説明

油脂或いは撥水剤を含むアクチュエータ素子

【課題】変形量が大きく、長時間通電しても変形量が大きく変化しないアクチュエータの創出。
【解決手段】カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される導電性薄膜であって、前記高分子ゲルの内部もしくは表面に油脂及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、導電性薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜、電解質膜、これらの積層体及びアクチュエータ素子に関する。ここでアクチュエータ素子は、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
【背景技術】
【0002】
空中、あるいは真空中で作動可能なアクチュエータ素子として、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルを導電性の伸縮性のある活性層として用いるアクチュエータが提案されている(特許文献1)。
【0003】
従来の素子の構造は、イオン液体ゲルを電解質層としてカーボンナノチューブとイオン液体とポリマーを含む電極層でサンドイッチ構造にしたものである。この素子は、変形の立ち上がり速度が早い点で優れているが、長時間通電すると変形量が縮小することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−176428
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アクチュエータ素子の更なる高機能化を目指して、変形量が大きく、長時間通電しても変形量が大きく変化しないアクチュエータの創出を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑み検討を重ねた結果、アクチュエータ素子を構成する導電性薄膜と電解質膜の内部もしくは界面に油脂及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させることで、変形量の縮小(変形の戻り現象)が抑制され、最大変位が増大することを見出した。また、イオン液体およびポリマーからなる電解質膜中のイオン液体濃度を調整することによっても、変形量の縮小(変形の戻り現象)が抑制され、最大変位が増大することを見出した。
【0007】
本発明は、以下の導電性薄膜、電解質膜、これらの積層体及びアクチュエータ素子に関する。
項1. カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される導電性薄膜であって、前記高分子ゲルの内部もしくは表面に油脂及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、導電性薄膜。
項2. 油脂がサラダ油、白絞油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、こめ油、糠油、椿油、ベニバナ油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油、荏油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、エチレン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ミツロウ、ライスワックス、水素添加加工油脂、ポリグリセリン縮合(ポリ)リシノール酸エステル、リン脂質、レシチン、卵黄レシチン、リゾレシチン、ダイズレシチン、有機酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、サポニン、キラヤサポニン、コハク酸モノグリセリド、コハク酸ジグリセリドからなる群から選択される、項1に記載の導電性薄膜。
項3. 撥水剤がフッ素系オイル、フルオロシリコーンオイルまたはシリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の導電性薄膜。
項4. 前記導電性薄膜がさらに導電補助剤を含む項1〜3のいずれかに記載の導電性薄膜。
項5. 導電補助剤が導電性高分子、炭素粒子およびメソポーラス無機材料からなる群から選択される、項4に記載の導電性薄膜。
項6. イオン液体およびポリマーを含む電解質膜であって、前記電解質膜の内部もしくは表面に油脂及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、電解質膜。
項7. ポリマーを含む電解質膜であって、前記電解質膜が0〜10質量%のイオン液体を含む、電解質膜。
項8. 前記電解質膜が2〜5質量%のイオン液体を含む、項7に記載の電解質膜。
項9. カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される1又は2以上の導電性薄膜とイオン液体およびポリマーを含む1又は2以上の電解質膜を積層してなる積層体であって、前記導電性薄膜が項1〜5のいずれかに記載の導電性薄膜、及び/又は前記電解質膜が項6に記載の電解質膜である、積層体。
項10. カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される1又は2以上の導電性薄膜とポリマーを含む1又は2以上の電解質膜を積層してなる積層体であって、前記電解質膜が項7又は8に記載の電解質膜である、積層体。
項11. 項9又は10の積層体からなるアクチュエータ素子。
項12. 電解質膜の表面に、項1〜5のいずれかに記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている項11に記載のアクチュエータ素子。
