説明

濃染色人工皮革およびその製造方法

【課題】染料がより多く吸尽される濃色に染色がされるものの場合にあっても、ダイオキシンの発生という問題が生ずることがない濃染色人工皮革とその製造方法を提供すること。
【解決手段】単繊維繊度が0.01デシテックス〜0.3デシテックスであるポリエステル合成繊維と、5重量%以上50重量%の高分子弾性体とからなり、L値が下記(a)式を満たす濃色に染色され、かつ、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とがそれぞれ下記(b)式、(c)式および(d)式を満たすことを特徴とする濃染色人工皮革であり、単繊維繊度が上記範囲であるポリエステル合成繊維と高分子弾性体とからなる人工皮革生機を分散染料の染色液により、(a)式、(b)式、(c)式および(d)式を満たすように染色する。
値≦35 ………(a)式
A≦900ppm ………(b)式
B≦900ppm ………(c)式
A+B≦1500ppm ………(d)式

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃色に染色され、かつ実質的にハロゲン系物質を含まない人工皮革とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境意識が高まりつつある中で、環境負荷低減をめざした取組みが各産業分野で行われてきている。例えば、使用を終えた後、焼却処理される際にはダイオキシンを発生して大気汚染することがない工業製品が望まれている。
【0003】
このことは、繊維製品分野でも要請されてきたことであり、特に、従来は、難燃加工処理を施すことが要請される繊維製品分野で望まれてきた。
【0004】
その理由は、難燃加工処理としては、一般的にはハロゲン系(特に臭素系)の難燃樹脂(難燃剤)を付着・添加させることが採用されていたからであり、該ハロゲンがダイオキシンを発生する原因となっていたからである。
【0005】
したがって、ハロゲンを含有することがなくかつ高度な難燃特性を有するノンハロゲン化難燃樹脂の実現が望まれていたものであり、人工皮革の分野でも、ノンハロゲン・非ハロゲンの難燃樹脂の実現が検討されてきた(特許文献1−4)。
【0006】
しかし、これらは、いずれも難燃特性を有する人工皮革の分野での検討であり、特別に難燃特性が求められない人工皮革の分野ではノンハロゲン化についての検討はされなかった。
【0007】
しかし、難燃特性が求められない人工皮革でも、特に濃色に染色されるものの場合にあっては、染料がより多く吸尽されることになることから、該染料中にハロゲンが含まれている場合には該ハロゲンに起因したダイオキシンの発生という問題が生ずる可能性があるのである。すなわち、人工皮革のダイオキシン発生という問題は、難燃剤を付与した場合だけに関係する問題ではなく、濃色に染色をされた場合においても検討されるべきものであったのだが、発色性の良さや染色堅牢性、退色耐久性などのことばかりに検討の注目点がいき、いまだ十分な検討がなされなかったのが実状である。
【特許文献1】特開2004−169197号公報
【特許文献2】特開2004−360123号公報
【特許文献3】特開2005−2512号公報
【特許文献4】特開2007−16357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、特に、染料がより多く吸尽される濃色に染色がされるものの場合にあっても、ダイオキシンの発生という問題が生ずることがない濃染色人工皮革とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明の濃染色人工皮革は、以下の構成からなる。
(1)単繊維繊度が0.01デシテックス〜0.3デシテックスであるポリエステル合成繊維と、5重量%以上50重量%の高分子弾性体とからなり、L値が下記(a)式を満たす濃色に染色され、かつ、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とがそれぞれ下記(b)式、(c)式および(d)式を満たし、濃染色の湿潤摩擦堅牢度が2級以上かつ耐光堅牢度が3級以上であることを特徴とする濃染色人工皮革。
値≦35 ………(a)式
A≦900ppm ………(b)式
B≦900ppm ………(c)式
A+B≦1500ppm ………(d)式
