説明

油脂含有マイクロカプセルおよびその製造方法

【課題】人体および環境に対する安全性および保存安定性に優れ、製造が簡便な油脂含有マイクロカプセル、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】油脂を含む芯物質の表面に、タンパク質、多糖類およびタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを含有する被膜を有する油脂含有マイクロカプセル。以下の工程を含む油脂含有マイクロカプセルの製造方法;(1)タンパク質および多糖類が溶解された水相中に、油脂を含む芯物質が分散されてなるO/Wエマルションを調製する工程;(2)O/WエマルションのpHおよび温度を調整することにより、芯物質の表面にタンパク質および多糖類を含む被膜を形成する工程;(3)O/Wエマルションにタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを添加する工程;および(4)O/Wエマルションを凍結乾燥し、油脂含有マイクロカプセルを得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂含有マイクロカプセルおよびその製造方法、特に食品用、医薬品用および化粧品用の油脂含有マイクロカプセルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品の分野において、摂取容易性、保存安定性(特に耐劣化性)およびハンドリング性の向上の観点から、油脂を粉末化する技術が知られている。油脂の粉末化は、いわゆる複合コアセルベーション法により水相中で油脂含有マイクロカプセルを製造した後、乾燥することにより達成される。複合コアセルベーション法においては、油脂のO/Wエマルションの水相中、例えば、pH調整により正極性に帯電されたゼラチンと、pHに関わらず負極性を有するアラビアガムとを静電的に引き合わせることにより、油脂の表面に、上記ゼラチンおよびアラビアガムを含む被膜が形成される。得られたマイクロカプセルを乾燥する方法としては、凍結乾燥法、スプレー乾燥法、熱風乾燥法、自然乾燥法等が挙げられる。
【0003】
油脂の粉末化に際し、油脂中に、栄養、薬効、美容等の機能を有する機能性物質を含有させることも知られている。機能性物質としては、青魚に多く含まれるDHA、EPAに代表されるような多価不飽和脂肪酸、緑黄色野菜に多く含まれるビタミンA、EおよびK、トマト、人参および海藻に多く含まれるカロチノイド色素、ならびに最近市場を席捲した補酵素Q10およびαリポ酸等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、上記いずれの乾燥方法を採用する場合においても、乾燥時においてカプセルが崩壊し、ペースト形態を有するようになるため、カプセルの乾燥が困難であった。
【0005】
そこで、被膜の形成後、エマルションに、ホルムアルデヒド(非特許文献1)、グルタルアルデヒド、トランスグルタミナーゼ等の架橋材を添加し、被膜を架橋する試みがなされている。しかしながら、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドを用いると、マイクロカプセル製造時において人体および環境に対する安全性に問題があった。トランスグルタミナーゼは、食品衛生法、JAS法により表示が義務付けられている物質であり、表示不要にするためには、熱処理によりトランスグルタミナーゼを失活する工程を要するので、トランスグルタミナーゼを用いると、マイクロカプセルの製造が煩雑であった。また、トランスグルタミナーゼを用いると、油脂および機能性物質を含む芯物質の含有量が60重量%以上のマイクロカプセルを製造する場合、乾燥時におけるカプセルの崩壊を十分に防止することは困難であった。たとえトランスグルタミナーゼを用いてカプセルを製造できたとしても、得られた油脂含有マイクロカプセルは十分な保存安定性を有さず、結果として芯物質が比較的容易に劣化した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】I.Jalsenjak et.al.:Effect of capsule size on permeability of gelatin-acacia microcapsules toward NaCl ,J.pharm,Sci. 70(4)456 1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、人体および環境に対する安全性に優れ、製造が簡便な油脂含有マイクロカプセル、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、人体および環境に対する安全性および保存安定性に優れ、製造が簡便な油脂含有マイクロカプセル、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、油脂を含む芯物質の表面に、タンパク質、多糖類およびタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを含有する被膜を有することを特徴とする油脂含有マイクロカプセルに関する。
