説明

温度管理調理器具

【課題】安全で、広い範囲の温度変化に対する耐熱性、日光や紫外線等に対する耐光性、加熱−冷却サイクルの繰返作動再現性のような耐久性に優れ、食材等の食品である被検知物の内部の特定な所望の温度と、その内部への熱伝達程度と、その温度での保持時間との温度管理状況を、感度よく可逆的に変色して明瞭な色調変化で視覚的に表示し正確にかつ簡易に判別することができ、様々な形状や色彩によりデザイン性の豊かな温度管理調理器具を提供する。
【解決手段】サーモクロミズムを示すことにより温度の上昇又は降下の際に所定温度で可逆的に変色する鉄トリアゾール錯化合物及びバインダーを含有する可逆性示温材が、熱を経時的に内部へ伝播して前記所定温度に達する立体状又はシート状の樹脂成型材に埋め込まれ及び/又は封入されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材内部の加熱具合を、色調の変化によって視覚的に表示する温度管理調理器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
卵、麺類、野菜類、魚介類、肉類等の食材を茹でたり煮たりする加熱調理の際、それの茹で具合や煮え具合を目視で確かめるために、その加熱温度や加熱時間に応じて可逆的に変色する示温材を有している温度管理インジケータが、用いられる。
【0003】
現在、国内外で販売されている温度管理インジケータの示温材中の示温剤成分として、サーモクロミズム性の水銀含有ハロゲン錯化合物が主に使用されている。この温度管理インジケータは、その示温材が加熱により、赤色から黒赤色、又は黄色から橙色のような比較的濃い別な色調へ、可逆的に色調変化するものである。その限られた濃い色調の所為で示温材や温度管理インジケータの色彩・デザインが制約されてしまい、製品としての意匠の多様性に欠けてしまう。また、その加熱による変色温度が約40℃〜70℃のインジケータしかなく管理温度の範囲が狭い。さらに、環境負荷物質である有害な水銀が含有されているため、その製造工程において廃液処理が必要であり、必然的に大規模な製造設備を必要とし、製造コストの増大により生産性が悪い。これらの問題以外でも、水銀に対する人体安全性対策や環境保護対策の観点から、その使用が忌避されつつある。
【0004】
このような水銀を含有せず可逆的に変色する温度管理インジケータとして、特許文献1に、電子受容性化合物と、この化合物に接触し可逆的に電子を供与して変色する電子供与性化合物と、検知すべき加熱温度で溶融して該接触させる熱溶融性物質とを内包するマイクロカプセルが樹脂成型材に、埋没されている加熱調理用温度管理インジケータが開示されている。一般的に、これら電子受容性化合物や電子供与性化合物のような有機化合物は未使用でも光や熱で経時的に分解し易く、温度管理の際に繰り返し変色させられていると次第に変色程度が小さくなるため、有機化合物の示温材料やそれを内包するマイクロカプセルを用いるインジケータは、耐久性、特に耐光性、耐熱性、及び繰返作動再現性が不十分となり易い。
【0005】
調理の際に食材等の食品に用いることができる程度に安全性が高く、繰返し使用しても感度よく変色する耐久性に優れた温度管理インジケータが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−203065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、環境負荷物質である水銀のような有害金属を含有せず、安全で、広い範囲の温度変化に対する耐熱性、日光や紫外線等に対する耐光性、加熱−冷却サイクルの繰返作動再現性のような耐久性に優れ、食材等の食品である被検知物の内部の特定な所望の温度と、その内部への熱伝達程度と、その温度での保持時間との温度管理状況を、感度よく可逆的に変色して明瞭な色調変化で視覚的に表示し正確にかつ簡易に判別することができ、様々な形状や色彩によりデザイン性の豊かな温度管理調理器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された温度管理調理器具は、サーモクロミズムを示すことにより温度の上昇又は降下の際に所定温度で可逆的に変色する鉄トリアゾール錯化合物及びバインダーを含有する可逆性示温材が、熱を経時的に内部へ伝播して前記所定温度に達する立体状又はシート状の樹脂成型材に埋め込まれ及び/又は封入されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の温度管理調理器具は、請求項1に記載されたものであって、前記可逆性示温材が、基材に付された層状であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の温度管理調理器具は、請求項1に記載されたものであって、前記可逆性示温材と、前記可逆性示温材の変色温度未満又は変色温度以上において、前記可逆性示温材の呈する色相と異なる色彩の不変色色素含有層とが、基材上に並べて又は少なくとも一部重複して付されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の温度管理調理器具は、請求項1に記載されたものであって、前記樹脂成型材が、卵型状、半卵型状、楕円球状、半楕円球状、球状、半球状、柱状及び錘状の何れかの前記立体状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の温度管理調理器具は、食材・加工食品のような食品等の温度検知すべき被検知物の内部の特定な所望の温度と、その内部への熱伝達程度と、その温度での保持時間との温度管理状況を、簡便かつ正確に、視覚可能な色調変化で表示することができる。このため、被検知物をほぐしたり切ったりしなくともその内部の半熟・生煮えのような微妙な茹で具体、煮え具合を、目視で判別可能な明瞭な色調変化によって確認することができる。
【0013】
