説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】圧電素子の応力集中を低減して圧電素子の破壊を抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室が短手方向に沿って並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に前記圧力発生室12に対応して設けられて、第1電極60、該第1電極60上に設けられた圧電体層70及び該圧電体層70上に設けられた第2電極80を有する圧電素子300と、を具備し、前記第1電極60が、前記圧力発生室に対応して独立して設けられていると共に、前記第2電極80が、前記圧力発生室12の並設方向に亘って連続して設けられており、前記第2電極80には、前記第1電極に相対向する領域の端部に当該第2電極80を貫通する開口部81が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を具備する液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドには、ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面側に、第1電極、圧電体層及び第2電極からなる圧電素子を設け、圧電素子の駆動によって圧力発生室に圧力変化を生じさせて、ノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドがある。このようなインクジェット式記録ヘッドに採用されている圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易いという問題がある。この問題を解決するために、例えば、圧電体層の外周面を第2電極で覆うように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、第1電極が共通電極、第2電極が個別電極となっている。
【0003】
また、圧電素子の第1電極を圧力発生室毎に設けて個別電極とし、第2電極を複数の圧力発生室に亘って連続して設けて共通電極としたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
このうち後者の共通電極が第2電極であるものが、前者の共通電極が第1電極である場合よりも多く用いられる。これは、通常スパッタ法により形成される第2電極が圧縮性であって、液体噴射ヘッド形成直後は、圧力発生室が膨張する凸方向に振動板を変形させており、電極間に駆動電圧を印加させたとき、振動板が凹方向に変位するので、振動板の変位の絶対値を小さくでき、ストレスを小さくできるからである。ただし、第2電極が共通である場合、圧電素子の歪み(凹凸の変位の差)は大きいため、変位時にクラックが発生しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−88441号公報
【特許文献2】特開2009−172878号公報(図2及び図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の図2及び図4に示すような第2電極を共通電極とするような圧電素子では、圧力発生室の長手方向において第2電極の端部が圧力発生室に相対向する領域に設けられているため、第2電極が設けられている領域と設けられていない領域とで剛性に相違が生じていると共に、第2電極が設けられている領域と設けられていない領域とが電界が発生する領域(駆動領域)と電界が発生しない領域(非駆動領域)との境界部分となっていることから、圧電体層の第2電極が設けられている領域と設けられていない領域との境界部分に応力集中が発生し、圧電体層にクラック等の破壊が生じてしまう虞があるという問題がある。
【0007】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、圧電素子の応力集中を低減して圧電素子の破壊を抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が短手方向に沿って並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に前記圧力発生室に対応して設けられて、第1電極、該第1電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層上に設けられた第2電極を有する圧電素子と、を具備し、前記第1電極が、前記圧力発生室に対応して独立して設けられていると共に、前記第2電極が、前記圧力発生室の並設方向に亘って連続して設けられており、前記第2電極には、前記第1電極に相対向する領域の端部に当該第2電極を貫通する開口部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、第2電極に開口部を設けることで、圧電体層の単位面積当たりの第2電極の面積を減少させて、開口部が設けられた領域の圧電体層に印加される電界を減少させることができ、応力集中を抑制して圧電体層の破壊を低減することができる。
【0010】
ここで、前記第2電極は、前記圧力発生室の長手方向における端部が、当該圧力発生室に相対向する領域内に設けられており、前記開口部が前記第1電極に相対する領域の端部側に設けられていることが好ましい。これによれば、第2電極が設けられた領域と設けられていない領域とで剛性が異なる境界部分で、且つ電界が印加される領域と電界が印加されない領域との境界部分で最も応力集中が発生しやすい部分に開口部を設けることで、応力集中を抑制して圧電体層の破壊を低減することができる。
【0011】
また、前記開口部は、前記第2電極の表面の単位面積に対する開口率が、前記圧力発生室の長手方向の端部に向かって徐々に大きくなるように設けられていることが好ましい。これによれば、電界が印加される領域と電界が印加されない領域との境界部分で印加される電界を徐々に変化させることができるため、応力集中による破壊をさらに確実に抑制することができる。
【0012】
また、前記開口部は、前記圧力発生室の長手方向に沿って複数設けられているのが好ましい。これによれば、複数の開口部によって、応力集中が発生する箇所を分散して、さらに応力集中による破壊を抑制することができる。
【0013】
また、前記開口部は、平面視において矩形状の開口形状を有することが好ましい。これによれば、開口部を容易に且つ高精度に形成することができる。
【0014】
また、前記開口部は、前記第1電極の前記圧力発生室の短手方向における幅方向に亘って設けられていてもよい。
【0015】
また、前記第2電極が、互いに隣り合う圧力発生室の間で切り分けられていると共に、前記圧力発生室の外側で連続して設けられていてもよい。
【0016】
