説明

消毒剤

【課 題】殺ウィルス効果を持ち、かつ殺菌即効性及び持続性に優れ、手指や皮膚に適用できる消毒剤を提供する。
【解決手段】以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない消毒剤。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、消毒剤全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、消毒剤全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、消毒剤全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、消毒剤全体に対して0.001〜0.1%(w/w)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺ウィルス効果を有し、かつ殺菌即効性及び持続性効果も兼備えた、手指や皮膚に適用できる消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品保存用エタノール製剤において、エタノールなどの低級アルコールに有機酸を添加することで、殺菌効果が増強することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1、及び特許文献2にはエタノールと、有機酸もしくはその塩などとを含有させてなる食品保存用エタノール製剤が記載されている。また、特許文献3、及び特許文献4にはエタノールなどのアルコールと、有機酸を配合した殺菌剤は手指の洗浄や消毒に使用できることが記載されている。また特許文献5には、約60重量%〜約90重量%の有機アルコール、約5重量%〜約35質量%の一または二以上のシリコーンをベースとする物質、約5重量%以下の一または二以上の湿潤剤、約12重量%以下の一または二以上の皮膚pH保持用添加剤、および約25℃で100〜10,000cpの範囲の粘度の製品となる濃度で添加される一または二以上の増濃剤からなる、水が必要でない消毒用手洗浄剤が記載されている。特許文献6には、冷蔵乃至冷凍食品等の除菌に用いる、エチルアルコールとフィチン酸とを必須成分として含有する低温下除菌用アルコール製剤が開示されている。
【0004】
しかし、これらのエタノール製剤は殺菌効果は有するが、ウィルスに対する効果については開示されていない。
【0005】
ここで、特許文献7には0.05〜3重量%の濃度のクエン酸水溶液を接触させることで肝炎B型ウィルスを不活性化することを特徴とする消毒方法が記載されている。この方法は更に、乳酸、リンゴ酸及び/または酒石酸を含有することができるとされている。また、特許文献8には、少なくとも70重量%のエタノール及び/またはプロパノールと0.5ないし5重量%の短鎖の有機酸とを含有する広範囲作用をもつ殺ビールス剤が記載されている。該殺ビールス剤は短鎖有機酸としては、殊に2ないし6の炭素原子を有するものが問題とされている。この殺ビールス剤はポリオビールス、ワクチニアビールス、SV 40−ビールス、及びアデノビールス等の広範囲のビールスに対して有効な殺ビールス剤とされている。また、この薬剤を使用する場合、手消毒用として使用できることも記載されている。
【0006】
特許文献9には、水又はアルコールの溶液の形で、アルカリおよびアルカリ土類金属、土類金属に属する金属および/または第I、第IIまたは第III副(遷移元素)に属する金属の塩を有効量含有する殺ウィルス性消毒剤が開示されており、実施例ではポリオウィルス、アデノウィルス、ワクシニアウィルス及びSV40腫瘍ウィルスに対する有効性が試験されている。特許文献10には、5℃以下で、70−80wt%のアルコール、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛やこれらの混合物、及び塩化物、リン酸塩等を含む水性アルコール性の塩の溶液を接触させる除菌方法について、凝固点以下でアデノウィルス等のウィルスに殺菌効果を示したとされている。
しかし、特許文献7〜10に記載の殺ウィルス剤は即効性および持続性について満足できるものではなかった。
【0007】
特許文献11には、(a)二価の亜鉛塩を必須成分とし、任意成分として(b)殺菌性アルコール、(c)抗菌剤、(d)有機酸を含むpHが5の組成物が開示されている。また、該組成物を手等に30秒間接触させる、酸に不安定なウィルス(acid-labile virus)では指数減少値を少なくとも4とする除菌方法が開示されている。特許文献12には、2以上の水溶性有機亜鉛塩を含んでなる抗刺激組成物であって、該水溶性有機亜鉛塩が0.1%〜2%(重量/重量)の濃度で該抗刺激組成物中に存在し、該組成物が、水と、アルコールと、ゲル化剤、増粘剤、親水性または疎水性重合体、乳化剤および柔軟剤よりなる群から選ばれる1以上の物質とを更に含む抗刺激組成物が開示されている。しかしながら、特許文献11又は12に記載の組成物も、即効性及び持続性をより向上させる工夫の余地があった。
【0008】
特許文献13には、消毒組成物の全質量基準で、C1‐6アルコール少なくとも約50質量%;無機酸、有機酸、又はその混合物から選ばれる酸;及び陽イオン系オリゴマー又はポリマーを含有する術前消毒組成物であって、該組成物は、常在型及び一時滞在型の皮膚フロラに対して、約3分未満で、約3より大のlog killを提供するものであることを特徴とする、術前消毒組成物が開示されている。特許文献13には、補助抗菌剤として亜鉛化合物のような遷移金属化合物を含有してもよいことが開示されている。しかしながら、この組成物も、即効性について改善の余地があった。
【特許文献1】特開平3−168075
【特許文献2】特開昭63−22171
【特許文献3】特開平11−5734
【特許文献4】特開2002−253188
【特許文献5】特開2004−107667
【特許文献6】特開平7−298862
【特許文献7】特許3761199
