説明

水素透過膜構造体の製造方法

【課題】水素透過膜を含む構造体を、比較的簡単な方法によって低コストで効率良く製造できる方法を提供する。
【解決手段】下記の工程を含む水素透過膜構造体の製造方法:(1)プラスチックフィルム上に、無電解めっき法によってパラジウム膜又はパラジウム合金膜を形成する工程、(2)パラジウム膜又はパラジウム合金膜上に、めっき用レジストからなるレジストパターンを形成する工程、(3)めっき用レジストパターンが形成されたパラジウム膜又はパラジウム合金膜上に、湿式めっき法によって金属層を形成する工程、(4)めっき用レジストを剥離し、プラスチックフィルムを除去する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素透過膜構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素ガスは燃料電池用燃料として注目を浴びている。現在一般的には、水素ガスは、化石燃料を原料として、水蒸気改質法や部分酸化法を組み合わせた方法によって製造されている。しかしながら、化石燃料から製造された水素ガスには、反応副生成物として一酸化炭素や二酸化炭素が含まれており、更に、化石燃料自体に含まれる硫黄等も水素ガス中に不純物として存在する。これらの水素以外の成分は、燃料電池に重大な影響を及ぼすため、水素ガスから除去することが必要である。そのための手段としては、水素分離膜を用いた不純物の分離方法が有効な方法と考えられる。
【0003】
この様な目的に用いられる水素分離膜の製法としては、セラミックや金属の多孔体上にパラジウム又はパラジウム合金の皮膜を減圧プラズマ溶射法で形成する方法(下記特許文献1参照)、微細孔を有する非導電性多孔質体の表面に無電解めっき法でパラジウム薄膜を形成し、次いで電気めっき法でパラジウムを積層する方法(下記特許文献2参照)等が提案されている。しかしながら、プラズマ溶射による成膜方法は、設備的にコストが高く、成膜速度も遅いため、工業的には非常に高価な成膜法となる。また、電気めっきによるパラジウム膜の形成方法では、形成されるパラジウム膜は、電気めっき特有の高い応力を有するために密着性が不十分となり易く、厚膜化が困難である。しかも、多孔質セラミックや金属を支持体としているため、ピンホールが発生し易くパラジウムの薄膜化が困難である。
【0004】
また、ガラス、アルミニウム等を仮支持体として用い、この上にパラジウム又はパラジウム合金膜を形成した後、その上に支持体を形成し、仮支持体を除去して水素透過膜構造体を製造する方法も提案されている(下記特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、仮支持体として用いるガラス、アルミニウム等に柔軟性がないために、連続して水素透過膜を製造することは困難である。また、パラジウム及びパラジウム合金膜の成膜法として、アークイオンプレーティング法、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法、電気めっき等が記載されているが、アークイオンプレーティング法、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法等の方法は、いずれも減圧プラズマ溶射法と同様に設備的コストが高く、成膜速度が遅いという欠点がある。また、電気めっき法についても、前述したように、形成されるめっき皮膜は高い応力を有し、しかも、仮支持体が、不導体の場合には、導電化が必要となるので、処理が煩雑である。
【特許文献1】特開平05-078810号公報
【特許文献2】特開平05-137979号公報
