説明

水系における微生物障害を抑制する水系処理方法

【課題】被処理水系に次亜ハロゲン酸生成化合物とハロゲン安定化剤とを添加する水系の微生物障害抑制方法であって、該ハロゲン安定化剤を必要最低限の添加濃度で一定に維持し、かつ酸化還元電位を特定範囲に維持することによって、優れた殺菌・殺藻効果、及び窒素分とCOD分の低減効果を得る簡易で安価な水系処理方法。
【解決手段】特定の濃度測定対象化合物とハロゲン安定化剤を含有する組成物を被処理水系に添加することによって該ハロゲン安定化剤を必要最低限の添加濃度で一定に維持する手段と、被処理水の酸化還元電位を300〜700mV(飽和KCl入り銀/塩化銀電極基準)の範囲になるように次亜ハロゲン酸生成化合物の添加量を調整する手段を有することを特徴とする水系処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系、紙パルププロセス水系、集塵水系、スクラバー水系、排水系などの各種水系に次亜ハロゲン酸とハロゲン安定化剤と添加して殺菌殺藻処理するに際し、上記ハロゲン安定化剤を有効活用してハロゲン安定化剤の必要最低限の添加濃度で優れた殺菌・殺藻効果を得るとともに、その使用量の低減により該ハロゲン安定化剤由来の窒素分及びCOD分を低減しながら、水系の殺菌殺藻を行いうる水系処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スルファミン酸と次亜塩素酸塩を反応させて得られる殺菌用安定化塩素溶液が開示されており、蒸発式水冷却塔などの冷却系における殺菌のために約0.2から3mg/Lの濃度の遊離有効塩素と約1から10mg/Lの濃度のスルファミン酸イオンを含む溶液を添加する方法が開示されている。
【0003】
この殺菌用安定化塩素の濃度は、全残留塩素濃度から遊離残留塩素濃度を引いた「結合塩素濃度」として表される。そして、殺菌力が強く即効性はあるものの、有効成分が消失しやすく、腐食性が高い遊離塩素と、殺菌力は抑制されるが、遊離塩素に比べて有効成分の持続性が向上し、腐食性が低い結合塩素を、それぞれの特徴を生かして組み合わせることによって高い初期殺菌力と殺菌力の持続、及び低い腐食性を実現する試みが行われてきた(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
更にその組み合わせについて詳述すると、即効効果はあるものの、その効果に持続性が無い遊離塩素は殺菌対象の表面に強力に作用し殺菌するが、その対象が配管や熱交の金属表面に層状を成して付着した汚れである場合は、その層の表面を殺菌・殺生物するものの、層の下部には効果が及ばない。ところが、例えば冷却水系における最も重大な障害は金属表面腐食による漏れであるが、その腐食は層状の汚れが金属表面と接する汚れの下部で進行する。従って、遊離塩素では単細胞や微小な塊の細菌や藻類を殺菌・殺藻することはできるが、層状の汚れの下部や大型の藻類などが形成する大きな塊の中心部分を効果的に殺菌・殺藻することは期待できない。一方、結合塩素は遊離塩素に比べて有効成分の持続性が高いので、その成分が層状の汚れの下部や大きな塊の中心部分に到達した時点でも十分な殺菌・殺藻効果を保持しており、従って、遊離塩素が効果を及ぼすことが期待できない部位においても結合塩素は十分に殺菌・殺藻効果を示すことが可能であり、また、金属に対する腐食性も低いので、層状汚れ下部における金属表面の腐食進行を効果的に抑制することができる。このように、遊離塩素と結合塩素を組み合わせて用いることによって、低腐食性で優れた殺菌・殺藻効果を得ることができる。
【0005】
特許文献2には、対象水に初期に十分な遊離塩素濃度を与えるための塩素系酸化剤とスルファミン酸もしくはその塩をそれぞれ個別に添加し、遊離残留塩素濃度と全残留塩素濃度が予め定めた範囲のバランス状態にあるか否かの判定を行うことを特徴とする水の状態判定方法において、初期に与える遊離残留塩素濃度を2(mg/L)以上とし、かつ水中の[遊離残留塩素濃度(mg/L)+0.1〕×[全残留塩素濃度(mg/L)]の値が0.1〜1.0(mg/L)の範囲内にあるか否かの判定を行う水の状態判定方法が示されている。この判定方法においては、頻繁に遊離残留塩素濃度と全残留塩素濃度を測定し判定を行う必要がある。
【0006】
また、特許文献3には、塩素濃度測定装置を用いて次亜塩素酸塩及び/又は次亜臭素酸塩の塩素換算による全残留塩素濃度が0.1〜100mg/Lの範囲にあるように次亜ハロゲン酸の添加量を制御すると共に、次亜塩素酸塩及び/又は次亜臭素酸塩の塩素換算による遊離残留塩素濃度が1mg/L以下にあるようにスルファミン酸の添加量を制御する殺菌殺藻方法が開示されている。ここで、汚れ成分により消耗した安定化次亜塩素酸塩の再生方法として、次亜塩素酸塩と反応せずに系内に残存したスルファミン酸塩に対して、新たに次亜塩素酸塩を系に添加することで安定化次亜塩素酸塩を生成させているが、この再生方法においても、系内に残存したスルファミン酸塩の濃度を把握できないので、頻繁に遊離残留塩素濃度と全残留塩素濃度を測定しながら、少しずつ次亜塩素酸塩を添加して次亜塩素酸塩の適正添加量を探らなければならない。
【0007】
特許文献4には、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩を含む薬剤であり、かつ水系水の酸化力を全残留塩素濃度に換算して1mg/L以上5mg/L以下の範囲に維持することにより遊離残留塩素濃度に換算される前記水系水の酸化力を 0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持させることを特徴とする水系水におけるスライム抑制方法が開示されている。しかし、例えば、冷水塔循環水系における循環水の水質や運転条件は非常に多様であり、特にpHによって酸化力は大きく変動することは知られているので、水系水の酸化力として全残留塩素濃度を1mg/L以上5mg/L以下の範囲に維持すれば遊離残留塩素濃度に換算される前記水系水の酸化力を 0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持できるとは必ずしも言えない。
【0008】
