説明

水素吸蔵炭素材料及びその製造方法

【課題】水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料を提供する。
【解決手段】本発明に係る水素吸蔵炭素材料は、吸蔵した水素の一部がH−NMR測定において化学シフト−5〜−30ppmの位置に半値幅30ppm以下のピークを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵炭素材料及びその製造方法に関し、特に、水素吸蔵能が向上した炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素を使って電気エネルギーを取り出す燃料電池の研究開発が盛んに行われており、自家用発電源や自動車用電源としての実用化が期待されている。例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)は、低温領域での運転が可能であるため、家庭用コージェネレーション・システムや自動車での使用に適している。また、PEFCは、高いエネルギー変換効率を示し、起動時間が短く、且つシステムが小型軽量であることから、電気自動車の動力源や携帯用電源として注目されている。
【0003】
燃料電池を実用化する上では、限られた収容空間において燃料である水素をいかに効率よく且つ安全に貯蔵できるかが重要である。水素貯蔵方法の1つとしては、水素吸蔵材料を用いる方法がある。
【0004】
水素吸蔵材料としては、例えば、合金の使用が検討されている。しかしながら、水素吸蔵合金を使用する場合、水素貯蔵装置の重量が大きくなってしまうという問題がある。また、使用する金属の種類によっては価格や埋蔵量の点で問題がある。
【0005】
これに対し、資源の枯渇がなく、比較的安価である炭素材料の使用が検討されている。例えば、特許文献1には、炭素層の間隔を0.5nm以上に拡大することにより、水素吸蔵量を増加させた炭素材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−41742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで検討されてきた炭素材料の水素吸蔵能は、水素吸蔵材料として実用化する上では十分なものとはいえない。
【0008】
これに対し、本発明の発明者らは、独自に鋭意検討を重ねた結果、従来の水素吸蔵炭素材料には見られない態様で水素を吸蔵する炭素材料を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水素吸蔵炭素材料は、吸蔵した水素の一部がH−NMR測定において化学シフト−5〜−30ppmの位置に半値幅30ppm以下のピークを示すことを特徴とする。本発明によれば、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料を提供することができる。
【0011】
また、前記水素吸蔵炭素材料は、炭素構造におけるa軸方向の平均結晶子サイズLaが5.0nm以下、且つc軸方向の平均結晶子サイズLcが0.5nm以上であるとすることもできる。また、前記水素吸蔵炭素材料は、炭素構造の平均(002)面間隔d002が0.340〜0.450nmであるとすることもできる。また、前記水素吸蔵炭素材料は、X線回折図における炭素構造の(002)面反射に対応するピーク面積とアモルファス構造に由来するピーク面積との合計面積に対する前記(002)面反射に対応するピーク面積の割合が10%以上であるとすることもできる。
【0012】
また、前記水素吸蔵炭素材料は、樹脂と金属とを含有する原料を炭素化して得られるものとすることもできる。また、この場合、前記水素吸蔵炭素材料は、前記原料を700℃以上で炭素化して得られるものとすることもできる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水素吸蔵炭素材料の製造方法は、樹脂と金属とを含有する原料の炭素化を複数の条件で行い、前記複数の条件のうち、吸蔵した水素の一部がH−NMR測定において化学シフト−5〜−30ppmの位置に半値幅30ppm以下のピークを示す炭素材料が得られる条件を選択し、前記選択された条件で前記原料を炭素化して水素吸蔵炭素材料を製造することを特徴とする。本発明によれば、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料の製造方法を提供することができる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る水素吸蔵炭素材料の製造方法は、樹脂と金属とを含有する原料の炭素化を複数の条件で行い、前記複数の条件のうち、炭素構造におけるa軸方向の平均結晶子サイズLaが5.0nm以下、且つc軸方向の平均結晶子サイズLcが0.5nm以上である炭素材料が得られる条件を選択し、前記選択された条件で前記原料を炭素化して水素吸蔵炭素材料を製造することを特徴とする。本発明によれば、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料の製造方法を提供することができる。
【0015】
また、前記複数の条件のうち、さらに炭素構造の平均(002)面間隔d002が0.340〜0.450nmである前記炭素材料が得られる条件を選択することとしてもよい。また、前記複数の条件のうち、さらにX線回折図における炭素構造の(002)面反射に対応するピーク面積とアモルファス構造に由来するピーク面積との合計面積に対する前記(002)面反射に対応するピーク面積の割合が10%以上である前記炭素材料が得られる条件を選択することとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水素吸蔵能が向上した水素吸蔵炭素材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る実施例で撮影された炭素材料の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る実施例で撮影された炭素材料の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る実施例で撮影された炭素材料の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る実施例で撮影された炭素材料の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る実施例で撮影された炭素材料の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る実施例で撮影された炭素材料の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る実施例で結晶子サイズLa分布の解析に用いられたベンゼン・コロネンベースモデルについての説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたX線回折図の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る実施例で炭素構造に関する評価を行った結果の一例を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る実施例でシェル状構造の結晶化度を測定する際に行われたX線回折図のピーク分離の一例を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る実施例で炭素構造の結晶子サイズLa分布を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る実施例で炭素構造の積層数分布を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図13A】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