【特許文献3】特開2002-292259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、水素透過膜を含む構造体を、比較的簡単な方法によって低コストで効率良く製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、柔軟性を有するプラスチックフィルムを基材として用い、この上に無電解めっき方法によってパラジウム膜又はパラジウム合金膜を形成し、その後、形成されたパラジウム膜又はパラジウム合金膜上に、一定のパターンでめっき用レジスト層を形成した後、湿式めっき方法で金属層を形成する方法によれば、連続した処理工程により、パラジウム膜又はパラジウム合金膜を含む構造体を容易に製造できることを見出した。そして、得られた構造体からレジスト層を剥離した後、基材を除去することによって、比較的簡単な処理方法によって、湿式めっき法で形成された金属層を支持体として、この上に、パラジウム膜又はパラジウム合金膜が形成された水素透過膜構造体が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記の水素分離膜構造体の製造方法を提供するものである。
1. 下記の工程を含む水素透過膜構造体の製造方法:
(1)プラスチックフィルム上に、無電解めっき法によってパラジウム膜又はパラジウム合金膜を形成する工程、
(2)パラジウム膜又はパラジウム合金膜上に、めっき用レジストからなるレジストパターンを形成する工程、
(3)めっき用レジストパターンが形成されたパラジウム膜又はパラジウム合金膜上に、湿式めっき法によって金属層を形成する工程、
(4)めっき用レジストを剥離し、プラスチックフィルムを除去する工程。
2. プラスチックフィルムが、表面粗さRaが1μm以下、厚さが50〜500μmの耐薬品性の良好な樹脂製フィルムである上記項1に記載の方法。
3. レジストパターンをフォトリソグラフィー法によって形成する上記項1又は2に記載の方法。
4. レジストパターンが、円形又は多角形のレジスト膜が規則的に配列した形状であって、パラジウム膜又はパラジウム合金膜の面積の15〜40%の範囲を占めるものである上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 湿式めっき法によって形成される金属層が、銅、ニッケル、コバルト、鉄又はこれらの金属を含む合金からなる層である上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
6. ロール状に巻き取った長尺プラスチックフィルムを用いて、少なくとも一部の工程を連続的に行う上記項1〜5のいずれかに記載の方法。
【0008】
以下、本発明の水素分離膜構造体の製造方法の概略を示す図1を参照して本発明方法について詳細に説明する。
【0009】
まず、本発明の水素分離膜構造体の製造方法では、プラスチックフィルムからなる基材上に、無電解めっき法によってパラジウム膜又はパラジウム合金膜を形成する。
【0010】
基材としては、表面の平滑性が良好であって、柔軟性、耐薬品性等を有するプラスチックフィルムを用いることが好ましい。
【0011】
具体的には、表面の平滑性については、表面粗さがRa=1μm程度以下であることが好ましい。この様な平滑性を有するプラスチックフィルムを用いることによって、均一で平滑な表面状態のパラジウム膜又はパラジウム合金膜を形成することができる。また、基材の剥離も容易となる。
【0012】
また、プラスチックフィルムの柔軟性が良好であれば、長尺プラスチックフィルムであっても、巻き取りが可能となる。このため、長尺プラスチックをロール状に巻き取って用いることによって、連続した水素分離膜の製造が可能となる。この様な目的に使用できる柔軟性を有するためには、プラスチックフィルムの厚さは、50〜500μm程度であることが好ましい。
【0013】
更に、プラスチックフィルムは、後述する各処理工程において使用する薬品に対する耐薬品性を有する樹脂からなるフィルムであることが好ましい。この様な耐薬品性の良好なプラスチックの具体例としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマーなどを例示できる。
【0014】
パラジウム膜及びパラジウム合金膜は、いずれも水素透過膜として機能するものであり、本発明では無電解めっき法によって形成する。
【0015】
パラジウム合金の種類については特に限定的ではなく、水素透過膜として機能する公知のパラジウム合金であればよい。例えば、パラジウム−銀合金、パラジウム−銅合金、パラジウム−金合金等を例示できる。パラジウム合金におけるパラジウム以外の金属の割合は、パラジウム−銀合金の場合には、銀の含有率が20〜25重量%程度が好ましく、パラジウム−銅合金の場合には、銅の含有率は、38〜42重量%程度が好ましい。
