説明

治療用処方物の均一磁場による磁化および標的化

治療用粒子の磁気による標的化のためのシステムおよび方法を提供する。治療用粒子は、1種類以上の磁気材料または磁化可能な材料および少なくとも1種類の治療用薬剤を含むものである。治療用粒子は、磁化可能な材料を磁化させ得る均一磁場を用いて特異的に標的化され、体内の特定の位置に標的化され得るか、または捕捉、封入および除去のために標的化され得る。治療用粒子は抗酸化酵素を含むものであり得、細胞を酸化的損傷から保護するために細胞に標的化され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の支援についての声明
開示された発明をもたらした研究は、National Institutes of Health、助成金第HL72108号、National Heart Lung and Blood InstituteおよびNational Science Foundation、助成金第9984276号からの基金によって部分的に資金供与を受けた。したがって、米国政府は、本発明に一定の権利を有し得る。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に生物学的療法の分野に関する。より詳しくは、本発明は、磁化性の目的物の磁化を誘導するため、および磁場勾配を発生させるための均一磁場の使用に関する。得られた勾配は、被験体の体内での帯磁または磁化性のナノ粒子治療用薬剤の磁気による標的化のために使用され得る。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本明細書の至る箇所に種々の刊行物、例えば、特許、公開特許出願および学術論文を挙げている。これらの各刊行物は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0004】
慣用的または非特異的様式で送達される治療用薬剤は、多くの場合、体内の指定していない領域に分布される。そのため、該薬剤は、例えば肝臓の初回通過代謝によって代謝され得、それによりバイオアベイラビリティの低下、ならびにコスト高および有害な副作用のリスクを伴う用量増大の可能性がもたらされ得る。また、治療用薬剤の非特異的分布により、投与対象の被験体において有害効果および不要な薬理学的応答がもたらされることがあり得る。その結果、特定の薬剤は、特定の被験体においてまたは特定の条件下では禁忌となり得る。
【0005】
被験体内への医療用デバイスの移植には、例えば、感染の可能性を少なくするため、炎症を低減させるため、組織を修復させるため、またはさらなる局所組織の損傷を抑制するために、追跡化学療法が必要とされることがあり得る。薬物溶出デバイス(ステントなど)が、さまざまな生物医学的適用において、移植物の領域への薬物のターゲテッド(targeted)送達を達成するため、ますます使用されるようになってきている。しかしながら、現在までのところ、薬物含有移植物は、一般的にはほんの小用量の単一の治療用薬剤しか含んでおらず、したがって、移植型デバイスによって同じまたは異なる治療用薬剤が再投与される可能性がないため制限されている。
【0006】
ナノ粒子およびマイクロ粒子は、さまざまな治療用薬剤、例えば、酵素補充療法のための酵素、ホルモン、細胞修飾剤および遺伝物質ならびにイメージングのための担体系としての可能性が示されている。部位特異的送達のためにナノ粒子およびマイクロ粒子を使用する最初の試みでは、一部において、必要とされる治療用薬剤の用量が少なくなるため、
投与対象の患者における有害効果が少なくなる可能性が示されている。
【0007】
前述の論考は、担体系が、薬剤投与を最適化するための有望性、および場合によってはターゲテッド薬物送達のための媒体としての有望性を示すことを示す。しかしながら、かかる技術は、ターゲテッド送達の最適化が実際に達成できる可能性において限定的である。これに関連して、磁石による標的化が、薬剤、特に、ナノ粒子担体として処方されたもののターゲテッド送達の最適化を達成するための魅力的な方法であると考えられている。帯磁治療用薬剤または薬剤含有磁性担体を体内の特定の位置に送達する予備的な試みでは有望性が示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法論は大きな欠点、すなわち、このアプローチは、体表面に近い標的に限られるという欠点を有する。
【0008】
したがって、磁性担体を使用する最適化された有効な標的化の必要性が存在している。治療用システムにより、末梢ならびに局所投与が可能になること、および治療用システムにより、担当医が、患者において不要な効果が少なくなる用量の薬剤を投与することが可能になること、ならびに非特異的分布の可能性または高い必要用量のため他の方法では禁忌であり得る状況において患者への薬剤投与が可能になることが所望されている。さらに、患者に対する不要な効果の可能性をさらに低くするために、未使用または使用済の磁性担体を除去することができる必要性が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,921,244号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明は、治療用粒子を磁気的に標的化させるためのシステムを特長とするものである。一般的に、該システムは、少なくとも1種類の治療用薬剤および第1の磁気材料または磁化可能な材料を含む粒子、第2の磁気材料または磁化可能な材料を含む移植可能なデバイス(ステントなど)、ならびに第3の磁気材料または磁化可能な材料を含み、被験体に可逆的に取り付けられ得る回収(retrieval)システムを含むものである。一部の態様では、該システムは、さらに、磁化可能な材料を磁化させ得る均一磁場が発生するように構成された少なくとも1つの磁場発生器を含む。均一磁場により、少なくとも1つの指向可能な(directable)磁場勾配が発生し得る。該勾配により、該粒子が該デバイスに指向され得るとともに、使用済の粒子(あれば)または該デバイスに送達されなかった粒子が回収システムに指向され得る。磁場勾配は、該デバイスの近位および/または回収システム近位に発生し得る。治療用薬剤は、使用対象の治療目的に適した任意の薬剤であり得、とりわけ、医薬、生体分子または細胞を含むものであり得る。高度に好ましい一部の態様では、該薬剤は、核酸(特に、調節核酸、例えば、siRNA、shRNAまたはmiRNA)などの生体分子である。高度に好ましい一部の態様では、該薬剤は、タンパク質(好ましくは酵素、より好ましくは抗酸化酵素)などの生体分子である。高度に好ましい一部の態様では、該薬剤は、内皮細胞(特に、血管内皮細胞)などの細胞である。
【0011】
また、本発明は、治療用粒子を移植型デバイス(ステントなど)に磁気的に標的化させることための方法を特長とするものである。一般的に、該方法は、移植型デバイスを有する被験体に、少なくとも1種類の治療用薬剤および第1の磁気材料または磁化可能な材料を含む粒子を投与すること、磁化可能な材料を磁化させ得る均一磁場を発生させること、および任意選択で、移植型デバイスに送達されなかった粒子を除去することを含むものであり得る。一部の態様では、均一磁場により、第2の磁気材料または磁化可能な材料を含む移植型デバイスの近位に磁場勾配が発生する。一部の態様では、該勾配により該粒子が、移植型デバイスに標的化される。該方法は、さらに、使用済の粒子を除去することを含んでいてもよい。治療用薬剤は、使用対象の治療目的に適した任意の薬剤であり得、とりわけ、医薬、生体分子または細胞を含むものであり得る。高度に好ましい一部の態様では、該薬剤は、核酸(特に、調節核酸、例えば、siRNA、shRNAまたはmiRNA)などの生体分子である。高度に好ましい一部の態様では、該薬剤は、タンパク質(好ましくは酵素、より好ましくは抗酸化酵素)などの生体分子である。高度に好ましい一部の態様では、該薬剤は、内皮細胞(特に、血管内皮細胞)などの細胞である。
【0012】
本発明の方法の一部の態様では、移植型デバイスに送達されなかった粒子の除去は、第3の磁気材料または磁化可能な材料を被験体に可逆的に取り付けること、および第3の磁気材料または磁化可能な材料の近位に第2の磁場勾配を発生させることを含む。第2の磁場勾配により該粒子が第3の磁気材料または磁化可能な材料に標的化され得る。第3の磁気材料または磁化可能な材料は、被験体の少なくとも1つの血管に可逆的に取り付けられることが高度に好ましい。他の態様では、移植型デバイスに送達されなかった粒子の除去には、被験体の血液を取り出すこと、該血液を第3の磁気材料または磁化可能な材料と接触させること、第3の磁気材料または磁化可能な材料の近位に第2の磁場勾配を発生させること、および該血液を該被験体に戻すことが含まれ得る。第2の磁場勾配により、該粒子が第3の磁気材料または磁化可能な材料に標的化され得る。好ましくは、戻された血液は該粒子を実質的に含有しておらず、より好ましくは該粒子を含有していない。
【0013】
本発明の方法の一部の態様では、使用済の粒子の除去には、第3の磁気材料または磁化可能な材料を被験体に可逆的に取り付けること、および第3の磁気材料または磁化可能な材料の近位に第2の磁場勾配を発生させることが含まれ得る。第2の磁場勾配により、使用済の粒子が第3の磁気材料または磁化可能な材料に標的化される。他の態様では、使用済の粒子の除去には、被験体の血液を取り出すこと、該血液を第3の磁気材料または磁化可能な材料と接触させること、第3の磁気材料または磁化可能な材料の近位に第2の磁場勾配を発生させること、および該血液を該被験体に戻すことが含まれ得る。第2の磁場勾配により、使用済の粒子が第3の磁気材料または磁化可能な材料に標的化される。好ましくは、戻された血液は、使用済の粒子を実質的に含有していない。
【0014】
また、本発明は、ナノ粒子の調製方法を特長とするものである。該方法は、モノカルボン酸脂肪酸の水溶性の塩または脂質一リン酸塩、安定剤(アルブミンまたはPluronic F−127(登録商標)など)、および少なくとも1種類の治療用薬剤を含む第1の水溶液を準備すること、ならびに第1の水溶液を、生体適合性の多価カチオン(カルシウムまたは亜鉛など)を含む第2の水溶液に添加することを含むものであり得る。治療用薬剤は、タキソールまたは全トランス型レチノイン酸であり得る。該脂肪酸の水溶性の塩または脂質一リン酸塩はオレイン酸ナトリウムであり得る。第1の水溶液は、さらに、磁性のナノ結晶を含んでいてもよい。第2の水溶液は、さらに、少なくとも1種類のカチオン性ポリペプチド(ポリ−L−アルギニンなど)を含んでいてもよい。一部の態様では、該方法は、さらに、第1の水溶液中において磁性のナノ結晶を形成させることを含む。
【0015】
本発明は、さらに、治療用粒子を提供する。このような粒子は、安定剤、磁気材料または磁化可能な材料、脂肪酸またはその塩、およびタンパク質を含むものであり得る。磁気材料または磁化可能な材料は超常磁性材料であり得る。該脂肪酸は、任意の炭素数を含むものであり得、例えば、オレイン酸またはその塩、例えば、オレイン酸のカルシウム塩であり得る。タンパク質は酵素であり得、より好ましくは抗酸化酵素であり得る。抗酸化酵素は、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、またはグルタチオンペルオキシダーゼであり得る。安定剤は、ビオチン化されたものであり得る。
【0016】
治療用粒子は、さらに、1種類以上の抗体を含んでいてもよい。抗体により、特定の標的対象細胞または組織への該粒子のインビトロまたは好ましくはインビボでの送達が助長され得る。抗体は、該粒子内に直接組み込んでもよく、該粒子の表面上にコーティングしてもよい。抗体を、アビジンまたはストレプトアビジンに連結させ、該粒子内または該粒子上に、該粒子の1つ以上のビオチン化成分(例えば、ビオチン化安定剤)によって組み込んでもよい。抗体は、内皮細胞の表面上の抗原に特異的に結合するものであり得る。
【0017】
また、本発明は、酸化的損傷、例えば、細胞が反応性の酸化性種に曝露されることによって引き起こされる酸化的損傷から細胞を保護するための方法を提供する。一般に、該方法は、細胞を、磁気材料または磁化可能な材料および少なくとも1種類の抗酸化酵素を含む粒子と接触させること、ならびに該磁気材料または磁化可能な材料を磁化させ得る均一磁場を、該細胞の近位に、該細胞が該粒子を内在化させることを可能にするのに充分な期間発生させることを含む。抗酸化酵素は、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、またはグルタチオンペルオキシダーゼであり得る。該粒子は、さらに、該細胞表面上の抗原に特異的に結合する抗体を含んでいてもよい。該方法は、インビトロまたはインビボで行なわれ得る。細胞は、任意の細胞、例えば、上皮細胞または内皮細胞であり得る。好ましい細胞の一例は血管内皮細胞である。
【0018】
本特許または出願書類ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラーの図面を伴う本特許または特許出願公開公報の写しは、請求および手数料の支払いにより、米国特許より提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1Aは、ナノ粒子(NP)粒径と安定剤の濃度との関係を示す。図1Bは、ナノ粒子(NP)の収率と安定剤の濃度との関係を示す。
【図2】図2は、ナノ粒子の量の関数としての、培養ラット大動脈平滑筋細胞増殖に対するタキソール負荷磁性ナノ粒子の効果を示す。
【図3−1】図3Aは、ポリ−L−アルギニン処方物の量およびナノ粒子の用量の関数としての、培養ラット大動脈平滑筋細胞における導入遺伝子発現を示す。図3Bは、ポリ−L−アルギニン処方物の量およびナノ粒子の用量の関数としての、ウシ大動脈内皮細胞における導入遺伝子(緑色蛍光タンパク質,GFP)発現を示す。
【図3−2】図3Cは、磁気曝露の関数としての、培養内皮細胞における導入遺伝子発現を示す。図3Dは、磁場ありまたはなしでの、285×10個のウイルス粒子/ウェルに相当する用量のポリ−L−アルギニン修飾ナノ粒子で処理した培養内皮細胞における導入遺伝子発現の動態を示す。
【図4】図4は、本発明の一実施形態による例示的な磁気援用治療用システムを示す。
【図5】図5は、本発明の一実施形態による、治療用薬剤を移植型デバイスに投与するため、および移植型デバイスに局在化されなかった磁性担体ナノ粒子を回収するための例示的な方法を示すフローチャートを示す。
【図6】図6Aは、赤色蛍光標識を有するアルブミン修飾磁性担体ナノ粒子を、血管内にスチールステントが移植されたラットに注射したという、磁気援用治療用システムの例示的な実施形態を要約したものである。図6Bは、移植型デバイス内への隔離に関する治療用薬剤の送達の結果を要約したものである。
【図7】図7は、心臓血管循環サイクルからの磁性担体ナノ粒子または細胞の回収をモデル設計するために使用される、図5に示した回収システムを模式的に要約したものである。
【図8】図8は、磁場勾配の影響下における担体ナノ粒子の指数関数的枯渇動態を要約したものである。
【図9】図9は、磁場勾配の影響下における担体細胞の指数関数的枯渇動態を要約したものである。
【図10】図10は、異なる磁性による隔離性立体配置が、図5に示す例示的な方法の実施で、どのように枯渇動態に影響を及ぼすかを要約したものである。
【図11】図11Aおよび11Bは、アルブミン安定化超常磁性ナノ粒子(MNP)についての、透過電子顕微鏡検査および磁場に対する磁気モーメント(磁化曲線)の結果を要約したものである。
【図12】図12Aおよび12Bは、MNP取込みの動態およびMNPが負荷された細胞のバイアビリティに関するインビトロMNP細胞負荷試験を要約したものである。
【図13−1】図13Aは、酸化鉄なしの大ナノ粒子(LNP Non Mag,本明細書において対照として使用)と比べた、A10細胞における、ナノ粒子の量の関数としての、緑色蛍光タンパク質(GFP)(485nm/535nmのλem/λexでGFP蛍光として提示)をコードするDNAとの組合せで、ポリエチレンイミンコートMNPによって媒介されるレポーター遺伝子導入を示し、ここで、酸化鉄負荷ナノ粒子は、有機相において、0mlのTHF(大ナノ粒子,LNP)、3mlのTHF(中ナノ粒子,MNP)、または4.5mlのTHF(小ナノ粒子,SNP)を用いて調製した。図13Bは、BAEC細胞における、ナノ粒子の量の関数としての485nm/535nmで測定した相対蛍光を示す。
【図13−2】図13Cは、A10細胞における、ナノ粒子の量の関数としての650nm/670nmで測定した相対蛍光で示した、蛍光(遠赤)標識ナノ粒子の内在化を示す。図13Dは、BAECにおける、ナノ粒子の量の関数としての650nm/670nmで測定した相対蛍光を示す。
【図13−3】図13Eは、A10細胞におけるナノ粒子の量の関数としての細胞の生存率を示す。図13Fは、BAEC細胞におけるナノ粒子の量の関数としての細胞の生存率を示す。
【図14】図14は、磁場(500Oe)の存在下で磁性ナノ粒子 により送達したsiRNAによるレンチウイルス形質導入平滑筋細胞(A10)におけるeGFP発現の抑制を示す。
【図15A】図15Aは、304(左側のY軸)および316L(右側のY軸)グレードステンレス鋼ステントの磁化曲線を示す。304ステンレス鋼ステントは、わずかなヒステリシスと飽和磁化値の7%程度の残留磁気を示すほぼ超常磁気的挙動(superparamagnetic behavior)を示す。比較すると、316Lステントが示す磁気応答はかなり低い。
【図15B】図15Bは、培養状態のBAECの明視野での顕微鏡写真(倍率100倍)、および9μg/ウェルのMNP適用用量での異なる時点における、細胞内に内在化されたMNPの相対量を定性的に示す赤色蛍光画像を示す。緑色蛍光顕微鏡写真は、Calcein Green染色で示した細胞バイアビリティを示す。
【図16−1】図16Aは、1000ガウスの均一磁場および30ml/分の速度の非拍動流の存在下での、304グレードステンレス鋼ステントに対する磁気応答性BAECのインビトロ捕捉動態を示す。初期捕捉速度は1%細胞/分であると推定された。データは、内在化されたMNPの蛍光を測定することにより取得した。図16Bおよび16Cは、それぞれ、内在化されたMNPの赤色蛍光、または生細胞のCalcein Green染色で示された、304ステンレス鋼ステント上にインビトロで捕捉された磁気応答性BAECを示す。図16Dは、ラット頚動脈内に留置した304ステンレス鋼ステント上にインビボで捕捉されたMNP負荷BAECを示す。蛍光MNPを予め負荷したBAECを左心室(ventricular cavity)に経胸腔注射した。動物を、1000ガウスの磁場に5分間(注射期間を含む)曝露した。送達の5分後に動物を致死させ、外植したステントを蛍光顕微鏡検査によってすぐに検査した。図16Eは、同一の手順に供した対照ラットを示し、この場合、磁場は使用しなかった。顕微鏡写真(b〜e)は倍率40倍で取得した。
