説明

水稲の生育障害改善方法

【課題】還元土壌における作物の生長改善方法を提供すること。
【解決手段】ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類から選択する一つの化合物を水稲に作用させて還元土壌条件下での生育障害を改善する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水稲の生育障害改善方法に関する。詳しくは、本発明は特定の薬剤を処理することによって、還元土壌下での水稲の生育障害を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているイミダクロプリド、特許文献2に記載されているクロチアニジン、特許文献3に記載されているチアクロプリド、特許文献4に記載されているチアメトキサム、特許文献5に記載されているジノテフラン、特許文献6に記載されているニテンピラム、特許文献7に記載されているエチプロール、及び特許文献8に記載されているフィプロニルが殺虫作用を有することは、既に公知である。さらに、特許文献9乃至11には、ネオニコチノイド類による植物成長効果の記載があり、特許文献12にはアリールピラゾール類による植物の成長調節効果が記載されている。
【特許文献1】EP00192060号
【特許文献2】EP00376279号
【特許文献3】EP00235725号
【特許文献4】EP00580553号
【特許文献5】EP00649845号
【特許文献6】EP00295117号
【特許文献7】WO1997022593号公開パンフレット
【特許文献8】EP00295117号
【特許文献9】特表2003−527329号
【特許文献10】特表2007−536917号
【特許文献11】特表2003−537176号
【特許文献12】特開2007−269803号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来から水田における還元土壌の発生は、イネに対して顕著な生育阻害を起こし、問題になっている。還元土壌とは、未分解の有機物が水田土壌中に大量に存在した場合、酸素供給が不十分な条件で、微生物分解が進行し、土壌中の酸素が欠乏し、還元状態になることを言う。土壌還元の程度は酸化還元電位を測定することにより、強還元(E=−200mV程度。雑草も生えず、土は青みがかる)及び中還元(E=−100mV程度。雑草は生えるが弱い)に分類される。強還元状態の場合、イネの根の垂直方向への成長は著しく阻害され、田面水平方向への延伸が誘発されるが、成長を補うまでには至らず、枯死してしまうことがある。また、田面水平方向に延伸した根は、水田用除草剤として一般的な、水田面の地面表面に処理層を形成する薬剤と接触し、除草剤による薬害を引き起こす。また、還元土壌の発生は日本全土で起こりやすくなっている。つまり、温暖な地域では、水稲栽培後の二期作物の残渣が未分解のまま田植え時期になることにより、また、それ以外の地域でも、米収穫時に出るワラ、ヌカ等の残渣を焼却することが社会状況の変化から難しくなり、未分解のまま田植え時期になり還元土壌の発生を誘引する。還元土壌の対策は、水田の水管理等で行うなど対処しているのが現状で根本的な解決は図られていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類が、還元土壌における水稲の生育障害を改善することを見出し、本発明を完成するに至った。かくして、本発明は還元土壌における水稲の生育障害を、ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類により改善する方法を提供するものである。
【0005】
即ち、本願発明は、
(1)還元土壌における水稲の生育障害をネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類により改善する方法、
(2)ネオニコチノイド類がイミダクロプリド、クロチアニジン、チアクロプリド、チアメトキサム、ジノテフラン及びニテンピラムから選ばれる一つである(1)に記載の方法、
(3)アリールピラゾール類がエチプロール又はフィプロニルである(1)に記載の方法、
(4)ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類を水稲育苗箱に施用する(1)に記載の方法、
(5)ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類を水稲移植と同時又は移植後に本田に施用する(1)に記載の方法、及び
(6)ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類を種子処理する(1)に記載の方法、
を提供するものである。
【0006】
本発明で用いられるネオニコチノイド類の代表例としては例えば、
1−[(6−クロロ−3−ピリジル)メチル]−N−ニトロ−2−イミダゾリジンイミン(一般名:イミダクロプリド)、N−[(2−クロロ−5−チアゾイル)メチル]−N’−メチル−N”−ニトロ−グアニジン(一般名:クロチアニジン)、[3−[(6−クロロ−3−ピリジニル)メチル]−2−チアゾリジニリデン]−シアナミド(一般名:チアクロプリド)、3−[(2−クロロ−5−チアゾリル)メチル]テトラヒドロ−5−メチル−N−ニトロ−4H−1,3,5−オキサジアジン−4−イミン(一般名:チアメトキサム)、N−メチル−N’−ニトロ−N”−[(テトラヒドロ−3−フラニル)メチル]−グアニジン(一般名:ジノテフラン)、(E)−N−[(6−クロロ−3−ピリジニル)メチル]−N−エチル−N’−メチル−2−ニトロ−1,1−エテン エジアミン(一般名:ニテンピラム)等が挙げられ、好適にはイミダクロプリドを挙げることができる。
