説明

水系塗料、塗膜形成方法及び感熱記録シートの製造方法

【課題】 水系塗料の塗布性能などを向上させ、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して少なくとも1層の塗膜を形成する場合に、供給する水系塗料の量やシート基材の走行速度を変化させた場合においても、シート基材上に安定した塗膜が形成された感熱記録シートの製造方法を提供する。
【解決手段】 走行するシート基材11上にカーテン塗布させる少なくとも最下層の水系塗料13aに、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させ、必要に応じて、アセチレングリコール系の界面活性剤やミセル化されたアクリルポリマーを含有させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水系塗料、塗膜形成方法及び感熱記録シートの製造方法に係り、特に、水系塗料のシート基材に対する付着性や製膜性などの塗布性能を向上させ、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して、シート基材上に少なくとも1層の塗膜を形成するにあたり、供給する水系塗料の量やシート基材の走行速度を変化させた場合においても、シート基材上に安定した塗膜が形成されるようにし、シート基材上に少なくとも感熱記録層からなる塗膜が形成された感熱記録シートを安定して製造できるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
感熱記録シートとしては、図1に示すように、アンダー層12が設けられたシート基材11の上に、感熱記録層13とバリア層14と表面保護層15とを積層させた感熱記録シート10が一般に使用されている。
【0003】
そして、このような感熱記録シートを製造するにあたっては、様々な方法が用いられており、その1つとして、特許文献1に示されるようなカーテン塗布装置を用いて感熱記録シートを製造することが行われている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
ここで、上記のようにカーテン塗布装置を用いて感熱記録シートを製造するにあたっては、図2に示すように、アンダー層12が設けられたシート基材11をローラ1により走行させる一方、カーテン塗布装置20の第1ノズル21から感熱記録層用の水系塗料13aを、第2ノズル22からバリア層用の水系塗料14aを、第3ノズル23から表面保護層用の水系塗料15aを吐出させ、感熱記録層用の水系塗料13aの上にバリア層用の水系塗料14aと表面保護層用の水系塗料15aとを積層させた状態で、これらの水系塗料13a,14a,15aをカーテン塗布装置20のリップ部24に導くようにする。
【0005】
そして、このリップ部24から上記のように積層されたこれらの水系塗料13a,14a,15aをカーテン状に垂下させて、上記のように走行するシート基材11の上に供給し、このシート基材11の上に感熱記録層用の水系塗料13aとバリア層用の水系塗料14aと表面保護層用の水系塗料15aとを積層させた状態で塗布するようにしている。
【0006】
ここで、上記のように感熱記録層用の水系塗料13aの上にバリア層用の水系塗料14aと表面保護層用の水系塗料15aとを積層させた状態で、これらをリップ部24から垂下させて走行するシート基材11の上に供給する場合において、供給するこれらの水系塗料13a,14a,15aの量が多くなったり、走行するシート基材11の速度が遅くなったりすると、図3に示すように、シート基材11の上に供給されたこれらの水系塗料13a,14a,15aの一部がシート基材11の走行方向とは逆方向に流れて膨らむようになり、この膨らみの部分において、最下層の水系塗料13aとシート基材11との間に空気が入り込んで、適切な塗膜が形成されなくなるという問題があった。
【0007】
一方、シート基材11の上に供給するこれらの水系塗料13a,14a,15aの量が少なくなったり、走行するシート基材11の速度が速くなったりすると、図4に示すように、これらの水系塗料13a,14a,15aが走行するシート基材11に引っ張られて、垂下されたこれらの水系塗料13a,14a,15aがシート基材11上に付与されるまでの距離が大きくなり、シート基材11上に付与されるまでの部分において、最下層の水系塗料13aとシート基材11との間に空気が入り込んで、上記の場合と同様に、適切な塗膜が形成されなくなるという問題があった。
【0008】
さらに、シート基材11の上に形成する感熱記録層13やバリア層14や表面保護層15の層厚を薄くするために、これらの水系塗料13a,14a,15aの供給量を少なくすると、上記のようにこれらの水系塗料13a,14a,15aをリップ部24からカーテン状に垂下させる途中において、カーテン状になったこれらの水系塗料13a,14a,15aの一部に液切れが発生して、走行するシート基材11の上にこれらの水系塗料13a,14a,15aを均一に塗布することができなくなるという問題もあった。