この温度管理調理器具は、約−120℃〜120℃までの広範な温度域において所望の特定温度で自在に変色を可逆的に示すことができる鉄トリアゾール錯化合物を適宜選択して含有させた可逆性示温材により、その幅広い温度変化に対し変性や劣化を生じることなく、その用途に合わせ温度管理ができる。また、例えば、変色色調がピンク色から白色へと可逆的な色調変化を示す鉄トリアゾール錯化合物に、温度変化により変色しない不変色色素を添加することで、自在にその変色色調を調整したり、変色前後の色差を増大させたりすることができる。この温度管理調理器具は、変色色調を自在に調整することができるため、所望の形状や色彩にすることができデザイン性に富む。さらにこの温度管理調理器具は、被検知物の形状、例えば茹で卵の形状に似せて判別させ易くしたり、被検知物の形状や物性に応じその内部の特定な温度やその内部への熱伝達程度に合わせたりして、疑似的に表現することができる。
【0014】
また、温度管理調理器具は、鉄トリアゾール錯化合物が有機物と無機物との錯体であるため単なる有機化合物より熱や光や経時変化に対し物理的・化学的に安定で、その可逆性示温材中に変質することなく安定なまま均一に分散しているものである。しかもその加熱−冷却サイクルの繰返し耐久性に優れ、安定して使用することができる。そのため、温度管理調理器具は、被検知物の内部への加熱−冷却における経時的な熱の伝播具合を視覚的に正確に確認できる。
【0015】
さらに、この温度管理調理器具は、その可逆性示温材に環境や人体に悪影響を及ぼす水銀のような有害金属を含有しておらず、使用者及び製造者にとって安全性が高いものである。水銀等の有害金属非含有であるため、温度管理調理器具の製造時に排出される排水等の廃液に環境負荷物質が含まれず、浄化設備のような大規模な製造設備が不要であり、製造コストを抑えることができる。さらに、示温顔料として汎用性の高い安価で安全な鉄を中心金属とした鉄トリアゾール錯化合物を用いることにより、製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用する温度管理調理器具の模式断面図、及び一部拡大模式断面図である。
【図2】本発明を適用する温度管理調理器具の使用途中を示す平面図である。
【図3】本発明を適用する温度管理調理器具におけるインジケータの模式断面図である。
【図4】本発明を適用する別な温度管理調理器具の模式断面図である。
【図5】本発明を適用する別な温度管理調理器具の模式平面図及び模式断面図である。
【図6】本発明を適用する別な温度管理調理器具の使用状態を示す斜視概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の温度管理調理器具について、実施例に対応する図1を参照に説明する。
【0019】
温度管理調理器具1は、図1(a)の模式断面図に示すように、薄いシート状のインジケータ5が、半球状で無色又は有色の透明や半透明である立体状の樹脂成型材6の内部に、埋め込まれ封入されたものである。インジケータ5は、図1(b)の一部拡大模式断面図に示すように、基材3の観測面側に、所望の温度で可逆的に変色する示温顔料成分である鉄トリアゾール錯化合物7が樹脂であるバインダーに分散している可逆性示温材2が層状に形成され、さらにその可逆性示温材2上の一部に、温度変化により変色しない不変色色素8による不変色色素含有層4が重ねられて形成されたものである。
【0020】
鉄トリアゾール錯化合物7が含有されている可逆性示温材2は、その鉄トリアゾール錯化合物7が変色する温度未満の低温から変色温度以上の高温に昇温されると、そのサーモクロミズム性によって、色調が変化する。再び、可逆性示温材2が鉄トリアゾール錯化合物7の変色温度以上の高温から変色温度未満の低温に降温されると、その変色した色調も再び元に戻る。従って、可逆性示温材2の色調を目視することで、インジケータ5の部位での現在の温度が鉄トリアゾール錯化合物7の変色温度未満又は変色温度以上であるかを容易に視覚的に判別できる。
【0021】
この可逆性示温材2及び不変色色素含有層4は、有色透明で可視光透過性であってもよく有色不透明で可視光非透過性であってもよい。
【0022】
例えば、不変色色素含有層4が可視光透過性であると、露頭した不変色色素含有層4上では、不変色色素含有層4に含有される不変色色素8の色調と、下層で重なり合った可逆性示温材2の色調とが混色された別の色調が視認され、露頭した可逆性示温材2上では、その可逆性示温材2自体の色調のみが視認される。
【0023】
一方、不変色色素含有層4が可視光非透過性であると、露頭した不変色色素含有層4上では、不変色色素含有層4に含有される不変色色素8の色調のみが視認され、露頭した可逆性示温材2上では、その可逆性示温材2自体の色調のみが視認される。
【0024】
図1で示されるこの温度管理調理器具1は、以下のようにして製造される。
【0025】
まず、所望の温度で可逆的に変色する示温顔料成分である鉄トリアゾール錯化合物7の0.1〜100重量部と、インキ成分であるバインダー0.1〜50重量部及び溶媒1〜500重量部と、必要に応じて添加剤0.001〜10重量部とを混練し、可逆性示温インキを調製する。この可逆性示温インキを不透明な白色の基材3の観察面側へ印刷により塗布し、可逆性示温材2を形成する。さらにこの可逆性示温材2の上に、可逆性示温材2の呈する変色前後と異なる色彩であって温度変化により変色しない不変色色素8を含有する不変色性インキを重ねて印刷し、可視光透過性を有する有色透明の不変色色素含有層4を形成することで、図1(b)に示すようなシート状のインジケータ5を得る。
【0026】
次に、例えば半楕円球状のような所望の凹部を有し離型材が塗布された金属製又はガラス製の鋳型に、無色又は有色の透明や半透明の硬化性樹脂原料を鋳型の凹部の8分目程度まで流し入れ、加熱又は光照射により硬化させる。そこに、インジケータ5の可逆性示温材2及び不変色色素含有層4が形成されている観察面側を鋳型側に向けつつインジケータ5を載せる。さらに樹脂原料を流し入れ、インジケータ5を樹脂原料に完全に浸らせた後、樹脂原料を加熱又は光照射により硬化させる。その後、鋳型から、半球状の硬化樹脂成型材を取り出すと、温度管理調理器具1が得られる。
