説明

液晶組成物

【課題】細胞毒性の低い液晶分散組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)トコフェリルリン酸エステルの塩、(B)高級アルコール、(C)水、で形成された液晶が分散している組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶が分散している組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トコフェロールのリン酸エステル(トコフェリルリン酸エステル)の塩は、水に溶解性を示すことから使い勝手のよいトコフェロール原料として種々の医薬品や化粧品に配合されている(特許文献1:特許第3035742号公報、特許文献2:特許第3950216号公報)。しかし、乳化系に配合すると乳化ミセルの凝集が発生し、沈殿が生じる事が指摘されている。トコフェリルリン酸エステル塩を配合した製剤に、多価アルコールとリン酸水素二カリウムなどのリン酸塩を併用することでトコフェリルリン酸エステル塩の安定化(定量分析値の安定化)を図る方法が提案されている(特許文献2:特許第3950216号公報)。
トコフェリルリン酸のナトリウム塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)はアニオン性の両親媒性物質であり、界面活性機能を有することが知られている(非特許文献1:日本化粧品技術者会誌140頁、2006年6月)。このトコフェリルリン酸ナトリウムの界面活性能を利用して乳化組成物を調製する試みがなされている(特許文献3:特開平9−309813号公報、非特許文献1:日本化粧品技術者会誌140頁、2006年6月)。また、出願人もトコフェリルリン酸塩の界面活性能に着目して、界面活性剤を配合せずに乳化粒子径を2μm以下にまでミセル化して安定性をよくした組成物の技術を特願2011−072309に提案した。
【0003】
乳化組成物を調製する方法としては、ノニオン系界面活性剤と高級アルコールを用いる方法、アニオン系界面活性剤と高級アルコールを用いる方法、カチオン系界面活性剤を用いる方法、脂肪酸石鹸を用いる方法、およびそれらを併用する方法などが知られている。乳化組成物において、乳化剤である界面活性剤と乳化助剤である高級アルコールを組み合わせることは汎用技術である。また、乳化組成物のクリーミングを防止し、高温安定性を高めることを目的として、一定量或いは一定比率の高級アルコールと界面活性剤と水から形成される液晶(ラメラ液晶)が外相(水相)に分散しゲル化して組成物の粘度を高め、ラメラ液晶の集合体による球晶がラメラ液晶の分散した外相中に分散した乳化組成物の研究が知られている(非特許文献2:セチルアルコールの物理化学、福島正二著、フレグランスジャーナル社発行、第99頁、第114頁、平成4年7月10日発行)。本発明でいう液晶とは、非特許文献2に示されたラメラ液晶および球晶の両方を指す場合がある。液晶の形成は、非特許文献2の第68頁にある液晶に特徴的な像Maltese cross(マルタ十字架)を偏光顕微鏡により観察すること、又は相転移温度により確認できる。液晶の形成は、液晶含有組成物を増粘固化させ高温安定性を向上させるが、高温安定性を十分確保させるには一定量の液晶形成が必要であり、液晶を形成させる為の界面活性剤や高級アルコールの量は通常の乳化よりも多くなる。その為、化粧料や皮膚外用剤として肌に塗布した時にのびが重くなったり、べたついたりしてさっぱりした使用感が得られないなどの問題だけでなく、多量に使用する界面活性剤に起因する安全性の低下(皮膚刺激性)が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3035742号公報
【特許文献2】特許第3950216号公報
【特許文献3】特開平9−309813号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】坂 貞徳ほか、2006年6月20日発行、日本化粧品技術者会誌第140頁、2006年
【非特許文献2】福島正二著、セチルアルコールの物理化学、第99頁、第114頁、第68頁、平成4年7月10日、フレグランスジャーナル社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞毒性の低い液晶分散組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、トコフェリルリン酸エステル塩と高級アルコールと水を組み合わせると液晶が形成されること、該液晶を含む液晶分散組成物が安全性に優れることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、トコフェリルリン酸塩の乳化能を利用して乳化組成物を調製する場合には、更に両性界面活性剤や非イオン性界面活性剤などの界面活性剤や、特定の油溶性成分を添加する必要があるという従来の技術常識を覆すものである。すなわち、本発明は、界面活性剤に代えて乳化助剤として化粧品に配合される高級アルコールを、水とトコフェリルリン酸エステルの塩とともに組み合わせることで安全性に優れた液晶を形成することを知見したことに基づいてなされたものである。
