、前記チャッキングブロックは、それぞれ、回転可能に取り付けられた回転体の一部分が切り欠かれた切欠部を有し、その切欠部により主係留索を受けて回転し該主係留索を捕捉するロープ止め金具を有することを特徴とする回収用金具。
【請求項5】
請求項4記載の回収用金具において、前記チャッキングブロックそれぞれのロープ止め金具は、上下方向にずれた位置に設けられていることを特徴とする回収用金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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