【0027】
図1で示されるこの温度管理調理器具1は、以下のようにして使用される。
【0028】
この温度管理調理器具1は、被検知物と同じ環境下に曝して加熱する。その使用の具体的態様と、そのときの温度管理調理器具1が可逆的に変色する機構とを、図1及び図2を参照して説明すると、以下の通りである。このとき、示温顔料である鉄トリアゾール錯化合物7の変色色調は、その特定温度における加熱前後において、ピンク色から白色へと変色するものとする。さらに、不変色色素含有層4は、黄色を示す不変色色素8を用いるものとする。
【0029】
水を張った鍋に、生卵と一緒にこの温度管理調理器具1を入れる。鍋を加熱する前の低温状態では、温度管理調理器具1は、基材3に付された可逆性示温材2の上に重ねて可視光透過性の不変色色素含有層4が付されたインジケータ5により、図2(a)に示すようその中心部に位置する小楕円形の不変色色素含有層4が、不変色色素8の黄色と下層の可逆性示温材2に含有される鉄トリアゾール錯化合物7のピンク色との混色された色彩であるくすんだ黄桃色を示し、それを囲む大楕円形の可逆性示温材2aが鉄トリアゾール錯化合物7によるピンク色を示す。図2の(a)〜(c)において、ピンク色に呈色している可逆性示温材2aの範囲を右上がりの斜線で図示し、黄色に呈色している不変色色素含有層4を左上がりの斜線で図示し、両色の混色を交差斜線で図示する。
【0030】
鍋を加熱し始めた初期状態では、加熱に伴う熱が、温度管理調理器具1の樹脂成型材6の表面から内部へ経時的に伝播し、それの表面に近いほど温度が高く、それの深部ほど温度が低くなっている。それに伴いこの熱は、可逆性示温材2aにも経時的に伝播する。その伝播した熱が、鉄トリアゾール錯化合物7の特有の変色温度以上になると、その部分の鉄トリアゾール錯化合物7にスピンクロスオーバー現象が起き、可逆性示温材2の色調がピンク色から白色に変化する。樹脂成型材6の表面近傍から内部への経時的な熱の伝播に応じ、この変色は、樹脂成型材6の表面近傍ほど早く、深部ほど遅い。従って温度管理調理器具1は、その変色範囲が広いほど樹脂成型材6の深部まで十分に加熱されていることを示す。
【0031】
その結果、図2(b)のように、温度管理調理器具1の可逆性示温材2は、その周辺部から徐々に変色し始め、熱の伝播具合を示す。このとき、一緒に茹でている卵を取り出すと、軟らかめの半熟卵として得られる。加熱し続けると、図2(b)に示すように、可逆性示温材2,2aのピンク色と白色との境界線は中心部の不変色色素含有層4に近づき、その白色の変色範囲は広範囲になる。不変色色素含有層4は、低温状態と同様に、不変色色素8の黄色と鉄トリアゾール錯化合物7のピンク色とが混色された色彩である黄桃色を示す。このとき卵を取り出せば、硬めの半熟卵が得られる。これら図2(a)・(b)のときに、黄身は半熟でくすんだ黄桃色乃至橙色をしているから、不変色色素含有層4として目視されるくすんだ黄桃色と近似の色彩となっている。さらに加熱し続けると、図2(c)に示すように、可逆性示温材2はその全面において白色に変色し、黄桃色であった不変色色素含有層4は、それの本来の色彩である鮮やかな黄色を示す。従って、不変色色素含有層4は、下層の可逆性示温材2の変色によりあたかも黄桃色から黄色へと変色したように視認される。このとき卵を取り出せば、固茹で卵が得られる。この図2(c)のときに、黄身は、十分固まっており鮮やかな黄色をしているから、不変色色素含有層4として目視される鮮やかな黄色又は黄色と近似の色彩となっている。
【0032】
温度管理調理器具1が再び低温に戻ると、鉄トリアゾール錯化合物7が可逆的に元のスピン状態に戻ることで、可逆性示温材2は白色から元の色調であるピンク色へ復色する。従って、加熱−冷却サイクルにおいて、このようなピンク色から白色また白色からピンク色への変色は繰り返し行われる。
【0033】
不変色色素含有層4で卵の黄身及び可逆性示温材2で白身を表現し卵の断面図をイメージするようなデザインで設計された図2に示される温度管理調理器具1は、殻に覆われた卵の中身を疑似的に見ているかのように、色調が変化する。このような温度管理調理器具1は、被検知物への熱の伝播具合を視覚的に表示し、目視で正確にかつ容易に、被検知物の微妙な茹で具合や煮え具合などの状態を判別することができる。
【0034】
本発明の温度管理調理器具1は、可逆性示温インキ、温度管理調理器具表面から可逆性示温材2までの樹脂成型材6の厚さ、樹脂成型材6の樹脂組成等を適宜調整することにより、加熱開始から変色するまでの時間又は変色する温度を調節することができる。変色温度と変色する時間とを調整するうえで、例えば、70〜100℃の温度範囲を管理する際、温度管理調理器具表面から可逆性示温材2までの樹脂成型材6の厚さが1〜3cmであると好ましい。
【0035】
温度管理調理器具1は、インジケータ5の観察面側が半楕円球状の樹脂成型材6の湾曲面側を向いている例を示したが、半球状樹脂成型材6の平面側を向いたものであってもよい。そのインジケータ5は、可逆性示温材2及び不変色色素含有層4の上に粘着剤が付され粘着層を形成していてもよく、それに保護フィルムが付されていてもよい。
【0036】
このインジケータ5は、図3(a)に示すように基材3上の観察面側の一部に付された不変色色素含有層4ごと、基材3の上から可逆性示温材2が被覆されるように形成されていてもよく、図3(b)に示すように基材3上の観察面側に可逆性示温材2と不変色色素含有層4とが並べて付され、形成されているものであってもよい。また、図3(c)に示すように基材3上の観測面側に可逆性示温材2のみが形成されており、不変色色素含有層4を有していなくともよい。
【0037】
また、温度管理調理器具1の形状は、茹で卵に合わせて半楕円球状を例示したが、その立体状は特に限られず、食材等の被検査物の形状に合わせて、適宜選択できる。例えば、茹で卵に合わせた真球や楕円球のような球状やそれの半球状であってもよく、うどんやパスタ等の麺類に合わせた太さのもので細くて長い円柱状であってもよく、角柱状、錘状であってもよい。
【0038】