項13. 項7又は8に記載の電解質膜の表面に、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている項11に記載のアクチュエータ素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油脂及び/又は撥水剤を使用すること、あるいは電解質膜のイオン液体の割合を特定の範囲にすることで、変形の戻り現象が抑制され、かつ、伸縮率および発生力が向上したアクチュエータ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例でアクチュエータ素子変位評価法に用いたレーザー変位計を示す。
【図2】(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
【図3】本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。
【図4】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す図である。
【図5】油脂または撥水剤の使用による、変形の戻り現象の抑制と変形量の向上。
【図6】電解質膜中のイオン液体量を調整することによる戻り現象の改善と変形量の向上。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アクチュエータ素子の導電性薄膜及び電解質膜の一方又は両方に油脂及び/又は撥水剤が使用される。アクチュエータ素子の電極層に使用する導電性薄膜には、カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体が含まれ、さらに油脂及び/又は撥水剤が使用され得る。また、電解質膜にはポリマー、イオン液体が含まれ、さらに油脂及び/又は撥水剤が使用され得る。
【0011】
本発明に用いられる油脂としては、サラダ油、白絞油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、こめ油、糠油、椿油、ベニバナ油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油、荏油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油などの脂肪油、カカオバター、パーム油、ラード、牛脂、鶏油、羊脂、馬脂、ショートニング、乳脂肪、バター、マーガリン、ギー、硬化油などの常温で固体の脂肪、潤滑油、ひまし油、グリース、切削油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、エチレン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ミツロウ、ライスワックス、水素添加加工油脂、ポリグリセリン縮合(ポリ)リシノール酸エステル、リン脂質、レシチン、卵黄レシチン、リゾレシチン、ダイズレシチン、有機酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、サポニン、キラヤサポニン、コハク酸モノグリセリド、コハク酸ジグリセリドなどを用いることができ、好ましくは常温で液体の脂肪油が挙げられる。常温で固体の油脂は、加熱溶解するか、イオン液体を含む溶剤又は脂肪油に溶解させて使用することができる。
【0012】
撥水剤としては、フッ素系オイル、フルオロシリコーンオイル、シリコーンオイル、フッ素系ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などからなる撥水成分および撥水持続性を上げるために、それら撥水成分にイソプロピルアルコールやエチルアルコールが配合されたもの等を挙げることができる。
【0013】
フッ素系オイルとしては、パーフルオロポリエーテルやクロロトリフルオロエチレンの重合体、その他特定のフッ素化炭化水素化合物等が挙げられ、具体的には、デムナムS−20(ダイキン工業社製)、ダイフロイル#20(ダイキン工業社製)等を挙げることができる。
【0014】
フルオロシリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖又は末端にフルオロアルキル基を含有するものである。更に具体的には、FS−1265(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、X−22−819(信越化学工業社製)、FL100(信越化学工業社製)等を挙げることができる。
【0015】
シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチル塩化シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、有機変性シリコーンオイル等を挙げることができ、例えば、PRX413(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、SF8417(同)、SF8418(同)、BY16−855B(同)、SF8427(同)、SF8428(同)、X−22−161C(信越化学工業社製)、KF−857(同)、KP−358(同)、KP−359(同)等を挙げることができる。シリコーンオイルなどのオイルは撥水性が高く、比較的粘度が低いものが有効である。
【0016】
油脂と撥水剤は、各々単独で、或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
本発明の1つの好ましい実施形態において、油脂及び/又は撥水剤は、導電性薄膜と電解質膜の界面に存在させることができる。具体的には、導電性薄膜の電解質膜側及び/又は電解質膜の片面又は両面(好ましくは両面)に油脂及び/又は撥水剤を塗布し、導電性薄膜と電解質膜を圧着するなどの手段により導電性薄膜と電解質膜の界面に油脂及び/又は撥水剤の層を存在させることができる。導電性薄膜と電解質膜の両方に油脂及び/又は撥水剤を塗布し、得られた層を重ねてもよいが、一方のみに塗布すれば十分である。
【0018】
