説明

水分散性セルロースと多糖類を含有する安定剤

【課題】 微細な繊維状セルロースである水分散性セルロースと多糖類を含有させることで、粒子固定化作用を付与し、見栄えの良い商品を提供し、製造工程への負荷を軽減できる安定剤を提供する。
【解決手段】 植物細胞壁を原料とする微細な繊維状セルロースである水中で安定に懸濁する成分を含み、特定の損失正接が1未満である水分散性セルロースと、特定の多糖類を含有させることで、粒子固定化作用を付与し、見栄えの良い商品を提供し、製造工程への負荷を軽減できる安定剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微細な繊維状セルロースである水分散性セルロースと少なくとも1種の多糖類を含有し、粒子固定化作用を有することを特徴とする安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より食品や化粧品等の製品を増粘させるための増粘安定剤として、ガラクトマンナン、キサンタンガム、ペクチン等の多糖類が使用されている。これらの多糖類を使用して粒子を固定化させるためには、非常に大きな粘性を付与する必要がある。このような過剰な粘ちょう性は、商品価値を損ない、攪拌やポンプ移送が困難になる等、製造工程にも負荷をかける結果となり問題である。
【0003】
微小繊維状セルロースと多糖類を含有する増粘剤としては特許文献1〜3などが知られている。これらに示されている効果は「ままこ防止」や「整腸作用」等であり、粒子固定化作用については記載されていない。
特許文献4および5には、約80%以上の一次壁からなる細胞から得られたセルロースナノフィブリルとその他の添加剤を配合した組成物に関する開示があるが、添加剤配合の主目的は、あくまで乾燥物の再分散性改良や、セルロースナノフィブリルの機能補填であり、粒子固定化作用ではない。
また特許文献6には水分散性セルロースと多糖類を含む、ごまダレや酸性乳飲料に関する記載があるが、ごまペーストや乳蛋白といったような目視では確認できないような小さな粒子の懸濁安定化であり、本発明の「1つ1つの粒子が目視で判別できる大きさの粒子」の固定化とは異なる機能である。
【特許文献1】特許第1731182号公報
【特許文献2】特開昭60−260517号公報
【特許文献3】特許第1850006号公報
【特許文献4】特表2001−520180号公報
【特許文献5】特許第3247391号公報
【特許文献6】特開2004−41119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液状組成物中の粒子に粒子固定化作用を付与し、見栄えの良い商品を製造できる安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、植物細胞壁を原料とする微細な繊維状セルロースである水分散性セルロースと、特定の多糖類を含有させることで、課題を解決し、本発明をなすに至った。すなわち本発明は以下の通りである。
【0006】
(1)植物細胞壁を原料とする、微細な繊維状のセルロースであって、水中で安定に懸濁する成分(長径:0.5〜30μm、短径:2〜600nm、長径/短径比:20〜400)を10質量%以上含有し、かつ、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満であることを特徴とする水分散性セルロースと、ガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、寒天、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、大豆水溶性多糖類、カラヤガム、サイリウムシードガム、プルラン、アラビアガム、トラガントガム、ガッディーガム、アラビノガラクタン、カードランから選択される少なくとも1種の多糖類を含有する組成物であって、水分散性セルロース:多糖類=1:9〜9:1の質量比で含有することを特徴とする安定剤。
【0007】
(2)水中で安定に懸濁する成分を10質量%以上含有する(1)に記載の水分散性セルロースを50〜95質量%と、水溶性高分子および/または親水性物質を5〜50質量%含むことを特徴とする水分散性乾燥組成物と、請求項1記載の多糖類から選択される少なくとも1種の多糖類を含有する組成物であって、水分散性乾燥組成物:多糖類=1:9〜9:1の質量比で含有することを特徴とする安定剤。
【0008】
(3)(1)記載の水分散性セルロースを50〜95質量%と、水溶性高分子1〜49質量%と、親水性物質1〜49質量%からなる水分散性乾燥組成物と、ガラクトマンナン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ペクチンから選択される多糖類からなることを特徴とする、(2)に記載の安定剤。
【0009】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の安定剤を添加することにより配合された液状組成物。
【0010】
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の安定剤を添加することにより配合される、pH3〜8または食塩濃度0.001〜20%である液状食品組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、微細な繊維状セルロースである水分散性セルロースと多糖類を含有させることで、粒子固定化作用を付与し、見栄えの良い商品を製造できる安定剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、具体的に説明する。本発明の水分散性セルロースは植物細胞壁を原料とする。具体的には、低コストで安定的に原料を入手することができて、工業的に使用が可能なものが好ましく、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹などの天然セルロースを主成分とするパルプが使用される。綿花、パピルス草、ビート、こうぞ、みつまた、ガンピなども使用が可能だが、原料の安定的な確保が困難であること、セルロース以外の成分の含有量が多いこと、ハンドリングが難しいことなどの理由で好ましくない場合がある。再生セルロースを原料とした場合、充分な性能が発揮されないので、再生セルロースは本発明の原料としては含まれない。
好ましい原料の具体的例は、木材パルプ、コットンリンターパルプ、バガスパルプ、麦わらパルプ、稲わらパルプ、竹パルプなどである。特に好ましいのはイネ科植物の細胞壁を起源としたセルロース性物質であり、具体的にはバガスパルプ、麦わらパルプ、稲わらパルプ、竹パルプである。
【0013】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースの結晶化度は特に定めるものではないが、X線回折法(Segal法)で測定されるところの結晶化度が、50%より大きいことが好ましく、55%以上であればさらに好ましい。本発明で使用する水分散性乾燥組成物は、セルロース以外の成分を含有するが、それらの成分は非晶性であり、非晶性としてカウントされる。
【0014】
本発明で使用されるセルロースの大部分、つまり90%以上は「微細な繊維状」である。本明細書中で「微細な繊維状」とは、光学顕微鏡および電子顕微鏡にて観察・測定されるところの、長さ(長径)が5nm〜5mm、幅(短径)が1nm〜200μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜10000であることを意味する。中でも好ましい「微細な繊維状のセルロース」の形態は、長さ(長径)が0.5μm〜1mm、幅(短径)が2nm〜60μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜400のものである。
【0015】
本発明の水分散性セルロースまたは水分散性乾燥組成物は、水中で安定に懸濁する成分を含有する。具体的には、0.1質量%濃度の水分散液状態として、これを1000Gで5分間遠心分離した時においても、沈降することなく水中に安定に懸濁しているという性質を有する成分であり、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察・測定される長さ(長径)が0.5〜30μmであり、幅(短径)が2〜600nmであり、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400である繊維状のセルロースからなる。好ましくは、幅が100nm以下であり、より好ましくは50nmである。
【0016】
本発明の水分散セルロースまたは水分散性乾燥組成物は、この「水中で安定に懸濁する成分」を10質量%以上含有する。この成分の含有量が10質量%未満であると、前述の機能が十分に発揮されない。含有量は多いほど好ましいが、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50%以上である。なお、この成分の含有量は特に断らない限り、全セルロース中の存在比率を表すものであり、水溶性成分が含まれている場合であってもそれが含まれないように測定・算出される。
本発明の水分散性セルロースまたは水分散性乾燥組成物は、0.5質量%濃度の水分散液において、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満であり、好ましくは0.6未満である。0.6未満であるとそれらの性能はさらに秀でたものとなる。損失正接が1以上であると、後述する粒子固定化作用が劣る。