【0010】
本発明はまた、以下の工程を含む油脂含有マイクロカプセルの製造方法に関する;
(1)タンパク質および多糖類が溶解された水相中に、油脂を含む芯物質が分散されてなるO/Wエマルションを調製する工程;
(2)O/WエマルションのpHおよび温度を調整することにより、芯物質の表面にタンパク質および多糖類を含む被膜を形成する工程;
(3)O/Wエマルションにタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを添加する工程;および
(4)O/Wエマルションを凍結乾燥し、油脂含有マイクロカプセルを得る工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る油脂含有マイクロカプセルは、製造時に従来の架橋材を使用しないので、人体および環境に対する安全性に優れ、また製造が簡便である。
本発明に係る油脂含有マイクロカプセルは、油脂を含む芯物質の含有量を比較的高くしても、カプセルの崩壊が十分に防止される。
本発明に係る油脂含有マイクロカプセルは、保存安定性、特に芯物質の耐劣化性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[油脂含有マイクロカプセル]
本発明に係る油脂含有マイクロカプセル(以下、単に「マイクロカプセル」という)は、油脂を含む芯物質の表面に被膜を有するものであり、当該被膜は少なくともタンパク質、多糖類およびタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを含有する。
【0013】
本発明においては、被膜が特定のポリフェノールを含有するので、十分に緻密な被膜構造が達成され、被膜強度が向上する。その結果、芯物質の高含有量を達成でき、しかも十分な保存安定性が達成され、芯物質の劣化が十分に防止される。当該ポリフェノールが含有されないと、緻密な被膜構造が得られないため、被膜強度が低下する。その結果、芯物質の十分な保存安定性が得られず、芯物質が比較的容易に劣化(例えば酸化劣化)する。さらには、芯物質を比較的高含有量で含むマイクロカプセルを製造する場合、乾燥時におけるカプセルの崩壊を十分に防止することが困難になる。
【0014】
ポリフェノールがタンパク質収斂作用を有するとは、当該ポリフェノールがタンパク質と結合して、組織が緻密な被膜を形成する作用を示す、という意味である。具体的には、以下のタンパク質収斂試験を行ったときに乾燥重量で250重量%以上、特に250〜600重量%、好ましくは500〜600重量%の沈殿物を生じるポリフェノールが使用される。
【0015】
(タンパク質収斂試験)
温度30℃および濃度1重量%の当該ポリフェノール水溶液を5mLで、温度30℃および濃度5重量%のタンパク質水溶液50mLに対して添加し、1分間の混合および1分間の保持を行ったときに生じる沈殿物の重量(乾燥重量)を測定し、当該測定値をポリフェノール使用量(乾燥重量)に基づく割合として表す。なお、本試験で使用されるタンパク質は、被膜に実際に含まれるタンパク質と同じものが使用される。沈殿物は自然濾過(常圧)により濾材として定性ろ紙5A(アドバンテック社製)を用いて分離される。
【0016】
そのようなポリフェノールの分子量は200〜1500が好ましく、より好ましくは200〜1000、さらに好ましくは200〜500である。
【0017】
ポリフェノールが有する水酸基の数は1分子あたり2〜25が好ましく、より好ましくは3〜10、さらに好ましくは4〜6である。
【0018】
ポリフェノールの具体例として、例えば、タンニン酸、カテキン、クロロゲン酸およびそれらの類縁体ならびにそれらの混合物等が挙げられる。好ましくはタンニン酸、カテキン、クロロゲン酸であり、より好ましくはタンニン酸、クロロゲン酸であり、最も好ましくはタンニン酸である。類縁体とは、当該ポリフェノールのオリゴマーを意味するものである。オリゴマーは重合度2〜5のオリゴマーである。タンニン酸の類縁体として没食子酸、ゲラニンが挙げられる。カテキンの類縁体、特にオリゴマーとしてプロシアニジンが挙げられる。クロロゲン酸の類縁体としてキナ酸、カフェ酸が挙げられる。ポリフェノールはプロシアニジンとその類縁体の混合物としてブドウ種子抽出物が使用されてもよい。ポリフェノールはタンニン酸とその類縁体の混合物として五倍子抽出物が使用されてもよい。ポリフェノールはクロロゲン酸とその類縁体の混合物として生コーヒー豆抽出物が使用されてもよい。