温度管理調理器具1が円柱状である場合、図4に示すように、樹脂成型材6よりひと回り細くて小さい円柱状であり、鉄トリアゾール錯化合物7を含有する可逆性示温材2が、円柱状の樹脂成型材6に埋め込まれ、又は被膜状の樹脂成形材6で被覆されて封入されていてもよい。その温度管理調理器具1は、パスタ程度の太さの細くて長い円柱状のものであると、麺類やパスタの茹で上がりを管理するインジケータとして利用できる。温度管理調理器具1をパスタと共に鍋の中に入れ、所期の温度以上に加熱すると、可逆性示温材2の表面部から徐々に変色する。変色途中で、茹でているパスタを取り出すと、アルデンテのパスタが得られる。さらに加熱し、インジケータ内部の温度が所期の温度に達すると可逆性示温材2の全面が変色する。完全に変色してから茹でているパスタを取り出すと、十分に茹であがったパスタが得られる。同様に、変色するまでの時間又は変色する温度を被検知物に合わせて調節し、熱の伝播を視覚的に表示することで、野菜等他の食材の茹で具合も判別することができる。
【0039】
温度管理調理器具1がシート状である場合、図5の(a)模式平面図及び(a’)模式断面図に示すように、樹脂フィルムである基材3の一面側に鉄トリアゾール錯化合物7を含有する可逆性示温材2が形成された長方形のインジケータ5が、フィルム状又はシート状の樹脂形成材6で挿まれ加熱ラミネートされて封入されていてもよい。インジケータ5を被覆している樹脂成型材6は無色透明、有色透明、又は半透明であり、加熱されて所定温度に達した部分のみの変色を明瞭に確認することができる。ここで、図5の(b)は、温度管理調理器具1の一部が変色温度に達したときの変色途中を示す図である。図5の(a)及び(b)は、加熱前の色彩及び変色温度以上まで加熱した後に変色温度未満まで冷却したときの色彩を示す範囲である未変色範囲Xを左上がりの斜線で示し、変色温度以上まで加熱したときの色彩を示す範囲である変色範囲Yを左上がりの斜点線で示す。
【0040】
図5に示される温度管理調理器具1は、例えば、図6に示されるように、その一部を測定対象や観測対象に接触させて用いてもよい。変色温度に達した部分のみが感度良く変色するため、温度変化、熱伝達過程を目視することができる。
【0041】
温度管理調理器具1の可逆性示温材2は、示温顔料である鉄トリアゾール錯化合物7の粒子表面が樹脂であるバインダーで被覆され、かつインキ成分である媒体に均一に分散された可逆性示温インキにより形成されたものである。この可逆性示温材2において、鉄トリアゾール錯化合物7がバインダー中でその粒子表面を被覆されつつ均一に分散している。この被覆した状態により、鉄トリアゾール錯化合物7の酸化等による変質が防止される。この鉄トリアゾール錯化合物7は、0.1〜500μmの粒子ないし粉末状の粒子であると好ましい。粉末状では耐久性に乏しいとされる鉄トリアゾール錯化合物7であっても、安定に存在することができる。
【0042】
この鉄トリアゾール錯化合物7は、中心金属が2価の鉄イオンであり、その中心金属が配位している配位子がトリアゾールやその誘導体及び対アニオンとから構成されている遷移金属錯体である。鉄トリアゾール錯化合物7については、水和物および無水和物が存在するが、そのどちらであってもよい。配位子であるトリアゾールとその誘導体は、1,2,4−トリアゾール、4−メチル−1,2,4−トリアゾール、4−エチル−1,2,4−トリアゾール、4−プロピル−1,2,4−トリアゾール、4−ブチル−1,2,4−トリアゾール、4−ペンチル−1,2,4−トリアゾール、4−ヘキシル−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ誘導体−1,2,4−トリアゾールなどが挙げられる。鉄(II)陽イオンに配位して、スピンクロスオーバー現象を起こす配位子が好ましい。これら配位子は単独で用いられてもよく、複数の配位子から形成される錯化合物でもよい。錯化合物の対アニオンは、F、Cl、Br、I、At、SO2−、SO2−、HSO2−、HSO2−、S2−、OH、NO、BF、ClO、NCS、CN、SCN、CHCOO、HCOO、C2−、CO2−、HPO、PF2−、SiF2−、B(C、又はC−SO、CH−C−SO、C−C−SO、C10−SO、NH−C10−SO、HO−C10−SO、SF−SO、CH−SO、C−SO、C−SO、C−SO、C11−SO、C13−SOのようなR−SO(Rは飽和又は不飽和の炭化水素基及び/又は芳香族基とする基)などの鉄(II)トリアゾール錯体陽イオンと対をなす陰イオンが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、複数の対イオンを持つ錯化合物でもよい。
【0043】
この鉄トリアゾール錯化合物7としては、具体的に、トリ(1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体、トリ(1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体、トリ(1,2,4−トリアゾール)鉄塩酸塩錯体、トリ(1,2,4−トリアゾール)鉄4フッ化ホウ素酸塩錯体、トリ(1,2,4−トリアゾール)鉄フッ素酸塩錯体、トリ(1,2,4−トリアゾール)鉄臭素酸塩錯体、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄塩酸塩錯体、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄4フッ化ホウ素酸塩錯体、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄フッ素酸塩錯体、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄臭素酸塩錯体、トリ(4−メチル−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体、トリ(4−メチル−1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体