説明

流体噴射装置

【課題】流体噴射装置において、予備吐出用ヘッドキャップ内に吐出された流体が乾燥することを抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】流体噴射装置は、所定位置に配置された処理対象物に向けて流体を吐出する有効吐出処理と、有効吐出処理とは別に流体を吐出する予備吐出処理と、を実行可能なヘッドと、ヘッドが予備吐出処理を実行する際に、ヘッドを覆ってヘッドから吐出される流体を受ける予備吐出用ヘッドキャップ装置と、ヘッドを覆って保湿するための保湿用ヘッドキャップ装置と、を備え、予備吐出用ヘッドキャップ装置と保湿用ヘッドキャップ装置とは、ヘッドが有効吐出処理と予備吐出処理とのいずれも実行していない状態において、保湿用ヘッドキャップ装置が、ヘッドを覆うと共に予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた流体を受けるための開口を覆う積み重ね状態をとり得るように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴射する流体噴射装置においてノズルの目詰まりを解消させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット式記録装置では、ノズルを介してインクを記録用紙等に吐出するため、ノズル近傍においてインクが増粘したりノズル内に気泡が混入したりして、ノズルが目詰まりし、インクの吐出が良好に行えなくなるおそれがあった。そこで、専用キャップでヘッドの吐出面を覆ってキャップ内を負圧にすることで、ノズルに残っている気泡や増粘インクを吸引して取り除く(以下、「吸引回復処理」と呼ぶ)インクジェット式記録装置が提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−334962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記専用キャップには、インク等を吸着する吸着部材が配置されており、各ノズルから吸引されて専用キャップ内に吐出された増粘インク等を吸着部材によって吸着するようにしている。ここで、吸引回復処理を行うインクジェット式記録装置では、吸引回復処理を実行していない状態(印刷処理実行中や電源オフの状態等)において専用キャップは開放されている。それゆえ、専用キャップ内の吸着部材に吸着された増粘インクは乾燥し、吸着部材の目詰まりを引き起こす。したがって、専用キャップにおけるインクの吸着能力の低下を招き、また、ノズルの吸引力の低下を招くという問題があった。
【0005】
なお、この課題は、吸引回復処理用の専用キャップだけでなく、例えば、全てのノズルから所定量のインクを吐出して増粘インク等を取り除く、いわゆるフラッシング動作を行う際に用いられるキャップについても発生し得る。すなわち、印刷処理とは別に各ノズルからインクを吐出する処理(以下、「予備吐出処理」と呼ぶ)において用いられるキャップにおいて、上記問題が発生し得る。また、上記問題は、インクジェット式記録装置に限らず、インク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が分散されている液状体や、流体として噴射可能な粉体等の固体を含む)を噴射する流体噴射装置において発生し得る。
【0006】
本発明は、流体噴射装置において、予備吐出用ヘッドキャップ内に吐出された流体が乾燥することを抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]流体を噴射するための流体噴射装置であって、所定位置に配置された処理対象物に向けて前記流体を吐出する有効吐出処理と、前記有効吐出処理とは別に前記流体を吐出する予備吐出処理と、を実行可能なヘッドと、前記ヘッドが前記予備吐出処理を実行する際に、前記ヘッドを覆って前記ヘッドから吐出される前記流体を受ける予備吐出用ヘッドキャップ装置と、前記ヘッドを覆って前記ヘッドを保湿するための保湿用ヘッドキャップ装置と、を備え、前記予備吐出用ヘッドキャップ装置と前記保湿用ヘッドキャップ装置とは、前記ヘッドが前記有効吐出処理と前記予備吐出処理とのいずれも実行していない状態において、前記保湿用ヘッドキャップ装置が、前記ヘッドを覆うと共に前記予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた前記流体を受けるための開口を覆う積み重ね状態をとり得るように構成されている、流体噴射装置。
【0009】
