説明

水性エマルションの製造方法

【課題】水性エマルジョン中の粗大粒子を除去することにより、粗粒子を含有する水性エマルションと比較して、より薄い厚さで均一な塗工面を形成することが可能となり、塗工に要するエマルションの量を減らすことが可能であるので、より少ない量の水性エマルション材料を用いてより薄く外観の良い塗工面を形成するために、水性エマルション中の樹脂の粒子サイズを小さくすることが求められる。
【解決手段】樹脂を水中で乳化する工程と、前工程で得られた乳化物を濾過する工程と、前工程で得られた濾液を回収する工程とを含む、水性エマルションの製造方法により、水性エマルション中の粗大粒子を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤や塗料に使用される水性エマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性エマルションは、一般に塗料や接着剤等に用いられている。例えば、特許文献1には、接着剤、塗料、塗装用プライマー、塗料用又は印刷用バインダーに好適な水性エマルションが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−63557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水性エマルションを塗料や接着剤として塗工する際、水性エマルション中に存在する粗大粒子を除去すると、塗工面に生じる凹凸を抑制できることを見出した。また、粗大粒子を除去することによって、粗粒子を含有する水性エマルションと比較して、より薄い厚さで均一な塗工面を形成することが可能となり、塗工に要するエマルションの量を減らすことが可能であることを見出した。従って、水性エマルション中に存在する粗大粒子を選択的に除去して塗工性に優れた水性エマルションを得る方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは更に検討を重ねた結果、以下に記載の発明に至った。すなわち、本発明は、
樹脂を水中で乳化する工程と、
前工程で得られた乳化物を、デプスフィルターを用いて濾過して濾液を回収する工程と
を含む水性エマルションの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、水性エマルション中の粗大粒子を除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明に用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等を挙げることができる。
【0008】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエチレン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸グリシジル共重合体樹脂、エチレン−ビニル化合物共重合体、ポリプロピレン系樹脂、プロピレン−ビニル化合物共重合体、塩素化ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン−環状オレフィン共重合体樹脂、アイオノマー、塩素化ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、プラスチゾル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ナイロン、飽和無定形ポリエステル、セルロース誘導体等を挙げることができる。
【0009】
熱硬化性樹脂としては、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタン等を挙げることができる。
【0010】
ゴムとしては、例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、ポリイソブチレン−ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンRTV、塩化ゴム、臭化ゴム、クラフトゴム、ブロック共重合体、液状ゴム等を挙げることができる。
【0011】
本発明の方法は、熱可塑性樹脂、特に、エチレン−ビニル化合物共重合体、プロピレン−ビニル化合物共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体樹脂に適している。
【0012】
本発明の方法は、特に、
エチレン及び/又は直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、
式(I)

CH=CH−R (I)

(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)
で表されるビニル化合物(以下、「ビニル化合物(I)」と記すことがある)に由来する構造単位と
を含むオレフィン系共重合体(以下、「重合体(A−1)」と記すことがある)、又は
重合体(A−1)にα、β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体(以下、「重合体(A−2)」と記すことがある)に適している。以下、重合体(A−1)と重合体(A−2)とを総称して「重合体(A)」と記すこともある。
【0013】
前記ビニル化合物(I)の置換基Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基である。ビニル化合物(I)の具体例としては、例えばビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0014】
重合体(A−1)は、更に炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位を含有していてもよい。
【0015】
