説明

水難溶性陰イオン伝導性樹脂

【課題】 耐熱性が高く、加えて、高い陰イオン伝導性、触媒や隔膜への高い接着性等を有し、陰イオン交換膜を用いた固体高分子形燃料電池における触媒電極層の接合樹脂として使用して、高い温度で発電可能で高出力とすることができる陰イオン伝導性樹脂、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、芳香族環に式(1)
−(CH−N (X) (1)
(ここで、nは3〜6の整数であり、R、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R、RおよびRの全部または一部が互いに連結して環を形成していても良く、Xは対アニオンでありzはXの価数の逆数である)
で示されるアンモニウム塩を持つセグメントと、該アンモニウム塩を持たず水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の陰イオン伝導性樹脂及び該陰イオン伝導性樹脂の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池を構成する触媒電極層の形成時または接合時に使用される陰イオン伝導性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜として陽イオン交換型電解質膜(以下、陽イオン交換膜ともいう)を使用した陽イオン交換膜型燃料電池の研究・開発が活発に行われてきたが、近年は固体高分子電解質膜として陰イオン交換型電解質膜(以下、陰イオン交換膜ともいう)を使用した陰イオン交換膜型燃料電池が提案されている(特許文献1〜6)。
【0003】
陰イオン交換膜型燃料電池は、陽イオン交換膜型燃料電池にはない、次のような利点を有する。
(i)反応場が強塩基性のため、安価な遷移金属触媒が使用可能となる。
(ii)触媒種の選択枝が広がるため、電池の高出力化や様々な燃料の使用が可能となる。
(iii)電解質中の水酸化物イオンの移動方向が燃料の酸化剤ガス極への透過方向と逆方向であるために酸化剤ガス極への燃料透過が抑制され、燃料と酸化剤ガスとの直接反応によるロスを防止し、出力電圧の低下を抑えることが可能である。
【0004】
また、陰イオン交換膜の原料として安価な炭化水素系の材料を用いて、コストダウンを図ることも可能である。
【0005】
陰イオン交換膜型燃料電池には陰イオン交換膜の他に、燃料や酸化剤が反応を起こす電極触媒が必要であり、触媒で生じた電位を外部に取り出す電子伝導体も必要である。さらに、その触媒に陰イオンを輸送し、かつ触媒を陰イオン交換膜に固定するための陰イオン伝導性の触媒電極層形成用接合樹脂が必要である。これらの電極触媒、電子伝導体、触媒電極形成用接合樹脂を成型したものが触媒電極層であり、この触媒電極層を陰イオン交換膜に固定したものが膜−電極接合体である。
【0006】
陰イオン交換膜型燃料電池に用いられる陰イオン交換膜には、電池の内部抵抗を低くするために高いイオン電導性が求められ、燃料が酸化剤と直接反応して出力電圧が低くなることを抑えるために燃料非透過性が、燃料電池の組み立てや取扱いの点で機械的強度が、そしてコストを抑えるために低コストであることが、それぞれ求められる。
【0007】
一方、触媒電極形成用接合樹脂には、内部抵抗を抑えるための高いイオン電導性や低コストであることの他に、陰イオン交換膜とは異なる特性、すなわち、燃料や酸化剤が触媒に届くよう燃料透過性やガス透過性の高いこと、燃料や水に溶解しないこと、陰イオン交換膜との接着性が高いこと、さらに、均一な触媒電極層を作成するために溶剤への溶解性が求められる。
【0008】
さて、一般的に燃料電池の作動温度が高いほど大きな電池出力を得ることができる。用いる材料の耐熱性が高いほど燃料電池を高温で運転することが可能となるが、陽イオン交換膜型燃料電池と比べ、陰イオン交換膜型燃料電池は耐熱性に劣り、作動温度を高くすることができなかった。これは、より高出力が要求されるために電池運転温度の高温化が必要な用途、例えば自動車用駆動電源等で顕著である。
【0009】
これまで、陰イオン交換膜型燃料電池の陰イオン交換膜の耐熱性を向上させる検討は、特許文献1などでなされているが、本発明者らの検討によれば、陰イオン交換膜の耐熱性を向上させるだけでは燃料電池としての十分な耐熱性の向上に繋がらないことが明らかとなり、その原因はもうひとつの構成材料である触媒電極形成用接合樹脂の耐熱性が高くないことにあることが判明した。
【0010】
これまでの陰イオン交換膜型燃料電池に使用されている陰イオン伝導性の触媒電極形成用接合樹脂としては、芳香族ポリエーテルスルホンと芳香族ポリチオエーテルスルホンの共重合体のクロロメチル化物をアミノ化して得られるもの(特許文献11実施例および特許文献12実施例)、またはクロロメチル化スチレンを有するブロックコポリマーをアミンで四級化したポリマー(特許文献13)などを挙げることができる。しかし、これらの触媒電極形成用接合樹脂についてはその耐熱性向上のための検討はなされていなかった。
【0011】
ここで、これらの触媒電極形成用接合樹脂において、その陰イオン交換基である4級アンモニウム基に着目すると、何れの場合においても実質的にクロロメチル基をアミノ化して導入されており、その陰イオン交換基は芳香環に対してベンジル位で結合している。一般的に、ベンジル位は反応性が高いため、求核攻撃を受けやすいことが知られており、水酸化物イオンによる求核攻撃に弱いと考えられる。例えば非特許文献1によれば、ベンジルアンモニウム塩が酢酸中、酢酸ナトリウムといった比較的温和な条件でアンモニウム塩が外れて酢酸エステルを与えている。
【0012】
一方、吸着剤や脱塩、水処理、電気透析などに用いられる一般的な架橋陰イオン交換樹脂としては、上記ベンジル位をアミノ化したタイプではない樹脂が報告されている。たとえば、架橋ポリビニルアルコールをハロアルデヒドでアセタール化し、アミンで四級化した樹脂(特許文献14)、同じくグリシジルエーテル化し、アミンで四級化した樹脂(特許文献15)、フッ素系陽イオン交換樹脂を改質して四級アンモニウム塩とした樹脂(特許文献16から18)、架橋ポリスチレンをハロアルキル化し、アミンで四級化した樹脂(特許文献7から10)、アクリル酸エステルと3級アミンを持つアルコールとのエステル交換により3級アミンを持つポリマーを得、これを四級化した樹脂(特許文献19、20)、芳香族ポリエーテルケトンをハロアルキル化してアミンで四級化した樹脂(特許文献21)、ポリビニルピリジンを四級アンモニウム塩を持つアルキルハライドでさらに四級化した樹脂(特許文献22)、芳香族ポリエーテルスルホンをハロアルキル化し、モノアミンあるいはポリアミンで四級化した樹脂(特許文献23、24)、アミノアルコキシスチレンと架橋性モノマーを重合して得た、フェニルエーテルを持つアミノ基含有架橋重合体を有機ハロゲン化物で四級化した樹脂(特許文献25)、ハロアルキルスチレン樹脂を相転位を持つアミンで四級化した樹脂(特許文献26)等がそれである。また、燃料電池用陰イオン交換膜として、架橋ハロアルキルスチレン樹脂を四級化した例(特許文献1)も知られている。
【0013】
しかし、これらの樹脂を触媒電極層形成用の接合樹脂として用いることは、架橋ポリマーであるため溶剤への溶解しない点(特許文献1、7から10、14、15)、フッ素系ポリマーが撥水撥油性であることから、触媒や陰イオン交換膜への接着性が低い点とコストが高い点(特許文献16から18)、で採用しがたい。前者の溶剤への溶解性を架橋構造を省くことで達成しようとすると、多くのイオン交換基を持つために水へ溶解するようになり、やはり触媒電極形成用接合樹脂として用いることは困難である。アクリル酸エステル(特許文献19、20)はアルカリ中でケン化されることが予想され、芳香族ポリエーテルケトン(特許文献21)あるいは芳香族ポリ(チオ)エーテルスルホンの系(23、24)では、実質的に(チオ)エーテル側にしかイオン交換基が導入されないことから、陰イオン交換容量が不足し、陰イオン伝導性に難がある。ポリビニルピリジンの系(特許文献22)は、プロトン化されたピリジンのpKaが5と、他のプロトン化されたアルキルアミンのpKa(10程度)に比べて小さい、すなわちプロトンが離れやすい、従ってアルキル基が離れやすいことから、アルカリ中での耐熱性に不安が残る。同様に、フェニルエーテルを持つ系(特許文献25)では、フェノキシイオンが脱離しやすいことから、アルカリ中での耐熱性に不安がある。ハロアルキルスチレン樹脂を相転位を持つアミンで四級化した樹脂(特許文献26)は、相転位を持つアミンを持つことで相対的に分子量が大きくなり、陰イオン伝導性に対して不利になっている。なお、特許文献27において、特許文献4のポリマーが「陽イオン」伝導性触媒電極層に配合されているが、その目的はアノードから溶出する金属の錯イオン(陰イオンである)を捕捉することであり、本発明の目的である「陰イオンを伝導する」こととは正反対の目的である。
【0014】