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)(A)トコフェリルリン酸エステルの塩、
(B)高級アルコール、
(C)水、
で形成された液晶が分散している組成物。
(2)トコフェリルリン酸エステルの塩(A)がトコフェリルリン酸ナトリウムである(1)に記載の組成物。
(3)高級アルコール(B)がベヘニルアルコールである(1)または(2)に記載の組成物。
(4)トコフェリルリン酸塩(A)と高級アルコール(B)の配合比率が1:5〜1:1.6であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)さらに、(D)水溶性高分子を含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)さらに、(E)モノグリセリン脂肪酸エステルを含有する(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)化粧料または皮膚外用剤である(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ポリオキシエチレン鎖の付いた非イオン性界面活性剤を含まない(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成をとることにより、液晶の分散した組成物を得ることが出来る。本発明の液晶分散組成物は、細胞毒性が低く皮膚への刺激が少ないので、保湿ローション、保湿美容液、保湿ゲル、美白ゲル、マッサージゲル、パック等の化粧料や、皮膚外用剤(医薬部外品や医薬品を含む)として好適に用いることが出来る。さらに、皮膚の脂質成分を形成する液晶が破壊されにくいため、皮膚の水分保持機能の亢進・維持、皮膚機能の改善・修復が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の液相組成物の液晶形成を確認するために行った実施例19のDSC測定チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の液晶が分散している組成物を調製する為の構成成分について説明する。
必須成分
〔トコフェリルリン酸エステルの塩(A)〕
本発明で用いるトコフェリルリン酸エステルの塩類は特に限定されない。ナトリウム塩、ジナトリウム塩、カリウム塩、ジカリウム塩等の金属塩が好ましい。特に好ましくはトコフェリルリン酸ナトリウムである。トコフェリルリン酸エステルの塩類の配合量は特に限定されないが0.05〜3質量%が好ましい。より好ましくは0.1〜2質量%である。0.05質量%に満たないと液晶が形成され難く、3質量%を超えると液晶の形成を阻害する恐れがある。
【0011】
トコフェリルリン酸ナトリウムは、白色から微黄色の粉末状で、室温で水に容易に溶解する。ビタミンEは脂溶性ビタミンとして有用なビタミンであり、ビタミンCなどの水溶性抗酸化化合物と協同して紫外線などにより惹起される酸化ストレスから皮膚を守る働きを持つ。トコフェリルリン酸ナトリウムは、ビタミンEそれ自体が化学的に不安定なことから誘導体化したものである。トコフェリルリン酸ナトリウムは、皮膚内の脱リン酸化酵素によりビタミンEに変換され、抗酸化作用や抗炎症作用を発揮して肌荒れを改善するので、その美容効果を期待して化粧料などの皮膚外用剤に配合される。酸化防止作用も有するので酸化防止剤としても配合される。トコフェリルリン酸ナトリウムは、親水性と親油性の両方の性質を有する両親媒性のビタミンE誘導体であり、皮膚への浸透性が高い。市販されているものとして昭和電工株式会社製の「ビタミンEリン酸ナトリウム」を例示する。
【0012】
〔高級アルコール(B)〕
本発明の(B)成分である高級アルコールは、トコフェリルリン酸塩と水とともに液晶を形成する。前記液晶を形成する高級アルコールとしてはステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、アラキルアルコール、水添ナタネアルコール等が挙げられる。ベヘニルアルコールを配合することが好ましい。ベヘニルアルコールは、組成物に1〜7質量%配合することが好ましい。より好ましくは1〜5質量%配合することが好ましい。1質量%に満たないと十分に液晶が形成されない恐れがある。7質量%を超えるとのびが悪くなり使用感が損なわれる恐れがある。
ベヘニルアルコールの市販品としては、日油株式会社製のNAA−422や、日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOL ベヘニルアルコール 65やNIKKOL ベヘニルアルコール 80を入手して用いることができる。
【0013】
〔水(C)〕
本発明において組成物中に液晶を形成させるために水は必須である。トコフェリルリン酸塩と高級アルコールと水を組み合わせることで、液晶を形成することができる。水は4〜99質量%の範囲で配合することが好ましい。
【0014】
本発明に於いて、トコフェリルリン酸塩(A)と高級アルコール(B)の配合比率は1:5〜1:1.6好ましくは1:5〜1:2、より好ましくは1:5〜2:5である。トコフェリルリン酸塩(A)よりも高級アルコール(B)の配合量を多くした方が、強固な液晶が形成され、高温安定性が高まるのでより好ましい。
