説明

溶存窒素濃度のモニタリング方法

【課題】煩雑な作業を要することなく洗浄液中の溶存窒素濃度をリアルタイムで精度良くモニタリングすることができ、加えてコストを低減することができる溶存窒素濃度のモニタリング方法を提供する。
【解決手段】超音波照射時の溶存酸素濃度DO2を溶存酸素濃度計43で測定し、測定された溶存酸素濃度DO2から初期溶存酸素濃度Dを差し引いて溶存酸素濃度の増加量ΔDO2を算出する。次いで、所定のオーバーフロー量或いは超音波の所定出力に適合する近似式を記憶部46から読み出し、記憶部46から読み出された近似式を用いて、溶存酸素濃度の増加量ΔDO2から混合超純水の溶存窒素濃度DN2を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ洗浄工程における溶存窒素濃度のモニタリング方法に関し、特に、ウエハ等の基板が浸漬される洗浄液中の溶存窒素濃度をモニタリングする溶存窒素濃度のモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ウエハ等の基板の製造プロセスにおいて、半導体デバイスの欠陥の原因となる有機物、金属不純物、パーティクル(微粒子)及び自然酸化膜等の除去を目的として、浸漬式や枚葉式などの基板の洗浄プロセスが行われている。
【0003】
基板の洗浄プロセスでは、その目的に応じて様々な種類の洗浄方法が使用されている。特に、浸漬式にてパーティクル等の異物を除去する場合には、洗浄槽内に収容された洗浄液中に基板を浸漬し、基板を浸漬した洗浄液にメガソニックと呼ばれる1MHz付近の超音波を照射する方法が用いられている。一般に、1MHz付近の超音波を使用すると、基板へのダメージを減少しつつ、基板上のサブミクロンサイズの微小パーティクルに対する洗浄効果を増大することができると認識されている。
【0004】
ここで、超純水にメガソニックを照射して基板からパーティクルを除去する場合、パーティクル除去率は洗浄液中の溶存窒素濃度に影響を受けることが分かっている。具体的には、洗浄液中の溶存窒素濃度が所定範囲内であると、基板のパーティクル除去率が高くなる。したがって、洗浄プロセスにおいて洗浄液中の溶存窒素濃度をモニタリングし、洗浄液中の溶存窒素濃度を一定の範囲内となるように制御すれば、理論的にはパーティクルを効果的に除去することが可能となる。
【0005】
従来、流動媒体に含まれるガス成分を高分子膜を介して受容器に導入し、この受容器内の熱伝導度の変化に基づいて当該ガス成分の濃度を計算する方法が知られている(特許文献1)。そこで、この測定方法を用いて洗浄液中の溶存窒素濃度をモニタリングする方法が実行されている。
【0006】
一方、窒素ガスを含む試料水に超音波を照射すると水分子由来の水素ラジカルが発生し、水素ラジカルが窒素ガスと反応して窒素化合物(NO、NH)が生成する。この現象を利用して、超音波照射によって試料水をラジカル処理した後、比抵抗計によって窒素原子由来のイオン量を測定し、該イオン量に基づいて試料中の溶存窒素濃度を算出する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−176640号公報
【特許文献2】特開2000−131308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法の場合、窒素の熱伝導度と近い値を示すガス、例えば酸素がガス成分に含まれている場合には、酸素の熱伝導度の影響により、窒素の熱伝導度を正確に測定することができない。このため、洗浄液中の溶存窒素濃度を正確に計算することができないという問題がある。
【0009】
この問題を解消するべく、ポーラログラフ式等の方法を用いてガス成分中の溶存酸素濃度を測定し、この溶存酸素濃度を用いて溶存窒素濃度を補正することにより、溶存窒素濃度を求める方法が提案されている。しかしながら、この方法では、溶存窒素濃度の測定に加えて、溶存酸素濃度を別個に測定しなければならず、その作業が煩雑であるという問題がある。また、従来から使用されている溶存窒素濃度計は非常に高価であり、コストの増大をまねくという問題がある。また、本方法の場合、ガス成分の熱伝導度を測定するために数十秒/回の時間を要することから、溶存窒素濃度をリアルタイムでモニタリングすることができず、精度の良いモニタリングを実現することができない。
