説明

滲出性中耳炎の予防および/または治療剤

本発明はプランルカスト水和物を有効成分として含有する滲出性中耳炎の予防および/または治療剤に関する。
本発明の滲出性中耳炎の予防および/または治療剤は、プランルカスト水和物は中耳滲出液を減少させる作用を有し、難聴、耳鳴、耳閉塞感等の諸症状を改善させる医薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランルカスト水和物を有効成分として含有する滲出性中耳炎の予防および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
中耳炎の患者数(診療)は、30.5万人(厚生労働省患者調査:2001年)であり、そのうち約40〜50%が滲出性中耳炎とされる。
滲出性中耳炎は、小児および老人に多い中耳炎であり、中耳と鼻の奥を結ぶ耳管の働きが悪くなると、鼓膜内外の圧力の調節が不良となり、中耳が陰圧となるため粘膜から液体が滲み出て貯留する。そのため、難聴、耳閉塞感等の症状を呈する。急性上気道炎、慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎およびアデノイド肥大等が患者の背景にあると、鼻や咽喉の炎症が、常に耳管を通して中耳に影響するため、遷延し難治化しやすくなる。滲出性中耳炎が難治化すると、難聴等の後遺症が残り、手術の必要性が生じるため、早期からの治療が重要視されている。小児の場合、鼓膜切開や鼓膜チューブ留置等の外科的処置を頻回に行うことは難しく、外科的処置を最小限にするための薬剤が求められている。
【0003】
一般に滲出性中耳炎に対する治療薬は主に、去痰薬(例えば、カルボシステイン等)やマクロライド系抗生物質(例えば、エチルコハク酸エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)などが用いられるが、十分な効果が得られておらず、有効性の高い経口剤での開発が切望されていた。
【0004】
一方、4−オキソ−8−[4−(4−フェニルブトキシ)ベンゾイルアミノ]−2−(テトラゾール−5−イル)−4H−1−ベンゾピラン 1/2水和物(一般名:プランルカスト水和物;商品名オノン)は気管支喘息やアレルギー性鼻炎の治療剤として用いられており、十分な安全性が確認されている薬剤である。また、プランルカスト水和物が、ラット滲出性中耳炎の病態モデルにおいて有効性を示す報告(非特許文献1参照)がなされているが、該文献にはヒトにおける有効性は何ら記載されていない。
【非特許文献1】オーリス ナーザス ラリンクス(Auris Nasus Larynx)、(オランダ)、2002年、p.127−132
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は有効性に優れ、ヒト患者に対して経口投与可能な内耳炎または中耳炎の予防および/または治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討を行なった結果、プランルカスト水和物が驚くべき事に、中耳貯留液を減少させ、さらに聴力および耳閉塞感等を改善することからヒトの内耳炎または中耳炎、特に滲出性中耳炎の予防および/または治療剤として有用であることを臨床的に初めて見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は
(1) プランルカスト水和物を含有することを特徴とする内耳炎または中耳炎の予防および/または治療剤、
(2) 中耳炎が滲出性中耳炎であることを特徴とする前項(1)記載の予防および/または治療剤、
(3) 難聴、耳鳴および耳閉塞感から選択される1種以上の症状を改善する前項(1)記載の予防および/または治療剤、
(4) 滲出液の減少剤である前項(1)記載の予防および/または治療剤、
(5) プランルカスト水和物を含有することを特徴とする難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療剤、
(6) プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が50〜450mgであることを特徴とする前項(1)または(5)記載の予防および/または治療剤、
(7) プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が112.5mg、225mgまたは450mgであることを特徴とする前項(6)記載の予防および/または治療剤、
(8) プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が450mgであって、225mgを1日2回投与することを特徴とする前項(7)記載の予防および/または治療剤、
(9) プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が450mgであって、プランルカスト水和物112.5mgを含有するカプセル剤を1回当たり2カプセル、1日2回投与することを特徴とする前項(8)記載の予防および/または治療剤、
(10) 患者の体重1kg当たり、プランルカスト水和物の1日当たりの投与量が2〜10mgであることを特徴とする前項(1)または(5)記載の予防および/または治療剤、
(11) 患者の体重1kg当たり、プランルカスト水和物の1日当たりの投与量が7mgであることを特徴とする前項(10)記載の予防および/または治療剤、