【0017】
本発明の水分散性セルロースまたは水分散性乾燥組成物の損失正接を1未満にするためには、植物細胞壁由来のミクロフィブリルを短く切断することなく取り出す必要がある。しかしながら現在の技術では全く「短繊維化」させることなく、「微細化」だけを行うことはできない。(ここで言う「短繊維化」とは繊維を短く切断すること、あるいは短くなった繊維の状態を意味する。また「微細化」とは引き裂くなどの作用を与えて繊維を細くすること、または細くなった繊維の状態を意味する。)つまり損失正接を1未満にするためには、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させることが重要である。そのための好ましい方法を以下に示すが、これらの方法に何ら限定するものではない。
【0018】
セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させるために、原料として選択する植物細胞壁を起源とするセルロース性物質は、平均重合度400〜12000で、かつ、α−セルロース含量(%)が60〜100質量%のものが好ましく、より好ましくはα−セルロース含量(%)が60〜85質量%のものである。
またセルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させるために使用する装置としては高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーの具体例としては、エマルジフレックス(AVESTIN,Inc.)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社)、マイクロフルイダイザー(MFIC Corp.)、バルブ式ホモジナイザー(三和機械株式会社、Invensys APV社、Niro Soavi社、株式会社イズミフードマシナリー)などがある。高圧ホモジナイザーの処理圧力としては30MPa以上が好ましく、より好ましくは60〜414MPaである。
【0019】
本発明の多糖類はガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、寒天、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、大豆水溶性多糖類、カラヤガム、サイリウムシードガム、プルラン、アラビアガム、トラガントガム、ガッディーガム、アラビノガラクタン、カードランからなる群、好ましくはガラクトマンナン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ペクチンからなる群から少なくとも1種が選択される。また、ガラクトマンナンの種類がグアーガム、ローカストビーンガム、タラガムであればさらに好ましい。
【0020】
本発明で使用されるガラクトマンナンとは、β−D−マンノースがβ−1,4結合した主鎖と、α−D−ガラクトースがα−1,6結合した側鎖からなる構造を有する多糖類である。ガラクトマンナンの例としては、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム等があり、マンノースとグルコースの比率は、グアーガムで約2:1、ローカストビーンガムで約4:1、タラガムで約3:1である。
本発明で使用されるグルコマンナンは、D−グルコースとD−マンノースがβ−1,4結合した構造を有し、グルコースとマンノースの比率が約2:3の多糖類である。精製度が低いと独特の刺激臭があるので、精製度の高いものを使用することが望ましいが、用途に応じてコンニャク粉やコンニャクマンナンを使用することも可能である。
【0021】
本発明で使用されるアルギン酸ナトリウムとは、アルギン酸がナトリウムで中和された水溶性の多糖類である。アルギン酸はβ−D−マンヌロン酸(Mと略する)とα−L−グルロン酸(Gと略する)からなる1,4結合のブロック共重合体である。Mからなるブロック(M−M−M−M)と、Gからなるブロック(G−G−G−G)と、両残基が交互に入り交じっているブロック(M−G−M−G)、という3つのセグメントから成り立っている。
【0022】
本発明で使用されるキサンタンガムは、主鎖はD−グルコースがβ−1,4結合した構造を有し、この主鎖のアンヒドログルコースにD−マンノース、D−グルクロン酸、D−マンノースからなる側鎖が結合したものである。主鎖に付くD−マンノースの6位はアセチル化され、末端のD−マンノースがピルビン酸とアセタール結合している枝分かれの多い構造である。
本発明で使用されるタマリンドシードガムとは、主鎖がグルコースで、キシロースを側鎖に持つキシログルカンである。
【0023】
本発明で使用するペクチンは、主鎖はα−D−ガラクツロン酸がα−1,4結合しており、部分的にメタノールでエステル化されている。ガラクツロン酸の主鎖にβ−L−ラムノースが入ることによって、分子にねじれが生じている。また中性のアラバン、ガラクタン、キシラン等が側鎖として結合している場合と、混在しているものがある。ペクチンを構成するガラクツロン酸は、メチルエステルの形と酸の2つの形で存在している。そのエステルの形で存在するガラクツロン酸の割合をエステル化度と呼び、エステル化度が50%以上のものがHMペクチン、50%未満のものがLMペクチンと言われている。
【0024】
本発明で使用するカラギーナンは、β−D−ガラクトースとα−D−ガラクトースのβ−1,4結合と、α−1,3結合が交互に繰り返され、ガラクトースユニットが結合した構造をとっている。
本発明で使用するジェランガムは、グルコース、グルクロン酸、グルコースとL−ラムノースの4つの糖が、反復ユニットで直鎖状に結合したものである。ネイティブ型ジェランガムは、このグルコースのC−6位に3〜5%アセチル基が、C−2位にグリセリル基が結合している。脱アセチル化ジェランガムは、ネイティブ型ジェランガムを脱アセチル化処理して、精製したものである。
本発明で使用する寒天は、β−D−ガラクトースとα−L−ガラクトースのβ−1,4結合と、α−1,3結合が交互に繰り返し構造を持つアガロースと、アガロース以外のイオン性多糖類であるアガロペクチンからなる多糖類である。
【0025】
本発明で使用するカルボキシメチルセルロース・ナトリウムとは、セルロースの水酸基をモノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウム塩でエーテル化したもので、D−グルコースがβ−1,4結合した直鎖状の構造をしている。
本発明で使用する大豆水溶性多糖類は、ガラクトース、アラビノース、ガラクツロン酸、ラムノース、キシロース、グルコース等の糖から構成され、ラムノガラクツロン酸鎖にガラクタンとアラビナンが結合したものであると推定されている。
本発明で使用されるカラヤガムとは、部分的にアセチル化した分岐のある多糖類で、約40%のウロン酸と8%以下のアセチル基を含んでいる。その主鎖にラムノースとガラクツロン酸があり、グルクロン酸が側鎖にあると推定されている。
【0026】
本発明で使用されるサイリウムシードガムとは、キシランを主鎖として高度に枝分かれした構造をしており、側鎖はアラビノース、キシロース、ガラクツロン酸、ラムノースからなる。この糖構成は、D−キシロース約64%、L−アラビノース約20%、L−ラムノース約6.4%、D−ガラクツロン酸約9.4%と推定されている。
本発明で使用されるプルランとは、マルトトリオースが、α−1,6−グリコシド結合を繰り返した直鎖状の構造をしている。
本発明で使用されるアラビアガムの分子構造は明らかにされていないが、その構成糖はD−ガラクトース36%、L−アラビノース31%、L−ラムノース13%、D−グルクロン酸18%の他、タンパク質2%と報告されている。
【0027】
本発明で使用されるトラガントガムとは、マメ科トラガントの樹液から得られ、トラガント酸70%とアラビノガラクタン10%を含むと言われている。
本発明で使用されるガッディガムとは、D−グルクロン酸、L−アラビノース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−キシロースからなり、D−ガラクトース残基が主鎖を構成している。
本発明で使用されるアラビノガラクタンとは、D−ガラクトースが主鎖で、側鎖のL−アラビノースとの比率は、5〜6:1程度である。β1→3結合のガラクタン主鎖から、β1→6結合のガラクトースおよびβ1→3結合のアラビノースの短い側鎖が出ている。
本発明で使用されるカードランとは、グルコースがβ−1,3?グルコシド結合した直鎖状のグルカンである。
【0028】
本発明の粒子とは、比重が0.1〜3.5で、かつ、1つ1つの粒子が、目視で判別できる大きさの粒子である。目視で判別できる大きさの粒子とは、具体的には、後述する粒子の長径および短径が50μm以上の粒子を指す。50μm未満の場合、人間の視力では目視で粒子を確認することは困難である。長径および短径が50μm以上であれば、粒子形状は、特に制限されるものではない。
本発明の粒子固定化作用とは、粒子固定化指標をもとに表される。本発明の安定剤を使用した水分散液あるいは液状組成物の粒子固定化指標が、多糖類だけを使用した水分散液あるいは液状組成物の粒子固定化指標より大きい場合に、粒子固定化作用を有すると判定する。ここで言う粒子固定化指標とは、全粒子における固定化粒子の割合(%)であり、「粒子固定化指標(%)=〔{α−(β+γ)}/α〕×100」で表される。
(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈殿している粒子数)