【0007】
また同様にアリールピラゾール類の代表例としては例えば、
5−アミノ−1−[2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)−フェニル]−4−[(トリフルオロメチル)−スルフィニル]−1H−ピラゾル−3−カルボニトリル(一般名:フィプロニル)、5−アミノ−1−[2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−(エチニルスルフィニル)−1H−ピラゾル−3−カルボニトリル(一般名:エチプロール)等が挙げられる。
【0008】
本発明の方法を実施するに当たっては、ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類を水稲移植と同時に又は移植後に本田に施用するか、水稲稚苗生育時に予め育苗箱に施用するか、予め種子処理しておく方法を採用することができる。
そして、本発明の方法において、ネオニコチノイド類が使用される場合、その有効成分量は本田施用の場合は約10〜1000g/ha、育苗箱(30cmx60cmx3cm)施用の場合には約0.1〜10g/箱、種子処理の場合には約0.2〜20g/種子1kgの範囲内であり、またアリールピラゾール類が使用される場合、その有効成分量は本田施用の場合は約10〜1000g/ha、育苗箱(30cmx60cmx3cm)施用の場合には約0.1〜10g/箱、種子処理の場合には約0.2〜20g/種子1kgの範囲内である。
【0009】
本発明の方法で使用されるネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類は、通常の製剤形態にすることができる。製剤形態としては、例えば、液剤、エマルジョン、水和剤、粒状水和剤、懸濁剤、粒剤、種子用被覆剤等を挙げることができる。
【0010】
これらの製剤はそれ自体既知の方法で製造することができる。例えば、活性化合物を、拡展剤、即ち、液体の希釈剤又は担体;固体の希釈剤又は担体と、そして場合によっては界面活性剤、即ち、乳化剤及び/又は分散剤と共に混合することによって製造することができる。
【0011】
拡展剤として水を用いる場合には、例えば有機溶媒をまた補助溶媒として使用することができる。
【0012】
液体希釈剤又は担体としては、例えば、芳香族炭化水素類(例えば、キシレン、トルエン、アルキルナフタレン等)、クロル化芳香族又はクロル化脂肪族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン類、塩化エチレン類、塩化メチレン類)、脂肪族炭化水素類(例えば、シクロヘキサン等、パラフィン類(例えば鉱油留分類))、アルコール類(例えば、ブタノール、グルコ−ル及びそれらのエーテル、エステル等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、強極性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等)、水などを挙げることができる。
【0013】
固体希釈剤としては、例えば、粉砕天然鉱物(例えば、カオリン、クレー、タルク、チョーク、石英、アタパルガイト、モンモリロナイト又は珪藻土等)、粉砕合成鉱物(例えば、高分散ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩等)などを挙げることができる。
【0014】
粒剤のための固体担体としては、例えば、粉砕且つ分別された岩石(例えば、方解石、大理石、軽石、海泡石、白雲石等)、無機又は有機物粉の合成粒、有機物質(例えば、おがくず、ココやしの実のから、とうもろこしの穂軸、タバコの茎等)の細粒体などを挙げることができる。
【0015】
乳化剤としては、例えば、非イオン及び陰イオン乳化剤[例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル(例えば、アルキルアリールポリグリコールエーテル)、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アリールスルホン酸塩等]、アルブミン加水分解生成物などを挙げることができる。
【0016】
分散剤としては、例えば、リグニンサルファイト廃液、メチルセルロースが包含される。
【0017】
固着剤も、製剤(粒剤等)に使用することができ、該固着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、天然又は合成ポリマー(例えば、アラビアゴム、ポリビニルアルコールそしてポリビニルアセテート等)などを挙げることができる。
【0018】
着色剤を使用することもでき、該着色剤としては、例えば、無機顔料(例えば、酸化鉄、酸化チタン、プルシアンブルーなど)、アリザリン染料、アゾ染料又は金属フタロシアニン染料のような有機染料、そしてさらに、鉄、マンガン、ボロン、銅、コバルト、モリブデン、亜鉛の塩のような微量要素を挙げることができる。