【0019】
被膜中におけるポリフェノールの含有量は、被膜中のタンパク質および多糖類の合計量に対して10重量%以上、特に10〜30重量%が好適であり、より好ましくは20〜25重量%である。含有量が少なすぎると、緻密な被膜構造が得られない。含有量が多すぎると、被膜は強固になる傾向を示すが喫食時強い渋みを感じる。
【0020】
被膜に含まれるタンパク質は水に溶解可能で、かついわゆる等電点を有するものが使用される。タンパク質の具体例として、例えば、ゼラチン、キトサン、アルブミン、カゼイン、ホエー、グリシニンコングリシン等が挙げられる。好ましくはゼラチン、カゼイン、ホエー、より好ましくはゼラチンが含有される。ゼラチン、カゼインおよびホエー、特にゼラチンは原料費が安価で、かつ等電点が5.5付近であり、pHの調整が容易なためである。
【0021】
本明細書中、水に溶解可能とは、100mgおよび50℃の水に対して10mg以上の溶解が可能という意味である。
【0022】
多糖類は水に溶解可能であれば特に制限されず、例えば、アラビアガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、グルコサミン、カードラン等が挙げられる。好ましくはアラビアガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、より好ましくはアラビアガムが含有される。アラビアガム、ジェランガムおよびアルギン酸ナトリウム、特にアラビアガムはアニオン基が多く、広範囲のpHで負に帯電しており、pHの調整が容易なためである。
【0023】
芯物質は常温常圧下で液体状または固体状、特に液体状である油脂を含む粒子状のものであり、所望によりさらに脂溶性物質を含む。芯物質が油脂および脂溶性物質を含む場合、通常、芯物質は脂溶性物質が油脂中に溶解されてなっている。
【0024】
本明細書中、油脂は、水に不溶な物質であり、飽和または不飽和脂肪酸およびそれらのグリセリンエステルを包含する概念で用いるものとする。
水に不溶とは、100mgおよび20℃の水に対して0.015mg以上の溶解が不可能という意味である。特に常温常圧下で液体状の油脂の場合、上記割合で80℃の水と混合したとき相分離を起こせば、不溶である。
【0025】
油脂としては、それ自体で栄養、薬効、美容等の機能性を有するもの、およびそれ自体では機能性を有さないが、脂溶性物質を含有させることにより脂溶性物質の機能性が付与されるものが挙げられる。
【0026】
機能性を有する油脂の具体例として、例えば、DHA、EPA、ハトムギ油、米油、唐辛子オイル、魚油、オリーブ油、アマニ油、馬油等が挙げられる。好ましくはDHA、EPAが含有される。
【0027】
機能性を有するわけではないが、使用可能な油脂の具体例として、例えば、中鎖脂肪酸、大豆油、コーン油、パーム油、ラード等が挙げられる。好ましくは中鎖脂肪酸が含有される。
【0028】
油脂の融点は特に制限されるものではないが、融点25℃以下、特に−20〜25℃の油脂が好ましく使用される。そのような融点を有する油脂は一般に粉末化され難いが、本発明においてはそのような油脂を含むマイクロカプセルであっても容易に製造できるためである。常温常圧で固形の油脂の粉末は多くあるが、常温常圧で液状の油脂の粉末はない。
【0029】
本明細書中、融点はMSDSに記載された値を用いている。
【0030】
脂溶性物質が有する脂溶性とは、100mgおよび30℃の油脂に対して1mg以上の溶解が可能な特性をいう。ここで使用される油脂は実際に脂溶性物質とともに使用される油脂が使用される。
【0031】
脂溶性物質としては種々の機能性を有する物質が使用できる。脂溶性物質の具体例として、例えば、αおよびγリノレン酸、リノール酸、アラキドン酸等の多価不飽和脂肪酸;ビタミンA、D、EおよびK等のビタミン類;カロチン、リコピン、アスタキサンチン、フコキサンチン等のカロチノイド色素;およびQ10、αリポ酸等の代謝促進物質が挙げられる。
【0032】
芯物質中における脂溶性物質の含有量は油脂100重量部に対して1〜100重量部が好適であり、より好ましくは40〜60重量部である。
【0033】
マイクロカプセル中における芯物質の含有量は特に制限されるものではないが、50〜80重量%、特に60〜80重量%が好適であり、より好ましくは65〜80重量%、さらに好ましくは65〜75重量%である。芯物質がそのような高含有量で含有されると、一般に乾燥時のカプセル崩壊を十分に防止できないが、本発明においてはそのような高含有量であっても、カプセル崩壊を十分に防止できるためである。
【0034】
本発明のマイクロカプセルの平均粒径は特に制限されるものではないが、5〜50μmが好適であり、より好ましくは5〜20μmである。
