説明

液体処理装置および液体処理方法

【課題】省設置スペースで生産性低下やランニングコスト上昇を極力回避し、効率的に被処理水から溶存ガスを除去することが可能な液体処理装置および液体処理方法を提供する。
【解決手段】液体処理装置は、被処理水を圧送する送水装置10と、気体を圧送する送気装置20と、被処理水を気体と混合する混合器30と、分岐管32により分かれた空気が混合された被処理水が加圧噴射される円筒状の処理槽33と、処理槽33内の気相からのガスを排気する排気バルブ34とを備えている。処理槽33では、気/液相が維持され、分岐管32からの被処理水が上部から気相を介して加圧噴射されることで槽内に溜まった温泉水と撹拌混合されるとともに、処理槽33の気相の気体が液相の液体に溶解することで、被処理水に含有するメタンなどのガスを除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉水等の水を主体とした液体に溶存したメタンガスのような気体の除去に適した液体処理装置および液体処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料水や温泉水などの用途に使用される地下水には、可燃気体である天然ガス(主成分メタン)が溶存している場合が多く、該地下水から脱気された天然ガスが蓄積して、爆発する事故が発生している。そのため、地下水を飲料水や温泉水などの用途に用いる場合、規定値以下にまで溶存可燃性ガスを除去するよう規制されている。
【0003】
従来、被処理ガスに含まれる溶存ガスを脱気する方法としては、液の入った容器を減圧にする方法(例えば、特許文献1参照)や、常圧で被処理ガスに除去対象でないガスをバブリングして、溶存ガスを脱離させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−265850号公報
【特許文献2】特開平6−23349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、温泉水などの地下水は、ポンプで汲み上げられたりすることにより、通常、加圧された状態で送水パイプを用いて供給される。
従来の技術では、加圧した状態の被処理水から溶存したメタンガスを除去するに当たり、被処理水を減圧化、あるいは常圧にしてから、脱気処理を行う必要があるため、配管を介して供給するためには、再度被処理水を加圧する必要があり、昇圧設備が必要となり、また、ランニングコスト上昇を招くという問題があった。
また、地下水などミネラル分を含む被処理水の場合には、常圧・開放式で脱気処理を行う場合、藻やアオコなどが発生し、衛生面で好ましくない。また、常圧・開放式の脱気装置は、装置が大型化しやすく小規模用途での適用が困難である。
【0006】
このように、従来の液体処理設備には、いまだ課題が多いのが実情である。
かかる状況下、本発明の目的は、省設置スペースで生産性低下やランニングコスト上昇を極力回避し、効率的に通過する水量に合わせて被処理水から溶存ガスを除去することが可能な液体処理装置および液体処理方法を提供することである。
また、本発明は水を主体とする液体に含まれる溶存ガス(被処理ガス)成分を除去したり、液体中に気体を溶存させたりするなどの用途に適した液体処理装置及び液体処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、被処理水として水を主体とする液体を流動させながら処理する処理装置であって、
気相と液相が共存する密閉された処理槽と、
先端が前記処理槽上部に連結され、前記液体に気体を混合させた混合流体を前記先端から前記処理槽内の前記気相を介して前記液相に連続的に噴射する噴射管と、
前記処理槽に設けられ、前記液相の液体を前記処理槽から連続的に排出する排出口と、
前記処理槽に設けられ、前記気相の気体を前記処理槽から排気する排気口と、
前記混合流体を構成する気体及び液体、前記排出口から排出される液体並びに前記排気口から排出される気体の少なくとも一つの流量を調整することにより前記処理槽内の気相の高さをほぼ一定に維持する流量調整手段とを備えることを特徴とする液体処理装置が提供される。
【0008】
本発明の第2の態様に従えば、被処理水として水を主体とする液体を流動させながら処理する処理方法であって、
前記液体に気体を混入して混合流体を形成することと、
前記気相と液相が共存する閉鎖された処理槽の上部に連結された噴射管から、前記混合流体を前記処理槽中の前記気相を介して前記液相に連続的に噴射することと、
前記処理槽の液相の液体を連続的に排出することと、
前記処理槽の気相の気体の排気量を調整することと、
前記混合流体を構成する気体及び液体、前記処理槽から排出される液相の液体並びに前記処理槽から排気される気相の気体の少なくとも一つの流量を調整することにより前記処理槽内の気相の高さをほぼ一定に維持することを含むことを特徴とする液体処理方法が提供される。
【0009】
本発明の第1および第2の態様によれば、噴射管から混合流体が処理槽の気相を介して液相に連続的に噴射されるので、混合流体が液相に激しく衝突し、且つ液相の深部まで進入することで、混合流体に含まれる気体を水を主体とする液体中に溶存させ易くすることができる。また、閉鎖された処理槽の気相の気体を液相中の液体に溶存させることができる。一方で、水に含まれていた気体(有害気体のような除去されるべき気体)は混合流体に含まれる気体に置換されることができる。
【0010】
本発明の液体処理装置において、さらに、前記噴射管への混合流体を形成するための混合器を備え、該混合器は、液体が流通する流路と、該流路内に収容されて液体内に気体を噴出するノズルとを有することが好ましい。
【0011】
本発明の液体処理装置及び液体処理方法において、前記処理槽は、横置きにされた円筒状の容器であり、前記噴射管は、処理槽の中心軸に沿って所定間隔で配列する複数の噴射部を有し、当該噴射部からの混合流体の噴射方向が処理槽の中心軸に直交するように且つ処理槽の中心軸に向かうように配置されてよく、前記噴射管は、噴射された前記混合流体中の気泡が前記処理槽の底部に至るように、前記噴射管から混合流体を噴射させることが好ましい。また、前記処理槽では、前記噴射された混合流体が容器の内周壁に沿って還流することが見られる。また、前記噴射管の先端が前記処理槽上部から槽内に突出するように前記噴射管が前記処理槽の上部に連結し得る。また、前記噴射管が、互いに所定距離を隔てて並列する複数の支管からなり、各支管が前記処理槽上面に直交するように処理槽の上部に連結し得る。
【0012】
本発明の液体処理装置及び液体処理方法において、前記気相の圧力が、0.12MPa〜0.18MPaに調節されていることが好ましい。また、前記排気口に、排気口の開放度を調整することにより気相の圧力を調整する排気バルブが設けられていることが好ましい。前記処理槽内における気相の高さを処理槽の内部の高さ(気相+液相)の5〜50%に維持することが好ましい。
【0013】
本発明の液体処理装置及び液体処理方法において、前記被処理水が温泉水であり、前記気体が空気である場合には、前記混合流体が処理槽を通過することにより温泉水中に含まれるメタンが除去され得る。本発明では、前記液体処理装置が複数直列に接続されており、上流側の液体処理装置から排出された液体が、下流側の液体処理装置に、気体と混合されて導入され得るシステムも提供される。
【0014】
本発明の液体処理方法では、前記被処理水が下水の場合には、前記処理槽で処理されることで下水中に含まれるメタンが除去され得、前記被処理水が、農業用水または漁業用水の場合には、上記気体を空気とし、上記処理槽で処理された液体に酸素を富化することができる。
【0015】
別の態様に従えば、送水装置から圧送された被処理ガスが溶存した被処理水と送気装置から圧送された脱気ガスとを混合する混合器と、前記混合器からの脱気ガスが混合した被処理水が槽本体の上部から加圧噴射されることで、槽内に溜まった被処理水と撹拌混合させ、脱気ガスを被処理水に溶解させて、被処理水から被処理ガスを槽内の上部空間に排出させると共に、被処理ガスが排出した被処理水を排水する筒状に形成された処理槽と、前記処理槽内の上部空間を所定圧力に維持した状態で、被処理水から排出された被処理ガスを排気する排気バルブとを備えたことを特徴とする液体処理装置が提供される。
【0016】
さらに別の態様に従えば、圧送された被処理ガスが溶存した被処理水と圧送された脱気ガスとを混合する混合ステップと、前記混合ステップにより脱気ガスが混合され、圧送された被処理水が、筒形状に形成された槽本体の上部から加圧噴射される吐出ステップと、前記吐出ステップにより、槽内に溜まった被処理水と撹拌混合させ、脱気ガスを被処理水に溶解させて、被処理水から被処理ガスを槽内の上部空間に排出させると共に、被処理ガスが排出した被処理水を排水する処理ステップと、前記処理ステップにより前記処理槽内の上部空間を所定圧力に維持した状態で、被処理水から排出された被処理ガスを排気バルブにより排気する排気ステップとを含むことを特徴とする液体処理方法が提供される。
【0017】
