説明

油中のグリシジルエステルの低減

低レベルのグリシドールエステルを有する植物油が開示される。食用油中のグリシドールエステル含量を低下させる方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年12月4日に出願された米国仮特許出願第61/266,780号明細書および2010年7月12日に出願された米国仮特許出願第61/363,300号明細書の優先権を主張する。
【0002】
グリシドールエステルは、植物油中に発見されている。このような植物油の消化中に、グリシドールエステルは、既知の発癌性物質であるグリシドールを放出するかもしれない。本発明は、低レベルのグリシドールエステルを有する植物油、ならびにグリシドールエステルを油から除去する方法を提供する。
【0003】
本開示の非限定的一態様は、油を吸着材に接触させるステップと、引き続いて油を蒸気精製するステップを含む、グリシジルエステルを油から除去する方法を対象とする。方法の特定の非限定的実施形態では、油を蒸気精製するステップは、脱臭および物理精製の少なくとも1つを含む。また方法の特定の非限定的実施形態では、吸着材は、ケイ酸マグネシウム、シリカゲル、および漂白土から選択される材料の少なくとも1つを含んでなる。
【0004】
本開示の追加的非限定的態様は、油を酵素に接触させるステップと、引き続いて油を蒸気蒸留するステップを含む、グリシジルエステルを油から除去する方法を対象とする。方法の特定の非限定的実施形態では、油を酵素に接触させるステップは、加水分解、エステル化、エステル交換、酸分解、エステル交換、およびアルコール分解から選択される、少なくとも1つの反応を含む。
【0005】
本開示の別の非限定的態様は、240℃以下の温度で油を脱臭するステップを含む、グリシジルエステルを油から除去する方法を対象とする。方法の特定の非限定的実施形態に従って、油は、パーム油、パーム画分、パームオレイン、パームステアリン、コーンオイル、ダイズ油、エステル化油、エステル交換油、化学的エステル交換油、およびリパーゼ接触油から選択される少なくとも1つの油を含む。
【0006】
本開示のさらに別の非限定的態様は、エタノール散布、二酸化炭素散布、および窒素散布から選択される少なくとも1つの散布を用いて油を脱臭するステップを含む、グリシジルエステルを油から除去する方法を対象とする。
【0007】
本開示のさらなる非限定的態様は、油を酸を含む溶液と接触させるステップを含む、グリシジルエステルを油から除去する方法を対象とする。方法の特定の非限定的実施形態では、溶液はリン酸を含んでなる。また方法の特定の非限定的実施形態では、油を溶液と接触させるステップは、油と溶液を剪断混合するステップを含む。
【0008】
本開示のなおもさらなる非限定的態様は、油を再脱色するステップを含む、グリシジルエステルを脱色油から除去する方法を対象とする。方法の特定の非限定的実施形態では、脱色油は、精製脱色油、精製脱色脱臭油、および化学的エステル交換油の少なくとも1つを含む。また方法の特定の非限定的実施形態では、方法は、油を再脱色するステップに引き続いて、油を脱臭するステップを含む。
【0009】
本開示のなおもさらなる非限定的態様は、油を吸着材に接触させるステップを含む、グリシジルエステルを油から除去する方法を対象とする。
【0010】
本開示の別の非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析による測定で0.1ppm未満のグリシジルエステルレベルを有する物理精製パーム油を含む組成物を対象とする。
【0011】
本開示の追加的非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析による測定で0.1ppm未満のグリシジルエステルレベルを有するパームオレインを含む組成物を対象とする。
【0012】
本開示のさらなる非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析による測定で0.3ppm未満のグリシジルエステルレベルを有する物理精製パームオレインを含む組成物を対象とする。
【0013】
本開示のなおもさらなる非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析による測定で0.1ppm未満のグリシジルエステルレベルと、2.0以下のロビボンド赤色値と、20.0以下のロビボンド黄色値と、0.1%未満の遊離脂肪酸含量を含む、再脱色再脱臭油を含む組成物を対象とする。組成物の特定の非限定的実施形態では、再脱色再脱臭油はAmerican Oil Chemists’SocietyのCg−2−83法に合格する香味を含む。
【0014】
本開示のなおもさらなる非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析法による測定で0.2ppm未満のグリシジルエステルレベルと、3.0以下のロビボンド赤色値と、0.1%未満の遊離脂肪酸を含む、再脱色蒸気蒸留パーム油を含む組成物を対象とする。
【0015】
本開示のさらに別の非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析法による測定で0.2ppm未満のグリシジルエステルレベルと、4.0以下のロビボンド赤色値と、0.1%未満遊の離脂肪酸を含んでなる、再脱色蒸気蒸留パームステアリンを含む組成物を対象とする。
【0016】
本開示のさらなる非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析による測定で1.0ppm未満のグリシジルエステルレベルを含む、脱色リパーゼ接触油を含む組成物を対象とする。組成物の特定の非限定的実施形態では、脱色リパーゼ接触油は脱臭される。
【0017】
本開示のなおもさらなる非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析による測定で1.0ppm未満のグリシジルエステルレベルを含む、蒸気精製エステル化油組を含んでなる組成物を対象とする。
【0018】
本開示のさらに別の非限定的態様は、液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析法による測定で0.2ppm未満のグリシジルエステルレベルを含んでなる、再脱色ダイズ油を含む組成物を対象とする。
【0019】
本開示のなおもさらなる非限定的態様は、油中に水を混合するステップと、油を再脱色するステップを含む、グリシジルエステルを脱色油から除去する方法を対象とする。方法の特定の非限定的実施形態では、脱色油は精製脱色油、精製脱色脱臭油、および化学的エステル交換油の少なくとも1つを含む。また方法の特定の非限定的実施形態では、方法は、油を再脱色するステップに引き続いて、油を脱臭するステップを含む。
