説明

混綿詰め綿

【課題】優れた嵩高性を有するだけでなく、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で体に沿いやすく、保温性に優れ長期圧縮後の嵩高回復性が高く、掛け布団等の寝装寝具およびダウンジャケット等の衣料品などに好適に用いられる混綿詰め綿を提供する。
【解決手段】単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する細短繊維A10〜50質量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する多葉細短繊維B10〜50質量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの構造差捲縮および/または機械捲縮を有する中空太短繊維C40〜80質量%とが混合されてなる混綿詰め綿である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風合いに富み保温性に優れ、体に沿いやすく嵩高性に優れ、長期圧縮後の嵩高回復性等に優れた特性を有し、掛け布団やダウンジャケット等の用途に好適に用いられる混綿詰め綿、およびそのための詰め綿用混合原綿に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、掛け布団や枕等の寝装寝具用の詰め綿の一種として、保温性や嵩高性に優れている羽毛が用いられている。
【0003】
羽毛を詰め綿として用いた羽毛布団は、風合いに富み、軽量で保温性に優れ、体に沿いやすく嵩高性に優れ、そして回復率の高いことが知られている。この羽毛布団に用いられる羽毛には、一般的に水鳥の羽毛が使用される。しかしながら、天然の羽毛を得ようとした場合、その供給量には限度がある上、自然条件や疫病の影響によって供給量が変動するという課題がある。さらには、自然保護の観点から、野生の鳥を捕捉することには限度がある。また、水鳥を飼育して羽毛を得ようとした場合、多くの水鳥を飼育しなければならず、その結果、多量の飼料を必要とするばかりか、水鳥の排泄物による水質汚染や感染症の発生とその拡散という問題が生じている。また、羽毛を詰め綿として使用できるようにするにためには、採毛、選別、消毒、脱脂および布団詰めなどの多くの工程を経る必要があり、かつ、羽毛が舞い上がるという点でも作業が繁雑になり、その結果、羽毛を使った寝装寝具の価格は高くなるという傾向がある。さらには、採毛時に羽毛の末端に肉が残り腐敗臭の原因となったり、欧州等では動物愛護の観点から羽毛を排除する動きも出ている。
【0004】
また、詰め綿の素材としては木綿も用いられるが、木綿は重く、嵩高性に優れておらず、体に沿いにくくかつ圧縮後の回復率も低いという課題がある。
【0005】
さらに、詰め綿の素材としてポリエステル原綿も用いられている。しかしながら、このポリエステル原綿は安価で軽量かつ嵩高性に優れているが、体に沿いにくく、そして圧縮後の回復率が低いという課題があった。
【0006】
そこで、合成繊維原綿に羽毛の特長を付与する試みがなされている。例えば、異形断面繊維と中空繊維とが混在している詰め綿を入れたふとんが提案されている(特許文献1参照。)。また、単繊維繊度の異なる2種類以上の繊維からなる詰め綿が提案されている(特許文献2、3参照。)。さらに、単繊維繊度の異なる中空太短繊維と細繊度短繊維とからなりポリキシロサンを含む油剤が付与された繊維からなる詰め綿が提案されている(特許文献4参照。)。
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1で提案されている、異形断面繊維と中空繊維とが混在している詰め綿は、異形断面繊維を混ぜることにより嵩高性を出すことはできるが、羽毛のような優れた保温性と圧縮回復性を得ることはできない。これは、繊維の異形断面化により嵩高化することはできても、繊維表面特性を考慮していないか、または、単繊維繊度の細い繊維を用いていないためである。
【0008】
また、上記の特許文献2では、単繊維繊度の細い繊維の層(繊維ウェッブ)と単繊維繊度の太い繊維の層(繊維ウェッブ)を積層しているだけであるので、羽毛のような優れた圧縮回復性とすることはできない。また、異なる繊度の繊維が絡み合っていないので、2種類の異なる繊度の繊維を用いていても嵩高性を高める効果がほとんどない。
【0009】
また、上記の特許文献3では、単繊維繊度の太い繊維を2種類用いることにより嵩高性の高い詰め綿を得られているが、単繊維繊度の細い繊維を用いていないため、羽毛のような優れた保温性と圧縮性を得ることはできない。
【0010】
さらにまた、上記特許文献4で提案されている、単繊維繊度の異なる中空太短繊維と細繊度短繊維とからなり、かつポリキシロサンを含む油剤が付与されている詰め綿は、風合いに富み嵩高性を有することができるが、圧縮されたとき繊維同士が絡みすぎフェルト状となるため圧縮回復率と保温性を十分に高めることができなかった。