【0010】
(2)単繊維繊度が0.01デシテックス〜0.3デシテックスであるポリエステル合成繊維と高分子弾性体とからなる人工皮革生織を分散染料の染色液により、L値が下記(a)式を満たす濃色に、かつ、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とがそれぞれ下記(b)式、(c)式および(d)式を満たすように染色することを特徴とする濃染色人工皮革の製造方法。
値≦35 ………(a)式
A≦900ppm ………(b)式
B≦900ppm ………(c)式
A+B≦1500ppm ………(d)式
【0011】
(3)染色液として、該染色液中の染料の有効成分中、塩素と臭素の含有量が、染色される人工皮革生機重量に対してそれぞれ1800ppm以下のものを使用することを特徴する上記(2)記載の濃染色人工皮革の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
請求項1にかかる本発明と請求項2にかかる本発明によれば、特に、染料がより多く吸尽される濃色に染色がされるものの場合にあっても、ダイオキシンの発生という問題が生ずることがない濃染色人工皮革とその製造方法が提供されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、更に詳しく本発明の濃染色人工皮革とその製造方法について、説明する。
本発明の濃染色人工皮革は、単繊維繊度が0.01デシテックス〜0.3デシテックスであるポリエステル合成繊維と、5重量%以上50重量%の高分子弾性体とからなり、L値が下記(a)式を満たす濃色に染色され、かつ、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とがそれぞれ下記(b)式、(c)式および(d)式を満たし、濃染色の湿潤摩擦堅牢度が2級以上かつ耐光堅牢度が3級以上であることを特徴とする。
値≦35 ………(a)式
A≦900ppm ………(b)式
B≦900ppm ………(c)式
A+B≦1500ppm ………(d)式
【0014】
ここで、L値≦35とするのは、特に濃色に染色された人工皮革の場合において、本発明の技術思想がより効果的で、従来にはみられなかったものだからである。極細繊維を使用した人工皮革は、特に繊維全体量のわりにその全表面積が非常に大きくなることから、また、ポリウレタン樹脂などの高分子弾性体を含むときは該高分子弾性体が高い率で染料を吸尽してしまうことから、極細繊維を深い濃色に染色することは一般に難しいものであるが、染料の吸尽レベルを全体的に高くして濃色での染色が可能にでき、その場合に、使用染料量が多くなるのでその中に含まれるハロゲンの量が問題となる。その点で、本発明では、L値は濃色である35以下であることが有効なものであり、より効果的には、L値は25以下である。
【0015】
また、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とは、それぞれ900ppm以下であること、さらにその合計は1500ppm以下であることがダイオキシンの発生を少なくする上で重要である。
【0016】
より好ましくは、それらの値はそれぞれが600ppm以下であること、さらにその合計は1000ppm以下であることである。また、それらの値の下限値は、含有塩素量Aが300ppm程度まで、含有臭素量Bが70ppm程度までである。
【0017】
本発明の濃染色人工皮革は、好ましくは、特にその濃染色の湿潤摩擦堅牢度が2級以上で、かつ耐光堅牢度が3級以上を示すものである。すなわち、発色の耐久性が良好なものであり、このことが実用的なかつ長期間にわたる良好な使用を実現する。
【0018】
本発明の濃染色人工皮革を製造するには、単繊維繊度が0.01デシテックス〜0.3デシテックスであるポリエステル合成繊維と高分子弾性体とからなる人工皮革生機を分散染料の染色液により、L値が前記(a)式を満たす濃色に、かつ、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とがそれぞれ前記(b)式、前記(c)式および(d)式を満たすように染色することが重要であり、ここで、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)は、複数種の染料を混合使用する場合には、それらを混合した後の使用染料全体でみた含有量である。