【0029】
本発明の安定剤には安定剤の他に、デンプン類、油脂類、蛋白質類、ペプチド、アミノ酸類、食塩、各種リン酸塩等の塩類、界面活性剤、乳化剤、酸味料、甘味料、デキストリン類、水溶性糖類、糖アルコール類、保存料、日持向上剤、抗菌剤、発泡剤、香料、色素、pH調整剤、消泡剤、ミネラル、食物繊維、調味料、酸、アルカリ、アルコール等の成分が適宜配合されていても良い。
【0030】
本発明の水分散性乾燥組成物は、水分散性セルロースを50〜95質量%と、水溶性高分子および/または親水性物質を5〜50質量%からなる乾燥物である。好ましくは、水分散性セルロース:水溶性高分子:親水性物質が50〜95:1〜49:1〜49質量%の範囲、さらに好ましくは、60〜75:5〜20:15〜25質量%の範囲から構成される乾燥物であり、顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、シート状を呈する。この組成物は水中に投入し、機械的な剪断力を与えた時、粒子が崩壊し、微細な繊維状のセルロースが水中に分散するようになることが特徴である。水分散性セルロースが50質量%未満になると、セルロースの比率が低くなって効果が発揮されない。95質量%以上になると、相対的にその他の成分の配合比率が下がるので、水中の充分な分散性を確保することができない。
【0031】
本発明に使用される水溶性高分子とは、乾燥時におけるセルロース同士の角質化を防止する作用を有するものであり、具体的にはアラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンドシードガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどから選ばれた1種または2種以上の物質が使用される。
中でも、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムが好ましい。このカルボキシメチルセルロース・ナトリウムとしては、カルボキシメチル基の置換度が0.5〜1.5、好ましくは0.5〜1.0、さらに好ましくは0.6〜0.8である。また1質量%水溶液の粘度は5〜9000mPa・s程度、好ましくは1000〜8000mPa・s程度、さらに好ましくは2000〜6000mPa・s程度のものである。
【0032】
本発明に使用される親水性物質とは冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質であり、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等)、より選ばれた1種または2種以上の物質である。水溶性高分子は前述の通り、セルロースの角質化を防ぐ効果があるが、物質によっては乾燥組成物内部への導水性が劣るため、水中での機械的剪断力を強く、長い時間与える必要が生じる場合がある。親水性物質は主としてこの導水性を強化する機能があり、具体的には乾燥組成物の水崩壊性を促進させる。この作用としては特にデキストリン類が強いため、デキストリン類を用いるのが好ましい。
【0033】
本発明に使用されるデキストリン類とは、澱粉を酸、酵素、熱で加水分解することによって生じる部分分解物のことであり、グルコース残基が主としてα−1,4結合およびα−1,6結合からなり、DE(dextrose equivalent)として2〜42程度、好ましくは20〜42程度のものが使用される。ブドウ糖や低分子オリゴ糖が除去された分枝デキストリンも使用することができる。
【0034】
本発明の水分散性乾燥組成物には水分散性セルロースと水溶性高分子と親水性物質以外に、デンプン類、油脂類、蛋白質類、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素、pH調整剤、消泡剤、発泡剤、保存料、日持向上剤、界面活性剤、抗菌剤、崩壊剤等の成分が適宜配合されていても良い。
本発明の水分散性乾燥組成物は、前述の通り、水中に投入し、機械的な剪断力を与えた時、構成単位(粒子)が崩壊し、微細な繊維状のセルロースが水中に分散するようになる。このとき「機械的な剪断力」とは、0.5質量%水分散液を、回転型のホモジナイザーで、最大でも15000rpmで15分間分散するようなものであり、温度は80℃以下で処理することを意味する。
【0035】
このようにして得られた水分散液は、乾燥前の状態、すなわち、「水中で安定に懸濁する成分」が全セルロース分に対して10質量%以上存在する(測定方法は後述する)。この「水中で安定に懸濁する成分」とは、前述のとおり、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察・測定される長さ(長径)が0.5〜30μm、幅(短径)が2〜600nm、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400であり、好ましくは、幅(短径)が100nm以下、より好ましくは50nmである繊維状セルロースからなる。また後述の方法で測定した、水分散液の0.5質量%における損失正接は1未満である。
本発明の安定剤を構成する、水分散性セルロースと多糖類との質量比は、固形分として水分散性セルロース:多糖類=1:9〜9:1であり、好ましくは2:8〜8:2、より好ましくは3:7〜7:3である。同様に水分散性乾燥組成物と多糖類との質量比は、固形分として水分散性乾燥組成物:多糖類=1:9〜9:1であり、好ましくは2:8〜8:2、より好ましくは3:7〜7:3である。
【0036】
本発明の液状組成物とは、室温で液状あるいはペースト状の形態をとるものであり、液状食品組成物、液状化粧品組成物、液状医薬品組成物、液状工業用組成物等が含まれる。これら液状組成物に配合する、本発明の安定剤の添加量は、特に制限されるものではないが、通常は0.001〜2質量%程度、好ましくは0.1〜1質量%程度である。
【0037】
液状食品組成物の例としては、「コーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、麦茶等の茶類、抹茶、ココア、汁粉、ジュース、豆乳、大豆飲料等の嗜好飲料」、「生乳、加工乳、はっ酵乳飲料、乳酸菌飲料等の乳成分含有飲料」、「はっ酵乳」、「ぜんざい」、「カルシウム強化飲料等の栄養強化飲料並びに食物繊維含有飲料等を含む各種の飲料類」、「コーヒーホワイトナー、ホイッピングクリーム、カスタードクリーム、ソフトクリーム等の乳製品類」、「スープ類」、「シチュー類」、「ソース、タレ、ドレッシング等の調味料類」、「練りがらしに代表される各種練り調味料」、「フルーツソース、フルーツプレパレーション、ジャムに代表される果肉加工品」、「経管流動食等の流動食類」、「液状あるいはペースト状の健康食品類」および「液状あるいはペースト状のペットフード類」等があげられ、レトルト食品、冷凍食品、電子レンジ用食品等のように、形態または用時調製の加工手法が異なっていても本発明に含まれる。液状食品組成物は、通常、pH3〜8、食塩濃度0.001〜20%で供給されるため、このような条件下で効果を発現することが求められる。
【0038】
医薬品組成物の例としては、「シロップ薬、ビタミン薬、滋養強壮薬などの経口医薬品」、「ホルモン剤などの経鼻医薬品」、「輸液、抗腫瘍薬、化学療法剤などの点滴・経管医薬品」、「医薬品に区分される経管流動食などの流動食類」、「外皮用薬などの軟膏」、「薬用化粧品、ビタミン含有保健剤、毛髪用剤、薬用歯磨き剤、浴用剤、殺虫剤・防虫剤、腋臭防止剤、口内清涼剤などの医薬部外品」、「人工軟骨、生体用接着剤、人工臓器等の生体材料」、薬物担体・DNA担体、貼布剤、コーティング剤などがあげられる。液状化粧品組成物の例としては、「化粧水、乳液、美容液、パック、モイスチャークリーム、マッサージクリーム、コールドクリーム、クレンジングクリーム、洗顔料、バニシングクリーム、エモリエントクリーム、ハンドクリーム、日焼け止め用化粧料などの皮膚用化粧品」、「ファンデーション、おしろい、口紅、リップクリーム、ほほ紅、サンスクリーン化粧料、まゆ墨、マスカラ等まつげ用化粧料、マニキュアや除光液等のつめ化粧料などの仕上用化粧品」、「シャンプー、ヘアリンス、ヘアトニック、ヘアトリートメント、ポマード、チック、ヘアクリーム、香油、整髪料、ヘアスタイリング剤、ヘアスプレー、染毛料、育毛剤や養毛剤などの頭髪用化粧品」、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、浴用化粧品、ひげそり用化粧品、芳香剤、歯磨き剤、軟膏、貼布剤等があげられる。液状工業用組成物の例としては、顔料、塗料、インク類、消臭・芳香剤、抗菌・防カビ剤、接着剤、コーティング剤、界面活性剤、衛生材料、培養材料、クロマトカラム充填剤等の実験材料、農薬、紙、洗剤、液体石けんなどがあげられる。
【0039】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお本願発明にかかる物質の諸物性の評価は以下の手法に拠った。
<セルロース性物質の平均重合度>
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行う。
<セルロース性物質のα−セルロース含有量>
JIS P 8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 αセルロース)に準じて行う。
【0040】
<セルロース性物質の結晶化度>
JIS K 0131−1996(「X線回折分析通則」)に規定されるX線回析装置で得られたX線回折図の回折強度値から、Segal法により算出したもので次式によって定義される。