【0020】
本開示の別の非限定的態様は、水を油中に混合するステップと、油を再脱色するステップを含む、油中のグリシジルエステルをモノアシルグリセロールに変換する方法を対象とする。方法の特定の非限定的実施形態では、脱色油は、精製脱色油、精製脱色脱臭油、および化学的エステル交換油の少なくとも1つを含む。また方法の特定の非限定的実施形態では、方法は油を再脱色するステップに引き続いて、油を脱臭するステップを含む。
【0021】
本明細書の用法では、「脱臭」は、不純物を除去するためのアルカリ精製油の蒸留を意味する。例示的な油としては、ダイズ油、カノーラ油、コーンオイル、ヒマワリ油、およびベニバナ油が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0022】
本明細書の用法では、「アルカリ精製」または「化学精製」は、油にアルカリ溶液を接触させ、得られた脂肪酸石鹸の大部分をトリアシルグリセロールの大半から除去することで、遊離脂肪酸を油から除去することを意味する。アルカリ精製油は、引き続いて脱臭されることが多いが、脱臭は必須ではない。
【0023】
本明細書の用法では、「物理精製」は、トリアシルグリセロールの大半を無処理のままに保ちながら、大部分の遊離脂肪酸を除去する条件下における、油の高温蒸留を意味する。
【0024】
本明細書の用法では、「蒸気精製」および「水蒸気蒸留」は、物理精製および/または脱臭を意味する。
【0025】
本明細書の用法では、「加水分解」は、遊離酸とアルコールを生じる、エステルと水の反応を意味する。
【0026】
本明細書の用法では、「エステル化」または「エステル合成」は、エステル形成をもたらす、アルコールと酸との、特に遊離脂肪酸との反応を意味する。本出願に記載されるエステル化反応中に、出発原料中に存在する遊離脂肪酸は、グリセロールまたはモノアシルグリセロールなどの多価アルコール、あるいはジアシルグリセロールなどの一価アルコールと反応してもよい。
【0027】
本明細書の用法では、「酸分解」は、遊離酸がエステルと反応してエステルに結合する酸を置き換え、新しいエステル分子を形成する反応を意味する。
【0028】
本明細書の用法では、「エステル交換」は、エステルが、例えば第1のアルコール基から第2のアルコール基へのエステル結合脂肪酸の交換によって、別のエステルに変換される反応を意味する。
【0029】
本明細書の用法では、「アルコール分解」は、遊離アルコールがエステルと反応してエステルに結合するアルコールを置換し、新しいエステル分子を形成する反応を意味する。
【0030】
本明細書の用法では、「エステル交換」反応は、以下の反応を意味する。酸分解、エステル交換、およびアルコール分解。
【0031】
本明細書の用法では、「リパーゼと接触させた」「リパーゼ触媒反応」「油を酵素と接触させる」、および「油を酵素とインキュベートする」は、以下の反応の1つ以上をそれぞれ意味する。加水分解、エステル化、エステル交換、酸分解、エステル交換、およびアルコール分解。
【0032】
本明細書の用法では、「アシルグリセロール」は、一般に油中に見られるモノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、およびトリアシルグリセロールなどのグリセロールエステルを意味する。本明細書の用法では、「部分的グリセリド」という用語は、モノアシルグリセロールおよびジアシルグリセロールなどの1つまたは2つの遊離水酸基を有するグリセロールエステルを意味する。
【0033】
本明細書の用法では、「パーム画分」は、パーム油分画から得られるパーム油構成要素を意味する。
【0034】
本明細書の用法では、「パームオレイン」は、非分画パーム油またはパームステアリンのいずれよりも低い融点を有するパーム油構成要素に富んだパーム画分、または室温で主に液体の油を意味する。
【0035】
本明細書の用法では、「パームステアリン」は、非分画パーム油またはパームオレインのいずれよりも高い融点を有するパーム油構成要素に富んだパーム画分、または室温で主に固体の油を意味する。
【0036】
本明細書の用法では、「散布」は、液相内への気相の装入を意味する。
【0037】
本明細書の用法では、「化学的エステル交換」は、例えばナトリウムメトキシドなどの化学(非生物)触媒によって触媒される、油中の脂肪酸再配置を意味する。
【0038】
油中のグリシジルエステルレベルを測定する利用できる間接的方法の不正確さに考慮して、油中のグリシジルエステルレベルを測定する直接的方法が開発された。グリシジルエステルを定量化する既存の間接的方法は、ナトリウムメトキシドを用いて、グリシジルエステルを実際に測定される化合物であるモノクロロプロパンジオールに化学変換することに依存する。しかしこれは、グリシジルエステルが、実際に測定される化合物に変換され得る唯一の化学種であるという、不正確な仮定を組み入れている。したがってこの間接的方法は、不正確なレベルのモノクロロプロパンジオールエステルおよびグリシジルエステルを報告しがちである。
【0039】
下で説明される、本明細書で「液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析」または「LC−TOFMS」と言及される、新しいより正確な方法を使用して、本明細書で述べるグリシジルエステルのレベルを測定した。サンプルを移動相で希釈し、液体クロマトグラフィーによって分離して調製した。検出は、飛行時間質量分析法を使用して実施した。サンプルを毎日測定して、正確な同定と定量化を確認した。
【0040】
MCPD脂肪酸エステルおよびグリシジル脂肪酸エステルは、飛行時間質量分光分析(TOFS)と連結している高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、植物油中で測定した。サンプルを希釈して、先行する化学的改変なしに注入し、逆相HPLCによって分離した。一定レベルの微量ナトリウム塩をクロマトグラフィー中に含めることで改善された、エレクトロスプレーイオン化を利用した。ナトリウムレベルの変動は、異常な結果をもたらすかもしれないので、一定のナトリウムレベルを確保することが重要である。分析物は、[M+Na(+)]イオンとして検出された。HPLC分離では、Agilent 1200 series(商標)HPLCを使用した。溶出物は、Phenomenex Luna(商標)3ミクロンC18カラム(孔径100Å、50mm×3.0mmのカラム)を使用して、Agilent 6210(商標)TOFMSによって分析した。表2に記載する二溶媒勾配を適用した。
【0041】