【0019】
染色液としては、吸尽率を加味して液中の染料の有効成分中、塩素と臭素の有効固形分がそれぞれ1800ppm以下のものを使用することがよい。
【0020】
実際の染料の選定にあたっては、混合する染料のそれぞれに関して該個々の染料の使用割合と該染料の含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)に該染料の吸尽率(利用率)をかけて合計して全体の塩素と臭素の含有量を求めて使用染料を決めればよい。
【0021】
特に、その濃染色の湿潤摩擦堅牢度が2級以上で、かつ耐光堅牢度が3級以上を示す濃染色人工皮革を製造するには、高堅牢性染料を選択し、染色温度を120℃以上として、さらに還元洗浄剤を7g/l以上として、さらに同様の還元洗浄を2回以上繰り返すことにより製造することができる。また、還元洗浄の後に過酸化水素水1g/lを含む60℃の温水で洗浄することが最も効果的に製造できる。
【0022】
本発明の人工皮革は、難燃剤で処理されてももちろんよく、その場合は、せっかくのノンハロゲン化の効果が損なわれることがないように、ノンハロゲン系の難燃剤を用いて難燃処理することが肝要である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明の濃染色人工皮革の具体的構成、効果について説明する。なお、各物性値は以下のようにして測定した値である。
【0024】
(1)L
試料表面のナップ(立毛表面)をエチケットブラシで順目方向(立毛毛羽が寝る方向)に、ブラッシング時の押さえ圧300〜400gでブラッシングの強弱ムラや毛乱れの生じない適当な早さで丁寧に数回(3〜4回)ブラッシングし整えた後、以下の要領で、色差計を用いてL値を測定する。
すなわち、上記試料の測色部分を求め、その部分を4方向(0°、90°、180°、270°)に回転させ、計4箇所測色しその平均値を求める。試料のn数は3点以上とし、その総平均値で表す。色差計はミノルタ製CR310、測色面積は口径50mm、光源はD65とする。
(2)含有塩素量および含有臭素量の測定方法
BS EN14582:2007法 または、軽元素の定量分析が可能な蛍光X線分析機(例えば、理学電機工業社製 サイマルティックス12)で含有塩素量と含有臭素量を定量し、それぞれの値とその合算で求める。
(3)湿潤摩擦堅牢度
JIS L0849(学振型試験法)で求める。
(4)耐光堅牢度
JIS L0842(第3露光方法)で求める。
【0025】
実施例1
単繊維繊度が0.21デシテックスのポリエステル繊維で構成されたフェルトに、カーボンブラックを1.5%含む黒色ポリウレタン樹脂を20%含浸させ、かつ表層部に該ポリエステル繊維が起毛されてなる東レ(株)製スエード調人工皮革生機に対し、下記4種の分散染料
Dianix Orange AM−SLR:6%owf.
Dianix Red AM−SLR:2%owf.
Dianix Blue AM−2G:4%owf.
Disperse Black BBL 200:22%owf.
と、均染剤を1g/l、およびpH調整剤として酢酸と酢酸ソーダを配合し、pHを5.3付近に調整した染色液を用いて、染色温度120℃で60分間の染色を行った。
【0026】
その後、水洗し、ハイドロサルファイト;7g/L、カセイソーダ:7g/Lと界面活性剤;1g/Lを含む80℃の水溶液で20分間還元洗浄を2回繰り返し、60℃で20分の湯洗2回と水洗を1回行った。
【0027】
その後、染色された人工皮革を脱水し、柔軟剤と耐電防止剤を含む水溶液に浸漬し、ディップニップ法で付与し、100℃でピンテンターを用い乾燥して製品を得た。
【0028】
得られた製品を含有塩素量分析、含有臭素量分析、L値測定、摩擦堅牢度、耐光堅牢度測定に供しその結果を表1に示した。
【0029】
実施例2
単繊維繊度が0.044デシテックスのポリエステル繊維で構成されたフェルトに、カーボンブラックを1.5%含む黒色ポリウレタン樹脂を20%含浸させ、かつ表層部に該ポリエステル繊維が起毛されてなる東レ(株)製スエード調人工皮革生機に対し、下記3種の分散染料
Kayalon Polyester Orange BR:14%owf.
Kayalon Polyester Red 3BL−S 200:3.8%owf.