重合体(A−1)は、更に付加重合可能なモノマーを共重合させてもよい。ここで、付加重合可能なモノマーとは、エチレン、プロピレン、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィン及びビニル化合物(I)を除くモノマーであって、エチレン、プロピレン、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィン及びビニル化合物(I)と付加重合可能なモノマーであり、該モノマーの炭素数は、通常、3〜20程度である。
【0016】
重合体(A−1)の製造方法としては、例えば、インデニル形アニオン骨格、あるいは架橋されたシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を有する遷移金属化合物を用いてなる触媒の存在下に製造される方法等が挙げられる。中でも特開2003−82028号公報、特開2003−160621号公報及び特開2000−128932号公報に記載の方法に準じて製造する方法が好適である。
【0017】
重合体(A−1)の分子量分布(Mw/Mn=[重量平均分子量]/[数平均分子量])は、通常、1.5〜10程度であり、好ましくは1.5〜7程度、とりわけ好ましくは1.5〜5程度である。また、機械的強度の観点から、重合体(A−1)の重量平均分子量(Mw)は、通常、5,000〜1,000,000程度であり、好ましくは10,000〜500,000程度であり、とりわけ好ましくは15,000〜400,000程度である。重合体(A−1)の分子量分布は、後記実施例で具体的に記載する方法に従って、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用いて求めることができる。
【0018】
JIS K 7210に準拠して、メルトインデクサ(L217−E14011、テクノ・セブン社製)を用いて190℃、2.16kgfの条件下で測定した重合体(A−1)のメルトフローレート(MFR)の値は、分散性の観点から、通常130〜300g/10分、好ましくは130〜220g/10分である。
【0019】
重合体(A−2)とは、かくして得られた重合体(A−1)にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体である。α,β−不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸が好ましい。
【0020】
重合体(A−2)の製造方法としては、例えば、重合体(A−1)を溶融させたのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法、オレフィン系共重合体をトルエン、キシレン等の溶媒に溶解したのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法等が挙げられる。
重合体(A−1)を溶融させたのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法は、押出機を用いて溶融混練することで、樹脂同士あるいは樹脂と固体もしくは液体の添加物を混合するための公知の各種方法が採用可能であることから好ましい。更に好ましい例としては、各成分の全部もしくはいくつかを組み合わせて別々にヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合して均一な混合物とした後、該混合物を溶融混練する等の方法を挙げることができる。
溶融混練の手段としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等の従来公知の混練手段が広く採用可能である。特に好ましいのは、連続生産が可能であり、生産性が向上するという観点から、一軸又は二軸押出機を用い、予め十分に予備混合したオレフィン系共重合体、不飽和カルボン酸類、ラジカル開始剤を押出機の供給口より供給して混練を行う方法が推奨される。
押出機の溶融混練を行う部分の温度は(例えば、押出機ならシリンダー温度)、通常、50〜300℃、好ましくは80〜270℃である。押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の2段階に分け、前半より後半の温度を高めた設定にすることが好ましい。溶融混練時間は、通常、0.1〜30分間、特に好ましくは0.1〜5分間である。
【0021】
α,β−不飽和カルボン酸無水物を重合体(A−1)にグラフト重合させるためには、通常、ラジカル開始剤の存在下に重合を行う。
ラジカル開始剤の添加量は、重合体(A−1)100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。
ラジカル開始剤は、通常、有機過酸化物であり、好ましくは半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物である。また、これらの有機過酸化物は分解してラジカルを発生した後、重合体(A−1)からプロトンを引き抜く作用があることが好ましい。
【0022】
半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物としては、例えば、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。有機過酸化物の添加量は、重合体(A−1)100重量部に対して0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部である。
【0023】
かくして得られた重合体(A−2)に含まれるα,β−不飽和カルボン酸無水物に由来する構造単位は、酸無水物基が閉環したままであっても、開環したものであってもよく、閉環したものと開環したものがいずれも含有されていてもよい。
【0024】
本発明の水性エマルションにおける重合体(A−2)の分子量分布(Mw/Mn)としては、例えば、1.5〜10等を挙げることができる。好ましくは1.5〜7等、より好ましくは1.5〜5等が挙げられる。重合体(A−2)の分子量分布は、前記重合体(A−1)の分子量分布と同様に測定することができる。
【0025】