【0019】
該製剤は、一般には、前記活性成分を0.1〜95重量%、好ましくは0.5〜90重量%の範囲内の量で含有することができる。
【0020】
本発明の方法においては、ネオニコチノイド類、アリールピラゾール類と他の活性化合物、例えば、殺虫剤、殺菌剤、除草剤などとを混合して用いることもできる。
【0021】
次に、本発明の方法を下記の実施例によりさらに具体例を示すが、本発明はこれのみに限定されるべきものではない。
【実施例】
【0022】
生物試験及び製剤例
供試化合物
1−[(6−クロロ−3−ピリジル)メチル]−N−ニトロ−2−イミダゾリジンイミン(一般名:イミダクロプリド)、
5−アミノ−1−[2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)−フェニル]−4−[(トリフルオロメチル)−スルフィニル]−1H−ピラゾル−3−カルボニトリル(一般名:フィプロニル)、
5−アミノ−1−[2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)−フェニル]−4−(エチルスルフィニル)−1H−ピラゾル−3−カルボニトリル(一般名:エチプロール)、
【0023】
(供試薬剤の調整)
0.2〜2mmの範囲内の粒径分布を有する粘土鉱物粒95部を回転混合機に入れ、回転下、液体希釈剤とともに供試化合物5部を噴霧し均等にしめらせた後、40〜50℃で乾燥して粒剤を調整する。
【0024】
(還元土壌の調整)
乾燥した水田土壌1リットルあたり3ミリリットルの片栗粉を水を加えながら混和した。室温で10日間放置し、酸化還元電位を測定し、強還元状態を確認した。中還元状態にするには、再度、上記土壌を混和させることにより調整した。
【0025】
試験例1:強還元条件下における作物生長改善効果試験
(方法)
イネ(コシヒカリ)の2.1葉期苗を温室内において、上記調整した水田土壌(約−250mV)を詰めたポット(プラスチック製、1リットル)に移植し、同時に供試薬剤を処理した。その後水深2センチメートルまで静かに水を張り、室温にて16日間管理し、イネの根の長さ及び地上部の長さの比較調査を行った(3反復の平均値)。無処理、非還元条件下での根及び地上部の成長率を100%として、夫々の成長率を算出した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
強還元条件下、無処理では、非還元条件と較べてイネの根の成長率は15%に、地上部の成長率は42%に止まるが、イミダクロプリドを処理することによって根の成長率は80%まで、地上部の成長率は55%まで改善した。また、フィプロニルを処理することによって根の成長率は100%まで、地上部の成長率は92%まで改善した。
【0028】
試験例2:中還元条件下における作物生長改善効果試験
(方法)
イネ(コシヒカリ)の2.1葉期苗を温室内において、上記調整した水田土壌(約−250mV)を詰めたポット(プラスチック製、1リットル)に移植し、同時に供試薬剤を処理した。その後水深2センチメートルまで静かに水を張り、室温にて19日間管理し、イネの根の長さ及び地上部の重さの比較調査を行った(10反復の平均値)。無処理、非還元条件下での根及び地上部の成長率を100%として、夫々の成長率を算出した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
中還元条件下、無処理では、非還元条件と較べてイネの根の成長率は75%に、地上部の成長率は77%に止まるが、エチプロールを処理することによって根の成長率は83%まで、地上部の成長率は90%まで改善した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元土壌における水稲の生育障害をネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類により改善する方法。
【請求項2】
ネオニコチノイド類がイミダクロプリド、クロチアニジン、チアクロプリド、チアメトキサム、ジノテフラン及びニテンピラムから選ばれる一つである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アリールピラゾール類がエチプロール又はフィプロニルである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類を水稲育苗箱に施用する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類を水稲移植と同時又は移植後に本田に施用する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ネオニコチノイド類又はアリールピラゾール類を種子処理する請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2010−30908(P2010−30908A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191752(P2008−191752)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】