説明

湿式分級方法及び湿式分級装置

【課題】比重が同じ粒子を高精度に短時間で分級する。
【解決手段】湿式分級装置1は、スラリーが注入される槽2と、槽2の上部に配置される上部電極3と、槽2の下部に配置される下部電極4と、上部電極3及び下部電極4に電圧を印加する電圧制御部5と、槽2内を上下方向に仕切る分級用仕切板6と、槽2を支持する槽支持装置7と、を備える。そして、分級用仕切板6を槽2から抜去した後、槽2に粒子が含まれたスラリーを注入して上部電極3及び下部電極4に電圧を印加する。すると、ゼータ電位の粒径依存性により粒径に応じて電気泳動の速度が異なるため、粒子を粒径に応じて粒子を上下に分離する。そこで、分級用仕切板6を槽2に挿入し、分級用仕切板6で仕切られた上下のスラリーを別々に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の湿式分級装置及び湿式分級方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料用途で用いられる粒子は、単分散性が求められる。このため、粒子合成時の核体の単分散性が要求されるのは勿論のこと、特性向上のためには高精度な分級も要求される。湿式分級は、乾式分級に比べて容易に粒子の分級を行うことができる。この湿式分級の手段として、サイクロン、沈降法、静電気を用いた水篩などが挙げられる。
【0003】
このような湿式分級の手段が、特許文献1〜9に示されている。
【0004】
特許文献1〜5には、電圧を利用した特殊サイクロンでの分級方法が示されている。特許文献6には、ビーズミルで分級したい粒子を処理した後に電圧を利用した特殊サイクロンで分級する方法が示されている。特許文献7には、電位付与機構を有する装置に粒子を通した後に気流サイクロンで分級する方法が示されている。
【0005】
特許文献8には、電流を印加した槽にスラリーを流すことで、ゼータ電位の異なる粒子を分級する方法が示されている。
【0006】
特許文献9には、粒子の古典的な分級方法として、粒子の比重差と粒子系の差を利用する沈降法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−111450号公報
【特許文献2】特開2005−131624号公報
【特許文献3】特開2005−131626号公報
【特許文献4】特開2005−230634号公報
【特許文献5】特開2005−230635号公報
【特許文献6】特開2011−125801号公報
【特許文献7】特開2003−190836号公報
【特許文献8】特開2005−334865号公報
【特許文献9】特開2001−300344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、電子材料領域において、1〜10μmのプラスチック核体の粒径の変動係数CV(Coefficient of Variation)を3%以下にする要求がある。しかしながら、特許文献1〜9に記載されたような従来の湿式分級では、この要求を満たすことができない。
【0009】
特許文献1〜7に記載されたように、電場を利用した特殊サイクロンを用いて湿式分級を行う手法は、従来型のサイクロンを用いた湿式分級に比べて分級精度が高まるものの、流体の流動の影響により分級性能に限界がある。
【0010】
特許文献8に記載されたように、電流を印加した槽にスラリーを流すことでゼータ電位の異なる粒子を分級する方法は、分級精度の改善が望めるものの、流動する液体中での分離には限界がある。また、特許文献8には、ビーズミルによる前処理の記載があるが、ビーズミルの詳細なやり方や、粒子に対する電位付与のメカニズム等には言及していない。
【0011】
このように流動場での分級は効率が良いものの、分級精度が低いため高精度な分級が求められる超精密分級には対応できない。
【0012】
一方で、静止場での分級として、特許文献9に記載されたような沈降法が挙げられる。しかしながら、このような沈降法は、比重が等しい同一粒子の場合、沈降速度の差が生じにくい。また、アクリル等のように比重が1に近い粒子は、沈降速度があまりに遅い。このため、このような粒子を分級するには、24時間以上かかることがあり、実用的ではない。
【0013】
そこで、本発明は、従来の問題を改善し、比重が同じ粒子であっても高精度に短時間で分級することができる湿式分級装置及び湿式分級方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る湿式分級装置は、スラリー中の粒子を分級する湿式分級装置であって、スラリーが注入される槽と、槽の上部に配置される上部電極と、槽の下部に配置される下部電極と、上部電極及び下部電極に電圧を印加する電圧制御部と、を有する。
【0015】
本発明に係る湿式分級装置によれば、槽にスラリーが注入されると、このスラリー中の粒子は重力により沈降するが、上部電極及び下部電極に電圧を印加して槽内に電場を生じさせると、スラリー中の粒子は、荷電されているゼータ電位の極性に応じて上部電極側又は下部電極側に電気泳動する。このとき、ゼータ電位は粒径に依存するため、粒径に応じて電気泳動の速度が異なる。これにより、上部電極及び下部電極に電圧を印加することで、粒径に応じて粒子を上下に分離することができるため、比重が同じ粒子であっても、高精度に短時間で分級することができる。
【0016】
例えば、アクリル粒子のように、粒子のゼータ電位がマイナスに荷電されており、粒径が小さくなるほどゼータ電位の絶対値が大きくなる粒子を分級する場合は、上部電極にマイナスの電圧を印加し、下部電極にプラスの電圧を印加することで、重力による影響と相まって、粒径の大きい粒子の沈降速度が粒径の小さい粒子の沈降速度よりも格段に高くなる。これにより、高精度かつ短時間で、このような粒子を粒径に応じて上下に分離することができる。
【0017】
例えば、シリカ粒子のように、粒子のゼータ電位がマイナスに荷電されており、粒径が大きくなるほどゼータ電位の絶対値が大きくなる粒子を分級する場合は、上部電極にプラスの電圧を印加し、下部電極にマイナスの電圧を印加することで、重力の影響と相まって、微粒子の浮上速度が粗粒子の浮上速度よりも格段に高くなる。これにより、高精度かつ短時間で、このような粒子を粒径に応じて上下に分離することができる。
【0018】
また、本発明は、槽に挿抜可能に挿入されて槽内を上下方向に仕切り、粒径の大きい粒子と粒径の小さい粒子とを分級する分級用仕切板を更に有するものとすることができる。このような分級用仕切板を備えることで、槽の上下方向に分離された粒径の大きい粒子と粒径の小さい粒子とを簡易に分級することができる。
【0019】