【図16−2】図16Fは、流れ停止条件下での、ラット頚動脈ステント留置モデルにおけるインビボでの磁性細胞局所送達を示す。カテーテルを外頚動脈から総頚動脈内に導入し、留置されたステントに対して遠位に配置した。細胞懸濁液は、孤立動脈セグメント内に15秒間送達した。図16Gは、非断続血流条件下でのインビボ細胞送達を示す。カテーテルを外頚動脈から総頚動脈内に導入し、ステントからさらに大動脈弓まで進めた。細胞を、この部位に1ml/分の速度で1分間注射した。両方の送達プロトコル(fおよびg)では、磁性群(Mag+)には、注射は、1000ガウスの磁場に置いた動物に対して行ない、送達後、磁場を合計5分間維持した。対照ラット(Mag−群)では、磁場を適用しなかった。どちらの設定でも、まず、BAECを培養状態でルシフェラーゼアデノウイルスにより形質導入し、次いで、MNPを負荷した。送達の48時間、Pluronicゲルと混和させたルシフェリンの血管周囲への局所投与によって動物をイメージングした。ルシフェラーゼの導入遺伝子発現によりステント留置動脈セグメントから放出されたシグナルは、磁場の存在下で該細胞を受けた動物(Mag+群)において有意に高かった。
【図17】図17は、MRIイメージング装置により、細胞標的化のための316Lスチールステントが磁化され得ることを示す。磁場の存在下(Mag+)では、赤色蛍光ポリ乳酸(PLA)MNPを予め負荷したBAECが帯磁スチールステントに局在していることが示されている。対照(Mag−)では、ステントへの有意な局在は示されなかった。
【図18−1】図18Aは、カタラーゼ負荷MNPのTEM画像である。図18Bは、MNPの磁気的挙動を示すグラフである。
【図18−2】図18Cおよび18Dは、MNPの粒径分布を示す棒グラフである。
【図19】図19Aは、添加された質量に対する保持されたSOD活性の%を示す。図19Bは、添加された質量に対する負荷SOD質量の%を示す。図19Cは、質量負荷に対する分子数/粒子の計算値を示す。
【図20】図20Aは、125I−カタラーゼの放射性追跡によって測定したカタラーゼの添加に対する負荷を示す。図20Bは、経時的な242nmにおけるH2O2吸光度の低下によって測定した負荷カタラーゼの活性を示す。
【図21】図21Aは、0.2wt%のPronase(37℃で1時間振盪)によるタンパク質分解から保護された質量に対するMNPに添加されたカタラーゼの質量を示す。図21Bは、37℃で0.2wt%のPronaseに曝露した時間に対する時間に対するMNP内に負荷したカタラーゼの(−●−)活性、および37℃で0.2wt%のPronaseに曝露した時間に対する時間に対する遊離カタラーゼの(−○−)活性を示す。
【図22】図22は、37℃での経時的な血漿中におけるMNPの安定性を示す。カタラーゼの放出は、125I−カタラーゼの放射性追跡によって測定した。MNPは、グルコース水溶液(5%)または血漿とともに37℃で経時的にインキュベートした。カタラーゼの放出は、遊離カタラーゼを粒子から遠心分離し、マイクロ遠心機濃縮フィルター上に保持されたMNPに対する上清み中の活性を測定することにより測定した。(−●−)グルコース溶液中で希釈したMNPから放出されたカタラーゼ。(−○−)全ヘパリン化マウス血漿中で希釈したMNPから放出されたカタラーゼ。
【図23−1】図23Aは、10分間のMNPの磁性送達の位相差顕微鏡写真を示す。図23Bは、Dylight 488標識カタラーゼを含む10分間のMNPの磁性送達の蛍光顕微鏡写真を示す。図23Cは、5分間のMNP磁性送達を示す。
【図23−2】図23Dおよび23Eは、磁場なしの10分間のMNP送達を示す。図23Fは、MNPなしの対照を示す。
【図24】図24Aおよび24Bは、カタラーゼ負荷MNPの磁性送達による酸化的ストレスからのHUVECの保護を示す。
【図25】図25は、粒子の形成および合成を示す。
【図26】図26は、ビオチン化MNPの親和性を示す。
【図27】図27は、カタラーゼ負荷MNPの磁性送達による酸化的ストレスからのHUVECの保護、および抗体−ターゲテッド送達による酸化的ストレスからのHUVECの保護を示す。
【図28】図28は、マウスにおける尾静脈注射後のAb62修飾MNPと対照IgG修飾MNP(対比)の体内分布を示す。尾静脈注射された抗PECAM標識MNPは、肺内皮を特異的に標的化する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本明細書および特許請求の範囲の全体を通して、本発明の方法および他の態様に関する種々の用語を使用している。かかる用語は、特に記載のない限り、当該技術分野において通常の意味を示すものとする。具体的に定義した他の用語は、本明細書に示した定義と整合するように解釈されたい。
【0021】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、本文中にそうでないことを明示していない限り、複数の指示対象物を含む。したがって、例えば、「粒子(a particle)」に対する言及は、2種類以上の粒子の組合せなどを含む。
【0022】
用語「約」は、測定可能な値(例えば、量、時間など)に言及する場合に本明細書で用いる場合、明示した値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、なおより好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意図する。
【0023】
「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも称し、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドをいい、非修飾RNAまたはDNAであっても修飾RNAまたはDNAであってもよい。ポリヌクレオチドとしては、限定されないが、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるRNA、DNAとRNA(これは、一本鎖であり得るか、またはより典型的には、二本鎖または一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であり得る)を含むハイブリッド分子が挙げられる。また、ポリヌクレオチドは、RNAまたはDNAまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域をいう。また、ポリヌクレオチドという用語は、1つ以上の修飾塩基および安定性または他の理由で修飾された主鎖を有するDNAまたはRNAを含むDNAまたはRNAを包含する。修飾塩基としては、例えば、トリチル化塩基および非通常塩基(イノシン)が挙げられる。さまざまな修飾がDNAおよびRNAに対して行なわれ得る;したがって、ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの化学的、酵素的または代謝的に修飾された形態(自然界に典型的にみられるもの)、ならびにウイルスおよび細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学的形態を包含する。また、ポリヌクレオチドは、多くの場合、オリゴヌクレオチドと称される比較的短いポリヌクレオチドも包含する。
【0024】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合(すなわち、ペプチドイソスター(isostere))によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質をいう。ポリペプチドは、短鎖(一般的に、ペプチド、オリゴペプチドまたはオリゴマーと称される)、および長鎖(一般的にタンパク質と称される)のどちらも示す。ポリペプチドは、20種類の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸を含むものであってもよい。ポリペプチドには、天然のプロセス(翻訳後プロセッシングなど)または当該技術分野でよく知られた化学修飾技術のいずれかによって修飾されたアミノ酸配列が含まれる。かかる修飾は、基本的な教科書に充分に記載されており、特定分野の研究論文ならびに多くの研究文献に、より詳細に記載されている。修飾は、ポリペプチド内の任意の箇所、例えば、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖およびアミノ末端またはカルボキシ末端に行なわれ得る。所与のポリペプチド内のいくつかの部位に同じ度合または種々の度合で、同じ型の修飾が存在していてもよいことは認識されよう。また、所与のポリペプチドに多くの型の修飾が含まれていてもよい。
【0025】
注記されている場合を除き、「被験体」または「患者」は、互換的に用いており、任意の動物をいうが、好ましくは、哺乳動物、例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、ならびにコンパニオンアニマル、家畜または実験動物(例えば、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、ブタ)などをいう。ヒトが最も好ましい。
【0026】
「有効量」または「治療有効量」は、本明細書において互換的に用いており、具体的な生物学的結果、例えば限定されないが、本明細書において開示、記載または例示した生物学的結果(当該技術分野における適当な任意の手段によって測定)が達成されるのに有効な本明細書に記載の治療用薬剤の量をいう。
【0027】
「薬学的に許容され得る」は、性質および/または物質が薬理学的/毒物学的観点から患者にとって、ならびに組成物、処方物、安定性、患者の許容性およびバイオアベイラビリティに関する物理的/化学的観点から製造担当の薬化学者にとって許容され得ることをいう。「薬学的に許容され得る担体」は、治療用薬剤(1種類または複数種)の生物学的活性の有効性を妨げず、投与対象の宿主に対して毒性でない媒体をいう。
【0028】
本発明により、磁化性の目的物の磁化を誘導するため、および磁場勾配を発生させるために均一磁場を使用することによって、治療用薬剤が体内の特定の位置に標的化され得ることが見い出された。さらに、磁気による標的化は、任意の型の治療用薬剤に対して、例えば、医薬または化学物質の化合物、生体分子および細胞に対して利用され得ることが見いだされた。したがって、本発明は、治療用薬剤を体内の1箇所以上の所望の位置に、磁気的に標的化させるためのシステムおよび方法を特長とするものである。
【0029】
一態様において、該システムは、治療用処方物の一部として供給される治療用薬剤を含むものである。治療用処方物は有効量の治療用薬剤と粒子を含むものであり得、該粒子は、磁気材料または磁化可能な材料を含むものであり得る。好ましくは、該粒子はナノ粒子である。関連する該粒子と該治療用薬剤は、本明細書において同義的に治療用粒子と称する。磁性ナノ粒子は、永久磁性である粒子、および外部磁場に曝露されると磁化性であるが、磁場を除くとその磁化が失われるものを包含する。磁場に曝露されると磁性または磁化性であり、磁場を除くとその磁性を失う物質を、本明細書において超常磁性材料と称する。該粒子の不可的逆な凝集が抑制される超常磁性粒子が好ましい。好適な超常磁性材料の例としては、限定されないが、鉄、混合型酸化鉄(マグネタイト)、またはガンマ酸化第二鉄(マグヘマイト)、ならびにさらなる元素(亜鉛など)を含む置換マグネタイトが挙げられる。好ましくは、超常磁性材料は、少なくとも1つの寸法が≦100nmである1種類以上のナノ結晶の形態、例えば、単一ドメインの結晶性の系である。ナノ結晶は、少なくとも1つの寸法が≦100nmであり、単一の結晶単位(crustal−unit)で形成されており、そのため、すべての要素がc軸およびa軸の同一の結晶方位を有し、1つの単位として過剰成長している単結晶性(“singlecrystalline”または“monocrystalline”)である任意のナノ材料である。結晶性の領域を示す粒子はいずれも、大きさに基づいてナノ粒子またはナノクラスターと称され得る。
【0030】
強磁性の結晶は、ミクロンサイズの帯磁ドメインで構成されたものであり得る。超常磁性は、結晶サイズが強磁性ドメイン(約30nm)よりも小さい場合に起こり得る。超常磁性は温度に依存性であり得る。一部の条件下では、温度により磁力が不安定化されることがあり得る。なんら特定の理論または作用機序に限定されることを意図しないが、熱エネルギーにより超常磁性材料に存在する磁気モーメントの整列が妨げられ得ると考えられる。適用した磁場を除いても、超常磁性材料の磁気モーメントは依然として存在しているが、高速運動状態であり、ランダムな向きまたは不規則な磁気モーメントが引き起こされ、したがって、正味の磁場はない。生物学的系およびMRイメージング装置の適用磁場の温度では、超常磁性材料は、その強磁性の対応物よりも磁性が低い。例えば、小さい超常磁性酸化鉄の磁力は高温で減少することが注目されている(Berkowitzら(1968)J.Appl.Phys.39:1261)。
【0031】
超常磁性のナノ結晶は、粒径がとりわけ、調製方法および媒体組成に応じて約1nm〜約20nmの範囲であり得る。好ましくは、ナノ結晶は、物質の超常磁性を確保するため10〜20nmより小さいものである。より好ましくは、ナノ結晶は約5nm〜約20nmである。
【0032】
一部の態様では、該粒子は複合ナノ結晶である。複合ナノ結晶は、1種類より多くの個々の磁性または磁化性のナノ結晶と、結晶同士を保持する1種類以上の水不溶性生体適合性材料とを含むものであり得る。生体適合性材料は、生分解性であっても非生分解性であってもよいポリマーであり得る。かかるポリマーの非限定的な例としては、ポリ(ウレタン)、ポリ(エステル)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(スチレン)、ポリ(アミド)、ゴム、シリコーンゴム、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(エーテル−エステル)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、ポリ(無水物)、ポリ(エチレン酢酸ビニル)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(エチレンテレフタレート、ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、その混合物ならびに対応するモノマーのコポリマーが挙げられる。
【0033】
超常磁性のナノ結晶が組み込まれたポリマーナノ粒子は、当該技術分野において適当な任意の手段に従って調製され得る。例えば、該ナノ粒子は、超常磁性のナノ結晶を、該ポリマーおよび/または治療用薬剤が溶解されている有機溶媒に分散させること、有機相を適当な安定剤の存在下にて水中で乳化させること、ならびに最後に溶媒を除去して固化したナノ粒子を得ることにより調製され得る。ナノ粒子調製の条件は、結合させる治療用薬剤に対して損傷を与えないものであるのがよい。ナノ粒子調製のための温度は、好ましくは約25℃〜約37℃の範囲であるが、より高い温度またはより低い温度も使用され得る。生物学的適用のための超常磁性ナノ粒子の調製方法の非限定的な例は、米国特許第7,175,912号および同第7,175,909号、ならびに米国特許出願公開公報番号20050271745に記載されている。磁性ナノ粒子、磁性ナノ粒子の開発のための情報、および磁性ナノ粒子(MNP)の調製のための試薬は市販されている。
【0034】
該粒子は、アニオン脂質(例えば、脂肪酸または脂質リン酸塩)と生体適合性の多価カチオンの塩/複合体で構成されたものであってもよい。該粒子は、穏やかな条件でコロイド安定剤の存在下にてそれぞれの水溶液を合わせることによって形成され得、したがって、有機溶媒の使用が回避され、外部からの機械的エネルギー導入の必要がない。
【0035】
一部の好ましい態様では、該粒子は、生体吸収性のナノ粒子、例えば、高エネルギー分散または有機溶媒の使用を伴うことなく調製されるものである。生体吸収性のナノ粒子は、少なくとも1種類のアニオン脂質の塩、少なくとも1種類の治療用薬剤、および少なくとも1種類の磁気材料または磁化可能な材料で構成されたものであり得る。
【0036】
生体吸収性のナノ粒子を調製するために第1の水溶液を準備する。第1の水溶液は、i)モノカルボン酸脂肪酸の水溶性の塩もしくはその塩、または脂質リン酸塩/ホスホン酸塩、ii)安定剤、およびiii)治療用薬剤を含むものである。例示的な可溶性の塩としては、限定されないが、リチウム、ナトリウム、アンモニウム、およびカリウムの塩が挙げられる。脂肪酸塩の水溶液は、例えば、脂肪酸と塩基(水酸化ナトリウムなど)を水に添加し、該脂肪酸を溶解させることにより調製され得る。
【0037】
使用され得る脂肪酸としては、8個以上の炭素原子、特に8〜30個の炭素原子を有する直鎖および分枝鎖、飽和および不飽和モノカルボン酸脂肪酸が挙げられる。典型的なモノカルボン酸脂肪酸としては、カプリル酸(オクタン酸)、2−エチルオクタン酸、カプリン酸(デカン酸)、2−エチル−デカン酸、11−ウンデセン酸、ウンデカン酸、2−エチル−ドデカン酸、シス−5−ドデセン酸、ラウロレイン酸(シス−9−ドデカン酸)、トラウマチン酸(2−ドデセン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ブラシル酸(トリデカン酸)、2−エチル−テトラデカン酸、ミリストレイン酸(シス−9−テトラデカン酸)、ツズ酸(シス−4−テトラデセン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデカン酸、2−エチル−ヘキサデカン酸、パルミトレイン酸(シス−9−ヘキサデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ヘプタデカン酸、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ペトロセリン酸(シス−6−オクタデセン酸)、2−エチル−オクタデカン酸、オレイン酸(シス−9−オクタデセン酸)、エラジン(トランス−9−オクタデセン酸)、アスクレピン酸(シス−11−オクタデセン酸)、バクセ酸(トランス−11−オクタデセン酸)、タキソール酸(シス,シス−5,9−オクタデカジエン)、リノール酸(シス,シス−9,12−オクタデカジエン酸)、リノレン酸(シス,シス,シス−9,12,15−オクタデカトリエン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、ツベルクロステアリン酸(10−メチルオクタデカン酸)、ノナデカン酸、2−エチル−エイコサン酸、アラキドン酸(5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)、シス−8,11,14−エイコサトリエン酸、ガドレイン酸(シス−9−エイコセン酸)、ゴンド酸(シス−11−エイコセン酸)、アラキン酸(エイコサン酸)、2−オクチルドデカン酸、エルカ酸(シス−13−ドコセン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、トリコサン酸、セラコレイン酸(シス−15−テトラコサン酸)、リグノセリン酸(テトラコサン酸)、キシメン(ximenic)酸(シス−17−ヘキサコセン酸)、およびヘキサコサン酸が挙げられる。特に好ましい脂肪酸はオレイン酸である。脂肪酸の塩、例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の塩、ならびにアンモニウム塩なども使用され得る。