【0015】
〔水溶性高分子(D)〕
水溶性高分子は、前述した基本構成成分(A)、(B)、(C)で得られる液晶が分散した液晶分散組成物を増粘させ、長期保存における液晶分散組成物の安定性を高める。また、本発明の液晶分散組成物5000〜60000mPa・s(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒、25℃)の粘度とする場合には水溶性高分子を配合することが好ましい。化粧料や皮膚外用剤などの肌に塗布する組成物とする場合には、高分子の持つ特有の粘性は、高級アルコールの持つ固有のべたつきや指止まり感(塗布時の指すべりの悪さ)を改善して肌上でののびを良くするので好ましい。
前述の作用を有する高分子であれば、天然高分子、半合成高分子、合成高分子のいずれを用いてもよい。たとえば、天然高分子としては、トラガントガム、カラヤガム、キサンタンガム、グアガム、カチオン化グアガム、アニオン化グアガム、タラガム、アラビアガム、タマリンドガム、ジュランガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、クインスシード、デキストラン、等が例示できる。半合成高分子としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン化セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸ナトリウム、ベントナイト等が例示できる。合成高分子としては、カルボキシビニルポリマー、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、アンモニウムアクリロイルジメチルタウレート/VPコポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ジアルキルポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジオレイン酸メチルグルコシド、ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、合成スメクタイト、等が例示できる。中でもカルボキシビニルポリマーやキサンタンガム、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、アンモニウムアクリロイルジメチルタウレート/VPコポリマーを用いることが好ましい。これらは既知物質であり、多くのものが市販されている。例えば、カルボキシビニルポリマーは、和光純薬工業からハイビスワコー103、ハイビスワコー104、ハイビスワコー105、NOVEON社製カーボポール934、カーボポール940、カーボポール941、カーボポール980等が上市されている。例えば、キサンタンガムは、大日本住友製薬からエコーガムが上市されている。(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーは、SEPICC社からSEPINOV EMT10等が上市されている。アンモニウムアクリロイルジメチルタウレート/VPコポリマーは、クラリアント社(Clariant)から入手可能であるアリストフレックス(Aristoflex)AVCという商品名を有するが挙げられる。これらを購入して使用することも可能であり、市販品を使用するのが好ましく、一種もしくは二種以上を組み合わせて含有させることができる。
水溶性高分子は、組成物に0.01〜1質量%配合することが好ましい。0.01質量%に満たないと、粘度に影響しない場合があり、保存安定性が改善されない恐れがある。1質量%を超えて配合すると、高分子特有のべたつきやぬるつきなどが生じて使用感が低下する恐れがある。本発明に於いては、カルボキシビニルポリマーが安定性の向上、使用感の観点から特に好ましい。
【0016】
〔モノグリセリン脂肪酸エステル(E)〕
本発明の基本構成に、さらにモノグリセリン脂肪酸エステルを添加すると、モノグリセリン脂肪酸エステルが組成物中で結晶を形成することで、本発明の基本構成で得られる液晶が分散した液晶分散組成物のクリーミングを防止し、より高温での温度安定性が向上する。モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノカプリル酸グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、モノパルミチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、モノベヘン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、モノエルカ酸グリセリル等が例示できる。モノステアリン酸グリセリルを用いることが好ましい。モノステアリン酸グリセリルの市販品としては、日本エマルジョン株式会社製のEMALEX GMS−BやEMALEX GMS−F、日光ケミカルズ株式会社製のMGS−ASE、MGS−AV、MGS−BVを入手して用いることができる。モノグリセリン脂肪酸エステルは、組成物に0〜5質量%配合することが好ましい。より好ましくは0〜3質量%配合することが好ましい。5質量%を超えるとのびが悪くなり使用感が損なわれる恐れがある。