13B】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13C】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13D】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13E】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13F】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13G】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13H】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図13I】本発明の一実施形態に係る実施例で得られたNMRスペクトルの一例を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る実施例でNMRスペクトルに示されたピークの半値幅及びピークトップ位置を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る実施例でNMRスペクトルに示されたピークの温度依存性を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る実施例で水素吸蔵能を評価した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0019】
本実施形態に係る水素吸蔵炭素材料(以下、「本炭素材料」という。)は、その炭素構造内に水素を吸蔵する水素吸蔵能を備え、吸蔵した水素の一部がH−NMR測定において化学シフト−5〜−30ppmの位置に半値幅30ppm以下のピークを示す炭素材料である。
【0020】
すなわち、本炭素材料に水素を吸蔵させてH−NMR測定を行うと、高磁場側に5〜30ppmシフトした位置に、吸蔵した水素の一部に起因する半値幅30ppm以下のピーク(以下、「特異ピーク」という。)が現れる。なお、ピークの化学シフトは、例えば、本炭素材料の分散に用いた溶媒(例えば、α−アルミナ)のみに水素を導入した場合に得られるピークを基準(0ppm)に規定することができる。
【0021】
この特異ピークは、水素を吸蔵させた活性炭やカーボンブラックをH−NMR測定しても検出されない、本炭素材料に特有のものである。すなわち、本炭素材料は、他の炭素材料では見られない、H−NMR測定において特異ピークを示す特有の態様で水素を吸蔵する。
【0022】
この本炭素材料に特有の水素吸蔵態様がどのような機構によるものかは明らかではないが、本炭素材料に特有の炭素構造と、導入された水素と、の特異的な相互作用によるものと考えられる。
【0023】
本炭素材料は、樹脂と金属とを含有する原料を炭素化して得られ、炭素六角網面(以下、単に「炭素網面」という。)に活性点としてエッジ部分や屈曲部分等の欠陥部分が多数形成された炭素構造を有する。すなわち、本炭素材料は、例えば、金属の微粒子の周りに、玉ねぎ状に積層発達した、グラファイト構造に類似の乱層構造(以下、「シェル状構造」という。)を有する。このシェル状構造に含まれる炭素網面のエッジ部分や屈曲部分は、触媒反応等の化学反応の活性点として機能すると考えられる。
【0024】
また、本炭素材料は、例えば、平均粒径が3〜100nm、好ましくは30〜50nmの微粒子とすることができる。本炭素材料がこのようなナノ粒子である場合には、特に、その曲率の大きな表面に上述のような活性点が多く形成される。本炭素材料の比表面積は、例えば、100〜3000m/gとすることができる。
【0025】
そして、本炭素材料は、例えば、その炭素構造におけるa軸方向の平均結晶子サイズLaが5.0nm以下、且つc軸方向の平均結晶子サイズLcが0.5nm以上であるものとすることができる。
【0026】
ここで、平均結晶子サイズLa(以下、単に「平均La」という。)は、炭素構造に含まれる炭素網面が二次元的に広がって形成される平面を円に近似した場合の直径に相当し、当該平面広がりの程度を示す。また、平均結晶子サイズLc(以下、単に「平均Lc」という。)は、炭素構造に含まれる平行に積層した炭素網面群のc軸方向の厚さを示す。
【0027】
本炭素材料の平均Laは、さらに、例えば、4.0nm以下とすることができ、3.0nm以下とすることができる。平均Laの下限値は特に限られないが、平均Laは、例えば、1.0nm以上とすることができる。また、平均Lcは、さらに、例えば、0.6nm以上とすることができる。平均Lcの上限値は特に限られないが、平均Lcは、例えば、1.5nm以下とすることができる。
【0028】
本炭素材料の炭素構造は、これら平均La範囲と平均Lc範囲との任意の組み合わせにより特定することができる。平均Laが上述の閾値以下である場合、本炭素材料の炭素構造は、炭素網面のa軸方向の広がりが比較的小さく、当該炭素網面が頻繁に途切れて形成される多くの(高密度の)活性点を含むことになる。
【0029】
また、本炭素材料は、その炭素構造を構成する炭素網面の7nm以下の結晶子サイズLa分布において、例えば、1〜5nmの割合が10%以上であり、且つ5〜7nmの割合が60%以下であるものとすることができる。この結晶子サイズLa分布における5〜7nmの割合は、さらに、例えば、50%以下とすることができ、40%以下とすることができる。
【0030】
一方、平均Lcが上述の閾値以上である場合、本炭素材料は、c軸方向の積層構造が発達した炭素構造を有することになる。平均Lcが大きくなるほど、本炭素材料は、炭素網面の積層数がより多い炭素構造を有することになる。
【0031】
また、本炭素材料は、例えば、c軸方向における炭素網面の積層数分布における積層数3以上の割合が30%以上である炭素構造を有することができる。この積層数分布における積層数3以上の割合は、さらに、例えば、40%以上とすることができ、45%以上とすることができる。
【0032】
また、本炭素材料は、例えば、炭素構造の平均(002)面間隔d002が0.340〜0.450nmであるものとすることができる。ここで、平均(002)面間隔d002(以下、単に「平均面間隔d002」という。)は、炭素構造を構成する炭素(002)面間の平均距離である。本炭素材料の平均面間隔d002は、さらに、例えば、0.340〜0.400nmとすることができ、0.340〜0.350nmとすることができる。
【0033】
また、本炭素材料は、例えば、X線回折図における炭素構造の(002)面反射に対応するピーク面積とアモルファス構造に由来するピーク面積との合計面積に対する前記(002)面反射に対応するピーク面積の割合が10%以上であるものとすることができる。
【0034】
ここで、上述のX線回折図においては、本炭素材料がシェル状構造等の発達した構造(以下、これらを総称して「シェル状構造」という。)を有する場合には、回折角(2θ)が26°の付近に炭素(002)面の回折ピークが現れる。このピークには、シェル状構造炭素の(002)面に由来するピーク(以下、「シェル状構造ピーク」という。)と、アモルファス構造に由来するピーク(以下、「アモルファス構造ピーク」という。)と、の2種類が混じっている。
【0035】
したがって、X線回折データのピーク分離によって、この26°付近のピークをシェル状構造ピークとアモルファス構造ピークとに分離することができる。そして、これら2種類のピーク面積の合計に対するシェル状構造ピーク面積の割合を算出すると、当該割合は、シェル状構造の発達(結晶化)の程度を表す指標(以下、「シェル状構造の結晶化度」という。)となる。
【0036】
本炭素材料のシェル状構造の結晶化度は、さらに、例えば、15%以上とすることができ、20%以上とすることができ、25%以上とすることができる。このシェル状構造の結晶化度が上述の閾値以上である場合には、本炭素材料は、十分に発達したシェル状構造を含む炭素構造を有することになる。そして、シェル状構造の結晶化度が大きくなるほど、本炭素材料は、より発達したシェル状構造を有することになる。