、トリ(4−メチル−1,2,4−トリアゾール)鉄塩酸塩錯体、トリ(4−メチル−1,2,4−トリアゾール)鉄4フッ化ホウ素酸塩錯体、トリ(4−メチル−1,2,4−トリアゾール)鉄フッ素酸塩錯体、トリ(4−メチル−1,2,4−トリアゾール)鉄臭素酸塩錯体、トリ(4−エチル−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体、トリ(4−エチル−1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体、トリ(4−エチル−1,2,4−トリアゾール)鉄塩酸塩錯体、トリ(4−エチル−1,2,4−トリアゾール)鉄4フッ化ホウ素酸塩錯体、トリ(4−エチル−1,2,4−トリアゾール)鉄フッ素酸塩錯体、トリ(4−エチル−1,2,4−トリアゾール)鉄臭素酸塩錯体、トリ(4−プロピル−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体、トリ(4−プロピル−1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体、トリ(4−プロピル−1,2,4−トリアゾール)鉄塩酸塩錯体、トリ(4−プロピル−1,2,4−トリアゾール)鉄4フッ化ホウ素酸塩錯体、トリ(4−プロピル−1,2,4−トリアゾール)鉄フッ素酸塩錯体、トリ(4−プロピル−1,2,4−トリアゾール)鉄臭素酸塩錯体、トリ(4−ブチル−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体、トリ(4−ブチル−1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体、トリ(4−ブチル−1,2,4−トリアゾール)鉄塩酸塩錯体、トリ(4−ブチル−1,2,4−トリアゾール)鉄4フッ化ホウ素酸塩錯体、トリ(4−ブチル−1,2,4−トリアゾール)鉄フッ素酸塩錯体、トリ(4−ブチル−1,2,4−トリアゾール)鉄臭素酸塩錯体などが挙げられる。これらは単体で用いてもよく、複合体で用いてもよい。
【0044】
特に好ましいものとして、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄4フッ化ホウ素酸塩錯体、および(1,2,4−トリアゾール)と(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)との配位子を複合した鉄硝酸塩錯体などが挙げられる。
これらの鉄トリアゾール錯化合物7は、低温時にピンク乃至赤紫色を示し、サーモクロミズムにより、高温時に白色乃至淡黄色を示すものである。
【0045】
この鉄トリアゾール錯化合物7の粒子表面を被覆しているインキ成分であるバインダーは、粘着性を有し、鉄トリアゾール錯化合物粒子の酸化を防止する効果を有するものである。
【0046】
バインダーとして、具体的に、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、クマリン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート(MMA)−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチルセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、プロピルセルロース樹脂、酢酸・酪酸セルロース樹脂、硝酸セルロース樹脂、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン6樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン610樹脂、ナイロン11樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンテレフタレート樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、天然ゴムや合成ゴム、石油樹脂、油脂などを挙げることができる。また、これらのバインダーは、1種単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。ナイロンとは登録商標である。
【0047】
バインダーと共にインキ成分として鉄トリアゾール錯化合物7と安定である溶媒は、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、インキオイル、ソルベントナフサ、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、第二ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール、トリデシルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、ジペンテン、ヘプタン、メチルイソブチルカルビノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジエチルケトン、エチルアミルケトン、メチルシクロヘキサン、イソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ジエチルベンゼン、水などを挙げることができる。また、これらの溶媒は、1種単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0048】
これらの必須成分を含有する可逆性示温材2は、保存安定性、生産性、機能性などの性能を向上させるため、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
これらのバインダー及び溶剤と併用する添加物としては、インクの印刷適性を向上させる材料、耐久性を向上させる材料、変色色調を調整する材料などが挙げられる。
【0050】