【0038】
脂肪酸の択一例として、脂質リン酸塩、例えば、8個以上の炭素原子、より好ましくは8〜30個の炭素原子を有するアルコールの水溶性一リン酸塩塩が使用され得る。かかるリン酸塩としては、α−トコフェロールリン酸二ナトリウム塩、オレイルリン酸二ナトリウム塩、および8個以上の炭素原子を有する直鎖および分枝鎖、飽和および不飽和モノアルコールのリン酸エステルの二ナトリウム塩、例えば、n−デカノール、n−ドデカノール、n−テトラデカノール、n−ヘキサデカノール、およびn−オクタデカノールのリン酸エステルの二ナトリウム塩が挙げられる。
【0039】
また、ヒドロキシ酸、例えば、11−ヒドロキシ−ウンデカン酸、リシノール酸(12−ヒドロキシ−シス−9−オクタデセン酸)、レスクエロール酸(14−ヒドロキシ−シス−11−エイコセン酸:20:1−OH)、デンシポリン酸(12−ヒドロキシ−シス,シス−9,15−オクタデカジエン酸)アウリコール酸(14−ヒドロキシ−シス,シス−11,17−エイコサジエン酸)、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸、9,14−ジヒドロキシオクタデカン酸、およびフェロン(phellonic)酸(22−ヒドロキシドコサン酸)ならびにその塩も使用され得る。
【0040】
また、脂質リン酸塩、例えば、8個以上の炭素原子、より好ましくは8〜30個の炭素原子を有するアルコールの水溶性一リン酸塩塩も使用され得る。かかるリン酸としては、α−トコフェロールリン酸二ナトリウム塩、オレイルリン酸二ナトリウム塩、および8個以上の炭素原子を有する直鎖および分枝鎖、飽和および不飽和モノアルコールのリン酸エステルの二ナトリウム塩、例えば、n−デカノール、n−ドデカノール、n−テトラデカノール、n−ヘキサデカノール、およびn−オクタデカノールのリン酸エステルの二ナトリウム塩が挙げられる。
【0041】
コロイド安定剤またはコロイド安定剤の混合物を、脂肪酸塩の水溶液またはポリカチオンを含む水溶液に添加してもよい。コロイド安定剤は、ナノ粒子上に吸着され、それにより該粒子が凝集するのを電荷的または立体的に保護すると考えられる物質である。好適な安定剤としては、二次コロイド(ゼラチン、アガー−アガー、デンプンなど)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなど)、ならびにタンパク質(アルブミンなど)が挙げられる。また、非イオン界面活性剤(ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド/プロピレンオキシド ブロックコポリマー、例えば、PLURONIC(登録商標)界面活性剤など)、およびソルビトールのエステルのエトキシル化脂肪酸エステル(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(TWEEN(登録商標)20)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(TWEEN(登録商標)40)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(sterate)(TWEEN(登録商標)60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(TWEEN(登録商標)80)、またはポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート(TWEEN(登録商標)85)など)も使用され得る。好ましい安定剤はアルブミンである。PLURONICは、BASF Corporationの登録商標であり、TWEENはCroda International PLCの登録商標である。
【0042】
この第1の水溶液に、生体適合性の多価の金属または有機カチオンの水溶性の塩を含む第2の水溶液が添加され得る。カチオンは、使用される量でレシピエントに対して無毒性である場合、また、レシピエント身体に対して有意な有害なまたは不要な効果が存在しない場合、生体適合性である。有用な生体適合性の多価カチオンとしては、限定されないが、Al+3、Ca+2、Mg+2、Zn+2、Ba+2、Sr+2、Fe+2、およびCu+2、ポリアルギニン、プロタミンが挙げられる。好ましい生体適合性の多価カチオンとしては、Ca+2およびZN+2が挙げられる。
【0043】
生体吸収性粒子の粒径は、安定剤、脂質の塩、および生体適合性の多価カチオンの量を調整することにより、容易に制御され得、具体的な適用に対して適合され得る。該粒子は一般的には親油性であり、疎水性の治療用薬剤に対して高い親和性を示すものであるが、粒子形成の過程において、水溶性のイオン性治療用薬剤をその水不溶性の塩/複合体として封入してもよい。脂質の塩および生体適合性の多価カチオンの性質および量は、得られる粒子の相対親油性を調整するため、変更されることがあり得る。
【0044】
また、カチオン性ペプチド、カチオン性タンパク質、またはカチオン性ペプチドおよび/またはカチオン性タンパク質の混合物を、金属ポリカチオンを含む第2の水溶液に同時添加してもよい。好ましいカチオン性ペプチドは、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約85%の塩基性アミノ酸残基(アルギニン、リジン、およびグアニジンなど)を含んでおり、5個より多くの(more then)アミノ酸残基、好ましくは約10〜約1000個の残基を含むものである。より好ましいカチオン性ペプチドとしては、ポリ−L−アルギニンなどのアルギニン高含有ポリペプチドが挙げられる。より好ましいペプチドは、プロタミンなどのアルギニン高含有タンパク質である。また、グアニジニウム高含有タンパク質も使用され得る。また、ポリエチレンイミンなどの合成有機ポリカチオン(ポリペプチド様物質)も使用され得る。
【0045】
生体吸収性のナノ粒子は、その構造内に磁気応答性ナノ結晶が含まれることによって(例えば、該粒子の形成前に、かかる結晶の微細懸濁液(磁性流体)をアニオン脂質溶液と合わせることにより)磁性となり得る。磁性流体は、担体液(水など)に懸濁されたナノスケールの強磁性粒子で構成されたものである。かかるナノ粒子の調製は、1)アニオン脂質の存在下で磁性のナノ結晶の微細懸濁液(磁性流体)を作製すること、および2)安定剤と治療用薬剤の存在下でのアニオン脂質と多価カチオンとの制御析出によってナノ粒子を形成することからなる2工程プロセスである。一態様において、磁性ナノ粒子は、オレイン酸安定化磁性流体とCa+2との制御凝集によって調製される。
【0046】
磁性流体を調製するため、水溶性第二鉄(Fe+3)塩(塩化第二鉄六水和物など)と水溶性第一鉄塩(Fe+2)(塩化第一鉄四水和物など)を含む水溶液を、塩基(水酸化ナトリウム水溶液など)を用いて析出させ、磁性のナノ結晶を含むマグネタイト析出物を形成させる。脂肪酸の水溶性の塩(オレイン酸ナトリウムの水溶液など)を添加し、磁性のナノ結晶を、例えば不活性雰囲気中(アルゴン下など)で加熱することにより再懸濁させる。アルブミンなどの安定剤を治療用薬剤とともに、磁性のナノ結晶、安定剤、モノカルボン酸脂肪酸の水溶性の塩および治療用薬剤を含む第1の水溶液、または生体適合性の多価カチオンを含む第2の水溶液のいずれかに添加してもよい。次いで、第2の溶液が添加され、磁性ナノ粒子が形成される。
【0047】
一部の態様では、治療用薬剤は、予備形成したナノ粒子の表面に結合またはテザーリングされ得る。該結合は、該薬剤が使用される治療適用に適した任意の手段によるもの、または該薬剤もしくはナノ粒子の化学的特性によるものであり得る。例えば、結合は、吸着、静電相互作用、電荷錯化(charge complexation)、または共有結合、例えば、生体分子テザーの使用によるものであり得る。治療用薬剤とナノ粒子との会合のための手順の非限定的な例は、米国特許第7,081,489号、同第6,048,515号、同第6,576,221号、および同第6,767,635号に記載されている。該結合は、連結分子によるものであってもよい。連結分子のペアの非限定的な一例としては、アビジンまたはストレプトアビジンとビオチン、チオールとスクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート(SPDP)またはスクシンイミジル4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、あるいはその適当な改変体またはアイソフォーム、および葉酸化合物と葉酸受容体が挙げられる。
【0048】
治療用薬剤と会合している磁性ナノ粒子は、粒径が約50〜約500nmの範囲であり得る。粒径は、適切な可変部(あれば)に応じて異なり得る。好ましくは、ナノ粒子は、粒径が約50nm〜約200nm、より好ましくは約100nm〜約200nmの範囲である。
【0049】
該粒子は誘導体化してもよく、誘導体化が助長されるように該粒子の表面を修飾してもよい。例えば、該粒子は、チオール反応性光活性化性ポリマーでコーティングされ得る。放射線照射により、該表面へのポリマーの共有結合が助長され得、続いて、そのチオール反応性基が薬剤結合に使用され、血液循環中でのステルス特性および/または標的組織に対する特異的結合がもたらされ得る。バイオマテリアルの結合のための表面光化学的活性化は、米国特許出願公開公報番号20060147413に記載されている。
【0050】
治療用薬剤と会合している粒子の循環時間の延長は、該粒子を生体適合性の親水性ポリマー(ポリエチレングリコールもしくはデキストランなど)でコーティングすることにより、または該粒子を、該粒子表面へのオプソニンの結合を阻害するアルブミンでコーティングすること被験体の免疫機構によるオプソニン作用およびクリアランスを抑制することにより達成され得る。
【0051】
修飾粒子の調製は、当該技術分野において適当な任意の手段に従って進行され得る。例えば、磁気応答性の薬剤である酸化鉄が作製され得る。適当な有機溶媒での酸化鉄の微細懸濁液は、典型的には、以下のようにして得られる:塩化第二鉄と塩化第一鉄を含む水溶液を、水酸化ナトリウムの水溶液と混合する。析出物をオレイン酸で、エタノール中90℃での短いインキュベーションによってコーティングする。析出物をエタノールで1回洗浄して遊離酸を除去し、クロロホルム中に分散させる。
【0052】
得られたクロロホルム中の酸化鉄の有機分散液を用いて、生分解性のポリマー、ポリ乳酸(PLA)またはそのポリエチレングリコールコンジュゲート(PLA−PEG)を溶解させ、したがって有機相を形成させる。この有機相をアルブミン水溶液(1%)中で、氷浴での超音波処理によって乳化させた後、有機溶媒をエバポレーションする。該粒子を未結合アルブミンから、磁性沈降/再懸濁の反復サイクルによって分離する。
【0053】
択一的な態様では、形成後表面修飾が使用され得る。例えば、該粒子は、光反応性ポリマー(例えば、PBPC/PBMC、ポリアリルアミン−ベンゾフェノン−ピリジルジチオ/マレイミド−カルボキシレートポリマー)を安定剤として水相中で用いて形成され得る。続いて、短時間の紫外線照射により、磁性ナノ粒子への該ポリマーの共有結合を行なう。得られた粒子を懸濁状態でチオール化ポリエチレングリコールと反応させ、これにより、該粒子径および表面修飾の程度に対して、より良好な制御が可能である。
【0054】
治療用薬剤としては、該粒子と会合することができ、本発明のシステムおよび方法において使用され得る任意の分子が挙げられる。該薬剤は、精製された分子、実質的に精製された分子、化合物の混合物の1種類以上の成分である分子、または化合物と任意の他の物質との混合物であり得る。該薬剤は、有機もしくは無機化学薬品、放射性同位体、医薬化合物、医薬用の塩、プロドラッグ、または生体分子、ならびにそのあらゆる断片、アナログ、ホモログ、コンジュゲートおよび誘導体であり得る。生体分子としては、限定されないが、タンパク質、ポリペプチド、核酸、脂質、多糖、単糖、ならびにそのあらゆる断片、アナログ、ホモログ、コンジュゲートおよび誘導体が挙げられる。また、該薬剤は、未知の構造の単離された生成物、いくつかの既知生成物の混合物、または1種類以上の化合物を含む未規定の組成物であってもよい。未規定の組成物の例としては、細胞抽出物および組織抽出物、原核生物細胞、真核生物細胞および古細菌細胞を培養した増殖培地、醗酵ブロス、タンパク質発現ライブラリーなどが挙げられる。また、該薬剤は、1種類以上の細胞(例えば、真核生物または原核生物の細胞)であってもよく、1種類以上のウイルスであってもよい。治療用薬剤を、担体(薬学的に許容され得る担体など)と会合させて、または別の様式で提供してもよい。
【0055】
また、治療用薬剤としてはウイルスベクター系も挙げられ、これは遺伝子療法に使用される。開発中のいくつかのウイルスベクター系、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスおよび単純疱疹ウイルス。対象遺伝子を適切な細胞株に導入する最も成功裡の方法の一例は、組換えアデノウイルスを使用するものである。アデノウイルスは、約70nmの直径を有する無エンベロープ粒子であり、およそ36,000塩基対の線形の二本鎖DNAを含むものである。これは、高い力価を有するものが容易に調製され、広範な細胞(例えば、非分裂細胞)に感染させることができる。また、組換えアデノウイルスは、免疫応答を誘起する遺伝子産物を発現させることによりワクチン接種にも使用され得る。
【0056】
アデノ随伴ウイルスは20nmの粒子直径を有する。レトロウイルスは、約80nm〜約100nmの直径の粒子直径を有する球形のエンベロープをもつ粒子である。レトロウイルスはDNA送達用のベクターとして広く使用されている。単純疱疹ウイルスは、約100nmの粒子直径を有し、エンベロープをもつおよそ150,000塩基対の二本鎖DNAウイルスを含むものである。このウイルスは、外来遺伝子に対して大きな負荷能を有し、広範な細胞に感染することができる。また、このウイルスゲノムは、感染後もエピソーム性のままであり、したがって、宿主ゲノムの日和見性の悪性挿入性変異誘発の可能性が排除される。ヘルペスウイルスは、中枢神経系への特定の遺伝子導入の治験において利用されている。
【0057】
多種類の薬剤を該粒子に含めてもよい。当業者は、例えば、処置対象の病状または具体的な被験体のニーズに基づいて、薬剤の具体的な組合せを決定することができよう。例えば、主薬剤の活性をモジュレートする、痛みを低減させる、治療用細胞の増殖を補助する、抗トロンボゲン形成剤、抗アポトーシス剤、抗炎症剤、免疫抑制剤もしくは抗酸化剤である、または当該技術分野において対象の疾患を処置するために通常使用されている他の薬剤であるさらなる薬剤が使用され得る。
【0058】
また、治療用薬剤は、徐放媒体中で、またはデポー調製物に処方され得る。例えば、該薬剤は、適当なポリマー物質もしくは疎水性物質(例えば、許容され得る油での乳剤として)またはイオン交換樹脂を用いて、あるいはやや溶けにくい誘導体(例えば、やや溶けにくい塩)として処方され得る。リポソームおよび乳剤は、疎水性薬物用の担体としての使用に適したよく知られた例である。
【0059】
一部の好ましい態様では、治療用薬剤は酵素である。例えば、抗酸化酵素が使用され得る。抗酸化酵素としては、限定されないが、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、およびグルタチオンペルオキシダーゼが挙げられる。タンパク質の他の例としては抗体が挙げられる。該粒子が使用される目的に適した任意の抗体を含めることができる。抗体は治療用薬剤であってもよく、標的化対象組織への該粒子の誘導を補助するために使用されるものであってもよい。
【0060】
一部の好ましい態様では、治療用薬剤は調節核酸である。例えば、調節核酸は、転写後遺伝子サイレンシング(RNAサイレンシング)を助長するために使用され得る。RNAサイレンシングは、RNase H系酵素による二本鎖RNA(dsRNA)の21〜28ヌクレオチドの小断片へのプロセッシングを伴う。該切断産物はsiRNA(低分子干渉RNA)またはmiRNA(マイクロRNA)であり、これは、遺伝子発現を配列特異的様式で調節する。調節核酸は、例えば、転写およびプロセッシングされて調節RNAとなるDNAとして投与されるプラスミドまたは他の適当なベクターの一部であってもよい。
【0061】
したがって、siRNAは、およそ19ヌクレオチド長の二本鎖領域とともに、各鎖に1〜2ヌクレオチドの3’突出端を有し、全長がおよそ21〜23ヌクレオチドとなっているRNA分子を含むものであり得る。本明細書で用いる場合、siRNAには、インビボでプロセッシングされるとかかる分子が生成され得る種々のRNA構造も含まれる。かかる構造としては、互いにハイブリダイズして幹部、ループ、および任意選択で突出端(好ましくは、3’突出端)を形成する2つの相補的な要素を含むRNA鎖が挙げられる。好ましくは、幹部はおよそ19bp長であり、ループは約1〜20、より好ましくは約4〜10、最も好ましくは約6〜8nt長である、および/または突出端は約1〜20、より好ましくは約2〜15nt長である。本発明の一部の特定の実施形態では、幹部は最低限19ヌクレオチド長であり、およそ29ヌクレオチド長までであり得る。4ヌクレオチド以上のループは、それより短いループよりも立体拘束に供されにくく、したがって、好ましいものであり得る。突出端としては、5’ホスフェートおよび3’ヒドロキシルが挙げられ得る。突出端は、複数のU残基、例えば、1〜5個のU残基を含むものであり得るが、そうである必要はない。
