浸透剤浸透装置
【課題】効率的に浸透剤をコンクリートに浸透できると共に、浸透剤の無駄を低減できる浸透剤浸透装置を提供する。
【解決手段】浸透剤浸透装置1には、袋状容器12が設けられており、袋状容器12の内部に収容された保液材11に浸透剤が吸収されて保液される。袋状容器12の底部には、加圧プレート13が設けられており、加圧部材14による加圧により加圧プレート13を介して袋状容器12内の保液材11をコンクリート材3に向けて加圧することにより、保液材11を押し潰して、保液材11に保液された浸透剤をコンクリート材3に向けて排出して浸透させる。支持部15には、吸盤16が固定されており、吸盤16により支持部15をコンクリート材3に吸着固定する。吸盤16は排気装置17に接続されており、排気装置17により吸盤内が排気される。吸盤16は、例えば袋状容器12の近傍に配置されている。
【解決手段】浸透剤浸透装置1には、袋状容器12が設けられており、袋状容器12の内部に収容された保液材11に浸透剤が吸収されて保液される。袋状容器12の底部には、加圧プレート13が設けられており、加圧部材14による加圧により加圧プレート13を介して袋状容器12内の保液材11をコンクリート材3に向けて加圧することにより、保液材11を押し潰して、保液材11に保液された浸透剤をコンクリート材3に向けて排出して浸透させる。支持部15には、吸盤16が固定されており、吸盤16により支持部15をコンクリート材3に吸着固定する。吸盤16は排気装置17に接続されており、排気装置17により吸盤内が排気される。吸盤16は、例えば袋状容器12の近傍に配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート材の毛細管空隙に劣化防止剤等の浸透剤を効率よく浸透させる浸透剤浸透装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物の劣化は、地震力及び荷重等の外力によるものを除けば、コンクリート自体の劣化と鉄筋の腐食によるものであり、主に、塩害、硫酸塩浸食若しくは凍害等の原因によるものであるか、又はコンクリートの中性化若しくはアルカリ骨材反応等の症状の発現によるものであり、これらの劣化原因及び劣化症状が、複数種同時に進行する。これらの劣化原因及び症状は、全て、水を媒体にした物理・化学反応である。
【0003】
所謂生コンクリートは余剰の水分を含んでいるが、これはセメントと水との混練状態がミクロ的には不完全であり、水和反応を完全に行わせるには余剰の水が必要であることと、フレッシュコンクリートを型枠に十分に流し込むにはある程度の流動性が求められるからである。凝固乾燥とともに、水分の一部は、セメント硬化体に化学的に取り込まれる。鉱物としてのセメントは、Ca、Si、Al及びFe等の元素により構成されており、水と接することにより、Caイオンが水中に溶出し、引き続いて、セメント鉱物中に単量体(モノマー)として存在する珪酸イオン及びアルミナイオンが溶液中に溶け出す。そして、これらのイオン成分がCaイオン及び水分子と反応することにより、セメント水和物(所謂C−S−Hゲル、エトリンガイト)を生成し、余剰のCaイオンはCa(OH2)として析出する。生成された水和物同士は、相互に結合し、セメントペーストの流動性を低下させると共に、セメント粒子間の空隙に充填されていき、セメント硬化体(セメントゲル)を形成していく。このC−S−Hゲルは、セメントの水和反応によって生成するコンクリートの主要強度成分であり、単純な化学式では表せないが、3CaO・2SiO2・3H2Oが近いとされている。天然に存在する鉱物であるトベルモライトに近い構造を持つといわれている。水和反応によってセメント硬化体(セメントゲル)が生成されると、ゲル内に化学的に組み込まれたセメント及び水(ゲル水)は圧縮され、体積が減少する。この減少を水和収縮という。このときの体積減少量は、一般的に、当初体積(セメントの体積+水和反応にあずかる水の体積)の約10%程度であるといわれている。
【0004】
セメント水和物の中に捕捉又は吸着されたゲル水以外の水分は漸次蒸発し乾燥状態になり、セメント硬化体は、体積が減少する。即ち、フレッシュコンクリートが流動性を保っている間に起こる水和収縮は、全体の体積が減少するだけであるが、凝結が終わり流動性を失うと、その後の体積減少は、大部分は内部空隙の発生という形で吸収され、ごく一部は外形体積の減少(収縮)をもたらす。セメント硬化体の乾燥による収縮には、2種類の形態がある。即ち、一方の形態は、凝結以前の段階でセメント硬化体の表面ににじみ出てきた(ブリーディングした)水分が乾燥して収縮する形態であり、他方の形態は、凝結後にセメント硬化体内部の空隙に残留している水分が更に水和反応することによる自己乾燥収縮する形態である。即ち、乾燥により生じた内部空隙は当初水で満たされているが、水和反応の進行に伴ってこの空隙内の水も水和反応に使用されて次第に減少していく。空隙内の水が残り少なくなると、水膜の表面張力によって空隙壁面に対する収縮力が発生する。更に、水和反応がほぼ終了した後も、空隙(毛細管空隙)内の水分の蒸発は続くので、この収縮力は持続して外形体積の減少をもたらす。なお、自己乾燥収縮による体積減少は、水和収縮による体積減少の数十分の一程度である。
【0005】
図12は、セメント硬化体の形成時における外形体積の変化を示す図であり、図12における左側の図は原材料の体積の構成、右側の図は、セメント硬化体の外形体積の構成を示す。なお、図12においては、一例として、水セメント比(W/C)が0.5、即ち、セメント1gに対して水を0.5g混合した場合を示す。図12に示すように、例えば、原材料の水0.23cm3とセメント0.32cm3とにより水和物が生成され、更に凝結前の乾燥収縮により、水和物0.5cm3が生成され、0.05cm3の体積減少が発生する。また、水和物の生成に使用されなかった水は、ゲル水0.15cm3と余剰水0.12cm3の形態でセメント硬化体内に存在する。このうち、ゲル水については、セメント硬化体の1乃至4nmの空隙(ゲル空隙)内にてゲルにより強固に拘束される。
【0006】
上記セメント硬化体内に存在している余剰水は、水和の終結時点から徐々に蒸発していき、セメント硬化体の内部に空隙を残す。従って、セメント硬化体は、5nm乃至数μm程度の大きさの空隙(毛細管空隙)を有する多孔質の固体ゲルとして形成される。この毛細管空隙は、コンクリート自体の強度を低下させるだけではなく、コンクリート構造物の劣化の原因となる。なお、セメント硬化体には、毛細間空隙の他に、ひび割れ又は凝結時の分離沈降によって生じた空隙、及びAE剤の使用による数10乃至1000μm程度の大きさの空隙が形成される。このうち、ひび割れ又は凝結時の分離沈降によって生じた空隙は、毛細管空隙よりも遙かに大きなものであり、漏水の原因となってしまう。図12に示すセメント硬化体モデルにおいては、全毛細管空隙の体積は、セメント硬化体の全体積に対して、(0.12+0.05)/(0.5+0.15+0.12+0.05)=0.21cm3/cm3となる。但し、ここでは、凝結前の水和収縮分の体積は無視している。
【0007】
雨水又は海水が吸水又は透水(圧力を伴う)という形で、コンクリート内部に侵入する際には、種々の有害な物質を伴うので、内部の物質との間で劣化化学反応を引き起こす。また、それだけではなく、元々内部に存在している物質間(乾燥状態では安定していたにも拘わらず)での有害な化学反応が、水を媒体にして励起されたり、活性化される。
【0008】
従って、外部からの水の侵入を防止するか、又は大巾に減少させることにより、コンクリート内部を乾燥状態に保てれば、劣化の進行を止めるか、又は大巾に減少させることができる。
【0009】
よって、これらの毛細管空隙等に浸透剤を浸透させ、毛細間空隙等の空隙を埋めたり、防水用の浸透剤を浸透させ、外部からの水の浸入を防止することが行われている。コンクリートの吸水及び透水を防止してコンクリートを保護するための一般的な方法は、その表面を防水施工するか、又は仕上げ(塗装、吹付け、金属パネル、タオル等)加工を施す方法である。一般的に、浸透剤の施工要領では、下向き施工(床施工)の場合、散布器等を使用して、床の上に厚み0.3乃至1.0mmで散布される。また、横向き施工(壁施工)及び上向き施工(天井施工)の場合は、ローラ等を使用して、壁又は天井に塗布される。
【0010】
コンクリートの表面から内部への液の浸透は、物理的には、濡れと圧入の二つの現象によるものと考えられる。濡れによる浸透は、加圧の無い状態で、コンクリートの表面エネルギーと液の表面エネルギー(=表面張力)とのせめぎ合いによってコンクリート表面を濡らし、その一部が毛細管空隙に浸透することである。
【0011】
特許文献1には、珪酸ナトリウムを主成分とした無機質浸透性防水剤をコンクリートに塗布又は注入した後、無機質浸透性防水剤の乾燥後に散水を数回繰り返すことによってコンクリートに浸透させる技術が開示されている。
【0012】
散布器及びローラ以外による浸透剤の浸透方法については、例えば特許文献2乃至4に開示されており、コンクリートの空隙に棒状の注入用部材を挿入し、例えばアルカリ珪酸塩からなる浸透剤を空隙に注入する技術が開示されている。
【0013】
アルカリ珪酸塩浸透剤は、ナトリウム珪酸塩溶液又はナトリウム珪酸塩とカリウム珪酸塩の混合溶液を主成分とし、他に少量の特殊金属酸化物を含むものである。
【0014】
コンクリート内部には、主要強度成分であるC−S−Hゲルの他に、多量(セメント量の約1/3)の水酸化カルシウムCa(OH)2の結晶が存在し、その一部(溶解度0.18g/100gH2O)は毛細管空隙内で溶解している。また、セメント中には当初からアルカリ分(酸化ナトリウムNa2O、酸化カリウムK2O)が含まれるので、毛細管空隙中に水分が存在すると、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、水酸化物イオンOH−及びカルシウムイオンCa2+が溶解し、本来は強塩基性(pH12.5乃至13.5)である。
【0015】
毛細管空隙にアルカリ珪酸塩が浸透すると、それが溶液中のカルシウムイオンを取り込んでガラス質の半固体ゲルに変化する。このゲルは水分の多い環境下では、充分な水分(ゲル水)を吸収して体積を増し、空隙を塞ぐ。この状態では、液体及び気体の出入りが遮断される。一方、乾燥時(ゲル水は通常の遊離水よりも蒸発しにくい)には、乾燥ゲルとなって体積が減少し、気体(酸素、二酸化炭素、水蒸気)はある程度、流通する。
【0016】
このような性質を利用して、水及び海水の浸入を防止又は抑制し、それによってコンクリートの劣化の進行を遅らせ、延命を図るのに使われるのがアルカリ珪酸塩浸透剤である。
【0017】
アルカリ珪酸塩浸透剤は、コンクリート内で生成する半固体ゲル(カルシウムアルカリ珪酸塩)が、セメント又はガラスと似た組成(酸化珪素、酸化カルシウム、酸化アルカリ)で、全て無機質であり、紫外線又は温度変化による経年変質がほとんどないという長所がある。また施工後もコンクリート表面の外観にほとんど変化がない。よって、材齢の若いコンクリートであれば、本来の肌理及び色を長期間にわたり保つことができる。
【0018】
そして、一般の防水のように薄い被膜による防水ではなく、ある厚さ(コンクリートの密実さによって数cm乃至10cm)に広がった防水性のある層を形成するので、表面での機械的摩耗及び引っかき傷には強い。また、コンクリートの背面からの水圧をともなった透水(建物地中壁、地下ピット、擁壁、トンネル、水槽等)に対して、補修手段として有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平7−26674号公報
【特許文献2】特開2006−322267号公報
【特許文献3】特開2008−255590号公報
【特許文献4】特開2005−60144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、一般的な浸透剤の施工要領においては、下向き施工の場合、濡れと散布厚に相当する僅かの圧力(重力)による浸透が行われているが、浸透剤のコンクリートへの浸透が不十分である。また、横向き施工又は上向き施工の場合には、ローラ等を用いる濡れによる浸透が行われているが、浸透剤のコンクリートへの浸透が不十分であることに加えて、施工時に、ローラ等から浸透剤が垂れ落ちることがあり、浸透剤の一部が無駄になるという問題点がある。
【0021】
特許文献1の技術においては、浸透剤の塗布又は注入、乾燥及び散水を少なくとも3サイクル繰り返す必要があり、浸透剤の浸透作業が煩雑で、長時間を要するという問題点がある。
【0022】
特許文献2乃至4の技術においては、浸透剤をコンクリートに注入するために、コンクリートに孔をあけ、浸透剤注入用部材を孔に挿入する必要がある。従って、浸透剤を注入する作業性が低いものである。また、複数箇所の補修を行う場合においては、改めてコンクリートに孔を設ける必要があり、構造物の外観も劣化させてしまう虞がある。
【0023】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、効率的に浸透剤をコンクリートに浸透できると共に、浸透剤の無駄を低減できる浸透剤浸透装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る浸透剤浸透装置は、コンクリート材の空隙に浸透剤を浸透させる浸透剤浸透装置において、支持部と、この支持部を前記コンクリート材に吸着固定する1又は複数個の吸盤と、開口縁が内側に向けて曲成され、前記浸透剤を保液する保液材が内部に収容された状態で前記開口縁の縁部が前記コンクリート材に当接する袋状容器と、前記袋状容器の底部に設けられた加圧プレートと、前記支持部に支持され前記袋状容器の前記縁部が前記コンクリート材に当接した状態で前記加圧プレートを介して前記袋状容器内の保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧部材と、前記保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧力を調整する加圧力調整部材と、前記吸盤の内部を排気する排気装置と、を有することを特徴とする。
【0025】
上述の浸透剤浸透装置において、例えば前記加圧力調整部材は、前記支持部に支持された筒部と、前記加圧プレートに固定され前記筒部の下部に挿入されて前記筒部内を移動可能のシャフトと、前記筒部の上部内面に形成されたネジに螺合して前記筒部内を移動可能の螺棒を備えたハンドル部と、前記筒部内で前記ハンドル部と前記シャフトとの間に介在する圧縮コイルバネと、を有する。この場合に、前記ハンドル部と前記圧縮コイルバネとの間、又は前記シャフトと前記圧縮コイルバネとの間に、前記加圧部材による加圧力を計測するセンサが設けられており、前記加圧力が所定の範囲になるように前記ハンドル部により前記加圧力を調整することが好ましい。
【0026】
上述の浸透剤浸透装置において、前記袋状容器の前記縁部は、先端側が薄くなるように形成されていることが好ましい。
【0027】
また、例えば前記吸盤は、例えば前記コンクリート材との接触部が軟質ゴムにより形成され、この軟質ゴムを金属製の基部に貼り合わせたものである。
【0028】
前記保液材は、例えば多孔質の弾性体であるスポンジ又は繊維層からなる。
【0029】
前記袋状容器は、例えばゴム製であり、側部が蛇腹状に形成されている。
【0030】
上述の浸透剤浸透装置は、例えば前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとを連結する3個以上のヒンジを有し、このヒンジにより前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとの距離が規制されている。この場合に、前記ヒンジには、前記袋状容器の開口縁を前記加圧プレートから遠ざける方向に付勢する弾性部材が設けられていることが好ましい。
【0031】
浸透剤浸透装置は、例えば前記保液材に供給する浸透剤を蓄えておく貯液容器と、給液ポンプと、この給液ポンプと前記保液材との間に介在し第1の開閉弁の開放により前記給液ポンプと前記保液材とを接続する給液ホースと、を有し、前記給液ポンプは、前記第1の開閉弁が開放された状態で前記給液ホースを介して前記貯液容器から汲み出した浸透剤を前記保液材に供給する。この場合に、更に、第2の開閉弁の開放により前記保液材に接続され不要な浸透剤を前記貯液容器に排出する排液ホースを有するように構成することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る浸透剤浸透装置は、保液材に浸透剤を吸収させ、排気装置による排気により吸盤内の圧力を減圧し、浸透剤浸透装置の全体をコンクリート材に吸着固定した状態で、袋状容器の縁部をコンクリート材に当接させ、加圧部材及び加圧プレートにより袋状容器の内部に収容された保液材を押し潰し、保液材に保液された浸透剤をコンクリート材へ向けて絞り出すという簡単な動作により、コンクリート材に浸透剤を加圧浸透させることができる。
【0033】
また、例えば袋状容器の縁部に沿って延びている吸盤により、浸透剤浸透装置の全体をコンクリート材に吸着固定するため、浸透材浸透装置を安定的に支持することができ、大がかりな支持用の部材を設置する必要もなく、小型化した浸透材浸透装置を得ることができる。更に、施工対象のコンクリート材に孔等の加工を施す必要がなく、複数箇所の施工においても、効率よく浸透剤を浸透させることができる。更にまた、吸盤を浸透剤の加圧浸透箇所に近接して設けた場合においては、吸盤及び排気装置による吸引力を装置全体の支持に使用するだけではなく、毛細管空隙内の空気の吸引に使用して浸透剤の浸透効率を向上させることができる。
【0034】
更にまた、袋状容器の開口縁が内側に向けて曲成されているため、加圧により、袋状容器の縁部はコンクリート材に密着し、浸透剤の漏れを防止することができ、浸透剤の無駄を低減することができる。特に、横向き施工及び上向き施工において、施工コストの無駄を低減できる効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す図であって、図2におけるA−A断面図、(b)は、吸盤を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す側面図である。
【図3】(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置において、加圧シャフト及び加圧ハンドルを示す断面図、(b)は同じく上面図である。
【図4】(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を使用し、上向き施工法により浸透剤を浸透させている状態を示す断面図、(b)は、図4(a)のB部詳細図、(c)は、図4(a)のC部詳細図である。
【図5】(a),(b)は、同じく本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を使用し、上向き施工法により浸透剤を浸透させている状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す図である。