以上のように、陰イオン交換膜を用いた固体高分子形燃料電池においては、触媒電極層の接合樹脂として使用する陰イオン伝導性樹脂の耐熱性を向上させて、高い温度で発電可能として高出力とすることが大きな課題である。加えて、高い陰イオン伝導性や低い水への溶解性、触媒や隔膜への高い接着性、コスト、溶剤への溶解性についての要求も満たす必要がある。
【0015】
そこで、本発明者らは、非架橋であるがゆえに溶剤に溶解し、相分離構造によってイオン伝導度と水への難溶性を両立しやすく、フッ素系に比べて接着性やコスト面に優れる、特許文献13に記載の、芳香族環に対してベンジル位で4級アンモニウム基が結合しているスチレンを有するブロックコポリマー系について、4級アンモニウム基と芳香族環との間のアルキル基の鎖長を伸ばして耐熱性を向上させることを考えた。
【0016】
4級アンモニウム基と芳香族環との間のアルキル基の鎖長を伸ばしたスチレン系ポリマーを得る方法としては、クロロメチルスチレンをマグネシウムと反応させてグリニャール試薬とし、該グリニャール試薬をジハロゲノアルカン等の増炭剤と反応させて炭素数2以上のハロゲン化アルキル基を持つスチレンモノマーを合成し、重合した後にアミンで四級化する方法(特許文献8)、ブロモスチレンをグリニャール試薬と反応させて炭素数2以上のハロゲン化アルキル基を持つスチレンモノマーを合成し、重合した後にアミンで四級化する方法(特許文献28)、クロロメチルポリスチレンにアルキレン鎖を導入した後、該アルキレン鎖に臭化水素を付加して臭化高分子化合物を得、該臭化高分子化合物とアミン化合物とを反応させ、四級化する方法(特許文献29)などが提案されている。
【0017】
しかし、特許文献8、28に従って、炭素数2以上のハロゲン化アルキル基を持つスチレンモノマーを合成し、これを使用してブロック重合体を製造しようとしても、このモノマーはアニオン重合条件下ではハロゲン化アルキルが先に反応してしまうので重合ができず、また、このモノマーを先にアミンと反応させてアンモニウム塩としたモノマーはアニオン重合溶媒に溶解しないので、この場合もポリマーは得られない。
【0018】
また、特許文献8、28のアルキル基を伸ばす手法を、ブロックコポリマー系の接合樹脂に適用することは容易ではない。すなわち、原料のブロックポリマーのベンゼン環を、従来通りクロロメチル化、あるいはクロロ化してマグネシウムと反応させてグリニャール試薬を作ろうとすると、隣接するクロロメチル基や異なる高分子鎖のクロロメチル基とのカップリング反応によって、グリニャール試薬が失活する、あるいは架橋して不溶ポリマーとなるため、目的とする樹脂は得られない
さらに、特許文献29に従って、クロロメチル化したブロックポリマーを、アリルマグネシウムハライドによって該ブロックポリマーにアルキレン基を導入し、これに臭化水素を付加させた場合、末端臭素化物のほかに内部臭素化物が生成してしまい、望むポリマーは得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開2009/081931号パンフレット
【特許文献2】特開2009−152075号公報
【特許文献3】特開2009−173898号公報
【特許文献4】特開2009−143975号公報
【特許文献5】特開2009−093998号公報
【特許文献6】特開2009−091580号公報
【特許文献7】特公平02−042542号公報
【特許文献8】特開平04−349941号公報
【特許文献9】特開2000−212306号公報
【特許文献10】特開2001−002738号公報
【特許文献11】特開平11−273695号公報
【特許文献12】特開平11−135137号公報
【特許文献13】特開2008−226614号公報
【特許文献14】特開昭58−011046号公報
【特許文献15】特開2001−040032号公報
【特許文献16】特開昭60−084313号公報
【特許文献17】特開昭61−098708号公報
【特許文献18】特開昭63−042389号公報
【特許文献19】特開平02−219801号公報
【特許文献20】特開平02−283702号公報
【特許文献21】特開平05−140298号公報
【特許文献22】特表2001−525720号公報
【特許文献23】特開2003−038965号公報
【特許文献24】特開2003−096219号公報
【特許文献25】特開2009−227728号公報
【特許文献26】特開2009−140783号公報
【特許文献27】特開2009−026690号公報
【特許文献28】特開平11−060519号公報
【特許文献29】特開2009−62452号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Norman Rabjohn編、Organic Synthesis Collective Volume、第4巻、(米国)、John Wiley & Sons Inc.発行、1963年、582〜584ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上記のような従来技術の問題点を解決するものであり、耐熱性が高く、加えて、高い陰イオン伝導性や低い水への溶解性、触媒や隔膜への高い接着性、低コスト、溶剤への高い溶解性を有し、陰イオン交換膜を用いた固体高分子形燃料電池における触媒電極層の接合樹脂として使用して、高い温度で発電可能で高出力とすることができる陰イオン伝導性樹脂、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意研究を行ってきた。すなわち、従来から知られている触媒電極形成用陰イオン伝導性樹脂の前駆体ポリマーであるクロロメチル基を持ったブロックポリマーから効率よくアルキル基を伸ばす方法を見出し、上記の課題を良好に解決可能な、ブロック共重合体からなる陰イオン伝導性樹脂の開発に成功し、本発明を提案するに至った。
【0023】
すなわち、本発明は、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、芳香族環に式(1)
−(CH−N (X) (1)
(ここで、nは3〜6の整数であり、R、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R、RおよびRの全部または一部が互いに連結して環を形成していても良く、Xは対アニオンでありzはXの価数の逆数である)
で示されるアンモニウム塩を持つセグメントと、該アンモニウム塩を持たず水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の陰イオン伝導性樹脂である。
【0024】
また、本発明は、上記ブロック共重合体からなる陰イオン伝導性樹脂の製造方法、すなわち、保護基で水酸基が保護されたハロゲン化合物
【0025】
【化1】

【0026】
(ここで、Yは水酸基の保護基を示し、Halは塩素、臭素またはヨウ素を示し、nは式(1)と同義であり、xは1以上n−1以下の整数である。)
を、マグネシウムまたはアルキルリチウム化合物と反応させて、グリニャール試薬または有機リチウム化合物とし、該グリニャール試薬または有機リチウム化合物を、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、該芳香族環に式(3)
【0027】
【化2】

【0028】
(ここで、Hal’は塩素、臭素またはヨウ素を示し、xは1以上n−1以下の整数である(但し、nは式1と同義である。))
で示される置換基を有するセグメントと水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の樹脂と反応させ、水酸基の保護基を取り除いた後、水酸基をハロゲンまたはスルホン酸エステルに変換し、次いで3級アミンと反応させることを特徴とする陰イオン伝導性樹脂の製造方法である。
【0029】
また、上述の陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂である。
【0030】
さらに、有機溶媒及び上述の接合樹脂を含む触媒電極層形成用イオン伝導付与剤であり、加えて上述のイオン伝導性付与剤、電極触媒および溶媒を含有してなることを特徴とする固体高分子型燃料電池の触媒電極層形成用組成物である。
【0031】
該触媒電極層形成用組成物を使用した触媒電極層、および、該触媒電極層を備えた膜−電極接合体、および該膜−電極接合体を含む燃料電池についても本発明の範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の陰イオン伝導性樹脂は従来の陰イオン伝導性樹脂よりも高い耐熱性を有しており、この陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂を含むイオン伝導性付与剤を用いて作製した触媒電極層から構成された陰イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子形燃料電池は、従来の陰イオン交換膜を電解質として用いた固体高分子形燃料電池よりも、より高温で発電することが可能となるため電極触媒の活性が向上し、より高い電池出力を得ることができる。また、水難溶性であるにも拘らず、非架橋型であるため溶剤に溶解が可能であり、電極触媒粒子と混合した際に電極触媒粒子の分散性が高いイオン伝導性付与剤を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、芳香族環に式(1)