【0009】
また、従来においては、水酸基以外の置換基を両末端に有するポリアルキレンオキサイド化合物を感熱記録層に含有させて、実用性の高い書き換え記録が可能になるようにしたもの(例えば、特許文献3参照。)や、ポリビニルアルコールやポリエチレンオキサイドなどの水溶性高分子を含有させて記録層用塗布液の粘度を調整するようにしたもの(例えば、特許文献4参照。)が提案されている。
【0010】
しかし、これらの特許文献のものは、上記のようにカーテン塗布装置を用いて感熱記録シートを製造することを前提とするものではなく、上記のような問題を解決しようとするものではなかった。
【特許文献1】特公昭49−24133号公報
【特許文献2】国際公開WO01/076884号公報
【特許文献3】特開2005−254725号公報
【特許文献4】特開2005−283627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して感熱記録シートなどを製造する場合における上記のような様々な問題を解決することを課題とするものである。
【0012】
すなわち、この発明においては、水系塗料のシート基材に対する付着性や製膜性などの塗布性能を向上させ、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布させて、シート基材上に少なくとも1層の塗膜を形成する場合に、供給する水系塗料の量やシート基材の走行速度を変化させた場合においても、シート基材上に安定した塗膜が形成されるようにし、シート基材上に少なくとも感熱記録層からなる塗膜が形成された感熱記録シートを安定して製造できるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明における水系塗料においては、上記のような課題を解決するため、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子と、アセチレングリコール系の界面活性剤とを含有させるようにした。
【0014】
ここで、上記の水溶性高分子としては、直鎖状の高分子を用いることが好ましく、また上記の界面活性剤としては、アセチレングリコールのポリエトキシ化物を用いることが好ましい。
【0015】
また、上記の水系塗料においては、さらにミセル化されたアクリルポリマーを含有させることが好ましい。
【0016】
また、この発明における塗膜形成方法においては、上記のような課題を解決するため、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して、シート基材上に少なくとも1層の塗膜を形成するにあたり、シート基材上に形成する最下層の塗膜の水系塗料に、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させるようにした。なお、上記のシート基材としては、上記のように水系塗料をカーテン塗布させる面に予めアンダー層などの塗膜を形成したものを用いることも可能である。
【0017】
また、この発明における塗膜形成方法においては、シート基材上に形成する最下層の塗膜の水系塗料に、上記の水溶性高分子の他に、上記のアセチレングリコール系の界面活性剤や、上記のミセル化されたアクリルポリマーを含有させることが好ましい。
【0018】
また、この発明における塗膜形成方法において、走行するシート基材上に複数の水系塗料を積層させた状態でカーテン塗布するにあたっては、全ての水系塗料に、少なくともアセチレングリコール系の界面活性剤を含有させることが好ましい。
【0019】
また、この発明における感熱記録シートの製造方法においては、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して、少なくとも1層の塗膜をシート基材上に形成するにあたり、上記のような塗膜形成方法を用いるようにした。なお、このように少なくとも1層の塗膜をシート基材上に形成させるにあたっては、上記のような塗膜形成方法により少なくとも感熱記録層からなる塗膜を形成させるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明における水系塗料のように、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させると、水系塗料のシート基材に対する付着性能が向上され、特に、上記の水溶性高分子として直鎖状の高分子を用いると、水系塗料のシート基材に対する付着性能がさらに向上される。
【0021】