適用例1の流体噴射装置では、ヘッドが有効吐出処理と予備吐出処理とのいずれも実行していない状態において、保湿用ヘッドキャップ装置は、ヘッドを覆うと共に予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた開口を覆うように配置されるので、ヘッドの乾燥を防ぐと共に、予備吐出処理において予備吐出用ヘッドキャップ装置内に吐出された流体が乾燥することを抑制することができる。また、予備吐出用ヘッドキャップ装置内の乾燥を防ぐために、ヘッドの乾燥を防ぐための保湿用ヘッドキャップ装置を兼用するので、流体噴射装置の製造コストの上昇を抑えることができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載の流体噴射装置において、前記予備吐出用ヘッドキャップ装置と前記保湿用ヘッドキャップ装置とは、前記ヘッドが前記有効吐出処理を実行している状態において、前記予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた前記開口が前記保湿用ヘッドキャップ装置によって覆われるように配置される、流体噴射装置。
【0011】
このようにすることで、ヘッドが有効吐出処理を実行している状態においても、保湿用ヘッドキャップ装置によって予備吐出用ヘッドキャップ装置の開口が覆われるので、有効吐出処理実行中において、予備吐出用ヘッドキャップ装置内に吐出された流体が乾燥することを抑制することができる。
【0012】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の流体噴射装置において、前記ヘッドは、前記有効吐出処理及び前記予備吐出処理を実行する際に、前記流体を下方に向けて吐出し、前記予備吐出用ヘッドキャップ装置は、前記開口が上方に向くように配置され、前記積み重ね状態において、(i)前記保湿用ヘッドキャップ装置は、前記ヘッドを下方から覆い、(ii)前記予備吐出用ヘッドキャップ装置は、前記保湿用ヘッドキャップ装置の下方に配置されて前記保湿用ヘッドキャップ装置の底面に当接することで前記開口が前記底面によって覆われる、流体噴射装置。
【0013】
このようにすることで、保湿用ヘッドキャップ装置はヘッドを下方から覆うことで、ヘッドの乾燥を防ぐことができる。また、予備吐出用ヘッドキャップ装置は、下方に配置されて、保湿用ヘッドキャップ装置の底面に当接して開口が底面によって覆われるので、内部に吐出された流体が乾燥することを抑制することができる。
【0014】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の流体噴射装置であって、さらに、加湿器を備え、前記加湿器は、前記保湿用ヘッドキャップ装置が前記ヘッドを覆うことによって形成される第1の空間と、前記保湿用ヘッドキャップ装置が前記予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた前記開口を覆うことによって形成される第2の空間と、のうち少なくとも一方を加湿する、流体噴射装置。
【0015】
このようにすることで、第1の空間と第2の空間とのうち加湿する空間において、吐出された流体の乾燥を加湿しない構成に比べてより抑えることができる。
【0016】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の流体噴射装置において、前記流体は、液体である、流体噴射装置。
【0017】
このようにすることで、予備吐出処理において予備吐出用ヘッドキャップ装置内に吐出された液体が、乾燥して増粘したり固化したりすることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例としての流体噴射装置であるインクジェット式プリンタの概略構成を示す説明図である。
【図2】ホームポジションH1付近における詳細構成を示す説明図である。
【図3】電源オフ状態におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。
【図4】印刷処理実行中におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。
【図5】図3に示す状態から吸引回復処理への移行時におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。
【図6】吸引回復処理実行中におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。