【0011】
以上のような従来技術では、細繊度と太繊度の短繊維を絡ませたり、異形断面繊維、中空繊維、自己捲縮性異形断面繊維を用いることにより嵩高性を高めているが、保温性および圧縮回復性はなお不十分であり、羽毛の代替となるような優れた特性を備えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭63−23796号公報
【特許文献2】特公昭63−23797号公報
【特許文献3】特開平11−346891号公報
【特許文献4】特開2006−115987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明の目的は、上述した従来技術における問題点を解決し、優れた嵩高性を有するだけでなく、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で体に沿いやすく、保温性に優れ長期圧縮後の嵩高回復性が高く、更に、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有し、掛け布団等の寝装寝具やダウンジャケット等の衣料品などに好適に用いられる詰め綿を製造することができる詰め綿を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の混綿詰め綿は、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する細短繊維A10〜50質量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する多葉細短繊維B10〜50質量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの構造差捲縮および/または機械捲縮を有する中空太短繊維C40〜80質量%とが、混合されてなることを特徴とする混綿詰め綿である。
【0015】
本発明の混綿詰め綿の好ましい態様によれば、前記の細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cの少なくともいずれか1種にポリシロキサンを含む油剤が、0.1〜3質量%の範囲で付着していることである。
【0016】
本発明の混綿詰め綿の好ましい態様によれば、前記のポリシロキサンを含む油剤が付着した短繊維の繊維間摩擦係数μSは0.2以下である。
【0017】
本発明の混綿詰め綿の好ましい態様によれば、前記の多葉細短繊維Bの異形度は1.0〜4.0である。
【0018】
本発明の混綿詰め綿の好ましい態様によれば、前記の中空太短繊維Cの中空率は20〜50%である。
【0019】
本発明の混綿詰め綿の好ましい態様によれば、前記の細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cは、固有粘度(IV)が0.62〜0.75のポリマからなるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた嵩高性を有し、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で体に沿いやすく、保温性に優れ長期圧縮後の嵩高回復性が高く、更に、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有し、掛け布団等の寝装寝具、ダウンジャケット等の衣料品などに好適に用いられる詰め綿を製造することができる詰め綿が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の混綿詰め綿は、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する細短繊維Aを10〜50質量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する多葉細短繊維Bを10〜50質量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの構造差捲縮および/または機械捲縮を有する中空太短繊維Cを40〜80質量%含み、これらが合計で100質量%になるように混合されてなる混綿詰め綿である。
【0022】
本発明の混綿詰め綿の嵩高性を高めるため、また、使用によるヘタリを防止するためには、単繊維繊度の太い綿(中空太短繊維C)を混綿し、剛性を高めることが必要である。
【0023】
詰め綿の保温性は、構成する繊維によって形成される微細な断熱性に優れる空気層により保持されるものであるため、保温性を向上させるためにはその微細空気層の数をより多く形成することが必要である。また、使用によるヘタリが起こると微細空気層が減少し、保温性の低下を招くため、嵩高性同様に単繊維繊度の太い繊維の混綿が必要となる。