【図7】浸透剤の充填率を示す図である。
【図8】加圧シミュレーション試験装置を示す図である。
【図9】加圧シミュレーション試験により、コンクリート材3に浸透剤を浸透させた場合の試験結果であり、図9(a)は単分子の浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合、図9(b)は高分子の浸透剤として珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)を使用した場合の浸透量の時間変化を示す。
【図10】加圧力と吸引力との関係を示すイメージ図である。
【図11】シロキサン結合を示す図である。
【図12】セメント硬化体の形成時における外形体積の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。先ず、毛細管空隙への浸透剤の浸透深さについて説明する。図12に示すように、水/セメント比(W/C)が0.5の場合において、コンクリート調合として標準的調合を採用し、砂の平均粒子径を1.2mm以下、砂利の平均粒子径を20mm以下としたときに、生コンクリート1m3あたりの重量調合は、水:190kg/m3、セメント:380kg/m3、砂:577kg/m3、砂利:1188kg/m3となる。図12において、水和による体積減少(0.05cm3/1gセメント)及び余剰水(0.12cm3/1gセメント)の体積が毛細間空隙として形成されるとした場合には、生コンクリート1m3あたり、(0.05+0.12)×380×10−3=0.065m3の毛細管空隙が形成され、空隙率は6.5%となる。
【0037】
浸透剤が空隙内に浸透するということは、空隙内の空気又は水を追い出しつつ、置き換わることである。しかしながら、その過程で、空気及び水を空隙内から100%追い出すことは不可能であり、浸透剤の空隙充填率もコンクリート材3の表面から内部へいくほど低くなると考えられる。このとき、空隙への浸透剤の充填率が仮に100%以下であっても、平均充填率が例えば70%以上の層が充分の厚さで形成されるならば、浸透剤の効果は発現する。そこで、毛細間空隙への浸透剤の最大充填率、即ち、コンクリート材3表面付近における充填率を90%とし、浸透剤の充填率が内部に向かって低くなっていく状態を図7に示すように仮定し、充填率が40%となる部分の深さを浸透深さDと定義する。そうすると、平均充填率は、(90+85×2+75×2+60×2+40)/8=71.3(%)となり、コンクリート材3の表面から浸透深さDまでの領域において70%以上の平均充填率が得られ、浸透剤の効果を十分に得られることになる。ここで、浸透剤の単位面積あたりの浸透量(以下、浸透厚さとよぶ)をSとしたときに、浸透深さD(単位:mm)と浸透厚さS(単位:mm)との関係は、上記毛細管空隙の空隙率6.5%を考慮して、以下の数式により示すことができる。
【0038】
【数1】
【0039】
この関係式より、例えば浸透厚さSが0.15mmである場合には、実際には、D=3.2mmの位置までの深さにおいて、40乃至90%の充填率が得られ、70%以上の平均充填率が得られていることになる。この計算式を用いれば、例えば後述の実施例にてコンクリート標準試験体に直管付きガラスロートを立設して浸透試験を行うが、コンクリートを破壊することなく浸透深さを概算することができる。
【0040】
次に、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置について説明する。先ず、第1実施形態に係る浸透剤浸透装置の構成について説明する。図1(a)は本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す図であって、図2におけるA−A断面図、図1(b)は、吸盤を示す拡大断面図である。図2は本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す側面図である。図3(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置において、加圧シャフト及び加圧ハンドルを示す断面図、図3(b)は同じく上面図である。図4(a)及び図5(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を使用し、上向き施工法により浸透剤を浸透させている状態を示す断面図、図4(b)及び図5(b)は、夫々、図4(a)及び図5(a)におけるB部詳細図、図4(c)は、図4(a)のC部詳細図である。
【0041】
図1及び図2に示すように、本実施形態の浸透剤浸透装置1は、装置の枠体となる支持部15と、この支持部15に連結された吸盤16と、袋状容器12と、袋状容器12の底部に設けられた加圧プレート13と、加圧力調整部材14としての連結スリーブ14a、加圧シャフト14b、圧縮コイルバネ14c及び加圧ハンドル14dと、吸盤16に接続された排気装置17とを有している。袋状容器12の内部には、浸透剤が吸収されて保液される保液材11が収容され、浸透剤浸透装置1は、排気装置17により吸盤16内が排気されることにより、施工対象のコンクリート材3に吸着固定される。
【0042】
袋状容器12は、弾性及び気密性を有する材質からなり、例えば加圧により伸縮可能に構成されている。袋状容器12の材質としては、例えばポリウレタンゴム又はクロロプレンゴム等の高分子ゴム等の合成ゴムを使用すれば、弾力性、加工性及び経済性の点で優れている。袋状容器12は、厚さが例えば0.1乃至0.3cmの袋状に形成されており、全体として例えば円筒状に構成されている。そして、袋状容器12の側部は、例えば蛇腹状に形成されており、これにより、伸縮変形時に、加圧プレート13による加圧方向において、袋状容器12は、その伸縮に伴う変形抵抗が極めて小さくなり、また、袋状容器12の側部の一部分だけが不均一に伸縮することを防止することができる。袋状容器12の外径は、例えば40乃至120cm、高さは例えば3乃至10cmである。
【0043】
図4(b)に示すように、袋状容器12の開口縁は、内側に向けて曲成されており、これにより、浸透材の漏れを防止している。袋状容器の開口縁の縁部12aは、先端側が薄くなるように形成されており、これにより、浸透施工対象のコンクリート材3への密着性を向上させている。袋状容器12は、この縁部12aにて浸透施工対象のコンクリート材3に当接される。
【0044】
袋状容器12の内部に収容される保液材11は、例えば多孔質の弾性体、スポンジ又は繊維等により形成されており、これにより、保液材11は吸液性を有し、吸収した液体を圧縮により排出できるように構成されている。保液材11を多孔質の弾性体、スポンジ又は繊維等により構成することにより、施工姿勢が下向き、横向き及び上向きのいずれの場合においても、保液材11の内部における、重力による浸透剤の移動を低減し、安定的に施工することができる。多孔質の弾性体であるスポンジ又は繊維層を使用することができる。スポンジとしては、例えばウレタン樹脂からなる発泡体を使用することができ、また、繊維層としては、厚みを有するように、例えば、長さが15乃至100nm程度の短い繊維を相互に絡み合わせて層状にしたもの、又は例えば不織布を積層させたものを使用しても良い。この場合に、繊維又は不織布同士の接着には、例えば接着剤を使用することができる。
【0045】
加圧プレート13は、例えば硬質ポリプロピレン等の樹脂又は金属等の剛性を有する材質により構成されており、例えば円板状に形成されている。そして、加圧プレート13は、その主面の一方が、例えば接着剤により袋状容器12の底部に接着固定されている。
【0046】
本実施形態においては、図1(a)に示すように、袋状容器12の開口縁部12aの外側の側面と加圧プレート13とを連結するように、3個以上のヒンジ21が設けられており、このヒンジ21により袋状容器12の開口縁部12aと加圧プレート13との距離が規制されている。即ち、袋状容器の縁部12aに取り付けたヒンジプレート21aと加圧プレート13に取り付けたヒンジプレート21bとが連結部21cにて相互に回転可能に連結されていることにより、ヒンジプレート21a及び21bの長さの範囲、並びにヒンジ21の開角度の範囲で、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとの距離を所定の範囲に規制することができる。また、図2に示すように、ヒンジ21の回転軸となる連結部21aが互いに異なる方向に延びていることにより、例えば3個以上のヒンジ21が同一の形状である場合には、開角度が全て等しくなる。即ち、本実施形態においては、ヒンジ21を3個以上設置することにより、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとが常に平行を維持した状態で、加圧プレート13を常に開口縁部12aのコンクリート材3に対する接触面に垂直に移動させることができるため、袋状容器12を均等に変形させることができる。ヒンジ21には、2枚のヒンジプレート21aとヒンジプレート21bとの最大開角度を規定するために、例えばストッパーを設けることができる。
【0047】
ヒンジ21には、図4(c)に示すように、2枚のヒンジプレート21a及びヒンジプレート21bに夫々連結されたバネ21dが設けられていてもよく、これにより、加圧プレート13による加圧方向に抗するように弾性力を作用させて、加圧プレート13による加圧力を解除した際に、加圧プレート13がバネ21dの弾性力により袋状容器12の開口縁部12aから自動的に離隔して、袋状容器12の形状が復帰するように構成してもよい。
【0048】
支持部15は、加圧プレート13の他面及び袋状容器12の側面の外方に設けられ、浸透剤浸透装置1の骨格をなすように複数本の棒状部材によって形成されている。そして、支持部15は、複数本の棒状部材が例えば施工対象のコンクリート材3へ向けて垂直となるように延び、その先端部に後述する吸盤16が固定されている。本実施形態においては、図1及び図2に示すように、支持部15からは、3本の棒状部材がコンクリート材3へ向けて延びるように構成されており、夫々の端部に、吸盤16が固定されている。これらの3本の棒状部材は、例えば側面視で(棒状部材の長手方向から視たときに)均等に位置するように、後述する加圧シャフト14bの位置を中心としたときに、120度の間隔で離隔して均等に配置されている。
【0049】
加圧力調整部材14としての連結スリーブ14aは、例えば円筒状に形成されており、前記支持部15の複数本の棒状部材のうち、吸盤16が固定された棒状部材に対して長手方向が平行になるように配置され、その円筒側面にて支持部15に固定されて支持されている。加圧シャフト14bは、全体として棒状をなし、例えば加圧プレート13と同様に剛性を有する材質により構成されている。加圧シャフト14bは、その一端が、例えば加圧プレート13の他方の主面の中央部近傍の1カ所に固定されている。前記連結スリーブ14aの内径は、加圧シャフト14bの外径よりも若干大きくなるように構成されており、その円筒下部(連結プレート側)に加圧シャフト14bが挿入されている。これにより、加圧シャフト14bは連結スリーブ14a内を軸方向に移動可能に構成されている。また、図3(a)に示すように、連結スリーブ14aの円筒内面のうち、加圧シャフト14bに対して逆側の内面には、所定区間のネジが形成されている。そして、加圧ハンドル14dには、シャフト部分の外面に雄ネジが形成されており、この雄ネジが連結スリーブ14aの内面の雌ネジ部分に螺合し、これにより、加圧ハンドル14dのシャフト部分が連結スリーブ14a内を軸方向に移動可能に構成されている。連結スリーブ14a内には、加圧シャフト14bと加圧ハンドル14dとの間に介在するように、圧縮コイルバネ14cが挿入されている。そして、圧縮コイルバネ14cの端部に、夫々、加圧シャフト14b及び加圧ハンドル14dの夫々端部が接触している。なお、連結スリーブ14aの内面及び加圧ハンドル14dのシャフト部分の外面に設けられたネジは、その設置長さが例えば加圧プレート13の可動範囲と同等であればよい。加圧力調整部材14をこのように構成することにより、支持部15は、圧縮コイルバネ14c及び加圧ハンドル14dを介して、加圧シャフト14bからの加圧反力を受け止めるように構成されている。また、支持部15は、反力源としての吸盤16からの吸着力を加圧ハンドル14d、圧縮コイルバネ14c及び加圧シャフト14bを介して加圧プレート13に伝達することができ、また、加圧ハンドル14dによる加圧力の制御が容易となる。
【0050】
図3(b)に示すように、連結スリーブ14aの側面には、例えばその長手方向に沿って、所定区間の孔140が設けられており、孔140から連結スリーブ14aの内部に例えば潤滑油を注入できるように構成されている。また、加圧ハンドル14dには、圧縮コイルバネ14cとの接触部に近接した位置に、例えば加圧力測定用のセンサ(ロードセル)22が設けられており、加圧プレート13に印加する加圧力を測定できるように構成されている。これにより、加圧力が所定の範囲内になるように加圧ハンドル14dにより加圧力を調整できるように構成されている。センサ22から延びるリード線22aは、前述の連結スリーブの孔140から取り出すことができる。なお、本実施形態においては、センサ22は、加圧ハンドル14dに設けられているが、加圧シャフト14bの圧縮コイルバネ14cとの接触部に近接した位置にセンサ22が設けられていてもよい。
【0051】
吸盤16は、コンクリート材3の凹凸に対する密着性を考慮して、コンクリート材3との接触部16bが柔軟性及び気密性を有する例えば軟質ゴムによりパッド状に形成されており、例えば鋼、ステンレス又は黄銅等の金属製の基部16aに、この軟質ゴムパッドが貼り合わされている。吸盤16の基部16aを金属により構成することにより、吸盤16の強度が確保され、排気装置17による排気によっても変形し難くなり、吸着力を安定して作用させて浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に安定的に固定することができる。また、金属は、例えば軟質ゴム等に比して成形性がよく、成形に要するコストも低いため、基部16aを金属により構成することにより、吸盤16の全体を例えば軟質ゴムにより構成した場合に比して、吸盤16の成形が容易となり、製造コストも低く抑えることができる。図2に示すように、吸盤16は、例えば側面視で(加圧シャフト14bの軸方向から見たときに)湾曲した長楕円形状に形成されており、例えば3個の吸盤16が袋状容器12の縁部12aに沿って均等に配置されている。そして、吸盤16は、例えば夫々の長手方向の中央部付近において、夫々、支持部15の3本の棒状部材の先端に固定されている。3個の吸盤16は、夫々、浸透施工対象のコンクリート材3に吸着することにより、支持部15を介して浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定する。なお、本実施形態においては、図1(b)に示すように、基部14aは、軟質ゴムパッド16bとの貼り合わせ部分が、扁平な板状に若干拡張されており、これにより、軟質ゴムパッド16の面積を広げ、軟質ゴムパッド16のコンクリート材3への接触面積を広げている。これにより、吸盤16によるコンクリート材3への吸着固定が安定する。なお、この場合、吸盤の幅及び長さは、図1(b)に示すように軟質ゴムパッド16bの部分の外縁の寸法により定義され、夫々有効幅及び有効長さと称する。本実施形態においては、吸盤16の有効幅は、例えば60乃至120mmであり、有効長さは、例えば150乃至500mmである。また、吸盤16がコンクリート材3に接触する領域の外縁により決定される有効接触面積としては、400cm2以下が実用的である。本実施形態においては、夫々の吸盤16の有効幅は80mm、有効長さは400mmである。
【0052】
図1(b)に示すように、夫々の吸盤16には、例えば、支持部15への固定部分に近接した位置に、排気孔が設けられており、吸気ホース18を介して排気装置17に接続されている。そして、吸盤16のパッド部分16bをコンクリート材3に当接させた状態で、吸盤16の内部を排気装置17により排気することにより、吸盤内部の真空度が高まり、浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定できる。なお、本実施形態における排気孔の位置は一例であり、吸盤16内の空気を排気できれば、排気孔は吸盤16のいずれの位置に設けられていてもよい。排気装置17は、例えば真空ポンプ及びエジェクター等、吸盤の内部を排気できるものであれば、どのような形態のものでも使用することができる。
【0053】
次に、本第1実施形態の浸透剤浸透装置の動作について説明する。先ず、浸透施工対象のコンクリート材3の施工目的に合わせて、浸透剤を選択する。例えば、コンクリート材3への撥水性の付与を目的とする場合には、例えばシリコーンオイルを選択する。この選択した浸透剤を保液材11に吸収させ、袋状容器12内に収容する。
【0054】
次に、袋状容器12の開口部をコンクリート材3の浸透施工対象部位に向け、浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に近接させていく。すると、先ず、吸盤16の開口部がコンクリート材3に接触する。この状態で例えば真空ポンプ等の排気装置17を駆動する。これにより、吸気ホース18を介して排気装置17に接続された吸盤16内が排気され、吸盤16内の圧力が減圧され、浸透剤浸透装置1が、コンクリート材3に吸着固定される。このとき、吸盤16内の真空度を例えば圧力センサ等により確認することにより、吸盤16内が所定の真空度に達したことを確認する。吸盤16のコンクリート材3との接触部16bを例えば軟質のゴムにより形成することにより、コンクリート材3の表面に凹凸があった場合においても、接触部16bはコンクリート材3の凹凸を吸収する形状に容易に変形することができる。これにより、吸盤16の気密性を向上させることができる。また、吸盤16の基部16aを例えば金属等の剛性の高い材料により構成することにより、吸盤16内が減圧された場合においても、吸盤16の形状が容易に変化することを防止でき、吸着力を安定して作用させて浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に安定的に固定することができる。
【0055】
排気装置17により吸盤16内の真空度を例えば−80kPaとしたときには、本実施形態においては、3個の吸盤16(接触面積:0.08m×0.4m=0.032m2)により、0.032×3×80=7.68kN(783kgf)の吸着力を得ることができる。この吸着力は、例えば浸透剤浸透装置1をコンクリート材3から引き剥がす力が最も大きく作用する条件下(例えば、横向き施工及び上向き施工時)においても、浸透剤浸透装置1及びその他の付属品の自重、並びに転倒モーメントによる引き剥がし力の合計に対して、充分に余裕がある大きさである。
【0056】