【0010】
また、特許文献2の方法の場合には、試料水中にイオン化される他の成分が存在している場合には、窒素原子由来のイオン量を正確に測定することができず、試料水中の溶存窒素濃度を正確に算出することができない。また、本方法の場合では、超音波照射による窒素化合量の変化に着目しているにすぎず、溶存酸素濃度の変化には着目していない。
【0011】
本発明の目的は、煩雑な作業を要することなく洗浄液中の溶存窒素濃度をリアルタイムで精度良くモニタリングすることができ、加えてコストを低減することができる溶存窒素濃度のモニタリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するために、本発明に係る溶存窒素濃度のモニタリング方法は、基板を浸漬する洗浄液に超音波を照射する際に、当該洗浄液の溶存窒素濃度をモニタリングする溶存窒素濃度のモニタリング方法であって、超音波照射により起こるラジカル反応によって水分子から生成する酸素分子により前記洗浄液中で増加する溶存酸素濃度の増加量を測定し、予め決定された溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係に基づいて、当該測定された溶存酸素濃度の増加量から前記洗浄液中の溶存窒素濃度を求めることを特徴とする。
【0013】
また、前記洗浄液中の溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係を示す溶存ガス情報に基づいて、溶存酸素濃度計によって測定された溶存酸素濃度の増加量から前記洗浄液の溶存窒素濃度が算出される。
【0014】
また、前記溶存ガス情報は、前記基板の洗浄条件毎に予め作成される。
【0015】
さらに、前記基板の洗浄条件には超音波の出力が含まれる。
【0016】
前記溶存ガス情報において、前記超音波の出力が大きい程、所定溶存窒素濃度に対応する溶存酸素濃度の増加量が大きい。
【0017】
また、前記基板の洗浄条件に洗浄液のオーバーフロー量が含まれる。
【0018】
前記溶存ガス情報において、前記オーバーフロー量が小さい程、溶存窒素濃度変化に対する溶存酸素濃度の増加量変化の比率が大きい。
【0019】
さらに、前記洗浄液は水であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、超音波照射により起こるラジカル反応によって水分子から生成する酸素分子により増加する溶存酸素濃度の増加量を測定し、予め決定された溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係に基づいて、当該測定された溶存酸素濃度の増加量から洗浄液中の溶存窒素濃度を算出する。すなわち、洗浄液中の溶存酸素濃度を測定すれば溶存窒素濃度を算出することができるため、煩雑な作業を要せず、また、溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係を予め決定しておくので、この関係を用いて溶存窒素濃度を精度良く算出することができる。さらに、高価な溶存窒素濃度計を使用する必要がないためコストを低減することができ、加えてポーラログラフ式等の溶存酸素濃度計を用いて溶存酸素濃度が測定されるのでリアルタイムで測定することができる。したがって、煩雑な作業を要することなく洗浄液中の溶存窒素濃度をリアルタイムで精度良くモニタリングすることができ、加えてコストを低減することができる。
【0021】
また、洗浄液中の溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係を示す溶存ガス情報に基づいて、溶存酸素濃度計によって測定された溶存酸素濃度の増加量から洗浄液中の溶存窒素濃度を算出するので、安価な溶存酸素濃度計を用いて溶存窒素濃度を求めることができ、コストを更に低減することができる。
【0022】