【0037】
なお、この結晶化度は、特開2007−207662号公報に記載されている、シェル状構造の炭素粒子の(002)面反射に対応するX線回折線図における先鋭成分面積と略平坦成分面積との合計面積に対する当該先鋭成分面積の割合に相当する。
【0038】
本炭素材料は、H−NMR測定において上述の特異ピークとして観測される、従来の水素吸蔵炭素材料には見られない態様で水素を吸蔵する。すなわち、本炭素材料は、従来の水素吸蔵炭素材料で知られている態様(例えば、分子状水素の表面への吸着)に加えて、上述した炭素構造に起因すると考えられる特有の態様で、さらに水素を吸蔵することができる。
【0039】
この点、本炭素材料は、例えば、上述のように、エッジ部分等の活性点が多く形成され、積層構造が発達し、さらに炭素網面が適度な間隔で積層された特有の炭素構造を有することにより、上記特異ピークで表わされる特有の態様で水素を吸蔵することができると考えられる。
【0040】
なお、上述の本炭素材料の平均面間隔d002は、黒鉛結晶のそれに比べて大きく、且つ面間隔を拡大する従来技術で目標とされている0.5nm以上という範囲より小さい。したがって、本炭素材料は、従来試みられている面間隔の拡大というアプローチとは全く異なり、面間隔を適度な範囲に維持しつつ、乱層構造に由来する特有の炭素構造を備えることにより、優れた炭素吸蔵能を発揮するものである。
【0041】
このように、本炭素材料は、優れた水素吸蔵能を発揮する。すなわち、例えば、本炭素材料の単位表面積あたりの水素吸蔵量は、活性炭のそれに比べて顕著に高い。具体的に、本炭素材料の単位表面積あたりの水素吸蔵量は、例えば、1.0×10−3g/m以上とすることができる。このような優れた水素吸蔵能を有する本炭素材料は、水素を原料として利用する種々の装置やシステムに適用することができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る水素吸蔵炭素材料の製造方法(以下、「本製造方法」という。)について説明する。
【0043】
本製造方法においては、樹脂と金属とを含有する原料を炭素化することにより、当該樹脂の炭素化により形成された炭素構造を有する水素吸蔵炭素材料を製造する。本炭素材料は、本製造方法によって効率よく且つ確実に製造することができる。
【0044】
原料の一部として用いられる樹脂は、炭素化できる高分子材料であれば特に限られない。すなわち、例えば、炭素化が可能な熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的に、例えば、ポリビニルピリジン、ポリアクリロニトリル、キレート樹脂、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリフルフリルアルコール、フラン樹脂、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリイミダゾール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ピッチ、褐炭、ポリ塩化ビニリデン、ポリカルボジイミド、リグニン、無煙炭、バイオマス、タンパク質、フミン酸、ポリスルフォン、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリアニリン、ポリピロール、アイオノマーを用いることができる。これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
なお、分子内に窒素原子を含有する樹脂を使用することにより、窒素原子をドープした場合と同様の効果を得ることができる。また、樹脂としては、熱硬化によって炭素化可能な高分子材料であれば金属原子を含有していてもよい。また、熱硬化性に乏しい樹脂を用いる場合、当該樹脂の不融化を行うこととしてもよい。この操作により樹脂の本来の融点又は軟化点以上の温度であっても当該樹脂の構造を維持することができる。不融化の方法は公知の方法により行うことができる。また、一般に炭素化に適していないとされる高分子材料であっても、例えば、架橋を促す他の高分子材料を混合又は共重合させることにより炭素化を行うことができる。樹脂との形状は、本製造方法により製造される炭素材料の水素吸蔵能を損なわない限り特に限られず、例えば、シート状、繊維状、ブロック状、粒子状とすることができる。
【0046】
原料の一部として用いられる金属は、本製造方法により製造される炭素材料の水素吸蔵能を阻害しないものであれば特に限られない。すなわち、金属としては、例えば、遷移金属を好ましく用いることができ、周期表の3族から12族の第4周期に属する金属を特に好ましく用いることができる。
【0047】
これらの金属は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。具体的に、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、亜鉛、銅からなる群より選択される1種又は2種以上を好ましく用いることができ、コバルト、鉄を特に好ましく用いることができる。
【0048】
金属としては、当該金属の単体又は当該金属の化合物を用いることができる。金属化合物としては、例えば、金属塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭素化物、金属錯体を好ましく用いることができ、金属塩化物、金属酸化物、金属錯体を特に好ましく用いることができる。
【0049】
また、本炭素材料の表面積を増加させる等の目的で、他の炭素材料、セラミックス材料、金属材料を原料に添加してもよい。このような他の材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、活性炭、ガラス状カーボン、炭素繊維、メソポーラスシリカ、メソポーラスカーボン、金属粉末、金属微粒子、金属ファイバー、フラーレンの1種又は2種以上を用いることができる。これら他の材料が原料に占める割合は、例えば、1〜90重量%%以下とすることができ、より好ましくは5〜50重量%とすることができる。
【0050】
炭素化は、原料を加熱して、当該原料に含有される樹脂を炭素化できる所定の温度(以下、「炭素化温度」という。)で所定時間だけ保持することにより行う。炭素化温度は、樹脂の融点や分解点等の条件に応じて適宜設定することができる。
【0051】
すなわち、炭素化温度は、例えば、300℃以上とすることができ、好ましくは700℃以上とすることができる。より具体的に、炭素化温度は、例えば、300〜3000℃の範囲とすることができ、好ましくは700〜2000℃の範囲とすることができ、より好ましくは700〜1500℃の範囲とすることができる。炭素化温度までの昇温速度は、例えば、0.5〜300℃/分の範囲とすることができる。
【0052】
上述の炭素化温度で原料を保持する時間は、例えば、5分〜24時間の範囲とすることができ、好ましくは20分〜2時間の範囲とすることができる。炭素化処理は、窒素等の不活性ガスの流通下で行うことが好ましい。
【0053】
また、本製造方法においては、炭素材料を粉砕して微細化することができる。粉砕方法は、炭素材料の表面積を増大することができれば特に限られず、公知の任意の方法を用いることができる。すなわち、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の粉砕手段を用いて炭素材料の微粒子を調製することができる。
【0054】
また、本製造方法においては、炭素材料に金属の含有量を減少させる洗浄処理を施すこともできる。この洗浄処理には、例えば、塩酸や硫酸等の酸を好ましく用いることができる。
【0055】
また、本製造方法においては、炭素材料の賦活化を行うこともできる。
【0056】
炭素材料を賦活する方法は特に限られず、例えば、アンモオキシデーション、二酸化炭素賦活、リン酸賦活、アルカリ賦活、水蒸気賦活を用いることができる。
