説明

消しゴム

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉛筆やシャープペンシル等の筆跡を消去するための消しゴムに関する物であり、更に詳細には少ない消去回数で消し屑が一つにまとまる消しゴムのに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、消しゴムは、基材樹脂として塩化ビニル樹脂や塩化ビニルの共重合体を用いた塩化ビニル系のもの、主に天然ゴムを用いた天然ゴム系のもの、熱可塑性エラストマ−又は合成ゴムを用いたエラストマ−・合成ゴム系のものが知られている。塩化ビニル樹脂を基材樹脂とする消しゴムは、塩化ビニル樹脂と可塑剤、必要に応じて充填剤やその他の添加剤を加えて混合したペースト状のプラスチゾルを加熱して塩化ビニル樹脂に可塑剤を吸収させることによって作られる。天然ゴムを基材樹脂とする消しゴムは、天然ゴムとサブ、充填材を混合し加硫して作られる。熱可塑性エラストマ−又は合成ゴムを基材樹脂とする消しゴムは、熱可塑性エラストマ−又は合成ゴムと充填材、必要に応じて軟化剤を混合して未加硫のまま加熱成型して作られる。ところで、消しゴムは紙面との擦過によって摩耗することが必要である。これは、以下の理由による。鉛筆やシャープペンシルの筆跡は、紙との擦過で摩耗した鉛筆やシャープペンシルの芯の粉が紙面に付着したものである。この芯の摩耗粉が消しゴム表面や消し屑表面に再付着することにより紙面から取り除かれて、筆跡が消去される。この時消しゴムが摩耗して消し屑が発生しないと、消しゴム表面が芯の摩耗粉で覆われて、それ以上芯の摩耗粉を付着することが出来ず、それ以上筆跡を消去することが出来ないばかりか、一旦消しゴムに付着した芯の摩耗粉が再度紙面に付着するため紙面を汚すといったことが起こる。このため、消しゴムは紙との擦過で摩耗して消し屑を出すことが必要である。このような特性を得るため、例えば、塩化ビニル系消しゴムにおいては通常の塩化ビニル樹脂成型品に比べ加熱温度を低くして成形する。このことは特公昭32−8220号公報によって知られている。即ち、特公昭32−8220号公報には塩化ビニル樹脂に対してその重量の80〜160重量%の可塑剤を添加し、比較的低温にて加熱し、低度のゲル化を行わせる消しゴムが開示されており、その成形温度は大体125〜135℃が好適であるとしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述の如く、筆跡を消去することだけから云えば消し屑がまとまる必要はない。しかし、消しゴムの性能を評価する場合、消し屑がまとまることは消しゴムにとって大変有利なことである。即ち、消し屑が紙面の消去したい部分に散らばると消去したい筆跡を覆って消去状況が分からず、しかも、筆跡を巻き込んで黒くなった消し屑が紙面を覆うと紙面が汚れたように見えてしまい消去性が悪いと判断されてしまう。消し屑がまとまる場合でも、一旦細かい消し屑として生成した後、紙と消しゴムの間に挟まれて消しゴムと紙面の擦過運動により消し屑同士がより合わされてまとまる場合には、消し屑がまとまるまでに必要な消去回数が多く、1、2文字を消すような場合には消し屑のまとまりが悪い。また、一旦より合わされた消し屑のよりがほどけて元のバラバラの消し屑になったりしてしまう。散らばった消し屑は回収が面倒で、消し屑で机上や床を汚してしまう。消し屑の回収が簡単で、捨てやすくするためには、消し屑が少ない消去回数の時でも1つにまとまっていることが好ましい。そこで、摩耗の初めから消し屑同士が練り合わされるようにして1つの消し屑として生成すればよい。即ち、本発明が解決しようとする課題は、消し屑が摩耗の初めから消し屑同士が練り合わされるようにして1つの消し屑として生成することにより、ごく少ない擦過回数でも消し屑のまとまりがよい消しゴムを得ることである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、表面弾性が300〜420g/mmであり、表面強度が700〜1300gであることを特徴とする消しゴムを要旨とするものである。