また、溶存ガス情報が基板の洗浄条件毎ごとに予め作成されているので、洗浄条件が変更された場合であっても洗浄液中の溶存窒素濃度を精度良く求めることができる。
【0023】
さらに、上記基板の洗浄条件には超音波の出力が含まれるので、洗浄液に照射される超音波の出力が変更された場合であっても、各出力に応じた溶存ガス情報により、溶存窒素濃度を精度良く求めることができる。
【0024】
また、上記溶存ガス情報において、超音波の出力が大きい程、所定溶存窒素濃度に対応する溶存酸素濃度の増加量が大きいので、超音波出力を大きくすれば、より高濃度の溶存酸素濃度を算出することができ、且つより精度良く測定することができる。
【0025】
さらに、上記基板の洗浄条件に洗浄液のオーバーフロー量が含まれるので、洗浄液のオーバーフロー量が変更された場合であっても、各オーバーフロー量に応じた溶存ガス情報により、溶存窒素濃度を精度良く求めることができる。
【0026】
さらに、上記溶存ガス情報において、オーバーフロー量が小さい程、溶存窒素濃度変化に対する溶存酸素濃度の増加量変化の比率が大きいので、オーバーフロー量を小さくすれば溶存窒素濃度をより精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るモニタリング方法が適用される超音波洗浄装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】本実施形態に係るモニタリング方法を実行するモニタリング手段の構成を示すブロック図である。
【図3】超純水に超音波を照射した場合における超純水中の溶存酸素濃度の変化を示す図であり、溶存窒素濃度DN2が0.2ppmである場合を示す。
【図4】超純水に超音波を照射した場合における超純水中の溶存酸素濃度の変化を示す図であり、溶存窒素濃度DN2が13.5ppmである場合を示す。
【図5】超純水中の溶存窒素濃度DN2と溶存酸素濃度の増加量ΔDO2との関係を超音波の出力毎に示す図であり、(a)はプロット図を、(b)は近似式を示す。
【図6】超純水中の溶存窒素濃度DN2と溶存酸素濃度の増加量ΔDO2との関係を超純水のオーバーフロー量毎に示す図であり、(a)はプロット図を、(b)は近似式を示す。
【図7】本発明の実施形態に係るモニタリング方法で実行される溶存窒素濃度算出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係るモニタリング方法が適用される超音波洗浄装置の構成を概略的に示す図であり、図2は、本実施形態に係るモニタリング方法を実行するモニタリング手段の構成を示すブロック図である。
【0030】
図1に示すように、超音波洗浄装置1は、超純水等の洗浄液を洗浄槽20に供給する供給手段10と、洗浄槽20を収容する間接水槽21と、間接水槽21の底部に配置され洗浄槽20内に超音波を照射する照射手段30と、洗浄槽20内に供給された洗浄液中の溶存窒素濃度をモニタリングするモニタリング手段40とを備える。
【0031】
供給手段10は、窒素ガスを溶存させた超純水を後述する混合槽に供給するための第1供給弁11と、脱気された超純水を後述する混合槽に供給するための第2供給弁12とを有している。窒素ガスを溶存させた超純水及び脱気された超純水は、第1供給弁11及び第2供給弁12の下流側で混合され、洗浄槽20内に配設された配管を通って後述する液導入管に供給される。第1供給弁11と第2供給弁12の開度を調節することにより、洗浄20槽内に導入される超純水の溶存窒素濃度と供給流量がコントロールされる。
【0032】
洗浄槽20は、その内部にウエハW、例えば半導体ウエハを保持する保持部22を有しており、保持部22に基板Wを保持した状態で混合超純水を貯留する。これにより、基板Wが洗浄槽20内の混合洗浄液に浸漬される。洗浄槽20の下部には液導入管23が配設されており、所定のオーバーフロー量にて混合超純水が液導入管23から洗浄槽に供給される。間接水槽21には、供給手段10とは異なる不図示の供給ラインに接続されており、所定のオーバーフロー量にて水が供給されている。
【0033】