上記別の態様及びさらに別の態様によれば、まず、送水装置により圧送された被処理ガスが溶存した被処理水に、送気装置により脱気ガスを混合する(混合ステップ)。この被処理水を、吐出ステップにて、筒形状に形成された処理槽の上部から加圧噴射する。そうすると、処理槽内では、貯留された被処理水と激しく撹拌混合されて、脱気ガスが被処理水に溶解し、被処理水から被処理ガスが槽内の上部空間に排出する。被処理ガスが排出し、脱気した被処理水は、処理槽から排水される(処理ステップ)。そして、処理槽内の上部空間を所定圧力に維持した状態で、被処理水から排出された被処理ガスは排気バルブにより排気される(排気ステップ)。このように、圧力下の処理槽内で、脱気ガスが混合された被処理水を加圧噴射して撹拌混合することで、被処理ガスと脱気ガスとを置換することができるので、簡単な構造で脱気ガスを除去することができる。また、送水装置により被処理水が処理槽に噴射され、処理槽にて脱気が行われた後、脱気された被処理水が排水され、そして、処理された被処理水分ほど送水装置により被処理水が処理槽へ供給されることを繰り返すことで、次々と脱気処理を行うことができる。
【0018】
前記処理槽は、円筒状に形成され、前記混合器からの脱気ガスが混合した処理水が、前記処理槽が倒伏状態の胴部側面の上部から加圧噴射されるのが望ましい。
処理槽の胴部側面の上部から加圧噴射された被処理水は、槽内に溜まった被処理水に勢いよく吹き付けられる。吹き付けられた被処理水は、この勢いにより槽内底面まで進むと分かれ、内周面に沿って上昇する。そして、水面付近まで到達すると、更に加圧噴射された被処理水と共に、再度、底面に向かって下降し始める。このような流れとなる被処理水に混合された脱気ガスの気泡は、被処理水と長い時間撹拌混合されることで、被処理水に溶解する。脱気ガスを被処理水に溶解することで、溶存する被処理ガスを代わりに効率よく排出させることができる。
【0019】
脱気ガスが混合された被処理水を2以上の吐出水として、前記処理槽へ吐出する分岐管を備え、前記分岐管は、脱気ガスが混合された被処理水が通水する本管と、前記本管より内径の小さい複数の支管とにより形成されているのが望ましい。脱気ガスが混合された被処理水の量に適切に対応した送水装置の性能維持のためには、被処理水を分岐管により2以上の吐出水として分岐させる。そして、処理槽へ噴射吐出することで、処理槽内で気泡の粒径を小さく細分化して、脱気ガスと被処理水との接触機会が増えるので、脱気ガスを溶解しやすくすることができる。従って、更に効率よく被処理ガスの脱気を図ることができる。また、支管が本管より細い管径の分岐管を使用することで、被処理水が本管から支管に移動した際に、通水速度が上昇して、勢いよく処理槽へ噴射させることができるので、槽内で被処理水を激しく撹拌混合させることができる。
【0020】
ここで、前記分岐管の先端部が、前記処理槽の上部から下方へ向かって空間内へ突出して設けられていると、処理槽の上部から下方へ向かう被処理水を勢いそのままに分岐管が案内して槽内に溜まった被処理水に加圧噴射することができるので、更に、激しく撹拌混合させることができる。
【0021】
前記混合器は、前記送水装置からの被処理水が圧送される外側管と、前記配管内に配置され、前記送気装置からの脱気ガスが圧送される内側管の先端に設けられた第1のノズルとを備え、前記外側管の先端部を、通水方向に向かうに従って徐々に通水路の断面積が小さくなる縮径に形成することにより第2のノズルとして機能させるのが望ましい。
送水装置からの被処理水は外側管を介して第1のノズルに到達したときに、第1のノズルから勢いよく噴射された脱気ガスが混合すると共に、脱気ガスの噴射により更に勢いが増す。混合した状態の被処理水は、第2のノズルとして機能する外側管の先端部に近づくに従って徐々に集約され、圧力が付与される。そして、第2のノズル(外側管)により脱気ガスが混合した被処理水が加速して、脱気ガスが被処理水内で攪乱されるので、脱気ガスを被処理水に溶解させやすくすることができると共に、処理槽への吐出力を向上させることができる。
【0022】
また、2以上の前記処理装置が、直列接続されて設けられていれば、処理槽で除去しきれなかった被処理ガスが、次段(下流側)の処理装置により除去することができるので、圧送された処理水の時間当たりの処理量を減らすことなく、被処理ガスを被処理水から除去することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、簡単な構造で脱気ガスを効率よく除去することができるので、省設置スペースで生産性低下やランニングコスト上昇を極力回避し、効率的に被処理水から溶存ガスを除去することが可能である。また、本発明は生産性に優れているため、処理槽などをコンパクトに構成することができる。更に、本発明では、曝気槽を必要とせず、被処理水が大気中に曝されることがないため、送水装置から圧送するときの温度を維持したまま、脱気処理を行うことが可能である。
【0024】
また、本発明によれば、混合流体に含まれる気体を、水を主体とする液体中に溶存させ易く、水に含まれていた気体を混合流体に含まれる気体に置換することができるので、水を主体とする液体に含まれている特定の成分の除去および/または水を主体とする液体への別の気体成分の溶存量の増加を簡単な装置構成で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液体処理装置を示す正面図である。
【図2】図1に示す液体処理装置の混合器を示す断面図である。
【図3】図1に示す液体処理装置の処理槽内に吐出された温泉水の流れを説明するための軸線方向に直交する方向の断面図である。
【図4】図1に示す液体処理装置の処理槽内に吐出された温泉水の流れを説明するための軸線方向に沿った方向の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る液体処理装置を示す正面図である。
【図6】図4に示す液体処理装置の左側面図である。
【図7】図4に示す液体処理装置の右側面図である。
【図8】図5に示す第2実施形態に係る液体処理装置の変形例を示す正面図である。
【図9】アクリル製の処理槽に発生する処理槽の長手方向の軸に直交する方向に生じる還流の様子を撮影した写真である。
【図10】アクリル製の処理槽に発生する処理槽の長手方向に生じる還流の様子を示す写真である。
【図11】実施例7における空気導入量に対するメタン及び酸素の溶存量の変化を示すグラフである。
【図12】実施例8における空気導入量に対するメタン及び酸素の溶存量の変化を示すグラフである。
【図13】実施例7〜9において空気量を変化させて処理を行った実験条件及び結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1実施形態
本発明の第1実施形態に係る液体処理装置について、図面に基づいて説明する。
液体処理装置は、被処理ガスが溶存した被処理水から被処理ガスを排出させて、除去するものである。なお、本第1実施形態では、被処理水を温泉水、被処理ガスをメタンガスとして説明する。
【0027】
図1に示すように、液体処理装置は、温泉水からメタンガスを除去して、浴槽Bに供給するものである。液体処理装置は、送水装置10と、送気装置20と、処理ユニット30とを備えている。
送水装置10は、配水管11からの温泉水を処理ユニット30へ送水管12を介して圧送する送水ポンプである。送水装置10は、温泉水を圧送できれば、様々な送水ポンプが使用できるが、ターボ型ポンプ、容積型ポンプなどとすることができる。
【0028】
送気装置20は、処理ユニット30へ気体である空気(脱気ガス)を圧送する送風機(気体供給機)である。送気装置20は、空気(気体)を圧送できれば、様々なコンプレッサーやファン、ブロアなどが使用できる。この送気装置20には、装置維持のために目視可能なように気体流量計(図示せず)が設けられている。
処理ユニット30は、主に、混合器31と、分岐管32と、処理槽33と、排気バルブ34とを備えている。
【0029】
混合器31は、内部に内部流路31dが形成された外側管31bを有し、その内部流路31d内で、送気装置20から圧送された空気と、送水装置10から圧送された温泉水とを混合する。ここで、混合器31について、図2に基づいて説明する。
この混合器31の内部流路31dには、送気装置20からの配管が基端部311に接続されて、空気が圧送される内側管31aが外側管31bと同軸に配置されている。送水装置10からの送水管12が外側管31bの外側面の一部(基端部311)に接続されている。すなわち、混合器31は、外側管31bと内側管31aによる二重管構造に形成されている。
【0030】
内側管31aの先端には、送気装置20により圧送された空気を取り込んだ温泉水内に放出する第1のノズル31cが設けられている。本実施形態では、第1のノズル31cとしてタンクミキシングエダクターを採用している。外側管31bの基端部311と反対側の先端部313では、通水方向(下流)に向かうに従って内径が徐々に細くなり、末端に設けられた吐出口31eとして開放されている。そうすることで、外側管31bの先端部313は第2のノズルとして機能する。
【0031】