【0062】
miRNAは、典型的にはおよそ20〜26ヌクレオチド長、例えば、22nt長である。これは、スモール・テンポラル(small temporal)RNA(stRNA)として知られる大きな前駆体またはmRNA前駆体(これは、典型的には、およそ70nt長であり、およそ4〜15ntのループを有する)に由来するものであると考えられる。
【0063】
また、細胞の細胞質内で低分子干渉RNA(siRNA)にプロセッシングされる低分子ヘアピンRNA(shRNA)をコードするウイルスベクターまたはDNAベクターも使用され得る。所望の特定のsiRNA配列をコードするDNA配列を含むプラスミドが標的細胞に送達され、続いて、例えば、ウイルス媒介性感染によって内在化され得る。細胞内に入ると、該DNA配列は、分子内塩基対合によってループ状になってヘアピン構造が形成されたRNA分子に連続的に転写される。このようなヘアピン構造は、細胞によってプロセッシングされると、トランスフェクトsiRNA分子に相当し、該細胞によって所望のタンパク質のRNAiを媒介するために使用される。shRNAの使用は、siRNAと比べて、前者では、安定で長期間のタンパク質発現の阻害がもたらされ得るという利点を有する。長期のタンパク質阻害が必要な場合、治療用薬剤としてshRNAが好ましい。
【0064】
一部の好ましい態様では、治療用薬剤は1種類以上の細胞である。例えば、細胞は、幹細胞(分娩後由来細胞もしくは骨髄由来細胞など)であり得るか、または前駆細胞、血中派生内皮細胞(Blood Outgrowth Endothelial Cell)(BOED)、成人血液および臍帯血幹細胞(CBSC)、人工多能性幹細胞、例えば、少なくとも1つの内皮表現型を有する細胞に分化するさらなる可能性を有する多能性幹細胞に形質転換されるようにプログラムされた皮膚細胞であり得る。一部の例示的な態様では、細胞は血管内皮細胞などの血管細胞である。内皮細胞は、自己由来、異種、または血液、骨髄もしくは組織生検材料のいずれかに由来するものであり得る。組織生検を行なう内皮細胞は、動脈、静脈、脂肪組織、または内皮細胞もしくはその前駆細胞を含む可能性を有する任意の他の組織に由来するものであり得る。
【0065】
一部の態様では、該システムは、移植可能なデバイスを含むものである。当該技術分野において既知であるか、または使用されている任意の移植可能なデバイスが本発明のシステムにおいて使用され得る。適当な移植可能なデバイスの非限定的な例としては、ステント、心臓弁、縫合針金、一時的人工関節および泌尿器拡張器、整形外科用移植物、例えば、関節プロテーゼ、ネジ、ステープル、クギ、ナット、ボルト、プレート、ロッド、ピン、ワイヤ、インサータ、オステオポート(osteoport)、ハロシステム(halo system)ならびに脊椎および長骨骨折の安定化もしくは固定または関節離断術のために使用されている他の整形外科用デバイスが挙げられる。他のデバイスとしては、非整形外科用デバイス、一時的留置物および永久移植物、例えば、気管瘻孔形成術用デバイス、ドレナージ管、空腸造瘻術および胃造瘻術用チューブ、尿道内および他の尿生殖器用移植物、スタイレット、拡張器、血管用クリップおよびフィルター、ペースメーカー、皮下移植血管カテーテルのワイヤガイドおよびアクセスポート、電子チップ、送信/受信マイクロ電子移植物、移植可能な薬物送達マイクロデバイス、移植可能なバイオセンサー、移植可能なマイクロビデオデバイス、ならびに移植可能なマイクロバッテリーデバイスが挙げられる。高度に好ましい移植可能なデバイスはステントである。ステントは薬物溶出ステントであり得る。
【0066】
好ましくは、移植可能なデバイスは磁気材料または磁化可能な材料を含むものである。より好ましくは、かかる磁気材料または磁化可能な材料は生体適合性である。生体適合性となるようにデバイスを修飾してもよい。例えば、生体適合性を改善するための金属支持体の表面修飾は、米国特許出願公開公報番号2003/0044408に記載されている。
【0067】
ステンレス鋼、例えば、Grade 304 Stainless Steelは、移植可能なデバイスに使用され得る材料の好ましい非限定的な一例である。他の例としては、200−シリーズオーステナイトクロム−ニッケル−マンガン合金および300−シリーズオーステナイトクロム−ニッケル合金が挙げられる。
【0068】
該デバイスは、被験体の体内の任意の場所に移植され得る。一部の好ましい態様では、該デバイスは、被験体の血管系、例えば、静脈、動脈または毛細血管などの血管内に移植される。ステントが使用される場合、ステントは、任意の管内(肝管、胆管など)、消化系(食道、胃、腸、もしくは結腸など)の一部、呼吸器系(気管もしくは気管支など)の一部、または排出系(尿管、尿道、もしくは腎排出管など)の一部に移植され得る。他の移植物としては、眼球用移植物および放射性シードが挙げられる。
【0069】
一部の態様では、該システムは、回収システムを含むものであり得る。一般に、回収システムは、標的部位に到達しなかった治療用粒子を捕捉して内包するため、および治療用薬剤が標的部位に送達された後の粒子(本明細書において、同義的に使用済の粒子と称する)を捕捉して内包するために使用され得る。未使用または使用済の粒子は、被験体の血中に進入または残留し得る、および被験体に不要な効果をもたらし得る。被験体に対するリスクを最小限にするため、かかる未使用および/または使用済の粒子を除去することが好ましい。回収システムは、好ましくは、身体または体内の特定の体液、器官、付属器などが使用済または未使用の粒子を実質的に含有しなくなるように、ほとんどの、より好ましくは実質的にすべての未使用および/または使用済の粒子を捕捉して内包する。
【0070】
一部の好ましい態様では、回収システムは磁気材料または磁化可能な材料を含むものである。該材料は、当該技術分野において適当な任意の形態で備えられ得る。例えば、該材料は、ロッド、プレート、ビーズ、チューブ、ワイヤ、パネル、フィルター、スクリーン、メッシュなどであり得る。具体的な形態(幾何構造)は重要でなく、可変量(あれば)の数に応じて異なり得る。
【0071】
回収システムは、好ましくは生体適合性である。回収システムを構成するために使用され得る好適な材質としては、限定されないが、316Lステンレス鋼などのステンレス鋼が挙げられる。また、400−シリーズステンレス鋼(例えば、430−グレード)も、一部の場合で、例えば、回収システムの材質の長期的な腐食性の可能性が懸念されない短期使用の場合に使用され得る。
【0072】
好ましくは、回収システムは、被験体に可逆的に取り付けられるように構成される。回収システムは被験体に、該システム全体が使用される治療的使用に応じた適当な身体上の任意の位置に可逆的に取り付けられ得る。例えば、回収システムは、体表面または特定の内部器官、骨もしくはシステムに可逆的に取り付けられ得る。好ましくは、回収システムは、少なくとも1つの血管、より好ましくは、血液が回収システム内に直接流入することが可能となるように血管内腔に可逆的に取り付けられる。循環系は流れが速くて充分に近接される系であり、したがって、回収システムの取り付けに高度に好ましい。
【0073】
一部の態様では、回収システムは被験体に間接的に取り付けられる。例えば、被験体の生体液を取り出し、回収システムと接触させ得る。生体液としては、限定されないが、血液、脳脊髄液、腹水液、胆汁、羊水、乳汁、唾液、歯肉滲出液、尿、粘液、腎液などが挙げられ得る。該粒子を生体液から隔離した後、生体液は被験体に戻され得る。血液は特に好ましい生体液である。したがって、例えば、被験体の血液を身体から取り出し、回収システムと接触させ、輸血によって体内に戻し得る。血液は、分離してその成分に分けてもよく、全血のままであってもよい。
【0074】
回収システムに指向された該粒子は、当該技術分野において適当な任意の手段に従って処理され得る。該粒子は、回収システムに指向された後、回収システムにより被験体から除去され得る。
【0075】
少なくとも1種類の治療用薬剤および少なくとも1種類の磁気材料または磁化可能な材料を含む粒子は、磁場によって体内の1箇所以上の所望の位置に、例えば、体内の1つ以上の移植型デバイスに標的化される。したがって、本発明のシステムは磁場発生器を含むものであり得る。磁場発生器は、外部磁石を含むもの、例えば、磁気共鳴イメージングデバイスであり得る。一部の態様では、磁場発生器は、少なくとも1つの指向可能な磁場勾配が発生するように構成されたものである。磁場勾配により、該粒子が移植可能なデバイスに指向され得る。磁場勾配により、該デバイスに送達されなかった粒子が回収システムに指向され得るか、または使用済の粒子、すなわち、成功裡に送達され、治療用薬剤が枯渇した粒子が回収システムに指向され得る。単一の磁場勾配を、該粒子を移植可能なデバイスに指向させるために使用し、次いで、残存している未使用または使用済の粒子が回収システムに指向されるように再構成してもよい。あるいはまた、多数の勾配を発生させ、少なくとも1つの勾配を粒子の移植型デバイスへの指向に、少なくとも1つのさらなる勾配を粒子の回収システムへの指向に使用してもよい。該勾配は、該移植型デバイスの近位に発生され得、回収システムの近位にも発生され得る。
【0076】
図4および5を参照すると、例示的な磁気援用治療用システム100が示されている。治療用システム100は、哺乳動物被験体(図示せず)に移植させたデバイス104、被験体に対して外部に、移植型デバイス104に対して近位に指向される磁場勾配が発生するように構成された磁場発生器106、および被験体に投与された治療用粒子102を含む。デバイス104は、哺乳動物被験体の血管系内に移植された血管用デバイスであり得る。
【0077】
また、本発明により、被験体内または被験体上の1つ以上の所望の位置に治療用粒子を磁気的に標的化させるための方法が特長とされる。一部の好ましい態様では、該方法は、被験体に移植させたデバイスへの治療用粒子の磁気による標的化に適用可能である。
【0078】
該方法は、少なくとも1種類の生体適合性の磁気材料または磁化可能な材料を含む移植型デバイスを有する被験体に、少なくとも1種類の治療用薬剤および少なくとも1種類の磁気材料または磁化可能な材料を含む治療用粒子を投与すること、該移植型デバイスの近位に磁場勾配を発生させること(ここで、該勾配により該粒子が該移植可能なデバイスに標的化される)、ならびに該移植可能なデバイスに送達されなかった粒子を除去することまたは使用済の粒子を除去することを含むものであり得る。
【0079】
治療用薬剤は、本明細書において記載または例示した任意の分子、例えば限定されないが、医薬、生体分子または細胞であり得る。移植型デバイスは、当該技術分野において使用され、知られ、あるいは適した任意のデバイス(本明細書において記載または例示したものなど)であり得る。
【0080】
一部の好ましい態様では、該方法は、特定の細胞または組織への治療用粒子の磁気による標的化に適用可能である。この方法は、インビトロで行なわれ得、好ましくはインビボで行なわれ得る。したがって、例えば、治療用粒子は、被験体の体内の特定の位置に磁気的に標的化され得る。該位置に移植型デバイスを有している必要はない。磁場が、該粒子を所望の位置に誘導するために使用され得、所望の位置の具体的な細胞による治療用粒子の内在化を助長するために使用され得る。
【0081】
一部の詳細な態様では、この方法は、酸化的損傷から細胞を保護するために使用され得る。したがって、例えば、酸化的損傷から細胞を保護するための方法は、細胞を、磁気材料または磁化可能な材料および少なくとも1種類の抗酸化酵素を含む粒子と接触させること、ならびに該磁気材料または磁化可能な材料を磁化させ得る均一磁場を、該細胞の近位に、該細胞が該粒子を内在化させることを可能にするのに充分な期間発生させることを含む。細胞はインビトロであってもインビボであってもよい。細胞は、内皮細胞、例えば血管内皮細胞であり得る。抗酸化酵素は、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、またはグルタチオンペルオキシダーゼであり得る。該粒子は、さらに、該細胞表面上の抗原に特異的に結合する抗体を含んでいてもよい。したがって、該抗体は、適正な標的細胞への標的化を助長するために使用され得る。
【0082】
被験体への治療用粒子の投与は、注入または注射(静脈内、筋肉内、皮内、皮下、髄腔内、十二指腸内、腹腔内など)によるものであり得る。また、該粒子は、鼻腔内、膣内、直腸内、口腔内、経口または経皮投与され得る。好ましくは、該組成物は静脈内投与される。投与は医師の指示でなされ得る。該粒子は移植型デバイスの近位に投与しても遠位に投与してもよい。
【0083】
口腔内投与のためには、該組成物には、慣用的な様式で処方される錠剤、トローチ剤またはロゼンジ剤の形態が採用され得る。経口または口腔内投与のための組成物は、該粒子の制御放出がもたらされるように処方され得る。かかる処方物には、当該技術分野で知られた1種類以上の徐放剤(グリセリルモノステアレート、グリセリルジステアレートおよびワックスなど)が含まれ得る。
【0084】
該粒子を経表面的に適用してもよい。かかる投与としては、表皮、口腔、目、耳および鼻への該粒子の外用が挙げられる。経表面投与における使用のための該粒子としては、例えば、皮膚からの浸透に適した液状またはゲル調製物、例えば、クリーム剤、リニメント剤、ローション剤、軟膏またはペースト剤、および目、耳または鼻への送達に適した滴剤が挙げられる。
【0085】
種々の択一的な医薬送達システムが使用され得る。かかるシステムの非限定的な例としては、リポソームおよび乳剤が挙げられる。また、ジメチルスルホキシドなどの特定の有機溶媒も使用され得る。さらに、該粒子は、治療用薬剤を含有する固形ポリマーの半透過性マトリックスなどの徐放システムを用いて送達され得る。利用可能な種々の徐放物質が当業者によく知られている。徐放カプセルでは、その化学的性質に応じて、該粒子は、数日間から数週間、数ヶ月にわたって放出され得る。
【0086】
また、該粒子を処置対象の病状に対する具体的な有用性のために選択される他のよく知られた治療用薬剤と共投与してもよい。例えば、かかる治療用薬剤は、鎮痛薬、血液希釈剤/抗凝固剤、クロットバスター、胃の制酸薬、または該粒子の不要な効果が少なくなる化合物であり得る。
【0087】
このようなさらなる化合物の投与は、該粒子の投与と同時であってもよく、必要に応じて該粒子の投与の前または後のいずれかで相前後して投与してもよい。併用療法に含められる種々の化合物が互いに数分以内、数時間以内、数日以内または数週間以内に投与される任意の適当なプロトコルが考案され得る。また、サイクルプロトコルでの反復投与も本発明の範囲に含まれることが想定される。
【0088】
該粒子の投与後、移植型デバイスによる治療用粒子の捕捉が、ある期間行なわれる。磁性粒子の送達持続期間は、任意の数の可変量、例えば限定されないが、被験体の種、血統、体格、身長、体重、年齢、全体的な健康状態、治療用薬剤の型、該粒子の組成、投与の(or)様式(mode/manner)、または処置対象の病状の型もしくは重症度に依存性である。使用される該粒子の適切な有効量は、当業者によって、常套的な最適化技術ならびに実行者の技術および情報に基づく判断ならびに当業者に自明の他の要素を用いて常套的に決定され得る。好ましくは、本明細書に記載の粒子の治療有効用量は、被験体に対して実質的な毒性が引き起こされることなく、治療上の有益性がもたらされる用量である。
【0089】
該粒子の治療レジメンは、該粒子の少ない投薬量から開始し、その後、処置過程において、その状況下で最適効果が達成されるまで投薬量が増大され得る。必要であれば、総日投薬量を分け、その日中に分割して投与してもよい。
【0090】
具体的な病状の有効な処置のため、当業者には、処置対象の被験体に充分な投薬スケジュールおよび投薬量が推奨され得る。投与は、1日1回〜4回またはそれ以上で必要なだけ長期間行なわれることが好ましい場合があり得る。また、投薬スケジュールは活性薬剤の濃度に応じて異なり得、該濃度は被験体のニーズに依存し得る。
【0091】
本発明の方法は、標的化治療薬に適した任意の病状を処置するために使用され得る。該方法は、血管の病状の処置、例えば、金属ステント血管形成術の追跡治療に特に良好に適している。
【0092】
以下の実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために示す。本実施例は、本発明を例示することを意図し、限定するものでない。
【実施例】
【0093】
実施例1
アニオン脂質の塩で構成された非磁性および磁性の安定化ナノ粒子の調製
非磁性のオレイン酸カルシウム系ナノ粒子を調製するため、オレイン酸(100mg)を14.8mgの水酸化ナトリウムを含有する5mlの水溶液に、40℃まで穏やかに加熱しながら溶解させることによりオレイン酸ナトリウムを形成した。この水性オレイン酸ナトリウムにアルブミン溶液(10%、0.4ml)を添加した。塩化カルシウム水溶液(5ml中111mg)を滴下すると、チンダル効果による特徴的な青みがかったオパール色を示すナノ粒子形成がもたらされた。ナノ粒子径は、光子相関分光法により測定すると230±20nmであった。
【0094】
磁性のオレイン酸カルシウム系ナノ粒子を2工程手順によって以下のようにして調製した。混合型酸化鉄(マグネタイト)の安定な水性懸濁液を調製するため、塩化第二鉄六水和物と塩化第一鉄四水和物(それぞれ、100mgおよび50mg)を4mlの脱イオン水に溶解させ、1.6mlの水性水酸化ナトリウム(1M)により析出させる。次いで、得られた析出物にオレイン酸ナトリウム(5mlの脱イオン水中150mg)を添加する。マグネタイト析出物をナノ結晶の形態で、アルゴン下で90℃まで加熱し、超音波処理(各工程で5分ずつ)を2回繰り返して再懸濁させると磁性流体が形成される。オレイン塩安定化コロイド状マグネタイトを含有する1mlの得られたオレイン酸ナトリウム溶液にウシ血清アルブミン(200μl,10%w/v)を安定剤として添加し、塩化カルシウム(33.3mM,1.5ml)を滴下して穏やかに撹拌するとナノ粒子が形成される。該粒子を磁石上に沈降させることによって洗浄し、続いて水に再懸濁させる。また、該粒子を、抗凍結剤としての10%w/vのトレハロース溶液中でフリーズドライした後に凍結乾燥状態で保存してもよい。
【0095】
図1Aは、安定剤の濃度を変えることにより、得られるナノ粒子の粒径を調整できることを示す。図1Bは、安定剤の濃度を変えることにより、得られるナノ粒子の収率を調整できることを示す。