インクの印刷適性を向上させる材料としては、ろう、ワックス、ドライヤ、分散剤、湿潤剤、架橋剤、ゲル化剤、増粘剤、安定剤、つや消し剤、泡消し剤、色分かれ防止剤、光重合開始剤、カビ防止剤、可塑剤、チキソトロピー付与剤などが挙げられる。また、耐久性を向上させる材料として具体的には、紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの添加物は、印刷適性やインクの適性に応じ必要に応じて適宜用いられるもので、1種類を用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0051】
変色色調を調整する着色材料としては、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、アルミナホワイト(Al23・xH2O)、クレー、沈降性硫酸バリウム、グロスホワイト、ファストイエローG、ファストイエロー10G、ジスアゾイエローAAA、ジスアゾイエローAAMX、ジスアゾイエローAAOT、黄色酸化鉄、ジスアゾイエローHR、ジニトロアニリンオレンジ、ジスアゾオレンジPMP、ジスニシジンオレンジ、トルイジンレッド、塩素化パラレッド、ビリリアントファストスカーレット、ピラゾロンレッドB、バリウムレッド2B、カルシウムレッド2B、バリウムリソールレッド、レーキレッドC、ブリリアンカーミン6B、ピグメントスカーレット3Bレーキ、ローダミン6G PTMA トーナー、べんがら、ナフトールレッドFGR、キナクリドンマゼンダ、ローダミンB PTMA トーナー、メチルバイオレット PTMA トーナー、キナクリドンレッド、ジオキサジンバイオレット、ビクトリアピュアブルー PTMA トーナー、フタロシアニンブルー、アルカリブルートーナー、紺青、群青、ブリリアントグリーン PTMA トーナー、ダイヤモンドグリーン PTMA トーナー、フタロシアニングリーン、カーボンブラック、亜鉛華、アルミニウム粉、体質顔料、ブロンズ粉、蛍光顔料、蓄光顔料、パール顔料などを挙げることができる。これらの添加物は、印刷適性やインクの適性に応じ必要に応じて適宜用いられるもので、1種類を用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0052】
変色色調を調整する材料によって、可逆性示温材2はその変色色調の調整を容易にすることができる。可逆性示温材2は、ヨウ化水銀(II)銅錯化合物(Cu[HgI])のような低温で赤色、高温で暗い茶紫色を示し変色前後の色調を調整し難い水銀含有の示温顔料と異なり、低温でピンク色、高温で白色のような比較的薄い色彩を示し変色前後の色調を調整し易いものである。例えば、温度により変化及び変色しない色素である添加剤を加えることで、同系統の色彩を濃淡で示すものや、変色前後で補色の関係を示すものなど簡易かつ明瞭に変色色調を調整することができる。具体的に、鉄トリアゾール錯化合物7とフタロシアニンブルーとを適量混合することで、低温では紫色、高温では青色に変色する可逆性示温材2とすることができる。一方、鉄トリアゾール錯化合物7とファストイエローとを適量混合することで、低温では暗ピンク色、高温では黄色に変色する可逆性示温材2とすることができる。
変色色調を調整する材料によって、可逆性示温材2の変色前後で、その色調の濃淡を明瞭にしたり、補色の関係にしたりすることで変化を強調することや、表示される色彩を温度管理する環境や状態に合わせてより視認し易くするなどの効果が生じる。
【0053】
変色色調を調整する材料は、可逆性示温材2に含有される鉄トリアゾール錯化合物7の1〜10重量部に対して、0.1〜1重量部であると好ましい。また、変色色調を調整する材料の粒径は、0.001〜1μmであると好ましい。
【0054】
これらを混合し調整されインキ化された可逆性示温インキは、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、コーター印刷、オフセット印刷、凸版印刷、平版印刷、インクジェット印刷により基材3に印刷され、インジケータ5を形成することができる。
【0055】
基材3は、高分子フィルム、高分子板、ガラス板、ガラスクロス、金属箔、金属板、紙、合成紙、布、繊維状シート、不織布、セルロースなど、可逆性示温材2の変色が外部から確認できる基材であればよく、特に透明又は半透明の高分子フィルムが好ましい。例えばポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、セロファン、ナイロン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン、ポリイミド、又はポリ酢酸ビニルで膜状に形成されたものが挙げられる。高分子フィルムは、これらを単独で又は複合して形成されたものであってもよく、共重合させて形成されたものであってもよい。基材3は、透明でも半透明でもよく、不透明でもよい。
【0056】
不変色色素含有層4は、不変色色素8、バインダー及び溶媒と、必要に応じて添加剤とを含有する不変色性インキにより形成されたものである。不変色色素含有層4に含有される不変色色素8は、温度変化により変色しないものであって、例えば、前記のような可逆性示温材2に含有させる変色色調を調整する着色材料などが挙げられる。これらの不変色色素8は、1種類を用いてもよく、複数混合して用いてもよい。不変色色素8は、不変色性インキ中に0.001〜10重量部、含有されていると好ましい。さらに、この不変色色素8の粒径は、0.001〜1μmであると好ましい。
【0057】
不変色色素含有層4を形成する不変色性インキに含有されるバインダー、溶媒、及び添加剤は、前記に例示したものを用いることができる。また、不変色性インキは、前記不変色色素8に例示した色素を用いているものであって、平版インキ、グラビヤインキ、凸版インキ、スクリーンインキなど市販のインキであってもよい。また、例示した不変色色素8と市販のビヒクルとを用いて製造したインキであってもよい。
【0058】