図1に示すように、分岐管32は、混合器31の下流側に同軸に接続された本管321と、この本管321の長手方向に等間隔な位置に一端が接続されると共に、本管321の長手方向と直交する方向(下側)に延在する複数の支管322(322a〜322d)とを有する。複数の支管322は、その中心軸が円筒状の処理槽33の中心軸に向かうように処理槽33に対して配置しており、複数の支管322の他端は、処理槽33の外周面に長手方向の線(横置きにした状態の稜線)の上に均等な間隔で接続されている。支管322の内径d1は、本管321の内径d0より小さい。支管322から噴射される混合流体が勢いよく処理槽33内の液相に流入させるためには、支管322の内径d1は、支管322の本数により異なるが、支管322が4本のときは本管321の内径d0の2分の1以下であることが望ましい(支管322がN本のときは本管321の内径d0の√N分の1が望ましい)。本実施形態では、支管322として、処理槽33の長さに応じて4本が設けられているが、処理水の成分や水量、水圧などの各条件により、任意の数とすることができる。支管322の他端は、処理槽33の上面33aに接続され、処理槽33の上面部から処理槽33の内部の空間に所定の長さで突出している。突出量は、例えば、10〜30mmにすることができる。
【0032】
処理槽33は、本管321より大きい内径を有する円筒状の容器であり、その軸(長手方向)が水平方向になるような横置き(倒伏した)状態で設置されている。前述のように処理槽33の上面33aには、分岐管32の支管322の他端が貫通状態で接続されている。処理槽33の一端面33bには、槽本体内の圧力をモニタするための圧力計331が設けられている。処理槽33の他端面33cの下部には、メタンガスが脱気した温泉水を排水するための排水口が設けられ、その排水口に排水管332が接続されている。また、処理槽33の他端面33cの上部には、槽内で排出したメタンガスを排気するための排気口に排気管333の一端が接続されている。排気管333の他端には、排気バルブ34が設けられている。
排気バルブ34としては、処理槽33の上部空間S(気相)に溜まった被処理ガスであるメタンガスの流量を制限する流量調整バルブ341と、通常は開放状態であるが、弁内に水が浸入すると内部のフロートが上昇することで閉鎖して水の排出を規制するガスベント342とが設けられている。排気バルブ34は複数設けてよく、例えば、二つの排気バルブを設けて、二つの排気バルブ34を共に開放するか、一方のみ開放するか、あるいは二つとも開放するかによって排出ガス流量や処理槽33内の上記部空間(気相)の圧力を調整してもよい。なお、処理槽33と浴槽Bとの間に昇圧槽を設けて液体処理装置に供給される被処理水と液体処理装置から排出される被処理水の圧力差を調整してもよい。
【0033】
以上のように構成された本実施形態に係る液体処理装置の動作および使用状態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、まず、送水装置10と送気装置20とを始動する。送水装置10により汲み上がった温泉水が配水管11から送水装置10を介して送水管12へ圧送される。また、送気装置20により取り込まれた空気が内側管31aを介して混合器31へ圧送される。
混合器31では、図2に示すように、送気装置20から内側管31aに圧送された空気が、第1のノズル31cにより噴射される。このときに、送水管12から外側管31bの先端部313に圧送された温泉水に、第1のノズル31cの先端に設けられたディフューザーから噴射された空気が気泡として取り込まれ、温泉水と気泡が混合した混合流体が形成される。混合流体は外側管31b内に拡散される。このとき噴射された空気の一部は温泉水に溶解する。
【0034】
混合器31の先端部313を流れるときに、混合流体は、徐々に通水路の断面積が小さくなる第2のノズルとして機能する吐出口に向かって流動するため、混合流体に更に圧力が付与される。この圧力の付与により混合流体は更に加速(加圧)される。加速された状態の混合流体(温泉水)は、混合器31から分岐管32の本管321へ流れることで、空気との混合が一層促され、それによって混合流体中の空気溶存量は増加する。
【0035】
本管321を流れた混合流体は、それぞれの内径が本管321の内径よりも小さい支管322に流れるときに流れが一層加速される。そして、支管322により流速が上がった混合流体は、支管322の先端から処理槽33の内部へ加圧噴射される。混合流体は、流速が上昇して(加圧されて)いるので、勢いよく処理槽33の温泉水に衝突するとともに処理槽の底部の温泉水にまで到達することができる。このような混合流体の挙動により、後述するように、槽内の温泉水を激しく撹拌混合させることができる。また、支管322の先端部が、処理槽33の上面33aの内側へ突出して設けられていることで、加圧された混合流体を支管322の先端部を通じて槽内に溜まった温泉水の水面に垂直に衝突するように案内することができる。従って、送水装置10の送水速度が高くなくても、槽内の上部で拡散することなく、真っ直ぐに貯留された被処理水に加圧噴射することができる。
【0036】
ここで、槽内での撹拌混合について、図面に基づいて詳細に説明する。図3および図4に示すように、例えば、処理槽33の上面33aに接続された支管322bから加圧噴射された混合流体は、槽内に溜まった液相である温泉水に勢いよく吹き付けられる。支管322は混合流体の噴射管とみなすことができる。吹き付けられた混合流体は、温泉水の水面に激しく衝突する。衝突の際、処理槽33の上部空間Sに存在する気相である空気と混合流体は接触する機会が増え、混合流体に空気が混ざり込む。更に、混合流体は、支管322bにより加圧され、且つ支管322bの先端部332xに案内されて噴射されているので、図3に示すように処理槽33の内底面まで至り、次いで、底面近傍の内周面に沿って互いが逆方向の二つの分流L1およびL2に分流して上昇する。上昇した分流L1およびL2は、支管322bから加圧噴射された混合流体MLと合流して再び処理槽33の底部に向かい、図3に示したように還流する。後述する実施例の観察によると、混合流体ML中の多くの気泡が図3に示した流れに従って環流していることが分かった。この気泡の還流を本願明細書では「バブル還流」と呼ぶ。このようなバブル還流を生じさせるためには槽の内面は曲面であることが有利であり、処理槽33の垂直断面は円または楕円が望ましい。
【0037】
本実施形態に係る処理槽33内に、装置の動作中に、気相及び液相を維持する必要がある。気相は、処理槽の高さ(内径)に対して5%〜50%の高さになるような気相を設けることが有効であることが後述の実施例から分かっている。別の見方をすると、噴射管として機能する支管322の先端から液相の液面までの距離をLとしたときに、例えば、−0.6cm<L≦6.3cmとなるように気相を維持することができる。距離Lが−0.6cmより小さいと、すなわち、槽内が殆ど液相だけのときは、後述するように気相から液相に溶解する酸素がほとんど存在しないので、メタンの濃度を有効に下げることはできない。一方、距離Lの上限は、後述するように処理槽の寸法や気相の圧力にも依存する。例えば、処理槽の排気バルブ34を閉鎖したり絞ることで処理槽33の気相の圧力が高くなる。
【0038】
処理槽33中の気相の圧力は、排気バルブ34(ガスベント342)から排出される気体の量や送気装置20で供給する気体の流量を調整することで制御することができる。ヘンリーの法則に従えば、気液相が存在する場合に気体の液体への溶解度は気体の圧力に依存するので、気相の圧力を比較的高く保つことによって気相中の空気の処理水への溶解量が増えると考えられる。特に、酸素の水中への溶解度は窒素の水中への溶解度の約2倍であるので、気相の圧力を高くすると酸素が優先的に処理水に溶解する(1atm、20℃にて酸素が0.0031cm3、窒素が0.0016cm3溶解する)。この結果、混合流体中に溶存していたメタンは酸素に置換されて気相に放出されると考えられる。本発明においては、気相の圧力を例えば、0.12〜0.18MPaの範囲で源泉中のメタンを有効に低減することができることが分かってる。
【0039】
槽内の気相の高さを調整すると共に一定に維持するためには、送気装置20から圧送される空気量、送水装置10から圧送される温泉水の流量、排水管332から排出される液体の温泉水の流量、並びにガスベント342(排気バルブ34)を介して排出される気体の流量の少なくとも一つを調整することで実現することができる。それらの流量は、それらの流体(気体および液体)の流量を調整する手段(流量調整手段)、例えば、送水装置10、送気装置20、および/または流量調整バルブ341(排気バルブ34)などにより調整することができる。なお、本発明において、排気バルブ34の流量調整バルブ341を完全に閉鎖する場合も、「気相の気体の排気量を調整すること」に含まれる。すなわち、気相の気体は必ずしも排気バルブ34から排気しておく必要はない。
【0040】