【0017】
任意成分
本発明の液晶分散組成物には、目的に応じて任意成分として発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に通常用いられる成分、例えば、油性成分、多価アルコール、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、保香剤、防腐剤、pH調整剤、血行促進剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤その他の美容成分、薬効成分などを配合することができる。
【0018】
油性成分としては、エステル油、炭化水素類、高級脂肪酸、シリコ−ン油などが例示できる。エステル油としては、例えば、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸1,3−ブチレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸1,3−ブチレングリコール、ジイソノナン酸ジプロピレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸ジプロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオペンタン酸イソステアリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。シリコ−ン油として、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン、シクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0019】
また、必要に応じて多価アルコールを配合することができる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンチレングリコール、ソルビトール等が例示できる。
【0020】
本発明の液晶分散組成物は、従来の技術と異なり界面活性剤を含まなくても調製することができる。しかし、本発明の特徴を損なわない範囲で、任意成分として界面活性剤を配合しても構わない。皮膚刺激のより低い化粧料や皮膚外用剤を求める場合や、環境を配慮した界面活性剤を使用したい場合には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ポリオキシエチレン鎖の付いた非イオン性界面活性剤を含まない方が好ましい。
【0021】
本発明の液晶分散組成物はそのまま保湿ローション、保湿美容液、保湿ゲル、美白ゲル、マッサージゲル、パック等の化粧料として使用することができる。また、必要に応じて香料や美容成分を配合することができる。あるいは医薬品、医薬部外品として承認されている成分を配合することで、医薬部外品や医薬品などの皮膚外用剤としても使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて、本発明の特徴と効果をさらに詳細に説明する。
【0023】
表1〜3に示す組成にて実施例1〜18、比較例1〜10の組成物を調製した。
調製方法
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩と(C)水を80℃で均一に混合し水相とする。
(B)高級アルコールと任意で油性成分を80℃で均一に混合し油相とする。
油相に水相を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けて液晶を形成させた液晶分散組成物を調製する。
(D)さらに水溶性高分子を配合する場合には、混合前に水相に添加する。カルボキシビニルポリマーなど中和が必要な(D)水溶性高分子を用いる場合には中和剤を添加して中和する。
(E)さらにモノグリセリン脂肪酸エステルを配合する場合には、混合前に油相に添加する。
グリセリンなどの多価アルコールを配合する場合には、混合前に油相に添加する。尚、(A)トコフェリルリン酸エステルの塩が分散した状態の(B)高級アルコールを含む油相(80℃)の中に、(C)水相(80℃)を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けても、液晶を形成させた液晶分散組成物は調製することができる。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
液晶形成の確認(偏光顕微鏡観察)、安定性の評価、安全性の評価(細胞毒性試験)
実施例と比較例の組成物を、下記に示す方法により測定、評価した。
【0028】
<液晶形成の確認>
調製した組成物について、偏光顕微鏡にて観察し、液晶を形成しているときに観察される特有の像である「マルタ十字架」(福島正二著、セチルルコールの物理化学、第68頁、図6.2)の有無を確認し下記基準で判断した。
(基準)
◎:「マルタ十字架」が観察でき、菱形の粒子は観察されない
○:「マルタ十字架」が観察できるが、菱形の粒子がごく一部観察される
△:「マルタ十字架」が観察できるが、菱形の粒子も観察される
×:「マルタ十字架」が全く観察できない