【0096】
実施例2
磁性ナノ粒子への親油性の中性薬剤の組込み
この実施例は、タキソールなどの親油性の中性薬剤を、小容量の生体適合性の水混和性溶媒中のその濃縮溶液を、アニオン脂質と安定剤を含有する磁性流体に添加することによる、該薬剤の磁性ナノ粒子に組込むことを示す。
【0097】
タキソール負荷ナノ粒子を実施例1の場合のようにして調製した。タキソール(10μlのジメチルホルムアミド中1.0mg)を、アニオン脂質と安定剤を含有する磁性流体に添加し、ナノ粒子を実施例1の場合のようにして単離した。
【0098】
磁場(500G)下で15分間のインキュベーション後の培養ラット大動脈平滑筋細胞の増殖に対するタキソール負荷磁性ナノ粒子の効果を、薬物を含有していない同等用量のナノ粒子との比較において、Alamar Blueアッセイ(λ励起=540nm、λ発光=575nm)を用いて調べた。細胞を96ウェルプレートに10%コンフルエンシーで播種し、3日後、薬物処方物の量の関数として細胞増殖を測定した。
【0099】
図2は、ナノ粒子の量の関数としての培養ラット大動脈平滑筋細胞の増殖に対するタキソール負荷磁性ナノ粒子の効果を示す。この図からわかるように、対照ナノ粒子が有する平滑筋細胞の増殖に対する刺激効果は弱いが、タキソールナノ粒子で処理した細胞の増殖は用量依存的様式で阻害され、適用した最も高い用量で、未処理細胞と比べて約30%減少した。
【0100】
実施例3
全トランス型レチノイン酸負荷磁性ナノ粒子の調製
上記の処方方法は、イオン性化合物をその水不溶性複合体として含むことによるナノ粒子の調製に適している。抗癌剤である全トランス型レチノイン酸(atRA)ナトリウム塩は、カルシウムと容易に複合体を形成するアニオン脂質であり、ナノ粒子に組み込むことができるイオン性物質の一例を示す。
【0101】
atRA含有処方物を、以下の改良を伴って実施例2に記載のようにして調製した。マグネタイト水性分散液を、100mgのオレイン酸ナトリウムを含有する4mlの水で調製した。全トランス型レチノイン酸(50mg)を1mlの水性水酸化ナトリウム(6.7mg)に溶解させ、マグネタイト分散液に添加した後、アルブミンの存在下で塩化カルシウムを滴下した。
【0102】
実施例4
アデノウイルス含有磁性ナノ粒子の調製
アデノウイルスが封入された磁性ナノ粒子は、ナノ粒子の形成工程前に、オレイン酸ナトリウム溶液含有磁性流体、またはCa2+もしくはZn2+溶液のいずれかにアデノウイルスを添加することにより作製され得る。以下の実施例において、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする50μlのアデノウイルス(5×1012粒子/ml)を磁性流体に添加し、該粒子内へのアデノウイルスの取込みを行なった。
【0103】
アデノウイルス含浸ナノ粒子を96ウェルプレート上に600〜2億8500万個のウイルス粒子/ウェルに相当する用量で播種したコンフルエントな平滑筋細胞に、磁場ありまたはなしで30分間適用した。処理の3日後、細胞内のGFP蛍光定量することにより(λ励起=485nm、λ発光=535nm)遺伝子発現をアッセイした。
【0104】
実施例5
カチオン性ペプチドの存在下での磁性ナノ粒子の形成
形質導入効率のさらなる改善は、1種類以上のカチオン性ペプチドまたはタンパク質、特に、アルギニン高含有ポリペプチドと、ポリ−L−アルギニンまたはプロタミンなどのタンパク質を、塩化カルシウムまたは塩化亜鉛の溶液に共添加することによって達成され得る。このようなペプチドとタンパク質を用いたナノ粒子の修飾により、細胞内取込みが助長され、したがって、封入されたアデノウイルスのより効率的な内在化がもたらされ、導入遺伝子発現の増大がもたらされる。ポリ−L−アルギニン塩酸塩(分子量は約70,000Da)をナノ粒子に組み込むと、培養ラット大動脈平滑筋細胞およびウシ大動脈内皮細胞のどちらにおいても、アデノウイルス遺伝子導入の用量依存的増大がもたらされる。
【0105】
細胞をコンフルエンスで96ウェルプレートに播種し、0〜2.25mgのポリ−L−アルギニン塩酸塩の添加により調製した漸増用量のアデノウイルス含浸ナノ粒子(290±20nm)で、磁場の存在下で15分間処理した。GFPの発現を、3日目に蛍光定量的に測定した。
【0106】
図3は、ポリ−L−アルギニン処方物の量およびナノ粒子の用量の関数としての、培養ラット大動脈平滑筋細胞およびウシ大動脈内皮細胞(それぞれ、図3Aおよび図3B)における導入遺伝子の発現を示す。磁気曝露ありおよびなしでの培養内皮細胞における導入遺伝子の発現を図3Cに示す。磁場ありまたはなしで285×10ウイルス粒子/ウェルに相当する用量のポリ−L−アルギニン修飾ナノ粒子で処理した培養内皮細胞における導入遺伝子の発現の動態を図3Dに示す。ここに培養内皮細胞で示されるように(図3C)、磁場の非存在下では、かなり低い遺伝子導入速度が観察された。
【0107】
実施例6
ナノ粒子の磁気勾配標的化
赤色蛍光標識を有するアルブミン修飾磁性ナノ粒子を、6mm長のグレード304ステンレス鋼ステントを既に留置しておいたラットの尾静脈に注射した(図6A)。Grade 304 Stainless Steel(「304スチール」)は、移植可能なデバイスにおける使用の歴史を有する。304スチールで作製された市販のステントはないが、ステント設計を行ない、医療用デバイスの企業と契約して実験における使用のための一連のこのようなステントが製作された。したがって、ここの報告する試験のすべてで、現在商業的に使用されているステントを用いたわけではなかった。
【0108】
このラット試験において、304ステントを、ステントに対して磁場ありおよびなしの両方で調べた。また、ステントなしでも磁性ナノ粒子を動物に注射し、ステント留置なしで局在が起こるかどうかを確認するために調べた。
【0109】
方法:パクリタキセルを、マグネタイト負荷ナノ粒子(MNP)のポリ乳酸(PLA)マトリックス中に分散させた。アデノウイルステザーリングMNPを、光化学的表面活性化を用いて調製し、続いて、組換えアデノウイルス結合タンパク質D1に結合させた後、ナノ粒子−アデノウイルス複合体を形成させた。プラスミドベクターをPEI官能化MNPと電荷により会合させた(charge−associate)。種々の磁場強度およびフロー条件下でのスチールメッシュおよびステント上へのMNPの磁性トラップを、閉鎖回路のフローシステムにおいて試験した。磁性ナノ粒子と会合させた遺伝子ベクターを用いたトランスフェクション/形質導入を平滑筋(SMC)および内皮細胞において試験した。レポーター遺伝子会合MNPおよび事前に留置したステント上のMNP負荷細胞の磁力駆動性の局在ならびにその結果の導入遺伝子の発現をラット頚動脈ステントモデルで試験した。
【0110】
プロトコル(図6A):400μlの磁気応答性蛍光標識ポリ乳酸系マグネタイト負荷ナノ粒子を、麻酔を導入した480〜510gのラット(Sprague−Dawleyラット(n=6))に静脈内注射した(尾静脈から)。マグネタイト負荷ナノ粒子は350nmであり、注射1回あたり7.2mgで構成した。この注射は、動物の細網内皮系を飽和させて、肝臓および脾臓での2番目に主要な用量のナノ粒子の過剰な捕捉を抑制するために行なった。
【0111】
最初の注射の30分以内に、304スチールステントを左の総頚動脈内に留置した。その直後、さらなる400μl用量のナノ粒子を、動物の首に隣接して配置した2つの電磁石によって発生させた300Gの磁場ありまたはなしのいずれかで静脈内注射した。注射後、磁場を5分間維持した後、動脈を回収した。ステントを除き、ステント上および動脈の管腔側面上のナノ粒子の堆積を蛍光顕微鏡検査によって調べた。それぞれの画像の取得後、BODIPY標識(赤色蛍光)PLAをアセトニトリル中に抽出させ、その濃度を較正曲線から蛍光定量的に測定した。蛍光の対照/バックグラウンドの目的のため、もう1匹のラットではナノ粒子を注射せず、ステント留置動脈を取り出し、同様に処理してバックグラウンド蛍光値を得た。
【0112】
結果:閉鎖回路のフローシステムでは、MNPおよびMNP負荷細胞は磁性メッシュ上に指数関数的動態的にトラップされた。316Lステンレス鋼グリッド上で培養したラット大動脈SMC(A10)では、MNP−AdGFPに曝露した場合、対照と比べて遺伝子形質導入の100倍の増大が示された。パクリタキセルMNPでは、培養状態でのA10細胞の増殖の阻害が示された。ラットへのMNPの全身性の静脈内注射により、外部磁場(300G)の存在下で行なった場合では、対照と比べて動脈内ステント上への7倍高いMNP局在がもたらされた。
【0113】
この試験の結果を図6B(蛍光定量,540/575nm)に示すとともに、蛍光顕微鏡検査により(図示せず)、留置304ステントへの磁性ナノ粒子の強い局在が示され、また、ステントに直接的に近位の動脈の壁への磁性ナノ粒子の局在も示された。また、特異的蛍光アッセイを使用し、この方法論を用いた静脈内注射後の磁性ナノ粒子の有意な局在を定量化した。
【0114】
結論:ステント留置動脈に対する高い磁場勾配を用いた薬物/遺伝子送達の磁性標的化
により、初期投与だけでなく、反復投与でもステント留置動脈壁へのベクターの磁場媒介性局在が利用できる可能性のため、大きな有望性がもたらされる。この結果は、電磁場とともに全身性の静脈内送達を行なった群では、「磁場なし」対照と比べてステント上および隣接動脈組織上へのナノ粒子の堆積が有意に高いことを明白に示す。非ステント留置動脈では、磁場ありまたはなしでナノ粒子の局在は示されなかった。
【0115】
実施例7
残留ナノ粒子および細胞の磁性トラップおよび除去
この実施例は、外部磁気応答性スチールフィルターでの残留ナノ粒子および細胞の除去を示す(「磁性トラップ」)。図7は、循環系からの磁性ナノ粒子または細胞の回収をモデル設計するために使用される回収システム108(図4)を模式的に要約したフローシステム400を示す。図7に示すように、フローシステム400は、磁性トラップ402(残留ナノ粒子を捕捉するための430ステンレス鋼メッシュを有するエッペンドルフ型)、磁場を発生させるための電磁石404、蠕動ポンプ406、撹拌器408、および流れをサイクルAまたはサイクルBに指向するための蛇口410を含む。適当な蠕動ポンプ406、撹拌器408および蛇口410(一般的には、アフェレーシス装置用のもの)は、本明細書の記載から当業者に理解されるであろう。
【0116】
以下の実験プロトコルを使用し、「磁性トラップ」装置を用いて、それぞれ磁性ナノ粒子および細胞の捕捉の動態を調べた。
【0117】
PLA−PEG系磁性ナノ粒子を50mlの5%グルコース溶液中で希釈し、均一な粒子径が確保されるように濾過した(5μmカットオフ)。あるいはまた、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)をコンフルエンスまで培養し、強い磁場(500ガウス)を発生させる細胞培養磁石(Dexter Magnet Technologies,Elk Grove Village,IL)上の蛍光標識磁性ナノ粒子とともに24時間インキュベートした後、細胞を新鮮細胞培養培地中で洗浄し、再懸濁させた。未処理細胞を対照として使用した。
【0118】
フローシステム400に、それぞれ5%グルコースまたは細胞培養培地をパージした(洗浄工程)後、ループAの1サイクルのナノ粒子/細胞懸濁液を行ない、システムを平衡化した(プライミング工程)。次に、ナノ粒子/細胞懸濁液を、1ないし3つの430ステンレス鋼メッシュ片(それぞれ、総重量は0.30±0.01および0.83±0.05g)が取り付けられたトラップデバイス402と2つのソレノイド電磁石404によって発生する800ガウスの外部磁場とを含むループBに再指向した。t試料を抜き取り、さらに参照として使用した(100%のNP/細胞)。それぞれ、ナノ粒子および細胞の回収実験の2.5時間および35分間の間に、所定の時点でさらなる試料を収集した。磁場曝露の効果を、それぞれ、ナノ粒子および細胞の実験の最初の25分および3分間(その後、磁場を適用した)に使用した「磁場なし」条件との比較において調べた。所与の時点で循環系に残留しているNP/細胞の割合を、参照試料と関連させて蛍光定量的に(λex=540nm、λem=575nm)測定した。実験終了の直後および24時間後に、メッシュ試料を蛍光顕微鏡下で赤色蛍光フィルターセット(540/575nm)を用いて可視化した。収集した細胞を37℃で一晩インキュベートし、その形態構造を顕微鏡により調べた。
【0119】
図8および図9は、それぞれ、磁場の影響下での経時的なナノ粒子およびBAEC細胞の指数関数的枯渇動態を示す。また、「磁場なし」条件では、ナノ粒子およびBAEC細胞のどちらにおいても、観察される顕著な現象は有意に少ない。磁場曝露下では、ナノ粒子および細胞のどちらの枯渇動態も非常に高速であり、ナノ粒子および細胞の溶出t90%(すなわち、循環しているナノ粒子または細胞の90%が排除されるのに必要とされる時間)は、それぞれ、75分および16分であった。細胞捕捉における5分の1のt90%は、明らかに、より小径のNPと比べて多数のナノ粒子/細胞を含有する細胞によるその高い磁気応答のためである。
【0120】
図10を参照すると、異なる磁性トラップ立体配置および対応する枯渇動態が示されている。「磁性トラップ」内の430ステンレス鋼の量および表面積を増大させると(0.3から0.83g)、ナノ粒子の循環t1/2の有意な減少が引き起こされた(27分対50分)。したがって、「磁性トラップ」設計の最適化により、おそらく、ナノ粒子および細胞の回収動態が、その臨床的使用に充分に高速となり得る。また、細胞枯渇の測定のために細胞を循環系から取り出した場合、該細胞の拡延も示された。細胞を細胞培養プレートにおいて37℃で5%のCO雰囲気中にて一晩培養した。実験後に撮影したメッシュの顕微鏡写真では、「磁性トラップ」上に堆積したナノ粒子が示された。
【0121】
また、実験終了時に捕捉された磁気応答性細胞および24時間後の細胞の拡延も示された。細胞捕捉実験中に循環系から試料採取した細胞は、BAECに特徴的な通常の形態構造を示す。増殖条件は、37℃および5%COでの10%FBS補充DMEMである。捕捉された細胞の形態構造を評価するため、この実験での磁性トラップに使用したメッシュを、実験の直後および24時間後に蛍光顕微鏡下で可視化した。多数の細胞が初期にメッシュの縁部で捕捉されることが示され、そのうち、メッシュ表面に最も隣接しているものが、24時間後に、メッシュ枠の表面全体の一面にわたって均一に拡延した細胞の層を形成し、したがって、磁気的に標的化された細胞のバイアビリティが示される。実験終了時の磁性担体ナノ粒子の捕捉は、800ガウスの磁場(「磁性トラップ」)下で430ステンレス鋼メッシュの表面に示されたのに対して、対照メッシュでは実験の開始時に磁場の適用前に示された。
【0122】
実施例8
アルブミン安定化磁性ナノ粒子のTEMおよび磁化曲線
次に図11Aおよび11Bを参照すると、それぞれ、実施例6に関して上記のアルブミン安定化磁性ナノ粒子(MNP)の透過電子顕微鏡検査の結果および磁化曲線(磁場に対する磁気モーメント)が示されている。小径で多数の個々のオレイン酸コートマグネタイト粒がMNPポリマーマトリックス中に分布されていることに注目のこと(図11A)。MNPは、有意なヒステリシスは示されず、それぞれの示される残留磁気が飽和磁化値0.5%程度である超常磁気的挙動を示す(図11B)。
【0123】
実施例9
MNP細胞負荷
次に図12A〜12Bを参照すると、インビトロMNP細胞負荷試験が示されている。特に、図12Aは、MNP用量およびインキュベーション時間の関数としてのウシ大動脈内皮細胞(BAEC)によるMNP取込みの動態を示し;図12Bは、MNP用量およびインキュベーション時間の関数としての細胞バイアビリティを示し;図12Cは、MNP自体で観察されたような超常磁気的挙動を示すMNPが負荷された細胞の磁化曲線を示す。ナノ粒子取込みは、内在化されたMNPの蛍光によって測定した。細胞の生存率はAlamar Blueアッセイによって測定した。
【0124】
BAEC(ウシ大動脈内皮細胞)を、磁石上の種々の用量のMNPとともにインキュベートした。図12Aに示すように、MNP取込みは、種々の時点で内在化されたナノ粒子の蛍光によって測定した。内在化されたMNPの量は、ナノ粒子の用量にほぼ線形に依存性であった。8時間後、およそ30%の内在化が観察され、取込みは24時間後に事実上完了したが、磁場の非存在下では、24時間目で有意な取込みは達成されなかった。図12Bに示されるように、種々の実験条件(インキュベーション時間およびMNP用量)での細胞バイアビリティは、MNP負荷によって有害に影響されなかった。試験したすべてのMNP用量およびインキュベーション時間で、未処理細胞と比較して、85%より高い細胞生存率が観察された。図12Cに示されるように、MNPが負荷された細胞の磁化曲線は、有意なヒステリシスは示されず、それぞれの示される残留磁気が飽和磁化値0.5%程度である超常磁気的挙動を示す。
【0125】
実施例10
遺伝子導入効率および細胞毒性
該粒子を、培養状態の細胞のトランスフェクションについて試験した。3種類の磁気応答性粒子を調製し、DNAと異なるPEI:DNA比で複合体形成させた。実験ではすべて、ナノ粒子を0.25μgのGFPコードDNAプラスミド/ウェルと5%グルコース中で30分間、複合体形成させ、次いで、10%ウシ胎仔血清(FBS)を補充した細胞培養培地と1:4で混合し、磁場を伴って細胞に10分間適用した。そのトランスフェクション効率、ならびにナノ粒子の取込みおよび毒性を、培養ラット大動脈平滑筋およびウシ大動脈内皮細胞(それぞれ、A10およびBAEC)において、非磁性粒子を対照として用いて試験した。遺伝子発現、NP取込みおよび細胞の生存率を、2日目の時点で、それぞれ、蛍光を485/535nm、620/670nmで測定することにより、およびAlamar Blueアッセイ(540/575nm)により測定した。結果を図13A〜Fに示す。磁気応答性処方物では、非磁性ナノ粒子とは対照的に(図13A〜F)、その細胞内取込みと相関して(図13CおよびD)高レベルの遺伝子産物がもたらされた。すべての処方物で、調べた量範囲の細胞培養物において示された毒性は低かった(図13およびF)。
【0126】