【0005】以下、詳述する。本発明に係る消しゴムは、従来消しゴムの材料として使用されているものを用いることができる。即ち、基材樹脂として塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体や、この塩化ビニル樹脂と他の樹脂とを併用してなる塩化ビニル系消しゴムでも、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマ−やポリスチレン系熱可塑性エラストマ−を使用してなるエラストマ−・合成ゴム系消しゴムでもよい。上記基材樹脂以外の成分についても、従来消しゴムの材料として使用されているものを用いることができる。即ち、塩化ビニル系消しゴムの場合、可塑剤や充填材などを用い、エラストマ−・合成ゴム系消しゴムの場合、充填材や軟化剤などを適宜選択して用いればよい。
【0006】本発明においては、消しゴムの表面弾性が300〜420g/mmであり、表面強度が700〜1300gであることが必要である。ここで、表面弾性とは、消しゴム表面に直径3.0mmの円盤を一定速度2mm/分で押し込んだとき、円盤が受ける押し込んだ長さ当りの抵抗荷重をいう。また、表面強度とは、消しゴム表面に直径3.0mmの円盤を一定速度2mm/分で押し込んだとき、消しゴム表面が破壊したときに円盤が受ける抵抗荷重をいう。消しゴムに円盤を押し込む場合、消しゴム表面と円盤の平面が平行になるように配置して、円盤を消しゴム表面に垂直に一定速度2mm/分で押し込む。初め、円盤に押されて消しゴム表面は凹み、円盤には反発力がかかる。この反発力は円盤が押し込まれた長さに比例して大きくなるため、長さ当たりの抵抗荷重として測定される。消しゴムに円盤を押し込んでいくと、ある時点で消しゴム表面が破壊され、円盤の押し込んでいる部分に穴が開く。この時、円盤にかかる反発力は最大値を示し、この値を消しゴム表面が破壊したときに円盤が受ける抵抗荷重とする。この場合、力を受けるのは消しゴム表面であるため、測定される値は、消しゴム全体の物性ではなく、表面の物性である。
【0007】表面弾性及び表面強度を測定するに当り、円盤を用いているのは、特に表面強度の測定において、押し込む部材の外周部が消しゴムに均一に作用する様になすためである。円盤の大きさは、表面弾性及び表面強度の値に大きく影響する。そこで、円盤の大きさは、測定対象である消しゴム表面の大きさに比べ、充分に小さいことが必要である。例えば消しゴム表面の大きさより円盤の大きさが大きければ消しゴム表面の破壊が起きず、消しゴム全体が破壊することになる。消しゴム表面の大きさの影響を受けずに測定するための消しゴムの大きさは少なくとも円盤の直径の3倍以上の直径の円より大きいことが必要と考えられる。
【0008】また、測定される消しゴムの厚さは、破壊が起きたときに円盤が押し込んだ深さの2倍以上が必要と考えられる。消しゴムの厚さが薄すぎると消しゴム表面の破壊でなく、消しゴム全体の破壊となってしまうためである。
【0009】上記の点及び実際に使用される消しゴムの大きさには限界があることから測定に使用する円盤の大きさを直径3.0mmとした。円盤の厚さは、測定結果に関係しない。表面弾性及び表面強度の測定は、できるだけ静的な状態で測定することが必要であるが、本発明において、円盤を消しゴム表面に押し込む速さは、2mm/分とした。
【0010】測定される反発力は荷重表示のため、表面弾性が300〜420g/mmであり、表面強度が800〜1300gであることとしたが、力の単位で表せば表面弾性は2.9〜4.1N/mmであり、表面強度は7.8〜12.7Nであること勿論である。
【0011】消しゴムの表面弾性及び表面強度は、成形条件的には成形温度、加熱時間、成形時の剪断力と圧力などが挙げられ、組成的には樹脂の種類、重合度、可塑剤の種類、樹脂と可塑剤との比率、充填剤の種類と量などが挙げられる。そして、本発明の消しゴムを得るためには、これらの条件を適宜組み合わせることによって達成する。例えば、塩化ビニル系消しゴムに於いては、液状の可塑剤と粉末状の塩化ビニル樹脂とを混合したペースト状のプラスチゾルを加熱すると、塩化ビニル樹脂が可塑剤を吸収して膨潤する。膨潤が更に進むと塩化ビニル樹脂粒子の表面が溶解しだして、冷却後は溶解した部分で塩化ビニル樹脂粒子同士が強く結合する。この時、塩化ビニル樹脂粒子表面の溶解による結合の度合いが強いほど消しゴムの表面強度が大きくなるものであり、表面弾性もある程度大きくなる。塩化ビニル樹脂粒子表面を溶解させ、表面弾性、表面強度を大きくする方法としては、加熱温度を高くする、可塑剤量/塩化ビニル樹脂量を少なくする、塩化ビニル樹脂への吸収されやすい可塑剤を使用する等があり、さらには加熱時に剪断力や圧力を加える等がある。このほか、添加する充填剤量が増えると、塩化ビニル樹脂同士の結合を阻害し、表面弾性が大きくなる。これらのことは傾向としていえることで、配合する材料によって表面弾性を300〜420g/mm、表面強度を800〜1300gにするための配合比や成形条件は異なるものである。この様に、多くの要因の総合結果として消し屑が1つにまとまる度合いが決まる。消し屑がねり合わされるように一つにまとまることを妨げる力である、可塑剤を吸収して膨潤した塩化ビニル樹脂粒子同士の結合力の強さは、表面強度だけであらわすことが出来ず、表面弾性と表面強度の2つの物性によってあらわされる。このため、同時に表面弾性および表面強度の2つの物性を制御することによって消し屑を1つにまとめることができるものである。
