説明

水性インクジェットインク

【課題】吐出性が安定な水性インクジェットインクであり、且つ、印刷物のマーカーにじみやカールなどの問題を起こさない水性インクジェットインクを提供する。
【解決手段】水分散性の色材、40質量%以上の水、8質量%以上25質量%以下の、平均分子量が300より大きく1200より小さいジオール型ポリプロピレングリコール、及び、10質量%以上の前記ジオール型ポリプロピレングリコールと水とを相溶させることが可能で沸点が水より高い有機溶剤、とを含むことを特徴とする水性インクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷に使用される水性のインクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の大きな特徴を2つ挙げるならば、版を作製することがないことと、非接触で印字を行えることが挙げられる。前者に係る利点としては、版作製分のコストの低下や、各プリント毎に異なるデータを印刷が行えるという点が例として挙げられる。後者にかかる利点としては、メディアの表面状態や素材を選ばずに印刷が行えるという点が挙げられる。
【0003】
このため、近年、インクジェット記録方式を用い、さまざまな記録媒体(例えば、普通紙、コート紙、アート紙、フィルム、普通紙両面印刷等)に対して高速でフルカラーかつオンデマンドに印字が行えるシステムのニーズが益々高まりつつある。
【0004】
たとえば、このような方法を実行する手段として、現在主流に使われているシャトル方式の印字方法ではなく、紙の幅を横断するようにノズルがならんだヘッドアレイを配置し、その下を紙が一度通過するだけで、画像が形成されるラインヘッド(ワンパス)方式の印字方法があげられる。
【0005】
この方法の場合、ノズルの数を大量に配置できるほか、シャトル方式で折り返しの加減速によって発生するタイムラグをなくすことができるため高速に印刷を行うことが可能である。
【0006】
従来のシャトル方式の印字の場合、メンテナンスが簡便に行え、吐出欠や曲がりなどの不良を各パス毎に分散させ目立たなくさせる技術(インターリーブなど)を併用できるため、これら吐出不良は比較的回避しやすい問題であった。
【0007】
一方、ラインヘッド方式の場合、ノズルの数が多く、保障すべきノズルが増えているほか、装置の構成上メンテナンスが難しく、吐出不良をパス毎に分散させる技術も使用できないため、吐出不良は大きな課題である。
【0008】
インクジェット方式に使用されるインクとして、水性インクジェットインクが広く用いられている。この様な水性インクジェットインクは、印刷物からインク溶媒である水が安全に蒸発し取り除かれるため好ましい方法であるが、一方で、インクジェットノズル先端では放置すると水が蒸発してしまい、吐出欠(不吐出)や曲がりと言った吐出不良が発生するという問題があった。
【0009】
このため、水性インクジェットインクでは定期的なメンテナンスが必須であり、吐出性保障も低い傾向にある。
【0010】
これらの課題を解決する方法としてたとえば、インク中の水の量を少なくする方法があげられる(例えば、特許文献1、2参照。)。これらは、水が蒸発しても、吐出にダメージを与えない溶剤が残るため、吐出性が良いほか、水性インクジェットインクのもう一つの大きな課題である普通紙のカールの問題も解決している。
【0011】
しかしながら、これらの方法では紙中に溶剤が残るため、印字率の高い印刷物を印字直後に大量に重ねるとブロッキングのような現象を引き起こしたり、印字物にマーカー等で筆記をした場合、筆記された文字がにじむなどの影響も見られた。尚、ここで言うブロッキングとは紙を重ねて保存したときに重なった紙同士がくっついてしまう現象のことを言い、インクジェット印刷の場合、インク中に含まれる溶剤が乾燥せず紙中に多く残っているときに発生することがある。
【0012】
そこで、カールが無く、更にはマーカーにじみやブロッキングが無く、且つ、吐出性の良い水性インクジェットインクが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−353962号公報
【特許文献2】特開2005−220296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の解決すべき課題は、吐出性が安定な水性インクジェットインクであって、カールが無く、且つ、印刷物のマーカーにじみやブロッキングのような現象を引き起こさないインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1.水分散性の色材、40質量%以上の水、8質量%以上25質量%以下の、平均分子量が300より大きく1200より小さいジオール型ポリプロピレングリコール、及び、10質量%以上の前記ジオール型ポリプロピレングリコールと水とを相溶させることが可能で沸点が水より高い有機溶剤、とを含むことを特徴とする水性インクジェットインク。
【0016】