【0042】
標準を使用して、検出された分析物のアイデンティティおよび量を検証した。いくつかの標準は、表3に示されるように商業的に得られた。これもまた表3に列挙されるいくつかの標準は市販されておらず、Archer Daniels Midland Company in Decatur,ILの研究所で合成された。
【0043】

【0044】
分析物の名称、滞留時間、分子式、および検出イオンを表4に示す。
【0045】

【0046】
市販されない標準は、次のようにして合成した。
【0047】
オレイン酸の重水素化3−MCPDジエステルは、次のように合成した。45℃で5mmHgの真空下において70時間激しく撹拌(450rpm)して、オレイン酸(30.7グラム、99%+、Nu Chek Prep,Inc.,Elysian,MN)および5.07gの重水素化3−MCPD(±−3−クロロ−1,2−プロパン−d−ジオール、98atom%D、C/D/N Isopotes Inc,Pointe−Claire,Quebec,Canada)と、3.1gのNovozym 435固定化リパーゼ(Novozymes,Bagsvaerd,Denmark)を反応させた。モル基準で25%の過剰なオレイン酸があった。TLC分析は、70時間後にほぼ全てのモノエステルがジエステルに変換されたことを示した。室温への冷却後、150mlのヘキサンを反応混合物に添加して、40号濾紙(Whatman Inc.,Florham Park,NJ)を通過させて反応混合物を濾過し、酵素顆粒を回収した。500mlの分液漏斗内でヘキサン/反応混合物溶液を苛性溶液によって洗浄し、過剰な遊離脂肪酸を除去した。18mlの9.5wt/v%NaOH溶液を中和のために分液漏斗に添加して、3分間振盪した。より下方の石鹸相を除去した後、洗浄水のpHが中性になるまで、上相を100mlの温水で数回洗浄した。次に機械的真空ポンプによってヘキサンを回転蒸発器内で蒸発させ、残留ヘキサンと水分を完全に除去した。ヘキサン除去後、20.6gの物質が回収された。完成物は、滴定によって0.1%未満の遊離脂肪酸を有しており、95%のオレイン酸重水素化3−MCPDジエステルを有することが予期された。リノール酸重水素化3−MCPDジエステルは、リノール酸(99%+、Nu Chek Prep,Inc.,Elysian,MN)を使用して同様に調製した。
【0048】
オレイン酸重水素化3−MCPDモノエステルは、反応時間が45分間に短縮されたこと以外は、実質的にオレイン酸重水素化3−MCPDジエステルのように調製した。エマルションが形成され、9.6%の遊離脂肪酸を含有する1グラムのオレイン酸重水素化3−MCPDモノエステルが、それから回収された。
【0049】
パルミチン酸グリシドールは、次のように調製した。塔頂撹拌機、ディーン・スターク・トラップ、および冷却管を装着した250mLの三つ口丸底フラスコに、10gのパルミチン酸メチル(99%+、Nu Chek Prep,Inc.,Elysian,MN)、13.7gのグリシドール(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)、および1gのNovozymes 435固定化リパーゼを装填した。油浴を使用して反応混合物を70℃に加熱し、窒素でパージして、反応中に形成されたメタノールを除去した。反応の進行は、TLC(80:20(v/v)のヘキサン:酢酸エチル)でモニターした。24時間後に反応を停止させた。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、濾過して固定化酵素を除去した。溶剤および過剰なグリシドールを真空内で除去して無色の油を得て、それは冷却すると粗生成物(13g)に凝固した。カラムクロマトグラフィー(0〜20%の酢酸エチル:ヘキサン(v/v))を使用して、粗生成物(5グラム)を精製した。パルミチン酸メチルをヘキサンで溶出した。生成物パルミチン酸グリシジルを5〜10%の酢酸エチル:ヘキサン(v/v)で溶出した。生成物を含有する画分をプールして、真空内で濃縮し、白色固体(2g)を得た。Hanessian染色液を噴霧し、続いて110℃で15分間加熱して、TLCプレートを可視化した。
【0050】
オレイン酸グリシジルは、10グラムのオレイン酸メチル(99%+、Nu Chek Prep,Inc.、Elysian、MN)と13.1グラムのグリシドールを使用したこと以外は、パルミチン酸グリシドールと同様に調製した。
【0051】
ESI Sourceを使用した質量分析法によって、LC−TOFMSによる検出を実施した。ガス温度300℃、乾燥ガス5L/分、ネブライザー圧力50psi。質量分光計パラメータは、次のとおりであった。MS質量範囲は300〜700m/z、極性は陽性、計器モードは2GHz、データ保存は質量中心およびプロフィール。分析日毎に、標準をサンプルセットに含めた。グリシジルエステル量はppmで報告された。LC−TOFMSは、0.1ppm程度に低い濃度で各グリシジルエステルの存在を検出できた。各サンプルセット中で、グリシジルエステルが検出されない場合は、そのサンプルについて検出限界を推定した。構成要素の数および構成要素の比率はサンプル毎に均一でないので、得られる検出限界は、常に同じではない。計器条件(どの程度最近、クリーニングされ調製されたか)、および分析されるサンプルタイプの双方が、得られる検出限界に影響を及ぼす。得られた実際の検出限界は、下の各実施例で報告される。
【0052】
下述するようにいくつかのサンプルでは、LC−TOFMSを使用したグリシジルエステルレベルの測定に加えて、色および香味もまた判定した。植物油のロビボンド色値は、比色計内において、既知の色特性があるガラスとの比較によって油の色が判定される、AOCS公定法Cc 13b−45に従って測定された。植物油の遊離脂肪酸含量は、遊離脂肪酸が滴定によって測定され、パーセントオレイン酸として報告される、AOCS公定法Ca 5a−40に従って測定された。
【0053】
植物油の香味は、実質的にA.O.C.S法Cg 2−83(植物油のパネル評価)に従って、2人の熟練した油食味検査員によって判定された。試食前に、約15mlの油を30mlのPET容器に入れて、電子レンジ内で約50℃に加熱した。総合的香味質スコアを10を最良とする1〜10の尺度で格付けした。サンプルは、スコアが7以上でなければ合格しなかった。AOCS法は全て、“Official Methods and Recommended Practices of the AOCS,”Urbana,IL.の第6版から採用した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、食用油加工を描写し、“Edible oil processing,” De Greyt & Kellens,Chapter8,“Deodorization,”in Bailey’s Industrial Oil and Fat Products,Sixth Edition,Volume 5,p341−382,2005,F.Shahidi,editorからの引用である。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は、本発明に従った、グリシジルエステルを油から除去する方法と、低濃度のグリシジルエステルを含有する油組成物とを例証する。以下の実施例は単に例証的であり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することは意図されない。
【0056】
実施例1A
対照実験では、0.8ppmのグリシジルエステルを含有する脱色パーム油(Archer Daniels Midland(ADM),Hamburg,Germany)を実質的に次のように、3mmHgの真空下で3%蒸気を用いた、260℃で30分間の物理精製によって蒸気精製した。その一方の開口部が油の表面より下にある散布管を装着した1リットル丸底ガラス蒸留容器に、パーム油を装填した。散布管の他方の開口部は、脱イオン水を含有する容器と連絡していた。散布管は、容器頭隙に生じさせた真空によって水を油中に引き込むことによる脱臭工程全体を通じて、所望の蒸気対油の重量百分率の散布蒸気の総含量を提供するように設定された。容器には、断熱アダプターを通じて冷却管もまた装着した。冷却管と真空供給源の間に冷却トラップを配置させ、冷却管を通じて真空ラインを容器頭隙に取り付けた。真空(3mmHg)にして、油を10℃/分の速度で260℃に加熱した。この温度を30分間維持した。脱イオン水を含有する容器に加熱ランプをあて、蒸気を発生させた。真空により散布管を通じて蒸気が熱い油中に引き込まれ、散布蒸気が提供された。30分間後に容器を熱源から除去した。油が80℃未満に冷却したら、窒素ガスによって真空を破った。
【0057】
常態ではパーム油に対して実施されない、パーム油のアルカリ精製(化学精製)効果を調べるために、0.8ppmのグリシジルエステルを含有する脱色パーム油の第2のサンプルに、次のようにアルカリ精製を実施した。5.9%遊離脂肪酸を含有する600グラムの精製脱色(RB)パーム油を40℃に加熱し、29mLの20%水酸化ナトリウム溶液と共に、200RPM撹拌で30分間40℃で撹拌した。混合物を65℃に加熱し、110RPM混合で65℃で10分間撹拌した。加熱混合物を3000RPMで10分間遠心分離し、次に80℃に加熱して15分間撹拌した。加熱水(100mL、80℃)を添加して、混合物を300RPMで1時間撹拌した。混合物を遠心分離してパーム油層を回収し、真空下90℃で乾燥させ、物理精製した(表1A)。別の実験では、以下に概略を説明するように、アルカリ精製脱色パーム油をTriSyl(商標)吸着材と接触させて物理精製を実施した。0.8ppmのグリシジルエステルを含有する脱色パーム油の第3のサンプルをTriSyl 500(商標)(W.R.Grace,Columbia,Maryland)シリカ吸着材と次のように接触させた。脱色パーム油を70℃に加熱して、TriSyl(商標)シリカ(3重量%)を油に添加した。スラリーを10分間混合した。40号濾紙を通過させる濾過によって吸着材を除去する前に、スラリーを乾燥のために真空下で(125mmHg)90℃に20分間加熱した。吸着材処理油を3mmHg真空下で3%蒸気によって、260℃で30分間物理精製した。
【0058】