尚、菱形の粒子は高級アルコールなどが結晶化したものと考えられ、実験中の何等かの影響により生じたものと思われるが、「マルタ十字架」が観察できたという観点から「◎、○、△」はすべて「液晶が形成した」と判断した。
【0029】
<安定性の評価>
調製した組成物を、それぞれ直径約3cmのガラス容器に充填し、25℃、40℃、50℃に30日間保存して、液晶組成物の安定性を以下の基準により目視と偏光顕微鏡により評価した。
(各温度での目視判定基準)
○:外観に異常がない
×:完全に分離している、または析出している

尚、表中の安定性の評価は、25℃、40℃、50℃のすべての保管温度において、○の評価になった場合にのみ○と記入した。調製したものに液晶形成が見られなかった組成物については安定性の観察・評価は行わなかった。表中では(−)と記載した。

(50℃で30日間保存した組成物の偏光顕微鏡による観察の判定基準)
○:「マルタ十字架」が残存している
×:「マルタ十字架」が消失している

尚、目視観察の結果、×の判定、つまり組成物に分離や析出が見られた場合は、偏光顕微鏡観察は行わなかった。表中では(−)と記載した。
【0030】
<安全性の評価(細胞毒性試験)>
正常ヒト線維芽細胞(新生児由来)を96wellプレートに播種し、COインキュベーター内で培養した。コンフルエントの状態で培地を被験物質に置換し、細胞に曝露させた。COインキュベーター内で24時間曝露後、生細胞がMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を吸収分解した際の生成物が発する青紫色の強度から細胞生存率を求めるMTTアッセイ法を用いて、細胞生存率からEC50(細胞が50%死滅する濃度)を求め細胞毒性を評価した。EC50値は、数値が高いほど細胞毒性が低いことを示す。
皮膚刺激性などの関係性が高いことから、皮膚への安全性を評価する指標となる。
【0031】
結果1
表1の実施例1〜3により、(A)トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、(B)高級アルコール(ベヘニルアルコール)および(C)水の3成分により、液晶が形成されることが確認できた。特に、(A)トコフェリルリン酸ナトリウムと(B)ベヘニルアルコールの配合比率が1:5〜2:5の時に、より多くの液晶が形成されていることが観察された。
【0032】
これに対して、トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、高級アルコール(ベヘニルアルコール)のいずれか一方の成分しか含まない比較例1、2の組成では、液晶が形成されなかった。比較例1は分離しており、比較例2はベヘニルアルコールの固形物が表面に浮いてしまった。比較例1、2の組成に水溶性高分子(カルボキシビニルポリマー)やモノグリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸グリセリル)を配合しても、液晶は形成されなかった(比較例3〜5)。比較例4、5の組成物は、ベヘニルアルコールと思われる固形の粒が析出していた。
【0033】
「非特許文献2:セチルアルコールの物理化学、福島正二著、フレグランスジャーナル社発行、第115頁〜第116頁、平成4年7月10日発行」には、「クリーム中にはD2相(ラメラ液晶相)とM相(球晶)の2種類の液晶が生成し、(中略)。特に筆者らがD2相と名付けた半固体のラメラ液晶は外(水)相に分散し、外水相をゲル化する。外水相をゲル化されると、乳化粒子は運動が阻害され、クリーミングも凝集も起こりにくくなる。M相と名付けた球晶は油粒子を包むような形でクリーム中に存在している。したがって、この相は油粒子の会合や拡散を妨げるであろう。」と記載されている。
実施例1、2は液晶の形成量(絶対量)が少なかったため、粘度が低くクリーミングを生じてしまった。しかし、実施例1の組成に、さらに(D)水溶性高分子(カルボキシビニルポリマー)を配合すると、組成物の粘度が高まり、高温(50℃)での安定性が良好になった(実施例4)。実施例1の処方に、さらに(E)モノグリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸グリセリル)を配合した実施例5も、組成物の粘度が高まり、高温(50℃)での安定性が良好になった。実施例4、5の組成物は、50℃に保管して30日経過後にもマルタ十字架が観察でき、安定性が確認できた。