【特許文献8】特開昭63−14702
【特許文献9】特表平7−504175
【特許文献10】米国特許第6,551,553
【特許文献11】WO2006/062845
【特許文献12】特表2005−524634
【特許文献13】特開2007−211012
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は殺ウィルス効果を持ち、しかも即効的かつ持続的な消毒効果に優れる消毒剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解消するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) 以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含む消毒剤は、これらの成分以外に殺菌消毒を目的とする殺菌消毒剤を含まなくても、エンベロープを有さない(ノンエンベロープ)ウィルスに対して高い有効性を有する。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、消毒剤全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、消毒剤全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、消毒剤全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、消毒剤全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
(ii) また、この消毒剤は即効性および持続性に優れる。
(iii) さらに、上記(a)、(b)、(c)及び(d)以外に殺菌消毒を目的とする殺菌消毒剤を含有させないと、肌への刺激が少ない。
【0011】
すなわち、本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項の消毒剤を提供する。
項1. 以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない消毒剤。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、消毒剤全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、消毒剤全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、消毒剤全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、消毒剤全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
項2. 殺ウィルス用である項1に記載の消毒剤。
項3. 手指消毒用である項1又は2に記載の消毒剤。
【0012】
本発明はまた、以下の各項の方法及び使用を提供する。
項4. 以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物を手指に接触させ又は塗布する、手指の消毒方法。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、組成物全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、組成物全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、組成物全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、組成物全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
項5. 以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物を手指に接触させ又は塗布する、ウィルスの死滅又は増殖抑制方法。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、組成物全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、組成物全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、組成物全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、組成物全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
【0013】
項6. 以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物の、消毒剤としての使用。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、組成物全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、組成物全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、組成物全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、組成物全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
項7. 以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物の、殺ウィルス用消毒剤としての使用。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、組成物全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、組成物全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、組成物全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、組成物全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
