説明

水晶振動デバイス

【課題】 水晶振動板の高周波化と小型化を容易にするとともに耐衝撃性能を高めた水晶振動デバイスを提供する。
【解決手段】 ATカットの矩形状の水晶振動板1があり、その主面に励振電極2,3と、当該励振電極から水晶振動板の主面の外周端部うちZ’軸方向の辺の一部に延出された引出電極4,5を形成した水晶振動デバイスであって、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともX軸方向の辺には、金属膜により構成された肉厚部111,131を有し、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともZ’軸方向の辺で、かつ前記引出電極の延出された辺には、水晶母材からなる肉厚部121を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動デバイスに関するものであり、ATカット水晶振動デバイスの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚み振動系のATカット水晶振動板を用いた水晶振動子は、一般に水晶振動板の表裏面に一対の励振電極を正対向して形成し、当該励振電極に交流電圧を印加する構成である。このような水晶振動子の振動周波数は水晶振動板の厚みに依存する。このため、厚みすべり基本波振動で100MHz以上(16.7μm以下)の周波数にて動作する高周波向けの水晶振動板としては、フォトリソ技法とウェットエッチング手法を用いて、水晶振動板の中央部分を凹陥させた肉薄の振動領域と、周端部に肉厚の枠領域を形成したいわゆる逆メサ形状の水晶振動板を構成していた。
【0003】
異方性結晶からなる水晶振動板は、ウェットエッチングされる方向(水晶結晶軸)によってエッチングされる速度が異なる。例えばATカット水晶振動板では、Z軸からθ°ずれた新たな軸をZ’と称し、Y軸からθ°ずれた新たな軸をY’と称しており、エッチングされる速度の早い順番は、Z’>+X>−X>Y’となる。このため、逆メサ形状を得るために水晶振動板をウェットエッチングすると、水晶振動板の方向(水晶結晶軸)によって凹陥の段差部分の傾斜角度が異なるので、スロープの大きな方向とスロープの小さな方向が混在し、スロープの大きな方向では振動部の平坦な領域を侵害することになる。結果として、初期設計に対して有効な振動部領域の面積を確保することができなくなるという問題が生じている。特に小型化された水晶振動板はこのような問題が顕著であり、X軸方向に沿った外周端部の肉厚部の段差部分ではスロープの張り出し幅が他の方向に比べて大きく、このスロープの悪影響を受けて振動部の確保が困難となっているのが現状である。
【0004】
このような問題点を解決するため、例えば特許文献1では肉厚の枠領域を略L字状かI字状としたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−33640号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1では、水晶振動板としての強度が不足する領域が大きく、耐衝撃性能が劣るという新たな問題点が生じている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水晶振動板の高周波化と小型化を容易にするとともに耐衝撃性能を高めた水晶振動デバイスを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の水晶振動デバイスでは、特許請求項1に示すように、ATカットの矩形状の水晶振動板があり、その主面に励振電極と、当該励振電極から水晶振動板の主面の外周端部うちZ’軸方向の辺の一部に延出された引出電極を形成した水晶振動デバイスであって、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともX軸方向の辺には、金属膜により構成された肉厚部を有し、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともZ’軸方向の辺で、かつ前記引出電極の延出された辺には、水晶母材からなる肉厚部を有することを特徴とする。
【0009】
上記構成により、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともX軸方向の辺には、金属膜により構成された肉厚部を有するため、例えば、100MHz以上の高周波対応のため水晶振動板の振動領域を肉薄化したとしても土手幅の小さい水晶振動板の端部補強部を構成することができる。特に水晶振動板のX軸方向の辺をウェットエッチングすることで構成した水晶母材からなる肉厚部では段差部分にスロープが比較的大きく形成されるため、Z’軸方向を中心として水晶振動板の振動領域を狭めることになるが、本発明では金属膜で構成された肉厚部ではスロープが形成されることがないため、Z’軸方向の水晶振動板の振動領域を侵害することなく小型化にも対応できる。加えて上記肉厚部を水晶振動板と別体の金属膜で構成することで、振動部としての水晶振動板全体の厚みを均一に加工することができ、加工ばらつきの影響も受けにくい。
【0010】