−(CH−N (X) (1)
(ここで、nは3〜6の整数であり、R、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R、RおよびRの全部または一部が互いに連結して環を形成していても良く、Xは対アニオンでありzはXの価数の逆数である)
で示されるアンモニウム塩を持つセグメントと、該アンモニウム塩を持たず水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の陰イオン伝導性樹脂は、4級アンモニウム基と芳香環との間に炭素数が3〜6のメチレン鎖が介されているため、4級アンモニウム基が芳香環にいわゆるベンジル位で結合している陰イオン伝導性樹脂よりも、該4級アンモニウム基の求核反応に対する安定性が高く、その耐熱性に大きく優れる。かくして、上記構成の本発明の陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂を用いた触媒電極層によれば、80℃以上の高温でも安定して発電することが可能になる。加えて、イオン伝導を担うアンモニウム塩構造を持つセグメントと、水への難溶性を示すセグメントがブロック共重合しているため、相分離構造をとり、イオン伝導度に優れ、水に難溶である。また、本発明の陰イオン伝導性樹脂は架橋構造を持たないので溶剤には可溶であり、フッ素系に比べて隔膜への接着性やコストに優れる。
【0034】
本発明の陰イオン伝導性樹脂は、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、芳香族環に前記式(1)で示されるアンモニウム塩を持つセグメントと、該アンモニウム塩を持たず水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の陰イオン伝導性樹脂である。
【0035】
芳香族環を持つブロック共重合体が架橋されていると、陰イオン伝導性樹脂を触媒電極層形成用接合樹脂として用いて触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤とする際に、溶媒に溶解しないため、電極触媒と混合した際に電極触媒との分散性が低くなり、電池出力の低下を招くことがある。
【0036】
また、側鎖に式(1)で示されるアンモニウム塩を持つセグメントと、該アンモニウム塩を持たず、水への難溶性を示すセグメントが、ブロック共重合ではなくランダム共重合している場合、該イオン伝導性樹脂のイオン伝導性を向上させるために該アンモニウム塩を持つセグメントを多くすると、該イオン伝導性樹脂の水への溶解性が上がり、触媒電極層形成用接合樹脂として用いた場合に触媒電極層から触媒電極層形成用接合樹脂が溶出してしまい、電池出力が不安定になる。逆に、水への溶解性を下げるために水への難溶性を示すセグメントを多くすると、該イオン伝導性樹脂のイオン伝導度が下がり、触媒電極層の抵抗が増大して電池出力が低くなる。
【0037】
本願発明において、陰イオン伝導性樹脂が水に難溶性であるとは、20℃の水に対する溶解度(飽和水溶液中の陰イオン伝導性樹脂の濃度)が1重量%未満、好適には0.8重量%以下であることとして定義する。本発明の陰イオン伝導性樹脂を固体高分子形燃料電池用の触媒電極層形成用接合樹脂として用いる場合、陰イオン伝導性樹脂は水に難溶である必要がある。水に溶解する場合には、固体高分子形燃料電池を構成して使用した際に触媒電極層から触媒電極層形成用接合樹脂として用いた陰イオン伝導性樹脂が溶出してしまい、電池出力が低くなる。
【0038】
前記式(1)におけるnは4級アンモニウム基と主鎖の芳香環の間のメチレン鎖の長さを示しており、3〜6の整数である。nが1の場合はいわゆるベンジル基でアンモニウム塩を形成するため、分解しやすく、nが2の場合は、ベンジル位の水素が活性水素として引き抜かれてアミンが脱離するために安定ではない。従って、耐熱性の向上効果を得るためにはnは3以上である。逆にnが7以上になると陰イオン伝導性樹脂のイオン交換容量が低くなる傾向があるため、水酸化物イオン等の陰イオン伝導性が低くなる。耐熱性および陰イオン伝導性の点から、nの長さは3〜5であるのが好ましい。
【0039】
前記式(1)におけるR、RおよびRは、それぞれ炭素数が1〜5の直鎖状または分岐状アルキル基から選定される限り特に限定はされず、R、RおよびRの全部または一部が互いに連結して環を形成していても良いが、イオン伝導性を重視した場合、イオン交換容量がより高くできるのでR、RおよびRの全てがイオン伝導性がより高くなるメチル基が好ましい。また、安定性を重視した場合、R、RおよびRの全部が互いに連結してN原子と環を形成するキヌクリジンのようにβ−水素がアンチペリプラナーにこない環系や、RおよびRが互いに連結してN原子と環を形成する、β水素がすべてメチル基で置換されている3,3,5,5−テトラメチルピペリジン環は、アンモニウム塩のホフマン分解が起こりにくいので好ましい。
【0040】
前記式(1)におけるXは対アニオンであって特に限定されず、zはXの価数の逆数である。例えば、Xが1価のアニオンであればzは1、2価のアニオンであればzは1/2等である。本発明の陰イオン伝導性樹脂を触媒電極層形成用接合樹脂として用いる場合、Xは水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオンであることが、電極触媒反応を阻害しないことから好適である。
【0041】
芳香族環に式(1)で示されるアンモニウム塩を持つセグメントを構成する骨格としては、特に限定されないが、アルカリ中で安定であって、合成あるいは入手が容易であるという観点から、ポリスチレン骨格が好適である。また、該セグメントを構成する重合単位の全てに式(1)で示すアンモニウム塩が置換されている必要は無い。良好なイオン伝導性を付与でき、且つ水に難溶であるという観点から、陰イオン伝導性樹脂中における芳香族環に式(1)で示されるアンモニウム塩を持つセグメントを構成する重合単位の導入量は、陰イオン伝導性樹脂のイオン交換容量が0.5〜4.0mmol/gとなるようにすることが望ましい。
【0042】
「式(1)で示されるアンモニウム塩を持たず、水に難溶なセグメント」を構成する骨格としては、水に難溶なセグメントを与える限り特に限定されないが、アルカリ中で安定であるので、炭化水素系ポリマー、たとえばポリオレフィンやビニル芳香族化合物などが使用でき、合成あるいは入手が容易であるという観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレンおよびこれらの共重合体(ポリブタジエンやポリイソプレンの重合体を水添した骨格が含まれる)等のポリオレフィンが好適である。
【0043】
両セグメントはジブロック共重合体を形成していても良いし、トリブロック共重合体でも、マルチブロック共重合体でも良いが、合成あるいは入手が容易であるという観点から、ジブロックあるいはトリブロック共重合体が好適である。
【0044】
個々のブロックの分子量(重合度)や、ブロック間の長さの比などは特に限定されず、ブロック共重合体の形式(ジブロック、トリブロック、マルチブロック)や重要視される物性(イオン伝導度、水難溶性)に応じて決定すればよい。
【0045】
上述の条件に適合するブロック共重合体を例示するならば、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEPS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEEPS)等があげられる。
【0046】
本陰イオン伝導性樹脂の製造方法は、以下の方法で製造することが効率的であり、かつコスト的にも好適である。
(i)下記式(2)で示される、保護基で水酸基が保護されたハロゲン化合物
【0047】
【化3】

【0048】
(ここで、Yは水酸基の保護基を示し、Halは塩素、臭素またはヨウ素を示し、nは式(1)と同義であり、xは1以上n−1以下の整数である。)
を、マグネシウムまたはアルキルリチウム化合物と反応させて、グリニャール試薬または有機リチウム化合物とし、
(ii) 該グリニャール試薬または有機リチウム化合物を、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、該芳香族環に式(3)
【0049】
【化4】

【0050】
(ここで、Hal’は塩素、臭素またはヨウ素を示し、xは1以上n−1以下の整数である(但し、nは式1と同義である。))