そして、このようにアクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させた水系塗料を走行するシート基材の上にカーテン塗布させるようにした場合、シート基材上に供給する水系塗料の量が多くなったり、走行するシート基材の速度が遅くなったりした場合において、この水系塗料の一部がシート基材の走行方向とは逆方向に流れて膨らむのが防止されると共に、またシート基材上に供給する水系塗料の量が少なくなったり、走行するシート基材の速度が速くなったりした場合において、この水系塗料が走行するシート基材に引っ張られてシート基材上に付与されるまでの距離が大きくなるのも防止され、走行するシート基材に沿って、この水系塗料がシート基材上に適切に塗布されて、空気がこの水系塗料とシート基材との間に入り込むのが防止されるようになる。
【0022】
この結果、この発明における塗膜形成方法のように、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して、シート基材上に少なくとも1層の塗膜を形成するにあたり、シート基材上に形成する最下層の塗膜の水系塗料に、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させると、走行するシート基材上に供給する水系塗料の量やシート基材の走行速度を変化させた場合においても、シート基材上に安定して適切な塗膜が形成されるようになる。
【0023】
また、この発明における水系塗料のように、アセチレングリコール系の界面活性剤を含有させると、この水系塗料の製膜性が向上され、特に、上記の界面活性剤としてアセチレングリコールのポリエトキシ化物を用いると、この水系塗料の製膜性がさらに向上されるようになる。
【0024】
そして、このようにアセチレングリコール系の界面活性剤を含有させた水系塗料を走行するシート基材の上にカーテン塗布させるようにした場合、この水系塗料の供給量を少なくしても、カーテン状になった水系塗料の一部に液切れが発生するのが防止されるようになる。
【0025】
この結果、走行するシート基材上に1つの水系塗料をカーテン塗布する場合や、走行するシート基材上に複数の水系塗料を積層させた状態でカーテン塗布する場合において、これらの水系塗料にアセチレングリコール系の界面活性剤を含有させると、これらの水系塗料の供給量を少なくしても、カーテン状に垂下させる途中において、カーテン状になったこれらの水系塗料の一部に液切れが発生するのが防止され、シート基材の上にこれらの水系塗料の均一な塗膜が形成されるようになる。
【0026】
また、この発明における水系塗料において、さらにミセル化されたアクリルポリマーを含有させると、この水系塗料におけるシート基材に対する付着性能がさらに向上されるようになる。
【0027】
この結果、上記のように走行するシート基材上にこの水系塗料をカーテン塗布させて少なくとも1層の塗膜を形成するにあたり、走行するシート基材上に供給する水系塗料の量やシート基材の走行速度を変化させた場合においても、シート基材上により安定して適切な塗膜が形成されるようになる。
【0028】
そして、この発明における感熱記録シートの製造方法のように、走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して、少なくとも1層の塗膜をシート基材上に形成するにあたり、上記のような水系塗料を用いた塗膜形成方法により、シート基材上に感熱記録層などの塗膜を形成させるようにすると、シート基材上に感熱記録層などの塗膜が安定して形成されるようになり、感熱記録シートを安定して製造できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明の実施形態に係る水系塗料、塗膜形成方法及び感熱記録シートの製造方法について具体的に説明する。なお、この発明に係る水系塗料、塗膜形成方法及び感熱記録シートの製造方法は、特に下記の実施形態に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0030】
先ず、この発明の水系塗料の実施形態について説明する。
【0031】
この実施形態の水系塗料においては、上記のようにアクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子と、アセチレングリコール系の界面活性剤とを含有している。
【0032】
そして、上記の水溶性高分子としては、前記のように直鎖状の高分子であることが好ましく、またこの水溶性高分子の分子量が小さすぎると、水系塗料のシート基材に対する付着性能を充分に向上させることが困難になる一方、この水溶性高分子の分子量が大きくなりすぎると、水系塗料の粘度が高くなりすぎて、この水系塗料を前記のようにカーテン塗布させることが困難になる。このため、この水溶性高分子としては、重量平均分子量が5万〜500万の範囲のものを、好ましくは10万〜50万の範囲のものを、より好ましくは10万〜30万の範囲のものを用いるようにする。