JIS K 7210に準拠して、メルトインデクサ(L217−E14011、テクノ・セブン社製)を用いて190℃、2.16kgfの条件下で測定した重合体(A−2)のメルトフローレート(MFR)の値は、分散性の観点から、130〜300g/10分であることが好ましく、特に、130〜200g/10分であることが好ましい。
【0026】
本発明の方法で用いられる樹脂を乳化するのに適した乳化剤としては、両性系乳化剤、カチオン系乳化剤、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等が挙げられる。これらの乳化剤を単独で用いてもよく、少なくとも2種を併用してもよい。また、乳化剤は水溶液状態で使用することもできる。
前記両性系乳化剤としては、例えば、ラウリルアミドプロピル酢酸ベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
前記カチオン系乳化剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。アルキルトリメチルアンモニウム塩の例として、塩化ヤシアルキルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ヘベニルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。ジアルキルジメチルアンモニウム塩の例として、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ジオレイルジメチルアンモニウム等が挙げられる。
前記アニオン系乳化剤としては、例えば、モノアルキルスルホン酸塩、アルキルポリオキシエチレンスルホン酸塩、モノアルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等が挙げられる。モノアルキルスルホン酸塩の例としては、オクチルスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ペンタデシルスルホン酸ナトリウム、ミリスチルスルホン酸ナトリウム、ステアリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。アルキルポリオキシエチレンスルホン酸塩の例としては、オクチルポリオキシエチレンスルホン酸ナトリウム、ラウリルポリオキシエチレンスルホン酸ナトリウム、ペンタデシルポリオキシエチレンスルホン酸ナトリウム、ミリスチルポリオキシエチレンスルホン酸ナトリウム、ステアリルポリオキシエチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。モノアルキルベンゼンスルホン酸塩の例としては、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ペンタデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ミリスチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ステアリルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。モノアルキルリン酸塩の例としては、モノオクチルリン酸ナトリウム、モノラウリルリン酸ナトリウム、モノペンタデシルリン酸ナトリウム、モノミリスチルリン酸ナトリウム、モノステアリルリン酸ナトリウム等が挙げられる。
また、アニオン系乳化剤として、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位と、α,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂も挙げることができる。アニオン系乳化剤としては、かかる水溶性アクリル樹脂が好ましく、以下、単に「水溶性アクリル樹脂」と記すことがある。ここで、α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、ハイミック酸、アンゲリカ酸、テトラヒドロフタル酸、ソルビン酸、メサコン酸等が挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸は、複数種のα,β−不飽和カルボン酸を用いてもよい。α,β−不飽和カルボン酸としては、特に、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
前記ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体、ポリグリセリンエステル等が挙げられる。
【0027】
前記水溶性アクリル樹脂としては、特に、
α,β−不飽和カルボン酸(1)に由来する構造単位と、
メチレン基又はメチン基に結合した水酸基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル(2)(以下、「α,β−不飽和カルボン酸エステル(2)」と記すことがある)に由来する構造単位と
を含むアクリル樹脂(B)が適している。
【0028】
「α,β−不飽和カルボン酸(1)」としては、例えばアクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。
【0029】
「α,β−不飽和カルボン酸エステル(2)」としては、例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0030】
アクリル樹脂(B)は、「α,β−不飽和カルボン酸(1)に由来する構造単位」及び「α,β−不飽和カルボン酸エステル(2)に由来する構造単位」に加えて、必要に応じて、「炭素数1〜20のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位」、「アミノ基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位」、「カルボキシ基(−COOH)を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位」等を含有していてもよい。