吸盤16により、浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に吸着固定したら、加圧シャフト14bにより加圧プレート13に加圧力を作用させる。本実施形態においては、加圧ハンドル14dを回転させ、加圧プレート13側に前進させることにより、加圧シャフト14bとの距離が縮まり、加圧ハンドル14dと加圧シャフト14bとの間に存在する圧縮コイルバネ14cが圧縮されて加圧力が発生する。この加圧力を加圧シャフト14bを介して加圧プレート13に作用させる。一般的に、通常のネジにおいては、軸方向の加圧力をP、ネジのよび径をdとしたとき、ネジを回転させるために必要なトルクMは、次の数式により求められる。
【0057】
【数2】
【0058】
例えば、本実施形態において、加圧ハンドル14dのシャフト部分のネジのよび径dが25mmで、180kgf(1.76kN)の加圧力Pを得ようとする場合においては、0.9kgf・m(8.82kN・m)のトルクMが必要である。従って、加圧ハンドル14dの有効半径が、例えば150mmである場合においては、0.9/0.15=6.0kgf(58.8N)の回転力Fを加圧ハンドル14dに作用させればよい。
【0059】
加圧ハンドル14dは、回転によりシャフト部分が、次第に連結スリーブ14a内に挿入されていく。これにより、加圧ハンドル14dのシャフト部分が受ける反力は、加圧力として圧縮コイルバネ14cを介して加圧シャフト14bに伝達され、加圧シャフト14bは、その先端部に固定された加圧プレート13と一体的にコンクリート材3側に移動していく。そして、保液材11及び袋状容器12は、次第にコンクリート材3に近接していき、やがて、図4に示すように、袋状容器12の開口縁部12aがコンクリート材3に当接する。このとき、袋状容器12の開口縁部12aは、先ず、最も内縁側の肉厚が薄い先端部分がコンクリート材3に当接する(図4(b))。また、保液材11もコンクリート材3に当接し、図4に示す状態となる。
【0060】
保液材11及び袋状容器12がコンクリート材3に当接すると、保液材11及び袋状容器12は、加圧プレート13とコンクリート材3との間に挟まれた状態となる。従って、この状態で、加圧ハンドル14dを更に回転前進させると、図5に示すように、加圧プレート13による押圧により、保液材11及び袋状容器12は徐々に変形していく。このとき、加圧ハンドル14dのシャフト部分からの押圧力は、圧縮コイルバネ14cを介して加圧シャフト14b及び加圧プレート13に作用し、この加圧力が袋状容器12及び保液材11に印加されることにより、袋状容器12及び保液材11が押し潰されていく。このとき、袋状容器12の側部が蛇腹状に形成されていれば、圧縮変形時に、袋状容器12の圧縮抵抗を低減することができる。また、本実施形態においては、3個のヒンジ21を、夫々の回転軸となる連結部21aが互いに異なる方向に延びるように設置することにより、施工姿勢が下向き、横向き及び上向きのいずれの場合においても、袋状容器12の変形に対する重力の影響を低減し、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとが常に平行を維持した状態で、加圧プレート13を常に開口縁部12aのコンクリート材3に対する接触面に垂直に移動させることができ、袋状容器12の不均一な変形も防止できる。
【0061】
加圧ハンドル14dには、圧縮コイルバネ14cとの接触部に近接した位置に、加圧力測定用のセンサ(ロードセル)22が設けられており、圧縮力に対する保液材11の変形抵抗、袋状容器12の変形抵抗及びヒンジ21(バネ21d)の弾性抵抗を予め測定しておくことにより、ロードセル22が示す圧縮力との差により、コンクリート材3に浸透させていく浸透剤の液圧を知ることができる。即ち、この差(正味の加圧力とよぶ)を浸透面積で除した値が浸透剤の液圧である。
【0062】
加圧ハンドル14dを回転させて加圧プレート13側に前進させ、ロードセル22の指示値が例えば所定の上限値に達したら、加圧ハンドル14dの操作を停止する。浸透剤は、液圧により、コンクリート材3に徐々に浸透していく。浸透剤の浸透に伴って、袋状容器12は徐々に縮んでいく。これにより、加圧プレート13及び加圧シャフト14bは、コンクリート材3側に移動し、同時に、連結スリーブ14a内の圧縮コイルバネ14cも少しずつ伸びていくが、圧縮コイルバネ14cの歪み量(=伸び/全長)が小さい間は、加圧力の低下も小さい。加圧力が所定の下限値以下になったら、再度、加圧ハンドル14dを回転前進させることにより、加圧力を例えば所定の上限値となるように調整する。これにより、加圧プレート13に印加する加圧力が所定の範囲内になるように、加圧ハンドル14dにより加圧力を調整する。
【0063】
本実施形態においては、コンクリート材3の表面に凹凸が存在している場合においても、袋状容器12の開口縁部12aは、外縁側から開口部へ向けて肉厚が薄く形成された先細り形状であり、更に、浸透剤の液圧が開口縁部12aをコンクリート材3に押しつけるように作用するため、図5(b)に示すように、開口縁部12aはコンクリート材3の表面に密着する。従って、袋状容器12の開口縁部12aとコンクリート材3との間には隙間が形成されにくく、浸透剤の外部への漏れを防止することができ、浸透剤の無駄を低減することができる。特に、横向き施工及び上向き施工において、施工コストの無駄を低減できる効果は顕著である。
【0064】
また、本実施形態においては、袋状容器12の開口縁部12aの外側の側面と加圧プレート13とを連結するように、3個以上のヒンジ21が設けられているため、このヒンジ21により加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとの距離が所定の範囲となるように規制することができ、加圧プレート13の移動をコンクリート材3の施工面に垂直な方向に規制することにより、袋状容器12を均等に変形させることもできる。
【0065】
浸透剤浸透装置1における加圧力による浸透促進効果の推定には、図8に示すような、加圧シミュレーション試験が有効である。即ち、図8に示すように、柱状のコンクリート供試材30(直径100mm、高さ200mmの円柱状)には、その上面に浸透剤2が充填されたガラスロート5が設置され、ガラスロート5と、コンクリート供試材30との境界から浸透剤2が漏れ出さないように、ガラスロート5の周囲の供試材30上はシリコンシール43でシールされている。また、コンクリート供試材30の側面の上部には、ブチルゴム両面テープ41が巻回され、更にその外側に粘着テープ42が巻回されている。これにより、コンクリート供試材30の上面から例えば30mmの区間において、浸透剤の外部への漏れが封じられている。この加圧シミュレーション試験器により、ガラスロート5内の浸透剤の液高さ(ヘッド)Hの時間変化を測定することにより、コンクリート材への浸透液の単位面積あたりの浸透量S(単位:mm)を知ることができる。そして、複数種の液ヘッドHに対して、夫々浸透剤浸透量Sの時間変化を測定し、得られた結果から所望の浸透量S及び浸透所要時間を選択し、このときの液ヘッドHにより、浸透剤の浸透に要する加圧力を算定することができる。よって、浸透剤の液圧から決まる正味の加圧力に、保液材11及び袋状容器12の既知の変形抵抗、並びにヒンジ21(バネ21d)の弾性抵抗等を加算して加圧力を決定し、例えばロードセル22の指示値がこの加圧力となるように加圧ハンドル14dを回転させることにより、浸透剤を加圧シミュレーション試験と同じようにコンクリート材3に浸透させることが可能となる。
【0066】
図9は、上記の加圧シミュレーション試験により、コンクリート材3に浸透剤を浸透させた場合の試験結果である。図9(a)は単分子の浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合、図9(b)は高分子の浸透剤として珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)を使用した場合の浸透量の時間変化を示す。ガラスロート内の液の高さ(ヘッド)をH(cm)とし、浸透剤の比重をρg/cm3とした場合、加圧圧力pは、以下の数式にて示すことができる。
【0067】
【数3】
【0068】
図9(a)に示すように、例えばヘッドHをH=8cmとした場合、浸透開始から4時間経過した時点において、浸透剤の単位面積あたりの浸透量は、6mmである。従って、この場合、数式1より、充填率が40%となる浸透深さDは、D=21.6×6=12.96mmであると推定できる。図9(a)に示すように、浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合においては、浸透開始から4時間経過した後も浸透量は直線的に増加していくことが推定できる。一方、図9(b)に示すように、浸透剤として珪酸ナトリウム溶液を使用した場合においては、クロム酸カリ希薄溶液を使用した場合に比して、浸透剤の浸透は早いうちから飽和の傾向を示しているものの、浸透開始から4時間経過後においても、極めて緩やかではあるが、浸透量は増加している。これは、高分子の浸透剤は、その大きさよりも大きい径の毛細管空隙には浸透するものの、毛細管空隙の径が小さい場合においては、浸透しないことによるものであると考えられる。
【0069】
この加圧シミュレーション試験によると、本実施形態においては、例えば、浸透剤の最大液ヘッドHを20cm、浸透剤の比重を1.1g/cm3としたときに、加圧面における圧力pは、p=20×1.1=22gf/cm2(2.16kPa)となる。従って、加圧面の面積をAm2としたときに、加圧力PはP=220×Akgf(2156×AkPa)となる。例えば、加圧面の面積Aが0.8m2の場合には、加圧力P=176kgf(1.72kN)となる。例えば袋状容器12、保液材11及びヒンジ21の変形抵抗の合計が10kgfとすると、浸透剤の浸透に必要な加圧力PはP=186kgf(1.82kN)となる。上述の如く、排気装置17により排気された吸盤16内の真空度を例えば−80kPaとしたときには、783kgf(7.68kN)の吸着力を得ることができるので、この場合には、反力源(吸盤16)の安全率は4.2となり、吸盤16により、浸透剤浸透装置1を十分安定的に支持することができる。
【0070】
また、上記加圧シミュレーション試験によれば、浸透剤の浸透に要する時間を推定することもできる。例えば、浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合に、鉄筋のかぶり厚(コンクリート材の表面から鉄筋までの厚さ)に相当する浸透深さD=4cmまで、浸透剤を浸透させるためには、S=D/21.6=40mm/21.6=1.85mmの浸透量を必要とするが、図9(a)より、その浸透量に達するまでには、ヘッドH=8cmの場合、約1時間を要する。これでは、現実の作業としては、時間がかかりすぎである。この場合においては、浸透速度が遅い主な原因は、空隙内の空気の移動が遅いことが考えられる。即ち、浸透剤は、圧力を受けることにより、毛細管空隙内の空気を押し出しながら、空隙の内部に侵入していくが、毛細管空隙の管壁の抵抗が大きい場合には、空気の移動速度が小さく、従って、浸透剤の浸透速度も遅くなる。
【0071】
しかしながら、本発明においては、吸盤16は、加圧力に抗する反力源として浸透剤浸透装置1を支持するだけではなく、その吸引力により、浸透施工対象部位の周縁部において、毛細管空隙内の空気を吸引することにより、浸透剤の浸透を効果的に進行させ、加圧による浸透剤の浸透を補助する効果を得ることができる。即ち、浸透剤を加圧浸透する部分にできるだけ近接した周縁部においては、真空機器の吸引力を利用して内部空気を外部に排出することにより、加圧部分の内部空気圧も低下する。この場合、浸透施工対象部位の内部空気は、周縁部方向に移動していき、やがて、吸盤16による吸引力により外部に排出される。毛細管空隙内の圧力が低下すれば、浸透剤の加圧浸透が促進される。この吸引力による効果は、図10に示すようなイメージ図により説明することができる。本実施形態におけるコンクリート材3においては、3個の吸盤16による吸引力が作用するため、図10(a)に示すように、コンクリート材3のうち押圧力が作用する部分を3等分した部分3aについて、加圧力と吸引力との関係を説明する。浸透施工対象部分に対して吸引力が作用すると考えられるのは、吸盤16によって吸引されている部分のうち、浸透施工対象部分側の半分の部分3bであると考えられる。本実施形態においては、部分3aには、加圧圧力p1が面積A1に作用するから、加圧力P1は、P1=p1×A1となる。また、部分3bには吸引圧力p2が面積A2に作用するから、吸引力P2はP2=p2×A2となる。例えば、加圧力P1が作用する部分が直径1.0mの円形である場合、部分3aの面積A1は、A1=0.262m2となり、液圧ヘッドHが20cmの場合、加圧圧力p1=2.16kPaであるから、部分3aに作用する加圧力P1は、P1=0.262×2.16=0.57kNとなる。一方、吸引力が作用する部分の面積A2をA2=0.016m2(320cm2×1/2)とし、真空度(p2)を−80kPaとした場合、部分3bに作用する吸引力P2は、P2=0.016×80=1.28kNとなる。即ち、毛細管空隙内の空気の流束を図10(b)に示すようなイメージ図として考えた場合に、出口では、入口の約2.2倍の力で吸引していることになる。このように、本発明においては、吸盤16による吸引力により、浸透剤の浸透を補助する効果が期待できる。
【0072】
コンクリート材3の1カ所の浸透施工対象部位への施工が完了したら、先ず、加圧ハンドル14dを加圧力の印加方向に対して逆側に回転させることにより、圧縮コイルバネ14c、加圧シャフト14b及び加圧プレート13による加圧力を解除する。すると、保液材11及び袋状容器12は、弾性復元力により、加圧力が印加される前の形状に復元しようとする。また、このとき、本実施形態のように浸透剤浸透装置1にヒンジ21を設け、ヒンジの各ヒンジプレート21a及び21bを連結するバネ21cを設けた場合においては、バネ21cの弾性力は、袋状容器の開口縁12aを加圧プレート13から遠ざける方向に付勢するため、加圧シャフト14bからの加圧力を解除した際には、保液材11及び袋状容器12自身の弾性復元力に加えて、バネ21cの弾性力が作用し、保液材11及び袋状容器12の形状は円滑に復元される。復元の過程においては、袋状容器12の蛇腹先端部12aの水密性及び気密性はなくなり、保液材11に空気が浸入して保液材11の体積増加を可能にする。
【0073】
このとき、3個以上のヒンジ21は、夫々の回転軸21aが互いに異なる方向に延びるように設置されているため、保液材11及び袋状容器12の形状が復元する際においても、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとは常に平行を維持した状態であり、従って、加圧プレート13を常に開口縁部12aのコンクリート材3に対する接触面に垂直に移動させることができる。よって、袋状容器12の不均一な変形を防止することができる。
【0074】
各部材の形状が復帰したら、浸透剤浸透装置1の全体を例えば手で支持した状態で、排気装置17の動作を停止させる。これにより、吸盤16内の圧力は、大気圧まで徐々に回復していき、吸盤16による吸着固定が解除される。
【0075】
このようにして、1カ所の浸透施工対象部位への施工が完了したら、浸透剤浸透装置1を次の浸透施工対象部位に移動させ、保液材11内の空気を排出した後、浸透剤を充填する。そして、上記と同様の手順により、施工を行う。
【0076】
以上のように、本実施形態の浸透剤浸透装置1によれば、保液材11に浸透剤を吸収させ、排気装置17による減圧により吸盤16内の圧力を減圧し、浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定した状態で、加圧ハンドル14dを回転させるという簡単な動作により、加圧シャフト14b及び加圧プレート13により袋状容器12の内部に収容された保液材11を押し潰し、保液材11に保液された浸透剤をコンクリート材3へ向けて絞り出して浸透剤を加圧浸透させることができる。
【0077】
また、例えば袋状容器12の縁部に沿って延びている吸盤16により、浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定するため、浸透材浸透装置を安定的に支持することができ、大がかりな支持部材を設置する必要もなく、小型化した浸透材浸透装置を得ることができる。更に、施工対象のコンクリート材3に孔等の加工を施す必要がなく、複数箇所の施工においても、効率よく浸透剤を浸透させることができる。
【0078】
なお、本実施形態の浸透剤浸透装置1には、袋状容器12に給液口を設け、給液口から保液材11に浸透剤を補充することができ、これにより、浸透剤の不足を防止することができる。また、袋状容器12に排液口を設け、排液口から不要になった浸透剤を排出することができる。
【0079】
更に、本実施形態においては、袋状容器12の形状は円筒状であるが、本実施形態における袋状容器12の形状は一例であり、内部に収容した保液材11の変形及び浸透剤の浸透を阻害しない限り、その形状は限定されない。例えば、袋状容器12は、上面視で矩形である。吸盤16については、例えば袋状容器12の周囲を取り囲むように配置されていることが好ましいが、1個だけ設けられていてもよく、複数個設けられていてもよい。また、吸盤16の形状も本実施形態の形状に限定されない。なお、吸盤16が1個だけ設けられる場合においては、装置全体の支持が不安定になること、及び浸透施工対象部位に対する加圧力が不均一に作用することを防止するために、吸盤16は、例えば、側面視で袋状容器12の外側を取り囲む円環状であることが好ましい。
【0080】
次に、本発明の第2実施形態に係る浸透剤浸透装置について説明する。本実施形態においては、図6に示すように、浸透剤浸透装置1には、第1実施形態の構成に加えて、保液材11に供給する浸透剤2を蓄えておく貯液容器23、貯液容器23から浸透剤を汲み出す給液ポンプ24、及び保液材11と給液ポンプ24とに接続された給液ホース25が設けられており、保液材11に浸透剤を随時供給可能に構成されている。給液ホース25には、必要に応じて開放させることにより、給液口に接続し、保液材11への浸透剤の補充を開始できる弁25b(第1の開閉弁)が設けられている。また、給液ホース25には、給液ポンプ24に近接した位置に、逆止弁25aが設けられており、浸透剤の逆流を防止している。そして、本実施形態においては、必要に応じて開放させることにより、給液口に接続し、袋状容器12への空気の出入りを規制する弁27が設けられている。なお、図6においては、本実施形態の実施態様の理解を容易にするために、浸透剤浸透装置のうち、支持部15、吸盤16及び加圧ハンドル14dについては、2点鎖線にて示してある。
【0081】