マイクロカプセルにおける被膜の膜厚(μm)/マイクロカプセルの半径(μm)は、カプセル崩壊のしにくさの観点から0.15〜0.6が好ましく、より好ましくは0.20〜0.6である。
被膜の膜厚は通常、1.0〜3.0μmであり、好ましくは1.2〜2.5μmである。
【0035】
[マイクロカプセルの製造方法]
本発明に係るマイクロカプセルは以下の工程(1)〜(4)を含む方法によって製造できる。以下の説明において、タンパク質、多糖類、油脂、脂溶性物質、ポリフェノール、pH調整剤、酸化防止剤等は、マイクロカプセルの説明においてと同様である。
【0036】
工程(1);タンパク質および多糖類が溶解された水相中に、油脂を含む芯物質が分散されてなるO/Wエマルションを調製する。
【0037】
タンパク質の水相中における含有量は水相全量に対して1〜20重量%が好適であり、より好ましくは1〜12重量%である。
多糖類の水相中における含有量は水相全量に対して1〜20重量%が好適であり、より好ましくは1〜12重量%である。
水相中におけるタンパク質と多糖類との配合比は重量比(タンパク質/多糖類)で1/0.5〜1/2が好適であり、より好ましくは1/0.8〜1/1.2である。
【0038】
水相には、酸化防止剤、乳化剤、pH調整剤等の水相用添加剤が溶解、または分散されてもよい。
酸化防止剤として、例えば、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、ローズマリー抽出物等が挙げられる。
乳化剤として、例えば、ショ糖エステル、クエン酸エステル、グリセリンエステル等が挙げられる。
pH調整剤として、例えば、塩酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、重曹、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
芯物質のO/Wエマルション中における含有量は、前記範囲内のマイクロカプセル中における芯物質の含有量が達成される限り特に制限されず、通常は全エマルション量に対して5〜30重量%が好適であり、より好ましくは15〜20重量%である。
【0040】
O/Wエマルション中における芯物質の含有量を調整することにより、マイクロカプセル中における芯物質の含有量を制御できる。例えば、O/Wエマルション中における芯物質の含有量を増加すると、マイクロカプセル中における芯物質の含有量は増加する。また例えば、O/Wエマルション中における芯物質の含有量を低減すると、マイクロカプセル中における芯物質の含有量は低減する。
【0041】
芯物質に脂溶性物質が含有される場合、脂溶性物質は油脂に対して前記した割合で溶解される。
芯物質には、酸化防止剤等の芯物質用添加剤が含有されてもよい。
芯物質に含有される酸化防止剤としては、例えば、αおよびβ、γトコフェロール、トコトリエノール等が挙げられる。
【0042】
本工程で得られるO/Wエマルションは上記組成のものが得られれば、いかなる方法によって形成されてもよい。
例えば、まず水に対してタンパク質、多糖類および水相用添加剤をそれぞれ所定量で溶解した後、所望により50℃以上、好ましくは50〜60℃に加熱してゾル化を行い、水相用溶液を得る。ゾル化はコアセルベーションを効率的に行う観点から、行うことが好ましい。次いで、油脂に対して、所望により、脂溶性物質および芯物質用添加剤をそれぞれ所定量で溶解し、芯物質用オイルを得る。その後、水相用溶液の一部または全部に、芯物質用オイルを撹拌しながら徐々に添加し、O/Wエマルションを得る。水相用溶液を一部しか使用していない場合は、得られたO/Wエマルションに対して水相用溶液の残部を添加する。本発明においては、粒子径を小さくする観点から、水相用溶液の一部に芯物質用オイルを添加し、クリーム状のO/Wエマルションを得た後、これに水相用溶液の残部を添加することが好ましい。水相用溶液の一部に芯物質用オイルを添加するときの配合比は、水相用溶液/芯物質用オイルの重量比で4/6〜2/8が好適である。
【0043】
本工程で得られるO/Wエマルションにおける芯物質の平均分散粒径を調整することにより、マイクロカプセルの平均粒径を制御できる。当該エマルション中における芯物質の平均分散粒径は5〜30μmが好適であり、より好ましくは5〜10μmである。
【0044】
上記したO/Wエマルションの形成方法において、タンパク質、多糖類および水相用添加剤は一括して水に溶解して水相用溶液を調製したが、これに制限されるものではなく、例えば、個々の成分ごとに水溶液を調製した後、混合してもよい。この場合、いずれか1つの成分の水溶液に対して芯物質用オイルを添加して、O/Wエマルションを形成し、その後、当該エマルションに対して残りの成分の水溶液を添加してもよい。
【0045】
工程(2);O/WエマルションのpHおよび温度を調整することにより、芯物質の表面にタンパク質および多糖類を含む被膜を形成する。