(12) プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が50mg、70mg、100mg、140mg、200mg、または280mgであることを特徴とする前項(6)記載の予防および/または治療剤、
(13) プランルカスト水和物と、去痰薬、抗生物質、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬,消炎酵素剤および漢方薬から選択される1種または2種以上とを組み合わせてなることを特徴とする医薬、
(14) プランルカスト水和物を、1日当たり、2〜10mg/kgを哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における滲出性中耳炎の予防および/または治療方法、
(15) プランルカスト水和物を、1日当たり、2〜10mg/kgを哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療剤、
(16) プランルカスト水和物を1日当たり、2〜10mg/kgと、去痰薬、抗生物質、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬、消炎酵素剤、および漢方薬から選択される1種または2種以上を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における滲出性中耳炎の予防および/または治療方法、
(17) プランルカスト水和物を1日当たり、2〜10mg/kgと、去痰薬、抗生物質、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬,消炎酵素剤、および漢方薬から選択される1種または2種以上を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療方法、および
(18) 難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療剤を製造するためのプランルカスト水和物の使用、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、効果的な内耳炎または中耳炎、特に滲出性中耳炎の予防および/または治療剤が提供され、内耳炎または中耳炎、特に滲出性中耳炎の諸症状を予防および/または治療することができる。また、本発明によって、滲出性中耳炎に伴う難聴、耳鳴および耳閉塞感を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられるプランルカスト水和物は式(A)
【化1】

で示される4−オキソ−8−[4−(4−フェニルブトキシ)ベンゾイルアミノ]−2−(テトラゾール−5−イル)−4H−1−ベンゾピラン 1/2水和物である。
【0010】
[本発明化合物の製造方法]
プランルカスト水和物の製造は、例えば特開昭61−050977号明細書記載の方法に準じて行なうことができる。
【0011】
[毒性]
プランルカスト水和物の毒性は極めて低いものであり、医薬品として使用するために十分安全であることが確認された。例えばプランルカスト水和物の急性毒性として、最小致死量は、マウスまたはラット(いずれも雌雄)に対して経口または皮下投与した場合、2000mg/kg以上であった。
【0012】
[医薬品への適用]
プランルカスト水和物は、内耳炎または中耳炎、特に滲出性中耳炎の予防および/または治療用の医薬として有用である。また、プランルカスト水和物は、滲出性中耳炎に伴う難聴または耳鳴等の諸症状を改善するので、難聴、耳鳴および耳閉塞感の予防および/または治療用の医薬として有用である。
【0013】
プランルカスト水和物を有効成分として含有する医薬は、全身的または局所的に用いることができる。
プランルカスト水和物の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法または処理時間等により異なるが、本発明の所望の効果が得られるよう個別具体的に投与すればよい。例えば、ヒト患者1日当たりの投与量として好ましくは約25mgから約2500mg、より好ましくは約112.5mgから約450mg、さらに好ましくは225mgから450mgである。
【0014】
また、プランルカスト水和物を小児に対して投与する場合の1日当たりの投与量は、小児患者の体重1kg当たり、約2〜10mgが好ましく、より好ましくは約5mg〜約8mgであり、さらに好ましくは約7mgである。また、体重12kg以上18kg未満の小児患者に対して投与する場合の1日当たりの投与量は、プランルカスト水和物を1日当たり、約50〜100mgが好ましく、より好ましくは約50mgまたは約100mgである。体重18kg以上25kg未満の小児患者に対して投与する場合の1日当たりの投与量は、プランルカスト水和物を1日当たり約70〜140mgが好ましく、より好ましくは約70mgまたは約140mgである。体重25kg以上35kg未満の小児患者に対して投与する場合の1日当たりの投与量は、プランルカスト水和物を1日当たり約100mg〜約200mgが好ましく、より好ましくは約100mgまたは約200mgである。体重35kg以上45kg未満の小児患者に対して投与する場合の1日当たりの投与量は、プランルカスト水和物を1日当たり約140〜280mgが好ましく、より好ましくは約140mgまたは約280mgである。
【0015】