このように、遊離塩素と結合塩素を組み合わせて効果的に微生物障害を抑制する従来の試みは、煩雑な分析を要する、あるいは、対象水系の条件によっては目的の効果が得られないなどの問題がある。更に、全残留塩素濃度と遊離残留塩素濃度の両方を測定する前記の従来技術では、その測定値が管理範囲を外れた場合の具体的な処置方法が明確でなく、また、スルファミン酸を適正濃度に維持することは煩雑であり、そのため、全残留塩素と遊離残留塩素の管理のみでは十分な殺菌効果や殺藻効果が得られない場合が多かった。
【0009】
また、系内で結合塩素を生成させるためのハロゲン安定化剤としてスルファミン酸などの含窒素化合物が用いられるが、該化合物の添加により水系水の窒素分及びCOD分が増加することも好ましくなく、該化合物の必要最小限の添加が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許3170883号公報
【特許文献2】特開2008−241296号公報
【特許文献3】特開2009−84163号公報
【特許文献4】特開2009−160505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、被処理水系に次亜ハロゲン酸生成化合物とハロゲン安定化剤とを添加して各種微生物障害を抑制するに際し、上記ハロゲン安定化剤の濃度を一定に維持して有効活用し、必要最低限のハロゲン安定化剤の添加濃度によって、低腐食性で優れた殺菌・殺藻効果を得るとともに、その使用量低減により該ハロゲン安定化剤由来の窒素分及びCOD分を低減し、更には複雑で高価な分析装置や制御装置を必要とせず、簡易で安価な方法により各種微生物障害の抑制を行いうる水系処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、濃度測定が可能な有機リン酸化合物や重合リン酸化合物やオルトリン酸やアニオン性高分子電解質といった腐食防止やスケール防止のために添加されている化合物の添加に比例させてハロゲン安定化剤を一定比率で添加することにより、ハロゲン安定化剤の被処理水系における濃度を一定に保ちながら、被処理水系における酸化還元電位が所定の範囲内にあるように次亜ハロゲン酸生成化合物の添加量を制御することにより、低腐食性、かつ、各種微生物障害に対して優れた抑制効果が得られることを見出し、本発明に到達したものである。
【0013】
本発明の方法では、ハロゲン安定化剤の被処理水系における濃度を一定に保つことによって、被処理水系における結合ハロゲン濃度を一定に保つことができ、それによって、金属の腐食を促進する付着微生物汚れを死滅・剥離させて金属腐食を抑えると共に、遊離ハロゲンを組み合わせて、系外から流入し付着汚れの構成要素になり得る微細な細菌や藻類を殺菌する。
【0014】
また、被処理水系における酸化還元電位は該水系における酸化力の総和を示し、酸化還元電位が適正な範囲を下回ると酸化力が低下して殺菌力が不足し、酸化還元電位が適正な範囲を越えると酸化力が高くなって金属腐食性が増すので、本発明では、遊離ハロゲンと結合ハロゲンを適切に組み合わせながら、酸化還元電位を適正な範囲内にあるように次亜ハロゲン酸生成化合物の添加量を制御することによって、低腐食性と優れた殺菌・殺藻効果を両立させたのである。
【0015】
本発明で用いる次亜ハロゲン酸生成化合物は、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸を生成する化合物であり、具体的には次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩などが相当するが、例えば次亜ハロゲン酸生成化合物が次亜塩素酸塩の場合、ハロゲン安定化剤の被処理水系における濃度を一定に保ちながら、酸化還元電位を一定範囲に維持するように次亜塩素酸塩の添加量を制御することにより、生成する結合塩素は一定が保たれ、また遊離塩素濃度も系の運転条件(特にpH)に依存せずに殺菌に必要な濃度が維持されることを見出した。
【0016】
ここで、系の濃縮度などが変動した場合、従来技術では、頻繁に遊離残留塩素濃度と全残留塩素濃度を測定して、結合塩素が変動前の濃度になるようにハロゲン安定化剤の添加量を調整し、その後、変動前の遊離残留塩素濃度が得られるように次亜塩素酸塩の添加量を調整する。この調整の過程で、次亜塩素酸塩の添加量不足や過剰添加が起こりやすく、殺菌力不足や金属の腐食促進状況が起こりやすい。一方、本発明では、ハロゲン安定化剤の添加量は系の変動に追随して増減し、常にその濃度は一定に保たれるから、変動前の酸化還元電位に合致するように次亜塩素酸塩を添加することによって、変動前と同じ殺菌力が確保され、かつ、金属の腐食は抑えられる。この「酸化還元電位に合致するように次亜塩素酸塩を添加する」操作は容易に自動化できるものである。このように、系の条件が変動した場合でも、ハロゲン安定化剤の被処理水系における濃度を必要最小限の適正濃度で一定に保つことにより、過剰添加などによる該水系水の窒素分及びCOD分の増加を抑えることができる。
【0017】
すなわち、請求項1に係る発明は、水系における微生物障害を抑制する水系処理方法であって、
(1)被処理水の酸化還元電位を測定する手段と、
(2)酸化還元電位が300〜700mV(飽和KCL入り銀/塩化銀電極基準)の範囲になるように次亜ハロゲン酸生成化合物の添加量を調整する手段と、
(3)有機リン酸化合物、重合リン酸化合物、オルトリン酸、アニオン性高分子電解質、水溶性亜鉛化合物、水溶性モリブデン酸化合物、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トレーサーから選択される濃度測定対象化合物の被処理水系中の濃度を測定する手段と、
(4)(a)前記濃度測定対象化合物の1種以上の化合物と(b)スルファミン酸、スルホンアミドから選択される1種以上のハロゲン安定化剤を含有する組成物を被処理水系に添加しながら、前記濃度測定対象化合物の濃度の測定結果に基づき該組成物の添加量を調整する手段を有することを特徴とする水系処理方法に関する。
【0018】