【0059】
対照実験におけるパーム油の物理精製は、パーム油中のグリシジルエステル含量の望ましくない増大を引き起こした。出発パーム油は、0.8ppmのグリシジルエステルを含有したが、それに物理精製を実施すると、パーム油のグリシジルエステル含量は、0.8ppmから15.6ppmのグリシジルエステルに増大した。
【0060】
次の実験でアルカリ精製されたパーム油を次に物理精製すると、グリシジルエステル含量は、0.8ppmから31.8ppmになおもより好ましくなく増大する。
【0061】
パーム油をアルカリ精製して、次にTriSyl(商標)吸着材と接触させ、次に物理精製すると、グリシジルエステル含量はそれほどまでは増大しなかったが、それは0.8ppmから24.3ppmに増大し、なおも好ましくなく高かった。
【0062】
しかしパーム油をTriSyl(商標)吸着材と接触させ、次に物理精製すると、グリシジルエステルは最初の0.8pmから、0.1ppm未満のグリシジルエステルに低下した。
【0063】
実施例1B
追加的なアルコール、脂肪酸、または油のいずれもの不在下で、35.0ppmのグリシジルエステルを含有する脱色パームオレイン(ADM,Quincy,IL)を5重量%Novozymes TL IM(商標)リパーゼと共に、70℃で4時間インキュベートした。Novozymes TL IM(商標)リパーゼは、これらの条件下でパームオレインと接触させると、パームオレイン中のエステルのエステル交換を触媒する固定化酵素である。反応後、エステル交換(リパーゼ接触)パームオレインを3mmHg真空下で3%散布蒸気によって、240℃で30分間物理精製した(表1B)。
【0064】

【0065】
脱色パームオレインと酵素の接触は、パームオレイン中のグリシジルエステルの約10〜20%の低下をもたらした(表1B)。エステル交換(リパーゼ接触)油の240℃での物理精製後、リパーゼ接触蒸気精製パームオレイン中のグリシドールエステルレベルは、物理精製前のパームオレイン中のレベルの約3分の1に低下した(35.0ppmから8.4ppm)。
【0066】
実施例1C
7.9%の遊離脂肪酸(FFA)と0.2ppmのグリシジルエステルを含有する粗製パーム油(ADM,Hamburg,Germany)サンプルに、3mm真空で3%蒸気を用いて、260℃で30分間の蒸気蒸留によって物理精製を実施した。グリシジルエステル含量は、物理精製パーム油中で0.2ppmから15.9ppmに好ましくなく増大した。
【0067】
同一粗製パーム油の第2のサンプルをNovozymes 435(商標)リパーゼ(10%)と共に、真空下70℃で一晩インキュベートした。これらの条件下で、リパーゼはパーム油中の遊離脂肪酸のエステル化を触媒した。インキュベーション後、遊離脂肪酸含量は7.9%から1.9%に低下し、油中のグリシジルエステル含量は0.2ppmから0.1ppm未満に低下した。インキュベートした油に、3mm真空で3%蒸気を用いて、260℃で30分間の水蒸気蒸留によって物理精製を実施し、0.9%の遊離脂肪酸と、わずか0.9ppmのグリシジルエステルを含有するリパーゼ接触(エステル化)蒸気蒸留油を得た。検出限界:0.1ppm GE。
【0068】
実施例1D
16.4ppmのグリシジルエステルを含有する脱色パームオレイン(ADM,Quincy IL)に、次のようにして0.2%または0.4%SF105(商標)漂白土を用いて、125mmHg真空下で110℃で30分間、再脱色を実施した。パドル撹拌機によって400〜500rpmで撹拌しながら、油温度が70℃に達するまでパームオレインを加熱した。漂白土(SF105(商標)、0.2%または0.4重量%、Engelhard BASF,NJ)を油に添加して、撹拌を70℃で5分間継続した。真空(最大5トル)にして、混合物を2〜5℃/分の速度で110℃に加熱した。110℃に達したら、撹拌と真空を20分間継続した。20分間後、撹拌を停止して熱源を除去した。活性化漂白土を5分間沈降させた後、油温度が100℃未満になるまで冷却した。真空を開放し、ブフナー漏斗およびWhatman 2号濾紙を使用して、油サンプルを真空濾過した。
【0069】
二重反復試験を実施して、温度が低く持続時間が短かった(5分間の200℃、3%蒸気、3mmHg真空、表1D)こと以外は、実質的に1Aの物理精製について記載されるようにして、各セットの第2の実施例に低温短時間の脱臭を実施した。
【0070】