液晶分散組成物の経時安定性を確保しクリーミング発生を解消するためには、(D)水溶性高分子や(E)モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに配合することが有効であることが分かった。
【0034】
尚、本発明の液晶の形成量(絶対量)を増やせば外水相が十分にゲル化されるので、安定性は確保できるが、使用感との兼ね合いから(D)水溶性高分子や(E)モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに配合してもよいことがわかった。
【0035】
結果2
次に、さらに多価アルコール(グリセリン)を高配合した表2の組成で、同様の実験を行った。多価アルコールを高配合したことにより、相対的に(C)水の配合量が減じられている。(C)水が比較的少ない系に於いても、(A)トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、(B)高級アルコール(ベヘニルアルコール)および(C)水の3成分により、液晶が形成されることが確認できた。特に、(A)トコフェリルリン酸ナトリウムと(B)ベヘニルアルコールの配合比率が1:5〜1:2の時に、より多くの液晶が形成されていることが観察された。実施例6〜16の本発明の液晶を含む液晶分散組成物は、25℃、40℃、50℃のいずれの保管温度に於いても30日後の観察で分離や析出等なく、液晶も残存しており安定性が良好であった。
【0036】
これに対して、トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、高級アルコール(ベヘニルアルコール)のいずれか一方の成分しか含まない比較例6〜9の組成では、液晶が形成されなかった。比較例9はベヘニルアルコールと思われる結晶の粒が析出した。
【0037】
結果3
表3は、高級アルコール(ベヘニルアルコール)と水と共に用いると液晶を形成することが公知の界面活性剤(ステアロイルメチルタウリンナトリウム)を、本発明の(A)成分に置き換えた組成で試作したものを比較例とし、得られた組成物の安定性と細胞毒性試験の結果を本発明の実施例と比較した結果を示す表である。実施例17、18の本発明の組成物は、液晶が形成され安定性に優れているだけでなく、比較例10の組成物よりも細胞毒性が低く、安全性が高い(皮膚刺激性が低くなる)ことが確認できた。
【0038】
実施例19〜22
表4に示す組成の(A)トコフェリルリン酸エステル塩、(B)高級アルコール、(C)水のみで形成された液晶組成物、実施例19〜22及び実施例3を調製し、液晶の安定性を確認した。
【0039】
調製方法
実施例1〜18の液晶の調製と同様に操作して液晶分散組成物を調製する。
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩と(C)水を80℃で均一に混合し水相とする。
(B)高級アルコールを80℃で均一に混合し溶解させ油相とする。
得られた油相に水相を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けて液晶を形成させた。
【0040】
【表4】

【0041】
液晶形成の確認及び安定性の評価
(1)示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)による液晶形成の確認
液晶は結晶(固体)と液体の中間状態を持つ状態である。DSCのチャートは、個々の液晶固有の温度で相転換を起こし、その際の吸熱反応を単一の吸熱ピークの出現として観察することで、液晶形成を確認することができる。この手法は、偏光顕微鏡観察法より正確に液晶の形成を確認できる。
DSCの測定は、試料をセイコーインスツルナノテクノロジー社製熱流束型示差操作熱量計(DSC6200)を用いて10℃/分の昇温速度で測定する。
【0042】
(2)安定性の評価
得られた液晶組成物を、それぞれ直径約3cmのガラス容器に充填し、25℃、40℃の2条件に30日間保存して、液晶組成物の安定性を保存開始前の状態と比較して、目視と偏光顕微鏡による観察で評価した。