本実施形態においては、保液材11に連結されて、不要となった浸透剤を貯液容器23に排出する排液ホース26も設けられている。そして、排液ホース26には、必要に応じて開放させることにより、排液口に接続し、不要になった浸透剤の排出を開始できる弁26a(第2の開閉弁)が設けられている。その他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0082】
本実施形態においては、貯液容器23、給液ポンプ24及び給液ホース25が設けられているため、コンクリート材3の浸透施工対象部位が複数箇所ある場合においても、例えば手動で浸透剤を補充する手間がかからない。また、不要になった浸透剤についても、弁26aを開放するだけで、排液ホース26を介して貯液容器23に回収することができ、施工能率を向上させることができる。
【0083】
次に、本実施形態の浸透剤浸透装置の動作について説明する。本実施形態においても、コンクリート材3における浸透施工対象部位が決まったら、先ず、第1実施形態と同様の手順で、袋状容器12の開口縁部12aが施工対象部位を取り囲むように浸透剤浸透装置1を配置し、吸盤16を接触部16bにてコンクリート材3に当接させる。次いで、エジェクター又は真空ポンプ等の排気装置17を動作させ、吸盤16内の空気を排気して、吸盤16をコンクリート材3に吸着固定する。このとき、吸盤16内の真空度を例えば圧力センサ等により確認することにより、吸盤16内が所定の真空度に達したことを確認する。
【0084】
次に、弁25b及び弁26aが閉じ、弁27が開いていることを確認した上で、加圧ハンドル14dを回転させ、袋状容器12内の空気を追い出す。袋状容器12が例えば最小の大きさとなるまで潰れた状態となったら、弁27を閉じる。そして、この状態で、加圧力を開放する方向に加圧ハンドル14dを逆回転させていく。このとき、袋状容器12内に空気の出入りがない限り、袋状容器12の形状は変化しない。加圧ハンドル14dを逆回転させる際には、元の(加圧力を印加していない状態の)位置まで加圧ハンドル14dを戻すのではなく、僅かの加圧力が加圧ハンドル14dから印加されている状態となる位置まで、加圧ハンドル14dを逆回転させる。これにより、袋状容器12内の保液材11に浸透剤を充填した際に、保液材11及び袋状容器12に加圧ハンドル14dによる加圧力が印加された状態とし、浸透剤を袋状容器12内に充填している最中に、浸透剤が袋状容器の開口縁部12aから漏れることを防止する。
【0085】
次に、弁25bを開き、給液ポンプ24を作動させて、貯液容器23内に蓄えられた浸透剤を汲み出し、袋状容器12内の保液材11に充填する。これにより、保液材11には、浸透剤が充填されていき、袋状容器12は徐々に膨らんでいく。袋状容器12の大きさが所定の大きさに達したら、給液ポンプ24を停止し、弁25bを閉じる。このとき、袋状容器12の大きさは、例えばヒンジ21の開角度により知ることができ、例えばヒンジ21の開角度が最大となったときを給液終了の目安とすることができる。以上により、浸透作業の準備が終了する。
【0086】
引き続いて、第1実施形態と同様に、加圧ハンドル14dを回転させることにより、加圧ハンドル14dによる加圧力を作業加圧力に設定する。例えば所望の浸透剤浸透量S及び浸透所要時間から、加圧シミュレーション試験による試験結果を基に、必要となる正味の加圧力を算定し、作業加圧力が所定値となるように加圧ハンドル14dを回転させる。これにより、加圧ハンドル14dによる加圧力を浸透剤の所要の液圧に変換し、コンクリート材3に浸透剤を浸透させていく。浸透剤の浸透に伴い、圧縮コイルバネ14cは徐々に伸びていき、加圧力も若干低下するが、加圧力が所定の許容範囲よりも小さくなった場合においては、例えば再度加圧ハンドル14dを回転させ、作業加圧力の低下を防止する。これにより、浸透剤を円滑にコンクリート材3に加圧浸透させることができる。
【0087】
浸透剤の加圧浸透作業が終了したら、弁26aを開く。このとき、保液材11内の浸透剤には、作業加圧力が印加された状態である。従って、弁26aを開くと、保液材11内の浸透剤は排液ホース26を介して貯液容器23に排出される。そして、保液材11及び袋状容器12は、例えば最小の大きさとなるまで押し潰される。このとき、最小の大きさとなるまで押し潰された保液材11には、浸透剤が若干残ったままであるが、特に問題はない。浸透剤の排出が終了したら、弁26aを閉じ、弁27を開き、加圧ハンドル14dによる加圧力を開放すると、第1実施形態と同様に、保液材11及び袋状容器12の弾性復元力並びにヒンジのバネ21cの弾性力により、保液材11及び袋状容器12は元の形状に戻る。
【0088】
最後に、排気装置17を停止させ、真空の吸盤16内部を復圧して、吸盤16による浸透剤浸透装置1の吸着固定を解除する。これにより、浸透剤浸透装置1を次の施工場所に移動させることが可能となる。
【0089】
本実施形態の浸透剤浸透装置1によれば、給液ポンプ24及び給液ホース25により随時浸透剤を補充することができ、例えば手動により浸透剤を補充する手間がかからず、不要になった浸透剤についても排液ホース26を使用して容易に排出することができる。従って、第1実施形態による効果に加えて、例えば、複数箇所の施工を行う場合、及び複数種の浸透剤を使用する場合において、施工能率を向上させることができる。
【0090】
なお、本実施形態においても、浸透剤浸透装置1は、第1実施形態と同様の種々の変形を行うことができる。
【0091】
次に本発明の浸透剤浸透装置による応用工法について説明する。例えば劣化防止剤等の浸透剤をコンクリート材に浸透させ、コンクリート材の材質を改良したり、新たな特性を付与しようとする場合においては、単に浸透剤を散布、塗布又は吹き付けるだけでは、浸透剤を有効な深さまで浸透させることができないことは明らかである。上記の如く、本発明の浸透剤浸透装置は、浸透剤の浸透にあたり、加圧力を利用するため、コンクリート材に浸透剤を効率よく浸透させることができる。また、本発明の浸透剤浸透装置は、吸盤による吸引力を加圧力への反力源として利用するだけではなく、その吸引力を毛細管空隙内の空気の吸引に利用して、浸透剤を効率よく浸透させることができるという効果が得られる。
【0092】
ところで、浸透剤の浸透にあたり、本発明の浸透剤浸透装置を使用して、加圧力及び吸引力を併用した場合においても、浸透剤の種類によっては、コンクリート材への浸透が円滑に進行しない場合も考えられる。即ち、図9に示すように、例えばクロム酸カリ希薄溶液といった単分子溶液については、コンクリート材への浸透は円滑に進行するが、例えば珪酸ナトリウムといった高分子の場合においては、個別の検討が必要である。
【0093】
図9(b)に示すように、浸透剤が珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)の場合においては、ヘッドH=8cmのときに、浸透開始から1時間後の浸透量は0.36mmである。これに対して、浸透剤がクロム酸カリ希薄溶液の場合においては、図9(a)に示すように、浸透開始から1時間後の浸透量は2mmである。これは、各溶質の分子形状によるものであると考えられる。即ち、クロム酸カリ希薄溶液は、水と同様に単分子であり、毛細管空隙の全てに浸透可能であるのに対して、珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)は、高分子であり、数百乃至数千の珪素原子が立体的にシロキサン結合を形成しており、分子というよりも不定形の大きな塊として存在する。よって、珪酸ナトリウム分子は、毛細管空隙の径によっては、浸透できない場合があると考えられる。従って、浸透剤として珪酸ナトリウム溶液を使用し、コンクリート材中のカルシウムイオンと結合させることによるゲル化により、毛細管空隙を塞ごうとした場合においては、コンクリート材の吸水の抑制又は防水という目的が達成できないと考えられる。また、例えば、界面活性剤を利用したエマルジョン溶液についても、その径は2乃至3μm以上であり、毛細管空隙内への浸透は実質的に不可能であると考えられる。一般的に、高分子の場合には、その重合の程度により、分子の大きさ又は長さが異なり、分子長が10nm以下であれば、毛細管空隙への浸透は実質的に可能である。
【0094】
以上の検討に基づき、本発明の浸透剤浸透装置により有用と考えられる施工例について説明する。先ず、シリコーンオイル(撥水剤)の浸透による防水について説明する。
【0095】
従来、コンクリートの表面に撥水性を付与するために、溶剤型のシリコーンオイルの吹きつけが行われている。シリコーンオイルは、無機のシロキサン結合(−Si−O−Si−)の主鎖に有機アルキル基の側鎖が結合したものであり、強い疎水性を有する。但し、コンクリート材の表面にシリコーンオイルを吹き付け、表面に被膜を形成するだけでは、厳しい気温変化、日照、風雨及び汚染大気等に曝されることにより、撥水材としての耐久性に問題がある。シリコーンオイルのように、有機基を有する高分子化合物は、酸素、オゾン、紫外線及び熱等により、自動酸化及び主鎖切断等の化学反応を起こして劣化していく。また、例えば風雨による物理的脱落も発生する。このため、コンクリート材の表面に付着させた撥水剤の効果は、3乃至8年程度であるといわれている。
【0096】
従って、仮に、シリコーンオイルのような撥水剤をコンクリート材の内部に、例えば(かぶり厚に相当する)4cm程度の深さまで浸透させることができれば、上記劣化要因による影響は、著しく低減され、撥水効果の持続期間を飛躍的に向上させることができる。即ち、コンクリート材表面のみに形成された撥水膜ではなく、コンクリート材内部に厚みのある撥水層を形成することができれば、前記劣化原因の影響が少ないことによる防水効果の永続性から、コンクリート材の吸水による劣化又は鉄筋の腐食防止につながり、フレッシュコンクリートの表面が有する独特の肌理を長期間維持することができる。このような工法は、従来には類を見ないものである。
【0097】
このシリコーンオイルによる工法の可能性について検討する。シリコーンオイルは以下の化学式で示される。
【0098】
【化1】
【0099】
シリコーンオイルは、連なる珪素数が多くなるほど高粘度になり、表面張力もわずかではあるが増加する。表面張力が小さいほど、撥水性は増加する。例えば、低粘度のジメチルシリコーンオイル(アルキル基R:−CH3)について考えると、25℃における典型的な粘度ηは40mm2/sであり、粘度ηと分子量Mとの関係は、次式で表される。
【0100】
【数4】
【0101】
よって、25℃における粘度η=40mm2/sに対して、M=2395が得られる。以下の化学結合を鎖の一単位として、分子がN個の単位から成り立っていると考える。
【0102】
【化2】
【0103】
すると、分子量Mは、M=74.2×(N−2)+73.2+89.2となり、M=2395に対して、N=32が導かれる。図11は、シロキサン結合を示す図である。図11に示すように、珪素原子と酸素原子とは角度を有して結合しており、直線的な結合ではない。なお、実際には、結合角度は、図11に示すような平面的な角度ではなく、立体的角度であり、分子の長さ(鎖長)を一義的に決定することはできない。ここでは、分子長は、結合が直線的であるとした場合の0.6倍であると仮定する。シロキサン結合の結合距離(Si−O間距離)は、1.64Åであるから、1単位あたりの長さは、その2倍である。従って、32単位により構成された分子長Lは、L=1.64×2×(32−1)×0.6=61Å=6.1nmとなる。この分子長Lは、毛細管空隙の最小径程度である。従って、低粘度のシリコーンオイルは、本発明の浸透剤浸透装置により、充分に施工可能である。
【0104】
次に、中性化したコンクリートの塩基性回復について説明する。コンクリート材の典型的な劣化は、中性化又は炭酸化である。この2つの劣化態様は、同義であると解釈される場合が多いが、中性化の主原因が炭酸化であり、例えば酸性雨等によっても中性化は進行する。即ち、長期にわたる二酸化炭素の浸入がコンクリート成分の炭酸化をもたらし、結果として、中性化が進行するのが通常のプロセスである。
【0105】
コンクリートは、硬化初期段階におけるアルカリ分による高塩基性の期間が過ぎると、内部の水酸化カルシウム成分の溶出(一般的に0.185g/100gH2O)による塩基性(pH12.5程度)を長期間維持する。しかし、長期間にわたり、二酸化炭素の浸入が続くと、水酸化カルシウムは炭酸カルシウムに変化して、コンクリート内部に結晶として残り、一部はカルシウムエフロレッセンスとしてコンクリートの外部に排出される。
【0106】
このようにして、水酸化カルシウム成分が少なくなり、pH<10になった状態が中性化である。二酸化炭素の浸入が更に続くと、水酸化カルシウム成分はなくなり、二酸化炭素は、コンクリートの強度発現成分であるC−S−Hゲルをも分解して炭酸カルシウムに変えてしまう。
【0107】
炭酸化したコンクリートを元の状態に戻すことはできないが、コンクリートを中性から塩基性に回復することは不可能ではないと考えられる。これを実現することにより、コンクリートの劣化及び鉄筋の腐食の進行は食い止められ、更に中性化するまでの期間、コンクリートの寿命は延びる。
【0108】
中性化したコンクリートの塩基性を回復するためには、例えば、毛細管空隙及び他の細孔、例えば外部に溶出した水酸化カルシウム及びC−S−Hゲルが残した空隙に、水酸化カルシウムを結晶として生成すればよい。但し、後者の空隙量を定量的に把握することは、極めて困難である。水酸化カルシウム自体は、溶解度が小さいので、例えば、他の可溶性の材料を2種類、コンクリート内に浸透させ、内部での化学反応により、水酸化カルシウムを結晶化させる方法を採用する。可溶性材料としては、例えば、硝酸カルシウムと水酸化ナトリウムとを使用し、以下の化学反応により、水酸化カルシウムを結晶化させる。
【0109】
【化3】
【0110】
ところで、材齢が若くて健全なコンクリートには、当初セメントに対して重量比で27乃至30%の水酸化カルシウムが存在する。これに見合う量を毛細管空隙への浸透のみにより生成するためには、水/セメント比(W/C)が0.5、セメント100gのときに、毛細管空隙の体積は17cm3、水酸化カルシウムの量は27g(0.364モル)であり、モル濃度が0.364×(1000/17)=21.4モル/リットルとなり、実現は難しいと考えられる。しかしながら、例えば、材齢の若いコンクリートの当初の1/4量の水酸化カルシウムを得ようとすれば、5.3モル/リットルの硝酸カルシウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液が得られれば、十分に実現可能である。この場合においては、化合する2液夫々の浸透性をよくし、また、アルカリ骨材反応等の弊害を防止するために、最初に硝酸カルシウム溶液を浸透させた後、時間をおいて十分に乾燥させ、ほとんどの硝酸カルシウムが結晶化してから、水酸化ナトリウム溶液の浸透を行えばよい。
【符号の説明】
【0111】
1:浸透剤浸透装置、11:保液材、12袋状容器、13:加圧プレート、14a:連結スリーブ、140:孔、14b:加圧シャフト、14c:圧縮コイルバネ、14d:加圧ハンドル、15:支持部、16:吸盤、16a:排気孔、17:排気装置、18:給気ホース、21:ヒンジ、21a、21b:ヒンジプレート、21c:連結部、21d:バネ、22:センサ(ロードセル)、23:貯液容器、24:給液ポンプ、25:給液ホース、25a:(逆止)弁、25b:(開閉)弁、26:排液ホース、26a:(開閉)弁、27:弁、30:コンクリート供試材、41:ブチルゴム両面テープ、42:粘着テープ、43:シリコンシール、5:ガラスロート
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート材の毛細管空隙に劣化防止剤等の浸透剤を効率よく浸透させる浸透剤浸透装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物の劣化は、地震力及び荷重等の外力によるものを除けば、コンクリート自体の劣化と鉄筋の腐食によるものであり、主に、塩害、硫酸塩浸食若しくは凍害等の原因によるものであるか、又はコンクリートの中性化若しくはアルカリ骨材反応等の症状の発現によるものであり、これらの劣化原因及び劣化症状が、複数種同時に進行する。これらの劣化原因及び症状は、全て、水を媒体にした物理・化学反応である。
【0003】
所謂生コンクリートは余剰の水分を含んでいるが、これはセメントと水との混練状態がミクロ的には不完全であり、水和反応を完全に行わせるには余剰の水が必要であることと、フレッシュコンクリートを型枠に十分に流し込むにはある程度の流動性が求められるからである。凝固乾燥とともに、水分の一部は、セメント硬化体に化学的に取り込まれる。鉱物としてのセメントは、Ca、Si、Al及びFe等の元素により構成されており、水と接することにより、Caイオンが水中に溶出し、引き続いて、セメント鉱物中に単量体(モノマー)として存在する珪酸イオン及びアルミナイオンが溶液中に溶け出す。そして、これらのイオン成分がCaイオン及び水分子と反応することにより、セメント水和物(所謂C−S−Hゲル、エトリンガイト)を生成し、余剰のCaイオンはCa(OH2)として析出する。生成された水和物同士は、相互に結合し、セメントペーストの流動性を低下させると共に、セメント粒子間の空隙に充填されていき、セメント硬化体(セメントゲル)を形成していく。このC−S−Hゲルは、セメントの水和反応によって生成するコンクリートの主要強度成分であり、単純な化学式では表せないが、3CaO・2SiO2・3H2Oが近いとされている。天然に存在する鉱物であるトベルモライトに近い構造を持つといわれている。水和反応によってセメント硬化体(セメントゲル)が生成されると、ゲル内に化学的に組み込まれたセメント及び水(ゲル水)は圧縮され、体積が減少する。この減少を水和収縮という。このときの体積減少量は、一般的に、当初体積(セメントの体積+水和反応にあずかる水の体積)の約10%程度であるといわれている。
【0004】
セメント水和物の中に捕捉又は吸着されたゲル水以外の水分は漸次蒸発し乾燥状態になり、セメント硬化体は、体積が減少する。即ち、フレッシュコンクリートが流動性を保っている間に起こる水和収縮は、全体の体積が減少するだけであるが、凝結が終わり流動性を失うと、その後の体積減少は、大部分は内部空隙の発生という形で吸収され、ごく一部は外形体積の減少(収縮)をもたらす。セメント硬化体の乾燥による収縮には、2種類の形態がある。即ち、一方の形態は、凝結以前の段階でセメント硬化体の表面ににじみ出てきた(ブリーディングした)水分が乾燥して収縮する形態であり、他方の形態は、凝結後にセメント硬化体内部の空隙に残留している水分が更に水和反応することによる自己乾燥収縮する形態である。即ち、乾燥により生じた内部空隙は当初水で満たされているが、水和反応の進行に伴ってこの空隙内の水も水和反応に使用されて次第に減少していく。空隙内の水が残り少なくなると、水膜の表面張力によって空隙壁面に対する収縮力が発生する。更に、水和反応がほぼ終了した後も、空隙(毛細管空隙)内の水分の蒸発は続くので、この収縮力は持続して外形体積の減少をもたらす。なお、自己乾燥収縮による体積減少は、水和収縮による体積減少の数十分の一程度である。