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100
ここで、Ic:X線回析図の回折角2θ=22.5度での回折強度、Ia:同じく回析角2θ=18.5度付近のベースライン強度(極小値強度)である。
【0041】
<セルロース繊維(粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
セルロース繊維(粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、観察・測定する。
光学顕微鏡を使用する場合は、固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、「エクセルオートホモジナイザー」(日本精機株式会社製)で、15000rpmで15分間分散したものを、適当な濃度に調整し、それをスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察する。
また、中分解能SEM(日本電子株式会社製、「JSM−5510LV」)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着して観察する。
【0042】
高分解能SEM(株式会社日立サイエンスシステムズ製、「S−5000」)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着して観察する。
セルロース繊維(粒子)の長径、短径、長径/短径比は撮影した写真から15本(個)以上を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐから、髪の毛のようにカーブしているもの
があったが、糸くずのように丸まっていることはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、平均的な値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nm程度の繊維の観察時に使用したのだが、一本の繊維が長すぎて、一つの視野に収まらなかった。そのため、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後写真を合成して解析した。
【0043】
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
以下の(1)〜(5)および(3’)〜(5’)より求める。
(1)セルロース濃度が0.1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて1000Gで5分間遠心分離する。
(3)上層の液体部分を取り除き、沈降成分の質量(a)を測定する。
(4)次いで、沈降成分を絶乾し、固形分の質量(b)を測定する。
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
【0044】
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。(ここで、k1:上層の液体部分に含まれる「微細な繊維状のセルロース」の量、k2:沈殿成分に含まれる「微細な繊維状のセルロース」の量、w1:上層の液体部分に含まれる水の量、w2:沈殿成分に含まれる水の量、s2:沈殿成分に含まれる「水溶性高分子+親水性物質」の量とする。)
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース
=d/f [配合比率]
w1=19.98−a+b−0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降成分の質量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は(3)以降の手順を以下のようにして行う。
【0045】
(3’)上層の液体部分を取得し、質量(a’)を測定する。
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の質量(b’)を測定する。
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。(ここで、k1:上層の液体部分に含まれる「微細な繊維状のセルロース」の量、k2:沈殿成分に含まれる「微細な繊維状のセルロース」の量、w1:上層の液体部分に含まれる水の量、w2:沈殿成分に含まれる水の量、s2:沈殿成分に含まれる「水溶性高分子+親水性物質」の量とする。)
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース
=d/f [配合比率]
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
もし、(3)の操作で上層の液体部分と沈降成分の境界が明瞭ではなく分離が難しい場合は適宜セルロース濃度を下げて操作を行う。
【0046】
<損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)>
以下の(1)〜(3)の手順で求める。
(1)固形分濃度が0.5質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、「エクセルオートホモジナイザー」(日本精機株式会社製)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)動的粘弾性測定装置にサンプル液を入れてから5分間静置後、以下の条件で測定し、周波数10rad/sにおける損失正接(tanδ)を求める。
装置:「ARES」(Rheometric Scientific,Inc.製、100FRTN1型)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度:25℃
歪み:10%(固定)
周波数:1→100rad/s(約170秒かけて上昇させる)
【0047】
<0.35%質量濃度水分散液の調製と粒子数測定>
まず固形分が1質量%の水分散液となるようにサンプルと水を量り取り、「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)を使用して、8000rpmで10分間分散した。この1質量%のサンプル水分散液:水を3.5:6.5の比率で混合し、さらにに5分間分散して、0.35質量%サンプル水溶液を調製する。この時の温度は特に規定するものではないが、サンプルの分散に適した温度を選択する。また使用する多糖類の性質に合わせて、機能の発現に不可欠な添加剤(カルシウム等)を加えても良い。本実施例では、ペクチン使用時に、安定剤1g当たり、100mgの塩化カルシウムを添加した。
【0048】
0.35質量%水分散液の粒子固定化作用とは、以下に述べる(1)〜(4)のいずれかの粒子を固定化する作用のことであり、粒子固定化指標(%)をもとに表される。
(1)球状粒子a:ポリプロピレン製粒子(長径2.4mm、短径2.4mm、平均粒径2.4mm、比重0.9)
(2)球状粒子b:ポリアセタール樹脂製粒子(長径2.4mm、短径2.4mm、平均粒径2.4mm、比重1.4)
(3)板状粒子c:紙製粒子(長径5mm、短径3mmの長方形、厚さ0.3mm、比重0.9)
(4)板状粒子d:ポリエチレンテレフタレート製粒子(長径5mm、短径3mmの長方形、厚さ0.3mm、比重1.4)
0.35質量%安定剤水分散液と同質量%多糖類水分散液を、それぞれ100mLサンプル瓶に充填する。次に(1)〜(4)のいずれかの粒子を選択し、0.35質量%安定剤水分散液と、同質量%多糖類水分散液のそれぞれに20個ずつ添加する。25℃で1時間温調後、サンプル瓶を上下に激しく振盪し混合する。さらに25℃で3時間静置した後、目視により、液面に浮いている粒子数、または底面に沈殿している粒子数を数え、後述の粒子固定化指標(%)の式に代入して、粒子固定化指標(%)を求める。
【0049】
<フルーツソース、ソフトヨーグルト、はっ酵乳飲料、ノンオイルドレッシング、コーンスープ、おろしだれ、マッサージ剤、コンソメスープの粒子数測定>
後述の方法に従い、これらの液状組成物を調製して、充填容器当たり20粒の粒子を、外割で添加する。所定時間経過後、目視により、液面に浮いている粒子数、または底面に沈殿している粒子数を数え、後述の粒子固定化指標(%)の式に代入して、粒子固定化指標(%)を求める。ただし添加する粒子が小さい場合は、20粒ではなく50粒の粒子を添加しても良い。
【0050】
<粒子固定化指標、粒子固定化作用>
粒子固定化指標(%)は、次式で求められる。
粒子固定化指標(%)=〔{α−(β+γ)}/α〕×100
α:全粒子数
β:液面に浮いている粒子数
γ:底面に沈殿している粒子数
本発明の安定剤を使用した水分散液あるいは液状組成物の粒子固定化指標が、同じ濃度に調製した、多糖類だけを使用した水分散液あるいは液状組成物の粒子固定化指標より大きい場合に、粒子固定化作用を有すると判定する。つまり、以下に示す粒子固定化指標X、Yが、「粒子固定化指標X>粒子固定化指標Y」の関係にある場合、粒子固定化作用を有すると判定する。
粒子固定化指標X:本発明の安定剤を、水分散液あるいは液状組成物としたときの粒子固定化指標
粒子固定化指標Y:粒子固定化指標Xを求める際に使用した安定剤に含まれる多糖類を、水分散液あるいは液状組成物としたときの粒子固定化指標
【0051】
<粒子の寸法測定>