この油脂及び/又は撥水剤の層は、導電性薄膜と電解質膜の接触部分の全面に形成してもよく、中心部分、或いは周辺部分など、一部のみに形成してもよい。油脂及び/又は撥水剤の層は、イオンの移動を制限すると考えられ、応答速度と発生力の増大、戻り変位の抑制などを考慮して油脂及び/又は撥水剤の層の範囲(全面、一部)、層厚などを選択できる。油脂及び/又は撥水剤の層の厚さは、0.5〜50μm程度、好ましくは1〜30μm程度である。
【0019】
油脂と撥水剤は、導電性薄膜と電解質膜の一方又は両方の膜内に含ませてもよい。この場合、油脂及び/又は撥水剤は、各膜において0.5〜20質量%程度、好ましくは1〜10質量%程度である。これらの配合量が多すぎるとイオンの移動が制限され、応答速度が遅くなり、少なすぎると効果がない。
【0020】
油脂と撥水剤は、導電性薄膜または電解質膜の膜内で、溶解していてもよく、分散していてもよい。
【0021】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。
【0022】
本発明においては、各種公知のイオン液体を使用することができるが、常温(室温)または常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明において用いられる好適なイオン液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X)より成るものが挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
[NR4−x (III)
[PR4−x (IV)
【0025】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは直鎖又は分枝を有するC〜C12アルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてRは直鎖又は分枝を有するC〜Cアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとRは同一ではないことが好ましい。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。
【0026】
直鎖又は分枝を有するC〜C12アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの基が挙げられる。炭素数は好ましくは1〜8,より好ましくは1〜6である。
【0027】
直鎖又は分枝を有するC〜Cアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルが挙げられる。
【0028】
エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、CH2OCH3、(CH2)p(OCH2CH2)qOR2(ここで、pは1〜4の整数、qは1〜4の整数、R2はCH3又はC2H5を表す)が挙げられる。
【0029】
アニオン(X)としては、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)、BF3CF3-、BF3C2F5-、BF3C3F7-、BF3C4F9-、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン((CF3SO2)2N-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン(CF3SO2)3C-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)、ジシアンアミドイオン((CN)2N-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)、有機カルボン酸イオンおよびハロゲンイオンが例示できる。
【0030】
これらのうち、イオン液体としては、例えば、カチオンが1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、[N(CH3)(CH3)(C2H5)(C2H4OC2H4OCH3)]+、アニオンがハロゲンイオン、テトラフルオロホウ酸イオンのものが、具体的に例示できる。なお、カチオン及び/又はアニオンを2種以上使用し、融点をさらに下げることも可能である。
【0031】
ただし、これらの組み合わせに限らず、イオン液体であって、導電率が0.1Sm-1以上のものであれば、使用可能である。
【0032】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。
【0033】
実用に供されるカーボンナノチューブの好適な例として、一酸化炭素を原料として比較的量産が可能なHiPco(ユニダイム社製)が挙げられるが、勿論、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明に用いられるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、PTFE、PTFE(HFP)など、テトラフルオロエチレンおよびそのヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、アクチュエータ素子の電極層に使用される導電性薄膜層は、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマー及び油脂及び/又は撥水剤(薄膜層の内部もしくは表面)から構成される。
【0036】
導電性薄膜中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
カーボンナノチューブ:
3〜90質量%、好ましくは16.6〜70質量%、より好ましくは20〜50質量%;
イオン液体:
5〜 80質量%、好ましくは15〜 73.4質量%、より好ましくは20〜69質量%;
ポリマー:
4〜70質量%、好ましくは10〜68.4質量%、より好ましくは11〜64質量%;
である。
【0037】
油脂及び/又は撥水剤は、導電性薄膜に使用される場合、カーボンナノチューブ、イオン液体及びポリマーの合計量100質量部に対し0.5〜20質量部、好ましくは1〜10質量部配合される。
【0038】