【0071】
パームオレインを0.2%SF105(商標)で再脱色することは、グリシジルエステル含量を元のレベルの約3分の1に低下させた。再脱色パームオレインを200℃で5分間脱臭した後、油のグリシジルエステル含量は増大しなかった。パームオレインを0.4%BASF SF105(商標)で再脱色することは、グリシジルエステル含量を検出不能にまで低下させた。低温脱臭(200℃で5分間)後、油のグリシジルエステル含量は、0.2ppmにわずかに増大した。
【0072】
実施例1E
18.8ppmのグリシドールエステルを含有する脱臭パーム油(ADM,Hamburg,Germany)を実質的に実施例1Dに記載されるようにして、実験室で再脱臭した。
【0073】
脱色パーム油の脱臭前の処理が、脱臭中のグリシジルエステル形成に影響するかどうかを判定するために、脱臭パーム油を吸着材と接触させて再脱臭した(表1E)。脱臭パーム油を吸着材と共に125mmHg真空下70℃で30分間インキュベートした。吸着材は、ケイ酸マグネシウム(Magnesol R60(商標),Dallas Group,Whitehouse,NJ)、シリカゲル(Fisher Scientific No.S736−1)、酸性アルミナ(Fisher Scientific No.A948−500)、および酸洗浄活性炭(ADP(商標)カーボン,Calgon Corp.,Pittsburg,PA)を含んだ。
【0074】

【0075】
脱臭パーム油を再脱臭する前に、油をMagnesol(商標)カーボン、またはアルミナと接触させることは、グリシドールエステルの増大を引き起こす。油を再脱臭する前に油をシリカゲルに接触させることは、形成されたグリシジルエステルレベルに非常にわずかな低下を引き起こす。
【0076】
実施例2A
実質的に実施例1Aのようにして、表2Aで概説するように、検出可能なグリシジルエステルを含まない精製脱色ダイズ油(「RBダイズ」)(ADM,Decatur,IL)、および0.1ppmのグリシジルエステルを含有する脱色パーム油(ADM,Hamburg,Germany)を3mmHg真空下で3%散布蒸気によって、様々な温度で30分間それぞれ蒸気蒸留した。
【0077】

【0078】
230℃での脱臭は、0.1ppm未満のグリシジルエステルを有するRBDダイズ油をもたらした(表2A)。240℃での脱臭中に水蒸気を散布されたダイズ油中にはグリシジルエステルが形成され、300℃での脱臭中により高いレベルが形成された。230℃で脱臭されたダイズ油とは違って、230℃で脱臭された脱色パーム油中では、グリシジルエステルレベルが増大した。240℃で脱臭された脱色パーム油中では、グリシジルエステルがより高いレベルに増大した。
【0079】
実施例2B
実質的に実施例1のようにして、表2Bで概説するように、検出可能なグリシジルエステルを含まない精製脱色ダイズ油(ADM,Decatur,IL)、または検出可能なグリシジルエステルを含まない脱色パーム油(ADM,Hamburg,Germany)を3mmHg真空下で30分間、実験室脱臭(ダイズ油)または物理精製(パーム油)した。1試験では、3%水蒸気による脱臭前に、35ppmのSF105(商標)漂白土をダイズ油に添加した。2試験では、無水エタノール(Sigma−Aldrich)を水で95%に希釈して調製された95%エタノール散布(油体積の9%および10.8%)によってRBダイズ油を脱臭し、従来の水(蒸気)散布をエタノール散布で置換した。2試験では、水(蒸気)散布をガス散布(窒素または二酸化炭素)で置換した。
【0080】

【0081】
脱臭容器内のRBダイズ油に漂白土を添加すると、240℃での脱臭中にグリシジルエステルが形成された。しかし水蒸気スパージをエタノールで置換すると、240℃であってさえもグリシジルエステルが除去された脱臭油がもたらされた。脱色パーム油を260℃で物理精製すると、GE含量は15.3ppmであった。脱色パーム油の物理精製において従来の水を窒素または二酸化炭素で置換すると、より低レベルのグリシジルエステルがもたらされた。この試験では、ガスの散布速度は測定および制御が困難であった。エタノール散布によってダイズ油を脱臭することは、0.1ppm未満のグリシジルエステルを含有する精製脱色脱臭ダイズ油を含んでなる組成物をもたらした。二酸化炭素散布または窒素散布によって脱色パーム油を蒸気精製することは、物理精製によって精製された同一脱色パーム油よりもグリシジルエステル含量が低い、脱色物理精製パーム油を含んでなる組成物をもたらした。
【0082】
実施例3A
2.2ppmのグリシジルエステルを含有する精製脱色脱臭(RBD)コーンオイル(ADM,Decatur,IL)を表3Aに概説する酸溶液と接触させた。表3Bに概説される時間にわたり剪断混合することで、酸性溶液(1部)をコーンオイル(1000部)と接触させた。次に混合物を30分撹拌し、洗浄水のpHが洗浄後に中性になるまで、水で繰り返し洗浄した。
【0083】

【0084】
RBDコーンオイルと有機酸性溶液またはEDTA溶液との接触がもたらすグリシジルエステルの低下は、わずかまたは皆無であった。RBDコーンオイルを85%リン酸溶液に接触させて4分間剪断混合することは、グリシジルエステル含量を低下させ、0.3ppmのグリシジルエステルを含有するRBDコーンオイルが生成された。
【0085】
実施例3B
検出可能なグリシジルエステルを含まない精製脱色脱臭ダイズ油(ADM,Decatur,IL)にグリシジルステアリン酸を添加して、13.6ppmのグリシジルステアリン酸を含有するRBDダイズ油を得た。実質的に実施例3Aおよび表3Bに概説するようにして、添加RBD油に酸性溶液処理を実施した。添加RBD油はまた、ケイ酸マグネシウム(Magnesol R60(商標),Dallas Group,Whitehouse,NJ;油の1%、150℃で5分間)とも接触させた。
【0086】

【0087】
クエン酸溶液による油の処理は、RBD油中のグリシジルエステルレベルを増大させた。リン酸処理は、RBDダイズ油中のグリシジルエステルの低下を引き起こした。Magnesol R60(商標)による処理だけが、グリシジルエステルを0.1ppm未満に低下させた。
【0088】
実施例4A
検出可能なグリシジルエステルを含まない、0.02%の遊離脂肪酸(FFA)を含有する精製脱色脱臭ダイズ油(ADM,Decatur,IL)にグリシジルステアリン酸を添加して、11.1ppmグリシジルステアリン酸を含有するRBDダイズ油を得た。表4A1に列挙する投入量および時間で、実質的に実施例1Dに記載されるようにして、漂白(beaching)土を用いて、125mmHgの真空で30分間にわたって、添加RBDダイズ油に再脱色を実施した。引き続いて、グリシジルエステルについて再脱色油を試験し、実質的にA.O.C.S法Cg 13b−45に従って色を評価した(表4A1)。添加RBDダイズ油は、再脱色前に良好な色(0.5Rおよび4.5Y)を有した。
【0089】