【0014】
項8. 消毒のための、以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、組成物全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、組成物全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、組成物全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、組成物全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
項9. ウィルスを死滅又は増殖抑制するための、以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、組成物全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、組成物全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、組成物全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、組成物全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
【発明の効果】
【0015】
本発明の消毒剤は、(a)エタノール及び/又はイソプロパノール、(b)乳酸、(c)クエン酸及び(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を含み、かつ、殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まないことを特徴としている。これにより本発明の消毒剤は、消毒用エタノールでは効果のないノロウィルス、ポリオウィルス、アデノウィルスなどのノンエンベロープウィルスに対して高い有効性を有する。また、本発明の消毒剤は、溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を含むことにより、ウィルス(特にアデノウィルス)に対して優れた殺菌効果を有する。特に、臨床上アデノウィルスに対しては、眼科領域において既存の消毒剤の殺菌効果が問題視されていることから、亜鉛含有化合物を添加することによる高い殺ウィルス効果は重要な効果である。さらに、本発明の消毒剤は、上記成分以外に殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まないことから、肌に対する刺激が少ないという利点を有するものである。
【0016】
さらに、アルコールと有機酸とを含む従来の消毒剤は即効性及び持続性が実用上十分ではないが、本発明の消毒剤は即効性及び持続性に極めて優れる。アルコール濃度が高い消毒剤を頻回使用すると手荒れが生じやすく、手洗いを控える原因となる。ところが、従来のアルコールと有機酸とを含む消毒剤は、殺菌力が持続しないため、手洗いを控えると十分な手指消毒を行うことができない。この点、本発明の消毒剤は持続性に優れるため、頻回使用することなく、十分に手指を殺菌することができる。また、手荒れ部位は細菌群を形成し易いため、病院感染対策上無視できない問題となる。この点、本発明の消毒剤は、使用間隔を長くすることができるため、手荒れが生じ難く、このような問題も生じない。これらのことから、本発明の消毒剤は手指の消毒に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の消毒剤は以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含むことを特徴とする。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、消毒剤全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、消毒剤全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、消毒剤全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、消毒剤全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
【0018】
アルコール
殺菌成分のアルコールはエタノール、イソプロピルアルコール、又はエタノールとイソプロピルアルコールとの混合物である。中でも、エタノール単独又はエタノールとイソプロパノールとの組み合わせが好ましく、特にエタノール単独が好ましい。
【0019】
エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物の含有比率は、消毒剤全体に対して、40〜90%(w/w)であるが、50〜90%(w/w)程度が好ましく、50〜85%(w/w)程度がより好ましい。上記範囲であれば、安全、かつ溶解性に優れ、有効性を有する。また、例えば、エタノール又はイソプロピルアルコールを単独で用いる場合には、エタノール又はイソプロピルアルコールの含有比率は消毒剤全体に対して40〜90%(w/w)であることが好ましく、40〜80%(w/w)程度であることがより好ましい。エタノールとイソプロピルアルコールとを組み合わせて用いる場合には、消毒剤全体に対して、エタノールの含有比率が40〜90%(w/w)であることが好ましく、40〜80%(w/w)程度であることがより好ましく、イソプロピルアルコールの含有比率が10%(w/w)以下であることが好ましく、5%(w/w)以下であることがより好ましい。
