説明

湾曲板のプレス成形機

【課題】必要な荷重の得られにくいメインジャッキから離隔した金型端部においても、必要な加工度を得ることができるようにした湾曲板のプレス成形機を提供する。
【解決手段】上金型5と下金型6をワークのサイズと一致するように形成し、前記上金型5は、メインジャッキ7に連結された上金型本体50と、該上金型本体50に固定され前記メインジャッキ7の近傍に配置された中央部金型51と、該中央部金型51よりも前記メインジャッキ7から離隔して配置された外周部金型52とを有し、前記外周部金型52は、前記上金型本体50にサブジャッキ8を介して前記上金型本体50から近接又は離隔する方向に移動可能に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲板のプレス成形機に関し、特に大型圧力容器用ヘッド部のナックル部等をプレスするのに好適な湾曲板のプレス成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
図7(A)に示すような形状をした大型圧力容器10として、原子炉格納容器がある。原子炉格納容器は、原子炉容器や冷却系等設備(循環ポンプ、熱交換器など)等を覆う気密構造物であり、直径が40メートル程度の円筒部12の上下に楕円形ヘッド(鏡)11を取り付けて構成されている。
【0003】
楕円形ヘッド11は、図7(B)に示すように球形に模擬できるクラウン部13と、周縁のナックル部14で構成されている。ナックル部14は、3次元形状(複数の曲げRを組み合わせた複雑な形状)をしたナックル板15(図7(C)参照)を複数枚組み合わせて構成される。
【0004】
ナックル板15は、金型を用いてプレスで成形して製作される。
【0005】
従来、ナックル板15の製作は、図6に示すようにナックル板15よりも小型の金型5j,6jを用いて冷間加工により成型している。ナックル板15のサイズに比べて小さいサイズの金型5j,6jを使用するため、図6(B)に示すようにワークである板Wを動かしてプレス荷重位置を移動させ、プレス回数を重ねることで徐々に成型を進めてナックル板15を製作している。
【0006】
特に大型容器のナックル板15については、成型に必要な荷重(面圧)を得るため、板サイズに比べて小型の金型5j,6jを使用しなければならず、プレス回数を多くする必要があり、成型に多大な時間を要する。
【0007】
また、小型の金型5j,6jで、面積の広いナックル板15を所定の形状に成型するには、熟練作業者の職人技術に頼らざるを得ず、大量の成型を短期間に実施することは困難である。
【0008】
また、金型の大きさをワーク(湾曲板)Wと等しくしたものも知られているが、この場合、プレス荷重は、メインジャッキの近傍であるワーク中央部はメインジャッキの荷重が十分に伝わるため所望の曲げ加工を行うことができるが、メインジャッキから離隔した端にいくほどメインジャッキの荷重が伝わりにくく、所望の曲げが得られにくい上、スプリングバックが生じる。
【0009】
このため、曲がりやスプリングバックを考慮して金型を設計するが(特許文献1)、実際にプレスして所望の形状に成型できないときは、金型を修正して再びプレスする工程を繰り返す必要がある。
【0010】
また金型設計の自由度を向上させるために、金型のプレス面を自在に変化させることを可能にした板材の曲げ加工用プレス成形型が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭59−27252号公報
【特許文献2】特開平6−210351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、特許文献2に示す発明は、金型を複数のリンク部材で網目状形態に構成し、個々のリンク部材をスクリュージャッキで移動することにより金型形状(プレス面)を自在に変化させることを可能にしたものであるが、予めスクリュージャッキで網目状形態の金型を移動させて金型形状を変化させるものであるため、上記金型を下降させるメインジャッキから離隔した金型端部では、必要な荷重が得られにくいためワークにスプリングバックが生じ、プレス加工を繰り返すことになり、成型に多大な時間を要すると共に、コストの増大、作業性の煩雑化は避けられないという問題が依然として生じる。