投与方法としては、経口投与または非経口投与のいずれも好ましく用いられるが、経口投与がより好ましい。また、投与は、例えば経口投与の場合、上記投与量を、一日1回から数回、好ましくは1日1回から約4回、さらに好ましくは1日1回から約2回に分けるのが好ましい。
【0016】
もちろん前記したように、投与量、投与方法または投与回数は種々の条件により変動するので、患者1日当たりの投与量は、上記範囲より少なくてもよく、また範囲を越えてもよい。
プランルカスト水和物を上記の医薬として製造する場合、自体公知の製剤とすることができる。製剤は、経口投与のための内服用固形剤もしくは内服用液剤、または非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤または吸入剤等とすることができる。
【0017】
経口投与のための内服用固形剤としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤または顆粒剤等が挙げられる。
このような内服用固形剤においては、プランルカスト水和物はそのままか、添加剤と混合または造粒(例えば、攪拌造粒法、流動層造粒法、乾式造粒法、転動攪拌流動層造粒法等)され、常法(例えばカプセル剤の場合はカプセル充填、錠剤の場合は打錠剤等)に従って製造される。上記添加剤は1種あるいは2種以上を適宜配合してもよい。添加剤としては、例えば賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、分散剤(例えば、トウモロコシデンプン等)、崩壊剤(例えば、繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等)、水溶性高分子[例えば、セルロース類(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等)、合成高分子類(例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等)など]または甘味剤(例えば、白糖、粉糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、還元麦芽糖水アメ、粉末還元麦芽糖水アメ、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、ハチミツ、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム等)などが挙げられる。また、顆粒剤または錠剤は、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)などで被覆されていてもよいし、また前記コーティングは2以上の層であってもよい。カプセル剤として製造する場合には、上記賦形剤を適宜選択し、プランルカスト水和物と均等に混和または粒状、もしくは粒状としたものに適当なコーティング剤で剤皮を施したものをカプセルに充填するか、適当なカプセル基剤(ゼラチン等)にグリセリンまたはソルビトール等を加えて塑性を増したカプセル基剤で被包成形してもよい。これらカプセル基剤には必要に応じて、着色剤または保存剤[二酸化イオウ、パラベン類(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル)]等を加えることができる。カプセル剤には、ハードカプセルまたはソフトカプセルが含まれる。
また、錠剤またはカプセル剤は、一回当たり、1〜数個、好ましくは1〜約2個投与されるのが好ましい。このため、錠剤またはカプセル剤には、プランルカスト水和物が、1錠または1カプセル当たり、約50〜250mg、好ましくは約100〜120mg、とりわけ約112.5mg含まれるよう製造されるのが好ましい。
【0018】
経口投与のための内服用液剤としては、水剤、懸濁剤・乳剤、シロップ剤、用時溶解型製剤(例えば、ドライシロップ剤)またはエリキシル剤等が挙げられる。このような内服用液剤においては、プランルカスト水和物は、内服用液剤で一般的に用いられる希釈剤(例えば、精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤または緩衝剤等を含有していてもよい。また、ドライシロップ剤は、例えばプランルカスト水和物と、例えば白糖、粉糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖または乳糖等とを混合等して製造することができる。また、ドライシロップ剤は、常法に従って顆粒としてもよい。
【0019】
非経口投与のための剤形としては外用剤または注射剤等が挙げられる。外用剤の剤形としては、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、貼付剤、リニメント剤、噴霧剤、吸入剤またはスプレー剤等が挙げられる。
【0020】