【0016】
パラジウム膜及びパラジウム合金膜を形成するために用いる無電解めっき液としては、公知の無電解めっき浴を用いることができる。例えば、無電解パラジウムめっき液としては、ギ酸を還元剤として用いた無電解パラジウムめっき液、ヒドラジンを還元剤として用いた無電解パラジウムめっき液等を用いることができる。無電解パラジウム合金めっき液としては、例えば特開2006-083446号公報等に記載されている無電解パラジウム−銀合金めっき液等を用いることができる。
【0017】
プラスチックフィルム上に無電解パラジウムめっき又は無電解パラジウム合金めっきを行う方法については常法に従えばよい。通常は、プラスチックフィルムの表面に無電解めっき用触媒を付与した後、無電解めっき液中にプラスチックフィルムを浸漬すればよい。
【0018】
触媒付与方法についても常法に従えば良く、例えば、触媒金属としてPdを付与する方法として、塩化第一スズを基本とする溶液で処理した後、Pdを含む水溶液で処理することによって触媒を導入する方法(センシタイザー・アクチベータ法)、PdとSnからなるコロイド溶液で基材を処理し、次に活性化処理を行うことによって触媒を導入する手法(キャタリスト・アクセレータ法)、イオン状のパラジウムを含む溶液で処理を行い、次いで還元剤等で活性化を行う手法(イオン触媒法)等を適用できる。
【0019】
無電解めっきの条件については、使用する無電解めっき液の種類に応じて、公知の条件に従えばよい。
【0020】
パラジウム膜又はパラジウム合金膜からなる水素透過膜は、ピンホール等が存在しない程度以上の膜厚が必要であるが、膜厚が厚すぎると水素透過速度が低下して、水素透過膜としての性能が悪くなる。通常は、1μm〜10μm程度の厚さとすることが好ましく、2〜8μm程度とすることがより好ましい。
【0021】
次いで、パラジウム膜又はパラジウム合金膜からなる水素透過膜上に、めっき用レジストによるレジストパターンを形成する。後述する電気めっき工程では、レジスト膜が存在しない部分にのみ水素透過膜の支持体となる金属が析出する。このため、レジスト膜を形成した部分は、最終的にレジストの剥離と基材の除去を行うことによって、支持体の開口部となり、水素が透過する部分となる。
【0022】
レジスト膜の形成方法については特に限定的ではないが、連続した処理を行うためには、パラジウム膜又はパラジウム合金膜からなる水素透過膜上に、フォトリソグラフィー法によって、目的とするパターンを有するレジスト膜を形成することが好ましい。例えば、パラジウム膜又はパラジウム合金膜からなる水素透過膜上に、ポジ型又はネガ型の感光性樹脂(光硬化性樹脂)皮膜を形成し、この上に目的とするレジストパターンに対応する開口部を有するフォトマスクを重ねた後、紫外線等の光照射を行って感光性樹脂皮膜を硬化させ、その後、現像処理を行って未硬化部分の樹脂を溶解させればよい。
【0023】
この様な目的で用いる感光性樹脂については公知の材料から適宜選択すればよく、例えば、通常使用されているドライフィルムや液体レジスト等の形態で用いることができる。
【0024】
感光条件、現像条件等については、使用する感光性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0025】
形成するレジストのパターンについては、特に限定的ではないが、レジスト膜部分が最終的に金属支持体の開口部となるので、目的とする開口部の形状に応じて決めればよい。通常は、水素分離膜の表面積の15〜40%程度の範囲にレジスト膜を形成することが好ましい。
【0026】
レジストパターンの一例として、図2に示す正六角形等の多角形又は円形のレジスト膜が規則的に並んだ形状のレジストパターンを挙げることができる。この場合、各々のレジスト膜部分の面積は500〜20000μm2程度が好ましく、1000〜10000μm2程度がより好ましい。このためには円形のパターンでは直径を約12.5〜80μm程度とすればよく、35〜113μm程度とすることが好ましい。また、正六角形のパターンでは、正六角形の一辺を20〜124μm程度とすればよく、28〜88μm程度とすることが好ましい。各レジスト部分の面積が小さくなると、現像の際に現像ムラや未現像等の不具合が起こりやすく、各レジスト部分の面積が大き過ぎる場合には、水素透過膜の機械的強度が低下し、水素透過膜の破れが生じる場合があるので好ましくない。