請求項2に係る発明は、ハロゲン安定化剤の被処理水系に対する添加濃度が0.01〜5mmol/Lの範囲であることを特徴とする請求項1記載の水系の処理方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水系処理方法によれば、冷却水系、紙パルププロセス水系、集塵水系、スクラバー水系、排水水系などの各種水系に、次亜ハロゲン酸生成化合物とハロゲン安定化剤とを添加して各種微生物障害を抑制するに際し、ハロゲン安定化剤を有効活用して必要最低限の添加濃度において低腐食性で優れた殺菌・殺藻効果を得るとともに、その使用量を低減することにより該ハロゲン安定化剤由来の窒素分及びCOD分を低減し、更には複雑で高価な分析装置や制御装置を必要とせず、簡易で安価な方法により目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例に使用した試験装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の水系の処理方法は、水系における微生物障害を抑制する水系処理方法であって、
(1)被処理水の酸化還元電位を測定する手段と、
(2)酸化還元電位が300〜700mV(飽和KCl入り銀/塩化銀電極基準)の範囲になるように次亜ハロゲン酸生成化合物の添加量を調整する手段と、
(3)有機リン酸化合物、重合リン酸化合物、オルトリン酸、アニオン性高分子電解質、水溶性亜鉛化合物、水溶性モリブデン酸化合物、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トレーサーから選択される濃度測定対象化合物の被処理水系中の濃度を測定する手段と、
(4)(a)前記濃度測定対象化合物の1種以上の化合物と(b)スルファミン酸、スルホンアミドから選択される1種以上のハロゲン安定化剤を含有する組成物を被処理水系に添加しながら、前記濃度測定対象化合物の濃度の測定結果に基づき該組成物の添加量を調整する手段を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の酸化還元電位を測定する手段は、被処理水に浸漬して酸化還元電位を測定する参照電極と白金電極およびこれらの支持体、参照電極と白金電極の間の電位差を測る電位差計から構成される。酸化還元電位を測定する時の参照電極には、銀/塩化銀電極、飽和カロメル電極、硫酸第一水銀電極、酸化水銀電極などが利用でき、一般に銀/塩化銀電極が使用される。また、参照電極と白金電極を一体化した複合電極を使用しても良い。これらの電極は特に限定されるものではなく、一般に市販されているものが使用できる。参照電極が異なれば酸化還元電位の値も異なるが、参照電極が異なっていても特定の換算値を加減することにより特定の参照電極基準の値に換算することができる。このような換算値は例えば化学便覧基礎編(日本化学会編、丸善発行)に記載されている。
【0023】
参照電極と白金電極の間の電位差を測る電位差計は、電位表示可能なpH計、エレクトロメーター、ポテンシオメーター、デジタルマルチメーター、電圧入力が可能な記録計などが利用できる。
【0024】
酸化還元電位は殺菌力や殺藻力との相関性が高いため、殺菌効果や殺藻効果の管理に好適である。酸化還元電位とは水中に存在するそれぞれの酸化性物質の酸化力の総和であり、酸化還元電位から全残留塩素濃度、遊離残留塩素濃度あるいは結合塩素濃度を求めることはできず、酸化還元電位による管理と残留塩素による管理は全く別物である。
【0025】
全残留塩素は遊離残留塩素と結合残留塩素の合計であり、遊離残留塩素は次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの合計であり、結合残留塩素はクロラミンと各種のN−クロロ化合物の合計であるが、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオン、クロラミンと各種のN−クロロ化合物はそれぞれ酸化力が異なり、また、系の運転条件(特にpH)が変化するとこれらの物質の酸化力も変化するため、全残留塩素と遊離残留塩素の管理のみでは十分な殺菌効果や殺藻効果が得られない場合が多かった。
【0026】
本発明は、酸化還元電位が300〜700mV(飽和KCl入り銀/塩化銀電極基準)の範囲になるように次亜ハロゲン酸生成化合物の添加量を調整する。維持すべき酸化還元電位は、システム条件、生物汚染に対する許容度、問題となる微生物や水棲生物の種類などによって異なるが、300mV未満では次亜ハロゲン酸濃度が低く十分な殺菌効果を得られないときがある。また、700mVを越えると次亜ハロゲン酸濃度が非常に高くなり、これを維持するために必要な次亜ハロゲン酸添加量では添加量の増加に見合うだけの効果の向上が小さくなるだけでなく、金属に対する腐食も増加するため好ましくない。
【0027】
酸化還元電位の測定結果をもとに次亜ハロゲン酸の添加量を調整する工程は、次亜ハロゲン酸生成化合物の供給装置と制御部から構成される。ここで制御部は、酸化還元電位の測定値と設定値を比較して次亜ハロゲン酸生成化合物の供給装置に出力を与えるものである。例えば、被処理水の殺菌効果が維持される次亜ハロゲン酸濃度に対応して酸化還元電位の範囲を設定し、設定範囲値未満の酸化還元電位になったならば、次亜ハロゲン酸生成化合物の添加装置を作動させる。酸化還元電位が設定範囲内に達したならば、次亜ハロゲン酸生成化合物の添加装置を停止させることによって、被処理水の酸化還元電位が維持される。
【0028】