【0024】
詰め綿の圧縮性と回復性を高めるため、そして風合いや柔らかさに富ませるためには、単繊維繊度の細い繊維を混綿し、微細空気層を形成すること、また、繊維表面にポリシロキサンを含む油剤を付与することにより平滑性を高め、繊維間の摩擦を軽減して移動しやすくさせること、さらには圧縮時に繊維同士が絡むことによるフェルト化を防ぐ必要がある。
【0025】
本発明の混綿詰め綿用混合原綿である中空太短繊維Cは、単繊維繊度が太いため剛性が高く、嵩高性に寄与し使用によるヘタリ、また、ヘタリに伴う保温性の低下を防止する。
【0026】
これに、単繊維繊度の細い繊維である細短繊維Aを混綿することにより微細空気層が形成され、羽毛に近似する回復性、柔らかさおよび風合いが追加される。
【0027】
さらには、多葉細短繊維Bを混綿することにより、その多葉により詰め綿内の微細空気層が増え、保温性と圧縮性を向上させ、さらには圧縮された際の繊維同士が絡み過ぎることによるフェルト化を防ぎ、長期圧縮後の嵩高回復性に富む、羽毛に近似した特徴が得られる。
【0028】
本発明において用いられる細短繊維Aの単繊維繊度は0.5〜3.0dtexであり、好ましくは0.5〜2.0dtexであり、より好ましくは0.5〜1.4dtexである。また、細短繊維Aの質量比は10〜50質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。
【0029】
また、多葉細短繊維Bの単繊維繊度は0.5〜3.0dtexであり、好ましくは0.5〜2.0dtexであり、より好ましくは1.0〜2.0dtexである。また、多葉細短繊維Bの質量比は10〜50質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。
【0030】
また、中空太短繊維Cの単繊維繊度は5.0〜20.0dtexであり、好ましくは5.0〜10.0dtexであり、より好ましくは5.0〜8.0dtexである。また、中空太短繊維Cの質量比は40〜80質量%であり、好ましくは60〜80質量%である。
【0031】
単繊維繊度は、JIS L1015(1999年)に準じて測定したものである。
【0032】
本発明の混綿詰め綿が、細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cの3種の短繊維からなる場合、それらの全質量は通常併せて100質量%である。本発明の混綿詰め綿において、他の繊維が混入されることを遮ることはない。
【0033】
本発明で用いられる細短繊維Aは、上記の単繊維繊度0.5〜3.0dtexを有するもので、その断面は丸断面でも異形断面でも良いが、好ましくは丸断面である。また、多葉細短繊維Bも、上記の単繊維繊度0.5〜3.0dtexを有するもので、その断面は何葉でも良いが、好ましくは2〜10葉程度、より好ましくは3〜6葉である。さらに中空太短繊維Cは、上記の単繊維繊度5.0〜20.0dtexを有するもので、その断面は丸断面でも異形断面でも良い。
【0034】
また、細短繊維Aの長さは、好ましくは10〜60mmであり、より好ましくは30〜50mmであり、多葉細短繊維Bの長さは、好ましくは10〜60mmであり、より好ましくは30〜50mmであり、中空太短繊維Cの長さは、好ましくは30〜90mmであり、より好ましくは50〜80mmである。
【0035】
本発明の詰め綿用原綿である細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cには、繊維間の滑り性を高めるために、ポリシロキサンが繊維の質量比で好ましくは0.1〜3質量%で付着されている。その付着量は、より好ましくは0.3〜1質量%であり、これにより、繊維間の滑り性が高く、詰め綿を圧縮した後の回復率が高くなる。
【0036】
ポリシロキサンとしては、例えば、アミノ変性シリコンなどを使用することができる。繊維にポリシロキサンを付着させるためには、ポリシロキサン含む油剤を付与すればよい。この油剤には、ポリシロキサンの他に、リン酸系化合物、脂肪族化合物およびハロゲン系化合物を含むことが好ましく、さらには、酸化防止剤、防燃剤および静電防止剤を含んでいることが好ましい。
【0037】
このポリシロキサンを含む油剤は、本発明で用いられる短繊維を製造する工程において、トウをカットする直前において付与されることが好ましいが、トウをカットした後の短繊維(原綿)に油剤を付与し、乾燥させても良い。その油剤付与の際には、ポリシロキサンの濃度を好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは1〜8質量%である油剤水溶液にして繊維に付与し、その後任意の温度で乾燥すれば良い。