2.前記有機溶剤が、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、炭素数4以上の1,2−ジオール、炭素数4以上の1,3−ジオール、または、水溶性環状化合物であることを特徴とする前記1に記載の水性インクジェットインク。
【0017】
3.前記アルキレングリコールモノアルキルエーテルが、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、または、トリエチレングリコールモノエチルエーテルであることを特徴とする前記2に記載の水性インクジェットインク。
【0018】
4.前記炭素数4以上の1,2−ジオールまたは炭素数4以上の1,3−ジオールが、1,2−ブタンジール、1,2−ペンタンジオールまたは2−メチル−2,4−ペンタンジオール(1,3−ジオールに該当)であることを特徴とする前記3に記載の水性インクジェットインク。
【0019】
5.前記ジオール型のポリプロピレングリコールの平均分子量が300より大きく750より小さいことを特徴とする前記1〜4の何れか1項に記載の水性インクジェットインク。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、吐出信頼性を高め、印刷後の印刷物のカールがなく、且つマーカーにじみやブロッキング等の問題ない水性インクジェットインクを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、水を多く含有する水性インクジェットインクに係り、インク中に、水に不溶な量の(8%以上の)ジオール型ポリプロピレングリコールを用い、水と相溶させる有機溶剤を併存させることによって水と溶解状態で含有させることにより、ノズル先端での色素の析出を防止し、且つ、印刷後の印刷物のカールやマーカーにじみ、ブロッキング等の問題のないものとすることができた。
【0022】
本発明の最大の効果である吐出信頼性の向上については、ジオール型ポリプロピレングリコールの下記のような特徴によるものと推測している。
【0023】
平均分子量300より大きく1200より小さいジオール型ポリプロピレングリコールの特徴は、
1)水への溶解度が5%程度と疎水的である
2)分子量の割に粘度が低く、水と混合しても増粘し難い
3)沸点が高い
等であり、分子量が大きく蒸発しにくいため、水や他の溶剤が蒸発しても最終的にノズル近傍に残っているため、ノズル先端はポリプロピレングリコールの(油)層で蓋がされインク溶剤の蒸発が抑えられているものと思われる。
【0024】
ジオール型ポリプロピレングリコールは水に少量ではあるが溶解するため、有機溶剤とともに使用することで、ノズルからの蒸発を抑えるのに十分な量をインク中に溶解状態で含有させることができる。ノズル界面付近はジオール型ポリプロピレングリコールの(油)層はインクから分離した形で存在せず、溶剤を介し、表面のポリプロピレングリコール層からノズル奥のインクまで界面を形成することなく連続的な濃度勾配を持っていると考えられる。このため、インク中の水分散性色材(通常、ノズル付近でのインク溶媒の蒸発によって濃縮されて存在している)がノズル近傍の油層から、安定して存在できるインク側へ容易に移動することが可能となり、ノズルが濃縮された色材で詰まることを防ぐことができると推測している。
【0025】
ジオール型ポリプロピレングリコールは分子量の割に粘度が低く、水と混合しても増粘せず、吐出に対して有利な点として働いている。
【0026】
さらに、ジオール型ポリプロピレングリコールは印刷後の性能(例えば、カールやマーカーにじみ)も同時に達成することも可能であった。これは、分子量が大きく且つ両末端に水酸基を有するため、紙(セルロース)中においても安定して存在することができ、紙中に残っても印刷物に悪影響(カールやブロッキング等)を与えないためではないかと推察している。
【0027】
以下に、本発明を更に詳しく説明する。
【0028】
〈含水量〉
本発明のインクジェットインクは、40質量%以上の水を含むものである。含水量を40質量%以上とし、さらにジオール型ポリプロピレングリコールを8質量%以上25質量%以下とすることにより、印刷物に悪影響を与える有機溶剤の量を低い範囲に抑えることが可能となった。これにより印刷後に溶剤が残ることで発生する課題を大きく抑えることが可能となった。より好ましい含水量としては50質量%以上である。
【0029】
含水量が40質量%未満となるとマーカーがにじむ現象やブロッキングなどの課題が発生するため、含水量は40質量%以上とすることが必要であり、さらに50質量%以上含有することが好ましい。一方、水が多いほど吐出安定性を保つのは難しくなることから、インク中に含有させる固形分の量にも依るが、75質量%以下であることが好ましい。
【0030】
〈ジオール型ポリプロピレングリコール〉
本発明のジオール型ポリプロピレングリコールは、プロピレンオキシドをアニオン開環重合反応して得られる。重合開始剤はアルコールと触媒量の塩基である。通常、塩基には水酸化カリウムが、アルコールにはエチレングリコールか水が用いられる。このほかにトリオール型ポリプロピレングリコール(PPG(T))と呼ばれるグリセリンにプロピレングリコールを重合させたポリプレングリコールがあるが、これらは水と相溶し、そのものの粘度が高いため、吐出性向上の効果が得られにくく、好ましくないことが分かった。