【図7】第2の実施例におけるプリンタの電源オフ状態のホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。
【図8】第2の実施例におけるフラッシング処理実行中のホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1の実施例:
B.第2の実施例:
C.変形例:
【0020】
A.第1の実施例:
図1は、本発明の一実施例としての流体噴射装置であるインクジェット式プリンタの概略構成を示す説明図である。このプリンタ1000は、フレーム11を有し、フレーム11にはプラテン25が配置されている。このプラテン25上には、図示せざる紙送り機構により印刷用紙P1が配送される構成となっている。また、プリンタ1000は、キャリッジ10を有し、キャリッジ10は、ガイド部材24を介してプラテン25の長手方向(X軸方向)へ移動可能に支持され、キャリッジモータ23によりタイミングベルト21を介して往復運動される構成となっている。
【0021】
キャリッジ10には、インクカートリッジ12が搭載されている。また、キャリッジ10の下部には、インクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」と呼ぶ)14が配置されている。ヘッド14は、印刷用紙P1に対して流体である例えば、インクを吐出する構成となっている。具体的には、ヘッド14は、インクを吐出するノズル(図示省略)を有し、ピエゾ素子等の圧電振動子の伸縮によってノズルからインク滴が排出される構成となっている。なお、ヘッド14の底面(吐出面)には、多数のノズル孔(図示省略)が配列されている。そして、キャリッジ10がプラテン25に沿って移動しながら印刷データに基づいて圧電振動子が伸縮されることで、ヘッド14から印刷用紙P1にインクが吐出されて印刷処理が実行される。なお、印刷処理は、請求項における有効吐出処理に相当する。プリンタ1000では、この印刷処理の他に、各ノズル(図示省略)に残留する気泡や増粘インクを取り除くために吸引回復処理が実行される。
【0022】
フレーム11において、ヘッド14による印刷が可能な領域(以下、「印刷領域」と呼ぶ)PAの横は、印刷が行われない非印刷領域となっており、この非印刷領域内にホームポジションH1が設けられている。キャリッジ10は、プラテン25に沿って移動することで、印刷領域PAとホームポジションH1との間を移動可能な構成となっている。
【0023】
ホームポジションH1には、吸引回復用キャップ装置50と、昇降手段60とが配置されている。ホームポジションH1の左側には、吸引ポンプ62と、吸引ポンプ62に接続された廃インクタンク65とが配置されている。ホームポジションH1の右側には、保湿用キャップ装置100と、加湿器110とが配置されている。
【0024】
図2は、ホームポジションH1付近における詳細構成を示す説明図である。なお、図2の例では、キャリッジ10は、ホームポジションH1に配置されている。吸引回復用キャップ装置50は、吸引回復処理においてヘッド14(吐出面のノズル孔)を覆うための専用キャップ装置である。この吸引回復用キャップ装置50は、キャップホルダ52と、キャップホルダ52上に配置されZ軸方向に突出したキャップ部54と、キャップ部54で囲まれた空間の底部に配置されたシート状のスポンジ56と、を備えている。このスポンジ56は、キャップホルダ52及びチューブ63を介して吸引ポンプ62に接続されている。吸引回復用キャップ装置50は、昇降手段60によって上下動可能にフレーム11に設置されている。なお、昇降手段60としては、例えば、モータとスクリューネジとを組み合わせた機構など、公知の昇降機構を用いることができる。
【0025】
前述の吸引回復用キャップ装置50が有するスポンジ56は、吸引回復処理実行時にヘッド14から吐出されたインクを吸着する。そして、吸引ポンプ62は、吸引回復処理実行時において、キャップ部54内を減圧して負圧とし、ヘッド14の有するノズル(図示省略)から残留インクを吐出させ、この吐出させたインクをスポンジ56及びチューブ63を介して吸引して廃インクタンク65へと排出する。
【0026】