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、必要な荷重の得られにくいメインジャッキから離隔した金型端部においても、必要な加工度を得ることができるようにした湾曲板のプレス成形機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明は、一対の上金型と下金型の間にワークを設置し、前記上金型をメインジャッキで前記下金型に押し付けて前記ワークを湾曲板状に成型する湾曲板のプレス成形機であって、前記上金型と下金型を前記ワークのサイズと一致するように形成し、前記上金型は、前記メインジャッキに連結された上金型本体と、該上金型本体に固定され前記メインジャッキの近接に配置された中央部金型と、該中央部金型よりも前記メインジャッキから離隔して配置された外周部金型とを有し、前記外周部金型は、前記上金型本体にサブジャッキを介して前記上金型本体から近接又は離隔する方向に移動可能に設けられたことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、実寸サイズの金型による一体曲げ加工を行うことができ、しかも必要な荷重の得られにくい金型端部においても、十分な荷重を与えることができ、必要な加工度をナックル板全面で得ることができる。
【0016】
また前記外周部金型は、前記中央部金型の周囲に隣接して配置された複数のブロック金型からなり、各ブロック金型のそれぞれが前記サブジャッキを介して前記上金型本体に取り付けられるのが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、ジャッキ部位ごとに設定面圧を変えることが可能となる。
【0018】
また前記外周部金型を、前記メインジャッキで前記ワークに接触するように押し下げた後、前記サブジャッキで更に押し下げるための制御部を備えるのが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、プレス荷重が十分に伝わりきらない金型の外周部分に、さらにプレス荷重を加えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の湾曲板のプレス成形機によれば、必要な荷重の得られにくいメインジャッキから離隔した金型端部においても、必要な加工度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るプレス成形機の金型部分を切断した正面図である。
【図2】図2は、図1と同様に金型部分を切断した側面図である。
【図3】図3は、図1の上金型の底面図である。
【図4】図4は、図3のA―A断面図である。
【図5】図5は、図3のB―B断面図である。
【図6】図6は、従来の成型方法を示す説明図で、(A)は金型部分を切断した正面図で、(B)は同様の側面図である。
【図7】図7は、大型圧力容器を示す図で、(A)は一部破断正面図で、(B)はヘッド部の斜視図で、(C)はナックル板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
プレス成形機1は、図1及び図2に示すように直方体状の下部基台2と、下部基台2の上方に設けられた直方体状の上部基台3と、下部基台2の四隅に載置された支持部2aと、四隅の支持部2aと上部基台3との間に設けられた4本の円柱状のガイドロッド2bと、4本のガイドロッド2bに案内され、ガイドロッド2bに対し上下方向に移動可能な断面略H形のスライド4と、このスライド4と上部基台3の間に設けられるメインジャッキ7,7(図では2本設けられているが、1本でも3本以上でもよい)と、上金型5及び下金型6から構成されている。
【0024】
上金型5は、スライド4の下部にボルトなどの結合手段9で取り付けられている。下金型6は、上金型5と対向するように上向きに下部基台2にボルトなどの結合手段(図示せず)で取り付けられている。
【0025】
これら一対の上金型5と下金型6の間にワークWを設置し、メインジャッキ7,7を公知の油圧回路からなる制御部70(図5参照)で制御することでスライド4を矢印のように上下方向に駆動し、上金型5を下金型6に押し付けてワークWを湾曲板状に成型する。
【0026】
プレス成形機1でプレスする好適なワークWとして、例えばナックル板15が上げられる。ナックル板15は、例えば4m×8mの大きさであり、図7(C)に示すように曲げRが位置毎にR1,R2,R3と異なっている。
【0027】
上金型5と下金型6は、その大きさ(上面において縦と横の寸法)がナックル板15のサイズと一致するように形成し、実寸サイズの金型による一体曲げ加工を行うことができるようになっている。
【0028】
図4、図5に示すように上金型5は、メインジャッキ7に連結された上金型本体50と、この上金型本体50の下部に固定され、かつメインジャッキ7の近傍に配置された中央部金型51と、この中央部金型51よりもメインジャッキ7から離隔して配置された外周部金型52とを有している。
【0029】