また、本発明は、槽に挿抜可能に挿入されて槽内を上下方向に仕切り、粒子が含まれるスラリー相と粒子が含まれない液相とを分離する仕切板を更に有するものとすることができる。このような仕切板を備えることで、槽内においてスラリー相と液相を分けることができる。このため、仕切板を槽に挿入してスラリー相と液相とを分離させた後、仕切板を槽から抜去してスラリー相側から液相側に粒子を沈降又は浮上させることで、スラリー中の粒子を、より高精度に、粒径に応じて上下に分離することができる。
【0020】
本発明に係る湿式分級方法は、スラリー中の粒子を分級する湿式分級方法であって、上部に上部電極が配置されるとともに下部に下部電極が配置された槽にスラリーを注入する注入工程と、上部電極及び下部電極に電圧を印加し、分級を行う分級工程と、を有する。
【0021】
本発明に係る湿式分級方法によれば、注入工程において、槽にスラリーが注入されると、このスラリー中の粒子は重力により沈降するが、分級工程において、上部電極及び下部電極に電圧を印加して槽内に電場が生じさせると、スラリー中の粒子は、荷電されているゼータ電位の極性と上部電極及び下部電極の極性との関係に応じて、上部電極側又は下部電極側に電気泳動する。このとき、ゼータ電位は粒径に依存するため、粒径に応じて電気泳動の速度が異なる。これにより、上部電極及び下部電極に電圧を印加することで、粒径に応じて粒子を上下に分離することができるため、比重が同じ粒子であっても、高精度に短時間で分級することができる。
【0022】
また、本発明は、注入工程において、槽の上下にスラリー相と粒子を含まない液相とを分離させ、分級工程において、スラリー相と液相とを混合させることができる。このように、注入工程において、槽の上下にスラリー相と液相とを分離させておくことで、分級工程において、スラリー相側から液相側に粒子を沈降又は浮上させることで、スラリー中の粒子を、より高精度に、粒径に応じて上下に分離することができる。
【0023】
また、本発明は、グリセリン等の比重調整剤を用いることで、スラリー相と液相の比重が同じとすることができる。これにより、ボイコット効果などに伴う置換流の影響を抑制することができる。
【0024】
また、本発明は、注入工程の前に、ビーズミルでスラリーを攪拌する攪拌工程を有することができる。このようにスラリーを攪拌すると、スラリー中の粒子の、ゼータ電位の粒径依存性を際立たせることができるため、より高精度に短時間で分級することができる。
【0025】
また、本発明は、攪拌工程において、分級目的の粒子よりも大粒径の核体粒子をビーズミルに添加することができる。核体粒子をビーズミルに添加することで、ゼータ電位の粒径依存性を高めることができ、この核体粒子を分級目的の粒子よりも大粒径とすることで、分級目的の粒子から添加した核体粒子を容易に濾別することができる。この大粒径の核体粒子は、ゼータ電位の絶対値が高い方がよい。これにより、核体粒子に接触する粒子のゼータ電位の粒径分布を際立たせることができる。
【0026】
また、本発明は、ビーズミルに添加する核体粒子を、単分散の粒子とすることができる。この核体粒子を単分散の粒子とすれば、単分散の核体粒子と分級目的の粒子とが接触することで、ゼータ電位の粒径依存性を更に高めることができる。具体的には、この核体粒子の粒径の変動係数CV(粒径のばらつき)は、例えば、10%未満(CV<10%)であることが好ましく、3%未満(CV<3%)であることが更に好ましい。また、この核体粒子の粒径は、例えば、100μm以上、1000μm以下であることが好ましい。この核体粒子の材質としては、例えば、アクリルやスチレン等の有機物や、シリカやチタニア、銅やニッケル等の無機物が挙げられる。なかでも、単分散で粒径制御が容易なシリカが好ましい。
【0027】
また、本発明は、注入工程及び分級工程の一連のサイクルを、複数回繰り返すことができる。このように一連のサイクルを複数回繰り返すことで、分級精度を高めることができる。
【0028】
また、本発明は、分級工程よる分級により、分級目的の粒子よりも大粒径の粒子の粒径の変動係数(粒径のばらつき)を3%以下とすることができる。このように粒径の変動係数を3%以下にすることで、製品の品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、比重が同じ粒子であっても高精度に短時間で分級することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施形態に係る湿式分級装置を概念的に示した平面図である。
【図2】図1に示す湿式分級装置のII−II線における縦断面図である。
【図3】沈降天秤法によりアクリル粒子を沈降させたときの沈降曲線を示した図である。
【図4】アクリル粒子におけるゼータ電位の粒径依存性を示すグラフである。
【図5】湿式分級方法を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態における注入工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図7】第1の実施形態における電場印加工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図8】第1の実施形態における分級工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図9】第2の実施形態に係る湿式分級装置を概念的に示した縦断面図である。
【図10】第2の実施形態における注入工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図11】第2の実施形態における電場印加工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図12】第2の実施形態における分級工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図13】第3の実施形態に係る湿式分級装置を概念的に示した縦断面図である。
【図14】シリコン粒子におけるゼータ電位の粒径依存性を示すグラフである。
【図15】第3の実施形態における注入工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図16】第3の実施形態における電場印加工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図17】第3の実施形態における分級工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。
【図18】実施例1〜4の部分分離効率及び捕集効率を示した図である。
【図19】実施例3〜6の部分分離効率及び捕集効率を示した図である。
【図20】実施例4及び7の部分分離効率及び捕集効率を示した図である。
【図21】実施例4及び8の部分分離効率及び捕集効率を示した図である。
【図22】実施例4における原料及び製品の粒径分布を示した図である。