軟膏剤は公知の方法により製造される。軟膏剤は、例えば、プランルカスト水和物を基剤に混和または溶融させて製造される。軟膏基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。軟膏基剤としては、例えば、高級脂肪酸または高級脂肪酸エステル(アジピン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステル等)、ロウ類(ミツロウ、鯨ロウ、セレシン等)、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等)、高級アルコール(セタノール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等)、シリコン油(ジメチルポリシロキサン等)、炭化水素類(親水ワセリン、白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等)、グリコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マクロゴール等)、植物油(ヒマシ油、オリーブ油、ごま油、テレピン油等)、動物油(ミンク油、卵黄油、スクワラン、スクワレン等)、水、吸収促進剤またはかぶれ防止剤等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を混合して用いられる。さらに、軟膏剤は、保湿剤、保存剤、安定化剤、抗酸化剤または着香剤等を含んでいてもよい。
【0021】
ゲル剤は公知の方法により製造される。ゲル剤は、例えば、プランルカスト水和物をゲル基剤に溶融させて製造される。ゲル基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。ゲル基剤としては、例えば、低級アルコール(エタノール、イソプロピルアルコール等)、ゲル化剤(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース等)、中和剤(トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等)、界面活性剤(モノステアリン酸ポリエチレングリコール等)、ガム類、水、吸収促進剤またはかぶれ防止剤等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を混合して用いられる。さらに、ゲル剤は、保存剤、抗酸化剤または着香剤等を含んでいてもよい。
【0022】
クリーム剤は公知の方法により製造される。クリーム剤は、例えば、プランルカスト水和物を基剤に溶融または乳化させて製造される。クリーム基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。クリーム基剤としては、例えば、高級脂肪酸エステル、低級アルコール、炭化水素類、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、高級アルコール(2−ヘキシルデカノール、セタノール等)、乳化剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、脂肪酸エステル類等)、水、吸収促進剤またはかぶれ防止剤等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を混合して用いられる。さらに、クリーム剤は、保存剤、抗酸化剤または着香剤等を含んでいてもよい。
【0023】
湿布剤は公知の方法により製造される。湿布剤は、例えば、プランルカスト水和物を基剤に溶融させ、練合物とし支持体上に展延塗布して製造される。湿布基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。湿布基剤としては、例えば、増粘剤(ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース等)、湿潤剤(尿素、グリセリン、プロピレングリコール等)、充填剤(カオリン、酸化亜鉛、タルク、カルシウム、マグネシウム等)、水、溶解補助剤、粘着付与剤またはかぶれ防止剤等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を混合して用いられる。さらに、湿布剤は、保存剤、抗酸化剤または着香剤等を含んでいてもよい。
【0024】
貼付剤は公知の方法により製造される。貼付剤は、例えば、プランルカスト水和物を貼付用基剤に溶融させ、支持体上に展延塗布して製造される。貼付剤用基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。貼付用基剤としては、例えば、高分子基剤、油脂、高級脂肪酸、粘着付与剤またはかぶれ防止剤等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を混合して用いられる。
リニメント剤は公知の方法により製造される。リニメント剤は、例えば、プランルカスト水和物を水、アルコール(エタノール、ポリエチレングリコール等)、高級脂肪酸、グリセリン、セッケン、乳化剤、懸濁化剤等から選ばれる1種または2種以上に溶解、懸濁または乳化させて製造される。さらに、リニメント剤は、保存剤、抗酸化剤または着香剤等を含んでいてもよい。
【0025】
非経口投与のための注射剤としては、溶液、懸濁液もしくは乳濁液または用時溶剤に溶解もしくは懸濁して用いる固形の注射剤が挙げられる。注射剤は、プランルカスト水和物を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等が挙げられる。これら溶剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤または保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作によって製造されるのが好ましい。また無菌の固形剤、例えば、凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0026】