照射手段30は、周波数20kHz〜2MHz、ワット密度0.05〜7.0W/cmの超音波を発振して、間接水槽21に貯留された水を介して洗浄槽20内の混合超純水に超音波を照射する。これにより、混合超純水に浸漬されたウエハWが洗浄される。好ましくは、周波数400kHz〜1MHzの超音波が使用される。
【0034】
モニタリング手段40は、混合超純水の所定量を抽出する抽出管41と、抽出管41に接続され所定量の混合超純水を後述する溶存酸素濃度計に導入するポンプ42と、ポンプ42の下流側に接続され、混合超純水の溶存酸素濃度を測定して該溶存酸素濃度に応じた電気信号を後述する決定手段に送信する溶存酸素濃度計43と、溶存酸素濃度計43から送信される電気信号に基づいて洗浄槽20内の溶存窒素濃度を求める決定手段44とを有する。溶存酸素濃度計43は、例えばポーラログラフ式の溶存酸素濃度計である。ポーラログラフ式とは、電解質溶液中に2種類の金属を浸漬し、両金属間に一定の電圧を照射して酸化還元反応を行わせ、電解質溶液中の溶存酸素濃度に比例した電流を測定するものである。
【0035】
決定手段44は、図2に示すように、溶存酸素濃度計43からの電気信号を受信する受信部45と、予め決定された溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係を示す溶存ガス情報を記憶する記憶部46と、受信部45から受信した電気信号に基づいて超音波照射時における溶存酸素濃度の増加量を算出すると共に、洗浄液中の溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係を示す溶存ガス情報に基づいて、溶存酸素濃度計によって測定された溶存酸素濃度の増加量から洗浄液の溶存窒素濃度を算出する制御部47と、制御部47で算出された溶存窒素濃度を表示する表示部48とを備える。
【0036】
制御部47は、モニタリング手段40の各機能部を総括的に制御すると共に、記憶部46に記憶されたプログラムを読み出して後述する溶存窒素濃度測定処理(図7)を実行する。
【0037】
ここで、超音波を用いた洗浄方法によるパーティクル除去率は、超純水中の溶存窒素濃度に影響を受ける。具体的には、洗浄液中の溶存窒素濃度が所定範囲内にあると、ウエハのパーティクル除去率が増大することが分かっている。この法則を利用して、本発明者は、低コスト且つ簡便に測定することができる溶存酸素濃度に着目し、超音波照射時における超純水中の溶存酸素濃度に基づいて溶存窒素濃度を算出することより、洗浄液中の溶存窒素濃度をモニタリングする方法を見出した。以下、本モニタリング方法の詳細を説明する。
【0038】
先ず、図3及び図4を用いて本モニタリング方法の原理を以下に説明する。図3は、超純水に超音波を照射した場合における超純水中の溶存酸素濃度の変化を示す図である。図3では一例として、溶存窒素濃度DN2が0.2ppmである超純水を用いて溶存酸素濃度の変化を説明する。尚、図3及び図4において、洗浄槽20は、板厚3.0mmの石英ガラス製で、内寸:幅270mm×奥行69mm×高さ270mmの角型水槽であり、その容量は5Lである。洗浄槽20に供給される超純水量は5L/minである。使用した超音波の周波数は950kHzであり、出力は1200W(ワット密度5.6W/cm)である。また、振動板輻射面積は80mm×270mmであり、超音波は洗浄槽20の底面全面に照射されている。
【0039】
図3に示すように、初期溶存酸素濃度Dが約0.25ppmである超純水に超音波を照射すると、溶存酸素濃度は約0.8ppmまで上昇する。このとき、測定手段40により測定された溶存酸素濃度DO2から超音波照射前の初期溶存酸素濃度Dを差し引いた値、すなわち溶存酸素濃度の増加量ΔDO2(=DO2−D)は0.55ppmである。その後、超音波照射を停止すると、超純水の溶存酸素濃度は初期溶存酸素濃度まで低下する。この現象から、超純水中の溶存酸素濃度は超音波照射によって増大することが分かる。
【0040】
図4は、超純水に超音波を照射した場合における超純水中の溶存酸素濃度の変化を示す図であり、溶存窒素濃度DN2が13.5ppmである場合を示す。
【0041】