【0027】
上記した方法で感光性樹脂を用いて皮膜を形成し、露光、現像を行って目的とするレジストパターンを形成した後、湿式めっき法によって、パラジウム膜又はパラジウム合金膜上に金属層を形成する。この金属層は、最終的に目的とする水素透過膜の支持体となるものである。金属層を形成する金属の種類については特に限定的ではなく、水素透過膜としての使用の際に悪影響がなく、且つ十分な強度有する金属であればよい。例えば、ニッケル、銅、コバルト、鉄等の金属、これらの金属を含む合金等を用いることができる。
【0028】
支持体となる金属層は、電気めっき法、無電解めっき法などの湿式めっき法によって形成する。湿式めっき法によれば、高コストの設備を要することなく、比較的短時間で目的とする金属層を形成することができる。
【0029】
電気めっき及び無電解めっきの条件については、形成する金属層の種類に応じて公知の条件に従えばよい。
【0030】
金属層の厚さは、水素透過膜構造体に十分な強度を付与できる厚さとすれば良いが、厚すぎるとコストや軽量化の点で不利となる。通常は、10〜200μm程度とすることが好ましく、20〜100μm程度とすることがより好ましい。
【0031】
上記した方法で金属層を形成した後、レジスト膜を除去する。レジスト膜の除去方法は、常法に従えば良く、例えば、水酸化アルカリを含むレジスト剥離剤、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド等の有機アルカリを含む剥離剤等、レジスト膜の種類に応じて、公知の剥離剤を使用できる。剥離方法は、常法に従って、浸積法、スプレー法等を適用できる。剥離条件も、使用する剥離剤の種類に応じて適宜決めればよい。
【0032】
レジスト膜を剥離した後、基材として用いたプラスチックフィルムを、パラジウム膜又はパラジウム合金膜からなる水素透過膜から除去する。除去方法としては、機械的に剥離する方法でもよいが、この方法では、水素透過膜部分に余分な力が加わることによって破損する恐れがある。このため、150〜200℃程度の温風、ヒーター等によって加熱する方法が好ましく、この方法によれば、水素透過膜を破損することなく、プラスチックフィルムを容易に剥離することができる。
【0033】
上記した方法で得られる水素透過膜構造体は、開口部を有する金属層を支持体として、この上にパラジウム膜又はパラジウム合金膜からなる水素透過膜が形成されたものである。この様な構造の水素透過膜構造体は、膜厚の薄い金属層を支持体とし、これに非常に薄い水素透過膜が形成されたものであり、ロール状に巻き取ることが可能である。このため、基材のプラスチックフィルムとしてロール状等の柔軟な長尺フィルムを用いる場合には、形成される水素透過膜構造体を連続的に巻き取ることによって、水素透過膜構造体の連続的な製造が可能となる。また、得られた水素透過膜構造体は、規定の寸法に切断して板状とすることも可能である。
【0034】
また、上記工程において、水素透過膜から剥離されたプラスチックフィルムは、ロール状に巻き取って再度本発明方法における基材として用いることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、簡単な処理工程によって、優れた性能を有する水素透過膜構造体を得ることができる。特に、基材として、柔軟性のある長尺プラスチックフィルムを用いる場合には、例えば、これをロール状として用いることによって、金属支持体上に水素透過膜が形成された構造体を連続的に製造することができる。このため、本発明方法は、優れた性能の水素透過膜構造体を低コストで製造できる方法として、非常に有用性の高い方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0037】
実施例1
基材として、ロール状に巻き取られた厚さ125μm、幅20cmの長尺ポリイミドフィルム(商標名:ユーピレックス、宇部興産製)を用い、以下の三工程によって水素透過膜構造体を作製した。
【0038】
(1)第1工程
