説明

水酸基を有する低重合度ジオルガノシロキサンの製造方法

【課題】未反応のアルコキシ基残存量の少ない、分子鎖両末端に水酸基を有する低重合度の直鎖状ジオルガノポリシロキサンを製造する方法を提供する。
【解決手段】(a)一般式(1):
Si(R1)(R2)(OR3)2 (1)
〔式中、R1及びR2は、おのおの独立に、置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基であり、R3は、メチル基又はエチル基である〕
で表されるジアルコキシシランを、該ジアルコキシシランが有するアルコキシ基に対して1.0倍モル以上の量の水を含有するpH1.0〜6.0の酸水溶液と混合し、生成するアルコールを除去しながら加水分解及び縮合を行う工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物に金属酸化物を添加する工程と
を有することを特徴とする、両末端に水酸基を有する低重合度直鎖状ジオルガノシロキサンの製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸基を有する低重合度のオルガノシロキサン、特に、分子鎖両末端のケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)を含有する、直鎖状の低重合度ジオルガノポリシロキサンの簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子鎖両末端にケイ素原子に結合した水酸基(即ち、シラノール基)を有する直鎖状オルガノシロキサンはシリコーンゴムコンパウンドを製造する際の分散剤(ウエッター)として有効であり、種々のかかるオルガノシロキサン分散剤が用いられている。分散剤としての効能は一定質量当りの水酸基の含有量に比例し、水酸基の含有量が大きいシロキサン、即ち両末端基にシラノール基を有する直鎖状オルガノシロキサンは、重合度が小さいほど分散効果が大であり、使用量が少なくて済む。またシリコーンゴムコンパウンドの加工性を損なわないという点でも有効である。
【0003】
両末端に水酸基を有する低重合度の、即ち低重合度の直鎖状オルガノシロキサンを合成する方法はいろいろ研究がなされており、実験室的な製造方法としては、緩衝液等を用いて溶液を中性の状態に保ちつつアルコキシシラン等を加水分解する方法が知られているが、この方法は工業的には困難である。
【0004】
またジメトキシシランを過剰の中性の蒸留水と混合し還流させる方法も知られているが、収率が低い。現在、上記の直鎖状オルガノシロキサンは、工業的には、両末端に塩素原子を有する直鎖状のオルガノクロルシロキサン又はクロルシランを、環状体にならないよう弱アルカリ性水溶液で加水分解することにより製造されている。オルガノクロルポリシロキサンを、酢酸を用いてアセトキシ化し、これを加水分解する方法も知られている。しかしこの方法では、加水分解を完全に行なうことが困難であり、生成物中にアセトキシ基が残るという問題がある。このようなオルガノポリシロキサンは、シリコーンゴムコンパウンド製造用の分散剤としては好ましくない。
【0005】
特許文献1には、D3(ヘキサメチルシクロトリシロキサン)、メタノール、蟻酸、及び水を反応させて、メトキシ基が多少残留したシラノール末端基を有する低重合度の直鎖状ポリオルガノシロキサンを合成する方法が記載されているが、比較的高価なD3を使用するためにコストがかかる。更に、D単位(即ち、ジメチルシロキシ単位)が3個より少ないシラノール末端基を有するジオルガノシロキサンは生成し得ない。そのため、生成物の水酸基含有量に限界がある。
【0006】
特許文献2には、ジハロテトラシロキサンを、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドのようなエポキシ系化合物の存在下で加水分解することを含む、両末端に水酸基を含有する直鎖状ジヒドロキシオルガノテトラシロキサンの製造方法が記載されている。この方法もジハロテトラシロキサンの原料として比較的高価なD3を使用するというコスト上の問題や、生成物がテトラシロキサンに限定されるという制約があることに加えて、溶媒が低沸点であるため、静電気着火といった安全上の問題があった。
【0007】
更に、末端に水酸基を有するオルガノポリシロキサンの製造方法を開示する文献として、特許文献3があり、ここでは酸性溶液を用いてアルコキシシランを加水分解及び縮合し、次いで金属酸化物を添加してpHを調節した後、水及び副生したアルコールを除去する方法が記載されている。しかしこの方法では、分子鎖末端に水酸基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンが得られるが、末端に加水分解されなかったアルコキシ基を有するポリシロキサンが多量に残存するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,925,285号
【特許文献2】米国特許第5,057,620号
【特許文献3】特許第2652307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、アルコキシシランを加水分解することにより水酸基を有するオルガノシロキサンを製造する方法において、比較的高価なD3等の出発原料を使用することなく、かつ、未反応のアルコキシ基残存量が、従来技術の方法に比べて格段に少ない、分子鎖両末端に水酸基を有する低重合度の直鎖状ジオルガノシロキサンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アルコキシシランの加水分解工程において、生成するアルコールを常圧下又は減圧下で、好ましくは減圧下で除去しながら加水分解反応させることにより、残存するアルコキシ基の少ない、分子鎖両末端に水酸基を有する低重合度のジオルガノシロキサンが得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、