【図23】実施例8における原料及び製品の粒径分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明に係る湿式分級装置及び湿式分級方法の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態は、ゼータ電位の粒径依存性を利用することにより、スラリー中の粒子を分級するものである。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0032】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る湿式分級装置を概念的に示した平面図である。図2は、図1に示す湿式分級装置のII−II線における縦断面図である。
【0033】
図1及び図2に示すように、第1の実施形態に係る湿式分級装置1は、スラリーが注入される槽2と、槽2の上部に配置される上部電極3と、槽2の下部に配置される下部電極4と、上部電極3及び下部電極4に電圧を印加する電圧制御部5と、槽2内を上下方向に仕切る分級用仕切板6と、槽2を支持する槽支持装置7と、を備えている。なお、図1では、電圧制御部5の図示を省略している。
【0034】
槽2は、シリコンやアクリルなどの樹脂やガラスなどで円筒状に形成されており、上端が開口されているとともに、下端が下部電極4により覆われている。
【0035】
槽2は、上下方向に二分割されており、上部に配置される上部槽8と、下部に配置される下部槽9と、により構成されている。
【0036】
上部槽8の下端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン8aが取り付けられている。下部槽9の上端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン9aが取り付けられている。そして、上部槽8及び下部槽9は、パッキン8aとパッキン9aとが密着するように、槽支持装置7により支持されている。
【0037】
上部電極3は、槽2に注入されたスラリーに電場を印加するために、金属などの導電性を有する素材で構成されている。上部電極3は、上部槽8の内側上部に配置されている。なお、上部電極3を上部槽8の内側上部に配置するためには、例えば、上部槽8の内壁上部に突起(不図示)を設け、上部電極3を槽3の上部開口から槽3内に挿入して、この突起に載置すればよい。
【0038】
上部電極3の中央部には、槽2に注入されるスラリーを槽2内にスムーズに通過させるために、大きな貫通孔3aが形成されている。更に、上部電極3には、槽2に注入されたスラリーを上下方向にスムーズに移動させるために、全体的に小さな貫通孔3bが多数形成されている。なお、貫通孔3a及び貫通孔3bは、例えば、パンチング加工により形成することができる。
【0039】
下部電極4は、槽2に注入されたスラリーに電場を印加するために、導電性高分子や金属などの導電性を有する素材で構成されている。また、下部電極4は、槽2の底を構成するために、槽2よりも大きな外径を有しているとともに、槽2の下端縁に密着されている。そして、下部電極4は、槽2に注入されたスラリーに電場を印加するために、その上面が槽2内に露出している。
【0040】
電圧制御部5は、上部電極3及び下部電極4と電気的に接続されている。そして、電圧制御部5は、上部電極3及び下部電極4に印加する電圧の大きさを変更することが可能になっているとともに、上部電極3及び下部電極4に印加する電圧の極性を変更することが可能となっている。
【0041】
分級用仕切板6は、薄い平板状に形成されている。この分級用仕切板6は、上部槽8のパッキン8aと下部槽9のパッキン9aとの間に挿入されることで、槽2内を上部槽8と下部槽9との間で上下方向に完全に仕切ることが可能となっている。上述したように、パッキン8a及びパッキン9aは弾性を有するため、パッキン8aとパッキン9aとの間の気密を保持した状態で、分級用仕切板6をパッキン8aとパッキン9aとの間に挿入することができるとともに、分級用仕切板6をパッキン8aとパッキン9aとの間から抜去することができる。
【0042】
槽支持装置7は、槽2を支える土台部7aから一対の柱部7bが立設されている。そして、各柱部7bに固定された一対の下部槽用アーム部7cが、下部槽9を土台部7aに押圧するように下部槽9を保持している。また、各柱部7bに固定された一対の上部槽用アーム部7dが、パッキン8aとパッキン9aとが密着するように上部槽8を保持している。
【0043】
ここで、湿式分級装置1を用いた湿式分級方法を説明する前に、アクリル粒子を例として、ゼータ電位の粒径依存性について簡単に説明する。
【0044】
図3は、沈降天秤法によりアクリル粒子を沈降させたときの沈降曲線を示した図である。図4は、アクリル粒子におけるゼータ電位の粒径依存性を示すグラフである。
【0045】
まず、ビーズミルでアクリル粒子を含むスラリーを攪拌した後、沈降天秤法によりアクリル粒子を沈降させることで、図3に示すような沈降曲線を求める。図3に示す沈降曲線は、ビーズミルの周速を6.65m/Sに設定してスラリーを30分間攪拌し、その後、30Vの電圧を印加してアクリル粒子を沈降させたときの、電子天秤の重量と経過時間との関係を示している。
【0046】
次に、沈降天秤法の実験条件及び沈降曲線のデータを、式(1)及び式(2)に代入し、粒径ごとのゼータ電位ζを算出する。式(1)及び式(2)において、v(D)は粒径ごとの沈降速度、ρは粒子の密度、ρはスラリーの密度、gは重力加速度、μはスラリーの粘度、eは定数(2.73)、εはスラリーの誘電率、ΔVは電極間の電圧差、lは電極間距離である。なお、式(2)において、ゼータ電位ζは、2次式で表しているが、1次式で表してもよく、3次以上の高次式で表してもよい。
【0047】
このようにして計算したゼータ電位ζとアクリル粒子の粒径Dとの関係を図4に示す。図4に示すように、アクリル粒子は、ゼータ電位ζがマイナスに荷電されており、粒径が大きくなるほどゼータ電位ζの絶対値が大きくなり、粒径が小さくなるほどゼータ電位ζの絶対値が小さくなっている。このことから、ゼータ電位ζは粒径に依存して変化していることが分かる。
【数1】

【0048】
次に、湿式分級装置1を用いて、アクリル粒子の分級を行う湿式分級方法について説明する。
【0049】
図5は、湿式分級方法を示すフローチャートである。図6は、第1の実施形態における注入工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。図7は、第1の実施形態における電場印加工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。図8は、第1の実施形態における分級工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。なお、図6〜図8では、見易くするために、槽支持装置7の図示を省略している。
【0050】