図3に示す処理装置を用いて、ポリイミドフィルムに対して、表面調整、Pd触媒付与、活性化、及び無電解パラジウムめっきの各処理を連続的に行い、パラジウムめっき皮膜を形成した。パラジウムめっき皮膜が形成されたポリイミドフィルムは、連続的にロールに巻き取った。形成されたパラジウムめっき皮膜の膜厚は、約5μmであった。
【0039】
第一工程の各処理の条件は以下の通りである・
1.表面調整:
市販の表面調整液(商標名:OPC−370コンディクリーン、奥野製薬工業(株)製)中に60℃で3分間浸漬した。
2.触媒付与:
市販のPd含有触媒液(商標名:OPC−80キャタリスト、奥野製薬工業(株)製)中に25℃で5分間浸漬した。
3.活性化:
市販のPd触媒用活性化液(商標名:OPC−505アクセレータ、奥野製薬工業(株)製)中に25℃で5分間浸漬した。
4.無電解パラジウムめっき:
市販の無電解パラジウムめっき液(商標名:パラトップ、奥野製薬工業(株)製)中に60℃で90分間浸漬した。
【0040】
(2)第2工程:
図4に示す処理装置を用いて、以下の方法で、連続処理によって、めっき用レジスト樹脂によるレジストパターンを形成した。
【0041】
レジスト膜形成用の感光性樹脂としては、厚さ50μmのネガ型感光型ドライフィルム(商標名:リストンFRA063:デュポンMRC社製)を用い、これを第1工程で形成されたパラジウムめっき皮膜に貼り付けた。次いで、図5に示すパターンの円形開口部を有するフォトマスクをドライフィルム上に置き、50mJ/cmの露光エネルギーで紫外線を10秒間照射して、ドライフィルムを露光させ、更に110℃で1分間熱処理して露光部分を硬化させた。次いで、現像処理として、1%炭酸ナトリウム水溶液中に30℃で40秒間浸漬して、未露光部分のドライフィルムを除去し、水洗、乾燥の工程を経て、ロールに巻き取った。この工程により、パラジウムめっき皮膜上に、円形のレジスト膜からなるめっき用レジストパターンを形成した。
【0042】
(3)第3工程:
図6に示す処理装置を用いて、以下の方法で、連続処理によって、電気Niめっき皮膜を形成し、その後レジスト剥離とポリイミドフィルムの除去を行った。処理工程は下記の通りである。
1.脱脂:
市販の浸漬脱脂液(商標名:DP−320クリーン、奥野製薬工業(株)製)中に45℃で1分間浸漬した。
2.酸活性:
市販の酸性活性化液(商標名:トップサン、奥野製薬工業(株)製)中に25℃で1分間浸漬した。
3.電気ニッケルめっき
下記組成のスルファミン酸ニッケルめっき液を用いて液温45℃、電流密度12A/dmの条件で20分間メッキを行った。
【0043】
スルファミン酸ニッケル 450g/L
塩化ニッケル 3g/L
ホウ酸 30g/L
pH 4.0
4,レジスト剥離
市販の剥離液(商標名:OPC−パーソリー20、奥野製薬工業(株)製)中に45℃で2分間浸漬した。
【0044】
上記した処理方法によって、電気Niめっきを行い、めっき用レジストを剥離し、洗浄、乾燥工程を経た後、250℃で10分間加熱することによって、熱衝撃を与えて基材として用いたポリイミドフィルムを剥離して、水素透過膜構造体を得た。ポリイミドフィルムを剥離した水素透過膜構造体については、一旦ロールに巻き取った後、所定の形状に切断して水素透過速度の測定を行った。剥離されたポリイミドフィルムは、巻き取った後、第1工程において、再度使用することができる。
【0045】
上記した方法によって、連続的な処理方法によって水素透過膜構造体が得られた。得られた水素透過膜構造体は、直径50μmの円形の開口部を有する開口率約15.7%、厚さ約50μmのニッケル層を支持体として、この上に厚さ約5μmのパラジウム膜が形成されたものである。得られた水素透過膜構造体の表面写真を図7に示す。図7から明らかなように、本発明方法で得られた水素透過膜構造体は、表面が平滑で非常に均一な状態となっている。
【0046】
上記した方法で得られた水素透過膜構造体を用いて、下記の方法で水素透過性試験及びリーク率の測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0047】
水素透過性試験
上記した方法で得られた水素透過膜構造体について、水素透過速度の測定を行った。水素透過速度はJIS-K7126に記載の等圧法を改良して行った。