で示される置換基を有するセグメントと水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の樹脂と反応させ、水酸基の保護基を取り除いた後、水酸基をハロゲンまたはスルホン酸エステルに変換し、
(iii)次いで3級アミンと反応させてアンモニウム塩とする。
【0051】
まず、前記式(2)で示される、保護基で水酸基が保護されたハロゲン化合物を、マグネシウムまたはアルキルリチウム化合物と反応させて、グリニャール試薬または有機リチウム化合物とする。
【0052】
前記式(2)において、Yは水酸基の保護基であり、グリニャール試薬またはアルキルリチウム化合物と反応しなければなんら限定されない。例えばTeodora W. Greene著、Protective Groups in Organic Synthesis、Wiley & sons,1981年、第二章p.10−38に記載の、アセタール系、エーテル系等の保護基を使用することができる。中でも、酸性条件下で保護基が導入できるため、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、エトキシエチル基、t−ブチル基などが好適である。
【0053】
Halは塩素、臭素またはヨウ素を示し、入手の容易さと反応性とのバランスから臭素であることが好ましい。
【0054】
nは式(1)と同義であり、得られる陰イオン伝導性樹脂におけるアンモニウム塩基と主鎖の芳香環の間のメチレン鎖の長さを示しており、3〜6の整数である。
【0055】
xは以下で述べる芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体の芳香族環に置換している式(3)で示される置換基のメチレン鎖の長さを示しており、1以上n−1以下の整数である。
【0056】
式(2)で示される、保護基で水酸基が保護されたハロゲン化物は、ハロゲン化されたアルコールを前述の保護基に関する書籍等で公知の方法によって保護することで合成できる。
【0057】
ハロゲン化されたアルコールはメチレン鎖が2と3であれば塩素化物、臭素化物、ヨウ化物が、4であれば塩素化物が、アルドリッチ等より市販されている。メチレン鎖が5であるハロゲン化されたアルコールは、市販の5−ハロゲン化ペンタン酸エステルをエーテルなどの溶媒中、水素化ホウ素リチウムなどによって還元することで得られる。例えばKeinan,E.ら著、Synthesis、Theme発行、1991巻、1991年、641−643ページに合成方法が示されている。
【0058】
保護基を導入するための試薬は保護基の種類により、市販の試薬から選べばよい。メトキシメチル基であればジメトキシメタン、テトラヒドロピラニル基であればジヒドロピラン、テトラヒドロフラニル基であればジヒドロフラン、エトキシエチル基であればエチルビニルエーテル、t−ブチル基であればメチルt−ブチルエーテルなどが市販されている。
【0059】
原料のハロゲン化されたアルコールは強いアルカリ条件ではハライドが反応するため、中性から酸性条件下で保護することが望ましく、一般的には酸性条件下で、保護されるべきハロゲン化されたアルコールの水酸基を保護基となるべき化合物の二重結合に付加させることによりエーテルとする。メトキシメチル基やt−ブチル基は酸性条件下でエーテル交換反応により導入する。
【0060】
水酸基が保護されたハロゲン化物をグリニャール試薬にするは、保護された水酸基を持つ塩化物、臭化物またはヨウ化物とマグネシウムをエーテルやテトラヒドロフラン等の溶媒中で反応させることで調製することができる。ここで用いるマグネシウムは、通常酸化物皮膜で覆われており、この皮膜を取り除く前処理をして活性化する必要がある。前処理としては、公知の方法が使用でき、例えば溶媒中で攪拌してマグネシウム同士あるいはマグネシウムと攪拌翼や容器の壁とを衝突、あるいはこすり合わせることにより活性化したり、超音波振動により活性化したり、少量のヨウ素やジブロモエタン等の活性化剤と反応させることで活性化したりすることができる。また、2回目以降にグリニャール試薬を調整する場合、1回目で調整したグリニャール試薬の少量を保存しておき、このグリニャール試薬を活性化剤として使用することもできる。活性化されたマグネシウムは通常取り出すことなく、水酸基が保護されたハロゲン化物と反応させる。通常水酸基が保護されたハロゲン化物は使用する溶媒に溶解し、少量ずつ加えることが望ましい。このときの温度は、ハロゲンの種類にもよるが、通常室温以下で行ない、カップリング反応を抑制することが好ましい。温度が高すぎると、生成したグリニャール試薬があとから少量ずつ加えられた水酸基が保護されたハロゲン化物と反応してしまい、望むグリニャール試薬が得られない。
【0061】
水酸基が保護されたハロゲン化物を有機リチウム化合物とするには、保護された水酸基を持つハロゲン化物をブチルリチウムなどの有機リチウム化合物と、あるいは金属リチウムと反応させることで調整することができる。この場合も通常室温以下でカップリング反応を抑制することが好ましい。
【0062】
次いで、得られたグリニャール試薬または有機リチウム化合物を、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、該芳香族環に前記式(3)で示される置換基を有するセグメントと水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の樹脂と反応させる。
【0063】
式(3)において、Hal’は塩素、臭素またはヨウ素を示し、容易に合成可能であるという理由で塩素であることが好ましい。
【0064】
xは置換基のメチレン鎖の長さを示しており、1以上n−1以下の整数である。合成が容易である点から、xは1であることが好ましい。
【0065】
nは式(1)と同義であり、得られる陰イオン伝導性樹脂におけるアンモニウム塩基と芳香族環の間のメチレン鎖の長さを示しており、3〜6の整数である。
【0066】
芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、該芳香族環に前記式(3)で示される置換基を有するセグメントと水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の樹脂は、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、前記式(3)で示される置換基を導入可能な芳香族環を持つセグメントと水に難溶なセグメントとをもつ、水に難溶性の樹脂(以下、原料樹脂という)の芳香族環をハロアルキル化することにより得られる。
【0067】
該原料樹脂は、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、前記式(3)で示される置換基を導入可能な芳香族環を持つセグメントと水に難溶なセグメントをもち、水に難溶性のものであれば特に限定されない。該原料樹脂の前記式(3)で示される置換基を導入可能な芳香族環を持つセグメントとしては、アルカリ中で安定な骨格であって電子供与基を持つベンゼン環や電子吸引基で置換されていないベンゼン環を持つセグメントが、次のハロアルキル化反応が容易であることから好適であり、例えばポリスチレンからなるセグメントであることが合成あるいは入手が容易であるという観点からより好適である。また、水に難溶なセグメントとしては、やはりアルカリ中で安定な骨格であることが好ましく、炭化水素系ポリマー、例えばポリオレフィンやビニル芳香族化合物重合体などであることより好適である。合成あるいは入手が容易であるという観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレンおよびこれらの共重合体(ポリブタジエンやポリイソプレンの重合体を水添した骨格が含まれる)等のポリオレフィンからなるセグメントであることが更に好適である。
【0068】
両セグメントはジブロック共重合体を形成していても良いし、トリブロック共重合体でも、マルチブロック共重合体でも良いが、合成あるいは入手が容易であるという観点から、ジブロックあるいはトリブロック共重合体が好適である。
【0069】
個々のブロックの分子量(重合度)や、ブロック間の長さの比などは特に限定されず、ブロック共重合体の形式(ジブロック、トリブロック、マルチブロック)や重要視される物性(イオン伝導度、水難溶性)に応じて決定すればよい。
【0070】
該原料樹脂として、上述の条件に適合するブロック共重合体を例示するならば、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEPS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEEPS)等があげられる。
【0071】