図5に示すように、湿式分級方法は、まず、攪拌工程を行う(ステップS1)。攪拌工程では、アクリル粒子が含まれたスラリーをビーズミルで攪拌する。なお、ビーズミルで攪拌する処理をビーズミル処理という。すると、アクリル粒子は、粒径の大きい粗粒子と粒径の小さい微粒子とがスラリー中に分散される。
【0051】
このとき、分級目的であるアクリル粒子よりも大粒径の核体粒子をビーズミルに添加することが好ましい。核体粒子をビーズミルに添加することで、ゼータ電位の粒径依存性を高めることができ、この核体粒子を分級目的の粒子よりも大粒径とすることで、分級目的の粒子から添加した核体粒子を容易に濾別することができる。この大粒径の核体粒子は、ゼータ電位の絶対値が高い方がよい。これにより、核体粒子に接触する粒子のゼータ電位の粒径分布を際立たせることができる。
【0052】
また、ビーズミルに添加する核体粒子は、単分散の粒子であることが好ましい。この核体粒子を単分散の粒子とすれば、単分散の核体粒子と分級目的の粒子とが接触することで、ゼータ電位の粒径依存性を更に高めることができる。具体的には、この核体粒子の粒径の変動係数CV(粒径のばらつき)は、例えば、10%未満(CV<10%)であることが好ましく、3%未満(CV<3%)であることが更に好ましい。また、この核体粒子の粒径は、例えば、100μm以上、1000μm以下であることが好ましい。この核体粒子の材質としては、例えば、アクリルやスチレン等の有機物や、シリカやチタニア、銅やニッケル等の無機物が挙げられる。なかでも、単分散で粒径制御が容易なシリカが好ましい。
【0053】
次に、注入工程を行う(ステップS2)。図6に示すように、注入工程では、まず、分級用仕切板6を槽2から抜去する。このとき、分級用仕切板6は、弾性を有するパッキン8aとパッキン9aとの間に挿入されているため、パッキン8aとパッキン9aとの間の気密を保持した状態で、分級用仕切板6をパッキン8aとパッキン9aとの間から抜去することができる。そして、分級用仕切板6を槽2から抜去した後、ビーズミル処理したスラリーを槽2に注入する。このとき、上部電極3がスラリーに浸かるように、スラリーの液位が上部電極3よりも上方になるまでスラリーを槽2に注入する。すると、槽2に注入されたスラリー中のアクリル粒子は、粗粒子と微粒子とが槽2全体に分散された状態となる。
【0054】
次に、電場印加工程を行う(ステップS3)。図7に示すように、電場印加工程では、電圧制御部5により、上部電極3にマイナスの極性の電圧を印加し、下部電極4にプラスの極性の電圧を印加することで、スラリーに上下方向の電場を印加する。このとき、粗粒子は微粒子よりも重力による沈降速度が高くなるが、アクリル粒子の電気泳動は微粒子よりも粗粒子の方が速くなるため(図4参照)、粗粒子の沈降速度が微粒子の沈降速度よりも格段に高くなる。そして、上部槽8に分散されていた微粒子の多くが未だ上部槽8に残留しており、かつ、上部槽8に分散されていた粗粒子の多くが下部槽9に沈降した状態になるまで待つ。この待ち時間は、例えば、予め上部槽8に分散されていた微粒子及び粗粒子が下部槽9に沈降する時間を実験や計算などで求めておくことにより特定することができる。なお、上部電極3よりも上方に存在するアクリル粒子は、上部電極3の貫通孔3a又は貫通孔3bを通過して上部電極3の下方に沈降する。
【0055】
次に、分級工程を行う(ステップS4)。図8に示すように、分級工程では、分級用仕切板6をパッキン8aとパッキン9aとの間に挿入し、分級用仕切板6を境として槽2内のスラリーを上下に仕切る。このとき、パッキン8a及びパッキン9aは弾性を有するため、パッキン8aとパッキン9aとの間の気密を保持した状態で、分級用仕切板6をパッキン8aとパッキン9aとの間に挿入することができる。すると、上部槽8に分散されていた粗粒子の多くは下部槽9に沈降しているのに対し、上部槽8に分散されていた多くの微粒子は未だ下部槽9に沈降することなく上部槽8に残留しているため、分級用仕切板6により仕切られた上部槽8のスラリーと下部槽9のスラリーとを別々に回収することで、スラリー中のアクリル粒子を粗粒子と微粒子とに分級することができる。
【0056】
次に、分級を終了するか再分級するかを判断する(ステップS5)。この判断は、例えば、分級目的の粒子よりも大粒径の粒子の粒径の変動係数CVが3%以下であるか否かに基づいて判断する。そして、この粒径の変動係数CVが3%よりも高い場合など、再分級すると判断した場合は、再分級すると判断すると、分級工程で分級したスラリーを用いて、再度上述したステップS1〜S5を繰り返す。一方、この粒径の変動係数CVが3%以下になった場合など、分級を終了すると判断した場合は、本実施形態におけるアクリル粒子の分級を終了する。
【0057】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。図9は、第2の実施形態に係る湿式分級装置を概念的に示した縦断面図である。
【0058】
図9に示すように、第2の実施形態に係る湿式分級装置21は、槽22と、槽22の上部に配置される上部電極3と、槽22の下部に配置される下部電極4と、上部電極3及び下部電極4に電圧を印加する電圧制御部5と、槽22内を上下方向に仕切る分級用仕切板6と、分級用仕切板6よりも上方において槽22内を上下方向に仕切る上部仕切板23と、槽22を支持する槽支持装置24と、を備えている。
【0059】
槽22は、シリコンやアクリルなどの樹脂やガラスなどで円筒状に形成されており、上端が開口されているとともに、下端が下部電極4により覆われている。
【0060】
槽22は、上下方向に三分割されており、上部に配置される上部槽25と、下部に配置される下部槽26と、上部槽25と下部槽26との間に配置される中間槽27と、により構成されている。
【0061】
上部槽25の下端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン25aが取り付けられている。下部槽26の上端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン26aが取り付けられている。中間槽27の上端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン27aが取り付けられている。中間槽27の下端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン27bが取り付けられている。そして、上部槽25、下部槽26及び中間槽27は、パッキン25aとパッキン27aとが密着するとともに、パッキン27bとパッキン26aとが密着するように、槽支持装置24により支持されている。
【0062】
上部電極3は、上部槽25の内側上部に配置されている。また、下部電極4は、槽22よりも大きな外径を有して、槽22の下端縁に密着されており、その上面が槽22内に露出している。
【0063】