【0048】
まず、上記方法で得た水素透過膜構造体を測定用セルに設置して、セル内を2室に分離した。次いで、上記セルの片側から水素ガスを、反対側からは窒素ガスを等圧で流し、測定温度までセルを加熱した。その際の窒素ガス中に含まれる水素ガスの濃度をガスクロマトで測定して水素透過係数を求め、その係数から水素透過速度を算出した。
【0049】
リーク率測定試験
リーク率の測定は水素透過速度測定と同様にJIS-K7126に記載の方法で差圧法を改良して行った。
【0050】
まず、上記方法で得た水素透過膜構造体を測定用セルに設置して、セル内を2室に分離した。次いで、セル内を真空ポンプで100Paまで減圧した。次に、片側に窒素ガスを充満させ、低圧側の圧力変動を確認した。圧力変動がある場合は窒素ガスがリークしていることを示す。尚、リーク率とは、上記試験を5回行い、窒素ガスがリークした回数を測定回数で割った値である。
【0051】
更に、上記した水素透過性試験を1000時間連続して行った後、再度、上記方法でリーク率を測定し、1000時間使用後のリーク率とした。
【0052】
【表1】

【0053】
以上の結果から明らかなように、本発明方法によって得られた水素透過膜構造体は、十分な水素透過速度を有し、且つ水素以外の気体の漏れのない優れた性能を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の水素分離膜構造体の製造方法の概略を示す図面。
【図2】レジストパターンの一例を示す図面。
【図3】実施例1で用いたパラジウムめっき皮膜を形成する装置の概略図。
【図4】実施例1で用いたレジストパターンを形成する装置の概略図。
【図5】実施例1で形成したレジストパターンを示す図面。
【図6】実施例1で用いた電気Niめっき以降の工程で用いる装置の概略図。
【図7】実施例1で得られた水素透過膜構造体の表面写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む水素透過膜構造体の製造方法:
(1)プラスチックフィルム上に、無電解めっき法によってパラジウム膜又はパラジウム合金膜を形成する工程、
(2)パラジウム膜又はパラジウム合金膜上に、めっき用レジストからなるレジストパターンを形成する工程、
(3)めっき用レジストパターンが形成されたパラジウム膜又はパラジウム合金膜上に、湿式めっき法によって金属層を形成する工程、
(4)めっき用レジストを剥離し、プラスチックフィルムを除去する工程。
【請求項2】
プラスチックフィルムが、表面粗さRaが1μm以下、厚さが50〜500μmの耐薬品性の良好な樹脂製フィルムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レジストパターンをフォトリソグラフィー法によって形成する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
レジストパターンが、円形又は多角形のレジスト膜が規則的に配列した形状であって、パラジウム膜又はパラジウム合金膜の面積の15〜40%の範囲を占めるものである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
湿式めっき法によって形成される金属層が、銅、ニッケル、コバルト、鉄又はこれらの金属を含む合金からなる層である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ロール状に巻き取った長尺プラスチックフィルムを用いて、少なくとも一部の工程を連続的に行う請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−62213(P2008−62213A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245464(P2006−245464)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(594059293)下関鍍金株式会社 (5)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】