【0090】
再脱色中のグリシジルエステル除去に対する用量依存および温度依存効果が、観察された。0.1%および0.4%のSF105(商標)漂白土による70℃での再脱色、および0.1%で用いられたSF105(商標)漂白土による110℃での再脱色は、グリシジルエステルの低下を引き起こしたが、消失は引き起こさなかった。110℃においてSF105(商標)漂白土のレベルを0.2%および0.4%に増大すると、グリシジルエステルが油から除去され、検出可能なグリシジルエステルを含まない再脱色油が生成された。110℃における試験されたレベルでのBiosil(商標)およびTonsil(商標)126FFによる脱色もまた0.1ppm未満のグリシジルエステルを有する油をもたらした。RBD油および全ての再脱色RBD油サンプル中の遊離脂肪酸のレベルは0.02%で、変化しなかった。11.1ppmのグリシジルエステルを含有するRBD油の再脱色は、グリシジルエステルの一部または全部を除去して、良好な色の油を与えた。しかし全ての再脱色油の香味および臭気は、不快であった。
【0091】
実質的に実施例1に概説されるようにして、表4A2に概説する条件下で、検出可能なグリシジルエステルを含まないが、不快な臭気と香味を有する表4A1からの再脱色油に、再脱色後に低温短時間脱臭を実施した。再脱色再脱臭油をグリシジルエステルについて試験し、実質的にA.O.C.S法Cg 2−83に従って香味を評価した。
【0092】

【0093】
再脱色され、再脱色後に低温短時間脱臭されたいずれのRBDダイズ油サンプル中にも、グリシジルエステルは検出されなかった(表4A2)。
【0094】
11.1ppmのグリシジルエステルを含有する添加ダイズ油の再脱色は、検出可能なグリシジルエステルを含まない油を製造する上で効果的であり、再脱色後の低温(180〜210℃)短時間(5〜10分間)の脱臭は、グリシジルエステルの増大なしに、再脱色処理から不快な香味を除去する上で効果的であった。良好な香味を有し、検出可能なグリシジルエステルを含まない油が、再脱色とそれに続く低温短時間の再脱臭によって得られた。
【0095】
実施例4B
赤色3.8および黄色26のロビボンド色値を有するパームステアリン(ADM、Quincy、IL)は、11.3ppmのグリシジルエステル(GE)を含有した。原料パーム油が、分画および輸送前に原産国で脱色され蒸気蒸留されていたにも関わらず、パームステアリンは、高い遊離脂肪酸(0.30%FFA)を有した。
【0096】
パームステアリンを再脱色および低温短時間の脱臭によって処理した。表4B1に概説される異なるレベル、温度、および時間で、BASF SF105(商標)漂白土によってパームステアリンを再脱色した。再脱色油中のグリシジルエステルレベルを測定し、再脱色油を低温で短時間脱臭した(表4B1)。対照実験では、再脱色油に260℃で30分間の物理精製が実施され(表4B2)、グリシジルエステルの顕著な増大がもたらされた。
【0097】

【0098】

【0099】
再脱色脱臭されたまたは物理精製されたパームステアリンサンプルは全て、香味スクリーニングに合格した。パームステアリンの再脱色とそれに続く低温脱臭は、グリシジルエステルをパームステアリンから除去する上で効果的であった。しかし低温脱臭は、RBDパームステアリン中のFFAを満足できるレベルに低下できなかった。
【0100】
実施例4C
赤色3.2および黄色38のロビボンド色値および40.1ppmのグリシジルエステルを有するパームオレイン(ADM、Quincy、IL)を再脱色および脱臭または物理精製によって処理した。原料パーム油が、分画および輸送前に原産国で脱色され物理精製されていたにも関わらず、納入パームオレインは高い遊離脂肪酸(0.16%FFA)を有した。
【0101】
BASF SF105(商標)漂白土によって、異なる粘土レベル、温度、および時間で、パームオレインを再脱色した(表4C1)。再脱色パームオレイン中のグリシジルエステルレベルを測定し、次に再脱色パームオレインを低温で様々な時間にわたって脱臭した(表4C1)。比較のために、パームオレインを再脱色および物理精製した(表4C2)。
【0102】

【0103】

【0104】
再脱色油は、再脱色および脱臭または物理精製後に、全て良好な色を有し、香味試験に合格した。パームオレインを再脱色し、脱色後にパームオレインを低温で短時間脱臭するこの方法は、出発(物理精製)パームオレインよりも低いグリシジルエステルレベルを有する、脱臭パームオレインを含んでなる組成物をもたらした。
【0105】
実施例5A
エステル交換反応において、脱色パーム油(ADM,Hamburg,Germany、600グラム)をNovozymes TL IM(商標)リパーゼ(60グラム、10%)と70℃で2時間接触させ、エステル交換油を生成した。実質的に実施例1Aのように、エステル交換油(200グラム)の一部に3mm真空で3%蒸気を用いて、260℃で30分間の水蒸気蒸留による物理精製を実施し、物理精製リパーゼ接触(エステル交換)油を得た。実質的に実施例1Dに記載されるようにして、エステル交換油の一部(250グラム)をSF105(商標)漂白土(2%)に接触させることで、それに再脱色を実施し、次に実質的に実施例1Aのように、3mm真空で3%蒸気を用いて、260℃で30分間の水蒸気蒸留による物理精製を実施して、再脱色物理精製リパーゼ接触(エステル交換)油を得た。様々な加工段階後に採取されたサンプル中のグリシジルエステル含量を測定した表5A)。
【0106】