【0031】
本発明のジオール型ポリプロピレングリコールの平均分子量は300より大きいことが必要である。これより小さな平均分子量のポリプロピレングリコール(例えば、単一品のテトラプロピレングリコールの分子量は250、トリプロピレングリコールの分子量は192である。)では水への溶解性が高すぎ、通常の溶剤と変わらない程度の吐出安定性の向上効果しか得られない。特にトリプロピレングリコールなどでは、印字後に印刷物が印字面を凸にしてカールするマイナスカールと呼ばれる現象が起こるため好ましくない。
【0032】
本発明のジオール型ポリプロピレングリコールの平均分子量は1200より小さいものである。平均分子量が1200を超えると、水への溶解度が小さくなりインクの作製が困難となる。特に好ましくは300より大きく、750より小さいことが好ましく、この範囲では水への溶解性も好ましく、処方設計が行いやすいため、本発明の効果を発揮しやすい。
【0033】
尚、本発明に用いられるジオール型ポリプロピレングリコールの平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレンを基準として得られる重量平均分子量である。
【0034】
〈ジオール型ポリプロピレングリコールの量〉
本発明の効果を得る為にジオール型ポリプロピレングリコールは8質量%以上25%以下含んでいる。上述の範囲とすることによって吐出安定性の効果が十分に得られる。さらに好ましくは15質量%より多く25質量%以下であり、この範囲ではインク設計が行いやすく、吐出安定性の向上も得られ、マーカーのにじみも抑えられ、且つ、印刷物のカールの発生も抑えられる。
【0035】
〈有機溶剤〉
本発明に用いられる有機溶剤とは、水とジオール型ポリプロピレングリコールを相溶させる溶剤である。性質上、水との相溶性を有しある程度の疎水性を持った溶剤であることが好ましい。
【0036】
また、水より高い沸点を有することが必要である。水より低い沸点を有する溶剤を用いると、ノズル近傍でジオール型ポリプロピレングリコールと水のみの状態が発生し、液体の分離が起こる可能性があるほか、そもそも、蒸発性が高いことにより、吐出安定性を減じてしまう。また、ノズル近傍でジオール型ポリプロピレングリコール層を作るためには使用しているポリプロピレングリコールより蒸気圧が高い溶剤を使用することが好ましい。
【0037】
このような有機溶剤としては、例えば、アルキレングリコール類、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールジアルキルエーテル類、アルキレングリコールモノエステル類、1,2−或いは1,3−ジオール類、環状エーテル類、環状エステル類、環状窒素化合物類などがあげられる。
【0038】
好ましくは、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、炭素数4以上の1,2−ジオール類、炭素数4以上の1,3−ジオール類や水溶性環状化合物を挙げることができる。これらの化合物を使用すると吐出安定性が高く、また、インク中の有機溶剤量を増やすこともないため、印刷物への品質も保たれやすい。
【0039】
これらの溶剤うち、具体的に好ましい溶剤として、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類としては、例えば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール等、炭素数4以上の1,2−ジオール類若しくは1,3−ジオール類としては、例えば、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ブタンジール、1,2−ペンタンジオール等、炭素数4以上の1,3−ジオール類としては、例えば、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(1,3−ジオールに該当)等、水溶性環状化合物としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−ピロリジノン等が挙げられる。
【0040】
このような溶剤の量としては、10質量%より多いことが好ましく、35質量%以下であることが好ましい。10質量%より多いとジオール型ポリプロピレングリコールを水に溶解させやすく、印刷物に悪影響を与えない溶剤設計が行いやすい。溶剤量が35質量%以下とすることにより、印刷物にマーカーで筆記した際の文字のにじみが抑えられる。
【0041】
上記溶剤のうち、(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル類と(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル類は特に吐出安定性が良く、印刷物のカールを引き起こしにくい溶剤である。
【0042】