本発明の次亜ハロゲン酸生成化合物は、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸を生成する化合物であるが、具体的には次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、液化塩素、臭素、塩化臭素、ブロモクロロジメチルヒダントイン、ジブロモジメチルヒダントイン、ジクロロジメチルヒダントインなどのハロゲン化ジメチルヒダントイン化合物類やトリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸、クロロイソシアヌル酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、さらには、臭化物、例えば臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化カリウム、臭化マグネシウムなどの水溶液と次亜塩素酸塩水溶液を混合して次亜臭素酸を得る組み合わせなどがあり、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。前記次亜塩素酸塩や次亜臭素酸塩の形態としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などを挙げることができるが、水溶性及び経済性などの観点から、ナトリウム塩が好適である。本発明において、これらの次亜ハロゲン酸生成化合物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明の濃度測定対象化合物は、有機リン酸化合物、重合リン酸化合物、オルトリン酸、アニオン性高分子電解質、水溶性亜鉛化合物、水溶性モリブデン酸化合物、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トレーサーから選択される。前記濃度測定対象化合物はトレーサーを除き腐食防止剤やスケール防止剤として公知であり、金属の腐食防止やスケール防止の目的で被処理水系に添加されている。
【0030】
本発明の有機リン酸化合物は、有機ホスホン酸類、ホスホノカルボン酸類、ホスフィノポリカルボン酸類などが挙げられる。
【0031】
有機ホスホン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基を有する有機化合物であり、具体的には1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などが挙げられ、好ましくは1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸である。
【0032】
ホスホノカルボン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシル基を有する有機化合物であり、具体的には2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸などが挙げられ、好ましくは2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ホスホノポリマレイン酸である。ここで、ホスホノカルボン酸はローディア社からBRICORR288の商品名、またBWA社からBELCOR585の商品名で市販されている。ホスホノカルボン酸は、例えば、中性〜アルカリ性の水性溶媒中で亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸とを遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより製造することができる(例えば特開平4−334392号公報)。また、ホスホノカルボン酸は、次亜リン酸とカルボニル化合物やイミン化合物との反応物を反応開始剤の存在下で不飽和カルボン酸と反応させることにより得ることができる(特許第3284318号公報)。
【0033】
ホスフィノポリカルボン酸は、分子中に1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、具体的にはアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ[2−カルボキシ−(2−カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸の反応物などが挙げられ、好ましくはアクリル酸とマレイン酸と次亜リン酸の反応物、イタコン酸とマレイン酸と次亜リン酸の反応物である。ホスフィノポリカルボン酸の調製は、通常、水性溶媒中で次亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸とを遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより行なわれ、例えば特公昭54−29316号公報、特公平5−57992号公報、特公平6−47113号公報などに開示されている。また、ホスフィノポリカルボン酸は、バイオ・ラボ社よりBELCLENE500、BELSPERSE164、BELCLENE400などの商品名で市販されている。
【0034】
本発明の重合リン酸化合物は、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩などの重合度が2〜100の重合リン酸塩である。
【0035】
本発明のオルトリン酸は、リン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩である。
【0036】
本発明のアニオン性高分子電解質は、分子中に複数のカルボキシル基、ないしスルホン酸基を有する分子量500以上の水溶性高分子化合物であり、水系における腐食防止、スケ−ル防止を主たる目的として被処理水系に添加されているものである。アニオン性高分子電解質の例としては、アクリル酸の単一又は共重合体、マレイン酸の単一又は共重合体、イタコン酸の単一又は共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の単一又は共重合体、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸の単一又は共重合体、イソプロピルスルホン酸の単一又は共重合体などが挙げられる。
【0037】
本発明の水溶性亜鉛化合物は、水に溶解して亜鉛イオンを放出するものであれば何でもよいが、好ましくは塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、スルファミン酸亜鉛などの水溶性亜鉛塩である。
【0038】
本発明の水溶性モリブデン酸化合物は、水に溶解してモリブデン酸イオンを生成するものであれば何でもよいが、好ましくはモリブデン酸、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムなどである。
【0039】