【0038】
本発明の混綿詰め綿において、ポリシロキサンが付着された短繊維の繊維間摩擦係数μSは、0.2以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1以下である。これは、繊維間の滑り性が高くなるため、混綿詰め綿を圧縮したときに繊維が移動し易いので圧縮されやすくなるからである。繊維間摩擦係数μSは、JIS L 1015(1999年)に準じて測定したものである。
【0039】
本発明の混綿詰め綿において、細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cとの混合割合を前記した特定の割合の範囲内とすることが必要であり、これによって詰め綿にした際の柔らかさ、風合いおよび保温性が向上し、嵩高性が維持される。
【0040】
本発明の詰め綿用混合原綿において、詰め綿の保温性と回復性を高めるために、本発明で用いられる詰め綿用混合原綿である多葉細短繊維Bは、その異形度が1.0〜4.0であることが好ましい。多葉細短繊維Bの異形度が1.0以下であると、混綿詰め綿における微細空気層の形成に寄与する効果が低く、異形度が4.0以上であると詰め綿製造時や圧縮された際に葉が折れてしまう可能性がある。より好ましい異形度は、2.0〜3.0である。
【0041】
異形度は、繊維横断面から内接円の直径と外接円の直径を測定し、次式で求めることができる。
・異形度=外接円/内接円。
【0042】
本発明において、多葉とは、繊維横断面において繊維中心より外側に向かって複数の凸状部を有する形状のものを総称している。凸状部の形状は、丸みをおびていても良く、多角など角張っていても良い。また、凸状部の数は何個でも良いが、好ましくは2〜10個程度であり、より好ましくは3〜6個である。
【0043】
混綿詰め綿の嵩高性を高めるために、本発明で用いられる詰め綿用混合原綿である中空太短繊維Cは、中空率が20〜50%であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50%である。この中空率は、繊維横断面拡大写真によって、中空部分を含めた繊維断面の全面積に対する中空部分面積の割合を算出し、%で表示することができる。
【0044】
本発明において、中空とは、繊維横断面において、繊維外形内部に空洞部を有することをいう。空洞部は、繊維中心に位置していても良いし、中心からずれて位置する偏心でも良いが、好ましくは繊維中心に位置するのが良い。さらには、空洞部の断面形状は、丸形や多角形等のいずれの形状でも良いが、丸形が好ましい。
【0045】
さらに、本発明で用いられる中空太短繊維Cは、紡糸時の片方(片側)急冷による非対称構造の中空繊維とすることにより、あるいは、少なくとも2種のポリマからなるサイドバイサイド構造の中空繊維とすることにより、繊維に自己捲縮性を与えた中空繊維を用いることもできる。このようにすると、捲縮性がより高められ、より繊維間同士の反発が強くなり、嵩高性をより高くすることができる。
【0046】
また、本発明の混綿詰め綿を構成する細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cは、いずれもポリエステルからなる繊維であることが好ましい。
【0047】
用いられるポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびそれら共重合体等が挙げられる。特に好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートである。
【0048】
また、ポリエステル以外のポリマとしては、脂肪族ポリアミド、ポリオレフィンおよびポリフェニレンサルファイド等を用いることができ、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウロラクタミド(ナイロン12)およびこれらの共重合体、ポリプロピレンおよびポリエチレン等が挙げられる。
【0049】
また、廃棄処分時の環境負担軽減のためには、生分解性のポリマからなる繊維を用いることもできる。生分解性のポリマとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートサクシネートまたはこれらの共重合体などが挙げられる。これら以外の生分解性共重合体としては、例えば、ポリエステルアミド系共重合体や芳香族系ポリエステルを生分解性を有するように改質された共重合体でも良い。
【0050】
細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cを製造するに際し、用いられるポリマの最適な固有粘度(IV:オルソクロロフェノール溶媒を用いて、25℃の温度で測定)は、0.62〜0.75であり、より好ましくは0.64〜0.72である。固有粘度が0.62より低いと、繊維とした際に剛性が低く、嵩高性に劣る。また、固有粘度が0.75より高いと、製糸困難となる。