一方で、1,2−ヘキサンジオールは、少量で水とジオール型ポリプロピレングリコールを相溶させる効果が高い溶剤であるが、紙中に大量に残留したときマイナスカールを引き起こしやすい溶剤である。このことから、1,2−ヘキサンジオールを少量用い、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルから選ばれるアルキレングリコールモノエーテル等と併用することで、印刷物の品質に問題のないインク処方を組むことができる。
【0043】
3−メチル−3−メトキシブタノール、1,2−ブタンジール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等は単独で相溶させる有機溶剤としての性能を有し単独で用いても、溶剤量を比較的抑えることが可能であり、これらの溶剤を使用することも同様に好ましい。もちろん、必要に応じ、3−メチル−3−メトキシブタノール、1,2−ブタンジール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールに1,2−ヘキサンジオールを添加し使用しても構わない。
【0044】
〈水分散性色材〉
本発明のインクは、水分散性色材を含有する。
【0045】
水分散性色材とは、着色剤がインクジェットインクを構成する溶媒に不溶で、微細な顔料粒子を含む分散系を形成する色材、あるいは着色剤で着色した高分子ポリマーの分散体からなる色材等である。
【0046】
本発明に用いられる着色剤の色相としては、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、ブルー、グリーン、レッドが好ましく用いられ、特に好ましくはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各着色剤である。
【0047】
また、ポリマー等と共に着色微粒子を形成し色剤となる油溶性染料については、通常カルボン酸やスルホン酸等の水溶性基を有さない有機溶剤に可溶で水に不溶な染料、例えば分散染料等が選ばれる。また、水溶性染料を長鎖の塩基と造塩することにより油溶性を示す染料も含まれ、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料と長鎖アミンとの造塩染料等を用いることができる。
【0048】
〈顔料〉
本発明のインクにおいては、着色剤としては顔料を用いることが好ましく、前記溶媒系に溶解度を有しない顔料が、本発明の目的効果を発揮させる観点から好ましい。
【0049】
本発明において使用できる顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、水分散性顔料、溶剤分散性顔料等何れも使用可能であり、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、カーボンブラック等の無機顔料を好ましく用いることができる。
【0050】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0051】
好ましく用いることのできる具体的顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0052】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0053】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0054】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0055】
以上の他にレッド、グリーン、ブルー、中間色が必要とされる場合には以下の顔料を単独あるいは併用して用いることが好ましく、例えばC.I.ピグメントレッド209、224、177、194、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.バットバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、23、37、C.I.ピグメントグリーン36、7、C.I.ピグメントブルー15:6、等が用いられる。
【0056】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0057】
本発明で用いられる顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物と共に分散機により分散して用いることが好ましい。分散機としては従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等が使用できる。
【0058】
本発明のインクに使用する顔料分散体の平均粒径は、10nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましく、10nm以上50nm以下がさらに好ましい。顔料分散体の平均粒径が100nmを越えると、分散が不安定となり、また、顔料分散体の平均粒径が10nm未満になっても顔料分散体の安定性が悪くなりやすく、インクの保存安定性が劣化しやすくなる。