【0033】
また、水系塗料に上記の水溶性高分子を含有させるにあたり、この水溶性高分子の量が少ないと、水系塗料のシート基材に対する付着性能を充分に向上させることが困難になり、この水系塗料を走行するシート基材の上にカーテン塗布させる場合に、空気が水系塗料とシート基材との間に入り込むのを充分に抑制できなくなる。一方、この水溶性高分子の量が多くなりすぎると、水系塗料の粘度が高くなりすぎて、この水系塗料をカーテン塗布させることが困難になる。このため、水系塗料に含有させる上記の水溶性高分子の量を、固形分比率で1〜10重量%の範囲にすることが好ましい。
【0034】
また、上記のアセチレングリコール系の界面活性剤としては、前記のようにアセチレングリコールのポリエトキシ化物を用いることが好ましいが、このアセチレングリコールのポリエトキシ化物中におけるエチレンオキサイド部分の含有量が多くなりすぎると、その水溶性が低下して水系塗料に添加させることが困難になるため、アセチレングリコールのポリエトキシ化物中におけるエチレンオキサイド部分の含有量が15〜50重量%の範囲になったものを用いることが好ましい。
【0035】
また、水系塗料に上記の界面活性剤を含有させるにあたり、この界面活性剤の量が少ないと、水系塗料の製膜性を充分に向上させることが困難になり、この水系塗料を走行するシート基材の上にカーテン塗布させるにあたり、この水系塗料の供給量を少なくした場合に、カーテン状になった水系塗料の一部に液切れが発生するおそれがある。一方、この界面活性剤の量を多くしても、水系塗料の製膜性がさらに向上するということがなく、この界面活性剤により形成される塗膜の性能に悪影響を及ぼすおそれが生じることがある。このため、水系塗料に含有させる上記の界面活性剤の量を、固形分比率で0.15〜10重量%の範囲にすることが好ましい。
【0036】
また、上記の水系塗料に、さらにミセル化されたアクリルポリマーを含有させると、前記のように水系塗料におけるシート基材に対する付着性能がさらに向上されるようになる。なお、このミセル化されたアクリルポリマーを水系塗料に含有させる量については、上記の水溶性高分子の含有量に応じて適当に調整するようにし、上記の水溶性高分子の含有量が少ない場合には、このミセル化されたアクリルポリマーの含有量を多くすることができる。また、上記の水系塗料において、上記の水溶性高分子に代えて、このミセル化されたアクリルポリマーを含有させるようにした場合においても、水系塗料のシート基材に対する塗布性能を向上させることが可能である。
【0037】
次に、水系塗料を用いた塗膜形成方法により、前記の図1に示すような感熱記録シート10を製造する実施形態について説明する。
【0038】
この実施形態においては、図5に示すように、シート基材11の表面に予めアンダー層12を設けたものを用い、前記の図2に示すように、このようにアンダー層12が設けられたシート基材11をローラ1により走行させる一方、カーテン塗布装置20の第1ノズル21から感熱記録層用の水系塗料13aを、第2ノズル22からバリア層用の水系塗料14aを、第3ノズル23から表面保護層用の水系塗料15aを吐出させ、感熱記録層用の水系塗料13aの上にバリア層用の水系塗料14aと表面保護層用の水系塗料15aとを積層させた状態で、これらの水系塗料13a,14a,15aをカーテン塗布装置20のリップ部24に導くようにする。
【0039】
そして、このリップ部24からこれらの水系塗料13a,14a,15aをカーテン状に垂下させて上記のように走行するシート基材11の上に供給し、このシート基材11の上に感熱記録層用の水系塗料13aとバリア層用の水系塗料14aと表面保護層用の水系塗料15aとを積層させた状態で塗布して、シート基材11の上にこれらの水系塗料13a,14a,15aの塗膜を形成し、感熱記録層13とバリア層14と表面保護層15とが、アンダー層12が設けられたシート基材11の上に積層された感熱記録シート10を製造する。
【0040】
ここで、この実施形態においては、上記の水系塗料13a,14a,15aにおいて、少なくとも最下層に位置する感熱記録層13を形成するのに用いる上記感熱記録層用の水系塗料13aに、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させるようにし、また必要に応じて、この水系塗料13aに、アセチレングリコール系の界面活性剤やミセル化されたアクリルポリマーを含有させるようにする。
【0041】
