説明

減圧方法、及び減圧充填方法

【課題】大気圧を利用する真空ポンプにより密閉空間を減圧しようとすると、大気が低くなるにしたがって、所定時間以内である真空状態まで下げるのが難しくなる。食品の真空パック等では鮮度のバラツキを増大することになるし、又液体の減圧充填、例えばインクジェットプリンタ用のインクをインクカートリッジに充填する作業では、充填に要する時間が長くなると生産性の低下につながる。
【解決手段】所定の圧力近傍迄の減圧は真空ポンプ等第1の減圧手段を作動させ、その後第2の減圧手段、例えばピストンに切り替えて急速に吸引するように制御し、充分な真空度を得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密閉空間内の圧力を敏速に真空状態に近づける為の減圧方法、及びインクカートリッジへのインクの減圧充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、生産ライン上を流れてくる製品を一つずつ真空ポンプを使って真空状態にするのは、真空ポンプの特性からいって効率が低く不得手である。その為効率よく敏速に行なう方法として、従来ロータリポンプ式の真空ポンプを作動状態のままリザーバタンクに連通し、同タンクを真空状態にして、減圧すべき真空パック等とリザーバタンクとをバルブ経由で間欠的に接続して、次々と送り込まれる貯蔵袋の減圧封入処理を行なう技術が提案されている。
(例えば特許文献1)
又、別な応用例としてインクジェット記録装置に使用するインクタンク内にインクを注入するときに、インクタンクが置かれた注入室自体を予め減圧し、注入速度を高めた上、充填率を高める技術が提案されている。
(例えば特許文献2)
【特許文献1】特開平5−193621
【特許文献2】特開平11−216876
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、
上記特許文献1による方法の場合には、ロータリポンプが常時作動しリザーバタンクも常に真空に保てるので減圧手段としては効率が良いが、ロータリポンプが常時作動するためこの近傍で作業する人たちにとっては騒音からくるストレスの問題が懸念される。又省エネルギの観点からも好ましくない。
【0004】
次に、特許文献2による方法では、
インクカートリッジの内容量が大きくなるとインク注入室自体も必然的に大きくなるため、注入装置が大掛かりとなり、且つ注入室自体を減圧するので初期のセットアップに時間がかかり過ぎる場合も考えられる。注入後のインクカートリッジの出し入れ時には注入室と大気連通の時間をもたせる必要があること等、操作が煩雑になる傾向がある。
【0005】
これらを解決しようとすると、例えばエジェクタと呼ぶエジェクタ式の簡易な真空ポンプと、やはり簡易なリザーバタンクを組み合わせて対象物を所望の真空度に減圧〜繰り返しする方法がある(エジェクタは例えばME12F−S3:コガネイ社)。
【0006】
この方法であれば装置全体も低コスト、コンパクトで且つ発生する騒音も減圧時のみとなり、作業環境は良くなる。また、工場であれば、圧搾空気は一般的に使用できる環境であることが多い。
【0007】
但しこの方法では、到達可能な真空度がポンプ式のものと比較して低い。よって能力いっぱいの真空度が要求される場合には、たとえば気候条件によっては所望の真空度が得られないことがある。例としては、低気圧によって外気圧が一定値より低くなると、作動流体である空気の密度が下がるため減圧に要する時間が長くなることがある。さらに気圧が低くなると、使用している圧搾空気の圧力がゲージ圧(大気圧を基準とした圧力を示す)の圧力計で管理されている場合には、圧搾空気の圧力が低くなってしまう。そのため、エジェクタを流れる空気流の流速が落ち、所望の減圧が行えないこともある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上に鑑みて本発明は為されたものであり、上記課題を解決することを目的として、次の各手段を実施した。
【0009】
即ち本発明の減圧方法は、所定の空間を減圧する第1の減圧手段と第2の減圧手段を具え前記第1の減圧手段により第1の圧力まで減圧し、続いて前記第2の減圧手段により第2の圧力まで減圧させることを特徴とする。
【0010】
又本発明の減圧方法は、所定の空間を減圧する第1の減圧手段と第2の減圧手段、及び周囲空間の圧力を計測する圧力計測手段とを具え、
前記第1の減圧手段により第1の圧力まで減圧し、続いて前記第2の減圧手段により第2の圧力まで減圧させることを特徴とする。
【0011】
更に本発明の減圧充填方法は、