【0059】
顔料分散体の粒径測定は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることが出来る。また、透過型電子顕微鏡による粒子像撮影を少なくとも100粒子以上に対して行い、この像をImage−Pro(メディアサイバネティクス製)等の画像解析ソフトを用いて統計的処理を行うことによっても求めることが可能である。
【0060】
本発明の水性インクジェットインクにおいて、分散時の添加剤として界面活性剤を用いることができる。本発明に用いられる界面活性剤としては陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性のいずれも用いることができる。
【0061】
陽イオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、等が挙げられる。
【0062】
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0063】
両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0064】
非イオン活性剤としては、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。
【0065】
〈定着樹脂〉
本発明の水性インクジェットインクにおいて、印刷後の耐擦性を得るために定着樹脂を含んでいることが好ましい。特に、樹脂を含むインクは吐出安定性が悪くなる傾向にあるが、本発明の構成とすることにより吐出安定性を改善することができる。
【0066】
定着樹脂としては、水溶性のものでも水分散性のものでもよい。樹脂の具体的な例としては、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、塩化ビニル樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂、ポリマレイン酸樹脂、ポリピロリドン樹脂、ポリエステル樹脂、あるいはこれらの変性樹脂、並びに、これらの共重合体などが挙げられる。
【0067】
これらの樹脂は何らかの塩基によって中和されていることが好ましく、特にアミン化合物により中和されていることが好ましい。
【0068】
また、必要に応じ変性基や架橋基などを有するものであっても良い。
【0069】
樹脂含有量としては本発明の構成を損なわない限り特に制限はないが、吐出できる粘度と定着効果の点から、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0070】
〈その他〉
本発明の水性インクジェットインクは、多価金属イオンであるカルシウムイオン、マグネシウムイオン及び鉄イオンのインク中の総含有量が、10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5ppm、特に好ましくは0.1〜1ppmである。
【0071】
水性インクジェットインク中の多価金属イオンの含有量を、上記で規定した量とすることにより、高い分散安定性を有するインクを得ることができる。
【0072】
本発明の水性インクジェットインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平195091号及び同3−13376号等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号等に記載されている蛍光増白剤等を用いることができる。
【0073】
〈インクジェットヘッド〉
本発明の水性インクジェットインクを用いた画像形成方法においては、例えば、インクジェットインクを装填したプリンター等により、デジタル信号に基づきインクジェットヘッドよりインクを液滴として吐出させメディアに付着させることでインクジェットプリントが得られる。
【0074】
本発明のインクジェットインクを吐出して画像形成を行う際に、使用するインクジェットヘッドはオンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。又吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。
【0075】
又、本発明は、ラインヘッド方式の記録ヘッドを用いて印字した場合に有用であるが、シャトル方式の印字方法においても同様に効果を発揮することが可能である。
【0076】
ラインヘッド型のインクジェットヘッドとは、印刷範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことを指す。ラインヘッド型のインクジェットヘッドとしては、1つのヘッドで印刷範囲の幅以上であっても良いし、特開2007−320278号公報に開示のように複数のヘッドを組み合わせて印刷範囲の幅を超えるよう構成してもよい。
【0077】
〈インクジェットのためのインク物性〉