図4に示すように、超純水中の溶存窒素濃度DN2が13.5ppmである場合には、超純水に超音波を照射しても、溶存窒素の存在が、水分子から酸素分子を生成する反応を阻害しているため、溶存酸素濃度は変化せず、超音波を照射していない状態での初期溶存酸素濃度と同じである。このとき、溶存酸素濃度の増加量ΔDO2は0ppmである。
【0042】
図3及び図4の結果から、超音波照射時において、超純水中の溶存窒素濃度が低いほど、超純水中における酸素発生量が増大し、溶存酸素濃度が高くなっていることが分かる。これは、超音波照射によって超純水中でラジカル反応が進行して水分子が水素ラジカル及びヒドロキシラジカルに分解され、このヒドロキシラジカルから酸素が発生しているためと考えられる。
【0043】
したがって、超音波照射時における超純水中の溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係式を予め決定しておき、この関係式を用いて、溶存酸素濃度計43によって測定された溶存酸素濃度の増加量ΔDO2に対応する溶存窒素濃度DN2を算出することにより、超純水中の溶存窒素濃度をモニタリングすることが可能となる。例えば、溶存酸素濃度の増加量ΔDO2の変化をモニタリングすれば、上記関係式を用いて、溶存窒素濃度DN2の増減をモニタリングすることができる。また、任意の1点の溶存窒素濃度DN2に対応する溶存酸素濃度の増加量ΔDO2を求めておき、洗浄液中の溶存酸素濃度の増加量ΔDO2をモニタリングすれば、洗浄液中の溶存窒素濃度が上記任意の1点の溶存窒素濃度DN2より高い、低い、あるいは同じであることを判別することができる。
【0044】
また、本発明者は、超純水中の溶存窒素濃度DN2と溶存酸素濃度の増加量ΔDO2との関係に影響を与える因子について調査した結果、次のような知見を得た。すなわち、(1)超純水に照射される超音波の出力、及び(2)洗浄槽20に供給される超純水のオーバーフロー量が、超純水中の溶存窒素濃度DN2と溶存酸素濃度の増加量ΔDO2との関係に影響を与えることが分かった。そこで、超音波の出力を変えた場合におけるDN2とΔDO2の関係と、超純水のオーバーフロー量を変えた場合におけるDN2とΔDO2の関係とを、以下に説明する。
【0045】
図5は、超純水中の溶存窒素濃度DN2と溶存酸素濃度の増加量ΔDO2との関係を超音波の出力毎に示す図であり、(a)は測定値のプロットを、(b)は近似式を示す。
【0046】
超音波の出力として900W(ワット密度4.2W/cm)、1000W(ワット密度4.6W/cm)、1100W(ワット密度5.1W/cm)及び1200W(ワット密度5.6W/cm)を選択し、各出力におけるDN2とΔDO2の関係を示す値をプロットすると図5(a)のような結果を得る。また、このプロットについて近似式(検量線)を求めると、次のような傾き及びy切片を持つ式が得られる(図5(b))。尚、図5(a)のプロットを行った際、洗浄槽20は板厚3.0mmの石英ガラス製で、内寸:幅270mm×奥行69mm×高さ270mmの角型水槽であり、その容量は5Lである。洗浄槽20に供給される超純水量は5L/minである。使用した超音波の周波数は950kHzであり、振動板輻射面積は80mm×270mmであり、超音波は洗浄槽20の底面全面に照射されている。
【0047】
・出力1200Wの場合…y=−0.0639x+0.5667
・出力1100Wの場合…y=−0.0631x+0.4268
・出力1000Wの場合…y=−0.0606x+0.2789
・出力900Wの場合…y=−0.0607x+0.1763
(yは溶存酸素濃度の増加量ΔDO2、xは溶存窒素濃度DN2
【0048】
この結果から、溶存窒素濃度DN2と溶存酸素濃度の増加量ΔDO2には比例関係があることが分かる。また、各近似式の傾きの値がほぼ等しく、また、超音波の出力が大きい程、各近似式のy切片が大きくなることが分かる。すなわち、超音波の出力が大きい程、所定溶存窒素濃度に対応する溶存酸素濃度の増加量が大きいことが分かる。よって、超音波出力を大きくすれば、より高濃度の溶存窒素濃度を算出することができ、且つより精度良く測定することが可能となる。
【0049】