油脂及び/又は撥水剤は、電解質膜に使用される場合、イオン液体及びポリマーの合計量100質量部に対し0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部配合される。
【0039】
なお、油脂及び/又は撥水剤の上記配合量は、油脂及び/又は撥水剤を導電性薄膜と電解質膜の界面に塗布して膜を形成させるときの配合量としても適用することができる。
【0040】
電解質膜はポリマーを必須成分として含み、イオン液体は任意成分として含まれる。
【0041】
電解質膜中のこれらの成分の好ましい配合割合は、油脂又は撥水剤をアクチュエータ素子あるいは導電性薄膜と電解質膜の積層体に使用する場合、
イオン液体:
0〜 80質量%、好ましくは0.5〜60質量%、より好ましくは1〜50質量%
ポリマー:
100〜20質量%、好ましくは99.5〜40質量%、より好ましくは99〜50質量%
である。
【0042】
電解質膜中のこれらの成分の好ましい配合割合は、油脂又は撥水剤をアクチュエータ素子あるいは導電性薄膜と電解質膜の積層体に使用しない場合、
イオン液体:
0〜30質量%、好ましくは1〜25質量%、より好ましくは2〜5質量%
ポリマー:
100〜70質量%、好ましくは99〜75質量%、より好ましくは98〜95質量%
である。
【0043】
本発明の導電性薄膜は、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマーに加えて導電補助剤を含んでいてもよい。
【0044】
導電補助剤としては、導電性高分子、メソポーラス無機材料、酸化ルテニウム(RuO2)などの金属酸化物、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、人造黒鉛、炭素繊維、ファーネスブラック,チャンネルブラック,ランプブラック、サーマルブラックなどの炭素粒子、金微粒子などが挙げられる。
【0045】
導電補助剤の添加により電極の電子導電性の向上、および、CNTとポリマーが形成する高分子の網の目の充填化、さらに発生圧力の向上が期待できる。
【0046】
導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(1,6−ヘプタジイン)、ポリビフェニレン(ポリパラフェニレン)、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリフェニルアセチレン、ポリ(2,5−チエニレン)、ポリインドール、ポリ−2,5−ジアミノアントラキノン、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(キノリニウム)塩、ポリ(イソキノリニウム)塩、ポリピリジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン等を挙げることができる。これらの導電性高分子は、種々の置換基を有していてもよい。このような置換基の具体例として、例えば、直鎖又は分枝を有するC〜C12アルキル基、水酸基、直鎖又は分枝を有するC〜C12アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、直鎖又は分枝を有するC〜C12アルキルスルホン酸基、ジ(直鎖又は分枝を有するC〜Cアルキル)アミノ基等を挙げることができる。
【0047】
メソポーラス無機材料は、一次元細孔が規則的に配列した構造を有するメソポーラス無機材料である。「一次元細孔が規則的に配列した構造」とは、均一な孔径を有し、一次元細孔が規則的に配列された構造であれば特に限定されることはない。規則的に配列されたとは、細孔が一軸配向性を有して整列していることを意味する。均一な孔径とは、各細孔の孔径が一定の範囲内であることをいう。孔径の大きさは適宜設定し得るが、通常1〜30nm、好ましくは1.5〜15nmである。細孔の大きさは、界面活性剤を変えることにより作り分けることができる。一次元細孔が規則的に配列した構造としては、具体的には、ヘキサゴナル構造、オルソロンビック構造、モノクリニック構造が挙げられる。
【0048】
このようなメソポーラス無機材料は、規則的な細孔構造を形成し得る界面活性剤を鋳型として調製することができる。
【0049】
メソポーラスの無機材料としては、適宜所望のものを用いることができる。例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、リン酸スズ、リン酸ニオブ、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、ならびにそれらの酸化物、窒化物、硫化物、セレン化物、テルル化物又は複合酸化物、複合塩などを用いることができる。これらのうち、特にシリカ等の含ケイ素酸化物が耐熱性、耐薬品性、及び機械的特性に優れる点で好ましい。
【0050】
好ましいメソポーラス無機材料は、MCM-41である。MCM-41は、CNTと同程度の空孔径(2.7nm)、比表面積(〜1000m2/g)を持つ規則構造体(ハニカム構造)であり、CNTの添加量を少なくでき、コスト的に有利であるばかりでなく、イオン液体を効率よく移動させる一次元チャンネルとしても機能できる。理論に拘束されることを望まないが、本発明者は、メソポーラス無機材料はカチオンの効率的な吸着もしくは電極の鋳型に使用できると考えている。
【0051】
アクチュエータ素子の電極層に使用される導電性薄膜層は、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマー及び導電補助剤から構成され得る。
【0052】
導電性薄膜層中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
カーボンナノチューブ:
3〜90重量%、好ましくは16.6〜70重量%、より好ましくは20〜50重量%;
イオン液体:
5〜 80重量%、好ましくは15〜 73.4重量%、より好ましくは20〜69重量%;
ポリマー:
4〜70重量%、好ましくは10〜68.4重量%、より好ましくは11〜64重量%;
