説明

海浜侵食抑制材料及び海浜侵食抑制方法

【課題】 干潟や砂浜を含む海浜の侵食を防ぐ効果的な手段は得られていない。
【解決手段】 本発明の海浜侵食抑制方法は、海浜の底質土中に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波や流れによる干潟や砂浜を含む海浜の侵食を抑制する海浜侵食抑制材料及び海浜侵食抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、覆砂による干潟やアサリ漁場の造成が実施されているが、波や流れなどの外力によって侵食を受けている場所も数多く存在する。波浪による侵食から干潟や砂浜を含む海浜を守る従来の技術としては、離岸堤や人工リーフ、突堤、ヘッドランドなどの人工構造物を築造することが主であるが、コストや景観の面でこのような構造物が設置できない場合もある。
【0003】
景観への影響がない海浜の安定化工法としては、特許文献1及び2に示すように海浜の土中に砕石等によって形成した排水層を設け、海水を流下排水させ砂を堆積させることで海浜を安定化する工法がある。
【特許文献1】特開平7−207639号公報
【特許文献2】特開2000−54341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然しながら上記従来の方法では波の遡上域が明確な海浜では有効であるが、海底勾配が緩く、常に波浪が来襲する場合の少ない干潟域での有効性は明らかになっていない。このように、安価で簡易な海浜の安定化工法は存在しないのが現状である。
【0005】
また、人工的に造成された干潟や砂浜は、圧密沈下や波や流れによる侵食によって完成時の形状を保てない場合がある。侵食による底質の流失は、干潟覆砂材や養浜材の粒径を大きくし安定性を増すことで防ぐことが可能であるものの、粒径が一様に粗い材料では底生生物の生育に適しない場合もある。また、国土保全のための海岸侵食防止策の場合、人工構造物が設置されているが、環境保全のための干潟や砂浜の造成においてはコストの掛かる構造物の設置は通常なされないことが多いのが現状である。したがって、底生生物の生育に影響が少なく、かつ安価な海浜の覆砂材安定化技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明の目的は上述の課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の海浜侵食抑制材料は、海浜の底質土に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合したことを特徴とする。
【0008】
本発明の海浜侵食抑制方法は、海浜の底質土中に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の海浜侵食抑制方法は、海浜の底質土に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合したもので海浜の底質土の表面を被覆して海浜の侵食を抑制することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の海浜侵食抑制方法は、粒径2〜35mmの石材または人工石材を海浜の底質土の表面に散布被覆して海浜の侵食を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の海浜侵食抑制材料及び海浜侵食抑制方法によれば、波や流れによる海の侵食を防ぎ、完成形状を長期間保持でき、侵食された海浜を維持するための再度の土砂投入が不要であり、本発明によって波や流れによる侵食を抑制できた海浜は、底生生物の生育に適した環境を提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面によって本発明の実施例を説明する。
【0013】
通常、波や流れによる底質の移動形態の分類としては、移動形態が穏やかな順に(1)掃流移動、(2)浮遊移動、(3)シートフローがあり、シールズ数ψ(波や流れによる底面せん断力と底質の移動抵抗との比)を用いると図2のように整理できる。干潟や砂浜では浮遊移動になると底質土が侵食される恐れがある。浮遊移動状態の時には海底面には砂漣が形成され、砂漣から巻き上がった底質が潮流や沿岸流、戻り流れなどの定常流によって流されると侵食が進む。
【実施例1】
【0014】
本発明の海浜侵食抑制材料は、海浜の底質土に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合したことを特徴とする。
【0015】
本発明の海浜侵食抑制方法は、海浜の底質土中に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合して形成したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の海浜侵食抑制方法は、海浜の底質土に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合したもので海浜の底質土の表面を被覆して海浜の侵食を抑制することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の海浜侵食抑制方法は、粒径2〜35mmの石材または人工石材を海浜の底質土の表面に散布被覆して海浜の侵食を抑制することを特徴とする。