そして、このように最下層に位置する感熱記録層13を形成するのに用いる水系塗料13aに、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させると、この水系塗料13aの付着性能が向上し、上記のように水系塗料13a,14a,15aを走行するシート基材11上に供給するにあたり、これらの水系塗料13a,14a,15aの供給量やシート基材11の走行速度を変化させた場合においても、最下層に位置する水系塗料13aとシート基材11との間に空気が入り込むのが抑制され、シート基材11上に安定して感熱記録層13とバリア層14と表面保護層15とが適切に形成されるようになる。
【0042】
また、この実施形態において、上記の各水系塗料13a,14a,15aにアセチレングリコール系の界面活性剤を含有させると、各水系塗料13a,14a,15aにおける製膜性が向上する。
【0043】
そして、このようにアセチレングリコール系の界面活性剤を含有させたこれらの水系塗料13a,14a,15aを上記のように積層させた状態で、カーテン塗布装置20のリップ部24からカーテン状に垂下させて走行するシート基材11の上に供給させるようにすると、これらの水系塗料13a,14a,15aの供給量を少なくした場合においても、カーテン状になったこれらの水系塗料13a,14a,15aの一部に液切れが発生するということがなく、シート基材11上にこれらの水系塗料13a,14a,15aが薄く均一に塗布されるようになり、シート基材11上に薄くて均一な感熱記録層13とバリア層14と表面保護層15とを安定して形成できるようになる。
【0044】
また、この実施形態において、前記のようにシート基材11の表面に予めアンダー層12を設けるあたり、このアンダー層12を平滑に形成すると、このアンダー層12に沿って上記の感熱記録層13とバリア層14と表面保護層15とが積層された状態で平滑に形成されるようになり、感熱記録シート10の表面に凹凸が発生するのが抑制され、性能のよい感熱記録シート10が得られるようになる。なお、上記のようにシート基材11の表面にアンダー層12を平滑に形成するにあたっては、図示していないが、ロッドコータやナイフコータやロールコータなどの塗布装置により、アンダー層用の塗料をシート基材の上に平滑に塗布させることが好ましく、さらにこのようにアンダー層用の塗料をシート基材の上に平滑に塗布させた後、これをカレンダー処理して、アンダー層をさらに平滑に仕上げることが好ましい。
【0045】
なお、上記の実施形態においては、感熱記録シート10として、アンダー層12が設けられたシート基材11の上に、感熱記録層13とバリア層14と表面保護層15とを積層させたものを示したが、感熱記録シート10の層構成はこのようなものに限定させず、図示していないが、例えば、上記のアンダー層やバリア層を設けないようにしたり、感熱記録層を複数層設けるようにしたり、感熱記録層の間に中間層を設けるようにしたり、さらに断熱層やクッション層や光沢層などを設けるようにすることも可能である。
【0046】
次に、感熱記録層用の水系塗料とバリア層用の水系塗料と表面保護層用の水系塗料とを積層させた状態で、上記のように走行するシート基材の上にカーテン塗布させて、アンダー層が設けられたシート基材の上に感熱記録層とバリア層と表面保護層とを積層させて形成するにあたり、使用する感熱記録層用の水系塗料の種類を変更させた実験を行い、この発明の実施例においては、供給する水系塗料の量やシート基材の走行速度を変化させた場合においても、シート基材上に安定して適切な感熱記録層とバリア層と表面保護層とからなる塗膜が形成されることを、比較例を挙げて明らかにする。
【0047】
(実施例1)
実施例1においては、感熱記録層用の水系塗料を得るにあたり、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリフルオランが30重量部、メチルセルロースの10重量%水溶液が35重量部、水が35重量部からなる組成物を、サンドミルで粉砕混合させて第1液を調製した。
【0048】
また、3,3’−ジアリル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンが15重量部、1,2−ビス−(3−メチルフェノキシ)エタンが15重量部、メチルセルロース10重量%水溶液が35重量部、水が35重量部からなる組成物をサンドミルで粉砕混合させて第2液を調製した。
【0049】
さらに、第3液として、50%平均粒子径が0.6μmのパラフィンワックスエマルジョンを使用した。
【0050】
そして、上記の第1液を8重量部、第2液を12重量部、軟質炭酸カルシウムを9重量部、ポリアクリル酸エステルエマルジョン(固形分濃度45重量%)を7重量部、水を37重量部の割合にした組成物における全固形分に対して、上記のパラフィンワックスエマルジョンの固形分の割合が5重量%になるように上記の第3液を加えて、感熱記録材料を含有する感熱記録用組成物を得た。
【0051】