【0057】
また、本製造方法においては、炭素材料に熱処理を施すこともできる。この熱処理は、炭素化により得られた炭素材料を、さらに所定の温度で保持することにより行う。熱処理の温度は、例えば、300〜1500℃の範囲とすることができる。
【0058】
そして、本製造方法においては、例えば、樹脂と金属とを含有する原料の炭素化を複数の条件で行い、当該複数の条件のうち、吸蔵した水素の一部がH−NMR測定において化学シフト−5〜−30ppmの位置に半値幅30ppm以下のピークを示す炭素材料が得られる条件を選択し、当該選択された条件で当該原料を炭素化して水素吸蔵炭素材料を製造することができる。
【0059】
すなわち、この場合、まず、互いに異なる複数の条件で原料を炭素化して複数の炭素材料を調製する予備工程を実施する。炭素化の条件は、製造される炭素材料の水素吸蔵能に影響を与え得るものであれば特に限られず、例えば、炭素化温度、昇温速度、当該炭素化温度で保持する時間、原料の組成(樹脂及び金属の種類や配合比、他の添加成分の種類や配合比等)が挙げられる。
【0060】
次いで、予備工程で得られた複数の炭素材料について、H−NMR測定を行い、当該測定の結果に基づいて条件の選択を行う。すなわち、例えば、H−NMR測定で得られた水素に由来するピークを解析して、上述の特異ピークの有無を判断し、当該特異ピークが検出された炭素材料の調製に用いられた炭素化条件を選択する。
【0061】
なお、特異ピークを示す炭素材料を調製できる条件が複数ある場合には、例えば、さらに、本炭素材料について上述した平均La、平均Lc、平均面間隔d002、シェル状構造の結晶化度等の炭素構造に関する評価結果に基づいた判断により、条件を選択することもできる。
【0062】
そして、こうして選択された条件を正式な炭素化条件として決定し、当該決定された条件で原料を炭素化して、水素吸蔵炭素材料を製造する。したがって、本製造方法によれば、水素吸蔵能に優れた炭素材料を効率よく且つ確実に製造することができる。
【0063】
また、本製造方法においては、例えば、樹脂と金属とを含有する原料の炭素化を複数の条件で行い、当該複数の条件のうち、炭素構造におけるa軸方向の平均結晶子サイズLaが5.0nm以下、且つc軸方向の平均結晶子サイズLcが0.5nm以上である炭素材料が得られる条件を選択し、当該選択された条件で当該原料を炭素化して水素吸蔵炭素材料を製造することができる。すなわち、この場合、上述のように複数の条件で原料を炭素化する予備工程を実施する。
【0064】
次いで、予備工程で得られた複数の炭素材料について、X線回折測定を行い、当該測定の結果に基づいて条件の選択を行う。すなわち、例えば、X線回折測定で得られた回折データを解析して、平均La及び平均Lcが上述の範囲であるか否かを判断し、平均La及び平均Lcのいずれもが上述の範囲である炭素材料の調製に用いられた炭素化条件を選択する。なお、平均La及び平均Lcの範囲を規定する閾値としては、本炭素材料について上述した種々の閾値のうち任意のものを採用することができる。
【0065】
そして、こうして選択された条件を正式な炭素化条件として決定し、当該決定された条件で原料を炭素化して、水素吸蔵炭素材料を製造する。したがって、本製造方法によれば、優れた水素吸蔵能を発揮する特有の炭素構造を有する炭素材料を効率よく且つ確実に製造することができる。
【0066】
また、この場合、複数の条件のうち、さらに炭素構造の平均(002)面間隔d002が0.340〜0.450nmである炭素材料が得られる条件を選択することができる。すなわち、X線回折測定で得られた回折データに基づいて、予備工程で用いられた複数の条件のうち、平均La及び平均Lcがそれぞれ上述の範囲であり、且つ平均面間隔d002が上述の範囲である炭素材料の調製に用いられた炭素化条件を選択する。なお、平均面間隔d002の範囲を規定する閾値としては、本炭素材料について上述した種々の範囲のうち任意のものを採用することができる。
【0067】
そして、こうして選択された条件を正式な炭素化条件として決定し、当該決定された条件で原料を炭素化して、水素吸蔵炭素材料を製造する。したがって、本製造方法によれば、優れた水素吸蔵能を発揮する特有の炭素構造を有する炭素材料を効率よく且つより確実に製造することができる。
【0068】
また、これらの場合、複数の条件のうち、さらにX線回折図における炭素構造の(002)面反射に対応するピーク面積とアモルファス構造に由来するピーク面積との合計面積に対する前記(002)面反射に対応するピーク面積の割合が10%以上である炭素材料が得られる条件を選択することができる。
【0069】
すなわち、例えば、X線回折測定で得られた回折データに基づいて、予備工程で用いられた複数の条件のうち、平均La及び平均Lcがそれぞれ上述の範囲であり、且つシェル状構造の結晶化度が上述の範囲である炭素材料の調製に用いられた炭素化条件を選択する。
【0070】
また、例えば、X線回折測定で得られた回折データに基づいて、予備工程で用いられた複数の条件のうち、平均La及び平均Lcがそれぞれ上述の範囲であり、平均面間隔d002が上述の範囲であり、且つシェル状構造の結晶化度が上述の範囲である炭素材料の調製に用いられた炭素化条件を選択する。なお、シェル状構造の結晶化度を規定する閾値としては、本炭素材料について上述した種々の閾値のうち任意のものを採用することができる。
【0071】
そして、こうして選択された条件を正式な炭素化条件として決定し、当該決定された条件で原料を炭素化して、水素吸蔵炭素材料を製造する。したがって、本製造方法によれば、優れた水素吸蔵能を発揮する特有の炭素構造を有する炭素材料を効率よく且つより確実に製造することができる。
【0072】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0073】
樹脂と金属とを含有する原料を加熱して炭素化することにより6種類の水素吸蔵炭素材料を調製した。
【0074】
[Fe錯体/800℃]まず、前駆組成物を調製した。すなわち、10gのフェノール樹脂に100mLのアセトンを混合して混合溶液を調製した。さらに、この混合溶液に、3.05gのフタロシアニン鉄を加え、常温下でマグネチックスターラを用いて1時間撹拌した。この混合物に超音波を照射しながらロータリエバポレータを用いて60℃で溶媒を除去した。こうして前駆組成物を得た。
【0075】
次に、前駆組成物の炭素化処理を行った。すなわち、前駆組成物を石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、当該石英管に20分間窒素ガスをパージした。そして、加熱を開始し、ゴールドイメージ炉の温度を、10℃/分の昇温速度で室温から800℃まで昇温した。その後、この石英管を800℃で1時間保持した。こうして前駆組成物が炭素化されることにより生成された炭素材料を得た。
【0076】
さらに、炭素材料の粉砕処理を行った。すなわち、遊星ボールミル(P−7、フリッチュジャパン株式会社)内に1.5mm径の窒化ケイ素ボールをセットし、炭素化処理により得られた炭素材料を回転速度800rpmで60分間粉砕した。粉砕した炭素材料を取り出し、目開き106μmの篩で分級した。こうして篩を通過した粉末状の炭素材料を水素吸蔵炭素材料(以下、「FePc/HT800」という。)として得た。
【0077】
[Co塩/900℃]まず、前駆組成物を調製した。すなわち、1.5gのポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体を20gのジメチルホルムアミドに溶解させた。その後、1.5gの塩化コバルト六水和物と1.5gの2−メチルイミダゾールとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。得られた溶液にケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社)を30重量%となるように加え、乳鉢を用いて混合した。こうして前駆組成物を得た。
【0078】