粒子をマイクロスコープで観察するか、またはマイクロメーターで測定し、長径と短径を求めた。この時の繰り返し回数は30回とした。
<球状粒子の平均粒径>
上記で使用した粒子の長径と短径から、「(長径+短径)/2」で算出する。この時の繰り返し回数は30回とした。
<粒子の比重>
JIS Z 8807−1976(固体比重測定方法)に準じて比重を算出した。
<pH>
pH計(東亜ディーケーケー株式会社製、「HM−50G形」)で測定した。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例と比較例を示して、具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。実施例で使用する水分散性セルロース、水分散性乾燥組成物、グアーガム、ペクチン、グルコマンナン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、水溶性大豆多糖類について、次の(1)〜(10)に示す。
【0053】
(1)水分散性乾燥組成物Aの調整:市販木材パルプ(平均重合度=1720、α−セルロース含有量=78質量%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、固形分濃度が80質量%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通した。
セルロース濃度が1.5質量%になるように、カッターミル処理品と水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。この水分散液を砥石回転型粉砕機(グラインダー回転数:1800rpm)で処理した。処理回数は2回で、グラインダークリアランスを110→80μmと変えて処理した。
次いで得られた水分散液をそのまま高圧ホモジナイザー(処理圧力:55MPa)で18パスし、水分散性セルロースAスラリーを得た。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜400μm、短径が1〜5μm、長径/短径比が10〜300の微細な繊維状セルロースが観察された。損失正接は0.64だった。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は15質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜150nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0054】
水分散性セルロースA:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン=70:18:12(重量部)となるように、水分散性セルロースAスラリーにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)とデキストリン(DE:約23)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、「T.K.AUTO HOMO MIXER」)で、8000rpmで30分間撹拌・混合し、水分散性セルロースA’スラリーを得た。
次いでこの混合液をアプリケータにより厚さ2mmでアルミニウム板状にキャストし、熱風乾燥機を使用し、120℃で45分間乾燥してフィルムを得た。これをカッターミル(不二パウダル株式会社製)で、目開き1mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、水分散性乾燥組成物Aを得た。
水分散性乾燥組成物Aの結晶化度は68%以上、損失正接は0.64であり、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は20質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が15〜130nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0055】
(2)水分散性セルロースBの調整:市販麦わらパルプ(平均重合度=930、α−セルロース含有量=68質量%)を、6×12mm角の矩形に裁断し、4質量%となるように水を加え、家庭用ミキサーで5分間撹拌した。これを高速回転型ホモジナイザー(ヤマト科学、「ULTRA−DISPERSER」)で1時間分散した。
この水分散液を砥石回転型粉砕機(グラインダー回転数:1800rpm)で処理した。処理回数は2回で、グラインダークリアランスを60→40μmと変えて処理した。
次いで得られた水分散液を水で希釈して2質量%にし、高圧ホモジナイザー(処理圧力:175MPa)で8パスし、水分散性セルロースBスラリーを得た。結晶化度は74%だった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜700μm、短径が1〜30μm、長径/短径比が10〜150の微細な繊維状のセルロースが観察された。損失正接は0.43だった。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は89質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が6〜300nm、長径/短径比が30〜350のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0056】
(3)水分散性乾燥組成物Cの調整:市販バガスパルプ(平均重合度=1320、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、固形分濃度が77質量%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通した。セルロース濃度が2質量%、そしてカルボキシメチルセルロース・ナトリウムの濃度が0.118質量%になるようにカッターミル処理品とカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)と水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。
得られた水分散液をそのまま、高圧ホモジナイザー(処理圧力90MPa)で9パスし、水分散性セルロースCスラリーを得た。光学顕微鏡および中分解能SEMで観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜190の微細な繊維状のセルロースが観察された。損失正接は0.32だった。「水中で安定に懸濁する成分」は99質量%だった。「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜400nm、長径/短径比が20〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0057】
水分散性セルロースC:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン:ナタネ油=68:12:19.7:0.3(重量部)となるように、水分散性セルロースCスラリーにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)とデキストリン(DE:約28)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、「T.K.AUTO HOMO MIXER」)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、前述の高圧ホモジナイザーで20MPa、1パス処理し、水分散性セルロースC’スラリーを得た。
水分散性セルロースC’スラリーをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、水分散性乾燥組成物Cを得た。水分散性セルロース組成物Cの結晶化度は57%以上、損失正接は0.52、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜15μm、短径が10〜330nm、長径/短径比が20〜250のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0058】
(4)グアーガム(ユニテックフーズ株式会社製)
(5)ペクチン(CPケルコ社製、LMペクチン)
(6)グルコマンナン(清水化学株式会社製)
(7)キサンタンガム(大日本製薬株式会社製)
(8)タマリンドシードガム(大日本製薬株式会社製)
(9)カラヤガム(三栄薬品貿易株式会社製)
(10)水溶性大豆多糖類(不二製油株式会社製)
【0059】
[実施例1]
水分散性乾燥組成物A:グアーガムを6:4の質量比で含有する安定剤を調製する。固形分が1質量%の水分散液となるように安定剤と水を量り取り、「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)を使用して、8000rpmで10分間分散した。この1質量%のサンプル水分散液:水を3.5:6.5の比率で混合し、さらに5分間分散して、0.35質量%安定剤水溶液を調製し、100mLサンプル瓶4本に充填した。