【0005】
図12は、セメント硬化体の形成時における外形体積の変化を示す図であり、図12における左側の図は原材料の体積の構成、右側の図は、セメント硬化体の外形体積の構成を示す。なお、図12においては、一例として、水セメント比(W/C)が0.5、即ち、セメント1gに対して水を0.5g混合した場合を示す。図12に示すように、例えば、原材料の水0.23cm3とセメント0.32cm3とにより水和物が生成され、更に凝結前の乾燥収縮により、水和物0.5cm3が生成され、0.05cm3の体積減少が発生する。また、水和物の生成に使用されなかった水は、ゲル水0.15cm3と余剰水0.12cm3の形態でセメント硬化体内に存在する。このうち、ゲル水については、セメント硬化体の1乃至4nmの空隙(ゲル空隙)内にてゲルにより強固に拘束される。
【0006】
上記セメント硬化体内に存在している余剰水は、水和の終結時点から徐々に蒸発していき、セメント硬化体の内部に空隙を残す。従って、セメント硬化体は、5nm乃至数μm程度の大きさの空隙(毛細管空隙)を有する多孔質の固体ゲルとして形成される。この毛細管空隙は、コンクリート自体の強度を低下させるだけではなく、コンクリート構造物の劣化の原因となる。なお、セメント硬化体には、毛細間空隙の他に、ひび割れ又は凝結時の分離沈降によって生じた空隙、及びAE剤の使用による数10乃至1000μm程度の大きさの空隙が形成される。このうち、ひび割れ又は凝結時の分離沈降によって生じた空隙は、毛細管空隙よりも遙かに大きなものであり、漏水の原因となってしまう。図12に示すセメント硬化体モデルにおいては、全毛細管空隙の体積は、セメント硬化体の全体積に対して、(0.12+0.05)/(0.5+0.15+0.12+0.05)=0.21cm3/cm3となる。但し、ここでは、凝結前の水和収縮分の体積は無視している。
【0007】
雨水又は海水が吸水又は透水(圧力を伴う)という形で、コンクリート内部に侵入する際には、種々の有害な物質を伴うので、内部の物質との間で劣化化学反応を引き起こす。また、それだけではなく、元々内部に存在している物質間(乾燥状態では安定していたにも拘わらず)での有害な化学反応が、水を媒体にして励起されたり、活性化される。
【0008】
従って、外部からの水の侵入を防止するか、又は大巾に減少させることにより、コンクリート内部を乾燥状態に保てれば、劣化の進行を止めるか、又は大巾に減少させることができる。
【0009】
よって、これらの毛細管空隙等に浸透剤を浸透させ、毛細間空隙等の空隙を埋めたり、防水用の浸透剤を浸透させ、外部からの水の浸入を防止することが行われている。コンクリートの吸水及び透水を防止してコンクリートを保護するための一般的な方法は、その表面を防水施工するか、又は仕上げ(塗装、吹付け、金属パネル、タオル等)加工を施す方法である。一般的に、浸透剤の施工要領では、下向き施工(床施工)の場合、散布器等を使用して、床の上に厚み0.3乃至1.0mmで散布される。また、横向き施工(壁施工)及び上向き施工(天井施工)の場合は、ローラ等を使用して、壁又は天井に塗布される。
【0010】
コンクリートの表面から内部への液の浸透は、物理的には、濡れと圧入の二つの現象によるものと考えられる。濡れによる浸透は、加圧の無い状態で、コンクリートの表面エネルギーと液の表面エネルギー(=表面張力)とのせめぎ合いによってコンクリート表面を濡らし、その一部が毛細管空隙に浸透することである。
【0011】
特許文献1には、珪酸ナトリウムを主成分とした無機質浸透性防水剤をコンクリートに塗布又は注入した後、無機質浸透性防水剤の乾燥後に散水を数回繰り返すことによってコンクリートに浸透させる技術が開示されている。
【0012】
散布器及びローラ以外による浸透剤の浸透方法については、例えば特許文献2乃至4に開示されており、コンクリートの空隙に棒状の注入用部材を挿入し、例えばアルカリ珪酸塩からなる浸透剤を空隙に注入する技術が開示されている。
【0013】
アルカリ珪酸塩浸透剤は、ナトリウム珪酸塩溶液又はナトリウム珪酸塩とカリウム珪酸塩の混合溶液を主成分とし、他に少量の特殊金属酸化物を含むものである。
【0014】
コンクリート内部には、主要強度成分であるC−S−Hゲルの他に、多量(セメント量の約1/3)の水酸化カルシウムCa(OH)2の結晶が存在し、その一部(溶解度0.18g/100gH2O)は毛細管空隙内で溶解している。また、セメント中には当初からアルカリ分(酸化ナトリウムNa2O、酸化カリウムK2O)が含まれるので、毛細管空隙中に水分が存在すると、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、水酸化物イオンOH−及びカルシウムイオンCa2+が溶解し、本来は強塩基性(pH12.5乃至13.5)である。
【0015】
毛細管空隙にアルカリ珪酸塩が浸透すると、それが溶液中のカルシウムイオンを取り込んでガラス質の半固体ゲルに変化する。このゲルは水分の多い環境下では、充分な水分(ゲル水)を吸収して体積を増し、空隙を塞ぐ。この状態では、液体及び気体の出入りが遮断される。一方、乾燥時(ゲル水は通常の遊離水よりも蒸発しにくい)には、乾燥ゲルとなって体積が減少し、気体(酸素、二酸化炭素、水蒸気)はある程度、流通する。
【0016】
このような性質を利用して、水及び海水の浸入を防止又は抑制し、それによってコンクリートの劣化の進行を遅らせ、延命を図るのに使われるのがアルカリ珪酸塩浸透剤である。
【0017】
アルカリ珪酸塩浸透剤は、コンクリート内で生成する半固体ゲル(カルシウムアルカリ珪酸塩)が、セメント又はガラスと似た組成(酸化珪素、酸化カルシウム、酸化アルカリ)で、全て無機質であり、紫外線又は温度変化による経年変質がほとんどないという長所がある。また施工後もコンクリート表面の外観にほとんど変化がない。よって、材齢の若いコンクリートであれば、本来の肌理及び色を長期間にわたり保つことができる。
【0018】
そして、一般の防水のように薄い被膜による防水ではなく、ある厚さ(コンクリートの密実さによって数cm乃至10cm)に広がった防水性のある層を形成するので、表面での機械的摩耗及び引っかき傷には強い。また、コンクリートの背面からの水圧をともなった透水(建物地中壁、地下ピット、擁壁、トンネル、水槽等)に対して、補修手段として有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平7−26674号公報
【特許文献2】特開2006−322267号公報
【特許文献3】特開2008−255590号公報
【特許文献4】特開2005−60144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、一般的な浸透剤の施工要領においては、下向き施工の場合、濡れと散布厚に相当する僅かの圧力(重力)による浸透が行われているが、浸透剤のコンクリートへの浸透が不十分である。また、横向き施工又は上向き施工の場合には、ローラ等を用いる濡れによる浸透が行われているが、浸透剤のコンクリートへの浸透が不十分であることに加えて、施工時に、ローラ等から浸透剤が垂れ落ちることがあり、浸透剤の一部が無駄になるという問題点がある。
【0021】
特許文献1の技術においては、浸透剤の塗布又は注入、乾燥及び散水を少なくとも3サイクル繰り返す必要があり、浸透剤の浸透作業が煩雑で、長時間を要するという問題点がある。
【0022】
特許文献2乃至4の技術においては、浸透剤をコンクリートに注入するために、コンクリートに孔をあけ、浸透剤注入用部材を孔に挿入する必要がある。従って、浸透剤を注入する作業性が低いものである。また、複数箇所の補修を行う場合においては、改めてコンクリートに孔を設ける必要があり、構造物の外観も劣化させてしまう虞がある。
【0023】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、効率的に浸透剤をコンクリートに浸透できると共に、浸透剤の無駄を低減できる浸透剤浸透装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る浸透剤浸透装置は、コンクリート材の空隙に浸透剤を浸透させる浸透剤浸透装置において、支持部と、この支持部を前記コンクリート材に吸着固定する1又は複数個の吸盤と、開口縁が内側に向けて曲成され、前記浸透剤を保液する保液材が内部に収容された状態で前記開口縁の縁部が前記コンクリート材に当接する袋状容器と、前記袋状容器の底部に設けられた加圧プレートと、前記支持部に支持され前記袋状容器の前記縁部が前記コンクリート材に当接した状態で前記加圧プレートを介して前記袋状容器内の保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧部材と、前記保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧力を調整する加圧力調整部材と、前記吸盤の内部を排気する排気装置と、を有することを特徴とする。
【0025】
上述の浸透剤浸透装置において、例えば前記加圧力調整部材は、前記支持部に支持された筒部と、前記加圧プレートに固定され前記筒部の下部に挿入されて前記筒部内を移動可能のシャフトと、前記筒部の上部内面に形成されたネジに螺合して前記筒部内を移動可能の螺棒を備えたハンドル部と、前記筒部内で前記ハンドル部と前記シャフトとの間に介在する圧縮コイルバネと、を有する。この場合に、前記ハンドル部と前記圧縮コイルバネとの間、又は前記シャフトと前記圧縮コイルバネとの間に、前記加圧部材による加圧力を計測するセンサが設けられており、前記加圧力が所定の範囲になるように前記ハンドル部により前記加圧力を調整することが好ましい。
【0026】
上述の浸透剤浸透装置において、前記袋状容器の前記縁部は、先端側が薄くなるように形成されていることが好ましい。
【0027】
また、例えば前記吸盤は、例えば前記コンクリート材との接触部が軟質ゴムにより形成され、この軟質ゴムを金属製の基部に貼り合わせたものである。
【0028】
前記保液材は、例えば多孔質の弾性体であるスポンジ又は繊維層からなる。
【0029】
前記袋状容器は、例えばゴム製であり、側部が蛇腹状に形成されている。
【0030】
上述の浸透剤浸透装置は、例えば前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとを連結する3個以上のヒンジを有し、このヒンジにより前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとの距離が規制されている。この場合に、前記ヒンジには、前記袋状容器の開口縁を前記加圧プレートから遠ざける方向に付勢する弾性部材が設けられていることが好ましい。
【0031】
浸透剤浸透装置は、例えば前記保液材に供給する浸透剤を蓄えておく貯液容器と、給液ポンプと、この給液ポンプと前記保液材との間に介在し第1の開閉弁の開放により前記給液ポンプと前記保液材とを接続する給液ホースと、を有し、前記給液ポンプは、前記第1の開閉弁が開放された状態で前記給液ホースを介して前記貯液容器から汲み出した浸透剤を前記保液材に供給する。この場合に、更に、第2の開閉弁の開放により前記保液材に接続され不要な浸透剤を前記貯液容器に排出する排液ホースを有するように構成することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る浸透剤浸透装置は、保液材に浸透剤を吸収させ、排気装置による排気により吸盤内の圧力を減圧し、浸透剤浸透装置の全体をコンクリート材に吸着固定した状態で、袋状容器の縁部をコンクリート材に当接させ、加圧部材及び加圧プレートにより袋状容器の内部に収容された保液材を押し潰し、保液材に保液された浸透剤をコンクリート材へ向けて絞り出すという簡単な動作により、コンクリート材に浸透剤を加圧浸透させることができる。
【0033】
また、例えば袋状容器の縁部に沿って延びている吸盤により、浸透剤浸透装置の全体をコンクリート材に吸着固定するため、浸透材浸透装置を安定的に支持することができ、大がかりな支持用の部材を設置する必要もなく、小型化した浸透材浸透装置を得ることができる。更に、施工対象のコンクリート材に孔等の加工を施す必要がなく、複数箇所の施工においても、効率よく浸透剤を浸透させることができる。更にまた、吸盤を浸透剤の加圧浸透箇所に近接して設けた場合においては、吸盤及び排気装置による吸引力を装置全体の支持に使用するだけではなく、毛細管空隙内の空気の吸引に使用して浸透剤の浸透効率を向上させることができる。
【0034】
更にまた、袋状容器の開口縁が内側に向けて曲成されているため、加圧により、袋状容器の縁部はコンクリート材に密着し、浸透剤の漏れを防止することができ、浸透剤の無駄を低減することができる。特に、横向き施工及び上向き施工において、施工コストの無駄を低減できる効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す図であって、図2におけるA−A断面図、(b)は、吸盤を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す側面図である。
【図3】(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置において、加圧シャフト及び加圧ハンドルを示す断面図、(b)は同じく上面図である。
【図4】(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を使用し、上向き施工法により浸透剤を浸透させている状態を示す断面図、(b)は、図4(a)のB部詳細図、(c)は、図4(a)のC部詳細図である。
【図5】(a),(b)は、同じく本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を使用し、上向き施工法により浸透剤を浸透させている状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す図である。
【図7】浸透剤の充填率を示す図である。
【図8】加圧シミュレーション試験装置を示す図である。
【図9】加圧シミュレーション試験により、コンクリート材3に浸透剤を浸透させた場合の試験結果であり、図9(a)は単分子の浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合、図9(b)は高分子の浸透剤として珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)を使用した場合の浸透量の時間変化を示す。
【図10】加圧力と吸引力との関係を示すイメージ図である。
【図11】シロキサン結合を示す図である。
【図12】セメント硬化体の形成時における外形体積の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。先ず、毛細管空隙への浸透剤の浸透深さについて説明する。図12に示すように、水/セメント比(W/C)が0.5の場合において、コンクリート調合として標準的調合を採用し、砂の平均粒子径を1.2mm以下、砂利の平均粒子径を20mm以下としたときに、生コンクリート1m3あたりの重量調合は、水:190kg/m3、セメント:380kg/m3、砂:577kg/m3、砂利:1188kg/m3となる。図12において、水和による体積減少(0.05cm3/1gセメント)及び余剰水(0.12cm3/1gセメント)の体積が毛細間空隙として形成されるとした場合には、生コンクリート1m3あたり、(0.05+0.12)×380×10−3=0.065m3の毛細管空隙が形成され、空隙率は6.5%となる。
【0037】
浸透剤が空隙内に浸透するということは、空隙内の空気又は水を追い出しつつ、置き換わることである。しかしながら、その過程で、空気及び水を空隙内から100%追い出すことは不可能であり、浸透剤の空隙充填率もコンクリート材3の表面から内部へいくほど低くなると考えられる。このとき、空隙への浸透剤の充填率が仮に100%以下であっても、平均充填率が例えば70%以上の層が充分の厚さで形成されるならば、浸透剤の効果は発現する。そこで、毛細間空隙への浸透剤の最大充填率、即ち、コンクリート材3表面付近における充填率を90%とし、浸透剤の充填率が内部に向かって低くなっていく状態を図7に示すように仮定し、充填率が40%となる部分の深さを浸透深さDと定義する。そうすると、平均充填率は、(90+85×2+75×2+60×2+40)/8=71.3(%)となり、コンクリート材3の表面から浸透深さDまでの領域において70%以上の平均充填率が得られ、浸透剤の効果を十分に得られることになる。ここで、浸透剤の単位面積あたりの浸透量(以下、浸透厚さとよぶ)をSとしたときに、浸透深さD(単位:mm)と浸透厚さS(単位:mm)との関係は、上記毛細管空隙の空隙率6.5%を考慮して、以下の数式により示すことができる。
【0038】
【数1】
【0039】
この関係式より、例えば浸透厚さSが0.15mmである場合には、実際には、D=3.2mmの位置までの深さにおいて、40乃至90%の充填率が得られ、70%以上の平均充填率が得られていることになる。この計算式を用いれば、例えば後述の実施例にてコンクリート標準試験体に直管付きガラスロートを立設して浸透試験を行うが、コンクリートを破壊することなく浸透深さを概算することができる。
【0040】
次に、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置について説明する。先ず、第1実施形態に係る浸透剤浸透装置の構成について説明する。図1(a)は本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す図であって、図2におけるA−A断面図、図1(b)は、吸盤を示す拡大断面図である。図2は本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を示す側面図である。図3(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置において、加圧シャフト及び加圧ハンドルを示す断面図、図3(b)は同じく上面図である。図4(a)及び図5(a)は、本発明の第1実施形態に係る浸透剤浸透装置を使用し、上向き施工法により浸透剤を浸透させている状態を示す断面図、図4(b)及び図5(b)は、夫々、図4(a)及び図5(a)におけるB部詳細図、図4(c)は、図4(a)のC部詳細図である。
【0041】
図1及び図2に示すように、本実施形態の浸透剤浸透装置1は、装置の枠体となる支持部15と、この支持部15に連結された吸盤16と、袋状容器12と、袋状容器12の底部に設けられた加圧プレート13と、加圧力調整部材14としての連結スリーブ14a、加圧シャフト14b、圧縮コイルバネ14c及び加圧ハンドル14dと、吸盤16に接続された排気装置17とを有している。袋状容器12の内部には、浸透剤が吸収されて保液される保液材11が収容され、浸透剤浸透装置1は、排気装置17により吸盤16内が排気されることにより、施工対象のコンクリート材3に吸着固定される。