本発明のインクジェットインクは、インクの表面張力としては、25℃で20〜40mN/mであることが好ましく、より好ましくは20〜35mN/mであり、更に好ましくは22〜35mN/mである。また、インク粘度としては、25℃で1〜40mPa・sであることが好ましく、より好ましくは5〜40mPa・sであり、更に好ましくは5〜15mPa・sである。また、本発明のインクジェットインク中の溶存酸素濃度は、25℃で2ppm以下であることが好ましく、この溶存酸素濃度条件とすることにより、気泡の形成を抑制することができ、高速印字においても出射安定性に優れたインクジェット記録方法を実現することができる。インク中に溶存している溶存酸素を測定する方法としては、例えば、溶存酸素測定装置DO−14P(東亜電波(株)製)を用いて測定することができる。
【0078】
〈印刷塗工紙〉
本発明に用いられる記録媒体としては、特に制限はないが、非塗工紙、特殊印刷用紙、及び情報用紙の一部に属する非塗工紙や、紙表面に白色顔料と澱粉やゴムラテックスからなる塗工層を有する印刷用塗工紙を用いることが望ましい。
【0079】
本発明に係る非塗工紙の構成は、LBKP及びNBKPに代表される化学パルプ、サイズ剤及び填料を主体とし、その他の抄紙助剤を必要に応じて用い、常法により抄紙される。本発明に係る普通紙に使用されるパルプ材としては、機械パルプや古紙再生パルプを併用してもよいし、又、これらを主材としても何ら問題はない。
【0080】
本発明に係る塗工紙の構成は上記非塗工紙上に、カオリン、炭酸カルシウムなどからなる白色顔料と澱粉やSBラテックスなどをバインダーとして含んでなる塗工層を設けてなるものである。
【0081】
紙の厚み、斤量としては50g/mから360g/mのものが好ましい。
【0082】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
実施例1
〈顔料分散体の調製〉
顔料としてMA100(三菱化学(株)社製)を15質量部、分散樹脂としてジョンクリル501(BASF社製、樹脂含量30%水溶液)を33質量部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGMBE)を5質量部、水47質量部を混合した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にポリプロピレン製のポリ瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて5時間分散し、顔料濃度15%の黒色の顔料分散体を得た。
【0084】
〈インクの作製〉
前記顔料分散体20質量部に対し表1の組成となるように本発明のジオール型ポリプロピレングリコール(PPG)または比較化合物および溶剤、定着樹脂溶液としてジョンクリルJ70(BASF社製、樹脂含量30%水溶液)8.3質量部および必要に応じ活性剤としてオルフィンE1010(信越化学社製)0.2質量部を混合し、水を加えて100質量部と成るように調整し、次いで、この液を#3500メッシュの金属フィルターにより濾過後、中空糸膜を用いた膜脱気処理を行ない、実施例1〜13ならびに比較例1〜11のインクを作製した。
【0085】
尚、各インク組成について、PPG量、比較化合物量、各溶媒量、固形分量および全水分量(含水量)に纏めてたものを表2に示した。添加量或いは各項目の数値は質量%を表す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
用いた化合物を下記に示す。
【0089】
〔ジオール型ポリプロピレングリコール〕
PPG400:ジオール型ポリプロピレングリコール#400
(和光純薬工業株式会社 平均分子量400)
PPG700:ジオール型ポリプロピレングリコール#400
(和光純薬工業株式会社 平均分子量700)
PPG1000:ジオール型ポリプロピレングリコール#1000
(和光純薬工業株式会社 平均分子量1000)
PPG(T):トリオール型ポリプロピレングリコール:サンニックスGP400
(三洋化成工業株式会社製 平均分子量400)
PPG3000:ジオール型ポリプロピレングリコール#3000
(和光純薬工業株式会社 平均分子量3000)
〔その他の溶剤と略称〕
PEG400:ポリエチレングリコール#400
DEGEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)
2HD:1,2−ヘキサンジオール(沸点223℃)
DPGME:ジプロピレングリコールメチルエーテル(沸点190℃)
TPGME:トリプロピレングリコールメチルエーテル(沸点)
TEGME:トリエチレングリコールメチルエーテル(沸点249℃)
TEGEE:トリエチレングリコールエチルエーテル(沸点256℃)
2PDN:2−ピロリジノン(沸点242℃)
3Mt3MtOBuOH:3−メチル−3−メトキシブタノール(沸点173℃)
TEGMBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点278℃)