【0031】
前記「炭素数1〜20のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル」としては、例えば、アクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリル等が挙げられる。
【0032】
前記「アミノ基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル」としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0033】
前記「カルボキシ基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル」としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸等が挙げられる。
【0034】
前記アクリル樹脂(B)に必要に応じて含有されるこれらのα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位は、異なる複数種のα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位を使用してもよい。
【0035】
本発明におけるアクリル樹脂(B)の製造方法としては、例えば、前記モノマー混合物を付加重合することにより製造することができる。具体的には、例えば、イソプロピルアルコール等のアルコール又は水等を溶媒として用い、該溶媒にモノマーの一部又は全部を混合し、通常70℃〜100℃、好ましくは75℃〜95℃、特に好ましくは75℃〜85℃にてラジカル開始剤等の重合開始剤及び残りのモノマーを混合し、通常、1〜24時間程度攪拌する方法等が挙げられる。また、反応を制御するために、重合開始剤及び残りのモノマーを有機溶媒に溶解したのち添加してもよい。
【0036】
ここで、重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマー混合物100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.2〜3重量部である。
【0037】
本発明の水性エマルションは、例えば、50〜300、より好ましくは100〜200のNH中和度を有することが好ましい。ここでNH中和度とは、前記アクリル樹脂(B)に含まれるアニオン性基を有するモノマーに由来する構造単位の合計モル数に対する、水性エマルションに含まれるアンモニアのモル数の割合、すなわち
[(アンモニアのモル数)/(アニオン性モノマーの合計モル数)×100(%)]
を意味する。
【0038】
[乳化工程]
本発明の、樹脂を水中で乳化する工程は、例えば、樹脂、乳化剤及び水を溶融混練する方法;例えば、樹脂を加熱する加熱工程と、加熱工程で加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程とを有する方法;例えば、樹脂及び乳化剤を加熱及び混練する工程と、前記工程で得られた混練物を水に分散させる工程とを含む方法;例えば、樹脂をトルエン等の有機溶媒に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程で得られた溶解物を乳化剤に混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物から前記有機溶媒を除去する除去工程とを含む方法等によって実施する。
また、前記のような機械的乳化方法以外にも、自己乳化等の化学的乳化方法によって乳化工程を行ってよい。
とりわけ、樹脂、乳化剤及び水を溶融混練する方法、及び、樹脂を加熱する加熱工程と、加熱工程で得られた加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程とを有する方法が好適である。
【0039】
樹脂及び乳化剤並びに必要に応じて水を溶融混練する工程において用いられる装置としては、例えば、二軸押出機、ラボプラストミル(株式会社 東洋精機製作所)、ラボプラストミルマイクロ(株式会社 東洋精機製作所)等の多軸押出機、ホモジナイザー、T.Kフィルミクス(プライミクス株式会社)等のバレル(シリンダー)を有する機器、例えば、攪拌槽、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、フロージェットミキサー、コロイドミル、超音波発生機、高圧ホモジナイザー、分散君(株式会社フジキン)、スタティックミキサー、マイクロミキサー等のバレル(シリンダー)を有さない機器等が挙げられる。
【0040】
バレルを有する機器の剪断速度としては、通常、200〜100000秒−1程度、好ましくは1000〜2500秒−1程度である。ここで、剪断速度とはスクリューエレメント最外周部の周速度[mm/sec]をスクリューとバレルとのクリアランス[mm]で除した数値である。
【0041】
樹脂、乳化剤及び水を溶融混練する方法としては、例えば、二軸押出機のホッパー又は供給口より樹脂を連続的に供給し、これを加熱溶融混練し、更にこの押出機の圧縮ゾーン、計量ゾーン又は脱気ゾーンに設けた少なくとも1個の供給口より乳化剤を加圧供給し、これと樹脂をスクリューで混練し、続いて、この押出機の圧縮ゾーンに設けた少なくとも1個の供給口より水を供給することによって、ダイより連続的に乳化物を押出製造する方法等が挙げられる。
樹脂を加熱する加熱工程と、加熱工程で得られた加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程とを有する方法としては、例えば、ニーダーのシリンダーを加熱したのち、該シリンダー内に樹脂を投入し、回転させながら溶融する加熱工程を行い、次に、乳化剤を投入し、回転させる混合工程を行い、続いて、得られた混合物を温水中に投入し、分散させて、乳化物を得る方法等が挙げられる。
【0042】