非経口投与のためのその他の剤形としては、例えば噴霧剤、吸入剤またはスプレー剤等が挙げられる。これら製剤は、一般的に用いられる希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定剤と等張性を与えるような緩衝剤、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。スプレー剤の製造方法は、例えば、米国特許第2,868,691号および同第3,095,355号に詳しく記載されている。
【0027】
吸入剤としては、エアゾル剤、吸入用粉末剤または吸入用液剤が挙げられる。当該吸入剤は用時に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁させて使用する形態であってもよい。これらの吸入剤は公知の方法に準じて製造される。
吸入剤は、例えば、吸入用液剤の場合には、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、パラベン等)、着色剤、緩衝化剤(リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)、等張化剤(塩化ナトリウム、濃グリセリン等)、増粘剤(カルボキシビニルポリマー等)または吸収促進剤等を必要に応じて適宜選択して製造される。
【0028】
吸入用粉末剤は、滑沢剤(ステアリン酸およびその塩等)、結合剤(デンプン、デキストリン等)、賦形剤(乳糖、セルロース等)、着色剤、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、パラベン等)または吸収促進剤等を必要に応じて適宜選択して製造される。
吸入用液剤を投与する際には通常噴霧器(アトマイザー、ネブライザー)が使用され、吸入用粉末剤を投与する際には通常粉末薬剤用吸入投与器が使用される。
非経口投与のためその他の組成物としては、プランルカスト水和物を含み、常法により処方される直腸内投与のための坐剤および腟内投与のためのペッサリー等が含まれる。
【0029】
また、本発明の内耳炎または中耳炎、特に滲出性中耳炎の予防および/または治療剤、あるいは難聴、耳鳴および耳閉塞感の予防および/または治療剤(以下、本発明の予防または治療剤と略記する。)は、他の薬剤との併用剤とすることもできる。他の薬剤と併用する場合、他の薬剤は、1)プランルカスト水和物の治療効果の補完および/または増強、2)プランルカスト水和物の動態・吸収改善、投与量の低減、および/または3)プランルカスト水和物の副作用の軽減のために使用されることが好ましい。
本発明の予防または治療剤と他の薬剤との併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態であってもよく、また別々の製剤とする形態であってもよい。この別々の製剤とする場合の投与方法は、両製剤を同時に投与してもよく、両製剤の投与時間に時間差を設けて投与してもよい。また、時間差による投与は、プランルカスト水和物を先に投与し、他の薬剤を後に投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、プランルカスト水和物を後に投与してもかまわず、それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
【0030】
該他の薬剤は、低分子化合物であってもよく、また高分子の蛋白、ポリペプチド、ポリヌクレオチド(DNA、RNA、遺伝子)、アンチセンス、デコイまたは抗体であるか、またはワクチン等であってもよい。他の薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、プランルカスト水和物と他の薬剤の配合比は、投与対象の年齢および体重、投与方法、投与時間、対象疾患、症状または他の薬剤の種類等により適宜選択することができる。例えば、プランルカスト水和物1重量部に対し、他の薬剤を0.01乃至100重量部用いればよい。他の薬剤は以下に示す同種群および異種群から任意に1種または2種以上を適宜の割合で組み合わせて投与してもよい。
【0031】
該他の薬剤としては、例えば去痰薬、抗生物質、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬、消炎酵素剤または漢方薬等が挙げられる。
去痰剤としては、例えばカルボシステイン、アンモニアウイキョウ精、炭酸水素ナトリウム、塩酸ブロムヘキシン、塩酸アンブロキソール、塩酸アンブロキゾール徐放剤、メチルシステイン塩酸塩、アセチルシステイン、塩酸L−エチルシステインまたはチロキサポール等が挙げられる。
【0032】
抗生物質としては、例えばペニシリン系抗生物質(例えば、アモキシリン等)、セフェム系抗生物質(例えば、セファクロル等)またはマクロライド系抗生物質(例えば、エチルコハク酸エリスロマイシン等)等が挙げられる。
【0033】
抗ヒスタミン薬としては、例えば塩酸シプロヘプタジン、d−マレイン酸クロルフェニラミン、メキタジン、塩酸アゼラスチン、オキサトミド、テルフェナジン、フマル酸エメダスチン、塩酸エピナスチン、アステミゾール、エバスチン、塩酸セチリジン、ベポタスチン、フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、塩酸オロパタジン、TAK−427、ZCR−2060、NIP−530、モメタゾンフロエート、ミゾラスチン、BP−294、アンドラスト、オーラノフィンまたはアクリバスチン等が挙げられる。
抗アレルギー薬としては、例えばフマル酸ケトチフェン等が挙げられる。