【0042】
袋状容器12は、弾性及び気密性を有する材質からなり、例えば加圧により伸縮可能に構成されている。袋状容器12の材質としては、例えばポリウレタンゴム又はクロロプレンゴム等の高分子ゴム等の合成ゴムを使用すれば、弾力性、加工性及び経済性の点で優れている。袋状容器12は、厚さが例えば0.1乃至0.3cmの袋状に形成されており、全体として例えば円筒状に構成されている。そして、袋状容器12の側部は、例えば蛇腹状に形成されており、これにより、伸縮変形時に、加圧プレート13による加圧方向において、袋状容器12は、その伸縮に伴う変形抵抗が極めて小さくなり、また、袋状容器12の側部の一部分だけが不均一に伸縮することを防止することができる。袋状容器12の外径は、例えば40乃至120cm、高さは例えば3乃至10cmである。
【0043】
図4(b)に示すように、袋状容器12の開口縁は、内側に向けて曲成されており、これにより、浸透材の漏れを防止している。袋状容器の開口縁の縁部12aは、先端側が薄くなるように形成されており、これにより、浸透施工対象のコンクリート材3への密着性を向上させている。袋状容器12は、この縁部12aにて浸透施工対象のコンクリート材3に当接される。
【0044】
袋状容器12の内部に収容される保液材11は、例えば多孔質の弾性体、スポンジ又は繊維等により形成されており、これにより、保液材11は吸液性を有し、吸収した液体を圧縮により排出できるように構成されている。保液材11を多孔質の弾性体、スポンジ又は繊維等により構成することにより、施工姿勢が下向き、横向き及び上向きのいずれの場合においても、保液材11の内部における、重力による浸透剤の移動を低減し、安定的に施工することができる。多孔質の弾性体であるスポンジ又は繊維層を使用することができる。スポンジとしては、例えばウレタン樹脂からなる発泡体を使用することができ、また、繊維層としては、厚みを有するように、例えば、長さが15乃至100nm程度の短い繊維を相互に絡み合わせて層状にしたもの、又は例えば不織布を積層させたものを使用しても良い。この場合に、繊維又は不織布同士の接着には、例えば接着剤を使用することができる。
【0045】
加圧プレート13は、例えば硬質ポリプロピレン等の樹脂又は金属等の剛性を有する材質により構成されており、例えば円板状に形成されている。そして、加圧プレート13は、その主面の一方が、例えば接着剤により袋状容器12の底部に接着固定されている。
【0046】
本実施形態においては、図1(a)に示すように、袋状容器12の開口縁部12aの外側の側面と加圧プレート13とを連結するように、3個以上のヒンジ21が設けられており、このヒンジ21により袋状容器12の開口縁部12aと加圧プレート13との距離が規制されている。即ち、袋状容器の縁部12aに取り付けたヒンジプレート21aと加圧プレート13に取り付けたヒンジプレート21bとが連結部21cにて相互に回転可能に連結されていることにより、ヒンジプレート21a及び21bの長さの範囲、並びにヒンジ21の開角度の範囲で、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとの距離を所定の範囲に規制することができる。また、図2に示すように、ヒンジ21の回転軸となる連結部21aが互いに異なる方向に延びていることにより、例えば3個以上のヒンジ21が同一の形状である場合には、開角度が全て等しくなる。即ち、本実施形態においては、ヒンジ21を3個以上設置することにより、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとが常に平行を維持した状態で、加圧プレート13を常に開口縁部12aのコンクリート材3に対する接触面に垂直に移動させることができるため、袋状容器12を均等に変形させることができる。ヒンジ21には、2枚のヒンジプレート21aとヒンジプレート21bとの最大開角度を規定するために、例えばストッパーを設けることができる。
【0047】
ヒンジ21には、図4(c)に示すように、2枚のヒンジプレート21a及びヒンジプレート21bに夫々連結されたバネ21dが設けられていてもよく、これにより、加圧プレート13による加圧方向に抗するように弾性力を作用させて、加圧プレート13による加圧力を解除した際に、加圧プレート13がバネ21dの弾性力により袋状容器12の開口縁部12aから自動的に離隔して、袋状容器12の形状が復帰するように構成してもよい。
【0048】
支持部15は、加圧プレート13の他面及び袋状容器12の側面の外方に設けられ、浸透剤浸透装置1の骨格をなすように複数本の棒状部材によって形成されている。そして、支持部15は、複数本の棒状部材が例えば施工対象のコンクリート材3へ向けて垂直となるように延び、その先端部に後述する吸盤16が固定されている。本実施形態においては、図1及び図2に示すように、支持部15からは、3本の棒状部材がコンクリート材3へ向けて延びるように構成されており、夫々の端部に、吸盤16が固定されている。これらの3本の棒状部材は、例えば側面視で(棒状部材の長手方向から視たときに)均等に位置するように、後述する加圧シャフト14bの位置を中心としたときに、120度の間隔で離隔して均等に配置されている。
【0049】
加圧力調整部材14としての連結スリーブ14aは、例えば円筒状に形成されており、前記支持部15の複数本の棒状部材のうち、吸盤16が固定された棒状部材に対して長手方向が平行になるように配置され、その円筒側面にて支持部15に固定されて支持されている。加圧シャフト14bは、全体として棒状をなし、例えば加圧プレート13と同様に剛性を有する材質により構成されている。加圧シャフト14bは、その一端が、例えば加圧プレート13の他方の主面の中央部近傍の1カ所に固定されている。前記連結スリーブ14aの内径は、加圧シャフト14bの外径よりも若干大きくなるように構成されており、その円筒下部(連結プレート側)に加圧シャフト14bが挿入されている。これにより、加圧シャフト14bは連結スリーブ14a内を軸方向に移動可能に構成されている。また、図3(a)に示すように、連結スリーブ14aの円筒内面のうち、加圧シャフト14bに対して逆側の内面には、所定区間のネジが形成されている。そして、加圧ハンドル14dには、シャフト部分の外面に雄ネジが形成されており、この雄ネジが連結スリーブ14aの内面の雌ネジ部分に螺合し、これにより、加圧ハンドル14dのシャフト部分が連結スリーブ14a内を軸方向に移動可能に構成されている。連結スリーブ14a内には、加圧シャフト14bと加圧ハンドル14dとの間に介在するように、圧縮コイルバネ14cが挿入されている。そして、圧縮コイルバネ14cの端部に、夫々、加圧シャフト14b及び加圧ハンドル14dの夫々端部が接触している。なお、連結スリーブ14aの内面及び加圧ハンドル14dのシャフト部分の外面に設けられたネジは、その設置長さが例えば加圧プレート13の可動範囲と同等であればよい。加圧力調整部材14をこのように構成することにより、支持部15は、圧縮コイルバネ14c及び加圧ハンドル14dを介して、加圧シャフト14bからの加圧反力を受け止めるように構成されている。また、支持部15は、反力源としての吸盤16からの吸着力を加圧ハンドル14d、圧縮コイルバネ14c及び加圧シャフト14bを介して加圧プレート13に伝達することができ、また、加圧ハンドル14dによる加圧力の制御が容易となる。
【0050】
図3(b)に示すように、連結スリーブ14aの側面には、例えばその長手方向に沿って、所定区間の孔140が設けられており、孔140から連結スリーブ14aの内部に例えば潤滑油を注入できるように構成されている。また、加圧ハンドル14dには、圧縮コイルバネ14cとの接触部に近接した位置に、例えば加圧力測定用のセンサ(ロードセル)22が設けられており、加圧プレート13に印加する加圧力を測定できるように構成されている。これにより、加圧力が所定の範囲内になるように加圧ハンドル14dにより加圧力を調整できるように構成されている。センサ22から延びるリード線22aは、前述の連結スリーブの孔140から取り出すことができる。なお、本実施形態においては、センサ22は、加圧ハンドル14dに設けられているが、加圧シャフト14bの圧縮コイルバネ14cとの接触部に近接した位置にセンサ22が設けられていてもよい。
【0051】
吸盤16は、コンクリート材3の凹凸に対する密着性を考慮して、コンクリート材3との接触部16bが柔軟性及び気密性を有する例えば軟質ゴムによりパッド状に形成されており、例えば鋼、ステンレス又は黄銅等の金属製の基部16aに、この軟質ゴムパッドが貼り合わされている。吸盤16の基部16aを金属により構成することにより、吸盤16の強度が確保され、排気装置17による排気によっても変形し難くなり、吸着力を安定して作用させて浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に安定的に固定することができる。また、金属は、例えば軟質ゴム等に比して成形性がよく、成形に要するコストも低いため、基部16aを金属により構成することにより、吸盤16の全体を例えば軟質ゴムにより構成した場合に比して、吸盤16の成形が容易となり、製造コストも低く抑えることができる。図2に示すように、吸盤16は、例えば側面視で(加圧シャフト14bの軸方向から見たときに)湾曲した長楕円形状に形成されており、例えば3個の吸盤16が袋状容器12の縁部12aに沿って均等に配置されている。そして、吸盤16は、例えば夫々の長手方向の中央部付近において、夫々、支持部15の3本の棒状部材の先端に固定されている。3個の吸盤16は、夫々、浸透施工対象のコンクリート材3に吸着することにより、支持部15を介して浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定する。なお、本実施形態においては、図1(b)に示すように、基部14aは、軟質ゴムパッド16bとの貼り合わせ部分が、扁平な板状に若干拡張されており、これにより、軟質ゴムパッド16の面積を広げ、軟質ゴムパッド16のコンクリート材3への接触面積を広げている。これにより、吸盤16によるコンクリート材3への吸着固定が安定する。なお、この場合、吸盤の幅及び長さは、図1(b)に示すように軟質ゴムパッド16bの部分の外縁の寸法により定義され、夫々有効幅及び有効長さと称する。本実施形態においては、吸盤16の有効幅は、例えば60乃至120mmであり、有効長さは、例えば150乃至500mmである。また、吸盤16がコンクリート材3に接触する領域の外縁により決定される有効接触面積としては、400cm2以下が実用的である。本実施形態においては、夫々の吸盤16の有効幅は80mm、有効長さは400mmである。
【0052】
図1(b)に示すように、夫々の吸盤16には、例えば、支持部15への固定部分に近接した位置に、排気孔が設けられており、吸気ホース18を介して排気装置17に接続されている。そして、吸盤16のパッド部分16bをコンクリート材3に当接させた状態で、吸盤16の内部を排気装置17により排気することにより、吸盤内部の真空度が高まり、浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定できる。なお、本実施形態における排気孔の位置は一例であり、吸盤16内の空気を排気できれば、排気孔は吸盤16のいずれの位置に設けられていてもよい。排気装置17は、例えば真空ポンプ及びエジェクター等、吸盤の内部を排気できるものであれば、どのような形態のものでも使用することができる。
【0053】
次に、本第1実施形態の浸透剤浸透装置の動作について説明する。先ず、浸透施工対象のコンクリート材3の施工目的に合わせて、浸透剤を選択する。例えば、コンクリート材3への撥水性の付与を目的とする場合には、例えばシリコーンオイルを選択する。この選択した浸透剤を保液材11に吸収させ、袋状容器12内に収容する。
【0054】
次に、袋状容器12の開口部をコンクリート材3の浸透施工対象部位に向け、浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に近接させていく。すると、先ず、吸盤16の開口部がコンクリート材3に接触する。この状態で例えば真空ポンプ等の排気装置17を駆動する。これにより、吸気ホース18を介して排気装置17に接続された吸盤16内が排気され、吸盤16内の圧力が減圧され、浸透剤浸透装置1が、コンクリート材3に吸着固定される。このとき、吸盤16内の真空度を例えば圧力センサ等により確認することにより、吸盤16内が所定の真空度に達したことを確認する。吸盤16のコンクリート材3との接触部16bを例えば軟質のゴムにより形成することにより、コンクリート材3の表面に凹凸があった場合においても、接触部16bはコンクリート材3の凹凸を吸収する形状に容易に変形することができる。これにより、吸盤16の気密性を向上させることができる。また、吸盤16の基部16aを例えば金属等の剛性の高い材料により構成することにより、吸盤16内が減圧された場合においても、吸盤16の形状が容易に変化することを防止でき、吸着力を安定して作用させて浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に安定的に固定することができる。
【0055】
排気装置17により吸盤16内の真空度を例えば−80kPaとしたときには、本実施形態においては、3個の吸盤16(接触面積:0.08m×0.4m=0.032m2)により、0.032×3×80=7.68kN(783kgf)の吸着力を得ることができる。この吸着力は、例えば浸透剤浸透装置1をコンクリート材3から引き剥がす力が最も大きく作用する条件下(例えば、横向き施工及び上向き施工時)においても、浸透剤浸透装置1及びその他の付属品の自重、並びに転倒モーメントによる引き剥がし力の合計に対して、充分に余裕がある大きさである。
【0056】
吸盤16により、浸透剤浸透装置1をコンクリート材3に吸着固定したら、加圧シャフト14bにより加圧プレート13に加圧力を作用させる。本実施形態においては、加圧ハンドル14dを回転させ、加圧プレート13側に前進させることにより、加圧シャフト14bとの距離が縮まり、加圧ハンドル14dと加圧シャフト14bとの間に存在する圧縮コイルバネ14cが圧縮されて加圧力が発生する。この加圧力を加圧シャフト14bを介して加圧プレート13に作用させる。一般的に、通常のネジにおいては、軸方向の加圧力をP、ネジのよび径をdとしたとき、ネジを回転させるために必要なトルクMは、次の数式により求められる。
【0057】
【数2】
【0058】
例えば、本実施形態において、加圧ハンドル14dのシャフト部分のネジのよび径dが25mmで、180kgf(1.76kN)の加圧力Pを得ようとする場合においては、0.9kgf・m(8.82kN・m)のトルクMが必要である。従って、加圧ハンドル14dの有効半径が、例えば150mmである場合においては、0.9/0.15=6.0kgf(58.8N)の回転力Fを加圧ハンドル14dに作用させればよい。
【0059】
加圧ハンドル14dは、回転によりシャフト部分が、次第に連結スリーブ14a内に挿入されていく。これにより、加圧ハンドル14dのシャフト部分が受ける反力は、加圧力として圧縮コイルバネ14cを介して加圧シャフト14bに伝達され、加圧シャフト14bは、その先端部に固定された加圧プレート13と一体的にコンクリート材3側に移動していく。そして、保液材11及び袋状容器12は、次第にコンクリート材3に近接していき、やがて、図4に示すように、袋状容器12の開口縁部12aがコンクリート材3に当接する。このとき、袋状容器12の開口縁部12aは、先ず、最も内縁側の肉厚が薄い先端部分がコンクリート材3に当接する(図4(b))。また、保液材11もコンクリート材3に当接し、図4に示す状態となる。
【0060】
保液材11及び袋状容器12がコンクリート材3に当接すると、保液材11及び袋状容器12は、加圧プレート13とコンクリート材3との間に挟まれた状態となる。従って、この状態で、加圧ハンドル14dを更に回転前進させると、図5に示すように、加圧プレート13による押圧により、保液材11及び袋状容器12は徐々に変形していく。このとき、加圧ハンドル14dのシャフト部分からの押圧力は、圧縮コイルバネ14cを介して加圧シャフト14b及び加圧プレート13に作用し、この加圧力が袋状容器12及び保液材11に印加されることにより、袋状容器12及び保液材11が押し潰されていく。このとき、袋状容器12の側部が蛇腹状に形成されていれば、圧縮変形時に、袋状容器12の圧縮抵抗を低減することができる。また、本実施形態においては、3個のヒンジ21を、夫々の回転軸となる連結部21aが互いに異なる方向に延びるように設置することにより、施工姿勢が下向き、横向き及び上向きのいずれの場合においても、袋状容器12の変形に対する重力の影響を低減し、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとが常に平行を維持した状態で、加圧プレート13を常に開口縁部12aのコンクリート材3に対する接触面に垂直に移動させることができ、袋状容器12の不均一な変形も防止できる。
【0061】
加圧ハンドル14dには、圧縮コイルバネ14cとの接触部に近接した位置に、加圧力測定用のセンサ(ロードセル)22が設けられており、圧縮力に対する保液材11の変形抵抗、袋状容器12の変形抵抗及びヒンジ21(バネ21d)の弾性抵抗を予め測定しておくことにより、ロードセル22が示す圧縮力との差により、コンクリート材3に浸透させていく浸透剤の液圧を知ることができる。即ち、この差(正味の加圧力とよぶ)を浸透面積で除した値が浸透剤の液圧である。
【0062】
加圧ハンドル14dを回転させて加圧プレート13側に前進させ、ロードセル22の指示値が例えば所定の上限値に達したら、加圧ハンドル14dの操作を停止する。浸透剤は、液圧により、コンクリート材3に徐々に浸透していく。浸透剤の浸透に伴って、袋状容器12は徐々に縮んでいく。これにより、加圧プレート13及び加圧シャフト14bは、コンクリート材3側に移動し、同時に、連結スリーブ14a内の圧縮コイルバネ14cも少しずつ伸びていくが、圧縮コイルバネ14cの歪み量(=伸び/全長)が小さい間は、加圧力の低下も小さい。加圧力が所定の下限値以下になったら、再度、加圧ハンドル14dを回転前進させることにより、加圧力を例えば所定の上限値となるように調整する。これにより、加圧プレート13に印加する加圧力が所定の範囲内になるように、加圧ハンドル14dにより加圧力を調整する。
【0063】
本実施形態においては、コンクリート材3の表面に凹凸が存在している場合においても、袋状容器12の開口縁部12aは、外縁側から開口部へ向けて肉厚が薄く形成された先細り形状であり、更に、浸透剤の液圧が開口縁部12aをコンクリート材3に押しつけるように作用するため、図5(b)に示すように、開口縁部12aはコンクリート材3の表面に密着する。従って、袋状容器12の開口縁部12aとコンクリート材3との間には隙間が形成されにくく、浸透剤の外部への漏れを防止することができ、浸透剤の無駄を低減することができる。特に、横向き施工及び上向き施工において、施工コストの無駄を低減できる効果は顕著である。