詳しくは、工程(1)で得られたエマルションを30〜50℃まで加温し、さらに水相のpHを、例えば、水相中に溶解されているタンパク質の等電点よりも酸性側のpHに調整し、その後、エマルションを冷却する。pHの調整によって、タンパク質が有する電荷が変化し、多糖類が有する電荷に対して逆極性の電荷を有するようになるので、タンパク質と多糖類とは静電的に引き合うところ、冷却によってそれらの成分が芯物質表面に付着する。その結果、芯物質の表面にタンパク質および多糖類を含む被膜が形成される。例えば、タンパク質としてゼラチンを使用し、多糖類としてアラビアガムを使用する場合、pHをゼラチンの等電点よりも酸性側のpHに調整すると、ゼラチンが正電荷を有するようになるので、負電荷を有するアラビアガムと静電的に引き合うようになる。
【0046】
本工程におけるpHの調整方法としては、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を添加する方法が挙げられる。
酸性水溶液としては、pHが7.0未満の水溶液であれば特に制限されず、例えば、クエン酸、酢酸、塩酸等の水溶液が挙げられる。人体や環境への影響および食品としての使用の観点から、クエン酸、酢酸等の水溶液が好ましく、より好ましくはクエン酸水溶液を用いる。
アルカリ性水溶液としては、pHが7.0超の水溶液であれば特に制限されず、例えば、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等の水溶液が挙げられる。人体や環境への影響および食品としての使用の観点から、炭酸水素ナトリウム水溶液が好ましい。
【0047】
冷却は、最終的な温度が0〜25℃になれば特に制限されず、好ましくは0〜10℃になるまで冷却を行う。冷却速度は0.1〜2℃/分が好適であり、より好ましくは0.25〜0.5℃/分である。
【0048】
工程(3);O/Wエマルションにタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを添加する。
詳しくは、O/Wエマルションの水相のpHを、本工程で使用されるポリフェノールが水相中に溶解し得るpHに調整した後、O/Wエマルションに当該ポリフェノールを添加する。
【0049】
エマルションの水相が達成されるべきpHはポリフェノールの種類に依存する。
例えば、タンニン酸が使用される場合、pHは5.5〜6.5、好ましくは6.0〜6.5に調整される。
また例えば、カテキンまたはクロロゲン酸が使用される場合、pHは4.0〜5.0、好ましくは4.1〜4.3に調整される。
【0050】
本工程におけるpHの調整方法としては、工程(2)におけるpHの調整方法と同様の方法が使用できる。
【0051】
このようにpHが調整されたエマルションの水相にポリフェノールを添加することにより、当該ポリフェノール1分子が有する複数の水酸基が被膜中の2分子以上のタンパク質と結合するので、被膜が緻密な構造を有するようになるものと考えられる。
【0052】
O/Wエマルション中におけるポリフェノールの添加量は、被膜中のタンパク質および多糖類の合計量(乾燥重量)に対するポリフェノールの含有量が上記範囲内であれば特に制限されず、通常はエマルション全量に対して0.4〜4.0重量%が好適であり、より好ましくは0.6〜1.2重量%である。
【0053】
工程(4);O/Wエマルションを凍結乾燥し、芯物質の含有量が前記範囲内の油脂含有マイクロカプセルを得る。
詳しくは、例えば、O/Wエマルションをバットに厚さ5〜12mmになるように充填し、凍結させ、その後100Pa以下の真空中で乾燥する。
【0054】
本工程においてマイクロカプセルは、凍結乾燥によって、綿状構造体の中にマイクロカプセルが分散されてなる形態で得られ、しかも綿状構造体はもろいため、容易にマイクロカプセルを取り出すことができる。通常は、凍結乾燥によって得られた乾燥物を粉砕機により解砕するだけで、マイクロカプセル粉末を得ることができる。
【0055】
粉砕機は従来より凍結乾燥物の粉砕に使用されているものが使用され、例えば、解砕式、フェザー式、ハンマー式、ピン式のもの等が使用できる。
【実施例】
【0056】
<実施例1>
以下の工程を順次、実施した。
【0057】
工程(1.1);
水428gに対して、ゼラチン9g、アラビアガム10g、アスコルビン酸パルミテート5gを溶解した後、55℃に加熱してゾル化させた。
工程(1.2);
DHA(タマ生化学社製)を芯物質用オイルとして用いた。工程(1.1)のゾル液42gを別のビーカーに入れ、これに芯物質用オイル100.5gを撹拌しながら徐々に加え、クリーム状の乳液を調製した。
工程(1.3);
工程(1.2)で得られたクリームに、工程(1.1)で得られたゾル液の残りを全量加えて懸濁させ、O/Wエマルションを得た。