分級用仕切板6は、中間槽27のパッキン27bと下部槽26のパッキン26aとの間に挿入されることで、槽22内を上部槽25及び中間槽27と下部槽26との間で上下方向に完全に仕切ることが可能となっている。上述したように、パッキン27b及びパッキン26aは弾性を有するため、パッキン27bとパッキン26aとの間の気密を保持した状態で、分級用仕切板6をパッキン27bとパッキン26aとの間に挿入することができるとともに、分級用仕切板6をパッキン27bとパッキン26aとの間から抜去することができる。
【0064】
上部仕切板23は、分級用仕切板6と同様に薄い平板状に形成されている。この上部仕切板23は、上部槽25のパッキン25aと中間槽27のパッキン27aとの間に挿入されることで、槽22内を上部槽25と中間槽27及び下部槽26との間で上下方向に完全に仕切ることが可能となっている。上述したように、パッキン25a及びパッキン27aは弾性を有するため、パッキン25aとパッキン27aとの間の気密を保持した状態で、上部仕切板23をパッキン25aとパッキン27aとの間に挿入することができるとともに、上部仕切板23をパッキン25aとパッキン27aとの間から抜去することができる。
【0065】
槽支持装置24は、槽22を支える土台部24aから一対の柱部24bが立設されている。そして、各柱部24bに固定された一対の下部槽用アーム部24cが、下部槽26を土台部24aに押圧するように下部槽26を保持している。また、各柱部24bに固定された一対の中間槽用アーム部24dが、パッキン26aとパッキン27bとが密着するように中間槽27を保持している。また、各柱部24bに固定された一対の上部槽用アーム部24eが、パッキン25aとパッキン27aとが密着するように上部槽25を保持している。
【0066】
次に、湿式分級装置21を用いて、アクリル粒子の分級を行う湿式分級方法について説明する。なお、第2の実施形態においても、図5に示す工程に従ってアクリル粒子の分級を行う。
【0067】
図10は、第2の実施形態における注入工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。図11は、第2の実施形態における電場印加工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。図12は、第2の実施形態における分級工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。なお、図10〜図12では、見易くするために、槽支持装置24の図示を省略している。
【0068】
図5に示すように、湿式分級方法は、まず、攪拌工程を行う(ステップS1)。なお、この攪拌工程は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0069】
次に、注入工程を行う(ステップS2)。図10に示すように、注入工程では、分級用仕切板6及び上部仕切板23を槽22から抜去して、水などのアクリル粒子を含まない液体を下部槽26及び中間槽27に注入した後、上部仕切板23をパッキン25aとパッキン27aとの間に挿入して、ビーズミル処理したスラリーを上部槽25に注入する。このとき、上部電極3がスラリーに浸かるように、スラリーの液位が上部電極3よりも上方になるまでスラリーを上部槽25に注入する。すると、槽22内では、上部仕切板23を境として、アクリル粒子を含むスラリー相α1とアクリル粒子を含まない液相α2とが上下に分離された状態となる。なお、後述する電場印加工程おいて、ボイコット効果などに伴う置換流の影響を抑制する観点からは、スラリー相α1と液相α2の比重は同じであることが好ましい。
【0070】
次に、電場印加工程を行う(ステップS3)。図11に示すように、電場印加工程では、上部仕切板23を槽22から抜去する。これにより、上部仕切板23により分離されていたスラリー相α1と液相α2とが混合可能となる。そして、電圧制御部5により、上部電極3にマイナスの極性の電圧を印加し、下部電極4にプラスの極性の電圧を印加することで、スラリー相α1及び液相α2に上下方向の電場を印加する。すると、第1の実施形態と同様に、粗粒子と微粒子との間の重力による沈降速度差及び粗粒子と微粒子との間の電気泳動の速度差により、粗粒子の沈降速度が微粒子の沈降速度よりも格段に高くなる。このとき、アクリル粒子は、スラリー相α1側からアクリル粒子を含まない液相α2側に沈降して行くため、粗粒子と微粒子との間の沈降速度の差により、粗粒子と微粒子とを上下方向に完全に分離することができる。そして、上部槽25に分散されていた微粒子が未だ上部槽25又は中間槽27に残留しており、かつ、上部槽25に分散されていた粗粒子が下部槽26に沈降した状態になるまで待つ。この待ち時間は、例えば、予め上部槽25に分散されていた微粒子及び粗粒子が下部槽26に沈降する時間を実験や計算などで求めておくことにより特定することができる。なお、上部電極3よりも上方に存在するアクリル粒子は、上部電極3の貫通孔3a又は貫通孔3bを通過して上部電極3の下方に沈降する。
【0071】
次に、分級工程を行う(ステップS4)。図12に示すように、分級工程では、分級用仕切板6をパッキン27bとパッキン26aとの間に挿入し、分級用仕切板6を境として槽22内のスラリーを上下に仕切る。すると、粗粒子は下部槽26に沈降しているのに対し、微粒子は未だ下部槽26に沈降することなく上部槽25又は中間槽27に残留しているため、分級用仕切板6により仕切られた上部槽25及び中間槽27のスラリーと下部槽26のスラリーとを別々に回収することで、スラリー中のアクリル粒子を粗粒子と微粒子とに分級することができる。
【0072】
次に、分級を終了するか再分級するかを判断する(ステップS5)。この判断は、例えば、分級目的の粒子よりも大粒径の粒子の粒径の変動係数CVが3%以下であるか否かに基づいて判断する。そして、この粒径の変動係数CVが3%よりも高い場合など、再分級すると判断した場合は、再分級すると判断すると、分級工程で分級したスラリーを用いて、再度上述したステップS1〜S5を繰り返す。一方、この粒径の変動係数CVが3%以下になった場合など、分級を終了すると判断した場合は、本実施形態におけるアクリル粒子の分級を終了する。
【0073】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。図13は、第3の実施形態に係る湿式分級装置を概念的に示した縦断面図である。
【0074】
図13に示すように、第3の実施形態に係る湿式分級装置31は、槽32と、槽32の上部に配置される上部電極3と、槽32の下部に配置される下部電極4と、上部電極3及び下部電極4に電圧を印加する電圧制御部5と、槽32内を上下方向に仕切る分級用仕切板6と、分級用仕切板6よりも下方において槽32内を上下方向に仕切る下部仕切板33と、槽32を支持する槽支持装置34と、を備えている。
【0075】