保湿用キャップ装置100は、キャップホルダ102と、キャップホルダ102上に配置されZ軸方向に突出したキャップ部104と、を備えている。キャップホルダ102には、チューブ112を介して加湿器110が接続されている。この加湿器110は、図示せざる水タンクとヒータとを備え、チューブ112及びキャップホルダ102を介してキャップ部104で囲まれた空間を加湿することができる。保湿用キャップ装置100は、2つの支持部材150a,150bによって下方から支えられている。これら2つの支持部材150a,150bは、フレーム11に設けられたX軸方向に延びる長孔32に沿って左右(X軸方向)に往復自在となるように配置されている。なお、保湿用キャップ装置100は、最も左側に位置する場合には、ホームポジションH1に位置することとなる。長孔32の奥(フレーム11の外部)には、2つの支持部材150a,150bをX軸方向に沿って往復自在に移動させるための移動機構30が配置されている。この移動機構30は、2つの支持部材150a,150bをX軸方向に駆動させることで、保湿用キャップ装置100をX軸方向に移動させることができる。
【0027】
図3は、電源オフ状態におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。プリンタ1000の電源がオフの状態において、キャリッジ10は、ホームポジションH1に配置されている。同様に、保湿用キャップ装置100及び吸引回復用キャップ装置50もホームポジションH1に配置されている。そして、保湿用キャップ装置100は、キャップ部104においてヘッド14に当接して、ヘッド14の吐出面の一部領域(図示せざるノズル孔が配置されている領域)を覆っている。それゆえ、キャップ部104とヘッド14とで囲まれた略密閉された空間AR1が形成されている。
【0028】
また、保湿用キャップ装置100は、キャップホルダ102の底面において吸引回復用キャップ装置50のキャップ部54と当接して、キャップ部54の開口を覆っている。それゆえ、キャップ部54とキャップホルダ102の底面とで囲まれた略密閉された空間AR2が形成されている。
【0029】
このようなヘッド14と保湿用キャップ装置100と吸引回復用キャップ装置50との配置は、プリンタ1000の電源が前回オンであった状態において、以下のようにして実現される。まず、キャリッジ10がホームポジションH1に配置される。次に、保湿用キャップ装置100が、移動機構30によってホームポジションH1に配置される。次に、吸引回復用キャップ装置50がホームポジションH1において昇降手段60によって上昇し、キャップ部54が保湿用キャップ装置100のキャップホルダ102の底面に当接する。そして、吸引回復用キャップ装置50は、キャップ部54がキャップホルダ102の底面に当接してもなお上昇を続ける。そうすると、保湿用キャップ装置100は、吸引回復用キャップ装置50によって下から押し上げられ、支持部材150a,150bから浮き上がると共に、ヘッド14に当接して図3に示す配置状態となる。なお、このとき、保湿用キャップ装置100は、2つの支持部材150a,150bにおける支持面から長さd1だけ上方(+Z方向)に配置される。
【0030】
上述したように、吸引回復用キャップ装置50において、略密閉された空間AR2が形成されるので、かかる空間AR2内に配置されているスポンジ56において残留インクが乾燥することを抑制することができる。したがって、かかる残留インクが乾燥して増粘し、スポンジ56の目詰まりが発生することを抑制することができる。なお、スポンジ56に残留するインクとは、吸引回復処理において各ノズル(図示省略)から吸引され、廃インクタンク65に排出されずにスポンジ内に残ったインクをいう。また、保湿用キャップ装置100において略密閉された空間AR1が形成されるので、かかる空間AR1内に配置されるノズル孔に残留するインクが乾燥することを抑制することができる。また、加湿器110によって空間AR1は加湿されるので、ヘッド14の乾燥を防ぎ、ノズルの吐出不良の発生や、ヘッド14の吐出面においていわゆるキャップマーク(キャップ部54との当接部分に沿って残留するインク滴)が生じることを抑制することができる。また、吸引回復用キャップ装置50の内部の乾燥を防ぐのに、保湿用キャップ装置100のキャップホルダ102の底面を利用するので、かかる乾燥防止用の専用キャップを用いる構成に比べて部品点数を少なくすることができる。それゆえ、プリンタ1000の製造コストの上昇を抑制することができる。なお、上述した空間AR1が請求項における第1の空間に相当し、空間AR2が請求項における第2の空間に相当する。また、上述した吸引回復用キャップ装置50が請求項における予備吐出用ヘッドキャップ装置に相当する。
【0031】