図6は、超純水中の溶存窒素濃度DN2と溶存酸素濃度の変化量ΔDO2との関係を超純水のオーバーフロー量毎に示す図であり、(a)は測定値のプロットを、(b)は近似式を示す。
【0050】
超純水のオーバーフロー量として5L/min、2.5L/min及び1L/minを選択し、各オーバーフロー量におけるDN2とΔDO2の関係を示す値をプロットすると図6(a)のような結果を得る。また、このプロットについて近似式を求めると、次のような傾き及びy切片を持つ式が得られる(図6(b))。尚、図6(a)のプロットを行った際、洗浄槽20は板厚3.0mmの石英ガラス製で、内寸:幅270mm×奥行69mm×高さ270mmの角型水槽であり、その容量は5Lである。使用した超音波の周波数は950kHzで、出力は1200W(ワット密度5.6W/cm)である。振動板輻射面積は80mm×270mmであり、超音波は洗浄槽20の底面全面に照射されている。
【0051】
・オーバーフロー量1L/minの場合…y=−0.2222x+1.956
・オーバーフロー量2.5L/minの場合…y=−0.0971x+0.868
・オーバーフロー量5L/minの場合…y=−0.069x+0.5667
(yは溶存酸素濃度の増加量ΔDO2、xは溶存窒素濃度DN2
【0052】
これらの近似式によれば、超純水のオーバーフロー量が少ない程、近似式の傾きの値が大きくなり、y切片が大きくなることが分かる。すなわち、超純水のオーバーフロー量が少ない程、溶存窒素濃度変化に対する溶存酸素濃度の増加量変化の比率が大きいことが分かる。よって、オーバーフロー量を小さくすれば溶存窒素濃度をより精度良く測定することが可能となる。
【0053】
したがって、超音波の出力やオーバーフロー量などの洗浄条件毎に、図3及び図4に示すような溶存ガス情報を予め作成して、記憶部46に記憶させておくことが好ましい。ウエハの洗浄工程において実際に使用される超音波の出力或いはオーバーフロー量に適合する近似式を、記憶部46に記憶された溶存ガス情報から選択し、この近似式に測定された溶存酸素濃度の変化量ΔDO2を代入すれば、超純水中の溶存窒素濃度DN2を精度良く算出することができる。
【0054】
図7は、本発明の実施形態に係るモニタリング方法で実行される溶存窒素濃度算出処理を示すフローチャートである。
【0055】
図7において、先ず、超音波を洗浄槽20に照射していない段階で、洗浄槽20から所定量の混合超純水を抽出する(ステップS71)。そして、溶存酸素濃度計43を用いて超音波照射前の初期溶存酸素濃度Dを測定する(ステップS72)。次に、所定出力の超音波を洗浄槽20に照射している状態で、洗浄槽20から所定量の混合超純水を抽出し(ステップS73)、超音波照射時の溶存酸素濃度DO2を溶存酸素濃度計43で測定する(ステップS74)。そして、測定された溶存酸素濃度DO2から初期溶存酸素濃度Dを差し引いて溶存酸素濃度の増加量ΔDO2を算出する(ステップS75)。次いで、所定のオーバーフロー量或いは超音波の所定出力に適合する近似式を記憶部46から読み出し(ステップS75)、記憶部46から読み出された近似式を用いて、ステップS75で測定された溶存酸素濃度の増加量ΔDO2から混合超純水の溶存窒素濃度DN2を算出する(ステップS76)。その後、本溶存窒素濃度算出処理を終了する。
【0056】
上述したように、本実施の形態によれば、超音波照射により起こるラジカル反応によって洗浄液中で増加する溶存酸素濃度の増加量ΔDO2を測定し、予め決定された溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係に基づいて、当該測定された溶存酸素濃度の増加量ΔDO2から洗浄液中の溶存窒素濃度DN2を算出する。すなわち、洗浄液中の溶存酸素濃度DO2を測定すれば溶存窒素濃度DN2を算出することができるため、煩雑な作業を要せず、また、溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係を予め決定しておくので、この関係を用いて溶存窒素濃度DN2を精度良く算出することができる。さらに、高価な溶存窒素濃度計を使用する必要がないためコストを低減することができる。したがって、煩雑な作業を要することなく洗浄液中の溶存窒素濃度DN2を精度良くモニタリングすることができ、加えてコストを低減することができる。