すなわち、図3、図4から分かるように中央部金型51の上方において、中央部金型51の略中央に位置するように二つのメインジャッキ7,7が配置されており、中央部金型51は、メインジャッキ7,7の近傍に配置された状態で上金型本体50に取り付けられることになる。
【0030】
外周部金型52は、中央部金型51の周囲に隣接して配置された複数のブロック金型52aからなっており、中央部金型51よりもメインジャッキ7,7から離隔した状態で取り付けられ、図3から分かるように上金型5の金型端部を形成している。
【0031】
また外周部金型52は、上金型本体50にサブジャッキ8を介して上金型本体50から近接又は離隔する方向に移動可能に取り付けられている。
【0032】
サブジャッキ8は、金型端部に位置する部分、すなわち外周部金型52の部分に取付部材50aを介して上金型本体50に取り付けられている。サブジャッキ8は、複数のブロック金型52aのそれぞれに対応するように、ブロック金型52aの数と同じ数だけ取り付けられ、各サブジャッキ8の先端が各ブロック金型52aに結合している。
【0033】
メインジャッキ7は、上金型5を下金型6に押し付けてワークWに対しプレス荷重を加えるものであり、サブジャッキ8は、ブロック金型52aを個々に制御したり、ブロック金型52aを所定数(2個以上)毎にまとめて制御して必要な荷重の得られにくい金型端部にプレス荷重を加えるものである。
【0034】
メインジャッキ7及びサブジャッキ8は、制御部70によって制御されるようになっている。制御部70は、メインジャッキ7で上金型5(中央部金型51と外周部金型52)をワークWに接触するように押し下げた後、更にサブジャッキ8で外周部金型52を押し下げるようにするための機能を有する。
【0035】
かくして中央部金型51はメインジャッキ7によってプレス方向に移動可能に制御され、外周部金型52(ブロック金型52a)は、メインジャッキ7に加えてさらにサブジャッキ8によって上金型本体50から近接又は離隔する方向に移動可能に制御される。
【0036】
また複数のサブジャッキ8自体は、前記したようにブロック金型52aを個々に制御したり、ブロック金型52aを所定数毎にまとめて制御することができるので、サブジャッキ8に対応する部分のブロック金型52aは、メインジャッキ7によるプレス荷重に加えてサブジャッキ8によるプレス荷重もワークWに加えることができ、メインジャッキ7によるプレス荷重が得られにくいワーク端部W1に対するプレス荷重の調整が可能となる。
【0037】
すなわち、上金型5の中心部は中央部金型51による固定式であり、上金型5の外周近傍はサブジャッキ8を設けた外周部金型52(ブロック金型52aを組み合わせたパネル構造)による可変荷重式であり、固定式金型(中央部金型51)と可変荷重式金型(外周部金型52)の組み合わせ構造となっている。このためプレス成形機1による荷重時に、サブジャッキ8を作用させ、メインジャッキ7から離れた部分での面圧確保を行うと共に、サブジャッキ8の部位ごとに設定面圧を変えることが可能である。
【0038】
以下、本実施形態による湾曲板のプレス成形機の作用について説明する。
【0039】
先ず、上金型5と下金型6の間にワークW(ナックル板15)を設置し、メインジャッキ7を駆動してメインジャッキ7により上金型5を下降する。
【0040】
このとき、中央部金型51が上金型本体50に固定されており、外周部金型52が上金型本体50(取付部材50a)にサブジャッキ8を介して取り付けられているので、メインジャッキ7により中央部金型51と外周部金型52が同時に下降する。
【0041】
このようにメインジャッキ7により中央部金型51と外周部金型52が下降し、ナックル板15に接触するように押し下げられた後、サブジャッキ8を駆動し、サブジャッキ8により外周部金型52を更に押し下げてナックル板15に対し徐々にプレス荷重を加えて図7(C)に示すような曲げRの異なるナックル板15をプレス成型していく。
【0042】
このためメインジャッキ7から離隔した金型端部のプレス荷重が伝わりにくい部分においても、その部分のサブジャッキ8によりブロック金型52aでさらに押し付けられて、ナックル板15の端部に所望のプレス荷重が加えられる。
【0043】
また、実際にプレスしてメインジャッキ7から離隔した金型端部のプレス荷重が伝わりにくい部分が生じ、ナックル板15の端部が所定の形状にプレスされていない部分が生じたときは、その部分のサブジャッキ8を駆動し、対応するブロック金型52aでさらに押し付けてナックル板15の端部にプレス荷重を加えるように再度プレスする。
【0044】
なお、金型端部は必要な荷重が得られにくいので、予めその部分が分かっているときは、その部分のサブジャッキ8を中央部金型51がナックル板15に接触すると同時に駆動してナックル板15の一体曲げ成形を行うようにしてもよい。
