説明

液中摺動材料

【課題】液中で優れた耐摩耗性を有する液中摺動材料であって、液体潤滑膜が形成され難い表面形状でも容易に液体潤滑膜を形成でき、また液体潤滑膜が形成されない場合でも耐摩耗性に優れる液中摺動材料を提供する。
【解決手段】 液中で使用される摺動部材を形成するための液中摺動材料であって、30 %以上の連通孔率を有する樹脂多孔体からなる。また、上記樹脂多孔体は、気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、該気孔形成材を溶解し、かつ上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中や水中などの液体中で使用される摺動部材を形成するための液中摺動材料に関する。
【背景技術】
【0002】
油中や水中などの液体中で使用される摺動部材は、その摺動面に該液体を保持し液体潤滑膜を形成することで潤滑特性を示す。
油中で使用される摺動部材としては、エンジンオイル中で摺動する自動車エンジン部のメタル軸受などがある。該軸受では、摺動特性を向上させるため、摺動面にエンジンオイルを保持し、油膜を形成しやすくなるように摺動面となる該軸受表面に溝やディンプルが形成されている。また、同様の原理で焼結金属なども表面に油膜が形成されやすく油中摺動材料として多用されている。
水中で使用される摺動材料としては、耐食性や耐薬品性に優れることから主に樹脂が使用されている。このような樹脂は水と親和性の高い黒鉛などを配合することにより、摺動表面に水を保持し潤滑剤とすることで高い摺動特性を示す。
従来、水中などでも使用できる摺動材料として、ポリテトラフルオロエチレンに、マイカまたはタルクとポリイミド粉末を配合することにより、従来の黒鉛を配合した樹脂材料よりも耐摩耗性を向上させたもの(特許文献1参照)などがある。
【0003】
しかしながら、メタル軸受や焼結金属などの金属摺動材料は、その製品形状が平面同士などのように油膜が形成され難い形状である場合や、起動時などの油膜が形成されていない状態では、金属の強い凝着により摩耗し、また摺動相手材を損傷させるという問題がある。
また、水中で使用される特許文献1の摺動材料は、母材がポリテトラフルオロエチレンであるために強度が低く高面圧条件では使用できないという問題がある。また射出成形できないことから、複雑な製品形状の場合には切削加工を要するため高価であるという問題がある。
【特許文献1】特開平9−71704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、液中で優れた耐摩耗性を有する液中摺動材料であって、液体潤滑膜が形成され難い表面形状でも容易に液体潤滑膜を形成でき、また液体潤滑膜が形成されない場合でも耐摩耗性に優れる液中摺動材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液中摺動材料は、液中で使用される摺動部材を形成するための液中摺動材料であって、30 %以上の連通孔率を有する樹脂多孔体からなることを特徴とする。
また、上記樹脂多孔体は、気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、該気孔形成材を溶解し、かつ上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有することを特徴とする。
【0006】
該液中摺動材料により形成された摺動部材は、該摺動面が平面形状などであっても、その表面連通孔に油などが保持され、該表面に容易に油膜などの液体潤滑膜を形成することができ、その剥離も起こりにくい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液中摺動材料は、30 %以上の連通孔率を有する樹脂多孔体からなるので、その摺動面形状が平面形状などのように液体潤滑膜が形成され難い形状であっても、容易に液体潤滑膜を形成することができ、かつ膜剥離が起こりにくく優れた摺動特性を発揮できる。
本発明の液中摺動材料を形成する樹脂多孔体は、用途や仕様に応じて任意の樹脂および充填材を選択して用いることができるので、優れた強度、耐熱性、低摩擦係数、耐摩耗性などを併せもたせることができる。また、バックメタルなどの補強部材を併用することなく、該液中摺動材料のみを用いて必要特性を満足する摺動部材を形成できる。
また、射出成形可能な樹脂を用いることにより、複雑な形状の摺動部材であっても安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の液中摺動材料は、任意の液体中で使用される液中摺動部材を形成するための材料である。上記液体としては、潤滑油、加工油、食品油などの油、水、海水または種々の水溶液、塩酸、硫酸、硝酸などの薬品、石油ベンジン、アセトン、エタノールなどの有機溶剤などが挙げられる。
該液中摺動材料は、樹脂多孔体を形成する樹脂を用途や仕様に応じて選択することにより、任意の液中摺動部材の材料として使用することができる。液中摺動部材としては、例えば、軸受、歯車、シールリング、ローラなどが挙げられる。
液中摺動材料を使用する環境が、液体が希薄な場合、低速高面圧であり液体潤滑膜が形成され難い場合、または摺動初期の摺動特性が重視される場合には、予め使用環境と同じ液体、または該液体と相互溶解できる液体を樹脂多孔体に含浸させておくことが好ましい。なお、含浸方法としては、減圧含浸、加圧含浸など任意の方法を用いることができる。
以下、連通孔率、および本発明の液中摺動材料を構成する樹脂、気孔形成材、成形方法、抽出方法について説明する。