【0012】そして、表面弾性が300g/mm未満や表面強度が800g未満では消しゴムが脆くて大きな消し屑がいくつもできる為消し屑が1つにまとまりにくいものである。また、表面弾性が420g/mmより大きかったり、表面強度が1300gより大きい場合には、消し屑が練り合わされるようにならず、より合わされるようになるため少ない消去回数で消し屑が一つにまとまらないものである。
【0013】
【作用】何故に、消しゴムの表面弾性が300〜420g/mmであり、表面強度が800〜1300gであるとき、消し屑が摩耗の初めから消し屑同士が練り合わされるようにして1つの消し屑として生成し、ごく少ない消去回数でも消し屑が1つにまとまっているかは、定かではないが以下のように推考される。消し屑が練り合わされるようになるためには、消しゴム表面から摩耗した摩耗粉どうしが消しゴムと紙との間で擦過運動により剪断力を受けるとき、摩耗粉中の基材樹脂粒子同士の結合力が弱く、基材樹脂粒子が単独で移動することが必要である。基材樹脂粒子同士の結合が強いと剪断力を受けても1つの摩耗粉としての形をとどめるため、消し屑は摩耗粉どうしが剪断力によってよられた形でまとまる。
【0014】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。尚、以下の実施例、比較例により得た消しゴムについて、消し屑のまとまり性を評価したが、この消し屑のまとまり性を評価する方法として、下記の方法を用いた。通常消しゴムを使用するように紙面上を距離5cm4回往復する。このとき生成する消し屑の内一番大きな消し屑の塊の重量をAとする。消去前と消去後の消しゴムの重量差をBとする。消し屑のまとまり性をCとすると、C=(A/B)×100%とした。そして、C≧80%のとき、見た目に消し屑が一つにまとまっていた。上記測定方法において、4回往復を1回だけではA,Bの重量ともに微小で測定誤差が大きいため実際には数十回繰返し行い、その累計のA,B重量より消し屑のまとまり性Cを算出した。
【0015】(ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤との配合比率を変えて表面弾性、表面強度を変化させた例)
実施例1 塩化ビニル樹脂(ゼオン121:重合度1600:日本ゼオン(株)製) 100重量部 可塑剤(ジイソノニルフタレート、以下DINPと略す) 160重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 35重量部上記成分を混合脱泡してプラスチゾルを得、これを深さ12mm、幅23×63mmの容器に充填して、加熱プレス機にて123℃、20分間加熱成形して消しゴムを得た。
【0016】実施例2 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤(DINP) 148重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 33重量部上記成分を実施例1と同じ方法で成形して消しゴムを得た。
【0017】比較例1 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤(DINP) 136重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 32重量部上記成分物質を実施例1と同じ方法で成形して消しゴムを得た。
【0018】比較例2 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤(DINP) 126重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 30重量部上記成分を実施例1と同じ方法で成形して消しゴムを得た。
【0019】実施例1、2及び比較例1、2で得た消しゴムの表面弾性、表面強度、消し屑のまとまり性を表1に示す。
【0020】
【表1】