インクタンク内部を減圧する第1の減圧手段と第2の減圧手段、及び前記インクタンクにインクを充填するインク充填手段とを具え、
前記第1の減圧手段により第1の圧力まで減圧し、続いて前記第2の減圧手段により第2の圧力まで減圧させた後、前記インク充填手段にて前記インクタンクにインクを充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施により比較的コンパクトな装置を以って、短時間で高真空度が得られるのでインク等液体のカートリッジへの充填がスムーズになる。特に周囲の大気圧の低下による充填スピードの落ち込みを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための最良の形態について図を用い、詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の特徴的な減圧方法を説明する概念図である。
【0015】
先ず状態1について説明する。エジェクタ式の真空ポンプ101は吸入弁102を介してシリンダ106に結合され、シリンダ106には可動するピストン105が具えられる。吸入経路にはインクカートリッジ103がセットされインク供給弁107を介して大型のインクタンク(不図示)からインクが供給される。吸入経路には圧力センサ内蔵の圧力計104も結合されている。この状態では吸入弁102、インク供給弁107共に閉じている。
【0016】
状態2は真空ポンプ101が作動状態であり、この時吸入弁102は開いている。
【0017】
状態3では真空ポンプ101が停止中で、吸入弁102も閉じ、ピストン105によって新たな真空空間108が生じている。
【0018】
そして状態4では減圧されたインクカートリッジ103にインク109が充填され、状態5はインクカートリッジが取り外されピストン105も元の位置に戻っている。
【0019】
図2は減圧手段を構成するエジェクタ式の真空ポンプ101の動作を説明する図であり、図2aの如く圧搾(圧縮)空気が不図示の圧縮器で送り込まれ、真空ポンプ101のノズル201からディフューザ203に向かって高速に噴出、ここに真空状態が生じる。真空発生空間202の空気が取り込まれ、減圧される。
【0020】
図2bに圧縮空気の供給圧力と真空発生空間202の到達真空度の関係を示している。通常圧縮空気の供給圧力:p1に設定、所望の到達真空度:q1を得るようにする。圧縮空気の供給圧力:p1はこれ以上供給圧力を高めても到達真空度が上がらない領域にするのであるが、圧縮空気供給圧力は周囲大気圧に依存する為、大気圧が下がると到達真空度も下降してしまうことになる。
【0021】
所望の到達真空度が得られない場合があるとすると、減圧対象が例えば食品の真空パックであれば、鮮度のバラツキを増大することになるし、又インクカートリッジ等の如く、液体の減圧充填をしようとすると充填時間が延びて生産性に影響を与える。
【0022】
従って、本発明では周囲大気圧の低下による到達真空度の落ち込みを防止するために前述のピストン105を補助的な第2の減圧手段として使って、充分な真空度を安定的に得るようにした。
【0023】
図3は本発明の減圧方法における減圧手段の電気的なブロック図である。
【0024】
ホストPC300からインタフェースコントローラ301に減圧動作の開始、停止、或いは中断等の命令が送出される。
【0025】
CPU302にて動作開始の命令を識別すると出力ポート307から駆動部308を介して吸入弁102、インク供給弁107等を制御、一方ピストン105を駆動する為のピストンモータ312はサーボロジック回路310〜駆動部311を介して駆動する。ピストンモータ312のモータ軸にはロータリエンコーダ313が結合されてピストン105の位置、速度のフィードバック制御される。圧力センサ305は前述の圧力計104に内蔵されており、出力はADコンバータ306を介してほぼリアルタイムに読み出しできる。CPU302の実行プログラムはROM303に格納されている。CPU302は又作業用のメモリとしてRAM304も使用する。
【0026】
図4は本発明の減圧方法を利用したインクカートリッジへのインクの充填に関するCPU302の処理フローである。
【0027】
ホストPC300からのインク充填作業の開始命令を受信するとCPU302はインクカートリッジ103が本発明の減圧手段にセットされたかを不図示のセンサでチェックし、セットが完了していたら(401-Yes)、吸入弁102を開き(402)、続いて真空ポンプ101を作動する(403)。
【0028】
そして圧力センサ305の読み出し開始、所定の圧力まで減圧されたら(404-Yes)、吸入弁102を閉じ(405)、真空ポンプ101も停止する(406)。