2Mt2,4PeDO:2−メチル−2,4−ペンタンジオール(197.5℃)
IPA:i−プロピルアルコール(沸点82.4℃)
〔評価〕
各インクについて、以下の評価を行なった。
【0090】
〈吐出安定性評価〉
ノズル口径22μm、ノズル数512であるピエゾ方式のインクジェットヘッドに実施例1〜13ならびに比較例1〜11のインクを充填した。各インクは粘度が異なるが、吐出時の駆動電圧を調整してどのインクも液滴量が7plとなるようにした。この状態で全ノズルから1分間連続に吐出を行った後に、全ノズル一斉に吐出を止めて、2時間が経過した後に、再び全ノズルから1分間の連続出射を行った後に、全ノズル一斉に吐出を止めて、10時間放置後再び全ノズルから1分間の連続出射を行うという条件で運転を行った。尚、この時の環境は23℃50%RHの一定条件で行った。512ノズル中1ノズルでも吐出不良となった時間から、以下のランク付けを行った。
【0091】
◎:10時間以上
○:2時間以上10時間未満
×:2時間未満
〈カールの評価〉
A5Y目に裁断した斤量79.1g/mのニューNPI(王子製紙株式会社製)を吸着板に吸着させ、紙面一面に#3番のワイヤーバーにより各インクの塗布を行い、ドライヤーにより15秒間乾燥を行った。その後、吸着板から外し、その後1週間後の紙片の端部の立ち上がりを測定した。
【0092】
この時用いた吸着盤とは、空気の吸引孔を一面に多数有したプレートであり、吸引孔からエアを吸引することで、負圧により紙を吸着できるようにしたものである。
【0093】
◎:紙の端部の立ち上がりが平均して3mm未満
○:紙の端部の立ち上がりが平均して3mm以上7mm未満
×:紙の端部の立ち上がりが平均して7mm以上、または、紙面中央がアーチ状に7mm以上の凸になっている。
【0094】
〈ブロッキングの評価〉
A5Y目に裁断した斤量79.1g/mのニューNPI(王子製紙株式会社製)に#3番のワイヤーバーによりインクの塗布を行い、ドライヤーにより10秒間乾燥を行ったものを100枚用意し、積み重ねたのち、ビニールの袋に入れ1週間保存した。1週間後ブロッキングが発生したものを×、しなかったものを○とした。
【0095】
〈マーカーにじみの評価〉
上記ブロッキングの評価と同時にマーカーにじみを評価した。ブロッキング評価において、上から30枚目の紙面に油性マジック(マッキー(ゼブラ株式会社))で線を書き、一週間保存後に以下の評価を行った。
【0096】
◎:特に変化なし
○:若干の線の太りが見られる
×:29枚目の裏面に裏移りする。もしくは、にじんでいる。
【0097】
各評価結果について表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
以上の結果により、本発明の構成によれば、吐出安定性が良好で、印刷物の品質に問題のないプリントを行えるインクを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性の色材、40質量%以上の水、8質量%以上25質量%以下の、平均分子量が300より大きく1200より小さいジオール型ポリプロピレングリコール、及び、10質量%以上の前記ジオール型ポリプロピレングリコールと水とを相溶させることが可能で沸点が水より高い有機溶剤、とを含むことを特徴とする水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記有機溶剤が、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、炭素数4以上の1,2−ジオール、炭素数4以上の1,3−ジオール、または、水溶性環状化合物であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記アルキレングリコールモノアルキルエーテルが、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、または、トリエチレングリコールモノエチルエーテルであることを特徴とする請求項2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記炭素数4以上の1,2−ジオールまたは炭素数4以上の1,3−ジオールが、1,2−ブタンジール、1,2−ペンタンジオールまたは2−メチル−2,4−ペンタンジオール(1,3−ジオールに該当)であることを特徴とする請求項3に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記ジオール型のポリプロピレングリコールの平均分子量が300より大きく750より小さいことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の水性インクジェットインク。

【公開番号】特開2012−31246(P2012−31246A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170189(P2010−170189)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】