温泉水の流量は、温泉の源泉や源泉を送液する送液装置の容量により異なるが、例えば、100〜300リットル/分であり、空気量は例えば、15〜150リットル/分にすることができる。本実施形態では、送水装置10により供給される温泉水の流量と、送気装置20により供給される空気量の比、すなわち、混合比を調整することにより支管322の先端から液相の液面までの距離L(或いは気相の高さ)をほぼ一定に維持している。なお、排水管332に流量調節バルブを流量調整手段の一部として設けてもよい。温泉水に対する空気の混合比は、空気量(リットル/分)/温泉水(リットル/分)で表して0.05〜1の範囲にすることができ、好ましくは0.1〜0.8である。この混合比が0.05未満であるとメタンの除去効率が低下するために好ましくない。また、混合比が1を超えると、空気量が増えて源泉の処理量が減るために好ましくない。
【0041】
図4の概念図に示すように、支管322bから加圧噴射された混合流体MLは、槽の長手方向にも分流した後、隣接する支管322cから加圧噴射された混合流体MLの分流と衝突または干渉しながら上昇する。そして、水面付近まで到達すると、分岐管322bの吐出口から噴射された混合流体MLと合流して、再度、処理槽33の底面に向かって下降し始める。このような槽の長手方向およびそれに直交する方向に生じる還流により、混合流体中の空気の気泡もまたバブル還流を生じると共に、温泉水と長時間または繰り返し撹拌混合されることで、温泉水と接触する機会が増加するので、温泉水に溶解しやすくなる。空気が温泉水に溶解することで、溶存していたメタンガスが置換されて排出される。すなわち、本発明において温泉水中のメタンを有効に除去することができる理由として2つの作用があると考えられる。一つは気相の存在により気相から液相への空気(特に酸素)の溶存が進み、それにより液相中のメタンが空気(特に、酸素)に置換される作用と、もう一つは混合流体が支管322bから勢いよく噴射して処理槽33の底部にまで至ると共に処理槽33内部でバブル還流を生じることで液相中のメタンが空気(特に、酸素)に置換される作用である。
【0042】
排出されて気泡となったメタンガスは、温泉水を上昇して処理槽33の上部空間S(気相)に溜まる。上部空間Sのメタンガスや空気などの気体は、流量を制限する流量調整バルブ341を介してガスベント342から大気中へ放散される。従って、流量調整バルブ341により制限された気体は上部空間Sに留まるため、一定の圧力下となった上部空間Sを維持することができる。
【0043】
メタンガスが脱気された混合流体(温泉水)は、処理槽33の長手方向の端部の下側に設けられた排水管332から排出される。槽内は一定の圧力下であるため、排水管332からは温泉水が勢いよく排水する。従って、排水管332から圧送される温泉水は、このまま他の配管を通じて、ポンプなどの送水装置を必要とせずに、使用される場所まで配送することができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る液体処理装置は、圧力下の処理槽内で、メタンガスを含む温泉水中に、混合流体(空気が混合された温泉水)を噴射して、溶存するメタンガスの代わりに空気を温泉水に溶解させることで、メタンガスを排出させることができるので、処理ガスを除去するために減圧したり、除去した後に配送のために昇圧したりする必要がないので、簡単な構造で脱気ガスの除去を図ることができる。
【0045】
また、本実施形態に係る液体処理装置は、主要構成として、脱気送水装置10からの温泉水と送気装置20からの空気とを混合させる混合器31と、混合器31からの温泉水を分配する分岐管32と、分岐管32からの温泉水を撹拌混合する処理槽33と、排出したメタンガスを排出する排気バルブ34とにより構成することができるので、省設置スペースで生産性低下やランニングコスト上昇を極力回避することができる。
【0046】
また、処理槽33に温泉水が噴射されつつ、脱気された温泉水が排水されることで、連続的に脱気処理を行うことができるので、効率的に被処理水から溶存ガスを除去することが可能であり、生産性を向上させることができる。従って、同じ量の被処理水を処理するのであれば、本実施形態に係る液体処理装置はコンパクトに構成することができる。なお、処理槽33内で生じるバブル還流が次のような付随的効果を奏しているが分かった。すなわち、バブル還流は処理槽33内を循環する。特に、処理槽33の周方向を還流するバブルは処理槽33の内周壁に沿って還流するために、内周壁には湯の花などの固形分や異物が溜まり難くなり、バブル還流による処理槽33内の自己浄化作用がある。従って、処理槽33やその下流に設けた配管設備の詰まりや故障を防止し、処理槽33の掃除等のメンテナンスの回数も低減することができる。
【0047】
なお、実施形態に係る液体処理装置を自動運転とすることが可能である。自動運転するときには、送水管12内の温泉水が所定圧力となるとオンとなって送気装置20を始動させる圧力スイッチを設けることで可能である。これは、まず最初に送水装置10を始動させることで送水された温泉水が、混合器31と処理槽33とを介して浴槽Bに流れ、浴槽Bに所定量の温泉水が貯留されることで、送水管12内の温泉水の圧力が上昇するため、送水管12内の温泉水の圧力を監視しておけば、送気装置20の始動開始の準備が完了したか否かの判断をすることができるからである。従って、送水管12に送気装置20を始動するための圧力スイッチを設けることで、液体処理装置の自動起動と停止とが可能である。また、送水装置10や送気装置20の流量を計測して流量を調整する装置を設ければ、安定した運転を行うことができ、安定した脱気状態(および支管322の先端から液相の液面までの距離L、すなわち所定の気相の高さ)を維持できる。この場合、送気装置20の流量は、送気装置20と混合器31との間に電動弁と圧力調整弁・流量弁とを設ければ調整するが可能である。それらの流量調整手段として機能する。
【0048】
第2実施形態
本発明の第2実施形態に係る液体処理装置について、図面に基づいて説明する。なお、図5から図7において、図1と同じ構成のものは、同符号を付して説明を省略する。
【0049】
第2実施形態に係る液体処理装置は、処理槽33を含む処理ユニット30が複数設けられており、直列接続されていることを特徴とするものである。
図5から図7に示すように、液体処理装置は、処理ユニット30を3台備えている。それらの処理ユニット30は、上流側から1段目の処理ユニット30、その下流に位置する2段目の処理ユニット30、2段目の処理ユニット30の下流に位置する3段目(最終)の処理ユニット30である。以下、適宜、1段目、2段目、3段目と略称する。
【0050】
1段目の処理槽33の排水管332aが、その下流側に位置する2段目の配水管334aに接続され、2段目の混合器31に接続されている。同様に、2段目の処理槽33の排水管332bが3段目の配水管334bに接続され、3段目の混合器31に接続されている。3段目の処理槽33には、脱気された温泉水を排出する排水管332cが接続されている。そして、送気装置20からの送気管21は、それぞれの処理槽30の側方中央部を下から上に配設され、それぞれの混合器31に分岐している。
【0051】
送水装置10からの温泉水は、1段目の処理ユニット30の混合器31へ流れ、分岐管32を介して処理槽33へ流れる。次に、処理槽33にてメタンガスが脱気された温泉水は、1段目の処理槽33から排水され、2段目の混合器31へ流れる。次に、2段目の混合器31から分岐管32を介して2段目の処理槽33へ流れる。ここでも、残留しているメタンガスが温泉水から脱気され、2段目の処理槽33から3段目の混合器31へ流れる。そして、3段目の混合器31から分岐管32を介して3段目の処理槽33へ流れ、更に、残留しているメタンガスが温泉水から脱気される。最終的に、3段目の処理槽33から排水管332cから消費される場所まで配送される。温泉水から排出したメタンガスは、それぞれの排気バルブ34から大気中に放散される。
【0052】
このように、1段目の処理ユニット30だけでは除去仕切れずに残留するようなメタンガスも、2段目、3段目と、直列接続されたそれぞれの処理ユニット30により脱気することで、温泉水中に溶存するメタンガスの残留濃度を安全性が確保できる規定値以下に抑制することができる。
【0053】
また、混合器31に空気を圧送するための送気菅21の各枝管に、調整バルブ22(圧力調整弁・流量弁)が設けられているので、それぞれの混合器31への空気量を調整することができる。
【0054】
なお、第2実施形態では、処理ユニット30が直列接続されているが、温泉水の処理量が増大するようであれば、並列接続するようにしてもよい。処理ユニット30を並列接続するときは、1ユニットずつを並列接続してもよいし、直列接続された複数ユニットを並列接続してもよい。また、図5に示す液体処理装置では、処理ユニット30が下方に向かって上下方向に並べられているが、水平方向に並べてもよい。
【0055】
また、脱気ガスユニット30は、必要に応じて混合器30への空気の供給を止めて使用することも可能である。例えば、1段目と2段目との2つの処理ユニット30による脱気処理で十分に被処理ガスが抜けているようであれば、3段目の混合器30への空気の圧送を停止させる。そうすることで、送気装置20の出力を抑えることができるので、省エネルギー運転が可能である。また、第2実施形態に係る液体処理装置についても、自動運転とすることが可能である。自動運転するときには、送水管12内の温泉水が所定圧力となるとオンとなって送気装置20を始動させる圧力スイッチを設けることで可能である。そうすることで、自動起動と停止とが可能である。