【0051】
また、細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cは、所望の単繊維繊度や所望の断面形状となるような条件を採用すれば、ポリエステル等の熱可塑性短繊維の通常の製糸方法によって製造することができる。
【0052】
細短繊維Aおよび多葉細短繊維Bの製造の場合は、例えば、ポリエステルを溶融し、孔径0.2〜0.4mmの吐出孔を550〜1300孔有する紡糸口金を通して、融点よりも20〜40℃高い紡糸温度で溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、10〜25℃の温度の空気を40〜100m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度900〜1500m/分で一旦、缶に納めることにより未延伸糸トウを得る。
【0053】
次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜3.5倍の延伸倍率で、温度80〜95℃の液浴を用いて1段延伸を施し、クリンパーを用いて好ましくは7〜20山/25mmの機械捲縮を付与し、アミノ変性シリコン等のポリシロキサンが濃度1〜10質量%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、80〜165℃の温度で15〜30分間乾燥し、長さ10〜60mmに切断して、単繊維繊度が0.5〜2.0dtexの短繊維を製造することができる。
【0054】
上記の機械捲縮とは、二次元のジグザク(山谷)な捲縮である。
【0055】
また、中空太短繊維Cの製造の場合は、例えば、ポリエステルを溶融し、中空繊維用吐出孔(例えば、複数のスリットを円周上に並べた吐出孔)を90〜200孔有する紡糸口金を通して、融点よりも20〜40℃高い紡糸温度で中空部が形成されるように溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、10〜25℃の温度の空気を100〜180m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度1000〜1700m/分で一旦、缶に納めることにより未延伸糸トウを得る。
【0056】
次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜3.5倍の延伸倍率で、温度80〜100℃の液浴を用いて1段延伸を施し、クリンパーを用いて好ましくは5〜10山/25mmの構造差捲縮または/および機械捲縮を付与し、アミノ変性シリコン等のポリシロキサンが濃度1〜10質量%で含まれた油剤水溶液をシャワーで付与し、80〜165℃の温度で5〜30分間乾燥し、長さ30〜90mmに切断して、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの中空太短繊維を製造することができる。
【0057】
上記の機械捲縮とは、二次元のジグザク(山谷)な捲縮であり、上記の構造差捲縮とは、三次元のスパイラル状(バネ状)の捲縮である。
【0058】
また、細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cとを混合する方法としては、例えば、各々の短繊維を積層して開繊機を通過させた後に、風送および/またはカード機で混ぜる方法を採用することができる。また、短繊維とする前のトウ同士を重ねて同時にカットすることにより混合させた後、開繊機を通過させ、風送および/またはカード機で混合する方法を採用してもよい。
【0059】
また、混綿詰め綿を構成する繊維、すなわち細短繊維Aと多葉細短繊維Bと中空太短繊維Cのうち、少なくとも1種の繊維に、銀、カルシウムまたは銅を含む油剤成分を、好ましくは質量比0.1〜1.0質量%の範囲で付与することにより、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭および防臭性能を有する混綿詰め綿とすることができる。
【0060】
ここで用いられる油剤成分に含まれる銀、カルシウムまたは銅としては、例えば、リン酸カルシウム・ハイドロオキサイトからなる直径1〜50μm粒子に、銀または銅の酸化化合物や、塩化化合物、窒素化合物、アミノ化合物および配位化合物を、または他の金属配位化合物を含む粒子を固着させたものが挙げられ、これらをリン酸系水溶剤に分散させて繊維に付与し、繊維表面に付着させればよい。
【0061】