また、前記圧電素子には、前記第2電極上に保護膜が設けられていてもよい。これによれば、圧電体層の破壊をさらに確実に抑制することができる。
【0017】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、信頼性及び耐久性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図及び断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの動作を示す断面図である。
【図6】実施形態2に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。
【図7】実施形態3に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。
【図8】実施形態4に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図及び断面図である。
【図9】実施形態5に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。
【図10】記録ヘッドの他の例を示す要部を拡大した平面図である。
【図11】一実施形態にかかる記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの平面図及びそのA−A′断面図であり、図3は、図2のB−B′断面図であり、図4は、図2及び図3の要部を拡大した平面図及び断面図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0021】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0022】
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0023】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0024】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。また、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を各圧力発生室12毎に設けることで、圧電素子300の個別電極とし、第2電極80を複数の圧力発生室12に亘って設けることで共通電極としている。また、ここでは、変位可能な圧電素子300を有する装置をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0025】
ここで、圧電素子300の構成について図3及び図4を参照して詳細に説明する。
圧電素子300を構成する第1電極60は、各圧力発生室12に対応して独立して設けられている。ここで、第1電極60が各圧力発生室12に対応して独立して設けられているとは、第1電極60が圧力発生室12の並設方向において不連続となるように切り分けられて設けられていることを言う。本実施形態では、第1電極60を圧力発生室12の短手方向の幅(圧力発生室12の並設方向における幅)よりも幅狭に設けることで、第1電極60を各圧力発生室12に対応して独立して設けるようにした。
【0026】
また、このような圧力発生室12毎に独立して設けられた第1電極60同士は、電気的に導通されないようにすることで、圧電素子300の個別電極として機能する。
【0027】
さらに、第1電極60は、圧力発生室12の長手方向において、圧力発生室12の長手方向端部の外側まで延設されている。この圧力発生室12の長手方向において、第1電極60の連通部13とは反対側に延設された一端部が、詳しくは後述する駆動回路120と電気的に接続される端子となっている。すなわち、第1電極60は、圧電素子300から引き出されて駆動回路120が接続される引き出し配線としても機能する。
【0028】
圧電体層70は、本実施形態では、圧力発生室12に対応して独立して設けられている。すなわち、圧力発生室12毎に設けられた圧電体層70は、圧力発生室12の並設方向において不連続となるように圧力発生室12毎に切り分けられて設けられていることを言う。
【0029】
圧電体層70は、圧力発生室12の短手方向において、第1電極60よりも幅広で、且つ圧力発生室12の短手方向の幅よりも幅狭に設けられており、圧電体層70は第1電極60の幅方向の端面を覆っている。
【0030】
また、圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向の長さよりも長く設けられている。本実施形態では、圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向において第1電極60の連通部13側の端部を覆う大きさで設けられている。
【0031】
さらに、圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向において、第1電極60の連通部13とは反対側の端部よりも短く設けられており、第1電極60の一端部を露出している。この露出された第1電極60の端部に駆動回路120が電気的に接続される。
【0032】
なお、圧電体層70は、電気機械変換作用を示す圧電材料、例えば、ペロブスカイト構造を有し金属としてZrやTiを含む強誘電体材料、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等からなる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又はマグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等が挙げられる。
【0033】
圧電体層70の厚さについては、特に限定されないが、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成すればよい。例えば、圧電体層70を0.2〜5μm前後の厚さで形成することで、所望の結晶構造を得ることが容易となる。本実施形態においては、最適な圧電特性を得るため、圧電体層70の膜厚を1.2μmとした。
【0034】
また、圧電体層70の製造方法は特に限定されず、例えば、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成することができる。もちろん、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法等を用いてもよい。
【0035】
また、本実施形態では、圧電体層70を圧力発生室12毎に独立して設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体層70を複数の圧力発生室12に亘って連続するように設けてもよい。