また、送水装置10や送気装置20の流量を計測して流量を調整するため電動弁と圧力調整弁・流量弁とを設ければ、第2実施形態に係る液体処理装置においても、安定した運転を行うことができ、安定した脱気状態を維持できる。
【0056】
第2実施形態の変形例
次に、本発明の第2実施形態に係る液体処理装置の変形例を、図8に基づいて説明する。なお、図8においては、図5に示す構成と同じものは同符号を付して説明を省略する。第2実施形態に係る液体処理装置の変形例では、3段目の脱気処理ユニットの排出側と給水側とを循環管路と循環ポンプとで連結することで、3段目の脱気処理ユニットにて温泉水を循環させることを特徴とするものである。
【0057】
図8に示す液体処理装置では、3段目の処理ユニット30の排水管332cに、配水管351を介在させてエア処理槽35が接続されている。エア処理槽35には、エア処理槽35内の温泉水に溶解せずに気体の状態で混合している空気を排気するための排気バルブ352が設けられている。この排気バルブ352としては、空気の流量を制限する流量調整バルブ352aと、通常は開放状態であるが、弁内に水が浸入すると内部のフロートが上昇することで閉鎖して水の排出を規制するガスベント352bとが設けられている。エア処理槽35は、連絡管361を介在させてバランスタンク36が接続されている。バランスタンク36には第1循環管371が接続され、第1循環管371には循環ポンプ37が接続され、循環ポンプ37には、第2循環管372が接続されている。第2循環管372は、3段目の処理ユニット30の混合器31に、2段目の処理槽33からの配水管334bと共に、配水管334cを介在させて接続されている。
【0058】
このように構成された図8に示す液体処理装置は、図5に示す液体処理装置と1段目から2段目までは同じ動作である。3段目の処理ユニット30にて処理され、排水された温泉水は、エア処理槽35に溜まる。エア処理槽35内では、溶解せずに気泡の状態で混合している空気が、流量調整バルブ341を介してガスベント342から大気中へ放散される。循環ポンプ37は液体(温泉水)に気体(空気)が混じっていると空転状態となり、異常な振動を起こすおそれがあるが、エア処理槽35にて温泉水に溶け込まずに残る気泡を排出することで、循環ポンプ37による安定した汲み上げを行うことができる。
【0059】
エア処理槽35にて空気が排出された温泉水は、バランスタンク36に溜まる。バランスタンク36にて、一旦、温泉水を貯留することで、3段目の処理槽33へ循環させる温泉水を循環ポンプ37によりバランスタンク36から汲み出しても、循環させる温泉水と、浴槽などで使用するために排水する温泉水とをバランスよく配水することができる。
【0060】
バランスタンク36から汲み出された温泉水は、循環ポンプ37により再び3段目の混合器31へ送り込まれる。そして、3段目の処理槽33にて脱気処理が行われることで、更に被処理ガスであるメタンガスが温泉水から排出されるので、直列接続された処理ユニット30だけでは除去仕切れずに残留するような高濃度なメタンガスであっても、処理ユニット30を循環させることで、温泉水中に溶存するメタンガスの残留濃度を安全性が確保できる規定値以下に抑制することができる。
【0061】
なお、この図8に示す変形例では、温泉水を3段目の処理ユニット30にて循環させるように循環ポンプ37が第1循環管371および第2循環管372によって接続されているが、3段目の処理ユニット30から2段目の処理ユニット30へ、または3段目の処理ユニット30から1段目の処理ユニット30へ循環させるようにしてもよい。つまり、温泉水の被処理ガスの溶存濃度や、処理槽30の処理能力に応じて、処理ユニット30の段数や循環させる段数を適宜決定することができる。また、温泉水は、直列接続された処理ユニット30を循環させるだけでなく、第1実施形態に係る液体処理装置(図1参照)に循環ポンプを設けて循環させるようにしてもよい。この場合、図8に示す液体処理装置のように、排気バルブ352が設けられたエア処理槽35と、バランスタンク36とを設けるのが望ましい。
【0062】
なお、第1及び第2実施形態においては、処理される液体(被処理水)として温泉水を例に説明したが、温泉水に限らず、液体としては、水を主体に(例えば、60%以上、好ましくは85%以上)とする液体であり、水道水、海水、河川の水、湖水などが含まれる。これらの液体は特定の用途に付されるときに、液体中に含まれる溶存ガスのような成分を除去するのが望ましい場合がある。例えば、水道水を飲料水とするために、塩素を除去することが望ましい。あるいは、ワインなどの飲料から溶存酸素を低減する場合や、汚染や汚濁した湖水の水からメタンガス等の揮発性炭化ガス、硫化水素等の含硫黄ガスあるいは一酸化炭素を除去することが望ましい場合もある。一方で、水道水を水槽や浴槽に供する場合や飲料に用いる場合、溶存酸素を増加することが望ましいことがある。
【0063】
水道水から塩素を除去する場合や、汚染や汚濁した湖水の水からメタンガス等の揮発性炭化ガス、硫化水素等の含硫黄ガスあるいは一酸化炭素を除去する場合には、混合流体に混入される気体を、空気や酸素とすることができる。このようにすることで、溶存酸素を増加させることが可能である。また、ワインなどの飲料から溶存酸素を低減させる場合では、窒素などの不活性ガスや二酸化炭素(例えば、化粧水用途)を混合流体に混入させる気体とすることができる。このように本発明は、液体に含まれる特定成分の除去だけではなく、別の気体成分の添加や富化に用いることができる
【0064】
また、第1及び第2実施形態では処理槽33として円筒状のものを使用していたが、他の形状のものでも採用することができる。しかし、被処理ガス(メタンガス)と脱気ガス(空気)との交換を効果的に行うためには、上部から噴射された温泉水が槽内底面まで進むと、内周面に沿って互いが逆方向に分流して上昇し、更に加圧噴射された温泉水の流れと衝突することが効率的に行われる必要がある。従って、処理槽33は、垂直断面が長辺方向を上下方向とした楕円形、角部を下方に向けた三角形以上の多角形、またはこれらに準じた異形状とすることができる。
【実施例】
【0065】
実施例1
図5に示す第2実施形態に係る液体処理装置を用いて温泉水からメタンガスの脱気を行った。なお、分岐管32および処理槽33の材質は、ステンレス(SUS150A)を使用した。分岐管32の本管321は、内径が約5cm、長さが約78cmである。支管322は、内径が約2.5cm、長さが約20cmである。1本目の支管322d(図1参照)は、本管321に、混合器31から約12cm離れたところに設けられ、他の支管322c〜322aは約18cmごとに設けられている。支管322の先端部322xは、処理槽33の内部に約12.5mm突出している。
処理槽33は、内径が約15cm(実測158.4mm)で、長さが約80cmの円筒形であり、端部の上部に約25mmφの排気管33が敷設されており、処理槽33の上部に上部空間Sに連通する。また、混合器31は内側管31aの内径が約1.5cm、外側管31bの内径が約6.5cmである。混合器31の第1のノズル31cには、スプレーイングシステムズジャパン株式会社製のタンクミキシングエダクターを使用した。また、支管322の先端から液相の液面までの距離Lを2.4cmとなるように調整した。なお、分岐管32および処理槽33の寸法は、処理容量などに応じて変更可能である。
【0066】
実施例1では、福岡県八女市宮野に位置する源泉からの24%LELの温泉水を脱気処理した。
ここで、可燃性ガス(メタンガス)濃度を示す「%LEL」とは、可燃性ガスの爆発下限値(メタンガスが爆発し始める濃度。メタンガスの場合は5容量%(50,000ppm)。)を100としたときのガス濃度の割合である。なお、メタンガスの濃度の測定は、接触燃焼式ガスセンサ複合型ガス検知器コスモテクターXP-3118Sを用いて温泉法における可燃性ガス測定方法(ヘッドスペース法)に準拠して行った。
脱気処理では、まず、送気装置10により空気を0.35MPaの圧力で混合器31へ圧送した。また、送水装置20により温泉水を0.26MPaの圧力で、毎分240Lの水量で混合器31へ圧送した。
【0067】
このようにして温泉水を送水装置20による送水し、空気を送気装置10により送気すると、1段目の処理ユニット30の排気バルブ34から排気されるメタンガスのガス濃度は55%LELであった。また、2段目の処理ユニット30の排気バルブ34から排気されるメタンガスのガス濃度は33%LELであった。更に、3段目の処理ユニット30の排気バルブ34から排気されるメタンガスのガス濃度は12%LELであった。ここで行った排気バルブのガス濃度測定は、排気バルブの出口にメタンガス測定器(接触燃焼式ガスセンサ複合型ガス検知器コスモテクターXP-3118S)を用いて測定した。
また、最終の3段目処理水のメタンガス濃度は、前記ヘッドスペース法に準拠し行った結果、3.0%LELであり、目標とするメタンガス濃度は5.0%LEL以下を達成していた。
これからもわかるように、1段目から2段目、2段目から3段目の処理ユニット30の処理槽33で脱気処理が行われることで、段階的に温泉水からメタンガスが脱気され、濃度が低くなっていることがわかる。