【0057】
上記実施形態では、溶存酸素濃度計43はポーラログラフ式であるが、これに限るものではなく、ガルバニ電池式であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、洗浄液は超純水であるが、これに限るものではなく、一般的に使用される水であってもよい。更に、ポーラログラフ式の溶存酸素濃度計などで溶存酸素を正確に測定可能な洗浄液であればよく、パーティクル除去や有機物汚染除去能力の高いアンモニア/過酸化水素混合溶液(SC−1,APM)であってもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、被処理体としてのウエハWを洗浄するが、これに限るものではなく、液晶表示用ガラス基板、ハードディスクドライブ用ガラス基板等の他の基板を洗浄してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 超音波洗浄装置
10 供給手段
20 洗浄槽
21 間接水槽
30 照射手段
40 モニタリング手段
41 抽出管
42 ポンプ
43 溶存酸素濃度計
44 決定手段
45 受信部
46 記憶部
47 制御部
48 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を浸漬する洗浄液に超音波を照射する際に、当該洗浄液の溶存窒素濃度をモニタリングする溶存窒素濃度のモニタリング方法であって、
超音波照射により起こるラジカル反応によって水分子から生成する酸素分子により前記洗浄液中で増加する溶存酸素濃度の増加量を測定し、
予め決定された溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係に基づいて、当該測定された溶存酸素濃度の増加量から前記洗浄液中の溶存窒素濃度を求めることを特徴とする溶存窒素濃度のモニタリング方法。
【請求項2】
前記洗浄液中の溶存窒素濃度と溶存酸素濃度の増加量との関係を示す溶存ガス情報に基づいて、溶存酸素濃度計によって測定された溶存酸素濃度の増加量から前記洗浄液の溶存窒素濃度を算出することを特徴とする請求項1記載の溶存窒素濃度のモニタリング方法。
【請求項3】
前記溶存ガス情報が、前記基板の洗浄条件毎に予め作成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の溶存窒素濃度のモニタリング方法。
【請求項4】
前記基板の洗浄条件には超音波の出力が含まれることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の溶存窒素濃度のモニタリング方法。
【請求項5】
前記溶存ガス情報において、前記超音波の出力が大きい程、所定溶存窒素濃度に対応する溶存酸素濃度の増加量が大きいことを特徴とする請求項4記載の溶存窒素濃度のモニタリング方法。
【請求項6】
前記基板の洗浄条件に洗浄液のオーバーフロー量が含まれることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の溶存窒素濃度のモニタリング方法。
【請求項7】
前記溶存ガス情報において、前記オーバーフロー量が少ない程、溶存窒素濃度変化に対する溶存酸素濃度の増加量変化の比率が大きいことを特徴とする請求項6記載の溶存窒素濃度のモニタリング方法。
【請求項8】
前記洗浄液が水であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の溶存窒素濃度のモニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−132708(P2012−132708A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283078(P2010−283078)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】