0.35質量%サンプル水水分散液の入ったサンプル瓶1本に、20粒の「球状粒子a」を添加し、25℃で1時間温調後、サンプル瓶を上下に激しく振盪し混合した。さらに25℃で3時間静置した後、目視により、液面に浮いている粒子数、または底面に沈殿している粒子数を数え、粒子固定化指標(%)を求めた。「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a1)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b1)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c1)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d1)とした。
これらの結果を、表1に示す。
【0060】
[実施例2]
水分散性セルロースB:グアーガムを6:4の質量比で含有する安定剤の、0.35質量%水分散液を、水分散性セルロースBスラリー(固形分2質量%)を使用して、実施例1と同様の方法で調製した。これに20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a2)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b2)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c2)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d2)とした。
これらの結果を、表2に示す。
【0061】
[実施例3]
水分散性乾燥組成物C:グアーガムを8:2の質量比で含有する安定剤の、0.35質量%水分散液を、実施例1と同様の方法で調製した。20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a3)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b3)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c3)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d3)とした。
これらの結果を、表3に示す。
【0062】
[実施例4]
水分散性乾燥組成物C:グアーガムを6:4の質量比で含有する増粘剤の、0.35質量%水分散液を、実施例1と同様の方法で調製した。20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a4)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b4)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c4)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d4)とした。
これらの結果を、表4に示す。
【0063】
[実施例5]
水分散性乾燥組成物C:グアーガムを4:6の質量比で含有する安定剤の、0.35質量%水分散液を、実施例1と同様の方法で調製した。20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a5)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b5)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c5)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d5)とした。
これらの結果を、表5に示す。
【0064】
[実施例6]
水分散性乾燥組成物C:ペクチンを8:2の質量比で含有する安定剤の、0.35質量%水分散液を、固形分が1質量%の水分散液となるように安定剤と水を量り取り、「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)を使用して、85℃、8000rpmで10分間分散した。この1質量%のサンプル水分散液:水を3.5:6.5の比率で混合し、さらに5分間分散して、0.35質量%安定剤水溶液を調製し、安定剤1g当たり、100mgの塩化カルシウムを添加した。20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a6)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b6)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c6)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d6)とした。
これらの結果を、表6に示す。
【0065】
[実施例7]
水分散性乾燥組成物C:ペクチンを6:4の質量比で含有する安定剤の、0.35質量%水分散液を、実施例6と同様の方法で調製した。20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a7)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b7)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c7)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d7)とした。
これらの結果を、表7に示す。
【0066】
[実施例8]
水分散性乾燥組成物C:グルコマンナンを6:4の質量比で含有する安定剤の、0.35質量%水分散液を、実施例1と同様の方法で調製した。20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、X(a8)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をX(b8)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をX(c8)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をX(d8)とした。
これらの結果を、表8に示す。
【0067】
[実施例9]
水分散性乾燥組成物Cとグアーガムを6:4の質量比で粉末混合した安定剤(以下安定剤aと言う)を用いて、以下の手順でフルーツソースAを調製し、評価を行った。
ビーカーに、水14.32質量%と果糖ブドウ糖液糖(王子コーンスターチ株式会社製、「F−55」)50質量%を入れて60℃に加温し、「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)で攪拌しながら、0.68質量%の上記安定剤aと、5質量%のグラニュー糖(第一糖業株式会社製)を粉末混合したものを添加し、8000rpmで10分間分散させた。
さらに分散装置をプロペラ攪拌翼に交換し、80℃に暖めて殺菌した30質量%のイチゴピューレ(冷凍イチゴを解凍し、裏ごししたもの)を加え、400rpmで攪拌した。液温が80℃に達してから2分間経過するまで攪拌を続け、殺菌処理して容器に充填した。これをフルーツソースA’とした。
このフルーツソースA’に、充填容器当たり20粒のブルーベリー粒子(冷凍ブルーベリーを解凍して80℃で加熱殺菌したもの、長径17mm、短径1.4mmの球状物)を外割で添加し、フルーツソースAとした。フルーツソースAを5℃で1時間冷却後、容器を上下に激しく振盪し、5℃で30日間保存した時の、ブルーベリー粒子固定化指標X(a12)は100%であった。フルーツソースAのpHは3.5であった。
これらの結果を表9に示す。
【0068】
[実施例10]
実施例9のフルーツソースA’を使用して、以下の手順でソフトヨーグルトBを調製し、評価した。
クリーンベンチ内で、下記の攪拌用ヨーグルト85質量%と、実施例9で調製したフルーツソースA’15質量%を5℃で混合した。さらに充填容器当たり20粒のブルーベリー粒子(冷凍ブルーベリーを解凍して80℃で加熱殺菌したもの、長径17mm、短径1.4mmの球状物)を外割で添加し、次にプロペラ攪拌翼を使用して、5℃、400rpmで1分間攪拌し、カップに充填し、これをソフトヨーグルトBとした。5℃で7日間静置保存し、ブルーベリー粒子固定化指標X(b13)は80%であった。この時のソフトヨーグルトBにおける安定剤aの含有量は、0.1質量%であり、pHは4.2であった。
これらの結果を表10に示す。
またここで使用する攪拌ヨーグルトの製造方法は、以下の通りである。
21.7質量%の水と、75質量%の牛乳(南日本酪農協同株式会社製、乳脂肪分3.5%以上、無脂乳固形分8.3%)をステンレスビーカーに注ぎ、プロペラ攪拌翼を使用して、25℃で200rpmで攪拌しながら、3.3質量%の脱脂粉乳(雪印乳業株式会社製)を添加し、10分間攪拌を続けた。
その溶液を、高圧ホモジナイザーを使用し、15MPaの処理圧力で均質化し、プロペラ攪拌翼を用いて、80℃、200rpmで更に30分間攪拌し、殺菌処理した。更にクリーンベンチ内で、200rpmで攪拌しながら、20分で30℃まで冷却した。この溶液に0.01%質量%水溶液としたスターター(ダニスコ カルター社製、「MSK−Mix AB N 1−45 Visbybac DIP」)を、外割で0.32質量%加え、スパチュラで攪拌し、発酵用容器に充填した。これをインキュベーターに移し、42℃で12時間発酵させた。発酵後5℃の冷蔵庫に移し、3日間経過したものを攪拌用ヨーグルト(無脂乳固形分9.4%以上)とした。
【0069】