本発明のベンゾトリアゾール及びその誘導体は、1,2,3−ベンゾトリアゾール、置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール(置換基としてアルキル基、カルボキシル基、塩素、臭素、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基から選択される1種以上)などであり、これらの2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明のトレーサーは、水溶性リチウム化合物、蛍光性物質、紫外線吸収物質など被処理水系では不活性であり低濃度で濃度分析が可能な物質が使用できる。
【0041】
本発明の濃度測定対象化合物の被処理水系中の濃度を測定する手段は、これらの化合物の濃度分析方法として公知な方法が利用できる。
【0042】
例えば本発明の有機リン酸化合物ならびに重合リン酸化合物の濃度を測定する手段は、被処理水中に含まれる有機リン酸化合物や重合リン酸化合物を強酸性下で酸化剤や熱や光などによりオルトリン酸に分解した後、オルトリン酸を吸光光度法(モリブデン青法)により分析して、リン酸換算濃度として測定される。有機リン酸化合物ならびに重合リン酸化合物の分析方法は、例えばJIS K0101:1998「工業用水試験方法」における加水分解性リンや全リンの分析方法が利用できる。
【0043】
本発明のアニオン性高分子電解質の濃度を測定する手段は、例えばポリマー比濁法や蛍光光度法や紫外吸光光度法などにより測定される。ここで、ポリマー比濁法はアニオン性高分子電解質とカチオン性化合物を定量的に反応させて安定な白濁を生じさせ、光の透過光ないし散乱光の強度を測定して、予め作成した検量線よりアニオン性高分子電解質の濃度を求めるものである。アニオン性高分子電解質と定量的に反応して安定な白濁を生じるカチオン性化合物として、炭素数が12以上の第四級アンモニウム塩であり、第四級アンモニウム塩の具体的な例として、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルジベンジルアンモニウム塩、アルキルトリベンジルアンモニウム塩、ベンゼトニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩ならびにこれらの誘導体である。第四級アンモニウム塩は分子中に第四級アンモニウム基が2個以上あってもよい。第四級アンモニウム塩の形態は塩化物、臭化物、沃化物、硫酸塩などである。カチオン性化合物とともにキレート剤を添加することにより、試料水に共存する金属イオンが第四級アンモニウム塩とアニオン性高分子電解質との定量的反応を妨害するのをマスキングすることができる。また、キレート剤を中和塩として添加することにより反応時のpH緩衝剤として作用させることもできる。キレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸塩などのアミノカルボン酸類、クエン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩などのヒドロキシ酸類が使用できるが、これらは単独ないし2種以上組み合わせて使用される。
【0044】
アニオン性高分子電解質の重合時に蛍光や紫外吸収活性を有するモノマーを重合させたり、アニオン性高分子電解質に蛍光や紫外吸収活性を有する化合物を反応させて、蛍光光度法や紫外吸光光度法により被処理水中の濃度を測定してもよい。
【0045】
本発明のベンゾトリアゾール及びその誘導体の濃度を測定する手段は、例えば蛍光光度法、紫外吸光光度法、液体クロマトグラフ法などである。紫外吸光光度法によるベンゾトリアゾール及びその誘導体の濃度測定方法は、特開平9−229851号公報に開示されている。
【0046】
本発明の水溶性亜鉛化合物の濃度を測定する手段は、例えば、原子吸光法、ICP発光分析法、ICP質量分析法、EDTA滴定法などである。
【0047】
本発明の水溶性モリブデン酸化合物の濃度を測定する手段は、例えばICP発光分析法、ICP質量分析法、チオグリコール酸吸光光度法などである。
【0048】
本発明のトレーサーを分析する手段は用いられるトレーサーの種類によって異なるが、水溶性リチウム化合物では原子吸光法、ICP発光分析法、イオン電極法などの方法、蛍光性物質では蛍光光度法、紫外線吸収物質では紫外吸光光度法などの方法が利用できる。
【0049】
本発明のハロゲン安定化剤は、スルファミン酸、スルホンアミドから選択される1種以上が用いられるが、スルファミン酸はナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などの水溶性塩類であってもよく、スルホンアミドは、例えばp−トルエンスルホンアミド、m−トルエンスルホンアミド、o−トルエンスルホンアミド、イミドジスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、アルキルスルホンアミド、スルファミドなどであるが、スルファミン酸またはスルホンアミドは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
ハロゲン安定化剤の好ましい例はスルファミン酸、p−トルエンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、アルキルスルホンアミドであるが、より好ましくはスルファミン酸である。
【0051】
本発明のハロゲン安定化剤の被処理水系に対する添加濃度は、好ましくは0.01〜5mmol/L、より好ましくは0.03〜1mmol/Lの範囲である。ハロゲン安定化剤の添加濃度は系内の汚れの程度やシステム条件に応じて設定され、例えば汚れの多い系やシステムの運転開始時には0.1〜5mmol/Lの範囲で添加され、汚れの少ない系では0.01〜0.1mmol/Lの範囲で添加される。
【0052】
本発明では、前記濃度測定対象化合物の1種以上の化合物とスルファミン酸、スルホンアミドから選択される1種以上のハロゲン安定化剤を含有する組成物を被処理水系に添加しながら、前記濃度測定対象化合物の濃度の測定結果に基づき該組成物の添加量を調整する手段を有する。
【0053】