【0107】
出発パーム油は、15.9ppmのグリシジルエステルを含有した。リパーゼとの接触後、グリシジルエステル含量はほとんど変化しなかった。エステル交換油を物理精製すると、グリシジルエステル含量は劇的に増大した。 エステル交換油の脱色は必要でないという当該技術分野の教示にもかかわらず、リパーゼ接触油の脱色は、グリシジルエステル含量を15.9ppmから7.3ppmに低下させた。追加的工程は、追加的工程がない場合よりも高品質の油を提供した。引き続く物理精製は、グリシジルエステルの増大を引き起こした。
【0108】
油とリパーゼの接触によるエステル交換生成物は、化学処理生成物よりもはるかに純粋であるため、エステル交換を触媒する酵素の使用が、脱色に対する必要性をなくすることは、油のエステル交換の当該技術分野で広く教示されている。したがって精製工程が回避される。Oil Mill Gazetteer(Vol.109,June 2004)で報告されるように、『化学システムでは、反応装置もまた必要であるが、酵素よりもはるかに高い温度が必要である。化学処理中に黒ずみが生じるので、油の大がかりな精製が必要である。これは酵素を使用する場合には当てはまらない』。Palm Oil Developments(39p 7−10,http://palmoilis.mpob.gov.my/publications/pod39−p7.pdf;2009年10月30日にアクセス)で報告されるように、『酵素的エステル交換を用いれば、処理はより穏やかで、油が黒ずむことがなく、高価な後脱色操作が排除される』。食用脂肪を製造するためのリパーゼエステル交換を使用した脱色工程の排除は、広く認識されている。『酵素処理は、化学処理よりはるかに単純で、その後、エステル交換油にはいかなる後処理も必要ない』。BioTimes(December 2006,Novozymes BV,Bagsvaerd,Denmark,出版社)で報告されるように、『酵素処理の主要な利点は、穏やかな温度、中和または脱色のどちらも不要であること、液体溶出物が発生しないこと、および非常に反応性で不安定な化学物質よりも酵素は取り扱いが安全なことである』。
【0109】
しかしこの教示にもかかわらず、リパーゼ接触油を脱色することが、グリシジルエステル含量を低下させることが発見された。
【0110】
実施例5B
実質的に実施例1Bに記載されるように、精製脱色ダイズ油(80部)を完全水素化ダイズ油(20部、ADM,Decatur,IL)と混合し、TL IM(商標)リパーゼ(5%)と4時間接触させて酵素的エステル交換し、酵素的エステル交換油を生成した。RBダイズ油、完全水素化ダイズ油、および酵素的エステル交換油は、検出可能なレベルのグリシジルエステル(検出限界:0.1 ppmGE)を含有しなかった。実質的に実施例1Aで概説されるように、酵素的エステル交換油に260℃で物理精製を実施して、4.6ppmのグリシジルエステルを含有するエステル交換油を得た。酵素的エステル交換油に240℃で物理精製を実施すると、エステル交換ダイズ油は0.3ppmのグリシジルエステルを含有した。
【0111】
実施例6
精製脱色ダイズ油(80部)を完全水素化ダイズ油(20部、ADM,Decatur,IL)と混合し、実質的に次のようにして化学的エステル交換を実施した。油混合物(600グラム)を真空下で20分間加熱して90℃で撹拌して、乾燥させた。乾燥後、油を85℃に冷却し、2.1グラム(0.35)%のナトリウムメトキシド(Sigma Aldrich)と混合して、真空下85℃で1時間撹拌し化学的エステル交換油を生成した。洗浄水(48mL)を添加して触媒を不活性化し、反応を停止させ、200RPMで15分間撹拌した。撹拌を停止して、油をデカントする前に油を5分間インキュベートさせた。油を水でさらに2回、同様に洗浄した。油を90℃でインキュベートして乾燥させた。実質的に実施例1Aで概説されるようにして、化学的エステル交換油(200グラム)の一部を240℃で30分間脱臭し、脱臭化学的エステル交換油を提供した。実質的に実施例1Dで概説されるようにして、125mmHg真空下で1.5%SF105粘土を用いて、110℃で30分間にわたり、化学的エステル交換油(200グラム)の一部を再脱色して、再脱色化学的エステル交換油を提供した。実質的に実施例1Aに概説されるようにして、再脱色化学的エステル交換油を脱臭し、脱臭再脱色化学的エステル交換油を提供した(表6)。
【0112】

【0113】
化学的エステル交換後、油中のグリシジルエステルレベルは、実質的に増大した。脱臭化学的エステル交換油中のグリシジルエステルレベルは、実質的に化学的エステル交換油中のグリシジルエステルレベルの約半分に低下した。脱色化学的エステル交換油中のグリシジルエステルレベルは、検出可能レベル未満に低下した。脱臭再脱色化学的エステル交換油中のグリシジルエステルレベルは、12.1ppmのグリシジルエステルに増大した。
【0114】
実施例7A
グリシジルステアリン酸を精製脱色脱臭ダイズ油(ADM、Decatur IL)に混合して、513ppmのグリシジルエステルを含有する添加油を得た。油中に3−モノクロロプロパンジオールモノエステルまたはジエステルのどちらも検出されなかった(<0.1ppm)。10グラムの出発油サンプルを対照として除去して試験し、グリシジルエステルおよびモノグリセリドの含量を測定した。5重量%SF105(商標)漂白土を使用して、125mmHg真空下150℃で30分間、残りの油を次のように再脱色した。油の温度が70℃に達するまで、パドル撹拌機によって400〜500rpmで撹拌しながら油を加熱した。漂白土(SF105(商標)、Engelhard BASF,NJ、油の5重量%)を油に添加して、撹拌を70℃で5分間継続した。真空(125トル)を生じさせ、混合物を2〜5℃/分の速度で150℃に加熱した。150℃に達したら、撹拌および真空を20分間継続した。20分間後、撹拌を停止して熱源を除去した。活性化漂白土を5分間沈降させた後、油の温度が100℃未満になるまで冷却した。真空を開放して、ブフナー漏斗とWhatman 40号濾紙を使用して、脱色油を真空濾過した。再脱色油を秤量した。
【0115】
使用済み濾過粘土を濾紙から回収し、時折撹拌しながら1時間100mlヘキサンで抽出した。スラリーを濾過して、時折撹拌しながら粘土を100mlクロロホルムで1時間抽出した。スラリーを濾過して、時折撹拌しながら粘土を100mlメタノールで1時間抽出し、次にスラリーを濾過して、時折撹拌しながら粘土を100mlメタノールで1時間再度抽出した。抽出後、溶液を合わせて溶剤を蒸発させ、粘土から抽出された5.58グラムの油が回収された。
【0116】

【0117】
再脱色油中ではグリシジルエステルは検出レベル未満に低下し、使用済み粘土からグリシジルエステルは抽出されなかった。再脱色後のグリシジルエステルの不在は、漂白土への不可逆的吸着に起因したかもしれないが、モノステアリンの同時出現は、GEが再脱色中に恐らくはモノステアリンに変換されたことを示唆する。グリシジルステアリン酸の約半分(47モル%)がモノステアリンの形態で回収された。
【0118】
実施例7B
実質的に実施例7Aのように、第2の添加油を調製して脱色し、506ppmのグリシジルエステルを含有する添加RBDダイズ油を得た。3−モノクロロプロパンジオールは、油中に検出されなかった(<0.1ppm)。油を70℃に加熱した後、5分間激しく撹拌(475rpm)しながら、1.5ml(油を基準にして0.5%)の脱イオン水を油に添加したこと以外は、実質的に実施例6Aのようにして添加油(300グラム)を再脱色した。次に漂白土(SF105(商標)、15グラム、5%)を添加して、スラリーを5分間混合した。真空にしないでスラリーを90℃に加熱し、20分間保持した。次に真空にしてスラリーを110℃に加熱し、110℃に20分間保った。再脱色油を冷却し、40号濾紙を通過させて濾過した。再脱色油284.4グラム)を回収し、モノステアリン含量を測定した。実質的に実施例7Aのようにして使用済み粘土を抽出し、漂白土から6.88グラムの油を回収した。
【0119】