別の実験において、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を−1日目に播種した(2×10/ウェル,4つの24ウェルプレート)。細胞は、トランスフェクション前の0日目に、10%FBS補充ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で2回(2×1時間)洗浄した。プラスミドDNAを磁性ナノ粒子(錯化体)とともに種々の比率で5%w/vグルコース溶液中で30分間インキュベートし、FBS含有DMEMで1.25倍に連続希釈して最終血清濃度を10%または80%にし、細胞に0.25μg DNA/ウェルで適用した。細胞を37℃でインキュベートし、このとき、プレートの1つをある時間、磁石上に置き(15分)、別の1つを磁石から遠くに維持した。次いで、培地を、10%FBSを補充した予備加温新鮮DMEMと交換した。24時間後、細胞をトランスフェクションについて観察した。
【0127】
外部磁場の使用なしで適用した場合、ナノ粒子とPEIで示された緑色蛍光タンパク質コードDNAでの培養BAEC細胞のトランスフェクションは同等であったが、永久磁石の存在下で適用した磁性ナノ粒子のトランスフェクションの有効性は、対照処方物および磁石の非存在下で適用した磁性ナノ粒子の両方と比べてかなり増大した。
【0128】
培養A10細胞でも、トランスフェクションの有効性に対して、同様の磁場の効果が観察された。
【0129】
注目すべきことに、10%および80%血清の存在下では、明らかにDNAの酵素的分解に対するその保護効果のため、磁性NPにより細胞が有効にトランスフェクトされ得たが、血清の存在下では、DNA:PEI複合体を細胞に同じ期間添加した場合、事実上トランスフェクションはみられなかった。
【0130】
実施例11
siRNA含有ナノ粒子の磁性標的化
磁性ナノ粒子を、以下プロトコルを用いて処方した:300mgのFeCl六水和物と150mgのFeCl四水和物を含む5.5mlの水溶液を、NaOHの4.75mlの水溶液(1.0M)とすばやく混合した。得られた析出物を磁石で分離した。オレイン酸(150mg)を滴下し、析出物を2mlのエタノールに懸濁させ、混合物をアルゴン中で脱気した。内容物を90℃まで水浴中で5分間、数回の撹拌を伴って加熱した。4mlの水を滴下して穏やかに撹拌すると、オレイン酸コート酸化鉄が磁石上に析出され、液相を注意深く吸引した。析出物を4mlのエタノールで洗浄して過剰のオレイン酸を除去し;磁石上への沈降後、エタノールを吸引した。この析出物を5mlのクロロホルムに再懸濁させた。
【0131】
200mgのポリ乳酸(PLA)(D,L−PLA 70−120 K Sigma)、100mgのポリエチレンイミン(PEI)(分枝PEI,Aldrich 25 K)または200mgの線状PEI 200K(pH7)および100mgのオレイン酸をマグネタイトのクロロホルム懸濁液に溶解させたものからなる有機相を、氷浴中で予備冷却した15mlの脱イオン水に添加し、超音波処理によって混合物を乳化した。有機溶媒を、25℃での回転式エバポレーションによって除去した。該粒子を1.0μmガラス繊維フィルターに通して濾過し、脱イオン水に対して4℃で24時間、数回の水の交換を伴って300,000Daカットオフ透析膜を用いて透析した。得られたナノ粒子懸濁液にトレハロース(10%w/v)を添加し、ナノ粒子を凍結乾燥させ、−20℃で保存した。
【0132】
本実施例で使用したNP処方物(図14)(直径360nm)は、有意なヒステリシスは示されず、示される残留磁気がそれぞれの飽和磁化値の0.5%程度である超常磁気的挙動を示した。磁気モーメントは、1000Oeまでほぼ線形に磁場に依存し、飽和値の66〜68%に達するが、磁場をさらに5000Oeまで増大しても、観察される磁化の増分は比較的少なかった(図14)。NPの比磁化率は、約5.03+0.04emu/cm×kOeであることがわかった。
【0133】
線状PEIを、Thomas,Mら(2005).Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:5679−84に記載のようにして調製した、簡単には、完全脱アシル化線状PEI 200Kを、市販の200K PEOZポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)(Sigma−Aldrich)の酸触媒型加水分解によって調製した。典型的には、3.0gのPEOZを120mlの24%(w/v)HClに添加した後、96時間還流した。最初の反応混合物は、反応の間中、白色析出物を含んでいた。PEOZ結晶は約2時間で完全に溶解し、2−プロパノールで1回洗浄した。この粉末を2−プロパノールに2時間再度分散させ、濾過によって単離し、減圧乾燥した。得られた白色粉末は、1H−NMRによって純粋なPEI塩酸塩であると確認された。完全脱アシル化PEI 200では、NMRによって、3.57ppmに−CH−CH−NHに対応する一重項が示されたが、N−プロピオニル部分に対応するシグナル示されず、その複合体の除去が確認された。
【0134】
磁性NPを用いたsiRNAによるレンチウイルス形質導入平滑筋細胞でのeGFP発現の抑制を、以下の実験において行なった:ラット大動脈平滑筋細胞(A10)を、GFPコードレンチウイルスで形質導入した後、培養して数回継代した。細胞は、10ウシ胎仔血清(FBS)を補充したDMEM培地中で培養した。凍結乾燥NPを100μlの脱イオン水に再懸濁させ、三連で連続希釈し、以下のNP量範囲:それぞれ、分枝および線状PEI−NP/ウェル(96ウェルプレート形式)で0〜14μgおよび2.2μgにした。siRNAを、NPとともに種々の比率で5%w/vグルコース溶液中で30分間インキュベートし、血清補充DMEMで5倍希釈した後、0.15、0.25、および0.35μg RNA/ウェルで細胞に添加した後、磁場(500ガウス,細胞培養磁石,Dexter Magnet Technologies,Elk Grove Village,ILによって発生)に20分間曝露した。GFP発現(λem/λex=485nm/535nm)および細胞バイアビリティ(AlamarBlueアッセイ[Biosource,Camarillo,CA USA],(λem/λex=540nm/575nm)の蛍光定量による測定を、生細胞において、処理の5日後に行なった。
【0135】
分枝または線状いずれかのPEIを用いて処方した磁性NPを使用し、効率的なeGFP抑制が達成された(図14)。どちらの処方物型でも、eGFP抑制はNP用量に直接的に依存し、最大20〜40%に達した(図14)。しかしながら、線状PEI処方物を用いて達成されたeGFP抑制では、NP用量を増大すると飽和が示されたが、分枝PEI−NP処方物では、eGFP抑制は、試験した全NP範囲でほぼ線形の用量依存性が示された。eGFPの抑制は、線状PEI処方物の場合は直接的にsiRNA用量依存性であり、分枝PEI−NP処方物では逆依存性であり、それぞれ、0.35および0.15μgのsiRNA用量の線状および分枝PEI処方物で、38および40%の最大抑制がもたらされた(図14AおよびC)。NP/siRNA処方物により細胞の生存率は有意に障害されず、処理の5日後、最大NP用量で90%より多くの生存細胞が示された(図14BおよびD)。
【0136】
実施例12
スチールステント表面への磁性ナノ粒子負荷内皮細胞の高い磁場勾配での標的化
ナノ粒子の処方および特性評価。塩化第二鉄と塩化第一鉄(それぞれ、300mgおよび150mg)から水性水酸化ナトリウムでのアルカリ析出によって調製したマグネタイトを磁気により分離し、2mlのエタノールに再懸濁させ、アルゴン下で90℃まで水浴中にて5分間加熱することによりオレイン酸(200mg)でコーティングした。4mlの水の滴下によって過剰のオレイン酸を相分離し、脂質コートマグネタイトをエタノールで2回洗浄した。親油性マグネタイトを6mlのクロロホルム中に分散させると、安定な磁性流体が形成された。得られた酸化鉄の有機分散液を用いてPLAを溶解させ、かくして有機相を形成した。この有機相を、氷浴内での超音波処理によって水性アルブミン溶液(1%)中で乳化させた後、有機溶媒をエバポレーションした。該粒子を未結合アルブミンから反復磁性の沈降/再懸濁サイクルによって分離し、10%(w/v)グルコースを抗凍結剤として用いて凍結乾燥させた。凍結乾燥MNPを−20℃で維持し、使用前に脱イオン水に再懸濁させた。
【0137】
粒子径の測定を、90 Plus Particle Size Analyzer(Brookhaven Instruments,Holtville,NY USA)を用いて行なった。MNPおよびMNPが負荷された細胞の磁性を、MNPまたはMNP負荷細胞いずれか(5μlの試料を4×4mmのカバーガラススライド上で風乾,交互勾配磁気計(Princeton Instruments Corporation,Princeton,NJ,USA)を使用)のヒステリシス曲線から推定した。
【0138】
細胞の調製。細胞負荷および細胞バイアビリティの実験のために、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を、透明な底の96ウェルプレート上に1.5×10細胞/ウェルの密度で播種した(10%ウシ胎仔血清(FBS)を補充したDMEMを使用)。細胞培養物をMNP取込みに関して同調させるため、細胞を4℃で30分間インキュベートした。次いで、MNPを細胞に異なる用量で添加し、細胞培養プレートに適合させた磁気選別機(500ガウスの磁場源を使用)(LifeSep(商標) 96F,Dexter Magnetnc Technologies,Fremont,CA,USA)で、細胞培養物をインキュベートした。さらに、所定の時点で、細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、内在化されたMNPの量を蛍光定量的に測定した(λem/λex=540/575nm)。すべての時点で、Calcein Green染色およびAlamarBlueアッセイを、製造業者(Biosource,Camarillo,CA USA)によって示されたとおりに用いて細胞バイアビリティを測定した。
【0139】
ステント上へのインビトロ細胞捕捉の試験のため、BAECを透明な底の12ウェルプレート上に播種した。翌日、72μgのMNPを、細胞(4.5±1.0)×10の各ウェルに添加した。細胞およびMNPを磁気源(Life Sep(商標) 96F)において24時間インキュベートし、ほぼ完全に(約95%)MNPを内在化させた。次いで、細胞をトリプシン処理し、さらなる捕捉実験のために細胞培養培地に再懸濁させた。インビボ送達実験に使用した細胞を、まず、ヒトサイトメガロウイルスプロモーター(Gene Vector Core,University of Pennsylvania,Philadelphia,PA)の制御下でルシフェラーゼを発現する複製欠陥型5(E1,E3欠失)アデノウイルス(Ad luc)で10時間形質導入し(MOI=500)、次いで、MNPに24時間負荷した。
【0140】
インビトロおよびインビボ短期細胞捕捉実験。インビトロ細胞捕捉実験では、MNP負荷BAEC(約2.5×10)を閉鎖ループ系内に、30ml/分(ステント表面全体において0.015m/秒の流体速度)の流速で循環させ、この間、1000ガウスの均一な磁場を適用した。均一な磁場は、直列に接続したソレノイドコイル(鉄芯(40mmの直径)を有する)に電流を流すことにより発生させ、該コイルは、モデルループ循環系のフローチャンバ内に配置したステントまたは動物に留置されたのいずれかの両側に、電磁石の芯同士を40mm離して配置した。HP 6034A(Hewlett Packard,Palo Alto,CA)電源によって28Vの電圧を印加することにより、9.4Aの電流を発生させた。磁場強度は、Hall Probe(Lake Shore Cryotronics(Westerville,OH)から購入)によって測定した。MNP蛍光を測定することにより細胞の枯渇をモニタリングし、結果を捕捉された細胞の割合で示した。
【0141】
インビボ細胞捕捉実験では、304グレードステンレス鋼ステントをラット頚動脈内に留置した。急性試験のため、蛍光MNPを予め負荷したBAEC細胞を左心室内に経胸腔注射した。上記のシステムを使用し(注射期間を含む)、動物を1000ガウスの磁場に5分間曝露した。対照ラットにも同一の手順を行なったが、この場合では磁場を使用しなかった。送達の5分後に動物を致死させ、外植ステントを蛍光顕微鏡検査によって調べた。
【0142】
血管形成術およびインビボ送達手順:48時間試験。450〜500gのSprague−Dawley雄ラットの左の総頚動脈を、Fogartyカテーテルを4回通すことによって損傷させた後、304グレードステンレス鋼製のマルチリンクステント(Circle Medical Devices、Los Gatos,CA)を留置した(16気圧)。流れ停止条件下での細胞送達のモデル試験では、23Gチューブを外頚動脈から総頚動脈内に導入し、留置ステントに対して遠位に配置した。したがって、この一時的な頚動脈血流の中断を伴う試験のため、ステント留置部位を含む総頚動脈の15mmセグメントを結紮によって孤立させた。細胞懸濁液(50μl)を、この孤立させた動脈セグメントに15秒間送達した後、動脈内に保持されなかった過剰の細胞を、シリンジでの回収によって除去した。血流の非中断下における細胞送達のモデル試験では、26Gチューブを外頚動脈から総頚動脈内に導入し、ステントからさらに大動脈弓まで進めた(頚動脈の分岐部の近位から合計3.5cm)。細胞を1ml/分の速度で1分間注射した。どちらの送達プロトコルでも、Mag+群では、上記のような1000ガウスの磁場に配置した動物に注射を行ない、送達後、磁場を合計5分間維持した。対照ラット(Mag−群)では磁場を適用しなかった。送達の48時間後、250μlの25%Pluronic F127(PBS中に溶解)と混合した2.5mgのルシフェリンを血管周囲に局所投与することによって動物をイメージングした。この処方物では、30℃より高い温度で溶液とゲル間に相転移が起こり、したがって、組織と接触すると直ちに固化し、充分に規定された(24)即放動態を有する薬物貯留部が形成された。イメージングは送達の5分後に開始した。積分時間は10分間とした。ルシフェラーゼの免疫組織化学的検出のため、パラホルムアルデヒド固定低温包埋動脈切片を抗ルシフェラーゼマウスモノクローナル抗体(Upstate−Millipore,Temacula,CA,クローンmAb21,1:100)で、ペルオキシダーゼ/DAB法を用いて染色した。
【0143】
統計学。実験データを平均±標準誤差(SE)で示した。結果を回帰解析によって評価した。スチューデントのt検定を使用し、データセットにおける差の有意性を解析した。差はp<0.05で有意と称した。
【0144】
結果。ポリラクチドMNPは、オレイン酸塩コート酸化鉄ナノ結晶を組み込んで改良した乳化−溶媒エバポレーション方法論によって(Quintanar−Guerrero Dら(1998)Drug Dev.Ind.Pharm.24:1113−28)、ウシ血清アルブミン(BSA)を表面安定化剤として用いて調製した。アルブミン安定化MNPでは、平均直径が290±15nmの狭い粒径分布が示され(図11A)、有意なヒステリシスは示されず、示される残留磁気が飽和磁化値の0.5%程度である超常磁気的挙動が示された。使用されたステントの材質は304グレードステンレス鋼であり、これは、適当な磁性と水性環境に対する耐食性を兼ね備えているため選択された。また、304ステントでは、ほんのわずかの磁性のヒステリシスを示し、示される残留磁気が飽和磁化値の7%程度であるほぼ超常磁気的挙動が示された(図15A)。316Lステンレス鋼ステントも試験したが、磁気応答性が低いため標的化試験に含めなかった(図15A)。
【0145】
ポリ乳酸(PLA)を用いてMNPのサブセットを処方した。これは、BODIPY 564/570で共有結合により修飾し、それにより、蛍光顕微鏡検査実験および蛍光定量に基づいた定量試験で使用され得るMNPにしたものである(Chorny Mら(2006)Mol.Ther.14:382−91)。この処方物を使用し、MNP負荷細胞の動態を特性評価した。コンフルエントな細胞培養物のウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を、種々の用量のBODIPY 564/570−MNPとともに細胞培養磁石上でインキュベートした(材料および方法参照)。MNP取込みを種々の時点で、内在化されたナノ粒子の蛍光を測定することにより測定した。内在化されたMNPの量は、試験した範囲においてMNP用量に線形に依存性であった(図12A)。8時間後には、およそ30%の内在化が観察され、取込みは24時間後に本質的に完了した(図12Aおよび15B)。細胞バイアビリティは、Calcein Green染色およびAlamar Blueアッセイ(それぞれ、図15Bおよび12B)の結果によって評価されるように、内在化されたMNPによって有害に影響されなかった。最も高いMNP適用用量である9μg/ウェル(0.3ng/細胞のMNP負荷に相当)および最大インキュベーション時間である24時間では、未処理細胞と比べて83±3%の細胞の生存率が観察された(図12B)。このような結果に基づき、0.2ng/細胞のMNP用量を後続の実験のために選択した(92±2%細胞の生存率,図12Bでは5.8μg/ウェルの用量)。予測どおり、MNPが負荷されたBAECでは、遊離(非細胞会合)MNPと類似したヒステリシス特性(すなわち、飽和値の1%未満の残留磁気)が示される超常磁気的挙動が示された(図15A)。
【0146】
304グレードステンレス鋼ステントへのMNP負荷内皮細胞標的化を、まず、モデルフロー−ループシステムにおいて試験した。外部から適用される均一磁場の非存在下では、ほとんど細胞捕捉は観察されなかった(図16A)。しかしながら、フローループシステム内においてステント全体に均一磁場を適用すると、ステントに有意な割合の循環細胞が捕捉され、1分間に捕捉される細胞は1%という初期速度を示す(図16A)。細胞捕捉の飽和は、磁場を適用した後、50分以内に観察され、循環細胞の20%(約0.5×10)の標的化がもたらされた。捕捉された細胞のおよそ50%(約0.25×10)は、最初の6分以内にステント表面上に蓄積された。図16Bは、赤色MNP蛍光顕微鏡検査の結果および捕捉された細胞のバイアビリティを示すCalcein Green染色によって示されるように(図16C)、接着細胞でステントワイヤ表面が完全に覆われた実験終了時のステント表面を示す。
【0147】