該原料樹脂のハロアルキル化方法は公知の方法が使用でき、例えば溶媒中でパラホルムアルデヒドやトリオキサンとハロゲン化水素を反応させる、あるいは、クロロメチルメチルエーテルを反応させるなどして合成できる。この際、塩化スズなどのルイス酸を触媒として添加しても良い。例えば、特開2005−126532号公報に記載の、ルイス酸触媒の存在下、ホルムアルデヒドのアセタール化物とハロゲン化剤を併用し、反応系中でクロロメチル化剤を発生させることによりハロメチル化する方法や、日本化学会編、新実験化学講座19巻、高分子化学「 I」、初版(第3刷)、丸善株式会社、昭和53年5月20日(昭和60年5月10日)、257ページに記載の、塩化スズ触媒存在下でクロロメチルメチルエーテルを用いてハロメチル化する方法等を使用できる。
【0072】
上記式(3)で示される置換基を持つ樹脂に、前記式(2)で示される、保護基で水酸基が保護されたハロゲン化合物から得たグリニャール試薬または有機リチウム化合物を反応させ、水酸基の保護基を取り除いて水酸基を再生する。
【0073】
いずれの反応の場合も上記式(3)で示される置換基を持つ樹脂をテトラヒドロフランなどの溶媒に溶解し、グリニャール試薬または有機リチウム化合物にゆっくり滴下することにより反応させる。このときの温度は通常、室温から100℃程度でよく、反応時間は通常1時間から24時間程度でよい。
【0074】
保護基の脱離についても脱離基の種類によって公知の方法が使用でき、前記書籍に記載の方法を使用することができる。通常、酸による加水分解が用いられ、過剰量の希塩酸と接触させることが操作が簡便なため好ましい。
【0075】
再生された水酸基は、既存の方法でハロゲン化物あるいはスルホン酸エステルに転化する。
【0076】
例えばクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素溶媒中、塩化スルフリルや塩化チオニルと加熱することで、塩化物が得られ、三臭化燐などと反応させることで臭化物が得られる。また、トルエンスルホン酸クロライドやメタンスルホン酸クロライドを塩基存在下反応させてスルホン酸エステルにすることもできる。次のアンモニウム化が容易であることから、臭化物に転化することが好ましい。
【0077】
次に、3級アミンと反応させれば四級アンモニウム塩が得られる。
【0078】
反応は3級アミンと溶媒中で接触させることで行なうが、必ずしも樹脂が溶媒に溶解している必要はない。また、3級アミンは樹脂中のハロゲン化物またはスルホン酸エステルに対して過剰量使用することが好ましく、通常1.05モル倍から10モル倍、用いる3級アミンのコストを鑑みて不経済にならなければ100モル倍以上使用してもかまわない。反応温度は用いる3級アミンの沸点にもよるが、通常室温から100℃程度であり、場合によっては加圧してもかまわない。過剰に使用した3級アミンは、樹脂が水に不溶なので塩酸などで洗浄することで容易に取り除くことができる。
【0079】
このようにして得られた陰イオン伝導性樹脂は、通常、ハロゲン化物イオンやスルホン酸イオンを対イオンとする4級アンモニウム基を有するが、この陰イオン伝導性樹脂は水酸化物イオン伝導型の燃料電池用接合樹脂として用いることから、燃料電池の高出力を得やすいという点で4級アンモニウム基の対イオンを水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオンの何れかにイオン交換することが好ましい。
【0080】
4級アンモニウム基の対イオンをイオン交換する方法としては、従来公知の条件に従えばよい。例えば、水酸化物イオンにイオン交換する場合について詳述すれば、上記陰イオン伝導性樹脂を、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の水酸化アルカリ水溶液に浸漬することで行われる。水酸化アルカリ水溶液の濃度は、特に限定はされず、一般には0.1〜2mol・L−1程度であり、また浸漬温度は5〜60℃、浸漬時間は0.5〜48時間程度である。
【0081】
本発明の陰イオン伝導性樹脂は触媒電極層形成用接合樹脂、特に陰イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子形燃料電池の触媒電極層形成用接合樹脂として好適に用いることができる。本発明の陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂は、本発明の陰イオン伝導性樹脂のうちから選択された単一の樹脂から構成しても良いし、イオン交換容量、分子量、骨格等が異なる複数の本発明の陰イオン伝導性樹脂を混合して構成しても良く、これらは特に限定されるものではない。
【0082】
本発明の陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂は、固体高分子形燃料電池の触媒電極層に適用するために、以下に記載した溶媒の中から選択された単一の溶媒もしくは2種以上の溶媒に溶解ないしは分散させて、溶媒及び触媒電極層形成用接合樹脂を含む触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤として好適に使用することができる。この触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤は、具体的には触媒電極層の固体高分子電解質膜との接合面となる面への塗布や、電極触媒粒子を含む触媒電極層用組成物に配合するために使用する。
【0083】
触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を調整する際に使用する溶媒は特に限定されるわけではないが、溶解させる触媒電極層形成用接合樹脂のイオン交換容量、分子量、骨格の組成比等を鑑み、例えば下記に示す溶媒から適宜最適なものから選択すれば良い。
【0084】
例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類、アセトニトリル、マロンニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル‐2−ピロリジノン等のアミド類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、トルエン、ベンゼン等の炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素化炭化水素類等の溶媒が挙げられる。これらは一種単独でも良いし、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせる場合には、溶媒の一つとして水も使用することができる。
【0085】
本発明の触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤では、触媒電極層形成用接合樹脂の諸物性に合わせて最適な溶媒組成を適宜選択すれば、触媒電極層形成用接合樹脂が凝集することなく、均一に溶解ないしは分散する。均一な触媒電極層を形成するためには、本発明の触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤は、保存中に樹脂が沈降しない程度に分散していることが望ましく、溶解していることがさらに好ましい。溶媒に対する触媒電極層形成用接合樹脂の溶解性、分散性は、遠心分離法や加圧濾過法による不溶成分の分離や、作製したイオン伝導性付与剤の濁度測定等により確認できる。
【0086】
本発明の電極触媒層形成用イオン伝導性付与剤においては、触媒電極層形成用接合樹脂として上記陰イオン伝導性樹脂を用いているので、増粘することなく、触媒電極層形成用接合樹脂の高濃度化が可能であり、溶媒100重量部に対して、触媒電極層形成用接合樹脂5〜10重量部という高濃度領域であっても、触媒電極層形成用接合樹脂どうしが凝集することなく、均一に溶解したイオン伝導性付与剤が提供される。
【0087】
本発明の電極触媒層形成用イオン伝導性付与剤における触媒電極層形成用接合樹脂の濃度は特に限定されず、溶媒と触媒電極層形成用接合樹脂の組み合わせ、電極触媒に対する使用量、粘度、触媒電極層形成用組成物の作成時の浸透性等に応じて適宜決定される。また、粘度の調整は、触媒電極層形成用組成物の作成時の使用態様に応じて、溶媒の種類と使用量を適宜選択することで行われる。通常、触媒電極層形成用接合樹脂濃度は0.1重量%から30重量%、好ましくは1重量%から10重量%程度である。
【0088】
また、本発明の上記触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤には、触媒電極層形成用接合樹脂、溶媒に加えて、本発明の趣旨を損なわない範囲で、結着剤、粘度調整剤、酸化防止剤、熱安定化剤等の添加成分が含まれていても良い。これら添加成分が使用される場合には、溶媒100重量部に対して、添加成分の合計が5重量部、好ましくは1重量部以下となる割合で使用することが望ましい。
【0089】
本発明の触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤は、触媒電極層形成用接合樹脂、溶媒、ならびに所望に応じて加えられる添加成分を常法により混合することで、上記陰イオン伝導性樹脂を溶媒中に溶解ないしは分散して得られる。