である。
導電補助剤は、カーボンナノチューブ、イオン液体及びポリマーの合計量100重量部に対し3〜90重量部、好ましくは10〜72.5重量部、より好ましくは15〜65重量部配合される。
【0053】
本発明のアクチュエータ素子としては、例えば、電解質膜1を、その両側から、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマー(必要に応じてさらに油脂及び/又は撥水剤)を含む導電性薄膜層(電極層)2,2で挟んだ3層構造のものが挙げられる(図2A) 。電解質膜に油脂及び/又は撥水剤を含んでいてもよく、その場合には導電性薄膜層に油脂及び/又は撥水剤を含まなくてもよい。また、油脂及び/又は撥水剤は電解質膜1と導電性薄膜層(電極層)2,2の界面に存在させてもよい。
【0054】
また、電極の表面伝導性を増すために、電極層2,2の外側にさらに導電層3,3が形成された5層構造のアクチュエータ素子であってもよい(図2B) 。
【0055】
電解質膜の表面に導電性薄膜を積層してアクチュエータ素子を得るには、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマー(必要に応じてさらに油脂及び/又は撥水剤)を溶媒に分散した電極用ゲル溶液とイオン液体およびポリマー(必要に応じてさらに油脂及び/又は撥水剤)からなる電解質用ゲル溶液を交互にキャスト法により塗布、乾燥、積層することにより行うか、もしくは、上記のようにキャスト、乾燥することにより得た電解質膜の表面に、同様に別途、キャスト、乾燥することにより得た導電性薄膜を熱圧着することにより得ることが出来る。
【0056】
図2の3層構造のアクチュエータ素子において、油脂及び/又は撥水剤を電解質膜と導電性薄膜の界面に存在させる場合、導電性薄膜に対しては2枚の膜の片面に塗布すればよく、電解質膜の場合は両面に塗布してもよく、電解質膜を油脂及び/又は撥水剤の液に浸漬し、乾燥して、1工程で両面に油脂及び/又は撥水剤の層を形成してもよい。
【0057】
本発明では、カーボンナノチューブとイオン液体、ポリマー(必要に応じてさらに油脂及び/又は撥水剤)を含む導電性薄膜の調製において、各成分を均質に混合するのが重要である。各成分が均質混合された分散液を調製するためには、溶媒を用いるのが好ましく、例えば疎水性溶媒と親水性溶媒の混合溶媒を使用するのが特に好ましい。
【0058】
親水性溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メタノール、エタノールなどの炭素数1〜3の低級アルコール、アセトニトリル等が挙げられる。疎水性溶媒としては、4−メチルペンタン−2−オンなどの炭素数5〜10のケトン類、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0059】
本発明の導電性薄膜を製造するための分散液は、イオン液体とカーボンナノチューブ(必要に応じてさらに油脂及び/又は撥水剤)を混練してゲル化させ、その後ポリマーと溶剤(例えば、イオン液体が親水性の場合には、親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒、イオン液体が疎水性の場合には、疎水性溶媒)を加えて分散液を調製してもよく、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマー及び必要に応じて溶剤(例えば、イオン液体が親水性の場合には、親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒、イオン液体が疎水性の場合には、疎水性溶媒)、油脂及び/又は撥水剤を加え、ゲル化のプロセスなしに分散液を調製してもよい。その場合、各成分を混合するのに超音波による分散も有効である。
【0060】
いったんゲル化させた後に分散液を調製する場合、混合溶媒の割合としては、親水性溶媒:疎水性溶媒(質量比)=20:1〜1:10であるのが好ましく、2:1〜1:5であるのがより好ましい。
【0061】
また、ゲル化のプロセスなしに分散液を調製する場合、親水性溶媒(PC)/疎水性溶媒(MP)=1/100〜20/100が好ましく、より好ましくは3/100〜15/100である。単一溶媒を用いることもでき、その場合、N, N-ジメチルアセトアミドもしくはN-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0062】
導電性薄膜は、カーボンナノチューブ、イオン液体及びポリマー(必要に応じてさらに油脂及び/又は撥水剤)を含む高分子ゲルから構成される。
【0063】
導電性薄膜中の(カーボンナノチューブ+イオン液体)と(ポリマー)の配合比(質量比)は、(カーボンナノチューブ+イオン液体):(ポリマー)=1:2〜4:1であるのが好ましく、(カーボンナノチューブ+イオン液体):(ポリマー)=1:1〜3:1であるのがより好ましい。この配合の際には、親水性溶媒と疎水性溶媒との混合溶媒を用いる。カーボンナノチューブとイオン液体を混合して予めゲルを形成し、このゲルにポリマーと溶媒(好ましくは疎水性溶媒)を混合して導電性薄膜調製用の分散液を得ることもできる。この場合、(カーボンナノチューブ+イオン液体):(ポリマー)は、より好ましくは1:1〜3:1である。
【0064】
なお、導電性薄膜には溶媒(疎水性溶媒と親水性溶媒)が若干含まれていてもよいが、通常の乾燥条件において除去可能な溶媒はできるだけ除去しておくのが好ましい。
【0065】
イオン伝導層(電解質膜)を構成するゲル状組成物は、ポリマーと任意成分としてのイオン液体(必要に応じてさらに油脂及び/又は撥水剤)から構成される。好ましいイオン伝導層は、このゲル状組成物を得る際の親水性イオン液体とポリマーの配合比(質量比)が、親水性イオン液体:ポリマー=1:4〜4:1であるのが好ましく、親水性イオン液体:ポリマー=1:2〜2:1であるのがより好ましい。この配合の際にも、上記と同様に、親水性溶媒と疎水性溶媒とを任意の割合で混合した溶媒を用いるのが好ましい。
【0066】