急性ラット頚動脈ステント留置試験は、ステント留置領域の動脈全体における均一磁場(1000ガウス)の存在下で、MNPを負荷したBAECを左心室内に経胸腔注射することによって行なった(図16DおよびE)。磁気による標的化の5分後に動物を安楽死させ、ステントを引き出すと、磁場の存在下での304グレードステンレス鋼ステント表面へのMNPの標的化が示され(図16D)、この場合も、ステントワイヤは蛍光MNP含有細胞で完全に均一に覆われていた。しかしながら、磁場の非存在下では、検出可能なMNP負荷BAECは示され得なかった(図16E)。したがって、このような短期インビボ結果は、インビトロ標的化試験(図16B)と同等であった。
【0148】
次に、MNPの負荷とルシフェラーゼコード複製欠陥アデノウイルス(AdLuc)での形質導入の両方を行なったBAECを用いて実験を行なった。初期試験では、MNP負荷Luc修飾BAECの磁気による標的化を、流れ停止状況での局所送達により(図16F)、Luc導入遺伝子活性をエンドポイント(生体内生物発光イメージングにより検出(図16F))として用いて調べた。インビトロでのAdLuc形質導入およびMNPの事前負荷後、BAECを回収し、各ラットの頚動脈の孤立させたステント留置セグメントに、磁場の存在下または非存在下で局所送達した(図16F)。ステント留置血管は一時的に両端を縛り(流れ停止送達手法)、この間、MNP負荷BAECをステント留置セクションに、およそ15秒という短期間送達した(図16F)。次いで、動脈から細胞懸濁液を除去し、磁場をさらに5分間維持した後、循環を再開させた。動物を回復させ、48時間後に試験すると、予測どおり、均一磁場の存在下でMNP負荷BAECを投与した動物では、磁性送達条件に供しなかった対照群と比べて有意に多くの導入遺伝子の発現(p=0.045)が示された(局所血管周囲ルシフェリン投与、続いて生物発光インビボ光学的イメージングを使用)(図16F)。また、このような試験の動物の生物発光全身イメージングスキャンでは、ステント留置頚動脈セグメント内以外に導入遺伝子活性がないことが示された(データ示さず)ことは注目に値する。
【0149】
また、ステント留置頚動脈血流の中断なしでのMNP負荷BAECの磁気によるターゲテッド送達を、Lucを1分間にわたって発現するMNP負荷BAECを、大動脈弓内に配置したカテーテルから、均一磁場への5分間の曝露を伴って注入することにより調べた(図16G)。磁場の適用による留置ステントへの特異的標的化は48時間後に、生物発光イメージングによって示され(図16G)、検出可能なLuc活性は、磁場に曝露しなかったステント留置動脈セグメントに存在しなかった(p=0.005)。さらに、この試験では、遠位部位にも同様に生物発光は存在しなかった(データ示さず)。Luc陽性免疫染色により、磁性の細胞標的化に曝露したステント留置動脈セグメントの最初および中間の領域に導入遺伝子活性の存在が確認された(データ示さず)。
【0150】
実施例13
磁性ナノ粒子負荷細胞を316Lステントに標的化させるための均一なMRI磁場の使用
磁性ナノ粒子(MNP)を負荷した細胞のスチールステントへの標的化が、磁気共鳴イメージング(MRI)システム内に存在する均一な磁場を用いて実現可能であることを実証するためのモデル実験を行なった。該イメージング装置内に存在する磁場は1.5テスラ(T)であり、これは、他の試験で使用される最も高い磁場(1000ガウス、すなわち0.1テスラ)よりも15倍大きい。さらに、先の試験では、304スチールステントを使用し、これは0.1テスラの磁場で磁化され、一方、316Lスチールステントはこのレベルの磁場強度では磁化されなかった。さらに、現在臨床使用されているスチールステントのほとんどは316Lスチールであることに注意されたく、したがって、このモデル実験は臨床的に特に重要である。
【0151】
実験は以下のようにして行なった:ウシ動脈内皮細胞(BAEC)に、上記のようにして調製した赤色蛍光ポリ乳酸(PLA)MNPを、−1日目に予め負荷した。細胞をトリプシン処理し、実験の前に5mlの細胞培養培地(10%FBSを補充したDMEM)に再懸濁させ、半分に分けた。ステンレス鋼316グレードステント(Crown,Cordis,Warrenton,NJ)を柔軟なポリ塩化ビニルチューブ内に留置し(動脈留置をシミュレーション)、シリンジに結合させた。細胞懸濁液をシリンジから、ステントを有するチューブを介して該ステント内に、1分間にわたって(細胞懸濁液は第2のシリンジ内に収集)、MRIイメージング装置内のコア内の均一な磁場(1.5テスラ)への曝露ありまたはなしで押し出した。チューブからのステントの取り出しの前および後の実験の直後、ステントを、倒立蛍光顕微鏡を用いた蛍光顕微鏡検査によってイメージングした。図17に示された結果は、1.5Tの磁場に曝露したステント試料のすべての316Lステントストラット上に存在する赤色蛍光細胞を示す。しかしながら、ステント留置ポリ塩化ビニルチューブから細胞(+蛍光MNP)を注入した対照ステントでは、赤色蛍光細胞は稀にしか示されなかった。したがって、この試験は、MRIイメージング装置内に存在する均一な磁場により、316Lステントが磁化され得、それにより磁性の細胞標的化が可能になることを示す。このような結果は、MNPの懸濁液を単純に注入すること(細胞に負荷しない)によるMNP標的化によっても、1.5Tの磁場において316Lステントに標的化され得ることを示す。
【0152】
実施例14
超常磁性のポリマーナノ粒子は非ウイルス核酸送達を効率的に向上させる
治療目的のための核酸の非ウイルス送達は、主に、比較的低い有効性のために依然として難題である。本発明者らは、磁気による標的化特性を有する非ウイルス遺伝子担体を使用することにより、この課題に取り組んだ。核酸の磁力ターゲテッド送達が達成可能となることにより、有効で無毒性の遺伝子導入のための臨床的に実行可能な解決策がもたらされ得る。本発明者らの先の研究において、本発明者らは、分枝ポリエチレンイミン(PEI 25K)で表面修飾した、ポリラクチド(PLA)系の生分解性ナノ粒子(NP)の処方物を開発した。最近の科学文献により、線状PEIの市販の調製物を脱アシル化すると、プロトン化可能な窒素の数が増加し、これにより、おそらく、より密な核酸の凝縮およびPEI/核酸複合体のより良好なエンドソーム逸出がもたらされることにより遺伝子送達効率が劇的に刺激されることが示された。本発明の試験では、脱アシル化された線状PEIを用いて処方した超常磁性NP磁気駆動性送達によって、非ウイルス遺伝子導入が向上され得るという仮説を調べた。200kDaのポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)の酸触媒型加水分解によって合成してpH7に調整した線状PEIを使用し、改良した乳化−溶媒エバポレーション方法論によって酸化鉄負荷NPを処方した。重量基準で35%の酸化鉄を含有するNPは、平均粒径360±25nm、ゼータ電位43±3mVを有し、超常磁性(磁気飽和値の0.5%未満の残留磁気)を示すものであった。線状PEI−NP処方物が核酸を送達する能力を、インビトロで、培養A10ラット大動脈平滑筋細胞(SMC)およびウシ大動脈内皮細胞(BAEC)において、緑色蛍光タンパク質(GFP)をレポーター遺伝子として用いて調べた。分枝PEIを用いて処方したNPを比較のために使用した。核酸と複合体形成させたNPを細胞に15分間、磁場(500G)下で血清含有細胞培養培地中にて適用した。ある組の実験では、GFPコードプラスミドDNAを細胞に送達し、トランスフェクション効率を、処理の2、4および8日後に蛍光定量的に測定した。細胞内NPレベルは、どちらのPEI処方物でも、調べたNP濃度範囲において直接的に用量依存性であった。GFP発現は、どちらのPEI処方物でも4日目に最大レベルに達し、線状PEI−NP処方物でトランスフェクトした両方の細胞型で2.5〜3倍高いGFPレベルがもたらされた。別の組の実験では、強化型GFP(eGFP)低分子干渉RNA(siRNA)を細胞に送達し、レンチウイルス形質導入平滑筋細胞および内皮細胞におけるeGFP発現の抑制ならびに細胞バイアビリティ(AlamarBlueによる)を、処理の5日後に蛍光定量的に測定した。GFPサイレンシング実験では、分枝または線状いずれかのPEIを用いて処方した磁性NPを使用すると、効率的なeGFP抑制が達成された。A10細胞におけるeGFP抑制は、どちらの処方物型でも、NP用量に直接的に依存した。eGFPの抑制は、線状PEI−NPの場合は直接siRNA用量依存性であり、分枝PEI−NPでは逆依存性であり、どちらのNP型でも40%の最大抑制がもたらされた。BAECでは、eGFP抑制は、分枝PEI−NPの場合のみNP用量に直接的に依存した。どちらのNP型でもeGFP抑制はsiRNA用量に依存性でなく、どちらのNP処方物でも50%の最大抑制がもたらされた。試験したNP/siRNA複合体により細胞の生存率は有意に障害されず、NPおよび細胞型のどちらの場合も処理の5日後、最大NP用量で90%より多くの生存細胞が示された。磁気応答性線状PEI−NPにより、分枝PEI−NPと比べてプラスミドDNAの送達効率の増大が示され、一方、遺伝子サイレンシング実験では、どちらのNP型でも遺伝子抑制能力に差は観察されなかったと結論付けられる。
【0153】
実施例15
磁気により指向させたカタラーゼ含有オレイン酸カルシウムナノ粒子は、インビトロで酸化的ストレスから内皮細胞を効率的に保護する
大型の酵素ナノ担体の設計の考慮事項は数多くある。粒子の合成およびその後の精製の条件は、酵素活性を維持したままのタンパク質質量を効率的に負荷することが可能なものであるのがよい。カタラーゼなどの大型酵素のナノ担体が有効なターゲテッド抗酸化性治療薬であるためには、担体は、活性酵素を負荷する能力を有するだけでなく、タンパク質分解からの保護ももたらすものであるのがよい。有機溶媒または高剪断(sheer)乳化法を伴わずにタンパク質が効率的に負荷され得る安定な生体適合性のナノ担体を考案することが望ましい。タンパク質の活性を保持させるため、水性媒体中でオレイン酸カルシウム系MNPが形成され得、剪断、溶媒曝露および油と水の界面による損傷へのタンパク質の曝露が排除され得る水溶性構成要素を使用した。
【0154】
この試験は、MNPが充分な活性酵素を負荷する能力を評価するため、ならびにカタラーゼ負荷MNPの性質に対する可変量(例えば、粒径、磁気的挙動、タンパク質負荷効率および官能性)の効果を特性評価するために行なった。タンパク質分解からの保護およびタンパク質の放出を経時的にインビトロで調べた。最後に、MNPの磁気誘導性の内在化、その抗酸化活性およびROS媒介性細胞死の抑制能力を、細胞培養物において、非磁性対照または遊離カタラーゼと比較して試験した。
【0155】
試薬。塩化第二鉄六水和物、塩化第一鉄四水和物、オレイン酸ナトリウム(99%純粋)、Pluronic(登録商標)F127、キサンチン、キサンチンオキシダーゼ、およびプロナーゼはすべて、Sigma−Aldrich(St Louis,MO)から購入した。酢酸ウラニルはElectron Microscopy Sciences製のものであった。カタラーゼおよびCu、Znスーパーオキシドジスムターゼ(ともにウシ肝臓由来)は、Calbiochem(La Jolla,CA)から購入した。IodogenおよびDylight 488はPierce Biotecnology(Rockford,IL)から購入した。他の試薬はFisher Scientific(Pittsburgh,PA)から購入した。
【0156】
酵素調製物およびヨード化。固形ウシ肝臓カタラーゼをDI水に溶解させ、ナトリウム無含有リン酸バッファー中で透析した(Slide−a−lyzer透析カセット,Thermo Scientific,Rockford IL)。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)をPBSに所望の濃度まで溶解させた。最終のタンパク質濃度をBSAの較正曲線から求めた(標準的なBradfordアッセイを使用,595nmのUV吸光度によって測定(Cary 50 UV−vis,Varian,Palo Alto,CA))。
【0157】
カタラーゼおよびSODをNa−125I(Perkin Elmer,Boston,MA)で、Iodogen(Pierce Biotech.,Rockford,IL)法を製造業者に示されたようにして用いて放射性標識し、ゲル透過クロマトグラフィー(Biospin 6 Columns,Bio−Rad Labs,Hercules,CA)を用いて未結合ヨウ素から精製した。SODを標識するための1つの修飾が必要であった;該酵素はチロシン残基を2つしか含まず、したがって、pH7.4での放射性標識の程度は不充分である。pH8.4のTrisバッファーを使用することによりヒスチジン残基をタグ化し(pK 6.5)、放射性標識を4倍より大きく増大させた。両方のタンパク質について、標準的なトリクロロ酢酸(TCA)アッセイを用いて標識の程度および遊離ヨウ素の量を測定した。標識酵素の2μlアリコート、1.0mlの3%BSAおよび0.2mlの100%TCAをボルテックスし、室温で15分間インキュベートした。析出したタンパク質を、遊離ヨウ素の上清みから遠心分離(15分間,4℃,2100g)によって分離し、Wizard 1470ガンマ計数器(Wallac Oy,Turku,Finland)を用いて測定した。
【0158】
カタラーゼの蛍光標識は、製造業者に示されたようにして、反応性アシル化試薬が形成されるN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル部分を用いたアミン反応性標識によって行なった。
【0159】
MNP処方物および特性評価。同等量の水性水酸化ナトリウム(0.5N,5.0ml)を用いたエタノール溶液(2.5ml)からの塩化第一鉄および塩化第二鉄(それぞれ、62.5mgおよび170mg)の共析出によってナノ結晶性酸化鉄を調製した。酸化鉄を、90℃で1分間インキュベートすることによって熟成させ、次いで、脱イオン(DI)水(Direct−Q 5 System,Millipore,Billerica,MA)を用いて氷上の磁性のデカンテーションによって2回洗浄し、最後に、225mgのオレイン酸ナトリウムを含有する5mlの水溶液に、アルゴン下で90℃まで加熱した後、浴超音波処理(各5分間)を2サイクル反復することにより再懸濁させた。得られた磁性流体を、5μmカットオフを有する滅菌PVDF膜に通して濾過した。
【0160】
酵素負荷MNPを調製するため、タンパク質を、磁性流体に指定された量で添加した。磁性流体の制御凝集を、安定剤としてのPluronic(登録商標)F−127(20mg)の存在下での等容量の水性オレイン酸カルシウム(0.1M)の滴下によって行なった。MNPを磁性のデカンテーションによって2回洗浄し、最後に、グルコース(5%w/v)の水溶液に再懸濁させた。ある割合の125I標識カタラーゼをタンパク質と混合した後、制御凝集工程を行なうことにより放射性標識処方物を調製した。対照として使用する酵素含浸非磁性ナノ粒子またはブランクMNPの処方物を、それぞれ、酸化鉄または酵素の組込みなしで上記のようして調製した。
【0161】
粒子径、濃度および磁気的挙動。粒子径は、動的光散乱(DLS,90Plus Particle Sizer,Brookhaven Instruments,Holtsville,NY)および透過電子顕微鏡検査(JEOL JEM−100CX TEM West Chester,PA)によって測定した。200〜400倍に希釈した試料の粒径分布および平均流体力学的半径を、ストークス・アインシュタイン式の二次拡散係数から導いた。粒子数濃度は、実験により求めた試料溶液の密度、乾燥重量および粒子径の物質収支によって導いた。
【0162】
透過電子顕微鏡検査(TEM)のため、0.2μmのDI濾過水で20倍に希釈した2〜5μlのMNP試料を、個々のTEMメッシュグリッド(Formvar Film 200メッシュ,Electron Microscopy Sciences,Hatfield,PA)に添加し、過剰の試料を濾紙で吸い取った。グリッドを真空デシケータ内で少なくとも1時間乾燥させた後、80keVの加速電圧を用いてイメージングした。
【0163】
MNPの磁気的挙動を調べるため、5μlの懸濁液をカバーガラススライド上で風乾させ、交互勾配磁気計(Princeton Measurements Corp.,NJ)を用いてヒステリシスの測定を行なった。
【0164】
鉄濃度。該粒子に保持された鉄を三連の試料で、0.1〜25.0mg/mlの範囲の塩化第一鉄と塩化第二鉄の2:1モル混合物で作成した較正曲線から測定した。10μlの各希釈物を1.0mlのHCl(6M)および10μlのH(3wt%)に添加し、暗所で1時間反応させた。吸光度をの読取りを410nmで行なった。
【0165】
酵素負荷.MNP中へのタンパク質の組込みを、磁気により分離されたMNPと外部水相間の放射性標識SODまたはカタラーゼの分布をガンマ計数器を用いて測定することにより測定した。保持された割合は、最初の懸濁液の活性に対する最終試料における活性の商(容量変化を調整)と規定する。
【0166】
酵素活性。カタラーゼの活性は、標準的な過酸化水素分解アッセイを用いて測定した。5mMのPBS緩衝H溶液(990〜998μl)を石英キュベットに添加し、室温で242nmにおける吸光度の読取りを行なった。カタラーゼ含有粒子を約0.01〜0.50μg/ml(崩壊曲線の傾きが添加されたカタラーゼの濃度に比例する較正プロットの線形領域に対応)の最終カタラーゼ濃度に希釈した。典型的には、2〜10μlのMNPを総容量1.0mlに希釈した。Hの濃度を時間に対してモニタリングし、カタラーゼの活性を崩壊曲線の傾きから計算した(ここで、1単位の活性=23(ΔAbs/t))。
【0167】
SOD活性は、フェリシトクロムCアッセイを用いて測定した。シトクロムCアッセイでは、SODと競合する指標スカベンジャーとして、シトクロムC作用を有するスーパーオキシドアニオンを生成させるために、キサンチンおよびキサンチンオキシダーゼが使用される。50mMのリン酸バッファー(pH7.8)、0.1μMのEDTA、50μMのキサンチン、20μMのシトクロムCおよび10μlの試料を含む溶液。10μlの0.2U/mlキサンチンオキシダーゼの添加によって反応を開始した。吸光度を550nmにおいてモニタリングした。1単位のSODは、pH7.8および25℃においてシトクロムC還元速度を50%阻害する酵素の量と規定する。
【0168】
MNP封入カタラーゼの保護および活性。MNPがカタラーゼ負荷(cargo)を保護する能力を、タンパク質分解アッセイを用いて測定した。試料を、0.2wt%緩衝プロナーゼ(タンパク質を個々のアミノ酸に完全に消化するプロテイナーゼのロバストな混合物)中で、振盪しながら37℃で60分間インキュベートした。タンパク質分解後にMNPに保持されたカタラーゼの量を、遠心分離(20分間,4℃,16.1g)でのMNP分離後に、上記の放射能アッセイを用いて測定した。経時的に保持されたMNP結合カタラーゼの酵素活性を、遊離カタラーゼとの比較において測定した。