(a)一般式(1):
Si(R1)(R2)(OR3)2 … (1)
〔式中、R1及びR2は、おのおの独立に、置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基であり、R3は、メチル基又はエチル基である〕
で表されるジアルコキシシランを、該ジアルコキシシランが有するアルコキシ基に対して1.0倍モル以上の量の水(HO)を含有するpH1.0〜6.0の酸水溶液と混合し、生成するアルコールを常圧下又は減圧下で除去しながら加水分解及び縮合を行う工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物に金属酸化物を添加する工程と
を有することを特徴とする、両末端に水酸基を有する低重合度直鎖状ジオルガノシロキサンの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、高価な原料を使用することなく、比較的安価なジメトキシジメチルシラン等のジアルコキシシランから、分子鎖両末端に水酸基を有し且つアルコキシ基の残存が従来の方法に比べて極めて少なく、かつ低重合度の、即ち、2〜10量体の直鎖状ジオルガノシロキサンを簡単に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ジアルコキシシラン>
本発明においては、出発原料として使用されるジアルコキシシランは、前記一般式(1)で表されるジオルガノジアルコキシシランである。このジアルコキシシランは比較的安価であり、工業的にこれを出発原料として用いることは経済的に極めて有利である。
【0014】
前記一般式(1)において、R1及びR2は、通常、炭素原子数1〜12、好ましくは炭素原子数1〜8、より好ましくは炭素原子数1〜6の、置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;β−フェニルエチル基等のアラルキル基;並びにこれらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一部が、フッ素等のハロゲン原子やシアノ基で置換された基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基やシアノエチル基等を挙げることができる。中でもメチル基、ビニル基、フェニル基が好適である。R3は独立にメチル基又はエチル基であり、二つのR基は同一でも異なっていてもよい。
【0015】
本発明において、出発原料として特に好適に使用されるジオルガノジアルコキシシランとしては、これに限定されるものではないが、例えばジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、ジメチルメトキシエトキシシラン、フェニルメチルメトキシエトキシシラン、メチルビニルメトキシエトキシシラン等を例示することができる。上述したジアルコキシシランは1種単独で、又は2種以上の組合せで使用し得る。ただし、複数種のジアルコキシシランを混ぜて使用する場合には、異なるジアルコキシシランの加水分解速度が相違するため、均一に反応しない可能性があるので注意が必要である。
【0016】
<酸水溶液>
本発明の方法において、ジアルコキシシランの加水分解によりアルコキシ基はシラノール基(即ち、ケイ素原子に結合した水酸基)に転換されるが、通常生成したシラノール基の大部分は生成とほぼ同時に縮合する。したがって、これらの加水分解と縮合反応とはほぼ同時に並行して進行すると言ってよい。この加水分解及び縮合反応は、pHが1.0〜6.0、好ましくは3.0〜5.0の酸水溶液を用いて行なわれる。このpHが低すぎると加水分解が急激に生じるため、低重合度のものを得ることが困難となり、また環化が優先的に生じることにもなり不適当である。一方、pHが高すぎると加水分解に必要な触媒的作用が得られず、加水分解が進行しない。pHを調整するために使用される酸性化合物としては、塩化水素、硫酸、硝酸等の無機酸、及び蟻酸、酢酸等の有機酸を挙げることができるが、中でも塩化水素を水溶液(塩化水素水、即ち、塩酸)として用いるのが最も好適である。また用いる酸水溶液の量は、該水溶液中の水(HO)の量が、前記アルコキシシラン中のアルコキシ基に対して1.0倍モル以上(通常、1.0〜2.0倍モル)、好ましくは1.0〜1.5倍モルとする。この量が上記範囲よりも少ないと、アルコキシ基が完全に加水分解せず、わずかしか水酸基が生成しない。多すぎる場合は、過剰に残存する水の除去に特別の工程が必要となる。
【0017】
<反応>
上記アルコキシシランと上記酸水溶液を混合することにより加水分解及び縮合の反応が進行し、アルコール及び水が生成する。このアルコールを、減圧下または常圧下、好ましくは減圧下で、除去しながら加水分解及び縮合を行うことにより、未反応のアルコキシ基含有量の少ない両末端に水酸基を有するジオルガノシロキサンを得ることができる。従って、加水分解反応により生成するアルコールの除去は、上記酸水溶液を金属酸化物により中和する前に行われる。アルコールを除去しながらの上記反応は、減圧下で又は常圧下で、加水分解により生成するアルコールの種類にもよるが、通常60〜100℃、好ましくは60〜70℃に加熱して行う。反応は、反応系を攪拌下で行うことが反応を均一に進行させる上で好ましい。反応時間は通常60〜600分、好ましくは120〜360分である。
【0018】
<金属酸化物>
本発明の(b)工程において使用される金属酸化物は、反応停止剤として作用するものであり、この金属酸化物の添加により、(a)工程で使用された前記酸水溶液の酸性化合物が中和され、前記アルコキシシラン又はその部分加水分解物の加水分解及び縮合反応が停止される。かかる金属酸化物を添加しないと、生成したオルガノシロキサンの水酸基が酸及びアルカリに不安定であり、さらに縮合が生じるため、目的とする低重合度のジオルガノシロキサンを得ることができない。
【0019】