[実施例11]
水14.32質量%と果糖ブドウ糖液糖(王子コーンスターチ株式会社製、「F−55」)40質量%を入れて60℃に加温し、「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)で攪拌しながら、0.68質量%の上記安定剤aと、5質量%のグラニュー糖(第一糖業株式会社製)を粉末混合したものを添加し、8000rpmで10分間分散させた。
さらに分散装置をプロペラ攪拌翼に交換し、80℃に暖めて殺菌した40質量%のイチゴピューレ(冷凍イチゴを解凍し、裏ごししたもの)を加え、400rpmで攪拌した。液温が80℃に達してから2分間経過するまで攪拌を続け、殺菌処理し、これをフルーツソースCとした。
このフルーツソースCと実施例10の攪拌ヨーグルトを使用して、以下の手順ではっ酵乳飲料Dを調製し、評価した。
クリーンベンチ内で、フルーツソースCを30質量%、実施例8の攪拌ヨーグルト50質量%、水20質量%を、プロペラ攪拌翼を使用して400rpmで、2分間混合した。
この溶液を、高圧ホモジナイザーを使用して、15MPaの処理圧力で均質化し、耐熱容器に充填した。耐熱容器当たり20粒のブルーベリー粒子(冷凍ブルーベリーを解凍して80℃で加熱殺菌したもの、長径18mm、短径1.4mmの球状物)を外割で加えた。5℃で1時間冷却後、耐熱容器を激しく上下に振盪し、はっ酵乳飲料Dとした。5℃でさらに23時間静置後のはっ酵乳飲料Dの、ブルーベリー粒子固定化指標X(a14)は90%であった。この時のはっ酵乳飲料Dにおける安定剤aの含有量は、0.2質量%であり、pHは4.0であった。
これらの結果を表11に示す。
【0070】
[実施例12]
水分散性乾燥組成物Cとキサンタンガムを5:5の質量比で粉末混合した安定剤(以下安定剤bと言う)を用いて、以下の手順でノンオイルドレッシングEを調製し、評価を行った。
水50.95質量%をプロペラ攪拌翼で攪拌しながら、1質量%濃度の増粘剤b水分散液を20質量%添加する。ここに5質量%のグラニュー糖(第一糖業株式会社製)、3質量%の食塩、0.9質量%コンソメ顆粒(アイク株式会社製)、0.1質量%グルタミン酸ナトリウム(日本たばこ産業株式会社製)を添加して、80℃、400rpmで4分間攪拌する。さらに19質量%りんご酢(株式会社ミツカン製)、1質量%レモン果汁(株式会社ポッカコーポレーション、果汁100%)、0.05質量%にんにく汁を添加して、さらに2分間攪拌し、サンプル瓶に充填した。これに充填容器当たり、50粒のあらびきこしょう粒子(長径1.8mm、短径1.1mm)、50粒の乾燥イタリアンパセリ粒子(長径4.1mm、短径1.9mm)、50粒のあらびきとうがらし粒子(長径2.0mm、短径1.8mm)を外割で添加し、25℃で1時間冷却後、上下に激しく振盪し、これをノンオイルドレッシングEとした。ノンオイルドレッシングEにおける安定剤bの含有量は、0.2質量%であり、pHは3.3、食塩濃度は3質量%以上である。
ノンオイルドレッシングEを25℃で2週間静置し、以下のこしょう粒子固定化指標X(b15)、パセリ粒子固定化指標X(c16)、とうがらし粒子固定化指標X(c17)を求めた。
こしょう粒子固定化指標X(b15):72%、
パセリ粒子固定化指標X(c16):96%、
とうがらし粒子固定化指標X(d17):90% となった。
これらの結果を表12に示す。
【0071】
[実施例13]
実施例9で使用した安定剤aを配合し、以下の手順でコーンスープFを調製し、評価を行った。
水88.6質量%を「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)で攪拌しながら、安定剤aを0.4質量%添加し、80℃、7000rpmで5分間分散した。さらに11質量%の多糖類を含有しない市販乾燥スープ(株式会社ポッカコーポレーション製)を添加して、5分間分散し、耐熱容器に充填し、耐熱容器当たり20粒のとうもろこし粒子(長径10mm、短径8mm、厚み5mm)を外割で添加した。85℃で10分間殺菌し、25℃で1時間冷却後、上下に激しく振盪し、コーンスープFとした。コーンスープFのpHは6.8、食塩濃度は0.73質量%となった。25℃で7日間静置後の、とうもろこし粒子固定化指標X(b18)は、95%であった。
これらの結果を表13に示す。
【0072】
[実施例14]
水分散性乾燥組成物Cとキサンタンガムを7:3の質量比で粉末混合した安定剤(以下安定剤cと言う)を用いて、以下の手順でおろしだれGを調製し、評価を行った。
水43.82質量%を「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)で攪拌しながら、安定剤cを0.18質量%添加し、80℃、10000rpmで10分間分散する。分散装置をプロペラ攪拌翼に交換し、これに10質量%グラニュー糖(第一糖業株式会社製)、5質量%食塩、35質量%しょうゆ(キッコーマン株式会社製、食塩濃度16%)、1質量%にんにく汁、5質量%りんご酢(株式会社ミツカン製)を加え、さらに10分間分散し、耐熱瓶に充填した。耐熱瓶当たり、50粒の大根おろし粒子(長径4.1mm、短径1.1mm)を外割で加え、80℃で10分間加熱殺菌し、25℃で1時間冷却後、上下に激しく振盪し、これをおろしだれGとした。おろしだれGのpHは4.2、食塩濃度は10.6質量%であった。
おろしだれGを25℃で21日間静置した後の、大根おろし粒子固定化指標X(c19)は、100%であった。
これらの結果を表14に示す。
【0073】
[実施例15]
水分散性乾燥組成物A:グアーガムを6:4の質量比で混合した安定剤(以下安定剤dと言う)を使用して、スクラブ入りマッサージ剤Hを調製し、評価した。
87.6質量%の精製水(日本薬局方)を「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)で攪拌しながら、安定剤dを0.4質量%添加し、10000rpmで15分間分散した。分散装置をプロペラ攪拌翼に変更し、8質量%グリセリン(日本薬局方)、4質量%消毒用エタノール(日本薬局方)を加え、300rpmで2分間攪拌した。これにスクラブとして、外割で50粒の球状セルロース粒子(長径0.75mm、短径0.75mm、平均粒径0.75mm)を加え、サンプル瓶に充填し、25℃で3時間静置後、上下に激しく振盪してマッサージ剤Hとした。
25℃でさらに1日静置後、球状セルロース粒子固定化指標X(b20)を求めると、52%であった。
これらの結果を表15に示す。
[実施例16]
水分散性乾燥組成物Cとタマリンドシードガムを8:2の質量比で粉末混合した安定剤(以下安定剤eと言う)を用いて、実施例14と同様の方法で、おろしだれPを調整し、評価を行った。
実施例14の安定剤cの代わりに、安定剤eを0.38質量%添加して、おろしだれPを調整した。ただし調整に用いた水は、43.62質量%とした。
おろしだれPのpHは4.1、食塩濃度は10.6質量%であった。
おろしだれPの大根おろし粒子固定化指標X(c30)は、70%であった。
これらの結果を表16に示す。
[実施例17]
水分散性乾燥組成物Cとカラヤガムを7:3の質量比で粉末混合した安定剤(以下安定剤fと言う)を用いて、コンソメスープQを調整し、評価を行った。
水98質量%を「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)で攪拌しながら、安定剤fを0.3質量%添加し、80℃、10000rpmで10分間分散した。分散装置をプロペラ攪拌翼に交換し、これに1.5質量%のコンソメ顆粒(アイク株式会社製)と食塩0.2質量%を加え、さらに5分間分散し、サンプル瓶に充填した。サンプル瓶当たり20粒のあらびき胡椒(長径2.0mm、短径1.8mm)を外割で添加し、25℃で1時間冷却後、上下に激しく振盪し、これをコンソメスープQとした。
コンソメスープQのpHは6.8、食塩濃度は1質量%であった。
コンソメスープQを25℃で24時間静置した後の、こしょう粒子固定化指標X(b31)は、80%であった。
これらの結果を表17に示す。
[実施例18]
水分散性乾燥組成物Cと水溶性大豆多糖類を6:4の質量比で粉末混合した安定剤(以下安定剤gと言う)を用いて、ソフトヨーグルトRを調整し、評価を行った。
80℃の水21.5質量%を、「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)で攪拌しながら、0.2質量%の安定剤gを添加して8000rpmで10分間分散後、25℃まで冷却した。さらに75質量%の牛乳(南日本酪農協同株式会社製、乳脂肪分3.5%以上、無脂乳固形分8.3%)をステンレスビーカーに注ぎ、プロペラ攪拌翼を使用して、25℃で200rpmで攪拌しながら、3.3質量%の脱脂粉乳(雪印乳業株式会社製)を添加し、10分間攪拌を続けた。
その溶液を、高圧ホモジナイザーを使用し、15MPaの処理圧力で均質化し、プロペラ攪拌翼を用いて、80℃、200rpmで更に30分間攪拌し、殺菌処理した。さらに200rpmで攪拌しながら、20分で30℃まで冷却した。この溶液に0.01%質量%水溶液としたスターター(協同乳業株式会社製)を、外割で0.2質量%加え、スパチュラで攪拌し、発酵用容器に充填した。これをインキュベーターに移し、42℃で12時間発酵させた。発酵後5℃の冷蔵庫に移し、3日間経過したものを攪拌用ヨーグルト(無脂乳固形分9.4%以上)とした。
この攪拌用ヨーグルトをビーカーに移し、プロペラ攪拌翼を用いて、5℃、200rpmで5分間攪拌し、カードを破壊して、100gずつ容器に充填した。容器当たり20粒の黄桃(5mm角の立方体)を外割で添加し、ソフトヨーグルトRとした。ソフトヨーグルトRのpHは3.8であり、5℃で24時間静置した後の、黄桃粒子固定化指標X(b32)は、90%であった。