【0058】
工程(2.1);
工程(1.3)で得られたエマルションを40℃まで加温し、10%クエン酸溶液で、水相のpHを4.0に調整した。
工程(2.2);
工程(2.1)で得られたエマルションを0.3℃/分の速度で20℃まで撹拌しながら冷却した。
【0059】
工程(3.1);
工程(2.2)で得られたエマルションに10%重曹液を添加し、水相のpHを6.2に調整した。
工程(3.2);
工程(3.1)で得られたエマルションにタンニン酸(富士化学(株)製)を4.4g加えてよく懸濁し、5分間保持した。
【0060】
工程(4);
工程(3.2)で得られたエマルションを凍結乾燥用バットに充填した後、冷凍庫(ホシザキ電機社製)により急速に凍結させ、真空凍結乾燥機(大川原製作所製)により乾燥を行った。得られた乾燥物は、綿状構造体の中にマイクロカプセルが分散されてなる形態を有していた。当該乾燥物を壊砕式の粉砕機(フェザーミル;ホソカワミクロン社製)により粉砕(解砕)し、マイクロカプセルを得た。
【0061】
<実施例2>
工程(3.1)においてpHを4.3に調整したこと、および工程(3.2)においてタンニン酸の代わりにカテキン(分子量290)を4.4g用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0062】
<実施例3>
工程(3.1)においてpHを4.3に調整したこと、および工程(3.2)においてタンニン酸の代わりにクロロゲン酸を4.4g用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0063】
<比較例1>
工程(3.1)および(3.2)を省略したこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0064】
<実施例4>
工程(1.2)において芯物質用オイルとしてDHAを150g用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0065】
<比較例2>
工程(3.1)および(3.2)を省略したこと以外、実施例4と同様の方法により、マイクロカプセルを製造したところ、凍結乾燥工程においてカプセルの崩壊が起こり、ペースト形態を有した。
【0066】
<実施例5>
工程(1.2)において芯物質用オイルとしてDHAを30g用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0067】
<比較例3>
工程(3.1)および(3.2)を省略したこと以外、実施例5と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0068】
<実施例6>
工程(1.1)においてアラビアガムの代わりにジェランガムを10g用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0069】
<実施例7>
工程(1.1)においてアラビアガムの代わりにアルギン酸ナトリウムを10g用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造した。
【0070】
<比較例4>
工程(3.1)においてpHを6.0に調整したこと、工程(3.2)においてタンニン酸の代わりにトランスグルタミナーゼ製剤(味の素社)を4.4g用いたこと、工程(3.2)と工程(4)との間で、加熱90℃、5分を行ってトランスグルタミナーゼを失活させたこと以外、実施例1と同様の方法により、マイクロカプセルを製造したところ、凍結乾燥工程においてカプセルの崩壊が起こり、ペースト形態を有した。
【0071】
[評価]
以下の項目について評価した。
【0072】
(マイクロカプセル中における芯物質の含有量の測定方法)
マイクロカプセルパウダー10gをジエチルエーテル100ml中に懸濁して超音波を10分あてた後、濾過して被膜物質を除去し、濾液を蒸発させて蒸発皿上に残った液を芯物質として重量を測定した。マイクロカプセルパウダー全量に対する割合として芯物質の含有量を求めた。
【0073】
(マイクロカプセルの平均粒径の測定方法)
マイクロカプセルパウダー1gを蒸留水10mlに分散させた後、1滴とってプレパラートを作成し、光学顕微鏡にて観察し、撮影した。その写真データを粒子解析ソフトにより解析して、粒子300個の平均値として粒子径を求めた。
【0074】
(被膜の膜厚の測定方法)
前記マイクロカプセルの平均粒径の測定方法と同様に粒子を写真データにし、被膜の厚さを解析ソフトにて解析して、粒子300個の平均値を求めた。また、膜厚の比率とは「膜厚(μm)/カプセル粒子の半径(μm)」のことである。
【0075】
(マイクロカプセルの耐酸化性の評価方法)