この場合、例えば、銀、カルシウムまたは銅を含む油剤成分を、ポリシロキサンを含む油剤に混ぜて繊維に同時に付与することができる。また、各々油剤を独立して前後に個別に付与することもできる。具体的に、ポリシロキサンを含む油剤を付与後に銀等を含む油剤を付与しても良く、または銀等を含む油剤を付与後にポリシロキサンを含む油剤を付与しても良い。
【0062】
本発明の混綿詰め綿は、優れた嵩高性を有し、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み軽量で体に沿いやすく保温性に優れ、長期圧縮後の回復性が高く、更に、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有する詰め綿であって、掛け布団、枕等の寝装寝具やウンジャケット等の衣料品、クッション、縫いぐるみ、およびシュラフなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0063】
本発明の混綿詰め綿および用いられる詰め綿用混合原綿について、次の実施例を用いて詳細に説明する。混綿詰め綿特性の測定は、次の方法によった。
<嵩高特性の測定>
(初期嵩高の測定)
作製した混綿詰め綿および羽毛を20cm×20cmのサイズである側地に投入し、サンプルを作製した後、荷重0.094g/cmをかけ、初期嵩高を測定した。
【0064】
(圧縮嵩高の測定)
初期嵩高を測定した後、荷重0.094g/cmを外し、10.0g/cmの荷重をかけた後、圧縮嵩高を測定した。
【0065】
(回復嵩高の測定)
圧縮嵩高を測定した後、荷重10.0g/cmを外し、0.094g/cmの荷重をかけた後、回復嵩高を測定した。
【0066】
(長期圧縮後の回復嵩高の測定)
初期嵩高を測定した後、荷重0.094g/cmを外し、10.0g/cmの荷重をかけた後、1日間放置し、その後荷重10.0g/cmを外し、6時間放置した後サンプルをはたき、荷重0.094g/cmをかけ、長期圧縮後の回復嵩高を測定した。
【0067】
(clo値の測定)
作製した混綿詰め綿および羽毛を150cm×210cmである側地に投入し、JIS L1096(1999年)に準じてclo値を測定した。
【0068】
(実施例1)
固有粘度(IV)が0.65であるポリエチレンテレフタレートを溶融し、孔径0.3mmの丸断面吐出孔を930孔有する紡糸口金を通して紡糸温度285℃で溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、20℃の温度の空気を50m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、非イオン系の紡糸油剤を付与し、引き取り速度1500m/分で一旦、缶に納めることにより未延伸糸トウを得た。次いで、得られた未延伸糸トウを2.85倍の延伸倍率で、温度90℃の液浴を用いて1段延伸を施し、クリンパーを用いて18山/25mmの機械捲縮を付与し、ポリシロキサンが濃度8質量%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、145℃の温度で20分乾燥し、長さ38mmに切断して単繊維繊度が1.3dtexで繊維長が38mm、ポリシロキサン付着量が0.5質量%の丸断面の細短繊維Aの原綿(a1)を製造した。得られた細短繊維Aの繊維間摩擦係数は、0.15であった。
【0069】
次に、固有粘度(IV)が0.65であるポリエチレンテレフタレートを溶融し、Y型繊維用吐出孔(スリット幅0.08mm)を745孔有する紡糸口金を通して紡糸温度290℃で溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、20℃の温度の空気を50m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、非イオン系の紡糸油剤を付与し、引き取り速度1200m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得た。次いで、得られた未延伸糸トウを3.27倍の延伸倍率で、温度90℃の液浴を用いて1段延伸を施し、クリンパーを用いて18/25mmの機械捲縮を付与し、ポリシロキサンが濃度8質量%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、165℃の温度で20分乾燥し、長さ38mmに切断して単繊維繊度が1.8dtexで繊維長が38mm、ポリシロキサン付着量が0.75質量%の異形度度が2.65のY断面の多葉細短繊維Bの原綿(b1)を製造した。得られた多葉細短繊維Bの繊維間摩擦係数は、0.16である。
【0070】