【0020】
有機酸
本発明の消毒剤に特定の有機酸、すなわち乳酸及びクエン酸が含まれることにより、エタノール及び/またはイソプロパノールとの相乗効果を奏し、即効性及び持続性が向上する。
【0021】
乳酸の含有比率は、消毒剤全体に対して0.1〜2%(w/w)であり、0.1〜1.5%(w/w)程度とすることが好ましく、0.1〜1%(w/w)程度とすることがより好ましい。
クエン酸の含有比率は、消毒剤全体に対して0.01〜2%(w/w)であり、0.01〜1.5%(w/w)程度とすることが好ましく、0.01〜1%(w/w)程度とすることがより好ましい。
乳酸及びクエン酸の含有比率が上記範囲であれば、エタノール及び/またはイソプロパノールとの相乗効果を奏し、即効性及び持続性が向上する。また、十分な消毒効果を有すると共に手指や皮膚に対して安全である。
【0022】
亜鉛含有化合物
本発明の消毒剤は、さらに、溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物含む。本発明の消毒剤にこのような亜鉛含有化合物が含まれることにより、ウィルス、特にアデノウィルスに対する殺菌効果が向上する。溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、乳酸亜鉛、酢酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛などが挙げられる。中でも、硫酸亜鉛が好ましい。
【0023】
亜鉛含有化合物の含有比率は、消毒剤全体に対して0.001〜0.1%(w/w)であるが、亜鉛含有化合物はアルコールに溶解しにくいため、製剤化の点から、及び消毒剤の安定性の点から0.1%(w/w)未満であることが好ましい。亜鉛含有化合物の含有比率は、消毒剤全体に対して0.001〜0.09%(w/w)程度とすることが好ましく、0.001〜0.05%(w/w)程度とすることがより好ましい。上記範囲であれば、十分な消毒効果を有すると共に手指や皮膚に対して安全である。
【0024】
pH調整剤
本発明の消毒剤には、必要に応じてpH調整剤が含まれていてよい。pH調整剤は、医薬品や化粧品などの皮膚外用剤に適したものであればよく、特に限定されない。このようなpH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物;クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムのような有機酸の塩;水酸化アンモニウムのようなアンモニウムの水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンのようなアルカノールアミン;2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールのようなアルキルアミン;リジン、アルギニンのような塩基性アミノ酸;POEアルキルアミンなどが挙げられる。安全性の点で有機酸の塩若しくはアルカリ金属の塩が好ましく、有機酸の塩がより好ましい。
【0025】
また、pH調整剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸、サリチル酸、フマル酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、酢酸、EDTA−2ナトリウムのような有機酸;塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸のような無機酸なども使用できる。
pH調整剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。本発明の消毒剤のpHは2〜8程度が好ましく、3〜7程度がより好ましく、3.5〜6程度が特に好ましい。上記範囲であれば、十分な消毒効果を有すると共に、手指や皮膚に対して安全である。
【0026】
増粘剤
本発明の消毒剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、増粘剤が含まれていてよい。増粘剤としては、セルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース 、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;アクリル酸−澱粉グラフト共重合体架橋物、N−ビニルアセトアミド/アクリル酸ナトリウム共重合体等のアクリル酸又はその塩を構成成分のひとつとする共重合体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリエチレンオキサイド;メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体;ポリアクリルアミド;アルギン酸;アルギン酸ナトリウム;アルギン酸プロピレングリコールエステル;ゼラチン;アラビアゴム;トラガントゴム;ローカストビーンガム;グアガム;タマリンドガム;キサンタンガム;ジェランガム;カラギーナン、寒天等が挙げられる。増粘剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも安全性、使用感の点で、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガムが好ましい。
【0027】
香料
本発明の消毒剤には、必要に応じて香料が含まれていてよい。香料は、医薬品や化粧品などの皮膚外用剤に適したものであればよく、特に限定されない。このような香料として、イソプロピルアルコール、ユーカリ油、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、リナソール、リナリルアセテートなどが挙げられる。
【0028】
その他の成分