【0090】
触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を製造する際の触媒電極層形成用接合樹脂の溶解ないしは分散時間は特に限定されず、溶解ないしは分散させる触媒電極層形成用接合樹脂のイオン交換容量、分子量、骨格の組成比と用いる溶媒の性質等から鑑みて適宜調整すれば良い。
【0091】
触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を製造する際の触媒電極層形成用接合樹脂の溶解ないしは分散温度もまた特に限定はされず、溶解ないしは分散させる触媒電極層形成用接合樹脂のイオン交換容量、分子量、骨格の組成比と用いる溶媒の性質等から鑑みて適宜調整すれば良いが、20℃〜180℃、特に40〜150℃であることが好ましい。また、用いる溶媒の沸点が好適な溶解ないしは分散温度よりも低い場合は、オートクレーブ等の加圧容器を用いて溶媒の沸点以上の温度に加熱することで加圧状態として溶解ないしは分散させても良い。
【0092】
本発明の触媒電極層用組成物は、上記触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤、電極触媒および溶媒を含有してなる。ここで、触媒電極層形成用組成物とは、固体高分子型燃料電池の触媒電極層を作製するための組成物(塗布液)を意味する。
【0093】
電極触媒粒子は、電極触媒がカーボンまたは金属酸化物などの電子導電体に担持されたもの、または、電極触媒の単体である。触媒の使用量を少なくできて、克触媒電極層の電子導電性を高くできるため、予め電子導電体に担持されたものを使用するのが好適である。
【0094】
電極触媒としては、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する物質であれば何ら限定されるものではないが、例えば白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム、あるいはこれらから成る合金などが挙げられる。
【0095】
電子導電体としては、電子導電性物質であれば何ら限定されるものではないが、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、活性炭、金属酸化物、などがあげられる。
【0096】
電極触媒の粒子サイズは特に限定されない。また、電子導電性物質に担持される電極触媒の量としては、有効に触媒活性が発揮できる量であれば特に制限されるものではないが、電極触媒担持量が電子導電性物質に対して、0.01〜9.0g−metal /g−carbоn、好ましくは0.02〜4.0g−metal /g−carbоnの範囲である。
【0097】
本発明の触媒電極層用組成物に用いられる溶媒としては、上記触媒電極層形成用陰イオン伝導性付与剤を溶解または分散する溶媒であればよく、特に限定されるものではないが、例えば下記に示す溶媒から適宜最適なものから選択すれば良い。
【0098】
例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類、アセトニトリル、マロンニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル‐2−ピロリジノン等のアミド類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、トルエン、ベンゼン等の炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素化炭化水素類等の溶媒が挙げられる。これらは一種単独でも良いし、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせる場合には、溶媒の一つとして水も使用することができる。
【0099】
本発明の触媒電極層用組成物は、必要に応じて分散剤、炭素繊維、結着剤、撥水剤などのその他の成分を含んでいてもよい。
【0100】
分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。本発明の触媒電極層用組成物に上記分散剤を添加すると、保存安定性および流動性に優れ、塗工時の生産性が向上する。
【0101】
炭素繊維としては、レーヨン系炭素繊維、PAN系炭素繊維、リグニンポバー系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等を用いることができ、好ましくは、気相成長炭素繊維である。触媒電極層用組成物に炭素繊維を添加すると、電極中の電子伝導性が向上することにより抵抗が低下し、電極中の細孔容積が増加することにより、燃料ガスや酸素ガスの拡散性が向上し、また、生成する水によるフラッディング等を改善でき、発電性能が向上する。
【0102】
結着剤や撥水剤に好適に使用できる樹脂を例示すれば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、スチレン・ブタジエン共重合体などの炭化水素系ポリマー、シリコン系ポリマー等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。結着剤は触媒電極層の物理的強度を高める効果があり、乾燥湿潤によって触媒電極層が伸長伸縮するストレスを緩和でき、長期にわたって優れた電池出力が得られる発電性能の安定性に寄与する。また、撥水剤は電池反応により生成する水を効率よく排出する効果により、発電性能の向上に寄与する。
【0103】
本発明の触媒電極層用組成物全量に対して、電極触媒粒子の含有量は0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%であり、触媒電極層形成用接合樹脂の含有量は0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%であり、溶媒の含有量は50〜99重量%、好ましくは70〜95重量%である。また、必要に応じて用いられる分散剤の含有量は0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%であり、炭素繊維の含有量は0〜20重量%、好ましくは1〜10重量%であり、結着剤の含有量は0〜25重量%、好ましくは0〜20重量%以下であることが好ましい。なお、上記成分の含有量の合計が、100重量%を超えることはない。
【0104】
上記触媒粒子の含有量が、上記範囲未満であると電極反応率が低下するために燃料電池出力が低下することがあり、上記範囲を超えると触媒電極層用組成物の粘度が増加し、転写基材への塗工時に塗りむらが発生することがあり、一定の燃料電池出力が得られる触媒電極層を安定的に得られないことがある。
【0105】
上記触媒電極層形成用接合樹脂の含有量が、上記範囲未満であるとイオン伝導度が低下するために抵抗が増大して、燃料電池の出力が低下することがあり、また電極触媒粒子を接合する能力が不十分になるために、触媒電極層を形成できないことがあり、上記範囲を超えると、触媒電極層中の細孔容積が減少する傾向があり、触媒電極層内のガス拡散性が低下することがある。
【0106】
上記溶媒の含有量が、上記範囲内にあると、発電に必要な触媒電極層中の細孔容積が十分確保できるとともに、触媒電極層を形成する際のハンドリングに好適である。
【0107】
上記分散剤の含有量が、上記範囲内にあると保存安定性に優れた電極触媒層用組成物が得られる。また、上記炭素繊維の含有量が、上記範囲未満であると、電極中の細孔容積の増加効果が低くなり、上記範囲を超えると、電極反応率が低下することがある。
【0108】
本発明の触媒電極層用組成物は、たとえば、上記各成分を従来公知の方法で混練することにより調製することができ、特に限定されないが、分散性を向上させるために、例えばマグネチックスターラー、超音波ホモジナイザー、遊星型ボールミル、ビーズミル、ナノマイザーなどの装置を使用する方法を挙げることができる。
【0109】
各成分の混合順序や温度などの条件は特に限定されないが、たとえば、全ての成分を混合して一定時間攪拌を行うか、分散剤以外の成分を混合して一定時間攪拌を行った後、必要に応じて分散剤を添加してさらに一定時間攪拌を行うことが好ましい。また、必要に応じて、溶媒の量を調整して、触媒電極層組成物の粘度を調整してもよい。
【0110】
本発明の触媒電極層は、上記触媒電極層形成用組成物により所望の形状に形成した後に溶媒を除去することにより得られる。例えば、上記触媒電極層形成用組成物を転写基材上に塗布し、溶媒を除去することにより得られる。すなわち、本発明の電極触媒層は、上記本発明の陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂および上記電極触媒粒子を含む。
【0111】