【0034】
ステロイド薬としては、例えばプロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフロラゾン、フルオシノニド、フランカルボン酸モメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジフルプレドナート、吉草酸ジフルコルトロン、アムシノニド、ハルシノニド、デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、プロピオン酸デプロドン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、フルオシノロンアセトニド、プロピオン酸ベクロメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、ピバル酸フルメタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、酪酸クロベタゾン、プレドニゾロン、フルドロキシコルチド、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、酢酸ハロプレドン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン、酢酸パラメサゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、ブデソニド、フルニソリド、ST−126P、シクレソニド、デキサメタゾンパロミチオネート、モメタゾンフランカルボネート、プラステロンスルホネート、デフラザコート、メチルプレドニゾロンスレプタネートまたはメチルプレドニゾロンナトリウムスクシネート等が挙げられる。
【0035】
非ステロイド系抗炎症薬としては、例えばサザピリン、サリチル酸ナトリウム、アスピリン、アスピリン・ダイアルミネート配合、ジフルニサル、インドメタシン、スプロフェン、ウフェナマート、ジメチルイソプロピルアズレン、ブフェキサマク、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、トルメチンナトリウム、クリノリル、フェンブフェン、ナプメトン、プログルメタシン、インドメタシンファルネシル、アセメタシン、マレイン酸プログルメタシン、アンフェナクナトリウム、モフェゾラク、エトドラク、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ナプロキセン、フルルビプロフェン、フルルビプロフェンアキセチル、ケトプロフェン、フェノプロフェンカルシウム、チアプロフェン、オキサプロジン、プラノプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、メフェナム酸、メフェナム酸アルミニウム、トルフェナム酸、フロクタフェニン、ケトフェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、ピロキシカム、テノキシカム、アンピロキシカム、エピリゾール、塩酸チアラミド、塩酸チノリジン、エモルファゾン、スルピリン、ミグレニン、ソルボン、アセトアミノフェン、フェナセチン、メシル酸ジメトチアジン、シメトリド配合剤等が挙げられる。
【0036】
消炎酵素剤としては、例えば塩化リゾチーム、ブロメライン、プロナーゼ、セラペプターゼまたはストレプトキナーゼ・ストレプトドルナーゼ配合剤等が挙げられる。
【0037】
漢方薬としては、例えば小柴胡湯、香蘇散、苓桂朮甘湯、黄耆建中湯、小青竜湯、麻杏甘湯、越婢加朮湯、六君子湯、麻黄附子細辛湯または柴苓湯等が挙げられる。
また、他の薬剤には、上記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0038】
以下、実施例(臨床薬理試験)および製造例によって本発明を詳述するが、実施例等は、本発明をよく理解するためのものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
小児の滲出性中耳炎患者21例を対象に、プランルカスト水和物(商品名:オノンドライシロップ)を7.0mg/kg/日(ドライシロップとして70mg/kg/日)で4週間以上(最大14週間)投与し、有効性を確認した。有効性(薬効)評価は、聴力検査およびティンパノグラムを中心に、鼓膜所見および自覚症状(難聴、耳鳴、耳閉塞感等)も参考として、総合的に判断した。その結果、小児の滲出性中耳炎患者21例中、13例(61.9%)で有効性が認められた。プランルカスト水和物の小児の滲出性中耳炎に対する有効性は、既存薬(消炎酵素剤と抗ヒスタミン薬の併用、抗アレルギー薬、漢方薬、抗生物質等)の有効性(耳鼻臨床., 85, 5, 713−720 (1992)参照)に比べ、同等もしくはそれ以上であった。さらにプランルカスト水和物は抗生物質であるエチルコハク酸エリスロマイシン(商品名:エリスロシンドライシロップ)では有効性を示さない患者や長期間遷延していた患者にも有効性を示した。
上記結果より、プランルカスト水和物を投与することにより、聴力や鼓膜所見等が改善されたため、プランルカスト水和物は滲出性中耳炎の治療薬として有効であることが明らかとなった。
【0040】
[製剤例]
製剤例1:カプセル剤の製造
プランルカスト水和物(40kg)、乳糖(19kg)および添加剤(適量)を常法に従って噴霧乾燥造粒し、造粒物1g中、プランルカスト水和物を625mg含有する造粒物を得た。得られた造粒物を1カプセル中、プランルカスト水和物の含量が112.5mgになるように3号カプセルに常法に従って充填することにより、プランルカスト水和物を含有するカプセル剤を得た。