【0068】
実施例2
実施例2では、実施例1で使用した図5に示す第2実施形態に係る液体処理装置を用いた。そして、福岡県朝倉市原鶴温泉の源泉からの8%LELの温泉水を脱気処理した。まず、送気装置10により空気を風量160m3/h、0.35MPaの圧力で混合器31へ圧送した。また、送水装置20により温泉水を0.11MPaの圧力で、毎分253Lの水量で混合器31へ圧送した。結果、最終の3段目の脱気処理ユニットの処理水のメタンガス濃度は3.7%LELであり、目標とするメタンガス濃度は5.0%LEL以下を達成していた。
【0069】
実施例3
実施例3でも、実施例1で使用した図5に示す第2実施形態に係る液体処理装置を用いた。そして、送気装置10により送気する空気の風量を240m3/h、圧力を0.35MPaとし、送水装置20により送水する温泉水の圧力を0.11MPa、流量を毎分253Lとし、空気量にあわせて排気ガス量を調整した。この状態で、実施例1と同様にして原鶴温泉の源泉からの8%LELの温泉水を脱気処理した。最終(3段目)の脱気処理ユニットからの処理水のメタンガス濃度を測定したところ、測定限界である0.1%LEL以下であった。
【0070】
実施例4
この実施例4では、図5に示す第2実施形態に係る液体処理装置を用いて水道水を処理した。水道水中の塩素濃度は0.24ppmであり、酸素濃度は11.8ppmであった。送気装置10により空気を0.4MPaの圧力で混合器31へ圧送し、送水装置20により水道水を0.1MPaの圧力で、毎分200Lの水量で混合器31へ圧送した。最終の処理ユニット30からの処理水の塩素濃度は0.00%ppm(測定限界値未満)であり、酸素濃度は15.2ppmであった。この結果からすれば、本発明の液体処理装置を用いることで水中の塩素濃度を低減することができ、また、酸素の溶存量を増加させることができることが分かる。すなわち、本発明の液体処理装置は、温泉原水中のメタンガスや水道水中の塩素のような溶存している特定成分を除去するとともに、別の有益な気体成分を被処理水に溶存させたり、富化させたりすることができる。この実施例4の結果からすれば、本発明の液体処理装置を水道管に接続して用いることで、浄水器として使用したり、アトピー患者などのための入浴水として提供したりすることができる。
【0071】
この実施例では水道水の処理として次のような実験も行った。同じ水道水(酸素濃度は11.8ppm)について、送気装置10により空気に代えて窒素を0.4MPaの圧力で混合器31へ圧送し、送水装置20により水道水を0.1MPaの圧力で毎分200Lの水量で混合器31へ圧送した。この結果、最終の処理ユニット30からの処理水の酸素濃度は2.6ppmに低下していた。このことから、窒素のような種々の気体を混合流体に用いて、被処理水に溶解している気体成分を置換することができることが分かる。
【0072】
実施例5
実施例5では、図1に示す処理槽33として、内部が観察可能なアクリル製による円柱状の処理槽を作製して、還流の様子を撮影した。その結果を図9,図10に示す。図9および図10に示す写真からも判るように、混合流体中の気泡が、処理槽33の底部まで至っていることが目視で確認できた。このような還流は、処理槽の長手方向でも生じていることがアクリル製による処理槽を使用した試験で明らかとなった。
【0073】
実施例6
実施例6では、支管322の先端から液相の液面までの距離Lを変更しながら、槽内で生じる気泡を観察するとともに、処理槽33から排出される温泉水中の酸素濃度を測定した。この結果、距離Lが0cmより大きく、6.3cm以下のときに、すなわち、気相の高さが9.1mm〜71.1mm(処理槽の直径に対して5.1%〜46.8%)のときに、槽内に気泡が多く発生していることが確認できた。また、排水管332から排出された温泉水中の酸素濃度は高かった。距離Lをゼロ、すなわち、槽内を液相だけにしたときには、図9に示す写真のような多量な気泡は観察されなかった。
【0074】
実施例7
この実施例では、実施例1で使用した液体処理装置を用いて、送気装置10から送る空気量を変化させることによって処理水中のメタンガスの濃度及び溶存酸素濃度がどのように変化するかについて以下の条件で調査した。被処理水として、福岡県朝倉市原鶴温泉の源泉を用いた。実験時に採取した原泉のメタン濃度は12%LELであった。なお、液体処理装置の処理水の排水側に昇圧槽を取り付けて、被処理水の入力側と出力側の圧力差の調整を行った。送水装置の供給水圧及び供給水量をそれぞれ約0.18MPa及び253L/分とし、送気装置の空気圧を0.26MPaとし、空気流量はいずれの処理槽33も0,20,40,60,80及び100リットルL/分に段階的に変化させた場合の処理水のメタン濃度及び溶存酸素濃度を測定した。昇圧槽の圧力は、0.14MPaとした。二つの排気バルブ34はいずれも開放(全開)とした。また、各空気流量での脱気処理を行っているときの第1段目の処理槽33に形成されている気相の圧力を排気バルブ34に近傍に取り付けた圧力計で測定し、気相の処理槽33内での高さ(幅)を処理槽33のアクリル製の端面を通じて計測した。但し、表中の「気相の高さ」は槽の外径基準で液面までの距離を測定した値を記載してあるので、実際には表の値から槽の肉厚3.4mmを引いた値が気相の高さを表す。なお、酸化還元電位を酸化還元電位計(佐藤商事YK-23RP)により測定した。結果を図13の表に示す。この表において、第1段目の処理槽の空気流量と送気装置の空気圧の実際の値を「第1槽挿入量」の欄に記載した。第1段目及び第2段目の処理槽についても「第2槽挿入量」及び「第3槽挿入量」の欄に記載した。また、第1段目〜第3段目の処理槽の液相の圧力を「第1槽圧力」、「第2槽圧力」及び「第3槽圧力」の欄に表記した。
【0075】
また、図13の表の結果に基づき、空気量に対する処理水のメタン濃度と溶存酸素濃度の変化を図11のグラフに示した。グラフの縦軸は、メタン濃度(%LEL)と酸素濃度(mg/L)の両方を表記した。このグラフより源泉に混合する空気量が多くなるにしたがって、処理水中のメタンの濃度が低下していることが分かる。これとは逆に、源泉に混合する空気量が多くなるにしたがって、処理水の溶存酸素量が増加していることが分かる。供給空気量がゼロの場合であっても処理水中のメタン濃度(8.5%LEL)は源泉水のメタン濃度(12%LEL)よりも低下しているものの、空気を供給することによってメタン濃度が5%LEL以下を達成していることが分かる。また、処理槽33内の気相の高さは空気導入量が多くなるにつれて高くなっている。最大で処理槽の内径の45.2%の気相(71.6mm)が存在していることが分かる。これは、空気量の増加に伴い、処理槽33内の気相の圧力が増大したためであると考えられる。実際に、排気バルブ34の近傍で計測された気相の圧力は空気流量に伴って増大している。なお、酸化還元電位は空気導入量の増加に伴って増加している。これは溶存酸素量の増加と一致している。
【0076】
実施例8
二つの排気バルブ34の一方を閉鎖した(半開状態)以外は、実施例7で用いた源泉水を実施例7と同様の条件で脱気処理した。結果を図13の表に示す。なお、この表において、第1段目〜第3段目の処理槽の空気流量の設定は、実施例7の初期値(0,20,40,60,80及び100リットルL/分)から変更していないが、排気バルブ34の片側閉鎖などにより実際の値は初期値から多少変動している。空気圧についても同様である。図13の表の結果に基づき、空気量に対する処理水のメタン濃度と溶存酸素濃度の変化を図12のグラフに示した。グラフの縦軸は、メタン濃度(%LEL)と酸素濃度(mg/L)の両方を表記した。図12のグラフより、実施例7の結果と同様に源泉に混合する空気量が多くなるにしたがって、処理水中のメタンの濃度が低下している。これとは逆に、源泉に混合する空気量が多くなるにしたがって、処理水の溶存酸素量が増加していることが分かる。この実施例でも酸化還元電位は空気導入量の増加に伴って増加しており、溶存酸素量の増加と一致している。
【0077】
実施例9
二つの排気バルブ34をいずれも閉鎖した(全閉状態)以外は、実施例7で用いた源泉水を実施例7と同様の条件で脱気処理した。結果を図13の表に示す。なお、この表において、第1段目〜第3段目の処理槽の空気流量の設定は、実施例7の初期値(0,20,40,60,80及び100リットルL/分)から変更していないが、排気バルブ34の閉鎖などにより実際の値は初期値から多少変動している。空気圧についても同様である。表1の結果より、0〜80リットル/分の空気量の増加に従って処理水中のメタンの濃度が低下するとともに、源泉に混合する空気量が多くなるにしたがって、処理水の溶存酸素量が増加している。この実施例でも酸化還元電位は空気導入量の増加に伴って増加しているおり、溶存酸素量の増加と一致している。
【0078】
実施例10