上記転写基材としては、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系ポリマーからなるシート、または、表面を離型剤処理したガラス板、金属板、ポリエチレンテレフタレートのシートなども用いることができる。
【0112】
また、上記触媒電極層形成用組成物を直接、陰イオン交換膜もしくはガス拡散層、カーボンペーパーに塗布して触媒電極層を形成してもよい。
【0113】
触媒電極層形成用組成物を転写基材上に塗布する方法としては、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ドクターブレード法、スクリーン印刷、スプレー塗布などが挙げられる。
【0114】
本発明の膜−電極接合体は、上記触媒電極層が固体高分子電解質膜の少なくとも片面に備えられている。
【0115】
本発明の膜−電極接合体の作製方法は、公知の方法が使用でき、触媒電極層の固体高分子電解質膜と接合する面及びその近傍に存在する、電極触媒及び触媒電極層形成用接合樹脂とが、陰イオン交換膜に接触するような方法であれば特に限定されない。
【0116】
方法を例示するならば、上記転写基材上に初めに触媒電極層形成用組成物を塗布して乾燥し、または乾燥前に、ホットプレス法などの方法により、固体高分子電解質膜、及びガス拡散層と共に接合して、膜−電極接合体とする方法、あるいは上記触媒電極層形成用組成物をガス拡散層に塗布して乾燥した後、または乾燥前に、ホットプレス法などの方法により固体高分子電解質膜と接合して、膜−電極接合体とする方法、あるいは触媒電極層形成用組成物を直接固体高分子電解質膜に塗布して乾燥し、または乾燥前に、ガス拡散層と接合して、膜−電極接合体とする方法、などが挙げられる。
【0117】
固体高分子電解質膜としては陰イオン伝導性の固体高分子電解質膜であれば何ら限定されることなく用いることができる。その中でも上記特許文献1〜6に記載の陰イオン交換膜を使用するのが好適であり、耐熱性が高く高温でも発電することが可能である特許文献1に記載の陰イオン交換膜を使用するのが最も好ましい。
【0118】
本発明のガス拡散層は特に限定されず、市販の材料を用いることができる。
【0119】
上記本発明の触媒電極層を備えた膜−電極接合体は、固体高分子電解質膜の両面に、触媒電極層とガス拡散層などから構成される電極を配置した材料であって、電極の外側をセパレーターにより挟持された構造の燃料電池単セルを構成したものを、積層して使用される。
【実施例】
【0120】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例に示す陰イオン伝導性樹脂、触媒電極層形成用接合樹脂、及び触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤の特性は、以下の方法により測定した値を示す。
【0121】
1)陰イオン交換容量
陰イオン伝導性樹脂を1−プロパノールに溶解した溶液をテフロン(登録商標)製のシャーレ上にキャストし、陰イオン伝導性樹脂からなる陰イオン交換膜を作製した。この膜を、0.5mol・L−1−NaCl水溶液に10時間以上浸漬し、塩化物イオン型とした後、0.2mol・L−1−NaNO3水溶液で硝酸イオン型に置換させ遊離した塩化物イオンを、硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。次に、滴定後の膜を0.5mol・L−1−NaCl水溶液に25℃下で4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した後に膜を取り出しティッシュペーパー等で表面の水分を拭き取った後、60℃で5時間減圧乾燥させその重量を測定した(Dg)。上記測定値に基づいて、イオン交換容量を次式により求めた。
【0122】
陰イオン交換容量=A×1000/D[mmol・g−1−乾燥重量]
2)陰イオン交換基の耐久性
対イオンを水酸化物イオン型にした後の陰イオン伝導性樹脂を、ポリテトラフルオロエチレン製容器に入れたものを2つ用意し、それぞれ50℃または90℃のオーブン中、イオン交換水中で500時間保持した後、それぞれの陰イオン交換容量を測定した。処理前の樹脂の陰イオン交換容量に対する処理後の樹脂の陰イオン交換容量の割合からなる陰イオン交換容量保持率を求め、陰イオン交換基の耐久性として評価した。
【0123】
3)水への溶解性の測定方法
陰イオン伝導性樹脂10gを20℃のイオン交換水100ml中に、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら1時間浸漬し、減圧濾過によりイオン交換水中から陰イオン伝導性樹脂を取り除いた。残ったイオン交換水をナス型フラスコに入れ、減圧濃縮した後、50℃で3時間真空乾燥を行い、残渣の重量を測定した。上記測定値に基づいて、陰イオン伝導性樹脂が水に溶解した重量%を算出し、その値が0.5重量%以下であれば耐水性が良好であると評価した。
【0124】
4)陰イオン伝導性樹脂の溶解性評価(実濃度/仕込濃度比)
陰イオン伝導性樹脂の溶解性評価法として、遠心分離法による上澄み液中の実濃度測定を行い、仕込み濃度に対する実濃度比を溶解性評価の指標とした。
【0125】
先ず、イオン伝導性付与剤10mlを容量15mlの遠心分離管に入れ遠心分離機(コクサン製H−3H)にセットした。遠心分離機の回転数を2500rpm、3000rpm、5000rpmの順で上げながら、それぞれ10分間、不溶分の遠心分離を行った。回転数5000rpmでの遠心分離後、上澄み液約2gを取り、秤量瓶に入れて秤量後、15時間自然乾燥した後に真空乾燥を行って溶媒を留去し、残存樹脂重量を秤量することにより上澄み液中の陰イオン伝導性樹脂の実濃度を測定し、得られた実濃度の仕込み濃度に対する比を算出した。
【0126】
5)燃料電池の評価方法
得られた膜−電極接合体を評価用燃料電池セル(Electrochem社製、FC05−01SP−REF)に組み込んで単セルとし、酸素極に純酸素を200ml/minで流通するとともに燃料極に純水素を100ml/min流通して発電を行った。セル温度は90℃として両極ともに加湿温度とセル温度を一定として相対湿度100%とした。予め15時間運転した電池の開回路電圧を測定し、その値が0.9V以上であれば、良好な燃料電池であると評価した。
【0127】
製造例1(クロロメチル基含有樹脂の製造)
市販のポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(重量平均分子量5万、スチレン含有量30重量%)15.6g(ベンゼン環61mmol含有)をクロロホルム200mlとクロロメチルメチルエーテル212g(263mmol)の混合溶媒に溶解し、さらに塩化スズ( IV)3.95g(15mmol、25mol%)添加して、35〜40℃で2時間反応し、樹脂中にクロロメチル基を導入した。1,4−ジオキサンと水の1:1混合溶液50mlを反応溶液中へ投入して反応を停止した後、メタノール水溶液4000mlに投入して樹脂を析出させ、メタノールで数回洗浄後、乾燥することで、クロロメチル基含有樹脂としてベンゼン環にクロロメチル基を導入したポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体16.2gを得た。
【0128】
製造例2(2−(3−ブロモプロピルオキシ)テトラヒドロピランの製造)
3−ブロモプロパノール25g(180mmol)をクロロホルム100mlに溶解し、p−トルエンスルホン酸3g(17mmol)を加えて室温で攪拌した。ここにジヒドロピラン16g(190mmol)のクロロホルム溶液を滴下し、室温で一晩攪拌した。炭酸ナトリウム水溶液を加えてp−トルエンスルホン酸を洗浄し、クロロホルム層を減圧留去して2−(3−ブロモプロピルオキシ)テトラヒドロピランを33g(142mmol,79%)得た。
【0129】
実施例1
無水テトラヒドロフラン5mlにマグネシウム(削り状)0.14g(60mmol)を加え、ヨウ素を極少量加えてマグネシウムを活性化した。ここにグリニャール試薬とするために製造例2で製造した2−(3−ブロモプロピルオキシ)テトラヒドロピラン14g(60mmol)のテトラヒドロフラン溶液をゆっくり滴下し、滴下開始後すぐに氷冷した。滴下終了後、製造例1で製造したクロロメチル基含有樹脂16gのテトラヒドロフラン溶液を滴下し、室温で一晩攪拌した。その後、溶液を0.01規定塩酸200mlに投入して保護基をはずすと共に樹脂を析出させた。樹脂をメタノールで洗浄し、乾燥した後、クロロホルム200mlに溶解した。ここに三臭化燐17g(63mmol)を滴下し、室温で一晩攪拌した。このクロロホルム溶液を激しく攪拌した1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液500mlに滴下し、余剰の三臭化燐を分解した。その後クロロホルムを減圧留去し、析出した樹脂をろ過した。樹脂はメタノールで洗浄し、乾燥した。この樹脂を、トリメチルアミン30重量%水溶液を144g(トリメチルアミンとして731mmol)、アセトン104g、イオン交換水448gを混合した水溶液中に加え、室温で一晩攪拌し、4級アンモニウム塩化した。この反応液を大過剰の0.5mol/L−塩酸中へ投入後1時間撹拌して過剰のトリメチルアミンを除去した後、樹脂を濾別した。得られた樹脂を、大過剰の0.5mol/L−水酸化ナトリウム水溶液中に懸濁して、4級アンモニウム基の対イオンを臭化物イオンから水酸化物イオンにイオン交換した後、イオン交換水で洗浄、乾燥させることにより陰イオン伝導性樹脂14gを得た。得られた陰イオン伝導性樹脂の陰イオン交換容量、ならびに20℃における水への溶解度、ならびに陰イオン交換基の耐久性を表1に示した。