樹脂を加熱する加熱工程と、加熱工程で得られた加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程とを有する方法としては、多軸押出機を用いる方法が好適である。
具体的に説明すると、まず、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機のホッパーから樹脂を供給し、加熱、溶融混練させる加熱工程、次に、該押出機の圧縮ゾーン及び/又は計量ゾーンに設けた少なくとも1個の液体供給口より供給された乳化剤と混練しながら水に分散させる混合工程を経由して乳化物を製造する方法等が例示される。
【0043】
本発明の方法で得られる乳化物は、樹脂及び乳化剤を含む分散質が、分散媒である水に分散しているものである。
【0044】
本発明の方法で得られる乳化物としては、重合体(A)及びアクリル樹脂(B)を含んでなる分散質が、分散媒である水に分散しているものが好ましい。分散質の体積基準メジアン径は、通常、0.01〜3μm、好ましくは0.5〜2.5μm、より好ましくは0.5〜1.5μmである。体積基準メジアン径が0.01μm以上であると、製造が容易なことから好ましく、3μm以下であると、接着性が向上する傾向があることから好ましい。ここで体積基準メジアン径とは、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径である。
【0045】
本発明の方法で得られる乳化物中の乳化剤の含有量は、樹脂100重量部に対して、例えば0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜40重量部である。本発明の方法で得られる乳化物中の樹脂の含有量は、乳化物100重量部に対して、例えば0.1〜70重量部、好ましくは10〜60重量部、より好ましくは20〜60重量部である。本発明の方法で得られる乳化物中の水の含有量は、乳化物100重量部に対して、例えば30〜99重量部、好ましくは40〜90重量部、より好ましくは40〜80重量部である。
【0046】
本発明の乳化物には、2種類以上の樹脂が含有されていてもよく、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等の充填剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、発泡剤、ポリアクリル酸、ポリエーテル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉等の増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、酸化チタン等の顔料、二塩基酸のコハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等の高沸点溶剤、可塑剤等が含有されていてもよい。
【0047】
[濾過工程]
得られた乳化物を、デプスフィルターを用いて濾過し、得られる濾液を回収する。デプスフィルターは、サーフェスフィルター(流体中の粒子状物質を主にフィルター表面で捕捉するフィルター)と異なり、流体中の粒子状物質を主に濾材内部で捕捉するフィルターである。デプスフィルターは、粒子保持性能が高く目詰まりしにくいという特徴を有する。デプスフィルターを用いると、乳化物中の粗粒子を選択的に除去することができる。デプスフィルターとしては、例えば、繊維をコアに巻き付けたもの、不織布をコアに巻き付けたもの、繊維を熱溶着したもの、繊維を押出し成形したもの等が挙げられる。
デプスフィルターの選定には濾過精度が重要になる。濾過精度は一般にはフィルターを通すことにより除去できる粒子の大きさで表され、例えば、流体が水で、ファインダストを10インチカートリッジで所定の流量で濾過した場合に99.5%以上粒子を捕捉できる粒子径で表す方法等が挙げられる。
本発明の方法に適したデプスフィルターの濾過精度は、例えば1〜50μm、好ましくは2〜30μm、より好ましくは5〜30μmである。
本発明の方法に適したデプスフィルターの具体例としては、例えば、ポリプロピレン繊維を押し出し成形して製造されるポリ・クリーンTMシリーズ(キュノ株式会社製、以下、PCと記す)、ポリプロピレン製不織布を積層して製造されるポリプロ・クリーンTMシリーズ(キュノ株式会社製、以下PPCと記す)等が挙げられる。PPCシリーズは、PCシリーズよりも粒子吹き抜け(通り抜け)しにくいという特徴を有する。2以上のデプスフィルターを組み合わせて濾過を行うことが好ましい。
【0048】
デプスフィルターによる濾過の前に他の濾材を用いて予備濾過を行うことが好ましい。予備濾過に適した濾材の目開き寸法としては、例えば50〜300μm、好ましくは50〜200μm、より好ましくは50〜100μmである。予備濾過に用いる濾材の具体例としては、例えば、200メッシュの濾布等が挙げられる。
【0049】
濾過工程は、5〜80℃、好ましくは10〜75℃の温度で、0.001〜0.3MPa、好ましくは0.01〜0.2MPaの濾過圧で行う。
【0050】
本発明の方法によって得られる水性エマルションから水分を乾燥させて得られる硬化物は、平滑な表面を与える傾向がある。従って、本発明の方法によって得られる水性エマルションを後述するように塗料として基材に塗工する際に作業性に優れる傾向があり、得られる硬化物の外観に優れる傾向がある。
【0051】
本発明の方法によって得られる水性エマルションを、基材上に塗工(コーティング)した後、乾燥することによって、基材上に水性エマルションの塗膜(コーティング膜)を形成することができる。該塗膜は、例えば、塗料、プライマー、下地材、接着剤等に使用することができる。
【0052】
本発明における「基材」は、例えば、被着体、被着層等の、本発明の水性エマルションを塗工することが意図される任意の形状の物品を意味する。本発明における基材としては、例えば、木材、合板、MDF、パーティクルボード、ファイバーボード等の木質系材料;壁紙、包装紙等の紙質系材料:綿布、麻布、レーヨン等のセルロース系材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、発泡ウレタン等のプラスチック材料;ガラス、陶磁器等のセラミック材料;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料等が挙げられる。