そして、この実施例1においては、上記の感熱記録用組成物に、水溶性高分子として重量平均分子量が18万〜25万の範囲にあるポリエチレンオキサイドと、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物とを、固形分換算で100:4.63:0.457の重量比で含有させて感熱記録層用の水系塗料を得た。
【0052】
(実施例2)
実施例2においては、感熱記録層用の水系塗料として、上記の実施例1と同様にして得た感熱記録用組成物に、水溶性高分子として重量平均分子量が18万〜25万の範囲にあるポリエチレンオキサイドと、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物とを、固形分換算で100:1.5:0.457の重量比で含有させた感熱記録層用の水系塗料を用いるようにした。
【0053】
(実施例3)
実施例3においては、感熱記録層用の水系塗料として、上記の実施例1と同様にして得た感熱記録用組成物に、水溶性高分子として重量平均分子量が18万〜25万の範囲にあるポリエチレンオキサイドと、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物と、ミセル化されたアクリルポリマーとを、固形分換算で100:1.5:0.457:0.25の重量比で含有させた感熱記録層用の水系塗料を用いるようにした。
【0054】
(比較例1)
比較例1においては、感熱記録層用の水系塗料として、上記の実施例1と同様にして得た感熱記録用組成物に、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物を、固形分換算で100:0.457の重量比で含有させた感熱記録層用の水系塗料を用いるようにした。
【0055】
(比較例2)
比較例2においては、感熱記録層用の水系塗料として、上記の実施例1と同様にして得た感熱記録用組成物に、水溶性高分子として市販のカルボキシメチルセルロース(第1工業製薬社製:セロゲンPR)と、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物とを、固形分換算で100:0.457:0.457の重量比で含有させた感熱記録層用の水系塗料を用いるようにした。
【0056】
(比較例3)
比較例3においては、感熱記録層用の水系塗料として、上記の実施例1と同様にして得た感熱記録用組成物に、水溶性高分子として市販のポリビニルアルコール(クラレ社製:PVA235)と、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物とを、固形分換算で100:0.50:0.457の重量比で含有させた感熱記録層用の水系塗料を用いるようにした。
【0057】
また、上記の実施例1〜3及び比較例1〜3においては、バリア層用の水系塗料として、アクリル酸エステルエマルジョン(固形分濃度40重量%)に、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物を、固形分換算で100:0.457の重量比で含有させものを用いるようにした。
【0058】
また、表面保護層用の水系塗料としては、アクリル酸エステルエマルジョン(固形分濃度30重量%)が75重量部、軟質炭酸カルシウムが5重量部、ポリエチレンワックス(固形分濃度40重量%)が10重量部、水が10重量部からなる表面保護層用組成物に、界面活性剤としてエチレンオキサイド部分の含有量が40重量%のアセチレングリコールのポリエトキシ化物を、固形分換算で100:0.457の重量比で含有させものを用いるようにした。
【0059】
そして、上記の実施例1〜3及び比較例1〜3の各感熱記録層用の水系塗料の評価を行うにあたっては、前記の図2に示すように、アンダー層が設けられたシート基材を走行させながら、このシート基材の上に上記の感熱記録層用の水系塗料とバリア層用の水系塗料と表面保護層用の水系塗料とを積層させた状態でカーテン塗布装置によりカーテン塗布させるにあたり、感熱記録層用の水系塗料とバリア層用の水系塗料と表面保護層用の水系塗料との供給量が2:1:1の割合になるようにし、これらの水系塗料の合計の供給量(ml/cm・s)と、上記のシート基材の走行速度(m/min)とを変更させるようにした。なお、上記の水系塗料の供給量は、カーテン幅1cmあたりの量である。
【0060】