【0029】
続いてピストンモータ312をON(407)、ピストン105を目標位置迄急速に引く。ピストン105が目標位置に到達したら(408-Yes)、ピストンモータ312はOFFし(409)、次にインク供給弁107を開く(410)。この時インクカートリッジ103の内部は充分な真空度に到達しているので、インクは急速に充填される。
【0030】
インク充填が完了すると(411-Yes)、インク供給弁107は閉じ(412)、次に充填完了したインクカートリッジが取り外されたことを確認したら(413-Yes)、ピストンモータ312を再度ONし(414)、ピストン105を逆方向に戻す。
【0031】
そしてピストン105がホームポジション迄戻ったら(415-Yes)、ピストンモータ312をOFFする(416)。
【0032】
ここで所定個数のインクカートリッジへの充填が済んでいなければ(417-No)、401の処理に戻って充填動作を繰り返す。そして所定個数が完了したら(417-Yes)、処理は終了する。
<他の実施例>
上記実施例ではインクカートリッジへの改良された減圧充填方法について説明したが、減圧する対象はこれに限られず、一般の液体の高速充填、商品の真空パック等でも本発明は実施可能である。
【0033】
又、ピストン105のアクチュエータとしてDCサーボモータを例として上記実施例に説明したが、これに限る必要もない。更に減圧対象によっては、ピストン105は複数具えることも考えられる
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の減圧方法、及び減圧充填方法は周囲条件に影響されることなく、比較的大量のインクカートリッジの生産に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の特徴的な減圧方法を説明する概念図である。
【図2】本発明の減圧手段を構成するエジェクタの動作を説明する図である。
【図3】本発明の減圧方法における制御系の電気的なブロック図である。
【図4】本発明によるインクの減圧充填に関する処理フローである。
【符号の説明】
【0036】
101 真空ポンプ
102 吸入弁
103 インクカートリッジ
104 圧力計
105 ピストン
106 シリンダ
107 インク供給弁

201 ノズル
202 真空発生空間
203 ディフューザ

302 CPU
303 ROM
305 圧力センサ
312 ピストンモータ
313 ロータリエンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間を減圧する第1の減圧手段と第2の減圧手段を具え、
前記第1の減圧手段により第1の圧力まで減圧し、続いて前記第2の減圧手段により第2の圧力まで減圧させることを特徴とする減圧方法。
【請求項2】
前記第1の減圧手段は真空ポンプであることを特徴とする請求項1に記載の減圧方法。
【請求項3】
前記第2の減圧手段はピストンによる吸入であることを特徴とする請求項1又は2に記載の減圧方法。
【請求項4】
空間を減圧する第1の減圧手段と第2の減圧手段、及び前記空間の圧力を計測する圧力計測手段とを具え、
前記第1の減圧手段により第1の圧力まで減圧し、続いて前記第2の減圧手段により第2の圧力まで減圧させることを特徴とする減圧方法。
【請求項5】
前記圧力計測手段による計測結果に基づき、
前記第1又は第2の減圧手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の減圧方法。
【請求項6】
インクタンク内部を減圧する第1の減圧手段と第2の減圧手段、及び前記インクタンクにインクを充填するインク充填手段とを具え、
前記第1の減圧手段により第1の圧力まで減圧し、続いて前記第2の減圧手段により第2の圧力まで減圧させた後、前記インク充填手段にて前記インクタンクにインクを充填することを特徴とする減圧充填方法。
【請求項7】
前記インクタンク内部の圧力を計測する圧力計測手段を更に具え、
前記圧力計測手段の計測結果に基づき、前記第1、又は第2の減圧手段を制御することを特徴とする請求項6に記載の減圧充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−276801(P2007−276801A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102813(P2006−102813)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】