この金属酸化物としては、例えば酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化カルシウム等を1種単独または2種以上組み合わせて使用することができるが、好ましくは酸化マグネシウムが使用される。金属酸化物の量は、(a)工程の加水分解で使用した酸水溶液中の酸性化合物の量の1.0倍モル以上であり、過剰に使用しても差し支えないが、通常1.0〜100倍モル、好ましくは1〜10倍モルの量で使用される。
【0020】
上記金属酸化物の添加後、過剰の金属酸化物及び生成した中和塩をろ過等により除去して、目的とするジオルガノシロキサンを得ることができる。
また水の除去は、上記ろ過工程の前でも後でもいずれで行ってもよいが、通常は上記金属酸化物等の中和剤を添加した後、ボウ硝等の脱水剤を添加して脱水した後、同時にろ過することが望ましい。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
温度計、攪拌子を備え、窒素置換した200mlのフラスコに、ジメチルジメトキシシラン100g(0.832mol)、及びpHを4.5に調整した塩酸(即ち、HCl水溶液)32.9g(水(H2O)として1.828mol)を加え、二相系を形成させ、この二相系混合物を室温下で激しく攪拌して混合した。攪拌を開始してから10分後に混合物は均一となった。この混合物を常圧下で60〜70℃に加熱して生成するメタノールを除去しながら340分間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酸化マグネシウム1.0g(0.0248mol)を加え、30分間攪拌して、触媒である塩酸を中和した。ついで過剰の酸化マグネシウム、生成した中和塩等をろ過により除去した。こうして無色透明の油状物質55.6gを得た。この油状物質のGC(ガスクロマトグラフィー)測定結果を表1に示す。
【0022】
[実施例2]
ジメチルジメトキシシランに添加する、pH4.5に調整した塩酸の量を44.9g(H2Oとして2.494mol)とした以外は実施例1と同様の操作を行った。無色透明の油状物質51.4gを得た。この油状物質のGC測定結果を表1に示す。
【0023】
[実施例3]
ジメチルジメトキシシランに添加する、pH4.5に調整した塩酸の量を44.9g(H2Oとして2.494mol)とし、ジメチルジメトキシシランと塩酸の混合物の反応を減圧下で60〜70℃に加熱して240分間の条件でメタノールを除去しながら行った以外は実施例1と同様にして無色透明の油状物質54.5gを得た。この油状物質のGC測定結果を表1に示す。
【0024】
[比較例1]
温度計、攪拌子を備え、窒素置換した200mlのフラスコに、ジメチルジメトキシシラン100g(0.832mol)、及びpHを4.5に調整した塩酸32.9g(H2Oとして1.828mol)を加え、二相系を形成させ、この二相系混合物を室温下で激しく攪拌して混合した。攪拌を開始してから10分後に混合物は均一となった。この混合物を常圧下で60〜70℃に加熱して340分間反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、酸化マグネシウム1.0g(0.0248mol)を加え、30分間攪拌した後、反応溶液をろ過した。次いで反応液から、減圧下でメタノールを除去し、無色透明の油状物質54.8gを得た。この油状物質のGC測定結果を表1に示す。表1中の数値は質量%を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示す結果から、実施例1〜3におけるように加水分解を行いながらメタノールを除去した場合、比較例1におけるように金属酸化物の添加後にメタノールを除去した場合と比べて、残存するアルコキシ基の少ない、両末端に水酸基を有する低重合度のジオルガノシロキサンが得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の両末端に水酸基を有する直鎖状オルガノシロキサンはシリコーンゴムコンパウンドを製造する際の分散剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(1):
Si(R1)(R2)(OR3)2 … (1)
〔式中、R1及びR2は、おのおの独立に、置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基であり、R3は、メチル基又はエチル基である〕
で表されるジアルコキシシランを、該ジアルコキシシランが有するアルコキシ基に対して1.0倍モル以上の量の水を含有するpH1.0〜6.0の酸水溶液と混合し、生成するアルコールを除去しながら加水分解及び縮合を行う工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物に金属酸化物を添加する工程と
を有することを特徴とする、両末端に水酸基を有する低重合度直鎖状ジオルガノシロキサンの製造方法。
【請求項2】
上記ジアルコキシシランがジメチルジメトキシシランである請求項1に係る製造方法。
【請求項3】
上記金属酸化物が酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化カルシウム又はこれらの2種以上の組み合わせである請求項1又は2に係る製造方法。
【請求項4】
上記(a)工程で、生成するアルコールの除去を減圧下または常圧下で行う、請求項1〜3のいずれか1項に係る製造方法。
【請求項5】
上記(b)工程で添加される金属酸化物が(a)工程で使用した酸水溶液中の酸性化合物量の1.0倍モル以上である、請求項1〜4のいずれか1項に係る製造方法。

【公開番号】特開2010−270027(P2010−270027A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121772(P2009−121772)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】