次に、前駆組成物の不融化処理を行った。すなわち、前駆組成物を、強制循環式乾燥機内にセットした。そして、大気中にて、30分間で室温から150℃まで昇温し、続いて2時間かけて150℃から220℃まで昇温した。その後、前駆組成物を200℃で3時間保持した。こうして前駆組成物を不融化した。
【0079】
そして、前駆組成物の炭素化処理を行った。すなわち、不融化処理した前駆組成物を石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、当該石英管に20分間窒素パージした。そして、加熱を開始し、ゴールドイメージ炉の温度を、10℃/分の昇温速度で室温から900℃まで昇温した。その後、この石英管を900℃で1時間保持した。こうして前駆組成物が炭素化されることにより生成された炭素材料を得た。
【0080】
さらに、上述のFePc/HT800の場合と同様に炭素材料の粉砕処理を行い、粉末状の炭素材料を水素吸蔵炭素材料(以下、「Co/KB/HT900」という。)として得た。
【0081】
[Co錯体/1200℃]まず、前駆組成物を調製した。すなわち、10gのフェノール樹脂に100mLのアセトンを混合して混合溶液を調製した。さらに、この混合溶液に、2.09gのフタロシアニンコバルトを加え、常温下でマグネチックスターラを用いて1時間撹拌した。この混合物に超音波を照射しながらロータリエバポレータを用いて60℃で溶媒を除去した。こうして前駆組成物を得た。
【0082】
次に、前駆組成物の炭素化処理を行った。すなわち、前駆組成物の一部を石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、当該石英管に20分間窒素ガスをパージした。そして、加熱を開始し、ゴールドイメージ炉の温度を、10℃/分の昇温速度で室温から1200℃まで昇温した。その後、この石英管を1200℃で1時間保持した。こうして前駆組成物が1200℃で炭素化されることにより生成された炭素材料を得た。そして、上述のFePc/HT800の場合と同様に、炭素化処理により得られた炭素材料の粉砕処理を行い、粉末状の炭素材料を得た。
【0083】
さらに、炭素材料に洗浄処理を施した。すなわち、粉末状の炭素材料に、コバルトの含有量を低減させるための酸洗い処理を施した。具体的に、炭素材料に37%のHClを加えて2時間撹拌した後、静置して上澄み液をデカンテーションした。この操作を3回行った。そして、炭素材料を吸引ろ過後、さらに蒸留水で洗浄し、次いで煮沸を行った。こうして、洗浄処理が施された粉末状の炭素材料を水素吸蔵炭素材料(以下、「CoPc/HT1200」という。)として得た。
【0084】
[Co錯体/1000℃]炭素化処理において前駆組成物を保持する温度を1000℃とした以外は上述のCoPc/HT1200の場合と同様の製造方法を実施した。こうして、粉末状の炭素材料を水素吸蔵炭素材料(以下、「CoPc/HT1000」という。)として得た。
【0085】
[Co錯体/800℃]炭素化処理において前駆組成物を保持する温度を800℃とした以外は上述のCoPc/HT1200の場合と同様の製造方法を実施した。こうして、粉末状の炭素材料を水素吸蔵炭素材料(以下、「CoPc/HT800」という。)として得た。
【0086】
[Co錯体/600℃]炭素化処理において前駆組成物を保持する温度を600℃とした以外は上述のCoPc/HT1200の場合と同様の製造方法を実施した。こうして、粉末状の炭素材料を水素吸蔵炭素材料(以下、「CoPc/HT600」という。)として得た。
【実施例2】
【0087】
上述の実施例1で得られた6種類の水素吸蔵炭素材料について、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。図1はFePc/HT800、図2はCo/KB/HT900、図3はCoPc/HT1200、図4はCoPc/HT1000、図5はCoPc/HT800、図6はCoPc/HT600について得られたTEM写真の一例をそれぞれ示す。
【0088】
なお、図3Bは図3Aに示す破線の丸で囲まれた部分の拡大写真であり、図3Dは図3Cに示す破線の丸で囲まれた部分の拡大写真である。また、図4Bは図4Aに示す破線の丸で囲まれた部分の拡大写真であり、図4Dは図4Cに示す破線の丸で囲まれた部分の拡大写真である。また、図5Bは図5Aに示す左側の破線の丸で囲まれた部分の拡大写真であり、図5Dは図5Cに示す破線の丸で囲まれた部分の拡大写真である。また、図6Bは図6Aに示す破線の丸で囲まれた部分の拡大写真であり、図6Dは図6Cに示す破線の丸で囲まれた部分の拡大写真である。
【0089】
図1〜図5に示すように、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料では、歪んだグラフェンが積層した発達したシェル状構造が認められた。このシェル状構造は、炭素化温度が高いほどが結晶化が進んでいるようであった。
【0090】
また、洗浄処理を施していない2種類(FePc/HT800及びCo/KB/HT900)のみならず、洗浄処理を施した3種類(CoPc/HT1200、CoPc/HT1000及びCoPc/HT800)においても、金属もしくは金属化合物と思われる、様々な粒径の粒子が不均一に分散しているのが認められた。
【0091】
一方、図6に示すように、600℃で炭素化されたCoPc/HT600では、ほぼ全体にアモルファス状の構造が認められた。このCoPc/HT600では、ごく僅かなシェル状構造が認められたが、他の5種類ほど発達したものではなかった。また、CoPc/HT600では他の5種類のような明確な金属粒子の分散は認められなかった。
【実施例3】
【0092】
上述の実施例1で得られた6種類の水素吸蔵炭素材料について、X線回折測定を行い、これらの炭素構造を評価した。
【0093】
[X線回折測定]まず、水素吸蔵炭素材料の試料を、ガラス試料板の凹部に入れるとともにスライドガラスで押さえ、当該試料をその表面と基準面とが一致するように当該凹部に均一に充填した。次いで、この充填された試料の形態が崩れないように、ガラス試料板を広角X線回折試料台に固定した。
【0094】
そして、X線回折装置(Rigaku RINT2100/PC、株式会社リガク)を用いて各試料の粉末X線回折測定を実施し、回折ピークを測定し、積算を4回行うことで解析対象となるX線回折データを得た。
【0095】
なお、X線管球への印加電圧及び電流はそれぞれ50kV及び300mAとした。また、サンプリング間隔は0.1°又は0.01°、走査速度は1°/分、測定角度範囲(2θ)は5〜90°とした。入射X線としてはCuKα線を用いた。
【0096】
[炭素網面の広がりに関する評価]得られたX線回折データに基づいて、結晶子サイズLaに関する評価を行った。すなわち、平均La及びLa分布を、Diamond法を用いて解析した。この解析には、コンピュータにインストールされた解析用ソフトウェア(Carbon Analyzer D series、藤本宏之、http://www.asahi−net.or.jp/qn6h−fjmt/)を用いた。解析対象データは、CuKα線をX線源としてカウンターグラファイトモノクロメータを用いて測定された炭素質材料の11バンド強度に限定した。解析可能な最大網面サイズは約7nmであった。
【0097】
ここで、Diamondの提案した解析方法の手順は、基本的に、(1)試料の11バンドの強度測定、(2)実測強度の補正、(3)試料中に存在すると予想されるモデル網面の想定、(4)想定したモデル網面からの理論散乱強度の計算、(5)求めた実測強度の理論散乱強度による最小二乗フィッティング、(6)各理論散乱強度の重みからのモデル網面の重量分率及び平均網面サイズの算出の6つのステップからなる。そこで、はじめに解析するデータを読み込み、平滑化処理及び吸収補正を行った。平滑化処理は7回行い、吸収補正は理論吸収係数4.219を用いて実行した。
【0098】
次に、理論散乱強度計算を行った。計算式として、下記の式(I)を用いた。この式(I)において、Iは実測強度、wは質量分率、Bは理論X線散乱強度、Pは偏向因子、v、sは網面モデル因子である。