ここで、本発明の濃度測定対象化合物とハロゲン安定化剤の組成物中の配合比率は、濃度測定対象化合物の本来の添加目的(例えば腐食抑制、スケール抑制、トレーサーなど)で必要とされる被処理水中の濃度とハロゲン安定化剤の被処理水中における必要濃度の比として単純に計算されるものであり、特定範囲である必要はない。すなわち、上記方法で配合比率を計算した濃度測定対象化合物とハロゲン安定化剤を含む組成物を被処理水系に添加して、濃度測定対象化合物の被処理水中の濃度を分析しながら、該分析値にもとづき濃度測定対象化合物の濃度が適正範囲になるように組成物の添加量を調整することにより、ハロゲン安定化剤の濃度も適正範囲に保つことができる。
【0054】
本発明において次亜ハロゲン酸生成化合物の被処理水中における添加濃度は、酸化還元電位の測定結果をもとに調整されるが、通常は有効ハロゲンとしてCl換算で0.1〜100mg/Lの範囲である。
【0055】
本発明における被処理水系のpHは特に限定されないは、通常pH3.0〜10.0の範囲である。
【0056】
本発明の水系処理方法が適用される水系に特に制限はなく、例えば冷却水系、紙パルププロセス水系、集塵水系、スクラバー水系、排水水系などを挙げることができる。
これらの水系に本発明の水系処理方法を適用することにより、日光の照射を受ける環境や、銅や銅合金材料が配管及び熱交換器などに使用されている場合でも、対象水系の効果的な殺菌殺藻処理が可能であると共に、ハロゲン安定化剤が有効に活用され、その使用量を低減することにより 該ハロゲン安定化剤由来の窒素分及びCOD分を低減することができる。
【0057】
本発明の水系処理方法では、各種の好気性細菌、嫌気性細菌、通性嫌気性細菌、カビ、酵母などの微生物や貝類、原生動物、藻類などを殺滅できるだけでなく、既に系内に付着している微生物や水棲生物を剥離除去することもできる。また、レジオネラ菌(Legionella pneumophila)に対しても有効である。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
本発明の実施形態の例を図1に示す。開放式循環水系は冷水塔8、循環ポンプ9、熱交換器10、循環水ライン11、補給水ライン12、強制ブローライン13から構成される。循環水ライン11に酸化還元電位測定セル3を設置し、酸化還元電位測定セル3に白金電極1と参照電極(銀/塩化銀電極)2を挿入して、白金電極1と参照電極(銀/塩化銀電極)2の間に電位差計4を接続して酸化還元電位を測定した。電位差計4からの出力信号は制御部5に入力され、制御部5では酸化還元電位の測定値と設定値を比較して、測定値が設定値よりも低い場合に次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6に出力信号を送り、次亜ハロゲン酸生成化合物タンク7に入った次亜ハロゲン酸生成化合物を開放式循環水系に添加した。
【0060】
冷水塔8の循環水に浸漬した電気伝導率測定セル14からの信号を電気伝導率指示調節計15に入力させて循環水の電気伝導率を測定し、電気伝導率の測定値と設定値を比較して、測定値が設定値よりも高い場合にブローダウン弁16に出力信号を送り、ブローダウン弁16を開いて一定流量の循環水をブローダウンし、それと同時に組成物供給ポンプ17に出力信号を送って組成物供給ポンプ17を作動させ、組成物タンク18に入った濃度測定対象化合物とハロゲン安定化剤を含む組成物を循環水中の維持濃度に相当する分だけ冷水塔8の循環水に添加した。
【0061】
循環水の電気伝導率は900±10μS/cmの範囲に維持されたが、pHは8.5〜9.0の間で変動した。循環水ライン11の水温は熱交換器10の入り口で35℃、出口で50℃であった。熱交換器チューブ内の流速は0.3m/sであった。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素をCl換算で1%含有)を次亜ハロゲン酸生成化合物タンク7に入れ、酸化還元電位が450mV以下になったとき制御部5から次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6に出力信号を送り次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6を作動させて次亜ハロゲン酸生成化合物タンク7に入った次亜ハロゲン酸生成化合物を開放式循環水系に供給し、酸化還元電位が450mV以上になったとき出力信号をオフにして次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6を停止させ、以降この工程を繰り返した。
【0062】
組成物タンク18には、ポリマレイン酸(BWA社製ベルクレン200LA)の10%、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体(共重合比50:50重量%、重量平均分子量約6,000)の10%、スルファミン酸の6.8%、メチルベンゾトリアゾールの1%、水酸化ナトリウムの10%を含む組成物を入れた。
【0063】
循環水中の組成物の濃度はポリマー比濁法により分析した。すなわち、濾過した循環水10mLに試薬A(純水1Lにモノエタノールアミンの364gとエチレンジアミン4酢酸・2ナトリウムの465gを溶解)1mLと試薬B(純水1Lに塩化ベンゼトニウム40gとモノエタノールアミン62gとクエン酸ソーダ・2水和物の250gを溶解)を1mL加え、よく撹拌して10分間放置後、分光光度計を用いて濾過した循環水に試薬Aのみを1mL添加したものを対照として420nmにおける吸光度を測定した。予め作成した組成物濃度と吸光度の関係より、ポリマー比濁法により求めた循環水の吸光度から組成物濃度を求めて、循環水中の組成物濃度が100mg/Lになるように組成物供給ポンプ17の吐出量を調節した。
【0064】
1ヶ月の試験期間中、酸化還元電位は450±1mVの範囲に維持されたが、循環水中の全菌数は1×10個/mL以下であった。試験期間中の組成物の平均濃度は平均105mg/Lであり、スルファミン酸の平均添加濃度は0.074mmol/Lであった。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブ(JIS G3445:STKM11A、外径12.7mm、長さ500mm)の腐食速度は1.9mdd、銅合金製チューブ(JIS H3300:C 6871 復水器用黄銅2種、外径12mm、長さ500mm)の腐食速度は0.1mddであり、試験チューブ表面に孔食の発生は認められなかった。また、冷却塔内に藻の付着は認められなかった。ハロゲン安定化剤由来の窒素濃度は1.0mg/Lであった。