この実施例では、実施例1で使用した液体処理装置を用いて、処理槽33内の気相の圧力に対する処理水中のメタン濃度と溶存酸素濃度の変化を調べるために、空気流量を100L/分に固定し、排気バルブ34の開放度を段階的に変化させて脱気処理を行った。被処理水として、実施例7〜9と同様に原鶴温泉の源泉を用いたが、実験時に採取した源泉水のメタン濃度は9.3%LELであり、送水装置の供給水圧及び供給水量はそれぞれ約0.18〜0.195MPa及び253L/分、送気装置の空気圧は第1〜3段目の処理槽でいずれも0.33MPa、昇圧槽の圧力は0.13MPaであった。排気バルブ34の開放度を、二つの排気バルブを開放(全開)、一つのみを開放(半開)、二つとも閉鎖(全閉鎖)の状態でそれぞれ処理を行った。これらの場合の処理水のメタン濃度及び溶存酸素濃度を測定し、第1断目の処理槽33内の気相の圧力及び高さ等と共に下記表1に示す。
【表1】

この実験では、導入する空気量を一定にしつつも排気バルブの開放量を変化させることにより、気相の圧力の変化の影響を観察することができる。表1の結果からすれば、排気バルブを全開から全閉にすると、気相の気体の排気量が絞られて、気相の圧力が高くなるとともに気相の高さも高くなっていることが分かる。また、この気相の圧力の上昇に伴って処理水中のメタンが減少し、溶存酸素が増加している。この結果からすれば、処理水中のメタン濃度及び溶存酸素濃度は処理槽33内の気相の圧力に依存していることが分かる。このことは気体の溶存量が気体の圧力に依存するとするヘンリーの法則にも合致している。
【0079】
実施例11
この実施例では、実施例10に比べて処理槽33内の気相の圧力を低下させた場合の気相圧力に対する処理水中のメタン濃度と溶存酸素濃度の変化を調べるために、空気流量を100L/分に維持しつつも、送水装置の供給水圧及び供給水量はそれぞれ約0.155MPa及び253L/分、送気装置の空気圧は0.2MPa、昇圧槽の圧力は0.1MPaに低下させた。被処理水として、実施例7〜9と同様に原鶴温泉の源泉を用いたが、実験時に採取した源泉水のメタン濃度は11%LELであった。実施例10と同様に排気バルブ34の開放度を、二つの排気バルブを開放(全開)、一つのみを開放(半開)、二つとも閉鎖(全閉鎖)の状態でそれぞれ処理を行った。これらの場合の処理水のメタン濃度及び溶存酸素濃度を測定し、第1段目の処理槽33内の気相の圧力及び高さ等と共に下記表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2の結果からすれば、気相の圧力が実施例10の場合に比べて低下しても、メタン濃度が低減しており、気相の圧力の上昇に伴って処理水中のメタンがさらに減少し、溶存酸素が増加することが分かる。
【0082】
実施例12
この実施例では、実施例11における第1〜第3段目の処理槽の空気流量100L/分を50L/分に変更して処理を行った。被処理水として、用いた原鶴温泉の源泉水のメタン濃度は実施例11と同様に11%LELであり、送水装置の供給水圧及び供給水量はそれぞれ約0.15MPa及び253L/分、送気装置の空気圧は0.2MPa、昇圧槽の圧力は0.1MPaとした。排気バルブ34の開放度を4段階に切り替えるために排気バルブ34を二つ増設し、合計四つの排気バルブ34のすべてを開放(全開)、二つのみを開放(半開)、一つのみを開放(1/4開)、すべてを閉鎖(全閉鎖)の状態でそれぞれ処理を行った。これらの場合の処理水のメタン濃度及び溶存酸素濃度を測定し、第1断段目の処理槽33内の気相の圧力及び高さと共に下記表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3の結果からすれば、排気バルブを全開から半開の状態にしても気相の圧力の変化が見られないが、1/4開及び全閉にすると気相が圧力が高くなるとともに気相の高さも高くなっていることが分かる。また、この気相の圧力の上昇に伴って処理水中のメタンが減少し、溶存酸素が増加している。この結果からも、処理水中のメタン濃度及び溶存酸素濃度は処理槽内の気相の圧力に依存していることが分かる。また、気相の圧力が0.12Mpa程度に低くなっても、源泉からメタンが有効に除去されている。すなわち、上記実施例を通じて処理槽の気相の圧力が0.12以上であり、0.12〜0.18Mpaの範囲では良好に源泉からメタンを除去することができることが分かる。
【0085】
実施例13
この実施例では、実施例7〜9と同様に送気装置10から送る空気量を変化させたときに、処理水中に溶存するメタンと酸素に対する温泉成分であるラドンの含有量がどのように変化するかについて調査した。被処理水として、実施例7〜10と同様に福岡県朝倉市原鶴温泉の源泉を用いた。源泉のメタンの濃度が13%LELであり、ラドンの含有量が4.6Ci/kg×10−10であり、酸素が1.8mg/Lであった。最初に、処理水中のメタンの目標濃度が概ね5%LEL程度になるように送気装置10の空気量を調節したところ、第1段目の処理槽の空気量10リットル/分(第2段目の処理槽の空気量10リットル、第3段目の処理槽の空気量0リットル)で処理水中のメタンの濃度が4.6%LELになった。この時の送水装置の供給水圧及び供給水量はそれぞれ約0.16MPa及び253L/分、送気装置の空気圧は0.26MPa、昇圧槽の圧力は0.12MPaであった。この条件での処理水中のラドンは源泉とほぼ同じ4.5Ci/kg×10−10であり、酸素が4.6mg/Lであった。この実施例における源泉及び処理水中のラドン及びメタン並びに溶存酸素の濃度の測定は財団法人九州環境管理協会による調査結果である。
【0086】
次に、処理水中のメタンの目標濃度が概ね2.5%LEL程度になるように送気装置10の空気量を調節したところ、第1段目の処理槽への空気量80リットル/分(第2段目の処理槽の空気量90リットル、第3段目の処理槽の空気量55リットル)で処理水中のメタンの濃度が2.5%LELになった。この時の送水装置の供給水圧及び供給水量はそれぞれ約0.16MPa及び253L/分、送気装置の空気圧は0.26MPa、昇圧槽の圧力は0.125MPaであった。この条件での処理水中のラドンは2.4Ci/kg×10−10であり、酸素が8.3mg/Lであった。
【0087】
さらに、処理水中のメタンの目標濃度が概ね0.7%LEL程度になるように送気装置10の空気量を調節したところ、第1段目の処理槽の空気量190リットル/分(第2段目の処理槽の空気量200リットル、第3段目の処理槽の空気量60リットル)で処理水中のメタンの濃度が0.6%LELになった。この時の送水装置の供給水圧及び供給水量はそれぞれ約0.16MPa及び253L/分、送気装置の空気圧は0.26MPa、昇圧槽の圧力は0.13MPaであった。この条件での処理水中のラドンは0.6Ci/kg×10−10であり、酸素が9.6mg/Lであった。
【0088】
この実施例の結果より、混合流体に空気を適度に混合することで、処理水中のメタン濃度を低下させ、酸素を増加させることができるが、一方で空気量があまり多いと温泉水中の有効成分であるラドンを低下させてしまうことが分かる。この例では、メタンを規制値の5%LEL以下である4.6%LELに留めれば、ラドンもまた源泉と同程度の含有量が維持されることが分かる。この実施例では処理槽中の気相の圧力は測定しなかったものの、実施例7〜10の結果からすれば、空気量の増加に伴って気相の圧力が増大することが明らかである。それゆえ、源泉中のラドンなどの温泉成分の調整には、気相の圧力を適切な範囲に制御することが有効である。
【0089】
以上、説明してきたように本発明の処理装置及び処理方法は、被処理水を流動させながら気体を混合して混合流体を形成し、この混合流体を流動させながら密閉状態で処理槽内で気体の被処理水への溶存化と脱気を実行して、最後に処理水として排出する。従って、温泉など湧き出す被処理水を止めることなくそのまま連続的に処理することができるので、高い効率で処理することができる。一方で、処理のために被処理液を溜めるための大容積の槽または浴は不要であるので、装置自体がコンパクトになる。それゆえ、本発明の処理装置は省スペースを実現し、製造コストを低減することもできる。処理された処理水は、均質に、即ち溶存成分が同一濃度になるように処理(加工)されているので、種々の用途に有用となる。
【0090】
本発明の処理装置及び処理方法は以下のような広範な用途及び応用例が考えられる。例えば、農業では、水の活用は不可欠であるが、特に水耕(液肥)栽培では、使用水の溶存酸素量、殺菌、肥料の注入が重要になる。本発明の処理装置ではこれらの要望に応えることができる。例えば、混合流体を構成する気体として空気とオゾンを使用することで、使用水の殺菌を流水しながら行える。また、液肥などの肥料も混合流体を構成する水に溶解させることで混合流体に混入させることができる。この場合に、混合流体を生成する混合器に肥料などの添加物導入口を設けておくことができ、液肥のみならず紛体も導入することができる。もちろん、上述の実施例のように酸素の溶存化も可能であり、本処理装置から排出される水(液)は、酸素溶存量を一定以上に保つことができ、酸素濃度が均一な水(液)をプランターに供給できる。特に、水耕(液肥)栽培のプランターの途中での酸素欠乏による生育不良を防止することができる。
【0091】