ランシマット法に基づくCDM試験機(メトローム社製)により誘導時間を測定することにより、耐酸化性を評価した。誘導時間が長いほど、耐酸化性に優れていることを示す。
詳しくは、マイクロカプセルパウダー1gを流動パラフィン5mlに分散させたものを上記CDM試験機に供することにより、強制酸化しながら、揮発性分解物を水中に捕集し、捕集水の導電率の経時変化を測定した。時間(横軸)−導電率(縦軸)グラフにおいて、導電率が急激に変化した点における時間を誘導時間とした。
対照としてカプセル化しないオイルに対して当該評価を行った場合の耐酸化性誘導時間は2.71時間であった。
【0076】
(架橋材のタンパク質収斂試験)
各架橋材について前記した方法により、タンパク質収斂試験を行い、沈殿物の乾燥重量を測定した。
【0077】
【表1】

【0078】
表中の記号は以下の通りである。
*;比較例2,4ではマイクロカプセルの乾燥を達成できなかった。
(1)架橋材のタンパク質収斂試験時における沈殿物の乾燥重量であり、架橋材使用量(乾燥重量)に対する値である。
(2)被膜中における架橋材の配合量であり、タンパク質および多糖類の合計量に対する値である。
(3)マイクロカプセル全量に対する値である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を含む芯物質の表面に、タンパク質、多糖類およびタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを含有する被膜を有することを特徴とする油脂含有マイクロカプセル。
【請求項2】
ポリフェノールが、以下のタンパク質収斂試験を行ったときに乾燥重量で250重量%以上の沈殿物を生じるポリフェノールである請求項1に記載の油脂含有マイクロカプセル;
(タンパク質収斂試験)
温度30℃および濃度1重量%の当該ポリフェノール水溶液を5mLで、温度30℃および濃度5重量%のタンパク質水溶液50mLに対して添加し、1分間の混合および1分間の保持を行ったときに生じる沈殿物の重量(乾燥重量)を測定し、当該測定値をポリフェノール使用量(乾燥重量)に基づく値として表す。
【請求項3】
ポリフェノールが分子量200〜1500を有する請求項1または2に記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項4】
ポリフェノールが、タンニン酸、カテキン、クロロゲン酸およびそれらの類縁体ならびにそれらの混合物からなる群から選択される請求項1〜3のいずれかに記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項5】
タンパク質がゼラチンであり、多糖類がアラビアガム、ジェランガムまたはアルギン酸ナトリウムである請求項1〜4のいずれかに記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項6】
油脂が融点25℃以下を有する請求項1〜5のいずれかに記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項7】
芯物質が脂溶性物質をさらに含む請求項1〜6のいずれかに記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項8】
脂溶性物質が、多価不飽和脂肪酸、ビタミン類、カロチノイド色素、および代謝促進物質からなる群から選択される1種以上の物質である請求項7に記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項9】
芯物質の含有量が50〜80重量%である請求項1〜8のいずれかに記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項10】
油脂含有マイクロカプセルの平均粒径が5〜50μmである請求項1〜9のいずれかに記載の油脂含有マイクロカプセル。
【請求項11】
以下の工程を含む油脂含有マイクロカプセルの製造方法;
(1)タンパク質および多糖類が溶解された水相中に、油脂を含む芯物質が分散されてなるO/Wエマルションを調製する工程;
(2)O/WエマルションのpHおよび温度を調整することにより、芯物質の表面にタンパク質および多糖類を含む被膜を形成する工程;
(3)O/Wエマルションにタンパク質収斂作用を有するポリフェノールを添加する工程;および
(4)O/Wエマルションを凍結乾燥し、油脂含有マイクロカプセルを得る工程。

【公開番号】特開2013−53086(P2013−53086A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191273(P2011−191273)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(390000664)日本ジフィー食品株式会社 (5)
【Fターム(参考)】