これらの結果を表18に示す。
【0074】
[比較例1]
実施例1に記載された安定剤の代わりに、グアーガムを使用し、実施例1と同様の方法で調整した、0.35質量%水分散液に、20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、Y(a9)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をY(b9)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をY(c9)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をY(d9)とした。
これらの結果を、表1〜5に示す。
【0075】
[比較例2]
実施例6および7に記載された安定剤の代わりに、ペクチンを使用し、実施例6および7と同様の方法で調整した、0.35質量%水分散液に、20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、Y(a10)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をY(b10)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をY(c10)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をY(d10)とした。
これらの結果を、表6〜7に示す。
【0076】
[比較例3]
実施例8に記載された安定剤の代わりに、グルコマンナンを使用し、実施例8と同様の方法で調整した、0.35質量%水分散液に、20粒の「球状粒子a」を添加したときの粒子固定化指標を、Y(a11)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「球状粒子b」を添加したときの粒子固定化指標をY(b11)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子c」を添加したときの粒子固定化指標をY(c11)とした。
同様に球状粒子aの代わりに、「板状粒子d」を添加したときの粒子固定化指標をY(d11)とした。
これらの結果を、表8に示す。
【0077】
[比較例4]
実施例9のフルーツソースA’を調製する時に使用した、安定剤aの代わりに、グアーガムを使用してフルーツソースI’を調製した。このフルーツソースI’に、実施例9のブルーベリー粒子を充填容器当たり20粒加えて、フルーツソースIとした。フルーツソースIのブルーベリー粒子は、90%が液面に浮いており、粒子固定化指標Y(a21)は、10%であった。またpHは3.5であった。
これらの結果を表9に示す。
【0078】
[比較例5]
実施例10のフルーツソースA’の代わりに、比較例4のフルーツソースI’を使用した。つまり安定剤aの代わりに、グアーガムを使用してソフトヨーグルトJを調製し、評価した。ソフトヨーグルトJのブルーベリー粒子は、50%が液面に浮いており、粒子固定化指標Y(b22)は、50%であった。またpHは4.2であった。
これらの結果を表10に示す。
【0079】
[比較例6]
実施例11の安定剤aの代わりに、グアーガムを使用してはっ酵乳飲料Kを調製し、評価した。はっ酵乳飲料Kのブルーベリー粒子は、90%が液面に浮いており、粒子固定化指標Y(a23)は、10%であった。またpHは4.0であった。
これらの結果を表11に示す。
【0080】
[比較例7]
実施例12の安定剤bの代わりに、キサンタンガムを使用してノンオイルドレッシングLを調製し、評価した。ノンオイルドレッシングLのpHは3.3、食塩濃度は3質量%以上である。
ノンオイルドレッシングLのこしょう粒子固定化指標Y(b24)、パセリ粒子固定化指標Y(c25)、とうがらし粒子固定化指標Y(c26)を求めたところ、以下の通りであった。
こしょう粒子固定化指標Y(b24):6%(94%は底面に沈殿していた。)
パセリ粒子固定化指標Y(c25):10%(90%は液面に浮いていた。)
とうがらし粒子固定化指標Y(d26):12%(88%は底面に沈殿していた。)
これらの結果を表12に示す。
【0081】
[比較例8]
実施例13の安定剤aの代わりに、グアーガムを使用してコーンスープMを調製し、評価した。コーンスープMのとうもろこし粒子は、全て底面に沈殿しており、固定化指標Y(b27)は、0%であった。pH6.8、食塩濃度0.73質量%であった。
これらの結果を表13に示す。
【0082】
[比較例9]
実施例14の安定剤cの代わりに、キサンタンガムを使用しておろしだれNを調製し、評価した。おろしだれNの大根おろし粒子固定化指標Y(c28)は、70%であり、pH4.2、食塩濃度10.6質量%であった。このおろしだれNは3層分離を起こしており、外観不良であった。
これらの結果を表14に示す。
【0083】
[比較例10]
実施例15の安定剤dの代わりに、グアーガムを使用してマッサージ剤Oを調製し、評価した。マッサージ剤Oの球状セルロース粒子は全て底面に沈殿しており、固定化指標Y(b29)は、0%であった。
これらの結果を表15に示す。
[比較例11]
実施例16の安定剤eの代わりに、タマリンドシードガムを用いて、実施例16と同様の方法で、おろしだれSを調整し、評価を行った。
おろしだれSのpHは4.1、食塩濃度は10.6質量%であった。
おろしだれSは、分離を起こして外観不良であり、大根おろし粒子固定化指標Y(c33)は、0%であった。
これらの結果を表16に示す。
[比較例12]
実施例17の安定剤fの代わりに、カラヤガムを用いて、コンソメスープTを調整し、評価を行った。
コンソメスープTのpHは6.8、食塩濃度は1質量%であった。
コンソメスープTを25℃で24時間静置した後の、こしょう粒子固定化指標Y(b34)は、20%であった。(80%は底面に沈殿していた。)
これらの結果を表17に示す。
[比較例13]
実施例18の安定剤gの代わりに、水溶性大豆多糖類を用いて、ソフトヨーグルトUを調整し、評価を行った。
ソフトヨーグルトUのpHは3.8であり、5℃で24時間静置した後の、黄桃粒子固定化指標Y(b35)は、20%であった。
これらの結果を表18に示す。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の微細な繊維状セルロースである水分散性セルロースと、少なくとも1種類の多糖類を含有する安定剤は、粒子固定化作用を有し、見栄えの良い商品を提供することができる。また製造工程への負荷も軽減できる。この性質は、食品分野のみならず、医薬品、化粧品等の用途においても使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物細胞壁を原料とする、微細な繊維状のセルロースであって、水中で安定に懸濁する成分(長径:0.5〜30μm、短径:2〜600nm、長径/短径比:20〜400)を10質量%以上含有し、かつ、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満であることを特徴とする水分散性セルロースと、ガラクトマンナン、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、寒天、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、大豆水溶性多糖類、カラヤガム、サイリウムシードガム、プルラン、アラビアガム、トラガントガム、ガッディーガム、アラビノガラクタン、カードランから選択される少なくとも1種の多糖類を含有する組成物であって、水分散性セルロース:多糖類=1:9〜9:1の質量比で含有することを特徴とする安定剤。
【請求項2】
水中で安定に懸濁する成分を10質量%以上含有する請求項1記載の水分散性セルロースを50〜95質量%と、水溶性高分子および/または親水性物質を5〜50質量%含むことを特徴とする水分散性乾燥組成物と、請求項1記載の多糖類から選択される少なくとも1種の多糖類を含有する組成物であって、水分散性乾燥組成物:多糖類=1:9〜9:1の質量比で含有することを特徴とする安定剤。
【請求項3】
請求項1記載の水分散性セルロースを50〜95質量%と、水溶性高分子1〜49質量%と、親水性物質1〜49質量%からなる水分散性乾燥組成物と、ガラクトマンナン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ペクチンから選択される多糖類からなることを特徴とする、請求項2に記載の安定剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の安定剤を添加することにより配合された液状組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の安定剤を添加することにより配合される、pH3〜8または食塩濃度0.001〜20%である液状食品組成物。

【公開番号】特開2008−48604(P2008−48604A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189241(P2005−189241)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】