【0009】
球体を点接触により最も密に充填する形態として面心立方格子、六方最密充填があり、それらの充填率は、(球の体積÷外接立方体の体積)÷(正三角形の高さ÷底辺)÷(正四面体の高さ÷一辺)で計算され、共に 74 %である。(100−充填率)として定義される気孔率としては 26 %になる。
以上の計算は、同一サイズの球体を考えた場合であるが、複数のサイズの球体を充填した場合は、六方最密充填よりも充填率は大きくなり、気孔率は小さくなる。
また、粉末状の球体樹脂粒子を圧縮成形した後に焼結する場合、点接触はあり得ず、球体樹脂粒子は変形して面接触する。このため、六方最密充填よりも充填率はより大きくなり、気孔率はより小さくなる。このため従来の焼結樹脂成形体の気孔率は 20 %程度が限界となっている。
【0010】
本発明における連通孔率は、上記の気孔率と略同一定義で、かつ気孔が連続している状態の気孔率をいう。すなわち、相互に連続している気孔の総体積が樹脂成形体に占める割合をいう。
具体的には、連通孔率は数1内の式(1)に示す方法で算出した。
【数1】

上記、数1において、各符号の意味を以下に示す。
V;加熱圧縮成形法にて成形された洗浄前成形体の体積
ρ;加熱圧縮成形法にて成形された洗浄前成形体の密度
W;加熱圧縮成形法にて成形された洗浄前成形体の重量
1;樹脂粉末の体積
ρ1;樹脂粉末の密度
1;樹脂粉末の重量
2;気孔形成材の体積
ρ2;気孔形成材の密度
2;気孔形成材の重量
3;洗浄後の多孔体の体積
3;洗浄後の多孔体の重量
V’2;洗浄後に多孔体に残存する気孔形成材の体積
【0011】
本発明においては、以下に述べる製造方法により、30 %以上、好ましくは 30 %〜 90 %、より好ましくは 30〜70 %の連通孔率を有する樹脂多孔体が得られる。
【0012】
本発明に使用できる樹脂多孔体は、気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、該気孔形成材を溶解し、かつ上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から気孔形成材を抽出して得られる。例えば、成形温度X℃の樹脂Aに、このX℃より高い融点Y℃を有する水溶性粉末Bを配合して、X℃で成形して成形体とした後、該成形体より水溶性粉末Bを水で抽出して多孔体が得られる。
なお、樹脂多孔体の製造方法は、これに限られるものでなく、30 %以上の連通孔率となる任意の方法を採用できる。
【0013】
本発明に使用できる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーまたはゴムなどの樹脂粉末やペレットを使用できる。樹脂粉末、ペレットの粒径や形状は、溶融成形する場合には、溶融時に気孔形成材と混練されるので、特に限定されるものではない。ドライブレンドしてそのまま圧縮成形する場合には1 〜 500 μmの平均粒径が好ましい。
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂、変性ポリエチレン樹脂、水架橋ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリケトン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリオキサゾリン樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などを例示できる。また、上記合成樹脂から選ばれた2種以上の材料の混合物、すなわちポリマーアロイなどを例示できる。
【0014】
エラストマーまたはゴムとしては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の加硫ゴム類;ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、軟質ナイロン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー類が例示できる。
【0015】
気孔形成材としては、樹脂の成形温度よりも高い融点を有し、該樹脂に配合されて成形体とされた後、その樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から溶解されて抽出できる物質であれば使用できる。
気孔形成材は、無機塩化合物、有機塩化合物、またはこれらの混合物であることが好ましく、特に洗浄抽出工程が容易となる水溶性物質であることが好ましい。また、アルカリ性物質、好ましくは防錆剤として使用できる弱アルカリ性物質が好ましい。弱アルカリ塩としては、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、無機アルカリ金属塩、無機アルカリ土類金属塩などが挙げられる。未抽出分が脱落したときも、比較的軟らかく、転動面やすべり面を損傷し難いことから、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩を用いることが好ましい。なお、これらの金属塩は1種または2種以上混合して用いてもよい。また、洗浄用溶媒として安価な水を使用することができ、気孔形成時における廃液処理などが容易となることから水溶性の弱アルカリ塩を使用することが好ましい。
また、成形時における気孔形成材の溶解を防止するため、気孔形成材は使用する樹脂の成形温度よりも高い融点の物質を使用する。