図4は、印刷処理実行中におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。プリンタ1000の電源がオンとなった後も、印刷処理が開始されるまでは、キャリッジ10と保湿用キャップ装置100と吸引回復用キャップ装置50との配置状態は、図3に示す状態のままである。そして、図示せざるパーソナルコンピュータ等から印刷データがプリンタ1000に送られて印刷処理が開始されると、昇降手段60は、吸引回復用キャップ装置50を下降させる。そうすると、吸引回復用キャップ装置50によって押し上げられていた保湿用キャップ装置100も併せて下降することとなる。そして、保湿用キャップ装置100が2つの支持部材150a,150bによって支持される位置まで下降した段階で、昇降手段60は、吸引回復用キャップ装置50の下降を停止させる。その後、キャリッジ10は、ホームポジションH1から左へと移動して印刷領域PA(図1)に配置される。なお、このとき、図示せざるブレードによって、ヘッド14(図1)の底面に付着したインク滴を拭き取る処理(ワイピング処理)を実行することもできる。そして、印刷領域PAに配置されたキャリッジ10は、受信した印刷データに基づいて印刷処理を実行する。
【0032】
ここで、吸引回復用キャップ装置50(図4)及び保湿用キャップ装置100が下降する際に、吸引回復用キャップ装置50のキャップ部54が保湿用キャップ装置100のキャップホルダ102の底面に当接した状態を保っている。したがって、印刷処理実行中においても、吸引回復用キャップ装置50において、略密閉された空間AR2が形成されるので、スポンジ56に残留するインクは乾燥せず、スポンジ56の目詰まりが発生することを抑制することができる。
【0033】
なお、印刷処理が完了した後において、キャリッジ10と保湿用キャップ装置100と吸引回復用キャップ装置50とは、図3に示す配置状態に戻る。このようにすることで、印刷処理の待機状態において、ヘッド14の乾燥及び吸引回復用キャップ装置50内部の乾燥を防ぐことができる。
【0034】
図5は、図3に示す状態から吸引回復処理への移行時におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。プリンタ1000において、印刷処理の待機状態(図3参照)で吸引回復処理の実行指示を受けると、昇降手段60は、吸引回復用キャップ装置50を下降させる。このとき、上述した印刷処理を実行する場合とは異なり、昇降手段60は、保湿用キャップ装置100が2つの支持部材150a,150bによって支持される位置まで下降した後も、所定の距離だけ吸引回復用キャップ装置50を下降させる。そうすると、保湿用キャップ装置100は、キャップ部104においてヘッド14に当接しなくなり、2つの支持部材150a,150bによって支持されて下降を停止する。一方、吸引回復用キャップ装置50は、キャップ部54において保湿用キャップ装置100の底面に当接しなくなり、保湿用キャップ装置100よりも下方に離れた位置に配置される。
【0035】
図6は、吸引回復処理実行中におけるホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。図5に示す状態となった後、保湿用キャップ装置100が右側に移動して上述した図2に示す状態となる。その後、吸引回復用キャップ装置50は、昇降手段60によって図2における配置位置から上昇し、図6に示すようにキャップ部54においてヘッド14に当接する。かかる状態において、吸引ポンプ62は、吸引を開始してキャップ部54内部を負圧にし、ヘッド14の各ノズル(図示省略)からインクを吸引する。以上のように、吸引回復処理を実行する際に保湿用キャップ装置100が移動することで、吸引回復用キャップ装置50が上昇してヘッド14に当接することを妨げないようにすることができる。
【0036】
そして、吸引回復処理が完了した後において、キャリッジ10と保湿用キャップ装置100と吸引回復用キャップ装置50とは、図3に示す配置状態に戻る。このようにすることで、ヘッド14の乾燥及び吸引回復用キャップ装置50内部の乾燥を防ぐことができる。
【0037】
以上説明したように、プリンタ1000では、電源がオフの状態において、ヘッド14と保湿用キャップ装置100と吸引回復用キャップ装置50とが、この順序で積み重なって配置される。したがって、保湿用キャップ装置100は、ヘッド14の吐出面を覆うと共に、底面によって吸引回復用キャップ装置50のキャップ部54の開口を覆うこととなる。それゆえ、ヘッド14のノズルの乾燥を抑制すると共に、吸引回復用キャップ装置50内部のスポンジ56に残留するインクの乾燥を防ぎ、スポンジ56の目詰まりを抑制することができる。また、印刷処理実行中においても、保湿用キャップ装置100は底面においてキャップ部54の開口を覆うので、スポンジ56の残留インクの乾燥を防ぎスポンジ56の目詰まりを抑制することができる。