【0169】
MNPからのカタラーゼインビトロ放出。関連のある生理学的温度での生体液中におけるMNPからのカタラーゼの放出動態を、放出媒体中の遊離カタラーゼを、放射能アッセイを用いてモニタリングすることにより測定した。等容量の粒子懸濁液およびマウス血漿を合わせ、37℃の振盪浴内に入れた。48時間にわたってアリコートを採取し、MNPを媒体から、0.2μm遠心フィルターユニット(Millipore,Billerica MA)を用いて分離した。濾液中で測定されたMNPの割合(<10%)に対する補正を行なった。フィルターに保持されたMNP結合カタラーゼの放射能を、培地中の遊離タンパク質をガンマ計数器を用いて測定した。
【0170】
細胞培養。ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を得、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM(Mediatech,Inc.,Herndon、VA,USA)中で培養した。ほぼコンフルエンスまで培養した初代ヒト臍静脈内皮細胞(4回目の継代)(HUVEC,Clonectics,San Diego,CA)を、1%ゼラチンコートした24または96ウェルプレート上で培養した。細胞を、15%ウシ胎仔血清および100ug/mlヘパリン(Sigma)、0.1%内皮細胞増殖補充物(Upstate,Lake Placid,NY)、0.1μg/ml Glutamax、ならびに1.0 %抗生物質−抗カビ剤(Gibco)を補充したM199培地(Gibco,Grand Island,NY)中に維持した。
【0171】
BAECへのMNPの磁気誘導性送達。96ウェルプレート上にコンフルエンスで播種したBAECをMNPとともに5分間、高い勾配磁場の存在/非存在下でインキュベートした(磁場源として5.6 T/mの平均断面力密度を有する96ウェル磁気選別機(LifeSepTM 96F,Dexter Magnetnc Technologies,Fremont,CA,USA)を使用)。次いで、細胞を2回洗浄し、新鮮細胞培養培地とともにインキュベートし、処理の4時間後、顕微鏡検査によりMNPの内在化について調べた。
【0172】
MNPによる酸化的ストレスからのHUVECの磁気的に増強された保護。24ウェルプレート上に播種したコンフルエントなHUVECをMNPとともに37℃で、磁気曝露ありまたはなしで15分間インキュベートした。次いで、MNPを吸引し、細胞を新鮮細胞培養培地ですすぎ洗浄した。非磁性のカタラーゼ負荷ナノ粒子またはブランクMNP(カタラーゼなし)を対照として使用した。細胞培養物培地中で希釈した10mMのHで細胞を5時間処理し、新鮮培地ですすぎ洗浄し、次いで、2μM溶液のCalcein AM(Invitrogen,CA)(PBS中,Ca2+およびMg2+を補充)を用いて15分間染色した。洗浄後、生存細胞の蛍光を485nm/535nmのλem/λexで測定した。
【0173】
結果
MNPの物理化学的特性(粒子径)。多数のTEM画像(図18Aに例)のデジタル解析によって求めたカタラーゼ負荷MNPの粒子径では、303+/−38nmの平均粒径が示された。同等の処方物の動的光散乱(DLS)では、340+/−29nmの平均粒子径が示された(図18Cおよび18D)。動的光散乱の測定自体では、SOD負荷粒子は350+/−10nmの流体力学的直径を有していた。
【0174】
MNPの物理化学的特性(磁気特性)。MNPの鉄濃度は、比色アッセイによって測定すると、約21wt%であると測定された。MNPの磁気的挙動を図18Bに示す。飽和時の磁気モーメント(Ms)は14.3emu/gである。磁性の残留磁気(Mr)(磁場を除いた後に保持される磁化)は0.65emu/gである。したがって、Mr/Msの割合としての磁化の保持は4.5%である。図18Bの閉鎖ヒステリシスループは、磁場を除くと該粒子が直ちに平衡に戻ることを示す。
【0175】
酵素の質量および活性負荷。精製粒子によって保持された添加タンパク質の割合として、MNP中のSODの負荷質量は、0.5および1.0mgのタンパク質の添加で、それぞれ、39+/−1%、34+/−1%であった(図19A)。これは、粒子1個あたりおよそ7500および15000個のSOD分子に相当する(負荷質量から計算)(図19B)。異なる添加質量でのカタラーゼ負荷を表1に示す。
【0176】
【表1】

誤差は標準偏差;n≧3。粒径の差 ブランクMNPと比較してp=0.0145,**p=0.0017 。
【0177】
両方の質量負荷でのMNPにおけるSODの活性の保持は、平均で添加分の17.2+/−2%であり、これは、負荷質量の平均47%の活性の保持に相当する(図19C)。保持されたMNPにおけるカタラーゼ活性は、4mgの質量添加で最大約12k単位に達し(図19B)、これは、約34%の活性の保持に相当する(表1)。最小活性負荷の20〜29%範囲の他の質量添加が最大質量添加6mgで見られた(表1)。
【0178】
MNP保護カタラーゼの質量およびインビトロ活性。質量添加に対するタンパク質分解から保護されたカタラーゼの質量は、表1に示されるように、12%〜29%の範囲であった。カタラーゼの負荷質量と保護質量間の関係を図21Aに示す。MNPは、24時間までのタンパク質分解性酵素への曝露で最初の活性の20%を保持したのに対して、遊離酵素では30分までにすべて失活した(図21B)。
【0179】
血漿への曝露によるカタラーゼの保持によって規定されるMNPの安定性を図22に示す。該粒子は、48時間の曝露でほぼ15%までカタラーゼを血漿中に放出した(37℃)のに対して、対照溶液ではほぼ同等の放出であった。
【0180】
インビトロでの内皮細胞への磁気駆動性MNP送達。磁場に10分間曝露した内皮細胞とともにインキュベートしたMNPを図23Aおよび23Bに示す。23Aの対照顕微鏡写真は、核周囲の内皮細胞の細胞質ゾル内のMNPを示す。図23Bの緑色蛍光は、細胞に送達された該粒子のタンパク質負荷を示す。図23Cは、5分間の曝露を伴った細胞内のMNPのカタラーゼを示す。ナノ担体と磁場への曝露なしの細胞との関係を図23Dおよび23Eに示す。
【0181】
酸化的ストレスからの内皮細胞の保護。蛍光強度を使用し、種々の処理による保護の割合を定量した(図24A)。MNP内の磁性送達カタラーゼは、図24Bに示されるように、10mMの過酸化水素に5時間曝露した場合、未処理細胞と比べて62±12%の細胞バイアビリティという保護効果を示した。磁性誘導なしのMNP、カタラーゼなしの担体、または遊離カタラーゼの添加を伴う担体の保護効果に統計的な差は示されなかった。
【0182】
まとめ。この試験は、SODおよびカタラーゼの両方について、活性の過剰な低下なく活性酵素を効率的に負荷する特殊な生体適合性大型タンパク質ナノ担体系を示し、より大型でより不安定な酵素であり、したがって保護がより困難なカタラーゼ処方物においてタンパク質分解からの酵素活性の保護を示す。さらに、磁気による標的化により、該担体系では、インビトロで重度の酸化性傷害に対処する治療的潜在性が示された。ターゲテッド酵素送達に対するこの新規なアプローチは、他の治療薬、大分子、ペプチドおよびヌクレオチドへの適用に転換され得るだけでなく、ナノ担体が血漿中で負荷体を保持する能力によって示されるように、免疫標的化の可能性のための表面修飾に対する実現可能性およびロバストネスを示す。記載のこの担体系の寄与は、酸化的ストレスに関連する数多くの病態に転換され得る。
【0183】
実施例16
インビトロおよびインビボでのカタラーゼ含有磁性ナノ粒子の抗体標的化
この試験は、このような磁性のナノ担体(MNP)が、インビトロおよびインビボで、活性な抗酸化酵素を内皮標的に負荷および送達する能力を試験するために行なった。
【0184】
カタラーゼなどの抗酸化酵素は酸化的ストレスを緩和し得るが、インビボでの標的部位に対する固有親和性はほとんどなく、タンパク質分解および細網内皮(RES)クリアランスを受け易い。この問題を解決するため、カタラーゼ(MW約250kDa)を生体適合性オレイン酸カルシウム系磁性ナノ粒子内に、水相の制御析出を用いて実施例15に詳述したようにして封入した(「MNPの処方および特性評価」参照)。MNP処方の2工程プロセスを図25に模式的に示す。
【0185】
カルシウムカチオンはオレイン酸アニオンと錯体形成し、Pluronic(登録商標)F127界面活性剤によって表面安定化された粒子(平均直径約400nm(DLSによる))が形成される。カタラーゼは、おそらく疎水性相互作用および電荷相互作用によって、形成中の複合体と会合する。ナノ粒子の磁気応答により、該粒子は、組み込まれていない物質から速やかに分離することが可能であり、それによりナノ粒子処方物の精製が助長される。負荷効率は20〜30%であり、その活性の80%が保持される。およそ20%のMNP負荷カタラーゼが、非特異的プロテアーゼの混合物であるプロナーゼによるタンパク質分解に対してインビトロで抵抗性であった。
【0186】
内皮細胞へのMNPの標的化のため、Pluronic(登録商標)F127界面活性剤を二重ビオチン化し、内皮抗原PECAM(Ab62)に対するストレプトアビジンコンジュゲート標的化抗体に組み込んだ(表2)。表面ビオチン化MNPに対するストレプトアビジン(SA)の親和性を、対照と対比して測定した(図26A)。
【0187】
【表2】

標的化および治療的潜在性を試験するため、抗PECAMおよびIgG(対比)修飾粒子を、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)とともにインキュベートした。同位体および蛍光の追跡により、抗PECAM(Ab62)/MNPはHUVECに結合するが、IgG/MNP(対照)は結合しないこと(図26)、および過酸化水素誘発性酸化的ストレスから細胞を保護すること(51Crの放出により測定すると76%±5%保護)(図27)が示された。C57BL/6マウスにおいて、放射性標識抗PECAM(Ab62)/MNPの静脈内注射により抗PECAM/MNPの28倍高い(212±25%ID/g、すなわち、IgG/MNPより27.6倍高い)肺内保持がもたらされ、血管内皮への効率的な標的化が示されたが、IgG/MNP(対照)ではもたらされなかった(図28)。
【0188】
このようなデータは以下のことを示す:(1)オレイン酸カルシウム系の磁性のナノ担体は安定的に構成され、カタラーゼが組み込まれる;(2)磁性のナノ担体は、質量および活性に関してカタラーゼを負荷および保護する;(3)ビオチン化Pluronic(登録商標)F−127を含めると、MNPに対するSA−抗体結合が可能になる;(4)MNPSに対する抗PECAM抗体での表面コーティングにより、ECSに対するMNPのターゲテッド送達が可能になる;(5)抗PECAM抗体コートMNPは、内皮細胞によって37℃でエンドサイトーシスを受ける;(6)磁性誘導性および抗体誘導性のMNP送達ではともに、酸化的損傷からのECの保護がもたらされる;ならびに(7)抗PECAM抗体コートMNPは肺内皮を特異的に標的化する。このようなデータは、カタラーゼ含有オレイン酸カルシウム系ナノ粒子を用いた標的化用抗酸化酵素治療薬の高い潜在的有効性を示唆する。
【0189】
本発明は、上記に説明および例示した実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲の範囲に含まれる変形および改良が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気材料または磁化可能な材料、安定剤、脂肪酸またはその塩、およびタンパク質を含む治療用粒子。
【請求項2】
前記磁気材料または前記磁化可能な材料が超常磁性材料である、請求項1に記載の治療用粒子。
【請求項3】
前記脂肪酸がオレイン酸またはその塩である、請求項1に記載の治療用粒子。
【請求項4】
前記タンパク質が抗酸化酵素である、請求項1に記載の治療用粒子。
【請求項5】
前記抗酸化酵素がカタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、またはグルタチオンペルオキシダーゼである、請求項4に記載の治療用粒子。
【請求項6】
前記安定剤がビオチン化されている、請求項1に記載の治療用粒子。
【請求項7】
さらに、抗体を含む、請求項1に記載の治療用粒子。
【請求項8】
前記抗体が前記安定剤に連結されている、請求項7に記載の治療用粒子。
【請求項9】
前記抗体が、内皮細胞の表面上の抗原に特異的に結合するものである、請求項7に記載の治療用粒子。
【請求項10】
細胞を酸化的損傷から保護するためのシステムであって、該システムは:
磁気材料または磁化可能な材料および少なくとも1種類の抗酸化酵素を含む粒子;ならびに
該細胞に近位の該磁気材料または該磁化可能な材料を、該細胞が該粒子を内在化させることを可能にするのに充分な期間、磁化させ得る均一磁場を発生させるための磁場源
を含むシステム。
【請求項11】
前記細胞が内皮細胞である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記内皮細胞が血管内皮細胞である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記抗酸化酵素が、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、またはグルタチオンペルオキシダーゼである、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記粒子が、さらに、前記細胞表面上の抗原に特異的に結合する抗体を含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項15】
前記細胞が哺乳動物の体内に存在している、請求項10に記載のシステム。
【請求項16】
タンパク質を移植型デバイスへ磁気的に標的化させるためのシステムであって、該システムは:
(a)被験体内への移植のためのデバイス;
(b)複数の粒子であって、各粒子は、第1の磁気材料または磁化可能な材料および該タンパク質を含む、複数の粒子;
(c)磁化可能な材料を磁化させ得る均一磁場を発生させるための磁場源であって、該均一磁場は、該移植型デバイスの近位に磁場勾配を発生させる、磁場源;ならびに
(d)該移植型デバイスに送達されなかった該複数の粒子のうちの1つ以上を該被験体から除去するための手段
を含み、ここで、
該移植型デバイスが第2の磁気材料または磁化可能な材料を含み、
該勾配により、該複数の粒子の1つ以上が該移植型デバイスに標的化される、
システム。
【請求項17】
前記タンパク質が抗酸化酵素である、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記抗酸化酵素が、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、またはグルタチオンペルオキシダーゼである、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記複数の粒子の各々が請求項1に記載の粒子である、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記移植型デバイスがステントである、請求項16に記載の治療用粒子。
【請求項21】
前記ステントが304ステンレス鋼で形成されている、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記磁場源が、前記均一磁場が発生するように動作可能な1対の電磁石を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項23】
前記磁場源が、前記均一磁場が発生するように動作可能な永久磁石を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項24】
前記第1の磁気材料または磁化可能な材料が超常磁性材料を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項25】
前記複数の粒子が前記第1の磁気材料または磁化可能な材料およびパクリタキセルを含むものである、請求項16に記載のシステム。
【請求項26】
さらに、パクリタキセルを含む、請求項1に記載の治療用粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図14】
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【図15A】
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【図17】
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【図18−2】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図23D】
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【図23E】
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【図23F】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図15B】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図18−1】
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【図24】
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【公表番号】特表2013−513661(P2013−513661A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544530(P2012−544530)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/056674
【国際公開番号】WO2011/075255
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(511242188)
【出願人】(504074710)ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア (20)
【Fターム(参考)】