【0064】
また、本実施形態においては、袋状容器12の開口縁部12aの外側の側面と加圧プレート13とを連結するように、3個以上のヒンジ21が設けられているため、このヒンジ21により加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとの距離が所定の範囲となるように規制することができ、加圧プレート13の移動をコンクリート材3の施工面に垂直な方向に規制することにより、袋状容器12を均等に変形させることもできる。
【0065】
浸透剤浸透装置1における加圧力による浸透促進効果の推定には、図8に示すような、加圧シミュレーション試験が有効である。即ち、図8に示すように、柱状のコンクリート供試材30(直径100mm、高さ200mmの円柱状)には、その上面に浸透剤2が充填されたガラスロート5が設置され、ガラスロート5と、コンクリート供試材30との境界から浸透剤2が漏れ出さないように、ガラスロート5の周囲の供試材30上はシリコンシール43でシールされている。また、コンクリート供試材30の側面の上部には、ブチルゴム両面テープ41が巻回され、更にその外側に粘着テープ42が巻回されている。これにより、コンクリート供試材30の上面から例えば30mmの区間において、浸透剤の外部への漏れが封じられている。この加圧シミュレーション試験器により、ガラスロート5内の浸透剤の液高さ(ヘッド)Hの時間変化を測定することにより、コンクリート材への浸透液の単位面積あたりの浸透量S(単位:mm)を知ることができる。そして、複数種の液ヘッドHに対して、夫々浸透剤浸透量Sの時間変化を測定し、得られた結果から所望の浸透量S及び浸透所要時間を選択し、このときの液ヘッドHにより、浸透剤の浸透に要する加圧力を算定することができる。よって、浸透剤の液圧から決まる正味の加圧力に、保液材11及び袋状容器12の既知の変形抵抗、並びにヒンジ21(バネ21d)の弾性抵抗等を加算して加圧力を決定し、例えばロードセル22の指示値がこの加圧力となるように加圧ハンドル14dを回転させることにより、浸透剤を加圧シミュレーション試験と同じようにコンクリート材3に浸透させることが可能となる。
【0066】
図9は、上記の加圧シミュレーション試験により、コンクリート材3に浸透剤を浸透させた場合の試験結果である。図9(a)は単分子の浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合、図9(b)は高分子の浸透剤として珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)を使用した場合の浸透量の時間変化を示す。ガラスロート内の液の高さ(ヘッド)をH(cm)とし、浸透剤の比重をρg/cm3とした場合、加圧圧力pは、以下の数式にて示すことができる。
【0067】
【数3】
【0068】
図9(a)に示すように、例えばヘッドHをH=8cmとした場合、浸透開始から4時間経過した時点において、浸透剤の単位面積あたりの浸透量は、6mmである。従って、この場合、数式1より、充填率が40%となる浸透深さDは、D=21.6×6=12.96mmであると推定できる。図9(a)に示すように、浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合においては、浸透開始から4時間経過した後も浸透量は直線的に増加していくことが推定できる。一方、図9(b)に示すように、浸透剤として珪酸ナトリウム溶液を使用した場合においては、クロム酸カリ希薄溶液を使用した場合に比して、浸透剤の浸透は早いうちから飽和の傾向を示しているものの、浸透開始から4時間経過後においても、極めて緩やかではあるが、浸透量は増加している。これは、高分子の浸透剤は、その大きさよりも大きい径の毛細管空隙には浸透するものの、毛細管空隙の径が小さい場合においては、浸透しないことによるものであると考えられる。
【0069】
この加圧シミュレーション試験によると、本実施形態においては、例えば、浸透剤の最大液ヘッドHを20cm、浸透剤の比重を1.1g/cm3としたときに、加圧面における圧力pは、p=20×1.1=22gf/cm2(2.16kPa)となる。従って、加圧面の面積をAm2としたときに、加圧力PはP=220×Akgf(2156×AkPa)となる。例えば、加圧面の面積Aが0.8m2の場合には、加圧力P=176kgf(1.72kN)となる。例えば袋状容器12、保液材11及びヒンジ21の変形抵抗の合計が10kgfとすると、浸透剤の浸透に必要な加圧力PはP=186kgf(1.82kN)となる。上述の如く、排気装置17により排気された吸盤16内の真空度を例えば−80kPaとしたときには、783kgf(7.68kN)の吸着力を得ることができるので、この場合には、反力源(吸盤16)の安全率は4.2となり、吸盤16により、浸透剤浸透装置1を十分安定的に支持することができる。
【0070】
また、上記加圧シミュレーション試験によれば、浸透剤の浸透に要する時間を推定することもできる。例えば、浸透剤としてクロム酸カリ希薄溶液を使用した場合に、鉄筋のかぶり厚(コンクリート材の表面から鉄筋までの厚さ)に相当する浸透深さD=4cmまで、浸透剤を浸透させるためには、S=D/21.6=40mm/21.6=1.85mmの浸透量を必要とするが、図9(a)より、その浸透量に達するまでには、ヘッドH=8cmの場合、約1時間を要する。これでは、現実の作業としては、時間がかかりすぎである。この場合においては、浸透速度が遅い主な原因は、空隙内の空気の移動が遅いことが考えられる。即ち、浸透剤は、圧力を受けることにより、毛細管空隙内の空気を押し出しながら、空隙の内部に侵入していくが、毛細管空隙の管壁の抵抗が大きい場合には、空気の移動速度が小さく、従って、浸透剤の浸透速度も遅くなる。
【0071】
しかしながら、本発明においては、吸盤16は、加圧力に抗する反力源として浸透剤浸透装置1を支持するだけではなく、その吸引力により、浸透施工対象部位の周縁部において、毛細管空隙内の空気を吸引することにより、浸透剤の浸透を効果的に進行させ、加圧による浸透剤の浸透を補助する効果を得ることができる。即ち、浸透剤を加圧浸透する部分にできるだけ近接した周縁部においては、真空機器の吸引力を利用して内部空気を外部に排出することにより、加圧部分の内部空気圧も低下する。この場合、浸透施工対象部位の内部空気は、周縁部方向に移動していき、やがて、吸盤16による吸引力により外部に排出される。毛細管空隙内の圧力が低下すれば、浸透剤の加圧浸透が促進される。この吸引力による効果は、図10に示すようなイメージ図により説明することができる。本実施形態におけるコンクリート材3においては、3個の吸盤16による吸引力が作用するため、図10(a)に示すように、コンクリート材3のうち押圧力が作用する部分を3等分した部分3aについて、加圧力と吸引力との関係を説明する。浸透施工対象部分に対して吸引力が作用すると考えられるのは、吸盤16によって吸引されている部分のうち、浸透施工対象部分側の半分の部分3bであると考えられる。本実施形態においては、部分3aには、加圧圧力p1が面積A1に作用するから、加圧力P1は、P1=p1×A1となる。また、部分3bには吸引圧力p2が面積A2に作用するから、吸引力P2はP2=p2×A2となる。例えば、加圧力P1が作用する部分が直径1.0mの円形である場合、部分3aの面積A1は、A1=0.262m2となり、液圧ヘッドHが20cmの場合、加圧圧力p1=2.16kPaであるから、部分3aに作用する加圧力P1は、P1=0.262×2.16=0.57kNとなる。一方、吸引力が作用する部分の面積A2をA2=0.016m2(320cm2×1/2)とし、真空度(p2)を−80kPaとした場合、部分3bに作用する吸引力P2は、P2=0.016×80=1.28kNとなる。即ち、毛細管空隙内の空気の流束を図10(b)に示すようなイメージ図として考えた場合に、出口では、入口の約2.2倍の力で吸引していることになる。このように、本発明においては、吸盤16による吸引力により、浸透剤の浸透を補助する効果が期待できる。
【0072】
コンクリート材3の1カ所の浸透施工対象部位への施工が完了したら、先ず、加圧ハンドル14dを加圧力の印加方向に対して逆側に回転させることにより、圧縮コイルバネ14c、加圧シャフト14b及び加圧プレート13による加圧力を解除する。すると、保液材11及び袋状容器12は、弾性復元力により、加圧力が印加される前の形状に復元しようとする。また、このとき、本実施形態のように浸透剤浸透装置1にヒンジ21を設け、ヒンジの各ヒンジプレート21a及び21bを連結するバネ21cを設けた場合においては、バネ21cの弾性力は、袋状容器の開口縁12aを加圧プレート13から遠ざける方向に付勢するため、加圧シャフト14bからの加圧力を解除した際には、保液材11及び袋状容器12自身の弾性復元力に加えて、バネ21cの弾性力が作用し、保液材11及び袋状容器12の形状は円滑に復元される。復元の過程においては、袋状容器12の蛇腹先端部12aの水密性及び気密性はなくなり、保液材11に空気が浸入して保液材11の体積増加を可能にする。
【0073】
このとき、3個以上のヒンジ21は、夫々の回転軸21aが互いに異なる方向に延びるように設置されているため、保液材11及び袋状容器12の形状が復元する際においても、加圧プレート13の加圧面と袋状容器12の開口縁部12aとは常に平行を維持した状態であり、従って、加圧プレート13を常に開口縁部12aのコンクリート材3に対する接触面に垂直に移動させることができる。よって、袋状容器12の不均一な変形を防止することができる。
【0074】
各部材の形状が復帰したら、浸透剤浸透装置1の全体を例えば手で支持した状態で、排気装置17の動作を停止させる。これにより、吸盤16内の圧力は、大気圧まで徐々に回復していき、吸盤16による吸着固定が解除される。
【0075】
このようにして、1カ所の浸透施工対象部位への施工が完了したら、浸透剤浸透装置1を次の浸透施工対象部位に移動させ、保液材11内の空気を排出した後、浸透剤を充填する。そして、上記と同様の手順により、施工を行う。
【0076】
以上のように、本実施形態の浸透剤浸透装置1によれば、保液材11に浸透剤を吸収させ、排気装置17による減圧により吸盤16内の圧力を減圧し、浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定した状態で、加圧ハンドル14dを回転させるという簡単な動作により、加圧シャフト14b及び加圧プレート13により袋状容器12の内部に収容された保液材11を押し潰し、保液材11に保液された浸透剤をコンクリート材3へ向けて絞り出して浸透剤を加圧浸透させることができる。
【0077】
また、例えば袋状容器12の縁部に沿って延びている吸盤16により、浸透剤浸透装置1の全体をコンクリート材3に吸着固定するため、浸透材浸透装置を安定的に支持することができ、大がかりな支持部材を設置する必要もなく、小型化した浸透材浸透装置を得ることができる。更に、施工対象のコンクリート材3に孔等の加工を施す必要がなく、複数箇所の施工においても、効率よく浸透剤を浸透させることができる。
【0078】
なお、本実施形態の浸透剤浸透装置1には、袋状容器12に給液口を設け、給液口から保液材11に浸透剤を補充することができ、これにより、浸透剤の不足を防止することができる。また、袋状容器12に排液口を設け、排液口から不要になった浸透剤を排出することができる。
【0079】
更に、本実施形態においては、袋状容器12の形状は円筒状であるが、本実施形態における袋状容器12の形状は一例であり、内部に収容した保液材11の変形及び浸透剤の浸透を阻害しない限り、その形状は限定されない。例えば、袋状容器12は、上面視で矩形である。吸盤16については、例えば袋状容器12の周囲を取り囲むように配置されていることが好ましいが、1個だけ設けられていてもよく、複数個設けられていてもよい。また、吸盤16の形状も本実施形態の形状に限定されない。なお、吸盤16が1個だけ設けられる場合においては、装置全体の支持が不安定になること、及び浸透施工対象部位に対する加圧力が不均一に作用することを防止するために、吸盤16は、例えば、側面視で袋状容器12の外側を取り囲む円環状であることが好ましい。
【0080】
次に、本発明の第2実施形態に係る浸透剤浸透装置について説明する。本実施形態においては、図6に示すように、浸透剤浸透装置1には、第1実施形態の構成に加えて、保液材11に供給する浸透剤2を蓄えておく貯液容器23、貯液容器23から浸透剤を汲み出す給液ポンプ24、及び保液材11と給液ポンプ24とに接続された給液ホース25が設けられており、保液材11に浸透剤を随時供給可能に構成されている。給液ホース25には、必要に応じて開放させることにより、給液口に接続し、保液材11への浸透剤の補充を開始できる弁25b(第1の開閉弁)が設けられている。また、給液ホース25には、給液ポンプ24に近接した位置に、逆止弁25aが設けられており、浸透剤の逆流を防止している。そして、本実施形態においては、必要に応じて開放させることにより、給液口に接続し、袋状容器12への空気の出入りを規制する弁27が設けられている。なお、図6においては、本実施形態の実施態様の理解を容易にするために、浸透剤浸透装置のうち、支持部15、吸盤16及び加圧ハンドル14dについては、2点鎖線にて示してある。
【0081】
本実施形態においては、保液材11に連結されて、不要となった浸透剤を貯液容器23に排出する排液ホース26も設けられている。そして、排液ホース26には、必要に応じて開放させることにより、排液口に接続し、不要になった浸透剤の排出を開始できる弁26a(第2の開閉弁)が設けられている。その他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0082】
本実施形態においては、貯液容器23、給液ポンプ24及び給液ホース25が設けられているため、コンクリート材3の浸透施工対象部位が複数箇所ある場合においても、例えば手動で浸透剤を補充する手間がかからない。また、不要になった浸透剤についても、弁26aを開放するだけで、排液ホース26を介して貯液容器23に回収することができ、施工能率を向上させることができる。
【0083】
次に、本実施形態の浸透剤浸透装置の動作について説明する。本実施形態においても、コンクリート材3における浸透施工対象部位が決まったら、先ず、第1実施形態と同様の手順で、袋状容器12の開口縁部12aが施工対象部位を取り囲むように浸透剤浸透装置1を配置し、吸盤16を接触部16bにてコンクリート材3に当接させる。次いで、エジェクター又は真空ポンプ等の排気装置17を動作させ、吸盤16内の空気を排気して、吸盤16をコンクリート材3に吸着固定する。このとき、吸盤16内の真空度を例えば圧力センサ等により確認することにより、吸盤16内が所定の真空度に達したことを確認する。
【0084】
次に、弁25b及び弁26aが閉じ、弁27が開いていることを確認した上で、加圧ハンドル14dを回転させ、袋状容器12内の空気を追い出す。袋状容器12が例えば最小の大きさとなるまで潰れた状態となったら、弁27を閉じる。そして、この状態で、加圧力を開放する方向に加圧ハンドル14dを逆回転させていく。このとき、袋状容器12内に空気の出入りがない限り、袋状容器12の形状は変化しない。加圧ハンドル14dを逆回転させる際には、元の(加圧力を印加していない状態の)位置まで加圧ハンドル14dを戻すのではなく、僅かの加圧力が加圧ハンドル14dから印加されている状態となる位置まで、加圧ハンドル14dを逆回転させる。これにより、袋状容器12内の保液材11に浸透剤を充填した際に、保液材11及び袋状容器12に加圧ハンドル14dによる加圧力が印加された状態とし、浸透剤を袋状容器12内に充填している最中に、浸透剤が袋状容器の開口縁部12aから漏れることを防止する。
【0085】
次に、弁25bを開き、給液ポンプ24を作動させて、貯液容器23内に蓄えられた浸透剤を汲み出し、袋状容器12内の保液材11に充填する。これにより、保液材11には、浸透剤が充填されていき、袋状容器12は徐々に膨らんでいく。袋状容器12の大きさが所定の大きさに達したら、給液ポンプ24を停止し、弁25bを閉じる。このとき、袋状容器12の大きさは、例えばヒンジ21の開角度により知ることができ、例えばヒンジ21の開角度が最大となったときを給液終了の目安とすることができる。以上により、浸透作業の準備が終了する。
【0086】
引き続いて、第1実施形態と同様に、加圧ハンドル14dを回転させることにより、加圧ハンドル14dによる加圧力を作業加圧力に設定する。例えば所望の浸透剤浸透量S及び浸透所要時間から、加圧シミュレーション試験による試験結果を基に、必要となる正味の加圧力を算定し、作業加圧力が所定値となるように加圧ハンドル14dを回転させる。これにより、加圧ハンドル14dによる加圧力を浸透剤の所要の液圧に変換し、コンクリート材3に浸透剤を浸透させていく。浸透剤の浸透に伴い、圧縮コイルバネ14cは徐々に伸びていき、加圧力も若干低下するが、加圧力が所定の許容範囲よりも小さくなった場合においては、例えば再度加圧ハンドル14dを回転させ、作業加圧力の低下を防止する。これにより、浸透剤を円滑にコンクリート材3に加圧浸透させることができる。
【0087】
浸透剤の加圧浸透作業が終了したら、弁26aを開く。このとき、保液材11内の浸透剤には、作業加圧力が印加された状態である。従って、弁26aを開くと、保液材11内の浸透剤は排液ホース26を介して貯液容器23に排出される。そして、保液材11及び袋状容器12は、例えば最小の大きさとなるまで押し潰される。このとき、最小の大きさとなるまで押し潰された保液材11には、浸透剤が若干残ったままであるが、特に問題はない。浸透剤の排出が終了したら、弁26aを閉じ、弁27を開き、加圧ハンドル14dによる加圧力を開放すると、第1実施形態と同様に、保液材11及び袋状容器12の弾性復元力並びにヒンジのバネ21cの弾性力により、保液材11及び袋状容器12は元の形状に戻る。
【0088】
最後に、排気装置17を停止させ、真空の吸盤16内部を復圧して、吸盤16による浸透剤浸透装置1の吸着固定を解除する。これにより、浸透剤浸透装置1を次の施工場所に移動させることが可能となる。
【0089】
本実施形態の浸透剤浸透装置1によれば、給液ポンプ24及び給液ホース25により随時浸透剤を補充することができ、例えば手動により浸透剤を補充する手間がかからず、不要になった浸透剤についても排液ホース26を使用して容易に排出することができる。従って、第1実施形態による効果に加えて、例えば、複数箇所の施工を行う場合、及び複数種の浸透剤を使用する場合において、施工能率を向上させることができる。
【0090】
なお、本実施形態においても、浸透剤浸透装置1は、第1実施形態と同様の種々の変形を行うことができる。
【0091】