【0038】
B.第2の実施例:
図7は、第2の実施例におけるプリンタの電源オフ状態のホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。第2の実施例におけるプリンタは、以下の4点において、プリンタ1000(図1)と異なる。すなわち、予備吐出として吸引回復処理の他にフラッシング処理を行う点と、フラッシングボックス200を備えている点と、保湿用キャップ装置100aが有するキャップホルダ102aの大きさが比較的大きい点と、保湿用キャップ装置100aがX軸方向に移動可能な範囲が比較的広い点と、において異なる。なお、その他の構成については第1の実施例と同じである。
【0039】
フラッシングボックス200は、ホームポジションH1よりも左側に位置するフラッシングポジションH2に配置されている。このフラッシングボックス200は、プリンタ1000においてフラッシング処理を行う際に、ヘッド14の全てのノズルから吐出されるインクを受けるための装置である。フラッシングボックス200は、フラッシング時にヘッド14に当接し各ノズル孔を覆うキャップ部254と、フラッシング時に受けたインクを貯蔵するタンク部252と、を備えている。そして、フラッシングボックス200は、昇降手段260によって、吸引回復用キャップ装置50と同様に、上下動可能にフレーム11に設置されている。なお、本実施例では、吸引回復用キャップ装置50とフラッシングボックス200とが、請求項における予備吐出用ヘッドキャップ装置に相当する。
【0040】
第2の実施例におけるプリンタの電源がオフの状態において、キャリッジ10と保湿用キャップ装置100aと吸引回復用キャップ装置50との配置位置は、第1の実施例(図3)と同じである。したがって、ヘッド14の乾燥を防ぐと共に、吸引回復用キャップ装置50(キャップ部54)の内部の乾燥を防ぐことができる。ここで、保湿用キャップ装置100aの備えるキャップホルダ102aは、キャップホルダ102(図2等)に比べて−X方向により長く延びており、フラッシングポジションH2の位置まで達している。そして、電源オフ状態において、フラッシングボックス200は、昇降手段260によって上昇され、キャップ部254においてキャップホルダ102aの底面に当接するように配置される。したがって、キャップ部254とキャップホルダ102aの底面とで囲まれた略密閉された空間AR3が形成されるので、タンク部252内部の乾燥を防ぐことができる。それゆえ、タンク部252に溜まったインクが増粘してタンク部252の内壁等に付着することを抑制することができ、タンク部252内部のクリーニング等のメンテナンスを容易に行えるようにすることができる。
【0041】
図8は、第2の実施例におけるフラッシング処理実行中のホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。フラッシング処理実行中は、キャリッジ10は、フラッシングポジションH2に配置されている。保湿用キャップ装置100aは、図7の状態から長さd1だけ下がって2つの支持部材150a,150bに支持されると共に、右側に移動してフラッシングボックス200の上昇を妨げない位置に配置される。フラッシングボックス200は、昇降手段260によって図7の状態から上昇してヘッド14に当接しており、ヘッド14の各ノズル(図示省略)から吐出されるインクを受ける。なお、フラッシング処理を行うタイミングとしては、例えば、印刷実行中の定期的なタイミングや、印刷が実行されていない状態においてユーザから指示があったタイミングや、プリンタ1000の電源をオンした直後のタイミング等とすることができる。
【0042】
このとき、吸引回復用キャップ装置50は、キャップ部54において保湿用キャップ装置100aの底面に当接しており、空間AR2が形成されている。したがって、フラッシング処理実行中においても、キャップ部54内部のスポンジ56に残留するインクは乾燥せず、スポンジ56の目詰まりが発生することを抑制することができる。
【0043】
以上説明したように、第2の実施例においても、第1の実施例と同様に、電源オフ状態において、ヘッド14と保湿用キャップ装置100aと吸引回復用キャップ装置50とは積み重なって配置されるので、吸引回復用キャップ装置50内部のスポンジ56に残留するインクの乾燥を防ぎ、スポンジ56の目詰まりを抑制することができる。また、フラッシングボックス200についても保湿用キャップ装置100aの底面に当接するので、フラッシングボックス200内に残留するインクの乾燥を抑制することもできる。また、フラッシング処理実行中においても、保湿用キャップ装置100aは底面においてキャップ部54の開口を覆うので、スポンジ56の残留インクの乾燥を防ぎスポンジ56の目詰まりを抑制することができる。