【0041】
製剤例2:ドライシロップ剤の製造
プランルカスト水和物(10kg)、白糖(80kg)および添加剤(適量)を常法に従って顆粒剤を調製し、顆粒剤1g中、プランルカスト水和物を100mg含有するドライシロップ剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0042】
プランルカスト水和物は滲出性中耳炎の予防および/または治療剤として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランルカスト水和物を含有することを特徴とする内耳炎または中耳炎の予防および/または治療剤。
【請求項2】
中耳炎が滲出性中耳炎であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の予防および/または治療剤。
【請求項3】
難聴、耳鳴および耳閉塞感から選択される1種以上の症状を改善する請求の範囲第1項記載の予防および/または治療剤。
【請求項4】
滲出液の減少剤である請求の範囲第1項記載の予防および/または治療剤。
【請求項5】
プランルカスト水和物を含有することを特徴とする難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療剤。
【請求項6】
プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が50〜450mgであることを特徴とする請求の範囲第1または5項記載の予防および/または治療剤。
【請求項7】
プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が112.5mg、225mgまたは450mgであることを特徴とする請求の範囲第6項記載の予防および/または治療剤。
【請求項8】
プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が450mgであって、225mgを1日2回投与することを特徴とする請求の範囲第7項記載の予防および/または治療剤。
【請求項9】
プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が450mgであって、プランルカスト水和物112.5mgを含有するカプセル剤を1回当たり2カプセル、1日2回投与することを特徴とする請求の範囲第7項記載の予防および/または治療剤。
【請求項10】
患者の体重1kg当たり、プランルカスト水和物の1日当たりの投与量が2〜10mgであることを特徴とする請求の範囲第1項または5項記載の予防および/または治療剤。
【請求項11】
患者の体重1kg当たり、プランルカスト水和物の1日当たりの投与量が7mgであることを特徴とする請求の範囲第10項記載の予防および/または治療剤。
【請求項12】
プランルカスト水和物の患者1日当たりの投与量が50mg、70mg、100mg、140mg、200mg、または280mgであることを特徴とする請求の範囲第5項記載の予防および/または治療剤。
【請求項13】
プランルカスト水和物と、去痰薬、抗生物質、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬、消炎酵素剤および漢方薬から選択される1種または2種以上とを組み合わせてなることを特徴とする医薬。
【請求項14】
プランルカスト水和物を、1日当たり、2〜10mg/kgを哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における滲出性中耳炎の予防および/または治療方法。
【請求項15】
プランルカスト水和物を、1日当たり、2〜10mg/kgを哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療剤。
【請求項16】
プランルカスト水和物を1日当たり、2〜10mg/kgと、去痰薬、抗生物質、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬、消炎酵素剤、および漢方薬から選択される1種または2種以上を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における耳炎の予防および/または治療方法。
【請求項17】
プランルカスト水和物を1日当たり、2〜10mg/kgと、去痰薬、抗生物質、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬、消炎酵素剤、および漢方薬から選択される1種または2種以上を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療方法。
【請求項18】
難聴、耳鳴または耳閉塞感の予防および/または治療剤を製造するためのプランルカスト水和物の使用。



【国際公開番号】WO2005/058879
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516337(P2005−516337)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018813
【国際出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】