本発明の消毒剤は、上記(a)〜(d)の他に殺菌消毒を目的として殺菌消毒剤を含まない。このような殺菌消毒剤としては、アクリノール、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、セチルリン酸化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化メチルロザニリン、ヨウ素、ヨウ化カリウム、ポビドンヨード等のヨードホール、ヨードホルム、マーキュロクロム、アルキルポリアミノエチルグリシン、チメロサール、プロノポール、レゾルシン、ヒノキチオール、トリクロサン、フェノール及びその誘導体、グルコン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンのようなクロルヘキシジン塩等が挙げられる。本発明の消毒剤は、このような殺菌消毒剤を殺菌消毒を目的として含まないことから、肌への刺激が少ないものである。
【0029】
また、本発明の消毒剤は殺菌消毒剤に通常添加される公知の保湿剤を含んでいてもよい。このような公知の保湿剤としては、例えばシリコーンオイル、脂肪酸エステル、ピロリドンカルボン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、dl−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、尿素、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等が挙げられる。シリコーンオイルは、保湿剤としての作用に加え、例えば手術用手袋の脱着を容易にし得る潤滑作用も有する。脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル又はマレイン酸イソブチル等が挙げられる。保湿剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。保湿剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
本発明の消毒剤には、必要に応じて、グリチルリチン酸又はその誘導体、ビタミンE、ビタミンEアセテート、ビタミンB6のような薬剤;ノニオン性界面活性剤;アミノ酸又はその誘導体;アジピン酸ジイソブチル;アラントイン、ビタミンA誘導体;グリセリン脂肪酸エステル類;カプリン酸のような脂肪酸類等を配合することもできる。これらの化合物は、手指の保護作用がある。また、グリセリン脂肪酸エステル類;カプリン酸のような脂肪酸類を配合することにより、消毒剤に殺芽胞効果を付与し、殺菌スペクトルを広げることができる。
【0031】
調製方法
本発明の消毒剤は、各成分を混合し、必要に応じて加温して常温で固体の成分を溶解させ、通常はpHを調整することにより得ることができる。
【0032】
使用方法
本発明の消毒剤は日常的手洗い、衛生的手洗い、手術時手洗いのいずれにも用いることができる。また、消毒方法としては、ラビング法、スワブ法など通常用いられるすべての方法で行うことができる。
本発明の消毒剤の使用形態としては、ハンドローションのほか、ゲル、クリーム、フォームなどの形態が挙げられる。
【0033】
本発明の消毒剤は、ノロウィルス、ポリオウィルス、アデノウィルスなどのノンエンベロープウィルスに対して高い殺菌及び増殖抑制効果を有することから、殺ウィルス用消毒剤として好適なものである。特に、アデノウィルスに対しても高い殺菌効果を有することから有用である。また、手指消毒用の消毒剤として好適に使用することができるものである。
【0034】
手指の消毒方法、及びウィルスの死滅又は増殖抑制方法
以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物を手指に接触させ又は塗布することにより、手指の消毒を行うことができる。また、手指のウィルスを死滅させ、又はその増殖を抑制することができる。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、組成物全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、組成物全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、組成物全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、組成物全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
上記組成物を手指に接触させ又は塗布する(1)手指の消毒方法、及び(2)ウィルスの死滅又は増殖抑制方法も、本発明の1つである。
【0035】
本発明の手指の消毒方法、及びウィルスの死滅又は増殖抑制方法における上記組成物やその好ましい態様は、上記の消毒剤と同様である。
組成物を手指に接触させ又は塗布する方法としては、上記消毒剤を用いる消毒方法と同様であり、ラビング法、スワブ法など通常用いられるすべての方法で行うことができる
【0036】
組成物の使用
上記(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物は、消毒剤又は殺ウィルス用消毒剤として使用することができるものである。
上記組成物の、(1)消毒剤としての使用、及び(2)殺ウィルス用消毒剤としての使用も、本発明の1つである。
本発明の使用における上記組成物やその好ましい態様は、上記の消毒剤と同様である。組成物の使用方法等も、上記の消毒剤と同様である。
【0037】
消毒用組成物
消毒のための、上記(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物も、本発明の1つである。ウィルスを死滅又は増殖抑制するための、上記(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない組成物も、本発明の1つである。