【0065】
(実施例2)
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸の5%、ヘキサメタリン酸ナトリウムの4%、リン酸の2%、アクリル酸と3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸の共重合体(共重合比50:50重量%、重量平均分子量約5,000)の10%、スルファミン酸の3.4%、ベンゾトリアゾールの0.6%を含む組成物を添加し、循環水中の組成物の濃度を全リン酸濃度測定法により測定した以外は、実施例1と同様に試験した。ここで全リン酸濃度測定法は、JIS K0101:1998の全リン分析方法により測定した。1ヶ月の試験期間中、酸化還元電位は400±1mVの範囲に維持されたが、循環水中の全菌数は1×10個/mL以下であった。試験期間中の組成物の添加濃度は平均102mg/Lであり、スルファミン酸の平均添加濃度は0.036mmol/Lであった。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は1.5mdd、銅合金製チューブの腐食速度は0.2mddであり試験チューブ表面に孔食の発生は認められなかった。また、冷却塔内に藻の付着は認められなかった。ハロゲン安定化剤由来の窒素濃度は0.5mg/Lであった。
【0066】
(実施例3)
酸化還元電位を500mVに設定し、ポリイタコン酸(平均分子量2,000)の5%、アクリル酸とイソプロピルスルホン酸の共重合体の共重合体(共重合比50:50重量%、重量平均分子量約10,000)の4%、酸化亜鉛2.2%、スルファミン酸の8.5%、ベンゾトリアゾールの1%、水酸化ナトリウムの1.5%を含む組成物を添加し、ベンゾトリアゾールの濃度を紫外吸光光度法により測定した以外は実施例1と同様に試験した。1ヶ月の試験期間中、酸化還元電位は500±1mVの範囲に維持されたが、循環水中の全菌数は1×10個/mL以下であった。試験期間中の組成物の添加濃度は平均98mg/Lであり、スルファミン酸の平均添加濃度は0.086mmol/Lであった。循環水ライン11に設定した銅合金試験片(JIS H3100:C1201 りん脱酸銅1A種、1×13×50mm)の腐食速度は0.3mddであり、試験片表面に孔食の発生は認められなかった。また、冷却塔内に藻の付着は認められなかった。ハロゲン安定化剤由来の窒素濃度は1.2mg/Lであった。
【0067】
(実施例4)
ポリマレイン酸(BWA社製ベルクレン200LA)の10%、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(共重合比50:50重量%)共重合体(重量平均分子量約6,000)の10%、p−トルエンスルホンアミドの5%、ベンゾトリアゾールの1%、水酸化ナトリウムの10%を含む組成物を添加した以外は、実施例1と同様に試験した。1ヶ月の試験期間中、酸化還元電位は450±1mVの範囲に維持されたが、循環水中の全菌数は1×10個/mL以下であった。試験期間中の組成物の添加濃度は平均100mg/Lであり、p−トルエンスルホンアミドの平均添加濃度は0.029mmol/Lであった。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は2.2mdd、銅合金製チューブの腐食速度は0.3mddであり、試験チューブ表面に孔食の発生は認められなかった。また、冷却塔内に藻の付着は認められなかった。ハロゲン安定化剤由来の窒素濃度は0.4mg/Lであった。
【0068】
(実施例5)
酸化還元電位の設定値を310±1mVに設定した以外は、実施例1と同様に試験した。試験期間中の組成物の添加濃度は平均105mg/Lであり、スルファミン酸の平均添加濃度は0.074mmol/Lであった。循環水中の全菌数は1×10個/mLであった。冷却塔内に藻の付着は認められなかった。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は2.2mdd、銅合金製チューブの腐食速度は0.3mddであった。
【0069】
(実施例6)
酸化還元電位の設定値を690±1mVに設定した以外は、実施例1と同様に試験した。試験期間中の組成物の添加濃度は平均105mg/Lであり、スルファミン酸の平均添加濃度は0.074mmol/Lであった。循環水中の全菌数は1×102個/mL以下であった。冷却塔内に藻の付着は認められなかった。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は3.8mdd、銅合金製チューブの腐食速度は0.5mddであった。
【0070】
(実施例7)
組成物の添加量を4250mg/Lとした以外は、実施例1と同様に試験した。このとき、スルファミン酸の平均添加濃度は3.0mmol/Lであった。循環水中の全菌数は1×102個/mL以下であった。冷却塔内に藻の付着は認められなかった。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は4.5mdd、銅合金製チューブの腐食速度は0.6mddであった。
【0071】
(比較例1)
酸化還元電位の設定値を300mV未満に設定した以外は、実施例1と同様に試験した。試験期間中の組成物の添加濃度は平均105mg/Lであり、スルファミン酸の平均添加濃度は0.074mmol/Lであった。酸化還元電位は250〜299mVの範囲であったが、循環水中の全菌数は1×10〜1×10個/mLの間で変動した。また、冷却塔内に藻の付着が認められた。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は5.2mdd、銅合金製チューブの腐食速度は0.8mddであった。
【0072】
(比較例2)