【0036】
第2電極80は、複数の圧力発生室12の並設方向に亘って連続して設けられている。ここで、第2電極80が複数の圧力発生室12に連続して設けられているとは、図2(a)に示すように、隣り合う圧力発生室12の間で連続しているものも、また、隣り合う圧力発生室12の間では切り分けられているが、隣り合う圧力発生室12の間の外側で連続している、所謂、櫛歯状に設けられたものも含む。
【0037】
また、第2電極80は、圧力発生室12の長手方向(圧力発生室12の並設方向と交差する方向)において、圧力発生室12に相対向する領域内に設けられている。すなわち、第2電極80の長手方向(圧力発生室12の長手方向)の端部は、圧力発生室12の領域内に位置するように設けられている。
【0038】
このような第1電極60、圧電体層70及び第2電極80で構成される圧電素子300では、第1電極60の幅方向(圧力発生室12の短手方向であって並設方向のこと)の端部によって、圧電体能動部320の短手方向の端部(幅)を規定し、第2電極80の長さ方向(圧力発生室12の長手方向)の端部によって、圧電体能動部320の長手方向の端部(長さ)を規定している。
【0039】
また、第2電極80には、第1電極60に相対向する領域の端部に当該第2電極80を貫通する開口部81が設けられている。開口部81が第1電極60に相対向する領域内に設けられているとは、言い換えると、流路形成基板10を圧電素子300側から平面視した際に、開口部81が第1電極60に重なる位置に設けられているということである。本実施形態では、開口部81を、第2電極80の圧力発生室12の長手方向における両端部にそれぞれ複数個ずつ設けるようにした。また、本実施形態の開口部81は、圧力発生室12の短手方向(並設方向)に長い矩形状の開口形状を有する。具体的には、開口部81は、圧力発生室12の短手方向において第1電極60の幅よりも長く、且つ互いに隣り合う圧電素子300の間において開口部81同士が不連続となる長さの開口形状で設けられている。このように、開口部81を圧力発生室12の短手方向において第1電極60の幅よりも長い開口形状とすることで、複数の開口部81を形成した際に、圧力発生室12の短手方向の位置ずれが生じたとしても、発生する電界強度が変化するのを抑制することができる。また、開口部81を、圧電素子300の間において開口部81同士が不連続となる長さの開口形状で設けることで、隣り合う開口部81の間の第2電極80に電圧を印加することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、開口部81を圧力発生室12の長手方向における両端部に3個ずつ等間隔となるように設けるようにした。また、各開口部81の圧力発生室12の短手方向における長さを同一長さとなるように設けるようにした。すなわち、開口部81は、第2電極80の圧力発生室12の長手方向の端部近傍において、第2電極80の単位面積に対する開口率が同一となるように設けられている。ちなみに、第2電極80は、複数の圧力発生室12に亘って連続して設けられているため、開口部81を設けたとしても、開口部81の間の領域には電流が流れるようになっている。
【0041】
このように、第2電極80の圧力発生室12の長手方向における端部に開口部81を設けることで、第2電極80の圧力発生室12の長手方向における端部近傍では、圧電体層70の単位面積に対する第2電極80の面積が減少する。これにより、開口部81が設けられた領域では、開口部81の分だけ(面積が減少した分だけ)電界が減少して発生する。圧電体層70は、発生する電界の強度に対応して変位量が変化するため、第2電極80の開口部81が設けられた端部近傍では、変位量が低下する。具体的には、圧力発生室12の長手方向において、第2電極80の中央部で発生する電界を100%とすると、例えば第2電極80の端部に開口部81が50%の面積となるように設けられていた場合、第2電極80の端部では中央部に比べて50%の電界が発生する。ちなみに、圧力発生室12の長手方向において、第2電極80が設けられていない領域では電界が発生しない。(0%)となる。このように、圧力発生室12の長手方向において、圧電体層70には電界が印加されない領域と、電界が100%印加される領域と、これらの境界部分に中央部よりも減少された電界が印加される領域とが存在する。ここで、圧電素子300を変形させると、図5に示すように、第2電極80が設けられた領域と第2電極80が設けられていない領域との境界A、すなわち、第2電極80の端部に応力集中が発生する。これは、第2電極80が存在する領域と存在しない領域とで圧電素子300の剛性に差が生じていると共に、第2電極80が存在する領域の圧電体層70には電界が印加されて変形し、第2電極80が存在しない領域の圧電体層70には電界が印加されずに自発的に変形しない(圧電体能動部320の変形によって追随する変形は行われる)ことから、この境界部分に応力が集中してしまう(図5中点線で示す変形が行われる)。しかしながら、本実施形態では、開口部81を設けることで、第2電極80の領域Aに第2電極80が設けられていない領域よりも大きく、且つ第2電極80の中央部よりも小さな電界を印加させることができ、領域Aの変位量を減少させることができる。この結果、図5に示すように、圧電素子300が変位した際の境界部分の傾斜角度が緩やかになり、領域Aに応力集中が発生するのを抑制することができる。これにより、圧電体層70にクラック等の破壊が発生するのを抑制することができる。
【0042】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60及び絶縁体膜55上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールドと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0043】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0044】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0045】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120と第1電極60及び第2電極80とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0046】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0047】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0048】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0049】