本発明の組成物やその好ましい態様は、上記の消毒剤と同様である。組成物の使用方法等も、上記の消毒剤と同様である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び試験例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
実施例1〜3及び比較例1〜12
(1)消毒剤組成物の調製
以下の表1及び2に示す各成分を撹拌混合し、合計量を100gとした。
【0040】
【表1】

【0041】

【表2】

【0042】
比較例11の消毒剤として、市販の0.2%塩化ベンザルコニウム・エタノール製剤を用いた。比較例11は、プロピレングリコール及びエタノールを含むが、有機酸を含まない消毒剤である。
【0043】
(2)ノンエンベロープウィルスに対する殺ウィルス効果1
試験方法
ネコ腎由来株化細胞(CRFK) JCRB 9035にネコカリシウィルス(FCV) F-9株ATCC VR-782を感染させた。ネコカリシウィルスはノロウィルスの近縁種であり、培養技術が確立されていないノロウィルスに代えて使用されている。十分にウィルスの増殖が認められたところで遠心分離した上清を、ウィルス液として使用した。このウィルス液10μLに190μLの薬剤を混和し、次いで所定時間に一部をサンプリングし、培地で100倍に希釈することにより、反応を停止した。その後、反応液を96穴マイクロプレート上のCRFK細胞に感染させて培養した。
薬効は、CRFK細胞の細胞変性効果を指標とし50%組織培養感染価(TCID50)の低下を指数減少値として求めた。
結果を以下の表3及び図1に示す。尚、対照例として、PBS(リン酸緩衝生理食塩溶液)を用いた。
【0044】
【表3】

【0045】
薬剤作用後0.5分経過したときのTCID50の指数減少値が、薬剤添加前に比べ4 Log減少することを薬効の到達基準とした。
表3及び図1からわかるように実施例1〜3の消毒剤では、薬剤作用後0.5分経過時にTCID50値が検出限界未満まで減少した。
【0046】
(3)ノンエンベロープウィルスに対する殺ウィルス効果2
試験方法
ヒト肺癌由来株化細胞(A549)RCB 0098にアデノウィルス5型(Adv)ATCC VR−5を感染させた。十分にウィルスの増殖が認められたところで遠心分離した上清を、ウィルス液として使用した。このウィルス液10uLに190uLの薬剤を混和し、次いで所定時間に一部をサンプリングし、培地で100倍に希釈することにより反応を停止した。その後、反応液を96穴マイクロプレート上のA549細胞に感染させて培養した。
薬効は、A549細胞の細胞変性効果を指標とし50%組織培養感染価(TCID50)の低下を指数減少値として求めた。
結果を以下の表4及び図2に示す。尚、対照例としてPBS(リン酸緩衝生理食塩溶液)を用いた。
【0047】
【表4】

【0048】
薬剤作用後0.5分経過したときのTCID50の指数減少値が、薬剤添加前に比べ4 Log減少することを薬効の到達基準とした。
表4及び図2からわかるように実施例1及び2の消毒剤では、薬剤作用後0.5分経過時にTCID50値が検出限界未満まで減少した。実施例3の消毒剤では、薬剤作用後1分経過時にTCID50値が検出限界未満まで減少した。
このことから、亜鉛含有化合物を含むことにより、アデノウィルスに対する不活性化効果(殺ウィルス効果)が向上することがわかる。
一方、比較例4〜12の消毒剤は、薬剤作用後0.5分又は1分経過時のTCID50の減少効果が実用性を加味した薬効の基準(4 Log減少)を満たさなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の消毒剤は消毒用エタノールでは効果のないノロウィルス、ポリオウィルス、アデノウィルスなどのエンベロープを有さないウィルスに対して高い有効性を有する。
また、本発明の消毒剤は即効性および持続性に著しく優れるため、頻繁に使用しなくても、十分な手指消毒を行うことができる。このため、頻繁にアルコール消毒剤を使用することによる手荒れを回避することができ、手指消毒用に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】各実施例及び各比較例の間で、ノロウィルス代替ネコカリシウィルス不活性効果について、50%組織培養感染価(TCID50)を比較した結果を示す図である。
【図2】各実施例及び各比較例の間で、アデノウィルス不活性効果について、50%組織培養感染価(TCID50)を比較した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)及び(d)を含み、かつ殺菌消毒を目的とする他の殺菌消毒剤を含まない消毒剤。
(a)エタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物を、消毒剤全体に対して40〜90%(w/w)
(b)乳酸を、消毒剤全体に対して0.1〜2%(w/w)
(c)クエン酸を、消毒剤全体に対して0.01〜2%(w/w)
(d)溶液中で亜鉛イオンを遊離する亜鉛含有化合物を、消毒剤全体に対して0.001〜0.1%(w/w)
【請求項2】
殺ウィルス用である請求項1に記載の消毒剤。
【請求項3】
手指消毒用である請求項1又は2に記載の消毒剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−255101(P2008−255101A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52762(P2008−52762)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【特許番号】特許第4163249号(P4163249)
【特許公報発行日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(393028036)丸石製薬株式会社 (20)
【Fターム(参考)】