酸化還元電位測定の替わりに、DPD比色法による残留塩素自動分析装置(ハック社製CL−17型)を設置して全残留塩素濃度により処理剤供給ポンプの制御を行った以外は実施例1と同様の方法により試験した。ここで全残留塩素濃度が4mg/L以下になったとき、制御部5から次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6に出力信号を送り処理剤供給ポンプ6を作動させて次亜ハロゲン酸生成化合物タンク7の組成物を供給し、全残留塩素濃度が5mg/L以上になったとき出力信号をオフにして次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6を停止させた。遊離残留塩素濃度が1mg/L以下になるように組成物供給ポンプ17の吐出量を調節した。1ヶ月の試験期間中、全残留塩素濃度は4〜5mg/Lの範囲に維持されたが、遊離残留塩素濃度は0.1〜0.9mg/Lの範囲でばらついた。この時の酸化還元電位はしばしば300mV未満となり、最低250mVであった。また組成物の濃度は50〜200ppmの濃度でばらつき、スルファミン酸の添加濃度も0.035〜0.14mmol/Lの間で変化した。循環水中の全菌数は1×10〜1×10個/mLの間で変動した。また、冷却塔内に藻の付着が認められた。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は9.7mdd、銅合金製チューブの腐食速度は1.2mddであった。
【0073】
(比較例3)
比較例1と同じ試験装置を用いて、Cl換算で7%の次亜塩素酸ナトリウムと20%のスルファミン酸ナトリウムを含む水溶液を次亜ハロゲン酸生成化合物タンク7に入れ、全残留塩素濃度が1mg/L以下になったとき、制御部5から次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6に出力信号を送り処理剤供給ポンプ6を作動させて次亜ハロゲン酸生成化合物タンク7の組成物を供給し、全残留塩素濃度が2mg/L以上になったとき出力信号をオフにして次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6を停止させた。
1ヶ月の試験期間中、全残留塩素濃度は1〜2mg/Lの範囲に維持され、遊離残留塩素濃度は0.01〜0.1mg/Lの範囲であった。循環水中の全菌数は1×10〜1×10個/mLの間で変動した。また、冷却塔内には多量の藻が付着していた。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブの腐食速度は6.4mdd、銅合金試験片の腐食速度は1.0mddであった。ハロゲン安定化剤由来の窒素濃度は3.6mg/Lであった。
【0074】
実施例1、5、6の結果と比較例1の結果から、酸化還元電位を300〜700mVの範囲になるように調整する本発明の水系処理方法が殺菌効果と腐食抑制の両面で優れていることが判る。また、酸化還元電位で処理管理を行った本発明の実施例1の結果と、酸化還元電位の替わりに全残留塩素濃度と遊離残留塩素濃度で管理する従来技術を適用した比較例2の結果を比較すると、本発明の水系処理方法の方が殺菌効果と腐食抑制の両面で優れていることが判る。更に、比較例3は、次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸ナトリウムを含む水溶液を用いる安定化次亜塩素酸ナトリウム処理を適用した例であるが、その結果を実施例1の結果と比べると、比較例3の処理方法は本発明の水系処理方法に比べて殺菌効果、腐食抑制効果のみならず、ハロゲン安定化剤由来の窒素分も低減することが困難なことが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の水系処理方法では、次ハロゲン塩とハロゲン安定化剤を過不足なく効率的に反応させることにより低腐食性で優れた殺菌・殺藻効果を得ることができ、従来技術の課題であったスルファミン酸由来のCODや窒素負荷を低減できる。
【符号の説明】
【0076】
1:白金電極
2:参照電極
3:酸化還元電位測定セル
4:電位差計
5:制御部
6:次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ
7:次亜ハロゲン酸生成化合物タンク
8:冷水塔
9:循環ポンプ
10:熱交換器
11:循環水ライン
12:補給水ライン
13:強制ブローライン
14:電気伝導率測定セル
15:電気伝導率指示調節計
16:ブローダウン弁
17:組成物供給ポンプ
18:組成物タンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系における微生物障害を抑制する水系処理方法であって、
(1)被処理水の酸化還元電位を測定する手段と、
(2)酸化還元電位が300〜700mV(飽和KCl入り銀/塩化銀電極基準)の範囲になるように次亜ハロゲン酸生成化合物の添加量を調整する手段と、
(3)有機リン酸化合物、重合リン酸化合物、オルトリン酸、アニオン性高分子電解質、水溶性亜鉛化合物、水溶性モリブデン酸化合物、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トレーサーから選択される濃度測定対象化合物の被処理水系中の濃度を測定する手段と、
(4)(a)前記濃度測定対象化合物の1種以上の化合物と(b)スルファミン酸、スルホンアミドから選択される1種以上のハロゲン安定化剤を含有する組成物を被処理水系に添加しながら、前記濃度測定対象化合物の濃度の測定結果に基づき該組成物の添加量を調整する手段を有することを特徴とする水系処理方法。
【請求項2】
ハロゲン安定化剤の被処理水系に対する添加濃度が0.01〜5mmol/Lの範囲であることを特徴とする請求項1記載の水系の処理方法


【図1】
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【公開番号】特開2012−130852(P2012−130852A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284288(P2010−284288)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)