保護フィルムは、基材3に用いるのと同様の材料を使用することができる。また、透明、半透明に限らずインジケータのデザインによっては有色フィルムであってもよく、白色PETやユポ合成紙など可逆性示温材2の変色色調を鮮明にする不透明フィルムであってもよい。
【0059】
粘着層に使用される粘着材は、アクリル系、ゴム系、ビニルエーテル系、シリコーン系、エポキシ系及びそれらの複合体又は共重合体が好ましい。粘着材例えば市販の感圧性接着剤(住友スリーエム(株)製)であってもよい。
【0060】
樹脂成型材6を形成する樹脂原料は、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、アイオノマー樹脂、セルロース系プラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂を使用することができ、これら樹脂を単独で使用してもよく、複合体を使用してもよい。これらの樹脂原料は、可逆性示温材2及び不変色色素含有層4の色彩を妨げない程度に顔料や染料が加えられ、着色されていてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の温度管理調理器具を試作した実施例を詳細に説明する。
【0062】
(実施例1)
反応容器中で、硫酸鉄・7水和物(FeSO・7HO)10gを100mlの蒸留水に溶解し、アスコルビン酸1gを加えた。その溶液に濃硫酸を2〜3滴加え、加熱して全ての溶質を溶かし、溶液1を得た。別の反応容器で4−アミノ−1,2,4−トリアゾール25gを100mlのエタノールで溶かし、ウォーターバスで温め溶液2を得た。次いで、溶液1を温めながら、溶液2を加え1〜2時間撹拌し、室温まで冷却すると、ピンク色の沈殿が得られた。この沈殿をエタノールで洗浄しながらろ過し、その後、自然乾燥で2〜3日間放置してピンク色の粉末12gを得た。ピンク色の粉末は、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体であった。得られた鉄トリアゾール錯化合物10gと、バインダーとしてブチルゴム1gと、溶剤としてミネラルスピリット10gとを混練して可逆性示温インキを調製した。得られた可逆性示温インキを、ポリエステルフィルムから成る基材3の一面側に塗布し、溶媒を乾燥させて、図1に示すように、基材3上に可逆性示温材2が形成されている直径50mmの円形のインジケータ5を得た。
【0063】
不飽和ポリエステル−ユピカ(日本ユピカ(株)製:商品名)の200gにパーメック(日本油脂(株)製:商品名)の3gをよく混ぜ、ガラス製の半球状凹型成形型に注いだ。この樹脂液中に、前記で得られたインジケータ5を樹脂液に完全に浸るように入れた。成形型を60℃で8時間加熱して樹脂を硬化させた。硬化後、成形型から樹脂を取り出して形を整え、直径80mmの半球状の温度管理調理器具1を得た。この温度管理調理器具1は、ピンク色を呈していた。
【0064】
作製した温度管理調理器具1、生卵数個及び水を調理鍋に入れ加熱すると、水温の上昇に伴い、図2に示すように、インジケータ5がその表面部から内部に向けて、ピンク色から白色に変色し始めた。表面部から内部への半分程度の位置まで白色に変色した時に、卵を取り出したところ、半熟卵が得られた。更に加熱を続け、インジケータ全体が白色に変色した時に卵を取り出すと、固茹で卵が得られた。
【0065】
その後、この温度管理調理器具1を室温まで冷却すると、白色からピンク色に色調が戻った。この温度管理調理器具1を再使用し、生卵と一緒に加熱調理する試験を10回行ったところ、10回とも同様の結果が得られた。
【0066】
(実施例2)
実施例1と同様に得られた鉄トリアゾール錯化合物10g、不変色色素としてファストイエロー1g、バインダーとしてブチルゴム1g、及び溶剤としてミネラルスピリット10gを混練して可逆性示温インキを調製した。得られた可逆性示温インキを、ポリエステルフィルムから成る基材3の一面側に塗布し、溶媒を乾燥させて、直径25mmの円形インジケータ5を形成した。実施例1で得られた直径50mmの円形のインジケータ5の中心部を直径25mmの円形にくり抜き、ドーナツ状インジケータ5を形成し、直径25mmの円形インジケータ5を、そのドーナツ状インジケータ5の中心部に組み込み、インジケータ5を得た。
【0067】
実施例1と同様、不飽和ポリエステル−ユピカ(日本ユピカ(株)製:商品名)の200gにパーメック(日本油脂(株)製:商品名)の3gをよく混ぜ、ガラス製の半球状凹型成形型に注いだ。この樹脂液中に、前記で得られたインジケータ5を樹脂液に完全に浸るように入れた。成形型を60℃で8時間加熱して樹脂を硬化させた。硬化後、成形型から樹脂を取り出して形を整え、直径80mmの半球状の温度管理調理器具1を得た。この温度管理調理器具1は、直径50mmのドーナツ状インジケータ5により外側がピンク色、直径25mmの円形インジケータ5により内側が暗ピンク色を呈していた。
【0068】
実施例1と同様、作製した温度管理調理器具1、生卵数個及び水を調理鍋に入れ加熱すると、水温の上昇に伴い、ドーナツ状インジケータ5がその表面部から内部に向けて、ピンク色から白色に変色し始めた。表面部から内部への半分程度の位置まで白色に変色した時に、卵を取り出したところ、半熟卵が得られた。更に加熱を続け、外側にあるドーナツ状インジケータ5が白色、内側にある円形インジケータ5が黄色に変色した時に卵を取り出すと、固茹で卵が得られた。
【0069】
その後、この温度管理調理器具1を室温まで冷却すると、外側が白色からピンク色、内側が黄色から暗ピンク色に色調が戻った。この温度管理調理器具1を再使用し、生卵と一緒に加熱調理する試験を10回行ったところ、10回とも同様の結果が得られた。
【0070】
(実施例3)
実施例1で得られたトリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄硫酸塩錯体を用いたインジケータで、実施例1と同様に、樹脂で可逆性示温材2を埋め込んだ図4に示すような棒状の温度管理調理器具1を作成することにより、パスタなどの棒状の食品の加熱状態を知ることができた。このようにインジケータの形状を変えて種類の異なる加熱状態を知ることができた。