また、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともZ’軸方向の辺で、かつ前記引出電極の延出された辺には、水晶母材からなる肉厚部を有するため、高周波対応のため水晶振動板の振動領域を肉薄化したとしてもスロープの形成されにくいZ‘軸方向の辺に水晶母材からなる肉厚部を端部補強部として構成することができるので、水晶振動板の振動領域を狭めることもない。また、水晶母材からなる非金属の肉厚部を構成することで、この非金属の肉厚部の上部に引出電極を形成することができるため、金属膜で構成された肉厚部に比べて引出電極の延出する方向を妨げられることもなく、かつより肉厚で幅広に形成できる安定した肉厚部(端部補強部)で保持が行える。さらに引出電極はスロープの形成されにくいZ‘軸方向の辺で延出されるため、振動領域と肉厚部での段差部分の断線の影響も少ない。
【0011】
また、水晶振動板の外周端部の肉厚部を本発明のように、金属膜により構成された肉厚部と水晶母材からなる肉厚部を組み合わせることで、小型化された水晶振動板であってもその振動領域の確保と端部の強度向上を同時に実現することができ、作成も容易に行える。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、水晶振動板の高周波化と小型化を容易にするとともに耐衝撃性能を高めた水晶振動デバイスを提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す平面図。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図。
【図3】図1のB−B線に沿った断面図。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す平面図。
【図5】図4のC−C線に沿った断面図。
【図6】図4のD−D線に沿った断面図。
【図7】本発明の変形例を示す平面図。
【図8】本発明の他の変形例を示す平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による実施形態について水晶振動子(水晶振動デバイス)を例にして図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施形態による水晶振動板の平面図であり、図2は図1のA−A線に沿った断面図であり、図3は図1のB−B線に沿った断面図である。
【0015】
水晶振動板1は厚みすべり振動してなるATカット水晶振動板からなり、例えば水晶結晶軸のX軸が長辺11,13とほぼ平行で、水晶結晶軸のZ’軸が短辺12,14とほぼ平行となるように平面視矩形状に構成されている。
【0016】
水晶振動板1の主面の中央には振動領域を有しており、その表裏面に平面視略正方形状の励振電極2,3が形成されている。この振動領域は厚みすべり基本波振動で100MHz以上の周波数にて動作する高周波向けの水晶振動板として構成されている。本形態では例えば基本波振動で98〜110MHz帯、振動領域の厚みとしては15〜17μm程度で形成した。
【0017】
前記励振電極2,3は、同形状で同一面積に構成されており、かつ水晶振動板1を介して正対向して形成されている。前記励振電極2,3は正方形状であるので、2つの平行辺を有して同形状に形成されるとともに、各平行辺が水晶振動板1のX軸方向とZ’軸方向の両方に沿って形成されている。各励振電極2,3から水晶振動板1の主面の外周端部うちZ’軸方向の短辺12に延出された引出電極4,5が形成されている。これら励振電極および引出電極は例えばクロム(Cr)やニッケル(Ni)の下地電極層の上部に金(Au)など上部電極層が積層された構成であり、真空蒸着法やスパッタリング法により形成されるが、当該金属材料に限定されるものではない。
【0018】
水晶振動板1の主面の周囲(外周端部)には肉厚の枠領域を有しており、水晶結晶軸のZ’軸方向の短辺12は、水晶母材からなる肉厚部121を有しており、この肉厚部121の領域を除いて、水晶結晶軸のX軸の長辺11,13には、金属膜により構成された肉厚部111,131を有している。
【0019】
本発明の第1の実施形態では、図2、図3に示すように、水晶振動板の励振電極2が形成された主面側(図中向かって上側の主面)にのみ各肉厚部111,121,131を形成している。つまり、フォトリソ技法とウェットエッチング手法を用いて、水晶振動板の励振電極2が形成された主面側(図中向かって上側の主面)のみで、短辺12の領域を除いた部分を凹陥させて肉薄の振動領域を形成することで、水晶振動板の励振電極2が形成された主面側(図中向かって上側の主面)の短辺12の領域が突出した水晶母材からなる肉厚部121を形成している。またフォトリソ技法と電解メッキなどの手法を用いて、水晶振動板の励振電極2が形成された主面側(図中向かって上側の主面)のみで、肉厚部121の領域を除いた長辺11,13の領域に金属膜を形成することで、水晶振動板の励振電極2が形成された主面側(図中向かって上側の主面)の長辺11,13の領域が突出した金属メッキからなる肉厚部111,131を形成している。
【0020】
肉厚部111,131は励振電極や引出電極と同様の材料を下地電極として構成し、上部に金(Au)などの金属膜を形成している。金属膜の材料については、当該金属材料に限定されるものではなく、コスト面や特性面を考慮して最適なものを選択することができる。また本実施形態では電解メッキ法により金メッキの金属膜を構成しているが、非電解メッキ法や真空蒸着法、スパッタリング法などの他の手法で金属膜を構成してもよい。なおメッキ法を採用することで、より安価に厚膜の金属膜を構成することができる。