本発明に好適に用いることができる水溶性有機アルカリ金属塩としては、安息香酸ナトリウム(融点 430 ℃)、酢酸ナトリウム(融点 320 ℃)またはセバシン酸ナトリウム(融点 340 ℃)、コハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。融点が高く、多種の樹脂に対応でき、かつ水溶性が高いという理由から、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはセバシン酸ナトリウムが特に好ましい。
無機アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0016】
気孔形成材は液中摺動材料の用途に応じた平均粒径を管理する。
気孔形成材の割合は、樹脂粉末、多孔体形成材料および充填材などの他の材料を含めた全量に対して、30 体積%〜 90 体積%、好ましくは 40体積%〜90体積%とする。30体積%以下では多孔体の気孔が連続孔になり難く、90体積%以上では所望の機械的強度が得られない。
また配合時において、気孔形成材の抽出に使用する溶媒に不溶な充填材を配合してもよい。
【0017】
例えば液中摺動材料の摩擦・摩耗特性を改善して各種機械物性を向上させる目的で、ガラス繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、窒化硼素繊維、石英ウール、金属繊維等の繊維類またはこれらを布状に編んだもの、炭酸カルシウム、リン酸リチウム、炭酸リチウム、硫酸カルシウム、硫酸リチウム、タルク、シリカ、クレー、マイカ等の鉱物類、酸化チタンウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、硫酸カルシウムウィスカなどの無機ウィスカ類、カーボンブラック、黒鉛、ポリエステル繊維、ポリイミド樹脂やポリベンゾイミダゾール樹脂等の各種熱硬化性樹脂などを配合できる。
また、摺動性を向上させる目的で、アミノ酸化合物やポリオキシベンゾイルポリエステル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、液晶樹脂、アラミド樹脂のパルプ、ポリテトラフルオロエチレンや窒化硼素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン等を配合できる。
【0018】
また、熱伝導性を向上させる目的で、炭素繊維、金属繊維、黒鉛粉末、酸化亜鉛、窒化アルミ粉等を配合してもよい。および上記充填材を複数組み合わせて使用することも可能である。
なお、この発明の効果を阻害しない配合量で一般合成樹脂に広く適用しえる添加剤を併用してもよい。例えば離型剤、難燃剤、帯電防止剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、着色剤、導電性付与剤等の工業用潤滑剤を適宜添加してもよく、これらを添加する方法も特に限定されるものではない
【0019】
樹脂材料と気孔形成材の混合法は特に限定されるものではなくドライブレンド、溶融混練など樹脂の混合に一般に使用する混練法が適用できる。
また、気孔形成材を液体溶媒中に溶解させて透明溶液とした後、この溶液に樹脂粉末を分散混合させて、その後、この溶媒を除去する方法を用いることができる。
分散混合させる方法としては、液中混合できる方法であれば特に限定されるものではなく、ボールミル、超音波分散機、ホモジナイザー、ジューサーミキサー、ヘンシェルミキサーなどが例示できる。また、分散液の分離を抑えるために少量の界面活性剤を添加することも有効である。なお、混合時においては、混合により気孔形成材が完全に溶解するよう溶媒量を確保する。
また、溶媒を除去する方法としては、加熱蒸発、真空蒸発、窒素ガスによるバブリング、透析、凍結乾燥などの方法を用いることができる。手法が容易で、設備が安価であることから加熱蒸発により液体溶媒の除去を行なうことが好ましい。
【0020】
樹脂に気孔成形材を配合した混合物の成形に関しては、目的とする摺動部材に応じて、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、真空成形、トランスファ成形などの任意の成形方法を採用できる。複雑形状の形成が容易であることから射出成形が好ましい。また成形前に作業性を向上させるため、ペレットやプリプレグなどに加工してもよい。
【0021】
得られた成形体からの気孔形成材の抽出は、上記気孔形成材を溶解し、かつ上記樹脂を溶解しない溶媒で成形体を洗浄することにより行なう。
該溶媒としては、例えば、水、および水と相溶しうる溶媒としてアルコール系、エステル系、ケトン系溶媒などを用いることができる。これらの中で、樹脂および気孔形成材の種類によって上記条件に従い適宜選択される。また、これらの溶媒は1種または2種以上を混合し使用してもよい。廃液処理などが容易、安価などの利点から水を用いることが好ましい。
該抽出処理を行なうことにより、気孔形成材が充填されていた部分が溶解され、該溶解部分に気孔が形成された樹脂多孔体が得られる。
【0022】
本発明の液中摺動材料は、該液中摺動材料を形成する樹脂多孔体が上記製造方法により製造されるので、上記列挙したように樹脂材料として成形温度が200℃以下のポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂などから、300℃をこえるポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などまで広範囲に自由に選択できると共に、充填材も潤滑油の影響なく配合できる。例えば、樹脂多孔体を繊維強化すれば高強度の液中摺動材料とでき、耐熱性の高い樹脂と潤滑油を使用すれば耐熱性液中摺動材料とできる。また、射出成形可能な樹脂を使用することで、複雑な形状でも安価に製造することができる。