槽32は、シリコンやアクリルなどの樹脂やガラスなどで円筒状に形成されており、上端が開口されるとともに、下端が下部電極4により覆われている。
【0076】
槽32は、上下方向に三分割されており、上部に配置される上部槽35と、下部に配置される下部槽36と、上部槽35と下部槽36との間に配置される中間槽37と、により構成されている。
【0077】
上部槽35の下端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン35aが取り付けられている。下部槽36の上端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン36aが取り付けられている。中間槽37の上端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン37aが取り付けられている。中間槽37の下端縁には、弾性を有する所定高さのパッキン37bが取り付けられている。そして、上部槽35、下部槽36及び中間槽37は、パッキン35aとパッキン37aとが密着するとともに、パッキン37bとパッキン36aとが密着するように、槽支持装置34により支持されている。
【0078】
上部電極3は、上部槽35の内側上部に配置されている。また、下部電極4は、槽32よりも大きな外径を有して、槽32の下端縁に密着されており、その上面が槽32内に露出している。
【0079】
分級用仕切板6は、上部槽35のパッキン35aと中間槽37のパッキン37aとの間に挿入されることで、槽32内を上部槽35と中間槽37及び下部槽36との間で上下方向に完全に仕切ることが可能となっている。上述したように、パッキン35a及びパッキン37aは弾性を有するため、パッキン35aとパッキン37aとの間の気密を保持した状態で、分級用仕切板6をパッキン35aとパッキン37aとの間に挿入することができるとともに、分級用仕切板6をパッキン35aとパッキン37aとの間から抜去することができる。
【0080】
下部仕切板33は、分級用仕切板6と同様に薄い平板状に形成されている。この下部仕切板33は、中間槽37のパッキン37bと下部槽36のパッキン36aとの間に挿入されることで、槽32内を上部槽35及び中間槽37と下部槽36との間で上下方向に完全に仕切ることが可能となっている。上述したように、パッキン37b及びパッキン36aは弾性を有するため、パッキン37bとパッキン36aとの間の気密を保持した状態で、下部仕切板33をパッキン37bとパッキン36aとの間に挿入することができるとともに、下部仕切板33をパッキン37bとパッキン36aとの間から抜去することができる。
【0081】
槽支持装置34は、槽32を支える土台部34aから一対の柱部34bが立設されている。そして、各柱部34bに固定された一対の下部槽用アーム部34cが、下部槽36を土台部34aに押圧するように下部槽36を保持している。また、各柱部34bに固定された一対の中間槽用アーム部34dが、パッキン36aとパッキン37bとが密着するように中間槽37を保持している。また、各柱部34bに固定された一対の上部槽用アーム部34eが、パッキン35aとパッキン37aとが密着するように上部槽35を保持している。
【0082】
次に、湿式分級装置31を用いて、シリコン粒子の分級を行う湿式分級方法について説明する。なお、第3の実施形態においても、図5に示す工程に従ってシリコン粒子の分級を行う。
【0083】
図14は、シリコン粒子におけるゼータ電位の粒径依存性を示すグラフである。図14に示すシリコン粒子のゼータ電位は、ビーズミルの周速を6.65m/S、スラリーの攪拌時間を30分、印加電圧を30Vとした条件で、沈降天秤法によりシリコン粒子を沈降させ、この沈降天秤法の実験条件と沈降曲線のデータを式(1)及び式(2)に代入することにより算出したものである。図14に示すように、シリコン粒子は、ゼータ電位ζがマイナスに荷電されており、粒径が小さくなるほどゼータ電位ζの絶対値が大きくなり、粒径が大きくなるほどゼータ電位ζの絶対値が小さくなっている。
【0084】
図15は、第3の実施形態における注入工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。図16は、第3の実施形態における電場印加工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。図17は、第3の実施形態における分級工程の状態を示した湿式分級装置の縦断面図である。なお、図15〜図17では、見易くするために、槽支持装置34の図示を省略している。
【0085】
図5に示すように、湿式分級方法は、まず、攪拌工程を行う(ステップS1)。なお、この攪拌工程は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0086】
次に、注入工程を行う(ステップS2)。図15に示すように、注入工程では、分級用仕切板6及び下部仕切板33を槽32から抜去して、ビーズミル処理したスラリーを下部槽36に注入した後、下部仕切板33をパッキン37bとパッキン36aとの間に挿入して、水などのシリコン粒子を含まない液体を中間槽37及び上部槽35に注入する。このとき、上部電極3が液体に浸かるように、液体の液位が上部電極3よりも上方になるまで液体を中間槽37及び上部槽35に注入する。すると、槽32内では、下部仕切板33を境として、シリコン粒子を含まない液相β1とシリコン粒子を含むスラリー相β2とが上下に分離された状態となる。なお、後述する電場印加工程おいて、ボイコット効果などに伴う置換流の影響を抑制する観点からは、液相β1とスラリー相β2の比重は同じであることが好ましい。
【0087】
次に、電場印加工程を行う(ステップS3)。図16に示すように、電場印加工程では、下部仕切板33を槽32から抜去する。これにより、下部仕切板33により分離されていた液相β1とスラリー相β2とが混合可能となる。そして、電圧制御部5により、上部電極3にプラスの極性の電圧を印加し、下部電極4にマイナスの極性の電圧を印加することで、液相β1及びスラリー相β2に上下方向の電場を印加する。すると、シリコン粒子の電気泳動は粗粒子よりも微粒子の方が速くなるため(図14参照)、粗粒子の浮上速度は微粒子の浮上速度よりも高くなる。しかも、粗粒子は微粒子よりも重力による影響が大きいため、粗粒子と微粒子との間の浮上速度の差が更に広がる。このとき、シリコン粒子は、スラリー相β2側からシリコン粒子を含まない液相β1側に浮上して行くため、粗粒子と微粒子との間の浮上速度の差により、粗粒子と微粒子とを上下方向に完全に分離することができる。そして、下部槽36に分散されていた粗粒子が未だ下部槽36又は中間槽37に残留しており、かつ、下部槽36に分散されていた微粒子が上部槽35に浮上した状態になるまで待つ。なお、この待ち時間は、例えば、予め下部槽36に分散されていた微粒子及び粗粒子が上部槽35に浮上する時間を実験や計算などで求めておくことにより特定することができる。