次に本発明の浸透剤浸透装置による応用工法について説明する。例えば劣化防止剤等の浸透剤をコンクリート材に浸透させ、コンクリート材の材質を改良したり、新たな特性を付与しようとする場合においては、単に浸透剤を散布、塗布又は吹き付けるだけでは、浸透剤を有効な深さまで浸透させることができないことは明らかである。上記の如く、本発明の浸透剤浸透装置は、浸透剤の浸透にあたり、加圧力を利用するため、コンクリート材に浸透剤を効率よく浸透させることができる。また、本発明の浸透剤浸透装置は、吸盤による吸引力を加圧力への反力源として利用するだけではなく、その吸引力を毛細管空隙内の空気の吸引に利用して、浸透剤を効率よく浸透させることができるという効果が得られる。
【0092】
ところで、浸透剤の浸透にあたり、本発明の浸透剤浸透装置を使用して、加圧力及び吸引力を併用した場合においても、浸透剤の種類によっては、コンクリート材への浸透が円滑に進行しない場合も考えられる。即ち、図9に示すように、例えばクロム酸カリ希薄溶液といった単分子溶液については、コンクリート材への浸透は円滑に進行するが、例えば珪酸ナトリウムといった高分子の場合においては、個別の検討が必要である。
【0093】
図9(b)に示すように、浸透剤が珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)の場合においては、ヘッドH=8cmのときに、浸透開始から1時間後の浸透量は0.36mmである。これに対して、浸透剤がクロム酸カリ希薄溶液の場合においては、図9(a)に示すように、浸透開始から1時間後の浸透量は2mmである。これは、各溶質の分子形状によるものであると考えられる。即ち、クロム酸カリ希薄溶液は、水と同様に単分子であり、毛細管空隙の全てに浸透可能であるのに対して、珪酸ナトリウム溶液(水ガラス)は、高分子であり、数百乃至数千の珪素原子が立体的にシロキサン結合を形成しており、分子というよりも不定形の大きな塊として存在する。よって、珪酸ナトリウム分子は、毛細管空隙の径によっては、浸透できない場合があると考えられる。従って、浸透剤として珪酸ナトリウム溶液を使用し、コンクリート材中のカルシウムイオンと結合させることによるゲル化により、毛細管空隙を塞ごうとした場合においては、コンクリート材の吸水の抑制又は防水という目的が達成できないと考えられる。また、例えば、界面活性剤を利用したエマルジョン溶液についても、その径は2乃至3μm以上であり、毛細管空隙内への浸透は実質的に不可能であると考えられる。一般的に、高分子の場合には、その重合の程度により、分子の大きさ又は長さが異なり、分子長が10nm以下であれば、毛細管空隙への浸透は実質的に可能である。
【0094】
以上の検討に基づき、本発明の浸透剤浸透装置により有用と考えられる施工例について説明する。先ず、シリコーンオイル(撥水剤)の浸透による防水について説明する。
【0095】
従来、コンクリートの表面に撥水性を付与するために、溶剤型のシリコーンオイルの吹きつけが行われている。シリコーンオイルは、無機のシロキサン結合(−Si−O−Si−)の主鎖に有機アルキル基の側鎖が結合したものであり、強い疎水性を有する。但し、コンクリート材の表面にシリコーンオイルを吹き付け、表面に被膜を形成するだけでは、厳しい気温変化、日照、風雨及び汚染大気等に曝されることにより、撥水材としての耐久性に問題がある。シリコーンオイルのように、有機基を有する高分子化合物は、酸素、オゾン、紫外線及び熱等により、自動酸化及び主鎖切断等の化学反応を起こして劣化していく。また、例えば風雨による物理的脱落も発生する。このため、コンクリート材の表面に付着させた撥水剤の効果は、3乃至8年程度であるといわれている。
【0096】
従って、仮に、シリコーンオイルのような撥水剤をコンクリート材の内部に、例えば(かぶり厚に相当する)4cm程度の深さまで浸透させることができれば、上記劣化要因による影響は、著しく低減され、撥水効果の持続期間を飛躍的に向上させることができる。即ち、コンクリート材表面のみに形成された撥水膜ではなく、コンクリート材内部に厚みのある撥水層を形成することができれば、前記劣化原因の影響が少ないことによる防水効果の永続性から、コンクリート材の吸水による劣化又は鉄筋の腐食防止につながり、フレッシュコンクリートの表面が有する独特の肌理を長期間維持することができる。このような工法は、従来には類を見ないものである。
【0097】
このシリコーンオイルによる工法の可能性について検討する。シリコーンオイルは以下の化学式で示される。
【0098】
【化1】
【0099】
シリコーンオイルは、連なる珪素数が多くなるほど高粘度になり、表面張力もわずかではあるが増加する。表面張力が小さいほど、撥水性は増加する。例えば、低粘度のジメチルシリコーンオイル(アルキル基R:−CH3)について考えると、25℃における典型的な粘度ηは40mm2/sであり、粘度ηと分子量Mとの関係は、次式で表される。
【0100】
【数4】
【0101】
よって、25℃における粘度η=40mm2/sに対して、M=2395が得られる。以下の化学結合を鎖の一単位として、分子がN個の単位から成り立っていると考える。
【0102】
【化2】
【0103】
すると、分子量Mは、M=74.2×(N−2)+73.2+89.2となり、M=2395に対して、N=32が導かれる。図11は、シロキサン結合を示す図である。図11に示すように、珪素原子と酸素原子とは角度を有して結合しており、直線的な結合ではない。なお、実際には、結合角度は、図11に示すような平面的な角度ではなく、立体的角度であり、分子の長さ(鎖長)を一義的に決定することはできない。ここでは、分子長は、結合が直線的であるとした場合の0.6倍であると仮定する。シロキサン結合の結合距離(Si−O間距離)は、1.64Åであるから、1単位あたりの長さは、その2倍である。従って、32単位により構成された分子長Lは、L=1.64×2×(32−1)×0.6=61Å=6.1nmとなる。この分子長Lは、毛細管空隙の最小径程度である。従って、低粘度のシリコーンオイルは、本発明の浸透剤浸透装置により、充分に施工可能である。
【0104】
次に、中性化したコンクリートの塩基性回復について説明する。コンクリート材の典型的な劣化は、中性化又は炭酸化である。この2つの劣化態様は、同義であると解釈される場合が多いが、中性化の主原因が炭酸化であり、例えば酸性雨等によっても中性化は進行する。即ち、長期にわたる二酸化炭素の浸入がコンクリート成分の炭酸化をもたらし、結果として、中性化が進行するのが通常のプロセスである。
【0105】
コンクリートは、硬化初期段階におけるアルカリ分による高塩基性の期間が過ぎると、内部の水酸化カルシウム成分の溶出(一般的に0.185g/100gH2O)による塩基性(pH12.5程度)を長期間維持する。しかし、長期間にわたり、二酸化炭素の浸入が続くと、水酸化カルシウムは炭酸カルシウムに変化して、コンクリート内部に結晶として残り、一部はカルシウムエフロレッセンスとしてコンクリートの外部に排出される。
【0106】
このようにして、水酸化カルシウム成分が少なくなり、pH<10になった状態が中性化である。二酸化炭素の浸入が更に続くと、水酸化カルシウム成分はなくなり、二酸化炭素は、コンクリートの強度発現成分であるC−S−Hゲルをも分解して炭酸カルシウムに変えてしまう。
【0107】
炭酸化したコンクリートを元の状態に戻すことはできないが、コンクリートを中性から塩基性に回復することは不可能ではないと考えられる。これを実現することにより、コンクリートの劣化及び鉄筋の腐食の進行は食い止められ、更に中性化するまでの期間、コンクリートの寿命は延びる。
【0108】
中性化したコンクリートの塩基性を回復するためには、例えば、毛細管空隙及び他の細孔、例えば外部に溶出した水酸化カルシウム及びC−S−Hゲルが残した空隙に、水酸化カルシウムを結晶として生成すればよい。但し、後者の空隙量を定量的に把握することは、極めて困難である。水酸化カルシウム自体は、溶解度が小さいので、例えば、他の可溶性の材料を2種類、コンクリート内に浸透させ、内部での化学反応により、水酸化カルシウムを結晶化させる方法を採用する。可溶性材料としては、例えば、硝酸カルシウムと水酸化ナトリウムとを使用し、以下の化学反応により、水酸化カルシウムを結晶化させる。
【0109】
【化3】
【0110】
ところで、材齢が若くて健全なコンクリートには、当初セメントに対して重量比で27乃至30%の水酸化カルシウムが存在する。これに見合う量を毛細管空隙への浸透のみにより生成するためには、水/セメント比(W/C)が0.5、セメント100gのときに、毛細管空隙の体積は17cm3、水酸化カルシウムの量は27g(0.364モル)であり、モル濃度が0.364×(1000/17)=21.4モル/リットルとなり、実現は難しいと考えられる。しかしながら、例えば、材齢の若いコンクリートの当初の1/4量の水酸化カルシウムを得ようとすれば、5.3モル/リットルの硝酸カルシウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液が得られれば、十分に実現可能である。この場合においては、化合する2液夫々の浸透性をよくし、また、アルカリ骨材反応等の弊害を防止するために、最初に硝酸カルシウム溶液を浸透させた後、時間をおいて十分に乾燥させ、ほとんどの硝酸カルシウムが結晶化してから、水酸化ナトリウム溶液の浸透を行えばよい。
【符号の説明】
【0111】
1:浸透剤浸透装置、11:保液材、12袋状容器、13:加圧プレート、14a:連結スリーブ、140:孔、14b:加圧シャフト、14c:圧縮コイルバネ、14d:加圧ハンドル、15:支持部、16:吸盤、16a:排気孔、17:排気装置、18:給気ホース、21:ヒンジ、21a、21b:ヒンジプレート、21c:連結部、21d:バネ、22:センサ(ロードセル)、23:貯液容器、24:給液ポンプ、25:給液ホース、25a:(逆止)弁、25b:(開閉)弁、26:排液ホース、26a:(開閉)弁、27:弁、30:コンクリート供試材、41:ブチルゴム両面テープ、42:粘着テープ、43:シリコンシール、5:ガラスロート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート材の空隙に浸透剤を浸透させる浸透剤浸透装置において、
支持部と、
この支持部を前記コンクリート材に吸着固定する1又は複数個の吸盤と、
開口縁が内側に向けて曲成され、前記浸透剤を保液する保液材が内部に収容された状態で前記開口縁の縁部が前記コンクリート材に当接する袋状容器と、
前記袋状容器の底部に設けられた加圧プレートと、
前記支持部に支持され前記袋状容器の前記縁部が前記コンクリート材に当接した状態で前記加圧プレートを介して前記袋状容器内の保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧部材と、
前記保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧力を調整する加圧力調整部材と、
前記吸盤の内部を排気する排気装置と、
を有することを特徴とする浸透剤浸透装置。
【請求項2】
前記加圧力調整部材は、前記支持部に支持された筒部と、前記加圧プレートに固定され前記筒部の下部に挿入されて前記筒部内を移動可能のシャフトと、前記筒部の上部内面に形成されたネジに螺合して前記筒部内を移動可能の螺棒を備えたハンドル部と、前記筒部内で前記ハンドル部と前記シャフトとの間に介在する圧縮コイルバネと、を有することを特徴とする請求項1に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項3】
前記ハンドル部と前記圧縮コイルバネとの間、又は前記シャフトと前記圧縮コイルバネとの間に、前記加圧部材による加圧力を計測するセンサが設けられており、前記加圧力が所定の範囲になるように前記ハンドル部により前記加圧力を調整することを特徴とする請求項2に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項4】
前記袋状容器の前記縁部は、先端側が薄くなるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項5】
前記吸盤は、前記コンクリート材との接触部が軟質ゴムにより形成され、この軟質ゴムを金属製の基部に貼り合わせたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項6】
前記保液材は、多孔質の弾性体であるスポンジ又は繊維層からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項7】
前記袋状容器は、ゴム製であり、側部が蛇腹状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項8】
前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとを連結する3個以上のヒンジを有し、このヒンジにより前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとの距離が規制されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項9】
前記ヒンジには、前記袋状容器の開口縁を前記加圧プレートから遠ざける方向に付勢する弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項10】
前記保液材に供給する浸透剤を蓄えておく貯液容器と、給液ポンプと、この給液ポンプと前記保液材との間に介在し第1の開閉弁の開放により前記給液ポンプと前記保液材とを接続する給液ホースと、を有し、前記給液ポンプは、前記第1の開閉弁が開放された状態で前記給液ホースを介して前記貯液容器から汲み出した浸透剤を前記保液材に供給することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項11】
更に、第2の開閉弁の開放により前記保液材に接続され不要な浸透剤を前記貯液容器に排出する排液ホースを有することを特徴とする請求項10に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項1】
コンクリート材の空隙に浸透剤を浸透させる浸透剤浸透装置において、
支持部と、
この支持部を前記コンクリート材に吸着固定する1又は複数個の吸盤と、
開口縁が内側に向けて曲成され、前記浸透剤を保液する保液材が内部に収容された状態で前記開口縁の縁部が前記コンクリート材に当接する袋状容器と、
前記袋状容器の底部に設けられた加圧プレートと、
前記支持部に支持され前記袋状容器の前記縁部が前記コンクリート材に当接した状態で前記加圧プレートを介して前記袋状容器内の保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧部材と、
前記保液材を前記コンクリート材に向けて加圧する加圧力を調整する加圧力調整部材と、
前記吸盤の内部を排気する排気装置と、
を有することを特徴とする浸透剤浸透装置。
【請求項2】
前記加圧力調整部材は、前記支持部に支持された筒部と、前記加圧プレートに固定され前記筒部の下部に挿入されて前記筒部内を移動可能のシャフトと、前記筒部の上部内面に形成されたネジに螺合して前記筒部内を移動可能の螺棒を備えたハンドル部と、前記筒部内で前記ハンドル部と前記シャフトとの間に介在する圧縮コイルバネと、を有することを特徴とする請求項1に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項3】
前記ハンドル部と前記圧縮コイルバネとの間、又は前記シャフトと前記圧縮コイルバネとの間に、前記加圧部材による加圧力を計測するセンサが設けられており、前記加圧力が所定の範囲になるように前記ハンドル部により前記加圧力を調整することを特徴とする請求項2に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項4】
前記袋状容器の前記縁部は、先端側が薄くなるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項5】
前記吸盤は、前記コンクリート材との接触部が軟質ゴムにより形成され、この軟質ゴムを金属製の基部に貼り合わせたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項6】
前記保液材は、多孔質の弾性体であるスポンジ又は繊維層からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項7】
前記袋状容器は、ゴム製であり、側部が蛇腹状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項8】
前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとを連結する3個以上のヒンジを有し、このヒンジにより前記袋状容器の前記縁部と前記加圧プレートとの距離が規制されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項9】
前記ヒンジには、前記袋状容器の開口縁を前記加圧プレートから遠ざける方向に付勢する弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項10】
前記保液材に供給する浸透剤を蓄えておく貯液容器と、給液ポンプと、この給液ポンプと前記保液材との間に介在し第1の開閉弁の開放により前記給液ポンプと前記保液材とを接続する給液ホースと、を有し、前記給液ポンプは、前記第1の開閉弁が開放された状態で前記給液ホースを介して前記貯液容器から汲み出した浸透剤を前記保液材に供給することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の浸透剤浸透装置。
【請求項11】
更に、第2の開閉弁の開放により前記保液材に接続され不要な浸透剤を前記貯液容器に排出する排液ホースを有することを特徴とする請求項10に記載の浸透剤浸透装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−1895(P2012−1895A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135097(P2010−135097)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【特許番号】特許第4616419号(P4616419)
【特許公報発行日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(505051024)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【特許番号】特許第4616419号(P4616419)
【特許公報発行日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(505051024)
【Fターム(参考)】
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