そして、上記の実施例1〜3及び比較例1〜3の各感熱記録層用の水系塗料を用い、上記のように感熱記録層用の水系塗料とバリア層用の水系塗料と表面保護層用の水系塗料とを積層させた状態でシート基材の上にカーテン塗布させた場合において、前記の図3に示すように、シート基材の上に供給された水系塗料の一部がシート基材の走行方向とは逆方向に膨らんで水系塗料とシート基材との間に空気が入り込む限界ラインAと、前記の図4に示すように、水系塗料が走行するシート基材に大きく引っ張られて水系塗料とシート基材との間に空気が入り込む限界ラインBと、カーテン塗布装置から垂下された水系塗料の一部に液切れが発生する限界ラインCとを求めた。また、上記の各感熱記録層用の水系塗料とバリア層用の水系塗料と表面保護層用の水系塗料とをシート基材上に塗布して、シート基材の上に、合計で5g/m2になった感熱記録層とバリア層と表面保護層とを形成する場合における塗布ラインDを算出した。
【0061】
そして、実施例1の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合の測定結果を図6に、実施例2の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合の測定結果を図7に、実施例3の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合の測定結果を図8に、比較例1の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合の測定結果を図9に、比較例2の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合の測定結果を図10に、比較例3の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合の測定結果を図11に示した。
【0062】
この結果、比較例1のように水溶性高分子のポリエチレンオキサイドを含有させていない感熱記録層用の水系塗料を用いた場合や、比較例2,3のように水溶性高分子としてカルボキシメチルセルロースやポリビニルアルコールを含有させた感熱記録層用の水系塗料を用いた場合においては、実施例1〜3のように水溶性高分子としてポリエチレンオキサイドを含有させた各感熱記録層用の水系塗料を用いた場合に比べて、一般に上記の限界ラインAにおける水系塗料の供給量の上限値が低くなっていた。
【0063】
そして、上記の比較例1〜3の各感熱記録層用の水系塗料を用いて、シート基材の上に、合計量が5g/m2になった感熱記録層とバリア層と表面保護層とを形成する場合、シート基材の走行速度を速くすると、必要とされるこれらの水系塗料の供給量が、上記の限界ラインAにおける水系塗料の供給量を越えてしまい、前記の図3に示すように、シート基材の上に供給された水系塗料の一部がシート基材の走行方向とは逆方向に膨らんで水系塗料とシート基材との間に空気が入り込んで、シート基材の上に感熱記録層とバリア層と表面保護層と適切に形成することができなくなった。
【0064】
これに対して、水溶性高分子としてポリエチレンオキサイドを含有させた実施例1〜3の各感熱記録層用の水系塗料を用いた場合においては、上記の限界ラインAにおける水系塗料の供給量の上限値が高くなっており、またシート基材の走行速度に対応して上昇しており、シート基材の上に合計量が5g/m2になった感熱記録層とバリア層と表面保護層とを形成するにあたり、少なくともシート基材の走行速度を500m/minまで速くしても、必要とされるこれらの水系塗料の供給量が、上記の限界ラインAにおける水系塗料の供給量を越えるということがなく、シート基材の上に供給された水系塗料の一部がシート基材の走行方向とは逆方向に膨らんで水系塗料とシート基材との間に空気が入り込むのが防止され、シート基材の上に感熱記録層とバリア層と表面保護層と適切に形成することができた。
【0065】
特に、水溶性高分子のポリエチレンオキサイドに加えて、ミセル化されたアクリルポリマーを含有させた実施例3の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合、ミセル化されたアクリルポリマーを含有させていない実施例2の感熱記録層用の水系塗料を用いた場合に比べて、上記の限界ラインAにおける水系塗料の供給量の上限値がさらに高くなっており、シート基材の上に供給された水系塗料の一部がシート基材の走行方向とは逆方向に膨らんで水系塗料とシート基材との間に空気が入り込むのが一層抑制され、シート基材の走行速度をさらに速くしても、シート基材の上に感熱記録層とバリア層と表面保護層と適切に形成することができるようになっていた。
【0066】
なお、上記の実施例1〜3においては、水溶性高分子として、ポリエチレンオキサイドを用いた例を示しただけであるが、水溶性高分子として、アクリル酸アミド重合化合物やポリアクリル酸ソーダを用いた場合にもほぼ同様の結果が得られた。
【0067】
また、
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】感熱記録シートの層構成を示した断面説明図である。
【図2】カーテン塗布装置を用いて感熱記録シートを製造する状態を示した概略説明図である。