【0088】
次に、分級工程を行う(ステップS4)。図17に示すように、分級工程では、分級用仕切板6をパッキン35aとパッキン37aとの間に挿入し、分級用仕切板6を境として槽32内のスラリーを上下に仕切る。すると、微粒子は上部槽35に浮上しているのに対し、粗粒子は未だ上部槽35に浮上することなく中間槽37又は下部槽36に残留しているため、分級用仕切板6により仕切られた上部槽35のスラリーと中間槽37及び下部槽36のスラリーとを別々に回収することで、スラリー中のシリコン粒子を粗粒子と微粒子とに分級することができる。
【0089】
次に、分級を終了するか再分級するかを判断する(ステップS5)。この判断は、例えば、分級目的の粒子よりも大粒径の粒子の粒径の変動係数CVが3%以下であるか否かに基づいて判断する。そして、この粒径の変動係数CVが3%よりも高い場合など、再分級すると判断した場合は、再分級すると判断すると、分級工程で分級したスラリーを用いて、再度上述したステップS1〜S5を繰り返す。一方、この粒径の変動係数CVが3%以下になった場合など、分級を終了すると判断した場合は、本実施形態におけるシリコン粒子の分級を終了する。
【0090】
以上説明したように、第1〜第3の実施形態によれば、槽2,22,32にスラリーが注入されると、このスラリー中の粒子は重力により沈降するが、上部電極3及び下部電極4に電圧を印加して槽2,22,32内に電場を生じさせると、スラリー中の粒子は、荷電されているゼータ電位の極性に応じて上部電極3側又は下部電極4側に電気泳動する。このとき、ゼータ電位は粒径に依存するため、粒径に応じて電気泳動の速度が異なる。これにより、上部電極3及び下部電極4に電圧を印加することで、粒径に応じて粒子を上下に分離することができるため、比重が同じ粒子であっても、高精度に短時間で分級することができる。
【0091】
第1及び第2の実施形態で示したアクリル粒子のように、粒子のゼータ電位がマイナスに荷電されて、粒径が小さくなるほどゼータ電位の絶対値が大きくなる粒子を分級する場合は、上部電極にマイナスの電圧を印加し、下部電極にプラスの電圧を印加することで、重力による影響と相まって、粗粒子の沈降速度が微粒子の沈降速度よりも格段に高くなる。これにより、高精度かつ短時間で、このような粒子を粒径に応じて上下に分離することができる。
【0092】
第3の実施形態で示したシリカ粒子のように、粒子のゼータ電位がマイナスに荷電されて、粒径が小さくなるほどゼータ電位の絶対値が大きくなる粒子を分級する場合は、上部電極にプラスの電圧を印加し、下部電極にマイナスの電圧を印加することで、重力の影響と相まって、微粒子の浮上速度が粗粒子の浮上速度よりも格段に高くなる。これにより、高精度かつ短時間で、このような粒子を粒径に応じて上下に分離することができる。
【0093】
また、分級用仕切板6を槽2,22,32に挿入することで、槽2,22,32の上下方向に分離された粗粒子と微粒子とを簡易に分級することができる。
【0094】
また、上部仕切板23又は下部仕切板33を槽22,32に挿入してスラリー相と液相とを分離させた後、上部仕切板23又は下部仕切板33を槽22,32から抜去してスラリー相側から液相側に粒子を沈降又は浮上させることで、スラリー中の粒子を、より高精度に、粒径に応じて上下に分離することができる。
【0095】
また、スラリー相と液相の比重を同じとすることで、電場印加工程において、ボイコット効果などに伴う置換流の影響を抑制することができる。
【0096】
また、注入工程の前に、スラリーをビーズミル処理する攪拌工程を行うことで、粒子にゼータ電位を荷電させることができる。これにより、ゼータ電位の粒径依存性を際立たせることができるため、より高精度に短時間で分級することができる。
【0097】
また、攪拌工程において、分級目的の粒子よりも大粒径の核体粒子をビーズミルに添加することで、ゼータ電位の粒径依存性を更に際立たせることができる。
【0098】
また、一連の分級サイクルを複数回繰り返すことで、分級精度を高めることができる。更に、分級目的の粒子よりも大粒径の粒子の粒径の変動係数CVを3%以下にすることで、製品の品質を向上させることができる。
【0099】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0100】
例えば、上記実施形態では、分級目的の粒子として、アクリル粒子及びシリコン粒子を用いて説明したが、その他の様々な種類の粒子を用いてもよい。また、上記実施形態では、ゼータ電位がマイナスに荷電されている粒子を用いて説明したが、ゼータ電位がプラスに荷電されている粒子を用いてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、下部電極が槽の底を構成するものとして説明したが、槽を有底のものとし、下部電極を、上部電極と同様に槽内に配置されるものとしてもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、攪拌工程において、ビーズミルを用いてスラリーを攪拌するものとして説明したが、スラリーを攪拌して粒子を荷電させることができれば、如何なる手段や装置を用いてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、分級工程において、分級用仕切板6を用いるものとして説明したが、分級は如何なる具体的な手段を用いてもよく、例えば、槽の上部又は下部を単に吸引するだけでもよい。
【0104】
また、上記実施形態において、分級の一連のサイクルを繰り返す際、ステップS1の攪拌工程に戻るものとして説明したが、例えば、この攪拌工程をスキップしてステップS2の注入工程に戻るものとしてもよい。
【実施例】
【0105】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0106】
実施例では、ビーズミル処理したスラリーを0.65wt%に調整し、第1の実施形態に係る湿式分級装置1を用いて、上部電極3にマイナスの電圧を印加し、下部電極4にプラスの電圧を印加した。その後、分級用仕切板6を槽2に挿入して、粗粒子側と微粒子側とに分級し、粗粒子を製品とした。分級の評価として、部分分離効率Δη(Partial separation efficiency)と捕集効率Eを用いた。部分分離効率Δη及び捕集効率Eは、式(3)及び式(4)により求めることができる。
【数2】

【0107】
式(3)及び式(4)において、mは粗粒子の質量[g]、mは製品の質量[g]、fは微粒子の粒度分布、fは原料の粒度分布を示す。
【0108】
以下の条件により実施例1〜4の実験を行った。実施例1〜4の部分分離効率Δη及び捕集効率Eを図18に示す。
(実施例1)
ビーズミルの周速:4.75m/s
ビーズミルの攪拌時間:20分間
印加電圧:30V