図6に示すように、実施形態2の圧電素子300Aは、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80Aを有する。第1電極60は、圧力発生室12毎に設けられた個別電極であり、第2電極80Aは、複数の圧力発生室12に亘って連続して設けられた共通電極である。
【0050】
圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Aの両端部には、それぞれ複数の開口部81Aが等間隔となるように設けられている。開口部81Aは、第2電極80Aの中央部(圧力発生室12の長手方向)に向けて、圧力発生室12の短手方向(並設方向)の長さが徐々に漸小するように設けられている。すなわち、開口部81Aは、第2電極80Aの表面の単位面積に対する開口率が、圧力発生室12の長手方向の端部に向かって徐々に大きくなるように設けられている。
【0051】
このような開口部81Aを有する第2電極80Aでは、圧電体層70に印加される電界強度が開口部81Aの長さに応じて変化する。具体的には、開口部81Aの長さが長いと、圧電体層70に印加される電界強度は低く、開口部81Aの長さが短いと、圧電体層70に印加される電界強度が高くなる。これにより、圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Aが設けられていない領域から、第2電極80Aが設けられた領域との境界において、電界強度を徐々に変化させることができ、さらに圧電素子300Aの変位に伴う応力集中を抑制することができる。
【0052】
(実施形態3)
図7は、本発明の実施形態3に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0053】
図7に示すように、実施形態3の圧電素子300Bは、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80Bを有する。第1電極60は、圧力発生室12毎に設けられた個別電極であり、第2電極80Bは、複数の圧力発生室12に亘って連続して設けられた共通電極である。
【0054】
圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Bの両端部には、それぞれ複数の開口部81Bが等間隔となるように設けられている。開口部81Bは、第2電極80Bの中央部(圧力発生室12の長手方向)に向けて、圧力発生室12の長手方向(並設方向と直交する方向)の幅が徐々に漸小するように設けられている。すなわち、開口部81Bは、第2電極80Bの表面の単位面積に対する開口率が、圧力発生室12の長手方向の端部に向かって徐々に大きくなるように設けられている。
【0055】
このような開口部81Bを有する第2電極80Bでは、圧電体層70に印加される電界強度が開口部81Bの幅に応じて変化する。具体的には、開口部81Bの幅が広いと、圧電体層70に印加される電界強度は低く、開口部81Bの幅が狭いと、圧電体層70に印加される電界強度が高くなる。これにより、圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Bが設けられていない領域から、第2電極80Bが設けられた領域との境界において、電界強度を徐々に変化させることができ、さらに圧電素子300Bの変位に伴う応力集中を抑制することができる。
【0056】
(実施形態4)
図8は、本発明の実施形態4に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図及び断面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0057】
図8に示すように、実施形態4の圧電素子300Cは、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80Cを有する。第1電極60は、圧力発生室12毎に設けられた個別電極であり、第2電極80Cは、複数の圧力発生室12に亘って連続して設けられた共通電極である。
【0058】
圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Cの両端部には、それぞれ複数の開口部81Cが設けられている。開口部81Cは、圧力発生室12の長手方向に長い矩形状の開口形状を有し、圧力発生室12の短手方向(並設方向)に向かって等間隔に配置されている。
【0059】
このような開口部81Cを有する第2電極80Cであっても、上述した実施形態1と同様に、圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Cが設けられていない領域と、第2電極80Cが設けられた領域との境界において、第2電極80Cの中央部に比べて電界強度を低下させて、圧電素子300Cの変位に伴う応力集中を抑制することができる。
【0060】
(実施形態5)
図9は、本発明の実施形態5に係る記録ヘッドの要部を拡大した平面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0061】
図9に示すように、実施形態5の圧電素子300Dは、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80Dを有する。第1電極60は、圧力発生室12毎に設けられた個別電極であり、第2電極80Dは、複数の圧力発生室12に亘って連続して設けられた共通電極である。
【0062】
圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Dの両端部には、それぞれ複数の開口部81Dが圧力発生室12の短手方向に等間隔となるように設けられている。開口部81Dは、第2電極80Dの中央部(圧力発生室12の短手方向)に向けて、圧力発生室12の長手方向(並設方向と直交する方向)の長さが徐々に漸大するように設けられている。すなわち、開口部81Dは、第2電極80Dの表面の単位面積に対する開口率が、圧力発生室12の長手方向の端部に向かって徐々に大きくなるように設けられている。
【0063】
このような開口部81Dを有する第2電極80Dでは、圧電体層70に印加される電界強度が開口部81Dの開口率に応じて変化する。具体的には、開口部81Dの開口率が高いと、圧電体層70に印加される電界強度は低く、開口部81Dの開口率が低いと、圧電体層70に印加される電界強度が高くなる。これにより、圧力発生室12の長手方向において、第2電極80Dが設けられていない領域と、第2電極80Dが設けられた領域との境界において、電界強度を徐々に変化させることができ、さらに圧電素子300Bの変位に伴う応力集中を抑制することができる。