【図3】カーテン塗布装置によりシート基材の上に水系塗料を塗布するにあたり、水系塗料の供給量が多くなった場合に、水系塗料の一部がシート基材の走行方向とは逆方向に流れて膨らむ状態を示した部分説明図である。
【図4】カーテン塗布装置によりシート基材の上に水系塗料を塗布するにあたり、カーテン塗布装置から垂下された水系塗料が走行するシート基材に引っ張られて、シート基材上に付与されるまでの距離が大きくなる状態を示した部分説明図である。
【図5】この発明の実施形態において、シート基材の表面に予めアンダー層を設けた状態を示した断面説明図である。
【図6】実施例1の感熱記録層用の水系塗料を走行するシート基材の上に塗布する実験を行った場合の測定結果を示した図である。
【図7】実施例2の感熱記録層用の水系塗料を走行するシート基材の上に塗布する実験を行った場合の測定結果を示した図である。
【図8】実施例3の感熱記録層用の水系塗料を走行するシート基材の上に塗布する実験を行った場合の測定結果を示した図である。
【図9】比較例1の感熱記録層用の水系塗料を走行するシート基材の上に塗布する実験を行った場合の測定結果を示した図である。
【図10】比較例2の感熱記録層用の水系塗料を走行するシート基材の上に塗布する実験を行った場合の測定結果を示した図である。
【図11】比較例3の感熱記録層用の水系塗料を走行するシート基材の上に塗布する実験を行った場合の測定結果を示した図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ローラ
10 感熱記録シート
11 シート基材
12 アンダー層
13 感熱記録層
13a 感熱記録層用の水系塗料
14 バリア層
14a バリア層用の水系塗料
15 表面保護層
15a 表面保護層用の水系塗料
20 カーテン塗布装置
21 第1ノズル
22 第2ノズル
23 第3ノズル
24 リップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子と、アセチレングリコール系の界面活性剤とを含むことを特徴とする水系塗料。
【請求項2】
請求項1に記載の水系塗料において、上記の水溶性高分子が直鎖状の高分子であることを特徴とする水系塗料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の水系塗料において、上記の界面活性剤がアセチレングリコールのポリエトキシ化物であることを特徴とする水系塗料。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載の水系塗料において、さらにミセル化されたアクリルポリマーを含むことを特徴とする水系塗料。
【請求項5】
走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して、シート基材上に少なくとも1層の塗膜を形成するにあたり、シート基材上に形成する最下層の塗膜の水系塗料に、アクリル酸アミド重合化合物とポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸ソーダとから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を含有させたことを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の塗膜形成方法において、シート基材上に形成する最下層の塗膜の水系塗料に、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の水系塗料を用いたことを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の塗膜形成方法において、走行するシート基材上に複数の水系塗料を積層させた状態でカーテン塗布させるにあたり、全ての水系塗料に、少なくともアセチレングリコール系の界面活性剤を含有させたことを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項8】
走行するシート基材上に水系塗料をカーテン塗布して、少なくとも1層の塗膜をシート基材上に形成させた感熱記録シートを製造するにあたり、請求項5〜7の何れか1項に記載した塗膜形成方法を用いたことを特徴とする感熱記録シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−302747(P2007−302747A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130640(P2006−130640)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000205306)大阪シーリング印刷株式会社 (90)
【Fターム(参考)】