【0071】
(実施例4)
反応容器中で、硫酸鉄・7水和物(FeSO・7HO)14gを200mlの0.1mol/lの硝酸に溶かして、溶液3を得た。この溶液3に硝酸バリウム13gを加え、ウォーターバスで約40〜50℃に温めながら、3〜4時間撹拌した。撹拌後、沈殿した白色の硫酸バリウムをろ過して除去し、濾液溶液4を得た。さらに、別の反応容器に1,2,4−トリアゾール10.4gを加え200mlのエタノールでウォーターバスにて温めながら溶解し、この溶液をウォーターバスで約50〜60℃で温めながら撹拌している溶液4に加え、1〜2時間撹拌した。撹拌後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、冷却すると、ピンク色の粉末が得られた。このピンク色の粉末は、トリ(1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体であった。
【0072】
次に、別な溶液4を前記と同様の方法で得る。さらに、別の反応容器に4−アミノ−1,2,4−トリアゾール12.6gを加え200mlのエタノールでウォーターバスにて温めながら溶解し、この溶液をウォーターバスで約50〜60℃で温めながら撹拌している溶液4に加え、1〜2時間撹拌した。撹拌後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、冷却すると、ピンク色の粉末が得られた。このピンク色の粉末は、トリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体であった。
【0073】
前記の方法で得られたトリ(1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体及びトリ(4−アミノ−1,2,4−トリアゾール)鉄硝酸塩錯体の粉末を10gずつ反応容器に入れ、蒸留水100gを入れて、ウォーターバスで約60℃に温めながら、約1時間撹拌した。その後、105℃恒温槽で水分を蒸発させて飛ばし、乾燥させると濃ピンク色の粉末が得られた。この濃ピンク色の粉末は、配位子が1,2,4−トリアゾールと4−アミノ−1,2,4−トリアゾールである複数の配位子が混合した鉄トリアゾール系硝酸塩錯化合物と考えられる。
【0074】
得られた鉄トリアゾール錯化合物10gと、メジウムとして市販のPAS
No.800メジウム10gと、溶剤としてブチルセロソルブ10gとを、ライカイ機で混練して、可逆性示温インキを調製した。得られた可逆性示温インキを、ポリエステルフィルムから成る基材3の一面側に塗布し、溶媒を乾燥させて、可逆性示温材2を形成し、20mm×200mmの長方形のインジケータ5を得た。
【0075】
得られたインジケータ5を、樹脂成型材6である市販のラミネーター専用フィルム((株)アスカ製)に挿み、Lami−α800(日本ジービーシー(株)製)にて加熱ラミネートし、インジケータ5の周辺を25mm×205mmに断裁し、学習用の温度管理調理器具1を作成した。この温度管理調理器具1を図5に示す。図5の(a)は正面模式図であり、そのA−A線断面図を(a’)に示す。また、図5の(b)は加熱における使用途中を示す図であり、未変色範囲Xを左上がりの斜線で示し、加熱による変色範囲Yを左上がりの斜点線で示す。加熱前の温度管理調理器具1は、そのインジケータ5部分においてピンク色を呈していた。
【0076】
図6に示すように、ビーカー15に水と学習用の温度管理調理器具1とを入れ、下から加熱器具16を用いて加熱した。温度管理調理器具1は、対流の関係で温度管理調理器具1の水面接地位置から下方向にインジケータ5のピンク色から白色に変色した。ピンク色である未変色範囲Xを左上がりの斜線で図示し、白色である変色範囲Yを左上がりの斜点線で図示する。水面設置位置から下方向に進む変色により、目に見えない対流を学習することができた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の温度管理調理器具は、卵、麺類、野菜類、魚介類、肉類等の食材や、加工食品等の食品の加熱調理時の温度管理及び熱の伝播具合を把握するために用いられる。この温度管理調理器具は、家庭用、教材用及び業務用の調理器具として使用される。
【符号の説明】
【0078】
1は温度管理調理器具、2,2aは可逆性示温材、3は基材、4は不変色色素含有層、5はインジケータ、6は樹脂成型材、7は鉄トリアゾール錯化合物、8は不変色色素、15はビーカー、16は加熱器具、Xは未変色範囲、Yは変色範囲である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモクロミズムを示すことにより温度の上昇又は降下の際に所定温度で可逆的に変色する鉄トリアゾール錯化合物及びバインダーを含有する可逆性示温材が、熱を経時的に内部へ伝播して前記所定温度に達する立体状又はシート状の樹脂成型材に埋め込まれ及び/又は封入されていることを特徴とする温度管理調理器具。
【請求項2】
前記可逆性示温材が、基材に付された層状であることを特徴とする請求項1に記載の温度管理調理器具。
【請求項3】
前記可逆性示温材と、前記可逆性示温材の変色温度未満又は変色温度以上において、前記可逆性示温材の呈する色相と異なる色彩の不変色色素含有層とが、基材上に並べて又は少なくとも一部重複して付されていることを特徴とする請求項1に記載の温度管理調理器具。
【請求項4】
前記樹脂成型材が、卵型状、半卵型状、楕円球状、半楕円球状、球状、半球状、柱状及び錘状の何れかの前記立体状であることを特徴とする請求項1に記載の温度管理調理器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−90882(P2013−90882A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236248(P2011−236248)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】