【0120】
水を油中に混合し、次に再脱色することで、油中のグリシジルエステル含量は506ppmから検出限界未満に低下した。モノステアリンが漂白土から回収され、再脱色前には実質的にモノステアリンを含まなかったRBDダイズ油が、0.5%の水を油中に混合した後の再脱色後には、顕著な量を含有した。モノステアリンの同時の出現は、添加水の存在下で再脱色することで、GEがモノステアリンに変換されたことを示唆する。さらに、再脱色油または漂白土からの抽出油中に、MCPDモノエステルまたはMCPDジエステルのどちらも検出されなかった。大量(85モル%)のグリシジルステアリン酸が、モノステアリンの形態で回収された。
【0121】
実施例7C
実質的に実施例7Aのようにして、第3の添加油を調製して脱色し、72.6ppmのグリシジルエステルを含有する添加RBDダイズ油を得た。油中に3−モノクロロプロパンジオールエステルは検出されなかった(<0.1ppm)。2重量%のみの漂白土を添加したこと以外は、実質的に実施例7Bに概説されるようにして、様々な量の水(油を基準にして0%、0.25%、0.5%または1.0%)を添加して、300グラムの添加油ロットに再脱色を実施した。実質的に実施例7Aに概説されるようにして、各使用済み漂白土から油を回収した。
【0122】

【0123】
水の不在下または存在下で脱色した後に、漂白土からモノステアリンを回収した。再脱色前に実質的にモノステアリンを含まなかったRBDダイズ油は、添加水なしでは、脱色後にも実質的にモノステアリンを含まなかったが、0.25%〜1.0%の添加水の存在下では、再脱色後に約10グラムを含有した。脱色前に水を油に添加することは、再脱色油中のモノステアリンとしてのGEの回収を助けた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルエステルを油から除去する方法であって、
前記油を吸着材に接触させるステップと、
引き続いて前記油を蒸気精製するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記油を蒸気精製するステップが、脱臭および物理精製の少なくとも1つを含んでなることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記吸着材が、ケイ酸マグネシウム、シリカゲル、および漂白土からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項4】
グリシジルエステルを油から除去する方法であって
前記油を酵素に接触させるステップと、
引き続いて前記油を蒸気精製するステップと
を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
前記油を酵素に接触させるステップが、加水分解、エステル化、エステル交換、酸分解、エステル交換、およびアルコール分解からなる群から選択される少なくとも1つの反応を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項6】
グリシジルエステルを油から除去する方法であって、
前記油を240℃以下の温度で脱臭するステップを含んでなることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記油が、パーム油、パーム画分、パームオレイン、パームステアリン、コーンオイル、ダイズ油、エステル化油、エステル交換油、化学的エステル交換油、およびリパーゼ接触油からなる群から選択される少なくとも1つの油を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項8】
グリシジルエステルを油から除去する方法であって、
エタノール散布、二酸化炭素散布、および窒素散布からなる群から選択される少なくとも1つの散布によって、前記油を脱臭するステップを含んでなることを特徴とする方法。
【請求項9】
グリシジルエステルを油から除去する方法であって、
前記油を、酸を含んでなる溶液と接触させるステップを含んでなることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記溶液が、少なくともリン酸を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、
前記油を前記溶液と接触させるステップが、前記油と前記溶液を剪断混合するステップを含んでなることを特徴とする方法。
【請求項12】
グリシジルエステルを脱色油から除去する方法であって、
前記油を再脱色するステップを含んでなることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記脱色油が、精製脱色油、精製脱色脱臭油、および化学的エステル交換油からなる群から選択される少なくとも1つの油を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、
前記油を再脱色するステップに引き続いて、前記油を脱臭するステップをさらに含んでなることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
前記油を脱臭するステップが、15分間以下実施されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、
前記油を脱臭するステップが、210℃以下の温度で実施されることを特徴とする方法。
【請求項17】
グリシジルエステルを油から除去する方法であって、
前記油を吸着材に接触させるステップを含んでなることを特徴とする方法。
【請求項18】
組成物であって、
0.1ppm未満のグリシジルエステルレベルを有する物理精製パーム油を含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項19】
組成物であって、
0.1ppm未満のグリシジルエステルレベルを有するパームオレインを含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項20】
組成物であって、
0.3ppm未満のグリシジルエステルレベルを有する物理精製パームオレインを含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項21】
組成物であって、
0.1ppm未満のグリシジルエステルレベル、
2.0以下のロビボンド赤色値、
20.0以下のロビボンド黄色値、および
0.1%未満の遊離脂肪酸含量
を含んでなる再脱色再脱臭油を含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項22】
請求項21に記載の組成物において、
前記再脱色再脱臭油が、American Oil Chemists’SocietyのCg−2−83法に合格する香味をさらに含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項23】
組成物であって、
液体クロマトグラフィー飛行時間質量分光分析法による測定で、0.2ppm未満のグリシジルエステルレベル、
3.0以下のロビボンド赤色値、および
0.1%未満の遊離脂肪酸
を含んでなる再脱色蒸気蒸留パーム油を含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項24】
組成物であって、
0.2ppm未満のグリシジルエステルレベル、
4.0以下のロビボンド赤色値、および
0.1%未満の遊離脂肪酸
を含んでなる再脱色蒸気蒸留パームステアリンを含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項25】
組成物であって、
1.0ppm未満のグリシジルエステルレベルを有する脱色リパーゼ接触油を含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項26】
請求項25に記載の組成物において、
前記脱色リパーゼ接触油が脱臭されていることを特徴とする組成物。
【請求項27】
組成物であって、
1.0ppm未満のグリシジルエステルレベルを有する蒸気精製エステル化油を含んでなることを特徴とする組成物。
【請求項28】
グリシジルエステルを脱色油から除去する方法であって、
水を前記油中に混合するステップと、
前記油を再脱色するステップと
を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項29】
グリシジルエステルをモノアシルグリセロールに変換する方法であって、
水を前記油中に混合するステップと、
前記油を再脱色するステップと
を含んでなることを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−512998(P2013−512998A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542209(P2012−542209)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/058819
【国際公開番号】WO2011/069028
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(507303309)アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド カンパニー (16)
【Fターム(参考)】