【0130】
合成した陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂0.5gと1−プロパノール75gを混合して溶解し、触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を得た。得られた触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を用いた、陰イオン伝導性樹脂の溶解性評価結果(実濃度/仕込濃度比)を表1に示した。
【0131】
次にこの触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤4.3gに、市販の45.5% 白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社 燃料電池用触媒 TEC10E50E)0.5gと、少量のイオン交換水および1−プロパノール0.5gを加え、均一なペーストになるまで撹拌し、触媒電極層形成用組成物を調製した。この触媒電極層形成用組成物を、特許文献1の実施例1に記載の陰イオン交換膜に白金の付着量が0.5mg/cm になるように均一にスクリーン印刷し、常温で15時間乾燥して、陰イオン交換膜上に燃料極用の電極触媒層を形成した。また、同様にして、該陰イオン交換膜の裏面に酸素極用の電極触媒層を形成した(0.5mg−白金/cm)。上記両面に電極触媒層を形成した陰イオン交換膜を2枚のカーボンペーパー(東レ株式会社 TGP−H−060)に挟み、膜−電極接合体を作製した。この接合体を評価用燃料電池セルに組み込んで燃料電池の開回路電圧を測定して評価した結果を表1に示した。
【0132】
実施例2〜8
製造例1において、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体の種類、及びクロロメチル基導入における塩化スズ( IV)触媒の量を表1に示すものに変えて製造したクロロメチル基含有樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして陰イオン伝導性樹脂を製造した。得られた陰イオン伝導性樹脂の陰イオン交換容量、ならびに20℃における水への溶解度、ならびに陰イオン交換基の耐久性を表1に示した。
【0133】
実施例2〜8で合成した陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂0.5gと1−プロパノール75gを混合して溶解し、触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を得た。得られた触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を用いた、陰イオン伝導性樹脂の溶解性評価結果(実濃度/仕込濃度比)を表1に示した。
【0134】
次にこのイオン伝導性付与剤を用いて実施例1と同様の方法により電極触媒層形成用組成物を調整し、この組成物を用いて実施例1と同様の方法により陰イオン交換膜と触媒電極層とガス拡散層から構成される膜−電極接合体を作成し、燃料電池の開回路電圧試験を評価した。その結果を表1に示した。
【0135】
比較例1
製造例1で製造したクロロメチル基含有樹脂を、クロロメチル基含有樹脂中に含まれる塩素量に対して20当量のトリメチルアミンを含む水溶液に浸漬することでそのまま4級アンモニウム塩化して陰イオン伝導性樹脂を作成した。得られた陰イオン伝導性樹脂の陰イオン交換容量、ならびに20℃における水への溶解度、ならびに陰イオン交換基の耐久性を表1に示した。
【0136】
合成した陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂を用いて、実施例9と同様にしてイオン伝導性付与剤を得た。得られた触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を用いた、陰イオン伝導性樹脂の溶解性評価結果(実濃度/仕込濃度比)を表1に示した。
【0137】
次にこのイオン伝導性付与剤を用いて実施例1と同様の方法により電極触媒層形成用組成物を調整し、この組成物を用いて実施例1と同様の方法により陰イオン交換膜と触媒電極層とガス拡散層から構成される膜−電極接合体を作成し、燃料電池の開回路電圧試験を評価した。その結果を表1に示した。
【0138】
比較例2
実施例5で用いたクロロメチル基含有樹脂を用いた他は比較例1と同様に陰イオン伝導性樹脂を作成した。得られた陰イオン伝導性樹脂の陰イオン交換容量、ならびに20℃における水への溶解度、ならびに陰イオン交換基の耐久性を表1に示した。
【0139】
合成した陰イオン伝導性樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂を用いて、実施例9と同様にして触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を得た。得られた触媒電極層形成用イオン伝導性付与剤を用いた、陰イオン伝導性樹脂の溶解性評価結果(実濃度/仕込濃度比)を表1に示した。
【0140】
次にこのイオン伝導性付与剤を用いて実施例1と同様の方法により電極触媒層形成用組成物を調整し、この組成物を用いて実施例1と同様の方法により陰イオン交換膜と触媒電極層とガス拡散層から構成される膜−電極接合体を作成し、燃料電池の開回路電圧試験を評価した。その結果を表1に示した。
【0141】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、芳香族環に式(1)
−(CH−N (X) (1)
(ここで、nは3〜6の整数であり、R、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R、RおよびRの全部または一部が互いに連結して環を形成していても良く、Xは対アニオンでありzはXの価数の逆数である)
で示されるアンモニウム塩を置換基として持つセグメントと、該アンモニウム塩を持たず水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の陰イオン伝導性樹脂。
【請求項2】
下記式(2)で示される、保護基で水酸基が保護されたハロゲン化合物
【化1】

(ここで、Yは水酸基の保護基を示し、Halは塩素、臭素またはヨウ素を示し、nは式(1)と同義であり、xは1以上n−1以下の整数である。)
を、マグネシウムまたはアルキルリチウム化合物と反応させて、グリニャール試薬または有機リチウム化合物とし、該グリニャール試薬または有機リチウム化合物を、芳香族環を持つ非架橋のブロック共重合体であって、該芳香族環に式(3)
【化2】

(ここで、Hal’は塩素、臭素またはヨウ素を示し、xは1以上n−1以下の整数である(但し、nは式1と同義である。))
で示される置換基を有するセグメントと水に難溶なセグメントとを持つ、水に難溶性の樹脂と反応させ、水酸基の保護基を取り除いた後、水酸基をハロゲンまたはスルホン酸エステルに変換し、次いで3級アミンと反応させることを特徴とする請求項1に記載の陰イオン伝導性樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂からなる触媒電極層形成用接合樹脂。
【請求項4】
溶媒及び請求項2に記載の触媒電極層形成用接合樹脂を含む触媒電極層形成用イオン伝導付与剤。
【請求項5】
請求項4に記載の触媒電極層形成用イオン伝導付与剤、電極触媒および溶媒を含む触媒電極層形成用組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の触媒電極層形成用組成物を用いて形成した触媒電極層。
【請求項7】
請求項6に記載の触媒電極層を構成部材として含む膜−電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜−電極接合体を構成部材として含む燃料電池。

【公開番号】特開2013−107916(P2013−107916A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58963(P2010−58963)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】