【0021】
次に、本発明の第2の実施形態について水晶振動子(水晶振動デバイス)を例にして図面に基づいて説明する。図4は本発明の第2の実施形態による水晶振動板の平面図であり、図5は図4のC−C線に沿った断面図であり、図6は図4のD−D線に沿った断面図である。なお、上述の第1の実施形態と同様の部分については同番号を付して説明の一部を省略している。
【0022】
本発明の第2の実施形態の水晶振動板の振動領域は、例えば基本波振動で555〜835MHz帯、振動領域の厚みとしては2〜3μm程度で形成しており、上記第1の実施形態と同様に、水晶振動板1の主面の周囲(外周端部)には肉厚の枠領域を有している。水晶結晶軸のZ’軸方向の短辺12には、水晶母材からなる肉厚部121,122を有しており、水晶結晶軸のZ’軸方向の短辺14には、水晶母材からなる肉厚部141,142を有している。またこの肉厚部121,122,141,142の領域を除いて、水晶結晶軸のX軸の長辺11には、金属膜により構成された肉厚部111,112を有しており、水晶結晶軸のX軸の長辺13には、金属膜により構成された肉厚部131,132を有している。
【0023】
本発明の第2の実施形態では、上記第1の実施形態と異なり、図5、図6に示すように、水晶振動板の両主面に各肉厚部111,112,121,122,131,132,141,142を形成している。つまり、フォトリソ技法とウェットエッチング手法を用いて、水晶振動板の両主面側から短辺12の領域を除いた部分を凹陥させて肉薄の振動領域を形成することで、水晶振動板の両主面の短辺12の領域が突出した水晶母材からなる肉厚部121,122を形成している。またフォトリソ技法と電解メッキなどの手法を用いて、水晶振動板の両主面で、肉厚部121,122の領域を除いた長辺11,13,14の領域に金属膜を形成することで、水晶振動板の両主面側(図中向かって上側の主面)の長辺11,13の領域が突出した金属膜からなる肉厚部111,112,131,132,141,142を形成している。
【0024】
肉厚部111,112,131,132,141,142は励振電極や引出電極と同様の材料を下地電極として構成し、上部に金(Au)などの金属膜を形成している。金属膜の材料については、当該金属材料に限定されるものではなく、コスト面や特性面を考慮して最適なものを選択することができる。
【0025】
以上にように構成された第1の実施形態や第2の実施形態の水晶振動板1は、図示しないセラミックやガラスなどのパッケージ体へ収納するとともに、水晶振動板1をパッケージ体に導電性樹脂接着剤や金属バンプ・めっきバンプなどの導電性接合材により電気的機械的接合される。そして所定の加熱などによる安定化処理を行った後、図示しない蓋体にてパッケージ体の開口部をシーム接合やビーム接合、ろう接合、ガラス封止などの手段により、気密封止を行うことで水晶振動子の完成となる。
【0026】
本発明では、上述のような実施形態に限らず、図7、図8に示すようなものでもよい。
図7の変形例では、上述の実施形態と同様に水晶振動板1の主面の周囲(外周端部)には水晶母材からなる肉厚部121と金属膜からなる肉厚部111,131,141を具備しながら、一部の辺領域に一つ以上の金属膜を形成しない非肉厚部Mを構成している。本変形例では金属膜の応力を緩和するために有効な構成である。
【0027】
図8の他の変形例では、水晶振動板1の主面の外周端部うち対向する2つのZ’軸方向の辺12,14に水晶母材からなる肉厚部121,141を形成し、この肉厚部121,141の領域を除いて、X軸の長辺11,13には、金属膜により構成された肉厚部111,131を形成した実施形態である。本変形例では水晶母材からなる肉厚部121と肉厚部141の厚みを同様に構成することができるので、搭載の安定性を高めることができる。
【0028】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施の形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
水晶振動子などの水晶振動デバイスに適用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 水晶振動板
2,3 励振電極
4,5 引出電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATカットの矩形状の水晶振動板があり、その主面に励振電極と、当該励振電極から水晶振動板の主面の外周端部うちZ’軸方向の辺の一部に延出された引出電極を形成した水晶振動デバイスであって、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともX軸方向の辺には、金属膜により構成された肉厚部を有し、前記水晶振動板の主面の外周端部うち少なくともZ’軸方向の辺で、かつ前記引出電極の延出された辺には、水晶母材からなる肉厚部を有することを特徴とする水晶振動デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93797(P2013−93797A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235932(P2011−235932)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】