【0099】
【数1】

【0100】
ここで、すべてのパラメータがnの関数として表現できる(藤本宏之、炭素、192(2000)125−129参照)。理論散乱強度の計算には、初期条件の設定として二次元格子定数a及びRuland係数の決定、モデル網面の選定が必要になる。二次元格子定数は、一般にベンゼン及び理想黒鉛の格子定数の間の値、約0.240〜0.24612nmを設定する。Rulandの係数は、使用したモノクロメータのエネルギーのパスバンドを表す関数の積分幅を示しており、一般に0〜1の値を取る。本解析では二次元格子定数aの初期設定値として、一般的な炭素質材料の格子定数に近い値として0.24412nmを選択した。Rulandの係数の初期設定値としては0.05を選択した。
【0101】
次に、モデル網面の選定を行った。上記ソフトウェアでは、ベンゼン・コロネンベースモデル、ピレンベースモデル、混合モデルの3種類のモデル網面を用いて理論強度を計算実行できる。この点、本解析では、図7に示すようなベンゼン・コロネンベースモデルを用いた。このモデルの場合には、二次元格子定数aの奇数倍サイズ(1、3、5・・・25、27、29倍)のモデル網面(およそ0.25nm〜7nm)の散乱強度を計算することが可能である。
【0102】
こうしてすべての選択条件を決定し、理論散乱強度計算を行った。計算が終了すると、下記の式(II)に基づく最小二乗法による反復計算を1000回行い、フィッティング角度範囲2θを60〜100°として、実測プロファイルと理論プロファイルのフィッティングを行った。フィッティングが終了すると、コンピュータのディスプレイに、フィッティング結果、網面サイズ分布、及び平均網面サイズが表示された。
【0103】
【数2】

【0104】
[炭素網面の積層構造に関する評価]また、得られたX線回折データに基づいて、炭素構造における炭素網面の積層構造に関する評価を行った。すなわち、平均Lc、炭素網面の積層数とその分布、及び平均面間隔d002を、コンピュータにインストールされた上述の解析用ソフトウェア(Carbon Analyzer D series、藤本宏之、http:/www.asahi−net.or.jp/qn6h−fjmt/)を用いて解析した。
【0105】
このソフトフェアを用いた計算工程においては、(1)回折線の強度補正、(2)バックグラウンドの補正、(3)Patterson関数の計算、(4)逆Fourier計算による妥当性の評価、(5)Patterson関数を用いた平均Lc、平均積層数、積層数分布、及び平均面間隔d002の計算、の5つのステップを実施した。
【0106】
まず、X線回折測定で得た5°から40°の回折データについて、回折線強度補正及びバックグラウンド補正を行った。回折線強度補正においては、炭素の線吸収係数μを4.219とし、試料厚みtを0.2mmとし、発散スリット幅βを2/3°とし、ゴニオメーター半径Rを285mmとした。バックグラウンド補正は15°付近および35°付近を基点とし、スプライン補間法で行った。
【0107】
次いで、この補正後データを用いてPatterson関数を計算した。積分開始角および終了角はそれぞれ5°および40°とし、計算距離uを変えながらHirschの方法で逆Fourier計算し、妥当性を評価した。なお、このHirschの方法は、石炭やピッチのような比較的網面サイズの小さな試料中の炭素網面の平均積層数及び積層数分布を評価するためにHirschによって1954年に提案された方法である。
【0108】
こうして計算したPatterson関数を用い、残りの計算過程はソフトフェアの標準手順に従って平均Lc、平均積層数、積層数分布、及び平均面間隔d002を算出した。
【0109】
[シェル状構造の発達度に関する評価]また、得られたX線回折データに基づいて、シェル状構造の発達度に関する評価を行った。すなわち、上述のとおり、本炭素材料のX線回折測定で得られる回折データのうち、26°付近に現れる炭素(002)面の回折ピークには、シェル状構造炭素の(002)面に由来するピーク(シェル状構造ピーク)と、アモルファス構造に由来するピーク(アモルファス構造ピーク)と、の2種類が混じっている。
【0110】
そこで、回折データに基づいてピーク分離を実施し、回折角26°付近に現れるピークをシェル状構造ピークとアモルファス構造ピークとに分離した。ピーク分離の計算には上述の平均Lcの算出と同様の回折線強度補正及びバックグラウンド補正を施した回折角5°から40°の回折データを用いた。
【0111】
そして、分離前のピークの面積(すなわち、シェル状構造ピークの面積とアモルファス構造ピークの面積との合計面積)に対する、当該シェル状構造ピークの面積の割合(%)を算出し、当該割合をシェル状構造の結晶化度とした。
【0112】
[X線回折図]図8には、6種類の水素吸蔵炭素材料について得られたX線回折図の一例を示す。図8AはFePc/HT800、図8BはCo/KB/HT900、図8CはCoPc/HT1200、図8DはCoPc/HT1000、図8EはCoPc/HT800、図8FはCoPc/HT600の結果をそれぞれ示す。図の横軸は回折角(2θ)、縦軸はピーク強度を示している。なお、図8A〜Fにおいて縦軸のスケールは一致させていないため、これらの図から対応するピークの強度を比較することはできない。
【0113】
図8A〜Eに示すように、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料では、炭素の(002)、(10)、(004)及び(11)回析に帰属される回析線が回折角26°、42°、54°及び79°にそれぞれ認められた。特に、(002)回析はシャープな回析線を示しており、上述の実施例2でTEM像に認められたシェル状構造の発達と対応していた。
【0114】
また、原料の一部としてコバルトを用いた4種類の水素吸蔵炭素材料については、回折角44°、51°及び75°には金属コバルトに帰属される回析線が認められ、上述の実施例2でTEM像において観察された不均一に分散された粒子は金属コバルト粒子であることが確認された。一方、原料の一部として鉄を用いた水素吸蔵材料については、回折角38°、43°、44°、45°、46°、48°及び49°に鉄カーバイドに帰属される回折線と、44.5°に金属鉄に帰属される回折線が認められた。
【0115】
また、炭素化温度が高いほど回折角26°のピーク高さが大きくなる傾向が見られた。この傾向は、炭素化温度が高くなるほどシェル状構造の発達度(結晶化度)が高くなることを示していると考えられた。
【0116】
一方、図8Fに示すように、600℃で炭素化されたPcCo/HT600については、回折角が26°及び42°の付近にブロードなピークが観察されたのみであった。なお、6種類の水素吸蔵炭素材料のいずれについても、26°より小さな回折角において明確なピークは認められなかった。
【0117】
[平均La、平均Lc、平均面間隔d002及び結晶化度]図9には、6種類の水素吸蔵炭素材料について算出された平均La、平均Lc、平均面間隔d002及びシェル状構造の結晶化度を示す。また、図10には、図9に示す結晶化度を算出する際に行われたX線回折図のピーク分離結果の一例を示す。図10AはCoPc/HT1000、図10BはCoPc/HT600について行われたピーク分離の結果を示す。図10において、細い実線は補正後の回折データ、太い実線はシェル状構造ピーク、破線はアモルファス構造ピークをそれぞれ示す。
【0118】
図9に示すように、6種類の水素吸蔵炭素材料のいずれについても、平均Laは1.03〜2.63nmであった。すなわち、各水素吸蔵炭素材料のa軸方向における炭素網面の広がりは比較的小さく、当該炭素網面が途切れることにより多数のエッジが形成されていると考えられた。
【0119】
一方、平均Lcについては、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料が0.60〜0.89nmであったのに対し、600℃で炭素化されたCoPc/HT600は0.44と小さかった。すなわち、CoPc/HT600に比べて、他の5種類は炭素網面の積層構造がより発達していることが確認された。