【実施例】
【0023】
実施例1
ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉末(ビクトレックス社製150PF)と炭素繊維(東レ(株)製MLD100)と安息香酸ナトリウム粉末(和光純薬(株)製試薬)とを体積比 50 : 10 : 40 の割合でミキサーにて5分間混合して混合粉末を得た。この混合粉末を、加熱圧縮成形( 380 ℃× 30 分)した後、切削加工にて所定の成形体(φ17mm ×φ21mm ×10mm の試験片)とした。該成形体を 80 ℃の温水で超音波洗浄器にて 10 時間洗浄して安息香酸ナトリウム粉末を溶出させた。その後 100 ℃で 8 時間乾燥し連通孔率 38 %の多孔体を得た。
【0024】
実施例2
ポリフェニレンサルフィド樹脂粉末(大日本インキ(株)製T4AG)と炭素繊維(東レ(株)製MLD100)と安息香酸ナトリウム粉末(和光純薬(株)製試薬)とを体積比 50 : 10 : 40 の割合でミキサーにて5分間混合して混合粉末を得た。この混合粉末を、加熱圧縮成形( 330 ℃× 30 分)した後、切削加工にて所定の成形体(φ17mm ×φ21mm ×10mm の試験片)とした。該成形体を 80 ℃の温水で超音波洗浄器にて 10 時間洗浄して安息香酸ナトリウム粉末を溶出させた。その後 100 ℃で 8 時間乾燥し連通孔率 38 %の多孔体を得た。
【0025】
比較例1
ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉末(ビクトレックス社製150PF)と炭素繊維(東レ(株)製MLD100)とを体積比 85 : 15 の割合でミキサーにて5分間混合した後、加熱圧縮成形( 380 ℃× 30 分)し、切削加工にて所定の試験片(φ17mm ×φ21mm ×10mm)を得た。
【0026】
比較例2
焼結金属(連通孔率 30%、Cu−Sn系)を切削加工にて所定の試験片(φ17mm ×φ21mm ×10mm)とした。
【0027】
比較例3
ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末(三井デュポンフロロケミカル社製7J)と黒鉛(日本黒鉛(株)製ACP)とを体積比 85 : 15 の割合でミキサーにて5分間混合した後、加熱圧縮成形( 380 ℃× 30 分)し、切削加工にて所定の試験片(φ17mm ×φ21mm ×10mm)を得た。
【0028】
実施例1、実施例2、および比較例1〜比較例3で作製した試験片について、リングオンディスク試験機にて以下の油中摺動試験および水中摺動試験を行なった。結果を表1に示す。
油中摺動試験:
油中での摩擦摩耗特性を調べるために以下の試験条件にてリングオンディスク試験を行ない比摩耗量を測定した。また、相手材の損傷を調べた。なお、相手材の損傷がなかったものは○、相手材が損傷したものは×とした。
液体:オートマチックトランスミッション油(昭和シェル石油社製デキシロン2)
面圧: 5.5 MPa
速度: 64m/分
時間: 5 時間
試験片:φ17mm ×φ21mm ×10mm
相手材:φ33mm×6mm, SUJ2(硬さ:HRC62、表面粗さ:Ra=0.5μm )
【0029】
水中摺動試験:
水中での摩擦摩耗特性を調べるために以下の試験条件にてリングオンディスク試験を行ない比摩耗量を測定した。また、相手材の損傷を調べた。なお、相手材の損傷がなかったものは○、相手材が損傷したものは×とした。
液体:純水
面圧: 0.4 MPa
速度: 110m/分
時間: 50 時間
試験片:φ17mm ×φ21mm ×10mm
相手材:φ33mm×6mm, SUS304(表面粗さ:Ra=0.5μm )
【0030】
【表1】

【0031】
各実施例では比摩耗量が、油中で10×10-8mm3/(N・m )以下、水中でも30×10-8mm3/(N・m )以下であり耐摩耗性に優れていた。また、相手材への損傷も見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の液中摺動材料は、液中で優れた耐摩耗性などを有するので、液中摺動部で使用される軸受、歯車、シールリング、ローラなどの液中摺動部材の材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中で使用される摺動部材を形成するための液中摺動材料であって、
該液中摺動材料は、30 %以上の連通孔率を有する樹脂多孔体からなることを特徴とする液中摺動材料。
【請求項2】
前記樹脂多孔体は、気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、該気孔形成材を溶解し、かつ前記樹脂を溶解しない溶媒を用いて前記成形体から前記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有することを特徴とする請求項1記載の液中摺動材料。

【公開番号】特開2006−63279(P2006−63279A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250440(P2004−250440)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】