待ち時間:5000秒
(実施例2)
ビーズミルの周速:4.75m/s
ビーズミルの攪拌時間:20分間
印加電圧:30V
待ち時間:9000秒
(実施例3)
ビーズミルの周速:6.65m/s
ビーズミルの攪拌時間:30分間
印加電圧:30V
待ち時間:5000秒
(実施例4)
ビーズミルの周速:6.65m/s
ビーズミルの攪拌時間:30分間
印加電圧:30V
待ち時間:9000秒
【0109】
図18に示すように、ビーズミルの周速を6.65m/sにして実験を行った方が、部分分離効率曲線がシャープになり、分級精度が向上していることが分かる。これは、ビーズミルの周速を大きくすることで、ゼータ電位の粒径依存性の勾配が大きくなり、粒径の大きい粒子が沈降しやすくなったためであると考えられる。
【0110】
次に、待ち時間の違いによる分離径の変化を更に調べるために、以下の条件により実施例5及び6の実験を行った。実施例3〜6の部分分離効率Δη及び捕集効率Eを図19に示す。
(実施例5)
ビーズミルの周速:6.65m/s
ビーズミルの攪拌時間:30分間
印加電圧:30V
待ち時間:3000秒
(実施例6)
ビーズミルの周速:6.65m/s
ビーズミルの攪拌時間:30分間
印加電圧:30V
待ち時間:12000秒
【0111】
図19に示すように、待ち時間が長くなるにつれて分離径が小径側(図19において左側)にシフトしていることが分かる。
【0112】
待ち時間を長くすれば、捕集効率は高くなるが、粗粒子の製品に含まれる微粒子の割合が多くなってしまう。逆に、待ち時間を短くすれば、粗粒子の製品に含まれる微粒子の割合を少なくすることができるが、捕集効率が低くなってしまう。待ち時間の条件を9000秒とした実施例4では、捕集効率が高く、ある程度製品に含まれる微粒子の割合を少なくすることができているため、実施例4で回収した製品を、再度槽に注入して分級する方法について検討した。
【0113】
(実施例7)
実施例7では、まず、実施例4と同様の条件で分級を行い、粗粒子側のスラリーを回収した。その後、回収したスラリーを400mlに薄めて超音波により粒子を分散させ、再度、30Vの電圧を印加して分級を行い、9000秒間待った。実施例4及び7の部分分離効率Δη及び捕集効率Eを図20に示す。
【0114】
図20に示すように、二回分級を行うことで、製品に含まれる微粒子の割合を減らすことができたが、製品に含まれる微粒子の割合を劇的に減らすことができなかった。これは、二回目の分級を行うまでにかなりの時間が経過しており、粒子のゼータ電位の絶対値が減少したためであると考えられる。
【0115】
(実施例8)
実施例8では、実施例7において二回目の分級を行う際に、再度、スラリーをビーズミル処理し、その他の条件は実施例7と同様とした。実施例4及び8の部分分離効率Δη及び捕集効率Eを図21に示す。また、実施例4における原料及び製品の粒径分布を図22に示し、実施例8における原料及び製品の粒径分布を図23に示す。
【0116】
図21〜図23に示すように、二回目の分級を行う前にビーズミル処理をし直すことで、製品に含まれる微粒子の割合を大幅に減らせることができた。
【符号の説明】
【0117】
1…湿式分級装置、2…槽、3…上部電極、3a…貫通孔、3b…貫通孔、4…下部電極、5…電圧制御部、6…分級用仕切板、7…槽支持装置、7a…土台部、7b…柱部、7c…下部槽用アーム部、7d…上部槽用アーム部、8…上部槽、8a…パッキン、9…下部槽、9a…パッキン、21…湿式分級装置、22…槽、23…上部仕切板、24…槽支持装置、24a…土台部、24b…柱部、24c…下部槽用アーム部、24d…中間槽用アーム部、24e…上部槽用アーム部、25…上部槽、25a…パッキン、26…下部槽、26a…パッキン、27…中間槽、27a…パッキン、27b…パッキン、31…湿式分級装置、32…槽、33…下部仕切板、34…槽支持装置、34a…土台部、34b…柱部、34c…下部槽用アーム部、34d…中間槽用アーム部、34e…上部槽用アーム部、35…上部槽、35a…パッキン、36…下部槽、36a…パッキン、37…中間槽、37a…パッキン、37b…パッキン、α1…スラリー相、α2…液相、β1…液相、β2…スラリー相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー中の粒子を分級する湿式分級装置であって、
スラリーが注入される槽と、
前記槽の上部に配置される上部電極と、
前記槽の下部に配置される下部電極と、
前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加する電圧制御部と、
を有する、湿式分級装置。
【請求項2】
前記槽に挿抜可能に挿入されて前記槽内を上下方向に仕切り、粒径の大きい粒子と粒径の小さい粒子とを分級する分級用仕切板を更に有する、
請求項1に記載の湿式分級装置。
【請求項3】
前記槽に挿抜可能に挿入されて前記槽内を上下方向に仕切り、粒子が含まれるスラリー相と粒子が含まれない液相とを分離する仕切板を更に有する、
請求項1又は2に記載の湿式分級装置。
【請求項4】
スラリー中の粒子を分級する湿式分級方法であって、
上部に上部電極が配置されるとともに下部に下部電極が配置された槽にスラリーを注入する注入工程と、
前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、分級を行う分級工程と、
を有する、湿式分級方法。
【請求項5】
前記注入工程では、前記槽の上下にスラリー相と粒子を含まない液相とを分離させ、
前記分級工程では、前記スラリー相と前記液相とを混合させる、
請求項4に記載の湿式分級方法。
【請求項6】
前記スラリー相と前記液相の比重が同じである、
請求項5に記載の湿式分級方法。
【請求項7】
前記注入工程の前に、ビーズミルで前記スラリーを攪拌する攪拌工程を有する、
請求項4〜6の何れか一項に記載の湿式分級方法。
【請求項8】
前記攪拌工程では、分級目的の粒子よりも大粒径の核体粒子をビーズミルに添加する、
請求項7に記載の湿式分級方法。
【請求項9】
前記核体粒子は、単分散の粒子である、請求項8に記載の湿式分級方法。
【請求項10】
前記注入工程及び前記分級工程の一連のサイクルを、複数回繰り返す、
請求項4〜9の何れか一項に記載の湿式分級方法。
【請求項11】
前記分級工程よる分級により、分級目的の粒子よりも大粒径の粒子の粒径の変動係数を3%以下とする、
請求項4〜10の何れか一項に記載の湿式分級方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−75275(P2013−75275A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217834(P2011−217834)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】