【0018】
ここで人工石材とはモルタル、コンクリート、レンガ等の塊を破砕して規定の粒径(2〜35mm)となるようにしたものや、モルタル、コンクリート、レンガ等を既定の粒径(2〜35mm)となるように形成したものや、粘性土等を人工的に造粒して既定の粒径(2〜35mm)となるようにした粒状材料を意味する。
【0019】
また、石材または人工石材などの被覆材の重量は、海浜の底質土の表層5cm程度の単位重量に対して2〜50%(乾燥重量比)として散布被覆する。
【0020】
なお、上記海浜とは自然海浜及び人工海浜を含む。また、底質土には、干潟の覆砂材料や砂浜の養浜材料を有する場合をも含む。
【0021】
本発明によれば、砂漣が形成されにくくなり、砂漣上からの活発な浮遊砂の巻き上げが抑制されるため底質侵食の抑制につながるようになる。
(実験例)
【0022】
様々な粒径の石材を混合した覆砂材(砂)を2次元造波水槽中のマウンド上に設置し、侵食性の波浪を造波させることで、各実験ケースにおける侵食量の比較を行った。
【0023】
海浜の底質土と同質の土質材料(以下、「実験用底質土」という。)中に粒径2〜35mmの石材を、2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合させた計4ケース(A−1a〜A−4a)、及び粒径を50〜100mmとした計4ケース(B−1〜B−4)と、底質土の表面上に粒径2〜35mmの石材を2〜50%の割合で被覆した計4ケース(A−1b〜A−4b)の計12ケースで実験を実験水槽を用いて実施した。
【0024】
表1は各ケースにおける石材の大きさと、石材の混入方法と、海浜に対する石材の混合率を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
図1は本発明で用いた実験水槽の説明図であって1は水槽、2は消波材、3は底質土、4は造波板を示す。
【0027】
表2は実験条件を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
図2は干潟におけるシールズ数ψと砂移動の関係を示す説明図である。また、図3は、各実験ケースの石材の大きさ、混合率と相対侵食量の関係を示す説明図である。
(実験結果)
【0030】
上記各実験ケースの石材の大きさ、混合率と相対侵食量の関係を図3に示す。
【0031】
図3から明らかなように、粒径2〜35mmの石材を混合させたケースでは、砂中に混合した場合も砂上に設置した場合も、2%以上混合すれば侵食量の低減が確認された。一方、粒径50〜100mmの石材を混合させた場合、石材周辺の洗掘が顕著になり、逆に侵食を促進するような結果となった。
【0032】
このように、侵食の抑制には粒径2〜35mmの石材を混合もしくは設置することが効果的で、粒径50mm以上の大きなものについては洗掘が生じる為あまり効果は期待できない。また、本実験では礫として石材を用いたが、モルタル等によって石材と同等以上の比重を持つ人工材料であれば石材と同じ効果が期待できる。
【0033】
なお、図4は、底質土上に石材を被覆した場合の説明図である。また、図5は、底質土中に石材を混入した場合の説明図である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明で用いた実験水槽の説明図である。
【図2】通常の干潟におけるシールズ数ψと砂移動の関係を示す説明図である。
【図3】各実験ケースの石材の大きさ、混合率と相対侵食量の関係を示す説明図である。
【図4】底質土上に石材を被覆した場合の説明図である。
【図5】底質土中に石材を混入した場合の説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 水槽
2 消波材
3 底質土
4 造波板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海浜の底質土に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合したことを特徴とする海浜侵食抑制材料。
【請求項2】
海浜の底質土中に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合することを特徴とする海浜侵食抑制方法。
【請求項3】
海浜の底質土に粒径2〜35mmの石材または人工石材を2〜50%(乾燥重量比)の割合で混合したものにより海浜の底質土の表面を被覆して海浜の侵食を抑制することを特徴とする海浜侵食抑制方法。
【請求項4】
粒径2〜35mmの石材または人工石材を海浜の底質土の表面に散布被覆して海浜の侵食を抑制することを特徴とする海浜侵食抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−46275(P2007−46275A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229883(P2005−229883)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(591036631)社団法人マリノフォーラム二十一 (6)
【Fターム(参考)】