2つ以上の導電性薄膜を分離するセパレーターの役割を果たすイオン伝導層は、ポリマーを溶媒に溶解し、塗布、印刷、押し出し、キャスト、射出などの常法に従い形成することができる。イオン伝導層は、実質的にポリマーのみで形成してもよく、イオン液体をポリマーに加えて形成してもよい。
【0067】
導電性薄膜層とイオン伝導層に使用するポリマーは同一であっても異なっていてもよいが、両者は同一であるか、性質の類似したポリマーであるのが、導電性薄膜層とイオン伝導層の密着性を向上させるのに好ましい。
【0068】
電解質膜の厚さは、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより好ましい。導電性薄膜層の厚さは、10〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、各層の製膜にあたっては、スピンコート、印刷、スプレー等も用いることができる。さらに、押し出し法、射出法等も用いることができる。
【0069】
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間(電極は導電性薄膜層に接続されている)に0.5〜4Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長の0.05〜1倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、空気中あるいは真空中で、柔軟に作動することができる。
【0070】
このようなアクチュエータ素子の作動原理は、図3に示すように、電解質膜1の表面に相互に絶縁状態で形成された導電性薄膜層2,2に電位差がかかると、導電性薄膜層2,2内のカーボンナノチューブ相とイオン液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、導電性薄膜層2,2が伸縮するためである。図3に示すように、プラス極側に曲がるのは、量子化学的効果により、カーボンナノチューブがマイナス極側でより大きくのびる効果があることと、現在よく用いられるイオン液体では、カチオン4のイオン半径が大きく、その立体効果によりマイナス極側がより大きくのびるからであると考えられる。図3において、4はイオン液体のカチオンを示し、5はイオン液体のアニオンを示す。
【0071】
上記の方法で得ることのできるアクチュエータ素子によれば、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルの界面有効面積が極めて大きくなることから、界面電気二重層におけるインピーダンスが小さくなり、カーボンナノチューブの電気伸縮効果が有効に利用される効果に寄与する。また、機械的には、界面の接合の密着性が良好となり、素子の耐久性が大きくなる。その結果、空気中、真空中で、応答性がよく変位量の大きい、且つ耐久性のある素子を得ることができる。しかも、構造が簡単で、小型化が容易であり、小電力で作動することができる。さらに、カーボンナノチューブに導電性の添加剤を加えることにより、電極膜の導電性および充填率が向上し、従来の同様の素子より、効率的に力の発生が起こる。
【0072】
本発明のアクチュエータ素子は、空気中、真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツ、床ずれ防止用などの医療、福祉用ロボット、ブレーキ、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0073】
特に、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、純度の高い製品を得るために、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、全く蒸発しないイオン液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
【0074】
なお、電解質膜表面への導電性薄膜層の形成は少なくとも2層必要であるが、図4に示すように、平面状の電解質膜1の表面に多数の導電性薄膜層2を配置することにより、複雑な動きをさせることも可能である。このような素子により、蠕動運動による運搬や、マイクロマニピュレータなどを実現可能である。また、本発明のアクチュエータ素子の形状は、平面状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。例えば、図4に示すものは、径が1mm程度の電解質膜1のロッドの周囲に4本の導電性薄膜層2を形成したものである。この素子により、細管内に挿入できるようなアクチュエータが実現可能である。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0076】
なお、本実施例において、アクチュエータ素子変位評価は、以下のようにして行った。
【0077】
アクチュエータ素子変位評価法:図1に示す様にレーザ変位計を用い、素子を1mmx10mmもしくは2mmx10mmの短冊状に切り取り、電圧を加えた時の5mmの位置の変位を測定した。
【0078】
実施例および比較例で用いたイオン液体(IL)は、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF)である。
【0079】
実施例および比較例で用いたカーボンナノチューブは、高純度単層カーボンナノチューブ(ユニダイム社製「HiPco」)(以下、SWCNTともいう)である。
【0080】
実施例および比較例で用いたポリマーは、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP);商品名kynar2801](III)である。
【0081】
【化2】

【0082】
実施例および比較例で用いた溶媒はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)である。
【0083】
実施例で用いた油脂は、サラダ油(日清オイリオグループ株式会社製)である。
【0084】