(各温度での目視判定基準)
○:外観に異常がない
×:完全に分離している
(40℃30日保存の判定基準)
○:「マルタ十字架」が残存している
×:「マルタ十字架」が消失している
【0043】
結果
表4に測定結果を示すとおり、(A)トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、(B)高級アルコール(ベヘニルアルコール)および(C)水の3成分のみで調製した組成物は、DSC測定で70.4℃〜72℃に液晶特有の吸熱ピークを有しており、典型的な液晶であることが確認できた。図1に実施例19のDSC測定チャートを示す。典型的な液晶の吸熱反応を示すことが明らかである。また偏光顕微鏡観察でもマルタの十字が確認できた。
得られた液晶は、保存中の変化もなく安定な組成物であることが確認できた。
実施例19〜22、実施例3の組成物が安定であったことから、トコフェリルリン酸塩(A)と高級アルコール(B)が1:5〜1:1.6の範囲の比とすることが、安定な液晶含有組成物を調製するための基本的な組成の配合比率であるものと考えられる。
【0044】
本発明の「(A)トコフェリルリン酸エステルの塩、(B)高級アルコール、(C)水」で形成された液晶が分散した組成物は、安定性に優れていた。また、細胞毒性が低く、安全性が高い(皮膚刺激性が低い)ので、低刺激性であることが求められる化粧料や皮膚外用剤として有用である。また、皮膚の水分保持機能の亢進・維持、皮膚機能の改善・修復が期待でき、保湿化粧料への応用が期待できる。
【0045】
処方例1 保湿ゲル
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 62.3
4.カルボキシビニルポリマー 0.2
5.スクワラン 4
6.水酸化カリウム10%水溶液 0.1
7.グリセリン 20
8.ペンチレングリコール 1.5
9.1,3−ブチレングリコール
(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し、6を添加してpHを中和し、水相とする。2、5、7、8、9を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。

【0046】
処方例2 美白ゲル
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 72.4
4.キサンタンガム 0.1
5.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー

6.グリセリン 10
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5
9.アスコルビルグルコシド 2

(製法)
1、3、4、5を混合し80℃に加熱して溶解し、水相とする。2、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で撹拌して乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。3の一部に9を溶解させたものを加えて撹拌し美白ゲルとする。

【0047】
処方例3 美白ゲル
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 71.4
4.キサンタンガム 0.1
5.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー

6.グリセリン 10
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5
9.アルブチン 3

(製法)
1、3、4、5を混合し80℃に加熱して溶解し、水相とする。2、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で撹拌して乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。3の一部に9を溶解させたものを加えて撹拌し美白ゲルとする。

【0048】
処方例4 美容液
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 0.5
2.ベヘニルアルコール 1.2
3.精製水 67.3
4.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー
1.5
5.スクワラン 3
6.グリセリン 20
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5

(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し水相とする。2、5、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で撹拌して乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。
【0049】
処方例5 マッサージパック
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 62.3
4.カルボキシビニルポリマー 0.2
5.モノステアリン酸グリセリル(自己乳化型) 2
6.スクワラン 4
7.水酸化カリウム10%水溶液 0.1
8.グリセリン 20
9.ペンチレングリコール 1.5
10.1,3−ブチレングリコール 5

(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し、7を添加してpHを中和し、水相とする。2、5、7、8、9、10を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩、
(B)高級アルコール、
(C)水、
で形成された液晶が分散している組成物。
【請求項2】
トコフェリルリン酸エステルの塩(A)がトコフェリルリン酸ナトリウムである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
高級アルコール(B)がベヘニルアルコールである請求項1または2に記載の液晶分散組成物。
【請求項4】
トコフェリルリン酸塩(A)と高級アルコール(B)の配合比率が1:5〜1:1.6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
さらに、(D)水溶性高分子を含有する請求項1〜4のいずれかに組成物。
【請求項6】
さらに、(E)モノグリセリン脂肪酸エステルを含有する請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
化粧料または皮膚外用剤である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ポリオキシエチレン鎖の付いた非イオン性界面活性剤を含まない請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2013−107871(P2013−107871A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−177948(P2012−177948)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】