【0021】(加熱温度を変えて表面弾性、表面強度を変化させた例)
実施例3実施例1において、加熱成形条件を120℃、20分間となした以外は実施例1と同様になして消しゴムを得た。
【0022】比較例3実施例1において、加熱成形条件を125℃、20分間となした以外は実施例1と同様になして消しゴムを得た。
【0023】比較例4実施例1において、加熱成形条件を130℃、20分間となした以外は実施例1と同様になして消しゴムを得た。
【0024】実施例1、3及び比較例3、4で得た消しゴムの表面弾性、表面強度、消し屑のまとまり性を表2に示す。
【0025】
【表2】


【0026】(充填剤量を変えて表面弾性、表面強度を変化させた例)
実施例4 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤(アデカサイザーPN−160:アジピン酸系のポリエステル可塑剤:旭電化工業(株)製) 160重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 35重量部上記成分を混合脱泡してプラスチゾルを得、これを深さ12mm、幅23×63mmの容器に充填して、加熱プレス機にて130℃、20分間加熱成形して、消しゴムを得た。
【0027】比較例5 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤(アデカサイザーPN−160) 160重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 122重量部上記成分を実施例4と同じ方法で成形を行って消しゴムを得た。
【0028】比較例6 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤(アデカサイザーPN−160) 180重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 38重量部上記成分を実施例4と同じ方法で成形を行って消しゴムを得た。
【0029】実施例5 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤兼安定剤(エポキシ化大豆油) 160重量部 重質炭酸カルシウム 35重量部上記成分を実施例4と同じ方法で成形を行って消しゴムを得た。
【0030】実施例6 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤兼安定剤(エポキシ化大豆油) 160重量部 重質炭酸カルシウム 122重量部上記成分を実施例4と同じ方法で成形を行って消しゴムを得た。
【0031】実施例4〜6及び比較例5、6で得た消しゴムの表面弾性、表面強度、消し屑のまとまり性を表3に示す。
【0032】
【表3】


【0033】(重合度の大きい塩化ビニル樹脂を使用して表面弾性、表面強度を変化させた例)
実施例7 塩化ビニル樹脂(ゼオン43H:重合度3500:日本ゼオン(株)製) 100重量部 可塑剤(DINP) 160重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 35重量部上記成分を実施例4と同じ方法で成形を行って消しゴムを得た。
【0034】比較例7実施例7において加熱成形条件を140℃、20分間となした以外は実施例7と同様になして消しゴムを得た。
【0035】比較例8 塩化ビニル樹脂(ゼオン43H) 100重量部 可塑剤(DINP) 160重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 122重量部上記成分を実施例4と同じ方法で成形を行って消しゴムを得た。
【0036】実施例7及び比較例7、8で得た消しゴムの表面弾性、表面強度、消し屑のまとまり性を表4に示す。
【0037】
【表4】


【0038】実施例8〜10、比較例9 塩化ビニル樹脂(ゼオン121) 100重量部 可塑剤(DINP) 160重量部 安定剤(エポキシ化大豆油) 1重量部 重質炭酸カルシウム 35重量部上記成分の混合物をシリンダー径65mmの押出成形機、圧縮比3のスクリューを使用して押出成形を行って消しゴムを得た。押出成形機各部分の温度は、表5の通りとした。
【0039】
【表5】


【0040】実施例8〜10及び比較例9で得た消しゴムの表面弾性、表面強度、消し屑のまとまり性を表6に示す。
【0041】
【表6】


【0042】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、表面弾性が300〜420g/mmであり、表面強度が800〜1300gである消しゴムは少ない擦過回数で消し屑の殆どが1つの塊にまとまるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面弾性が300〜420g/mmであり、表面強度が700〜1300gであることを特徴とする消しゴム。

【特許番号】特許第3438433号(P3438433)
【登録日】平成15年6月13日(2003.6.13)
【発行日】平成15年8月18日(2003.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−254747
【出願日】平成7年9月6日(1995.9.6)
【公開番号】特開平9−71096
【公開日】平成9年3月18日(1997.3.18)
【審査請求日】平成13年3月30日(2001.3.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【参考文献】
【文献】特開 平4−156398(JP,A)
【文献】特開 平2−111598(JP,A)
【文献】特公 昭32−8220(JP,B1)