【0053】
かかる基材は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、タルク、シリカ、活性炭等の無機充填剤、炭素繊維等とプラスチック材料との混練成形品であってもよい。
【0054】
基材としては、中でも、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル樹脂、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンなどが好ましく、とりわけ、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンが好ましい。
【0055】
基材の一方が木質系材料、紙質系材料、セルロース系材料などの吸水性の基材の場合には、本発明の水性エマルションをそのまま塗工し、他の基材と貼合することができる。すなわち、吸水性の基材に水性エマルションを塗工したのち、水性エマルションに由来する層に他の基材(吸水性でも非吸水性でもよい)を積層させれば、水性エマルションに含まれる水分は吸水性の基材に吸収され、水性エマルションに由来する塗膜が接着層となり、吸水性の基材/本発明の水性エマルションに由来する塗膜/基材を有する積層体を得ることができる。
基材がポリオレフィンなどの非吸水性の場合には、一方の基材の片面に水性エマルションを塗工した後、加熱して本発明の水性エマルションに由来する塗膜を形成したのち、他方の基材を貼合し、更に、加熱して接着させればよい。
水性エマルションに由来する塗膜を形成する際の加熱温度、及び他方の基材と水性エマルションに由来する塗膜とを貼合した後の加熱温度としては、例えば、60〜200℃などを挙げることができる。
【0056】
従って、本発明はまた、木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含む基材と、本発明の水性エマルションに由来する塗膜とを含む積層体を提供する。
【0057】
更に、本発明は、木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含む基材に、本発明の水性エマルションを塗工し、該基材と該水性エマルションを含む層とを含む塗工品を得る第1工程と、第1工程で得られた塗工品を乾燥して、前記基材と本発明の水性エマルションに由来する塗膜とを含む積層体を得る第2工程とを含む、積層体の製造方法を提供する。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示して、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中の部及び%は、特に断らない限り重量基準を意味する。
【0059】
<分子量及び分子量分布>
重合体(A−2)の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用い、ポリスチレン(分子量688〜400,000)標準物質で校正した上で、下記条件にて求めた。なお、分子量分布は重量平均分子量(以下、Mwという)と数平均分子量(以下、Mnという)との比(Mw/Mn)で評価した。
機種 Waters製 150−C
カラム shodex packed column A−80M
測定温度 140℃
測定溶媒 オルトジクロロベンゼン
測定濃度 1mg/ml
【0060】
<ビニルシクロヘキサン単位の含有量>
重合体(A−2)中のビニルシクロヘキサン単位の含有量は、下記13C−NMR装置により求めた。
13C−NMR装置:BRUKER社製 DRX600
測定溶媒:オルトジクロロベンゼンとオルトジクロロベンゼン−d4
4:1(容積比)混合液
測定温度:135℃
【0061】
<グラフト量>
無水マレイン酸のグラフト量は、以下に示す手順で測定した。サンプル1.0gをキシレン20mlに溶解し、攪拌しながらサンプル溶液をメタノール300mlに滴下してサンプルを再沈殿させて回収し、その後、回収したサンプルを真空乾燥し(80℃、8時間)、その後、熱プレスにより厚さ100μmのフィルムを作製し、得られたフィルムの赤外吸収スペクトルを測定して、1780cm−1付近の吸収よりマレイン酸のグラフト量を定量した。
【0062】
<固形分>
固形分の測定は、JIS K−6828に準じた測定方法で行った。
【0063】
<NH中和度>
アクリル樹脂(B)のNH中和度は、アクリル樹脂(B)に含まれるアクリル酸(AA)のモル数([AA])と、メタクリル酸(MAA)のモル数との合計モル数に対する、用いたアンモニアのモル数([NH])の割合、すなわち、
([NH]/([AA]+[MAA]))×100 (%)
を表す。
【0064】
<平均粒径>
レーザー回折式粒度分布測定装置LA−910(株式会社堀場製作所製)を用い、粒子屈折率1.50−0.20iで得られる体積基準のメジアン径である。
【0065】
<粗粒粒子径測定>
規格JIS K5600−2−5に準拠して、ガードナー製グラインドメータ(レンジ0〜100μm)の溝の深い位置に乳化物または水性エマルションを流し込み、溝の深い位置から浅い方向へスクレーパーを押し付けたまま1〜2秒かけて均等の速さで引き動かし、引き終わってから3秒以内に、粒が5個以上現れ始めた目盛を読み取った。この測定を3回繰り返し、平均値を粗粒粒子径とした。粗粒粒子径が大きいと、大きい異物が存在する傾向がある。
【0066】
[実施例1]
<樹脂の製造>