また、固有粘度(IV)が0.70であるポリエチレンテレフタレートを溶融し、中空繊維用吐出孔(スリット幅0.1mmのスリット3つが円周上に配置されている吐出孔)を180孔有する紡糸口金を通して、紡糸温度275℃で中空部が形成されるように溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、20℃の温度の空気を165m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、非イオン系の紡糸油剤を付与し、引き取り速度1655m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得た。次いで、得られた未延伸糸トウを2.45倍の延伸倍率で、温度90℃の液浴を用いて1段延伸を施し、クリンパーを用いて構造差捲縮および機械捲縮を7山/25mm付与し、ポリシロキサンが濃度4質量%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、145℃の温度で10分乾燥し、長さ64mmに切断して、単繊維繊度が7.6dtexで繊維長が64mm、ポリシロキサン付着量が0.3質量%、中空率35%の中空丸断面の中空太短繊維Cの原綿(c1)を製造した。得られた中空太短繊維Cの繊維間摩擦係数は、0.17である。
【0071】
上記で得られた細短繊維Aの原綿(a1)と多葉細短繊維Bの原綿(b1)と中空太短繊維Cの原綿(c1)とを、質量比25対25対50(25質量%/25質量%/50質量%)の割合で積層して、開繊機を通過させた後にカード機を通して3種混綿詰め綿を製造した。
【0072】
得られた3種混綿詰め綿を側地に投入し、サンプルを作製した後、嵩高特性およびclo値を測定した。その結果は表1に示すとおりである。得られた混綿詰め綿は、羽毛と同じように、嵩高性と保温性に優れ、かつ長期圧縮後の厚み回復性能が羽毛より優れたものであることがわかる。
【0073】
(比較例1)
実施例1において得られた細短繊維Aの原綿(a1)と中空太短繊維Cの原綿(c1)とを、質量比30対70(30質量%/70質量%)の割合で積層して開繊機を通過させた後に、カード機を通して2種混綿詰め綿を製造した。
【0074】
得られた混綿詰め綿を側地に投入し、サンプルを作製した後、嵩高特性およびclo値を測定した。その結果は、表1に示すとおりである。得られた混綿詰め綿は、初期かさ高と回復性に優れているが、保温性に劣っていた。
【0075】
(比較例2)
実施例1において得られた多葉細短繊維Bの原綿(b1)と中空太短繊維Cの原綿(c1)とを、質量比30対70(30質量%/70質量%)の割合で積層して開繊機を通過させた後に、カード機を通して2種混綿詰め綿を製造した。
【0076】
得られた混綿詰め綿を側地に投入し、サンプルを作製した後、嵩高特性およびclo値を測定した。その結果は、表1に示すとおりである。得られた混綿詰め綿は、初期かさ高に非常に優れていたが、回復性に劣っていた。
【0077】
(比較例3)
ダウン90質量%とフェザー10質量%の羽毛を側地に投入し、サンプルを作製した後、嵩高特性およびclo値を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する細短繊維A10〜50質量%と、単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの機械捲縮を有する多葉細短繊維B10〜50質量%と、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの構造差捲縮および/または機械捲縮を有する中空太短繊維C40〜80質量%とが、混合されてなることを特徴とする混綿詰め綿。
【請求項2】
細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cの少なくともいずれか1種にポリシロキサンを含む油剤が0.1〜3質量%の範囲で付着していることを特徴とする請求項1記載の混綿詰め綿。
【請求項3】
ポリシロキサンを含む油剤が付着した短繊維の繊維間摩擦係数μSが、0.2以下であることを特徴とする請求項2記載の混綿詰め綿。
【請求項4】
多葉細短繊維Bの異形度が1.0〜4.0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の混綿詰め綿。
【請求項5】
中空太短繊維Cの中空率が20〜50%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の混綿詰め綿。
【請求項6】
細短繊維A、多葉細短繊維Bおよび中空太短繊維Cが、固有粘度0.62〜0.75のポリマからなる請求項1〜5のいずれかに記載の混綿詰め綿。

【公開番号】特開2012−214951(P2012−214951A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29291(P2012−29291)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】