【0044】
C.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0045】
C1.変形例1:
上述した各実施例では、加湿器110を用いて加湿するのは、空間AR1のみであったが、空間AR1に代えて、或いは、空間AR1と共に、空間AR2や空間AR3についても加湿器を用いて加湿するようにしてもよい。この場合、吸引回復用キャップ装置50やフラッシングボックス200を加湿器に接続し、チューブを介して水蒸気を送り込むように構成することができる。なお、この場合は、空間AR1を加湿するための加湿器と、空間AR2又は空間AR3を加湿するための加湿器とは、兼用することもできるし、それぞれ別にすることもできる。一方、保湿用キャップ装置100,100aにおいて、空間AR1〜AR3のいずれも加湿器110を用いて加湿しない構成とすることもできる。
【0046】
C2.変形例2:
上述した第2の実施例では、吸引回復用キャップ装置50とフラッシングボックス200とは別体として構成されていたが、これに代えて、フラッシングボックス200が吸引回復時において各ノズルから吐出されたインクを受けるようにしてもよい。以上の実施例及び変形例からも理解できるように、一般的には、吸引回復処理やフラッシング処理等の予備吐出処理においてヘッド14から吐出されるインクを受けるキャップ装置を、本発明の流体噴射装置において採用することができる。
【0047】
C3.変形例3:
上述した各実施例では、印刷処理実行中やフラッシング処理実行中においても吸引回復用キャップ装置50がキャップ部54においてキャップホルダ102の底面に当接する構成であったが、印刷処理実行中やフラッシング処理実行中は当接せず、電源オフの状態においてのみ当接する構成とすることもできる。また、電源オン状態であって、印刷指示を待つ待機状態において、常に電源オフの状態と同様な配置構成(図3や図7に示す積み重ね状態)とならない構成とすることもできる。例えば、この印刷待機状態において、一定期間だけ積み重ね状態となるように構成することもできる。
【0048】
C4.変形例4:
上述した各実施例では、ヘッド14は、インク吐出の際にヘッドが移動するいわゆるシリアルヘッドであったが、シリアルヘッドに代えて、印刷領域PAの幅に合わせて多数のノズルが並んで配置されているいわゆるラインヘッドであってもよい。或いは、シリアルヘッドを複数並べて構成されたヘッドを用いることもできる。シリアルヘッドを複数並べて構成するヘッドとしては、例えば、複数のシリアルヘッドを用紙送り方向と垂直となる方向(図1におけるX軸方向)に一列に並べて構成されたヘッドや、複数のシリアルヘッドを千鳥状に配置して構成されたヘッドなどを用いることができる。
【0049】
C5.変形例5:
上述した各実施例では、印刷時に、各ノズルにおいて圧電振動子(図示省略)の伸縮等によりインクを吐出するものとしたが、圧電振動子に代えてヒータを用いるようにしてもよい。
【0050】
C6.変形例6:
上述した各実施例では、インクジェット式プリンタについて説明したが、本発明は、これに限らず、インク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が分散されている液状体や、流体として流したり噴射したりできる固体を含む)を噴射する任意の流体噴射装置に適用することができる。例えば、液晶ディスプレイやEL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイや面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や、色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液状体を噴射する液状体噴射装置に適用することもできる。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置や、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置や、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置や、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化性樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置や、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置や、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射する噴射装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0051】