【0120】
また、平均面間隔d002については、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料が0.342〜0.345nmであったのに対し、600℃で炭素化されたCoPc/HT600は0.335nmと小さかった。すなわち、CoPc/HT600の平均面間隔d002は黒鉛結晶のそれと同程度であったのに対し、他の5種類の平均面間隔d002は、これらに比べて明らかに大きかった。
【0121】
また、シェル状構造の結晶化度については、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料が27.8〜43.7%であったのに対し、600℃で炭素化されたCoPc/HT600は2.0%と顕著に小さかった。すなわち、例えば、図10Aに示すように、CoPc/HT1000については鋭いシェル状構造ピークが検出されたのに対して、図10Bに示すように、CoPc/HT600については極めて小さなシェル状構造ピークが検出されたのみであった。
【0122】
このように、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料においては、CoPc/HT600に比べてシェル状構造が顕著に発達していることが確認され、これは、上述の実施例2におけるTEM象の観察結果とも一致するものであった。
【0123】
[結晶子サイズLa分布]図11には、6種類の水素吸蔵炭素材料について得られた炭素網面の7nm以下の結晶子サイズLa分布を示す。図11AはFePc/HT800、図11BはCo/KB/HT900、図11CはCoPc/HT1200、図11DはCoPc/HT1000、図11EはCoPc/HT800、図11FはCoPc/HT600の結果をそれぞれ示す。図の横軸は結晶子サイズLa(nm)、縦軸は各結晶子サイズLaの割合(%)を示す。
【0124】
図11A〜Fに示すように、6種類いずれの水素吸蔵炭素材料についても、1〜5nmの結晶子サイズLaの割合が10%以上、且つ5〜7nmの割合が40%以下であった。すなわち、各水素吸蔵炭素材料は、多くの活性点を有する炭素構造を有していると考えられた。
【0125】
また、CoPc/HT600については、結晶子サイズLaが大きくなるにつれて割合が単調に減少するのに対し、他の5種類については、分布がより乱れているといった分布傾向の違いも認められた。なお、図示はしていないが、ケッチェンブラックについて同様の解析を行った場合には、炭素網面の7nm以下の結晶子サイズLa分布において、5nm以上の割合が60%以上という結果が得られた。
【0126】
[炭素網面の積層数分布]図12には、6種類の水素吸蔵炭素材料について得られた炭素網面の積層数分布を示す。図12AはFePc/HT800、図12BはCo/KB/HT900、図12CはCoPc/HT1200、図12DはCoPc/HT1000、図12EはCoPc/HT800、図12FはCoPc/HT600の結果をそれぞれ示す。図の横軸は積層数、縦軸は各積層数の割合(%)を示す。
【0127】
図12Fに示すように、600℃で炭素化されたCoPc/HT600については、3以上の積層数の割合は35%未満と小さかったのに対し、図12A〜Eに示すように、800℃以上の温度で炭素化された他の5種類の水素吸蔵炭素材料については、3以上の積層数の割合が45%以上と顕著に大きかった。すなわち、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料においては、CoPc/HT600に比べて炭素網面の積層構造がより発達していることが確認された。
【実施例4】
【0128】
上述の実施例1で得られた6種類の水素吸蔵炭素材料について、高圧H−NMR測定を行った。
【0129】
[NMR測定]α−アルミナを分散媒として用いた。すなわち、水素吸蔵炭素材料の試料を2重量%となるようにα−アルミナで希釈し、高圧NMR石英製試料管に入れた。次いで、排気・ガス導入用の配管およびバルブを取り付けた後、温度573K、最終到達圧力1×10−4torrで24時間脱気処理した。脱気処理後の試料は減圧状態のまま速やかにプローブに設置し、水素を3.0MPaとなるまで導入して測定に供した。H−NMR測定は高圧温度可変型プローブを装着したFT−NMR装置(Apollo Pulse NMR Spectrometer、38MHz、Tecmag)を用いて行った。パルス系列は90°パルス法とした。測定温度は293Kとした。なお、α−アルミナのみを試料として用い、水素を3.0MPaとなるまで導入して同様の測定を行った場合に観測される水素のピーク位置を基準(0ppm)として化学シフトを評価した。また、次の2種類の炭素材料も準備し、同様にNMR測定を行った。
【0130】
[カーボンブラック/Co]カーボンブラック(Vulcan(登録商標) VX72、Cabot Corporation)に、2重量%となるように金属コバルト粉末を加え、乳鉢で混合した。こうして、カーボンブラックと金属コバルトとの混合粉体からなる炭素材料(以下、「CB/Co」という。)を得た。
【0131】
[活性炭]アルカリ賦活された活性炭である多孔質カーボン(マックスソーブ(登録商標)、カーボンテック株式会社)を炭素材料(以下、「AC」という。)として準備した。
【0132】
さらに、コンピュータにインストールされた解析ソフトウェアIGOR(Wave Metrics社)を用いて、得られたNMRスペクトルに含まれるピークの分離を行った。この解析では、重なり合ったピークをローレンツ型の基本波形の重ね合わせにより近似し、更に最小二乗法を用いてピーク強度、ピーク半値幅、ピーク位置を最適化することによりピーク分離を行った。
【0133】
[NMRスペクトル]図13A〜Iには、上述の実施例1で得られた6種類の水素吸蔵炭素材料、本実施例4で準備した2種類の炭素材料及び対照となるアルミナ溶媒の9種類の試料について、シグナルをフーリエ変換して得られたNMRスペクトルの一例を示す。図13AはFePc/HT800、図13BはCo/KB/HT900、図13CはCoPc/HT1200、図13DはCoPc/HT1000、図13EはCoPc/HT800、図13FはCoPc/HT600、図13GはCB/Co、図13HはAC、図13Iはアルミナ溶媒の結果をそれぞれ示す。図の横軸は化学シフト(ppm)、縦軸はシグナルの強度を示す。
【0134】
まず、図13Iに示すように、炭素材料を含有しないアルミナ溶媒に導入した水素は、水素ガスのみの場合と同様に単一のシャープなピーク(以下、「ピーク1」という。)を示した。このピーク1は、基準周波数からのずれが比較的小さいこと、及び幅が狭いことから、試料内の空隙に存在する気体状の水素(水素ガス)に起因するものと考えられた。
【0135】
同様に、図13Hに示すように、活性炭からなるACに導入された水素もまた、単一のピーク1を示した。さらに、図13Fに示すように、600℃で炭素化されたCoPc/HT600に導入された水素もまた同様に、単一のピーク1を示した。
【0136】
一方、図13Gに示すように、カーボンブラックと金属コバルトとの混合粉末からなるCB/Coに導入された水素は、化学シフトの異なる2種類のピークを示した。すなわち、上述のピーク1に加え、高磁場側にシフトしたブロードなピーク(以下、「ピーク3」という。)が観測された。このピーク3は、化学シフトが比較的大きいこと、及び幅が非常に広いことから、強磁性種である金属コバルトと相互作用した水素に起因すると考えられた。
【0137】
これらに対し、図13A〜Eに示すように、800℃以上の温度で炭素化された5種類の水素吸蔵炭素材料に導入された水素は、化学シフトの異なる3種類のピークを示した。
【0138】
すなわち、上述のピーク1及びピーク3に加え、高磁場側にシフトした第三のピーク(以下、「ピーク2」という。)が観測された。これは、5種類の水素吸蔵炭素材料は、他の炭素材料には見られない態様で水素を吸蔵していることに起因するものと考えられた。