重合体(A−2)を樹脂として用いた。アルゴンで置換したSUS製リアクター中にビニルシクロへキサン(以下、VCHと記すことがある)386部とトルエン3640部を投入した。50℃に昇温後、エチレンを0.6MPaで加圧しながら仕込んだ。トリイソブチルアルミニウム(TIBA)のトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製TIBA濃度20%]10部を仕込み、続いてジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド0.001部を脱水トルエン87部に溶解したものと、ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.03部を脱水トルエン122部に溶解したものとを投入し、2時間攪拌した。
得られた反応液をアセトン約10000部中に投じ、沈殿した白色固体を濾取した。該固体をアセトンで洗浄後、減圧乾燥した結果、エチレン・VCH共重合体である重合体(以下、「重合体(A−1a)」と記す)300部を得た。重合体(A−1a)の粘度(η)は0.48dl/g、Mnは15,600、分子量分布(Mw/Mn)は2.0、融点(Tm)は57℃、ガラス転移点(Tg)は−28℃、重合体(A−1a)におけるVCHに由来する構造単位の含有率は13モル%であった。
得られた重合体(A−1a)100部に、無水マレイン酸0.4部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン0.04部を添加して十分に予備混合後に二軸押出機の供給口より供給して溶融混練を行い、エチレン・VCH共重合体に無水マレイン酸をグラフト重合してなる重合体(以下、「重合体(A−2a)」と記す)を得た。なお、押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の2段階に分け、前半は180℃、後半は260℃と温度設定にして溶融混練を行った。重合体(A−2a)のマレイン酸グラフト量は0.2%であった。また、重合体(A−2a)のMFRは180g/10分(190℃、荷重:2.16kgf)であった。
【0067】
<乳化剤の製造>
アクリル樹脂(B)を乳化剤として用いた。アクリル樹脂(B)の単量体として表1に記載の単量体を用いた。
【0068】
【表1】

【0069】
「AA」7.5部(10.9モル比)、「MAA」22.5部(27.4モル比)、「HEA」29.5部(26.6モル比)、「EA」29.5部(30.8モル比)及び「SLMA」11.0部(4.4モル比)を10〜30℃にて混合し、単量体混合物100部を得た。ここで、モル比とは上記単量体の合計モル数を100とした場合のモル数を表す。
反応器に、イオン交換水100部、イソプロピルアルコール(以下、IPAと記すことがある)150部及び該単量体混合液100部の混合物を仕込み、窒素置換下、80℃で撹拌した。得られた反応溶液に重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル約0.9部を徐々に添加しながら、同温度、窒素置換下で3時間攪拌した。続いて、得られた反応液が沸騰する程度まで昇温してIPAを留去し、留去後、内温を50℃に下げてから28%アンモニア水溶液を28部(46モル比)混合した後、水を加えて、水及びアンモニア以外の成分(固形分)が50%となるように調整し、粘稠なアクリル樹脂(B)を得た(収率90%、以下、(B−1)と記す)。使用した単量体の種類及び量、固形分の量、並びにアンモニア水の量を表2にまとめた。
【0070】
【表2】

【0071】
<乳化工程>
同方向回転噛合型二軸スクリュー押出機((株)日本製鋼所社製:TEX30φ、L/D=30)のシリンダー温度を110℃に設定した後、該押出機のホッパーより、重合体(A−2a)110部をスクリューの回転数350rpmにて連続的に供給し、重合体(A−2a)を加熱した。
該押出機のベント部に設けた供給口より、乳化剤である(B−1)10部(固形分)をギヤーポンプで加圧しながら連続的に供給し、(B−1)及び重合体(A−2a)を連続的に押出ししながら混合し、続いて、この押出機の圧縮ゾーンに設けた供給口よりイオン交換水100部を供給して、乳白色の乳化物を得た。得られた乳化物中の粒子の平均粒径は0.6μmであり、粗粒子径は30μmであった。
【0072】
<濾過工程>
0.05Mpa以下の濾過圧で、乳化工程で得られた乳化物を200メッシュ濾布(以下、♯200と記載する)で濾過し、その後デプスフィルターPC10(濾過精度30μm)で濾過し、その後デプスフィルターPC5(濾過精度20μm)で濾過し、得られた濾液を回収した。回収した濾液において粗粒子径は20μmであった。
【0073】
[実施例2]
濾過工程において、0.04〜0.06Mpaの濾過圧で、♯200で濾過し、その後デプスフィルターPC10で濾過し、その後デプスフィルターPPC5(濾過精度5μm)で濾過した以外は実施例1に準じて水性エマルションの濾液を得た。回収した濾液において粗粒子径は5μm以下であった。
【0074】
[実施例3]
0.09〜0.11Mpaの濾過圧で濾過工程を行った以外は実施例3に準じて水性エマルションの濾液を得た。回収した濾液において粗粒子径は5μmであった。
【0075】
[実施例4]
0.04〜0.18Mpaの濾過圧で濾過工程を行った以外は実施例3に準じて水性エマルションの濾液を得た。回収した濾液において粗粒子径は20μmであった。
【0076】
[実施例5]
濾過工程において、♯200で濾過し、その後デプスフィルターPC10で濾過し、その後デプスフィルターPPC10(濾過精度10μm)で濾過した以外は実施例3に準じて水性エマルションの濾液を得た。回収した濾液において粗粒子径は5μm以下であった。
【0077】
[実施例6]
0.1〜0.15Mpaの濾過圧で濾過工程を行った以外は実施例6に準じて、水性エマルションの濾液を得た。回収した濾液において粗粒子径は20μmであった。
【0078】
[参考例]
濾材としてナイロンメッシュメンブランフィルター(孔径10μm)を用いて、0.01〜0.2MPaの濾過圧で濾過工程を行った以外は実施例3に準じて水性エマルションの濾過を行った。回収した濾液において粗粒子径は5μmであったが、すぐに目詰まりして濾過不可となった。
【0079】