実施例で用いた撥水剤は、商品名スコッチガード(住友スリーエム株式会社製)である。
【0085】
調製例1
[導電性薄膜層形成用分散液の調製]
DMAC溶媒中に、カーボンナノチューブ(SWNT)とイオン液体(IL)、ポリマー[粉末状PVDF(HFP)]を分散させて、マグネチックスターラーにて撹拌、その後、超音波による分散を行うことにより導電性薄膜層形成用分散液を調製する。
【0086】
[電解質膜形成用溶液の調製]
イオン液体(IL)とポリマー[粉末状PVDF(HFP)]を、上記導電性薄膜層形成用分散液の調製と同様にして、溶媒に溶解させることにより、電解質膜形成用溶液を調製する。ここで溶媒は、4−メチルペンタン−2−オンとプロピレンカーボネートとの混合溶媒を用いた。
【0087】
[アクチュエータ素子の製造]
導電性薄膜、電解質膜は、それぞれ上記のように調製した分散液および溶液を、別々にキャストし、室温で一昼夜溶媒を乾燥させ、次いで、真空乾燥を行うことにより得る。2枚の導電性薄膜の表面に油脂又は撥水剤を塗布して層を形成し、導電性薄膜の油脂層/撥水剤層を電解質膜側にして導電性薄膜2枚の間に、電解質膜を1枚挟んで熱圧着することにより3層構造のアクチュエータ素子を得る。
【0088】
[アクチュエータ素子の評価方法]
製造したアクチュエータ素子の変位応答性の評価は、図1に示した装置を用いて行った。アクチュエータ素子を、幅2mm×長さ10mmの短冊状に切断し、端3mmの部分を電極付きホルダーでつかんで、空気中で電圧を加え、レーザ変位計を用いて、固定端から5mmの位置での変位を測定して行った。電圧の周波数を200Hz〜5mHzで変化させて調べた。また、長時間のアクチュエータ素子の耐久性については、+2.0Vの一定電圧を印加し続けることにより評価した。
【0089】
実施例1及び2(油脂または撥水剤によるコーティング)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(SWCNT)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−(油脂層又は撥水剤層)−電解質膜−(油脂層又は撥水剤層)−導電性薄膜層(電極)からなる、5層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。導電性薄膜の片面には、油脂(重量0.12mg)(実施例1)または撥水剤(重量1.0mg)(実施例2)を塗布し、油脂層又は撥水剤層を電解質膜に重ねて圧着した。
電極膜組成:SWCNT/PVDF(HFP)/ EMIBF4= 50.2mg/80.1mg/120.2mg
電極膜組成比:20.04wt%/31.98wt%/47.98wt%
電解質膜組成:PVDF(HFP)/ EMIBF4= 200.3mg/200.1mg
電解質膜組成比:50.02wt%/49.98wt%
【0090】
実施例3(電極膜は実施例1,2の基準膜と同様の組成で、電解質膜中のイオン液体が0wt%の場合)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(SWCNT)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を実施例3のアクチュエータ素子として使用した。
電極膜組成:SWCNT/PVDF(HFP)/ EMIBF4= 50.1mg/80.1mg/120.5mg
電極膜組成比:19.98wt%/31.95wt%/48.07wt%
電解質膜組成:PVDF(HFP)/ EMIBF4= 200.1mg/0.0mg
電解質膜組成比:100.00wt%/0.00wt%
【0091】
実施例4(電極膜は実施例1,2の基準膜と同様の組成で、電解質膜中のイオン液体が1wt%の場合)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(SWCNT)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を実施例4のアクチュエータ素子として使用した。
電極膜組成:SWCNT/PVDF(HFP)/ EMIBF4= 25.26mg/40.4mg/60.2mg
電極膜組成比:20.07wt%/32.10wt%/47.83wt%
電解質膜組成:PVDF(HFP)/ EMIBF4= 200.3mg/2.1mg
電解質膜組成比:98.96wt%/1.04wt%
【0092】
実施例5(電極膜は実施例1,2の基準膜と同様の組成で、電解質膜中のイオン液体が2wt%の場合)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(SWCNT)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を実施例5のアクチュエータ素子として使用した。
電極膜組成:SWCNT/PVDF(HFP)/ EMIBF4= 50.1mg/80.1mg/120.4mg
電極膜組成比:19.99wt%/31.96wt%/48.04wt%
電解質膜組成:PVDF(HFP)/ EMIBF4= 200.1mg/4.1mg
電解質膜組成比:97.99wt%/2.01wt%
【0093】
実施例6(電極膜は実施例1,2の基準膜と同様の組成で、電解質膜中のイオン液体が5wt%の場合)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(SWCNT)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を実施例6のアクチュエータ素子として使用した。
電極膜組成:SWCNT/PVDF(HFP)/ EMIBF4= 50.1mg/80.1mg/120.4mg
電極膜組成比:19.99wt%/31.96wt%/48.04wt%
電解質膜組成:PVDF(HFP)/ EMIBF4= 200.4mg/10.8mg
電解質膜組成比:94.89wt%/5.11wt%
【0094】