【0139】
そして、このピーク2は、CoPc/HT600では観測されなかったことから、当該ピーク2の有無は、上述したような当該CoPc/HT600と他の5種類の水素吸蔵炭素材料との構造上の違いを反映しているものと考えられた。
【0140】
[ピーク2の特定]図14には、上述の3種類のピークが観測された5種類のうち4種類の水素吸蔵炭素材料(FePc/HT800、Co/KB/HT900、CoPc/HT1000、CoPc/HT800)及び2種類のピークが観測されたCB/Coについて、ピーク2及びピーク3の半値幅(ppm)及びピークトップの位置(ppm)を評価した結果を示す。なお、Co/KB/HT900については、ピーク3の半値幅及びピークトップを特定できなかった。
【0141】
図14に示すように、ピークトップ位置については、ピーク2が−6.9〜−24.8ppmの範囲、ピーク3が−8.5〜−20.5ppmの範囲であり、これらの範囲は重複していた。一方、ピーク半値幅については、ピーク2が5.9〜19.6ppmの範囲であったのに対し、ピーク3が39.8〜56.2ppmであった。すなわち、ピーク2は、ピーク3に比べて半値幅が顕著に小さいピークとして特定された。
【実施例5】
【0142】
上述の実施例4において3種類のピークが観測された5種類の水素吸蔵炭素材料の1つであるCoPc/HT800について、各ピークの温度依存性を評価した。すなわち、CoPc/HT800の試料について、測定温度として173K、296K、373Kという異なる3種類を採用した以外は上述の実施例4と同様にして、NMR測定を行った。
【0143】
図15には、各温度で測定されたピーク1、ピーク2及びピーク3のピーク強度を示す。図の横軸は測定温度(K)、縦軸はピーク強度を示す。また、白抜き丸印はピーク1、黒塗り三角印はピーク2、白抜き菱形はピーク3の結果を示す。
【0144】
図15に示すように、ピーク1及びピーク3は、測定温度が上昇するにつれてピーク強度が直線的に低下した。すなわち、測定温度が上昇するにつれて、ピーク1及びピーク3を示す態様での水素の吸蔵量は直線的に低下した。
【0145】
これに対し、ピーク2のピーク強度は、測定温度が上昇しても低下せず、ほぼ一定であった。すなわち、測定温度が上昇しても、ピーク2を示す態様での水素の吸蔵量は維持された。このことは、ピーク2を示す水素の吸蔵態様が、ピーク1及びピーク3に示される態様とは異質の、温度依存性が極めて低い、安定したものであることを示している。
【実施例6】
【0146】
上述の実施例4においてピーク2が観測された5種類の水素吸蔵炭素材料のうちFePc/HT800及びCo/KB/HT900の2種類と、ピーク1のみが観察されたACと、について、水素吸蔵能を評価した。
【0147】
すなわち、各炭素材料の水素吸蔵量をJIS H 7201に従い、測定した。まず、試料管に炭素材料の試料約1gを挿入し、18時間以上真空排気した。その後、試料管にHeガスを導入し、試料体積を測定した。3時間以上真空排気することでHeガスを取り除いた。そして、水素ガスを20MPaとなるまで試料管に導入し、水素吸蔵量を測定した。なお、測定温度は−30℃(243K)とした。
【0148】
図16は、各炭素材料の水素吸蔵量(重量%)、比表面積(m/g)及び単位表面積あたりの水素吸蔵量(g/m)を評価した結果を示す。なお、FePc/HT800及びCo/KB/HT900の比表面積はBET法により測定した。ACの比表面積は、市販品の説明書に記載された値とした。
【0149】
図16に示すように、FePc/HT800及びCo/KB/HT900の単位表面積あたりの水素吸蔵量は、それぞれ1.25×10−3g/m及び1.23×10−3g/mであり、ACのそれに比べて約2.5倍と高かった。
【0150】
これらFePc/HT800及びCo/KB/HT900における水素吸蔵能の高さは、他の炭素材料では見られない上述のピーク2で示される態様による水素吸蔵を反映したものと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸蔵した水素の一部がH−NMR測定において化学シフト−5〜−30ppmの位置に半値幅30ppm以下のピークを示す
ことを特徴とする水素吸蔵炭素材料。
【請求項2】
炭素構造におけるa軸方向の平均結晶子サイズLaが5.0nm以下、且つc軸方向の平均結晶子サイズLcが0.5nm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載された水素吸蔵炭素材料。
【請求項3】
炭素構造の平均(002)面間隔d002が0.340〜0.450nmである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された水素吸蔵炭素材料。
【請求項4】
X線回折図における炭素構造の(002)面反射に対応するピーク面積とアモルファス構造に由来するピーク面積との合計面積に対する前記(002)面反射に対応するピーク面積の割合が10%以上である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された水素吸蔵炭素材料。
【請求項5】
樹脂と金属とを含有する原料を炭素化して得られる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された水素吸蔵炭素材料。
【請求項6】
前記原料を700℃以上で炭素化して得られる
ことを特徴とする請求項5に記載された水素吸蔵炭素材料。
【請求項7】
樹脂と金属とを含有する原料の炭素化を複数の条件で行い、
前記複数の条件のうち、吸蔵した水素の一部がH−NMR測定において化学シフト−5〜−30ppmの位置に半値幅30ppm以下のピークを示す炭素材料が得られる条件を選択し、
前記選択された条件で前記原料を炭素化して水素吸蔵炭素材料を製造する
ことを特徴とする水素吸蔵炭素材料の製造方法。
【請求項8】
樹脂と金属とを含有する原料の炭素化を複数の条件で行い、
前記複数の条件のうち、炭素構造におけるa軸方向の平均結晶子サイズLaが5.0nm以下、且つc軸方向の平均結晶子サイズLcが0.5nm以上である炭素材料が得られる条件を選択し、
前記選択された条件で前記原料を炭素化して水素吸蔵炭素材料を製造する
ことを特徴とする水素吸蔵炭素材料の製造方法。
【請求項9】
前記複数の条件のうち、さらに炭素構造の平均(002)面間隔d002が0.340〜0.450nmである前記炭素材料が得られる条件を選択する
ことを特徴とする請求項8に記載された水素吸蔵炭素材料の製造方法。
【請求項10】
前記複数の条件のうち、さらにX線回折図における炭素構造の(002)面反射に対応するピーク面積とアモルファス構造に由来するピーク面積との合計面積に対する前記(002)面反射に対応するピーク面積の割合が10%以上である前記炭素材料が得られる条件を選択する
ことを特徴とする請求項8又は9に記載された水素吸蔵炭素材料の製造方法。

【図7】
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【図9】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【図13H】
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【図13I】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−275140(P2010−275140A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128324(P2009−128324)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第35回炭素材料学会年会 開催日:2008年12月4日 主催者名:炭素材料学会
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】