【0045】
このように個々のサブジャッキ8を独立して駆動しながら、対応するブロック金型52aでナックル板15にプレス荷重を加え、ナックル板15を図7(C)に示す形状にプレス成型する。
【0046】
一般に、メインジャッキ7から離隔した金型端部ほどプレス荷重がワークに伝わりにくい。このため、その部分にさらにプレス荷重を調整できる機構を設ければ、従来のように金型の調整を繰り返す必要がなく、金型はある程度の形状で造り、上記機構によりプレス荷重を調整すればよいことになる。
【0047】
本発明によれば、メインジャッキ7から離隔した金型端部に相当する外周部金型52が複数のブロック金型52aに分割されたパネル構造に構成され、これらブロック金型52aが中央部金型51の周囲に隣接して配置され、これら複数のブロック金型52aのそれぞれがメインジャッキ7に加え更にサブジャッキ8でプレス荷重が調整されるので、メインジャッキ7から離隔した金型端部でも十分にプレス荷重がワークに伝わることになる。
【0048】
すなわち、本発明は、必要な荷重の得られにくい金型端部に、サブジャッキ8を複数内蔵した大型金型を構成したものであり、必要な加工度をナックル板15全面で得ることができる。
【0049】
このようにメインジャッキ7とサブジャッキ8を組み合わせて構成した可変荷重式大型金型であるため、ナックル板15を移動させることなく数回のプレスにてナックル曲げ加工が可能となり、加工時間を大幅に短縮することができるほか、可変荷重式金型の採用により、金型設計の成否が加工に及ぼす影響を最小化でき、金型設計の負担が大幅に軽減される。
【0050】
ナックル板15は、前記したように4m×8mの大きさであり、従来であれば小型の金型を用いてワークWを動かしてプレス荷重位置を移動させ、プレス回数を重ねることで徐々に成型を進めてナックル板15を製作していたが、本発明によれば実寸サイズの大型金型による一体曲げ加工を行うことができる。
【0051】
このように本発明によれば、メインジャッキ7から離隔した、プレス荷重が十分に伝わりきらない金型の外周部分に、さらにプレス荷重を加えることができるようにサブジャッキ8を設けたので、従来のように金型を調整する必要がなく、金型は所定の形状で製作し、プレス荷重を調整すればよく、必要な荷重の得られにくい金型端部においても、必要な加工度をナックル板15全面で得ることができ、しかも金型設計の成否が加工に及ぼす影響を最小化できる。
【符号の説明】
【0052】
1 プレス成形機
2 下部基台
2b ガイドロッド
3 上部基台
4 スライド
5 上金型
6 下金型
7 メインジャッキ
8 サブジャッキ
10 大型圧力容器
11 楕円形ヘッド
13 クラウン部
14 ナックル部
15 ナックル板
50 上金型本体
50a 取付部材
51 中央部金型
52 外周部金型
52a ブロック金型
70 制御部
W ワーク
W1 ワーク端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の上金型と下金型の間にワークを設置し、前記上金型をメインジャッキで前記下金型に押し付けて前記ワークを湾曲板状に成型する湾曲板のプレス成形機であって、
前記上金型と下金型を前記ワークのサイズと一致するように形成し、
前記上金型は、前記メインジャッキに連結された上金型本体と、該上金型本体に固定され前記メインジャッキの近傍に配置された中央部金型と、該中央部金型よりも前記メインジャッキから離隔して配置された外周部金型とを有し、
前記外周部金型は、前記上金型本体にサブジャッキを介して前記上金型本体から近接又は離隔する方向に移動可能に設けられたことを特徴とする湾曲板のプレス成形機。
【請求項2】
前記外周部金型は、前記中央部金型の周囲に隣接して配置された複数のブロック金型からなり、各ブロック金型のそれぞれが前記サブジャッキを介して前記上金型本体に取り付けられた請求項1記載の湾曲板のプレス成形機。
【請求項3】
前記外周部金型を、前記メインジャッキで前記ワークに接触するように押し下げた後、前記サブジャッキで更に押し下げるための制御部を備えた請求項1又は請求項2記載の湾曲板のプレス成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−279996(P2010−279996A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137572(P2009−137572)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】