実施例において用いた濾材を表3に示す。濾過条件及び粗粒子径を表4に示す。本発明の方法を用いると、目詰まりすることなく小さい粗粒子径を達成することができる。
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の方法で製造された水性エマルションは、外観の優れた薄膜を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を水中で乳化する工程と、
前工程で得られた乳化物を、デプスフィルターを用いて濾過して濾液を回収する工程と
を含む、水性エマルションの製造方法。
【請求項2】
デプスフィルターの濾過精度が5〜20μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
デプスフィルターがポリプロピレン製である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
0.01〜0.2MPaの濾過圧力で濾過を行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
10〜75℃の温度で濾過を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
2以上のデプスフィルターを組み合わせて濾過を行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
デプスフィルターによる濾過の前に予備濾過を行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
目開き寸法が50〜100μmである濾材を用いて予備濾過を行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
熱可塑性樹脂が、エチレン及び/又はプロピレンを含有する熱可塑性ポリマーを含んでなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂が、エチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と、式(I)
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)
で表されるビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、又は
該オレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
ビニル化合物(I)に由来する構造単位が、ビニルシクロヘキサンに由来する構造単位を含んでなる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
熱可塑性樹脂のMFR(190℃、2.16kgf)が、130g/10分以上300g/10分以下である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
α,β−不飽和カルボン酸(1)に由来する構造単位と、
メチレン基又はメチン基に結合した水酸基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル(2)に由来する構造単位と
を含むアクリル樹脂(B)を乳化剤として用いる、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
α,β−不飽和カルボン酸(1)に由来する構造単位が、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種のα,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
α,β−不飽和カルボン酸エステル(2)が、α,ω−アルキレンジオールと、α,β−不飽和カルボン酸とのエステル体である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
濾過工程前の乳化物中の分散質の体積基準メジアン径が0.5〜1.5μmである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
濾過工程前の乳化物中の分散質の粗粒子径が30〜200μmである、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
濾過工程後の水性エマルション中の分散質の粗粒子径が1〜30μmである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法によって製造される水性エマルション。
【請求項21】
請求項20に記載の水性エマルションを、基材上に塗工し、加熱することを特徴とする、基材上に塗膜を形成する方法。
【請求項22】
請求項20に記載の水性エマルションを塗工し、乾燥してなることを特徴とする塗膜。
【請求項23】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含んでなる基材と、請求項22に記載の塗膜とを含んでなることを特徴とする積層体。
【請求項24】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含んでなる基材に、請求項20に記載の水性エマルションを塗工し、該基材と該水性エマルションを含んでなる層とを含んでなる塗工品を得る第1工程と、
第1工程で得られた塗工品を乾燥させて、前記基材と前記水性エマルションに由来する塗膜とを含んでなる積層体を得る第2工程と
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。

【公開番号】特開2011−241324(P2011−241324A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115513(P2010−115513)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】