また、本処理装置は、漁業分野でも利用することができる。魚の生育には、水に含まれる酸素量が重要であるが、上記実施例で示したように、混合流体の気体として空気を注入することで常に一定量の溶存酸素が含まれた処理水(例えば海水)を供給することができる。装置の処理能力は、処理槽の大きさや送水装置の性能で自在に変えることができるので、車運搬用から大きな魚槽まで、用途にあわせたスケールアップができる。また、農業用途と同様に、オゾンなどの気体を混合流体に混入させることで水の殺菌や不足する酸素の付加なども可能である。また、連続処理により処理液を連続して排出(供給)できるので、装置の吐出側から水流を作る形で供給することもでき、水流を必要とする蓄魚などの生育にも活用できる。特に、水槽中の溶存酸素の量を検出しながら、水槽の水を本処理装置の混合機に供給して処理水を水槽との間で循環させ、検出した溶存酸素量に基づいて本処理装置の処理漕の気相の圧力を調整することで、常に水槽中の溶存酸素濃度を所定の値に制御することができる。このように本処理装置を溶存酸素検出器と制御装置と組み合わせて自動運転するシステムもまた本発明により提供することができる。
【0092】
本処理装置は、前述のようにメタンガスを脱気することが可能であるので、下水処理、特に回収される下水や処理過程で発生するメタンガスの除去にも有用となる。また、本処理装置は、密閉系であるので排ガスバルブを通じてガスを回収することができ、下水やごみ処理施設から排出される排液の臭気を外部に漏らすことがなく、環境的負荷を減らすことができる。また、本処理装置は、被処理液を流動させながら連続的に処理を行うので、そこから常時発生してくるメタンガスなどを回収してエネルギー資源として再利用することが可能となる。この場合、本処理装置の処理漕に接続された排ガスバルブにガス管などを通じてメタン回収ボンベや発電装置に接続することができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、被処理水を、工業や農業、水産業、サービス業、一般生活において使用する際に、被処理ガスが溶存しているために使用に支障があるような場合に好適であり、特に、温泉水から溶存するメタンガスを除去する場合に最適である。また、本発明は、水を主体とする液体に含まれる特定成分の除去のみならず、別の気体成分の添加や富化に用いることができるため、浴槽水、化粧水、飲料の品質改善や保存、河川や湖の水の改善など環境維持にも有効となる。また、農業、下水処理、漁業の分野において広範な用途が期待される。
【0094】
10 送水装置
11 配水管
12 送水管
20 送気装置
21 送気管
22 流量調整バルブ
30 脱気処理ユニット
31 混合器
31a 内側管
31b 外側管
31c 第1のノズル
31d 内部流路
31e 吐出口
311 基端部
312 胴部
313 先端部
32 分岐管
321 本管
322,322a〜322d 支管(噴射管)
322x 先端部
33 処理槽
33a 上面
33b 一端面
33c 他端面
331 圧力計
332a〜332c 排水管
333 排気管
334a〜334c 配水管
34 排気バルブ
341 流量調整バルブ
342 ガスベント
35 エア処理槽
351 配水管
352 排気バルブ
352a 流量調整バルブ
352b ガスベント
36 バランスタンク
361 連絡管
37 循環ポンプ
371 第1循環管
372 第1循環管
B 浴槽
ML 混合流体
L1、L2 還流
L 噴射管から液相の液面までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水として水を主体とする液体を流動させながら処理する処理装置であって、
気相と液相が共存する密閉された処理槽と、
先端が前記処理槽上部に連結され、前記液体に気体を混合させた混合流体を前記先端から前記処理槽内の前記気相を介して前記液相に連続的に噴射する噴射管と、
前記処理槽に設けられ、前記液相の液体を前記処理槽から連続的に排出する排出口と、
前記処理槽に設けられ、前記気相の気体を前記処理槽から排気する排気口と、
前記混合流体を構成する気体及び液体、前記排出口から排出される液体並びに前記排気口から排出される気体の少なくとも一つの流量を調整することにより前記処理槽内の気相の高さをほぼ一定に維持する流量調整手段とを備えることを特徴とする液体処理装置。
【請求項2】
さらに、前記噴射管への混合流体を形成するための混合器を備え、該混合器は、液体が流通する流路と、該流路内に収容されて液体内に気体を噴出するノズルとを有することを特徴とする請求項1記載の液体処理装置。
【請求項3】
前記処理槽は、横置きにされた円筒状の容器であり、前記噴射管は、処理槽の中心軸に沿って所定間隔で配列する複数の噴射部を有し、当該噴射部からの混合流体の噴射方向が処理槽の中心軸に直交するように且つ処理槽の中心軸に向かうように配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の液体処理装置
【請求項4】
前記噴射管は、噴射された前記混合流体中の気泡が前記処理槽の底部に至るように、前記噴射管から混合流体を噴射させる請求項1から3のいずれか一項に記載の液体処理装置。
【請求項5】
前記処理槽は、前記噴射された混合流体が容器の内周壁に沿って還流する請求項3または4に記載の液体処理装置。
【請求項6】
前記噴射管の先端が前記処理槽上部から槽内に突出するように前記噴射管が前記処理槽の上部に連結している請求項1から5のいずれか一項に記載の液体処理装置。
【請求項7】
前記噴射管が、互いに所定距離を隔てて並列する複数の支管からなり、各支管が前記処理槽上面に直交するように処理槽の上部に連結している請求項1から6のいずれか一項に記載の液体処理装置。
【請求項8】
前記気相の圧力が、0.12MPa〜0.18MPaに調節されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の液体処理装置。
【請求項9】
前記排気口に、排気口の開放度を調整することにより気相の圧力を調整する排気バルブが設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の液体処理装置。
【請求項10】
前記被処理水が温泉水であり、前記気体が空気であり、前記混合流体が処理槽を通過することにより温泉水中に含まれるメタンが除去されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の液体処理装置。
【請求項11】
前記液体処理装置が複数直列に接続されており、上流側の液体処理装置から排出された液体が、下流側の液体処理装置に、気体と混合されて導入される請求項1〜10のいずれか一項に記載の液体処理装置。
【請求項12】
被処理水として水を主体とする液体を流動させながら処理する処理方法であって、
前記液体に気体を混入して混合流体を形成することと、
前記気相と液相が共存する閉鎖された処理槽の上部に連結された噴射管から、前記混合流体を前記処理槽中の前記気相を介して前記液相に連続的に噴射することと、
前記処理槽の液相の液体を連続的に排出することと、
前記処理槽の気相の気体の排気量を調整することと、
前記混合流体を構成する気体及び液体、前記処理槽から排出される液相の液体並びに前記処理槽から排気される気相の気体の少なくとも一つの流量を調整することにより前記処理槽内の気相の高さをほぼ一定に維持することを含むことを特徴とする液体処理方法。
【請求項13】
前記処理槽に前記噴射管から噴射された前記混合流体中の気泡が前記処理槽の底部に至るように、前記噴射管から混合流体を噴射する請求項12記載の液体処理方法。
【請求項14】
前記処理槽内における気相の高さを処理槽の内部の高さの5〜50%に維持することを特徴とする請求項12または13に記載の液体処理方法。
【請求項15】
前記被処理水が温泉水であり、前記混合流体に混入される気体が空気であり、前記処理槽で処理されることで温泉水中に含まれるメタンが除去されることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の液体処理方法。
【請求項16】
前記被処理水が下水であり、前記処理槽で処理されることで下水中に含まれるメタンが除去されることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の液体処理方法。
【請求項17】
前記被処理水が、農業用水または漁業用水であり、上記気体が空気であり、上記処理槽で処理された液体に酸素を富化することを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の液体処理方法。
【請求項18】
前記気相の圧力を、0.12MPa〜0.18MPaに調節することを特徴とする請求項12から17のいずれか一項に記載の液体処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−187576(P2012−187576A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−39161(P2012−39161)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(511052048)
【出願人】(511052059)江田工事株式会社 (1)
【Fターム(参考)】