【0064】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1〜5では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0065】
また、上述した実施形態1〜5では、圧電素子300〜300Dの第2電極80〜80Dとして、隣り合う圧力発生室12の間で連続しているものを例示したが、特にこれに限定されず、第2電極80〜80Dが複数の圧力発生室12に連続して設けられているとは、隣り合う圧力発生室12の間にでは切り分けられているが、隣り合う圧力発生室12の間の外側で連続している、所謂、櫛歯状に設けられたものも含むものである。ここで、このような例を図10に示す。図10に示すように、圧電素子300Eは、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80Eを有し、第2電極80Eは、隣り合う圧力発生室12の間にでは切り分けられているが、隣り合う圧力発生室12の間の外側で連続している、所謂、櫛歯状に設けられている。このような圧電素子300Eでは、圧電体能動部320の長手方向の一端部を第2電極80Eが規定し、圧電体能動部320の長手方向の他端部を第1電極60が規定している。そして、第2電極80Eには、圧電体能動部320の一端部を規定する第2電極80Eの一端部側と、圧電体能動部320の他端部を規定する第1電極60の端部とに複数の開口部81Eが設けられている。また、圧電体能動部320の短手方向の端部は、第1電極60の幅によって規定することも、また、第2電極80Eの幅によって規定することもできる。
【0066】
また、上述した実施形態1〜5では、圧電素子300〜300Dの上に耐湿度性を有する保護膜を設けなくても、第1電極60の圧力発生室12の長手方向における一端部は、圧電体層70によって覆われているため、第1電極60と第2電極80〜80Eとの間で電流がリークすることがなく、圧電素子300〜300Eの破壊を抑制することができる。なお、第1電極60の圧力発生室12の長手方向の他端部は圧電体層70に覆われていないが、第1電極60と第2電極80〜80Eとの間に距離があるため、特に影響が無い。もちろん、上述した実施形態1〜5の圧電素子300〜300Eに耐湿度性を有する保護膜を設けることで、圧電素子300〜300Eをさらに確実に保護することができるが、上述した実施形態1〜5の圧電素子300〜300Eのように保護膜を設けないことで、保護膜が圧電素子300〜300Eの変位を阻害することがなく、大きな変位量を得ることができる。
【0067】
さらに、上述した実施形態1〜5では、圧電体層70を各圧力発生室12毎に切り分けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧力発生室12の並設方向に亘って連続する圧電体層70を設けるようにしてもよい。
【0068】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0069】
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0070】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0071】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0072】
なお、上述した実施形態1〜5では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0073】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80、80A、80B、80C、80D、80E 第2電極、 81、81A、81B、81C、81D、81E 開口部、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300、300A、300B、300C、300D、300E 圧電素子、 320 圧電体能動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室が短手方向に沿って並設された流路形成基板と、
該流路形成基板の一方面側に前記圧力発生室に対応して設けられて、第1電極、該第1電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層上に設けられた第2電極を有する圧電素子と、を具備し、
前記第1電極が、前記圧力発生室に対応して独立して設けられていると共に、前記第2電極が、前記圧力発生室の並設方向に亘って連続して設けられており、
前記第2電極には、前記第1電極に相対向する領域の端部に当該第2電極を貫通する開口部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第2電極は、前記圧力発生室の長手方向における端部が、当該圧力発生室に相対向する領域内に設けられており、前記開口部が前記第1電極に相対する領域の端部側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記開口部は、前記第2電極の表面の単位面積に対する開口率が、前記圧力発生室の長手方向の端部に向かって徐々に大きくなるように設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記開口部は、前記圧力発生室の長手方向に沿って複数設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記開口部は、平面視において矩形状の開口形状を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記開口部は、前記第1電極の前記圧力発生室の短手方向における幅方向に亘って設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第2電極が、互いに隣り合う圧力発生室の間で切り分けられていると共に、前記圧力発生室の外側で連続して設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記圧電素子には、前記第2電極上に保護膜が設けられていることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−73206(P2011−73206A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225450(P2009−225450)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】