Foron Blue S−BGL 200:12%owf.
と、均染剤を1g/l、およびpH調整剤として酢酸と酢酸ソーダを配合し、pHを5.3に調整した染色液を用いて、染色温度120℃で60分間の染色を行った。
【0030】
その後、水洗し、ハイドロサルファイト;7g/L、カセイソーダ:7g/Lと界面活性剤;1g/Lを含む80℃の水溶液で20分間還元洗浄を2回繰り返し、60℃で20分の湯洗2回と水洗を1回行った。
【0031】
その後、該染色された人工皮革を脱水し、柔軟剤と耐電防止剤を含む水溶液に浸漬し、ディップニップ法で付与し、100℃でピンテンターを用い乾燥して製品を得た。
【0032】
得られた製品を含有塩素量分析、含有臭素量分析、L値測定、摩擦堅牢度、耐光堅牢度測定に供し、その結果を表1に示す。
【0033】
比較例1
実施例1と同様の東レ(株)製スエード調人工皮革生機を用いて下記4種の染料を使用し、実施例1と同様の染色から仕上げまでを行って染色製品を得た。
【0034】
得られた染色製品を含有塩素量分析、含有臭素量分析、L値測定、摩擦堅牢度、耐光堅牢度測定に供した。その結果を表1に示す。
Kayalon Polyester Yellow BRL−S:8%owf.
Kiwalon Polyester Red BFL:7%owf.
Sumikalon Polyester Pink 2GLA:6%owf.
Terasil Blue 3RL:18%owf.
このものは、黒色で堅牢度は良いが、ハロゲンが多く、本発明の所期の目的を達成できないものであった。
【0035】
比較例2
実施例1と同様の東レ(株)製スエード調人工皮革生機を用いて下記3種の染料を使用し、実施例1と同様の染色から仕上げまでを行って染色製品を得た。
得られた染色製品を含有塩素量分析、含有臭素量分析、L値測定、摩擦堅牢度、耐光堅牢度測定に供した。その結果を表1に示す。
Kayalon Polyester Orange R−SF:12%owf.
Kayalon Polyester Rubine BL−S:4.8%owf.
Kayalon Polyester Blue DX−LS:8%owf.
このものは、黒色でノンハロゲンのものであるが、堅牢度が悪く、本発明の所期の目的を達成できないものであった。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.01デシテックス〜0.3デシテックスであるポリエステル合成繊維と、5重量%以上50重量%の高分子弾性体とからなり、L値が下記(a)式を満たす濃色に染色され、かつ、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とがそれぞれ下記(b)式、(c)式および(d)式を満たし、湿潤摩擦堅牢度が2級以上かつ耐光堅牢度が3級以上であることを特徴とする濃染色人工皮革。
値≦35 ………(a)式
A≦900ppm ………(b)式
B≦900ppm ………(c)式
A+B≦1500ppm ………(d)式
【請求項2】
単繊維繊度が0.01デシテックス〜0.3デシテックスであるポリエステル合成繊維と高分子弾性体とからなる人工皮革生機を分散染料の染色液により、L値が下記(a)式を満たす濃色に、かつ、含有塩素量A(ppm)と含有臭素量B(ppm)とがそれぞれ下記(b)式、(c)式および(d)式を満たすように染色することを特徴とする濃染色人工皮革の製造方法。
値≦35 ………(a)式
A≦900ppm ………(b)式
B≦900ppm ………(c)式
A+B≦1500ppm ………(d)式
【請求項3】
染色液として、該染色液中の染料の有効成分中、塩素と臭素の含有量が、染色される人工皮革生機重量に対してそれぞれ1800ppm以下のものを使用することを特徴する請求項2記載の濃染色人工皮革の製造方法。

【公開番号】特開2010−53456(P2010−53456A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216162(P2008−216162)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.エチケットブラシ
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(591123447)岐セン株式会社 (4)
【出願人】(000182247)サカイオーベックス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】