10…キャリッジ、11…フレーム、12…インクカートリッジ、14…ヘッド、21…タイミングベルト、23…キャリッジモータ、24…ガイド部材、25…プラテン、30…移動機構、32…長孔、50…吸引回復用キャップ装置、54…キャップ部、56…スポンジ、60,260…昇降手段、62…吸引ポンプ、63,112…チューブ、65…廃インクタンク、100,100a…保湿用キャップ装置、52,102,102a…キャップホルダ、104,254…キャップ部、110…加湿器、150a,150b…支持部材、200…フラッシングボックス、252…タンク部、1000…プリンタ、P1…印刷用紙、H1…ホームポジション、H2…フラッシングポジション、AR1,AR2,AR3…空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射するための流体噴射装置であって、
所定位置に配置された処理対象物に向けて前記流体を吐出する有効吐出処理と、前記有効吐出処理とは別に前記流体を吐出する予備吐出処理と、を実行可能なヘッドと、
前記ヘッドが前記予備吐出処理を実行する際に、前記ヘッドを覆って前記ヘッドから吐出される前記流体を受ける予備吐出用ヘッドキャップ装置と、
前記ヘッドを覆って前記ヘッドを保湿するための保湿用ヘッドキャップ装置と、
を備え、
前記予備吐出用ヘッドキャップ装置と前記保湿用ヘッドキャップ装置とは、前記ヘッドが前記有効吐出処理と前記予備吐出処理とのいずれも実行していない状態において、前記保湿用ヘッドキャップ装置が、前記ヘッドを覆うと共に前記予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた前記流体を受けるための開口を覆う積み重ね状態をとり得るように構成されている、流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置において、
前記予備吐出用ヘッドキャップ装置と前記保湿用ヘッドキャップ装置とは、前記ヘッドが前記有効吐出処理を実行している状態において、前記予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた前記開口が前記保湿用ヘッドキャップ装置によって覆われるように配置される、流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置において、
前記ヘッドは、前記有効吐出処理及び前記予備吐出処理を実行する際に、前記流体を下方に向けて吐出し、
前記予備吐出用ヘッドキャップ装置は、前記開口が上方に向くように配置され、
前記積み重ね状態において、
(i)前記保湿用ヘッドキャップ装置は、前記ヘッドを下方から覆い、
(ii)前記予備吐出用ヘッドキャップ装置は、前記保湿用ヘッドキャップ装置の下方に配置されて前記保湿用ヘッドキャップ装置の底面に当接することで前記開口が前記底面によって覆われる、流体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体噴射装置であって、さらに、
加湿器を備え、
前記加湿器は、前記保湿用ヘッドキャップ装置が前記ヘッドを覆うことによって形成される第1の空間と、前記保湿用ヘッドキャップ装置が前記予備吐出用ヘッドキャップ装置に設けられた前記開口を覆うことによって形成される第2の空間と、のうち少なくとも一方を加湿する、流体噴射装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の流体噴射装置において、
前記流体は、液体である、流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−63667(P2013−63667A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−3271(P2013−3271)
【出願日】平成25年1月11日(2013.1.11)
【分割の表示】特願2012−143877(P2012−143877)の分割
【原出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】