実施例7(電極膜は実施例1,2の基準膜と同様の組成で、電解質膜中のイオン液体が10wt%の場合)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(SWCNT)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を実施例7のアクチュエータ素子として使用した。
電極膜組成:SWCNT/PVDF(HFP)/ EMIBF4= 25.26mg/40.4mg/60.2mg
電極膜組成比:20.07wt%/32.10wt%/47.83wt%
電解質膜組成:PVDF(HFP)/ EMIBF4= 200.3mg/22.3mg
電解質膜組成比:89.98wt%/10.02wt%
【0095】
比較例1
以下の比率で、カーボンナノチューブ(SWCNT)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を比較例1のアクチュエータ素子として使用した。
電極膜組成:SWCNT/PVDF(HFP)/EMIBF4= 50.1mg/80.1mg/120.5mg
電極膜組成比:19.98wt%/31.95wt%/48.07wt%
電解質膜組成:PVDF(HFP)/ EMIBF4= 200.2mg/200.3mg
電解質膜組成比:49.99wt%/50.01wt%
【0096】
試験例1
実施例1〜7および比較例1で得られたアクチュエータ素子の電圧に対する応答性の評価を、上述したアクチュエータ素子の評価方法により行った。得られた結果を、図5、図6に示す。
【0097】
図5、図6の結果から、油脂又は撥水剤の層を形成した本発明のアクチュエータ素子、或いは電解質膜のイオン液体量を0〜10質量%とした本発明のアクチュエータ素子は、変形の戻り現象が改善された。電解質膜中のイオン液体量を調整する場合は、特にイオン液体量が2〜5質量%とした場合、戻り現象が大きく改善されるとともに、最大変位が2〜6倍向上することが明らかになった。
【符号の説明】
【0098】
1 電解質膜
2 導電性薄膜層
3 導電層
4 イオン性液体のカチオン
5 イオン性液体のアニオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される導電性薄膜であって、前記高分子ゲルの内部もしくは表面に油脂及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、導電性薄膜。
【請求項2】
油脂がサラダ油、白絞油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、こめ油、糠油、椿油、ベニバナ油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油、荏油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、エチレン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ミツロウ、ライスワックス、水素添加加工油脂、ポリグリセリン縮合(ポリ)リシノール酸エステル、リン脂質、レシチン、卵黄レシチン、リゾレシチン、ダイズレシチン、有機酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、サポニン、キラヤサポニン、コハク酸モノグリセリド、コハク酸ジグリセリドからなる群から選択される、請求項1に記載の導電性薄膜。
【請求項3】
撥水剤がフッ素系オイル、フルオロシリコーンオイルまたはシリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の導電性薄膜。
【請求項4】
前記導電性薄膜がさらに導電補助剤を含む請求項1〜3のいずれかに記載の導電性薄膜。
【請求項5】
導電補助剤が導電性高分子、炭素粒子およびメソポーラス無機材料からなる群から選択される、請求項4に記載の導電性薄膜。
【請求項6】
イオン液体およびポリマーを含む電解質膜であって、前記電解質膜の内部もしくは表面に油脂及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、電解質膜。
【請求項7】
ポリマーを含む電解質膜であって、前記電解質膜が0〜10質量%のイオン液体を含む、電解質膜。
【請求項8】
前記電解質膜が2〜5質量%のイオン液体を含む、請求項7に記載の電解質膜。
【請求項9】
カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される1又は2以上の導電性薄膜とイオン液体およびポリマーを含む1又は2以上の電解質膜を積層してなる積層体であって、前記導電性薄膜が請求項1〜5のいずれかに記載の導電性薄膜、及び/又は前記電解質膜が請求項6に記載の電解質膜である、積層体。
【請求項10】
カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される1又は2以上の導電性薄膜とポリマーを含む1又は2以上の電解質膜を積層してなる積層体であって、前記電解質膜が請求項7又は8に記載の電解質膜である、積層体。
【請求項11】
請求項9又は10の積層体からなるアクチュエータ素子。
【請求項12】
電解質膜の表面に、請求項1〜5のいずれかに記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている請求項11に記載のアクチュエータ素子。
【請求項13】
請求項7又は8に記載の電解質膜の表面に、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている請求項11に記載のアクチュエータ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−14719(P2013−14719A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149729(P2011−149729)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】