説明

炭素−炭素結合の生成方法

【課題】生成物との分離が容易な固体触媒を用いた、芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物との鈴木−宮浦カップリングによる炭素−炭素結合の生成方法を提供する。
【解決手段】芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物とを、比表面積1000m2/g以上の炭素粒子にパラジウムを固定したパラジウム炭素触媒の存在下にて湿式で鈴木−宮浦カップリングさせることを特徴とする炭素−炭素結合の生成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物との鈴木−宮浦カップリングによる炭素−炭素結合の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鈴木−宮浦カップリングは有機合成において広く用いられている炭素−炭素結合生成反応である。芳香族ボロン酸エステルと芳香族化合物との鈴木−宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成の例は既に知られている(非特許文献1〜2)。しかしながらこれらは均一系触媒を用いた例であり、触媒と生成物との分離が困難であるという問題を伴っている。
【0003】
一方、触媒と生成物との分離が容易な固体触媒を用いた、芳香族ボロン酸と芳香族化合物との鈴木−宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成の例は知られている。例えば、担体として用いたヒドロキシアパタイトにパラジウムを固定した固体触媒の存在下(特許文献1)、あるいは、パラジウム炭素触媒の存在下(非特許文献3)、芳香族ボロン酸と芳香族化合物との鈴木−宮浦カップリングによる炭素−炭素結合を生成した例が知られている。しかしながら、これらの例も含めて、芳香族ボロン酸を芳香族ボロン酸エステルに置き換え、芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物とを、固体触媒の存在下湿式で鈴木−宮浦カップリングさせて炭素−炭素結合を生成させた具体例の報告はない。
【0004】
そこで、生成物との分離の容易な固体触媒を用い、芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物とを鈴木−宮浦カップリングさせて炭素−炭素結合を生成させる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鈴木 章、「有機合成化学協会誌」、2005年4月号、p.312
【非特許文献2】M. Lamaire et al., "Chem. Rev.", 2002年, 102巻, p.1359
【非特許文献3】H. Sajiki et al., "J. Chem. Res.", 2004年, p.593, (Erratum: "J. Chem. Res.", 2005年, p.344)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−57898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生成物との分離が容易な固体触媒を用いた、芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物との鈴木−宮浦カップリングによる炭素−炭素結合の生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、固体触媒として炭素系固体触媒を鋭意検討した結果、比表面積1000m2/g以上の炭素粒子にパラジウムを固定したパラジウム炭素触媒を用いると、芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物との鈴木−宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物とを、比表面積1000m2/g以上の炭素粒子にパラジウムを固定したパラジウム炭素触媒の存在下にて湿式で鈴木−宮浦カップリングさせることを特徴とする炭素−炭素結合の生成方法を提供する。
【0010】
本発明は、好ましくは、前記芳香族ボロン酸エステルが下記一般式(I):
【0011】
【化1】


(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基またはハロゲン原子を表し、ただし、R1およびR2、R2およびR3、R3およびR4、またはR4およびR5が結合してアルキレン基、アルケニレン基またはベンゾアルケニレン基を形成してもよく、R6およびR7は、独立に水素原子またはアルキル基を表し、ただし、R6およびR7が結合してアルキレン基を形成してもよく、pおよびqは独立に0〜2の整数を表し、rは1〜3の自然数を表す。)
で表される化合物であり、前記芳香族化合物が下記一般式(II):
【0012】
【化2】


(式中、R8、R9、R10、R11およびR12は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基またはハロゲン原子を表し、Xはハロゲン原子またはトリフラート基を表す。)
で表される化合物であり、前記鈴木−宮浦カップリングの生成物が下記一般式(III):
【0013】
【化3】


(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R8、R9、R10、R11およびR12は前記のとおりである。)
で表される化合物であることを特徴とする前記炭素−炭素結合の生成方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による炭素−炭素結合の生成方法では、固体触媒であるパラジウム炭素触媒を用いるので、生成物とパラジウム炭素触媒とを容易に分離することができる。したがって、本発明によれば、炭素−炭素結合の生成方法の反応工程、反応装置、反応管理等を容易にすることができる。また、本発明で用いるパラジウム炭素触媒は、反応後に分離し回収した後の触媒活性の低下が僅かであり、繰り返しの再使用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0016】
<パラジウム炭素触媒>
本発明で用いるパラジウム炭素触媒は、比表面積1000m2/g以上の炭素粒子にパラジウムを固定したものである。
【0017】
−担体−
前記炭素粒子は、前記パラジウム炭素触媒の担体であり、その特に好適な例としては活性炭が挙げられる。
【0018】
炭素粒子の比表面積は、1000m2/g以上であれば特に限定されないが、1050〜3000m2/gが好ましく、1100〜1500 m2/gが特に好ましい。比表面積は、BET法で測定した値である。
【0019】
また、炭素粒子の粒径は、特に限定されないが、メジアン径が0.5〜500μmの範囲であることが好ましく、5〜500μmの範囲であることが特に好ましい。メジアン径はレーザー散乱法により測定した値である。
【0020】
−触媒の調製方法(炭素粒子担体へのパラジウムの固定)−
炭素粒子担体へのパラジウムの固定は、該炭素粒子担体にパラジウムを含む溶液を接触させることにより行うことができる。
【0021】
具体的には、本発明で用いるパラジウム炭素触媒は、例えば、パラジウム化合物を溶媒に溶解し、当該溶液中に炭素粒子担体を投入し、パラジウム化合物を該炭素粒子担体に吸着または含浸させることにより得ることができる。パラジウムを吸着または含浸などの方法で炭素粒子担体に担持させた触媒に対しては、必要に応じて還元処理を実施してもよい。湿式で還元する場合には、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸などの還元剤のほか、ガス状水素を用いることができる。乾式で還元する場合にはガス状水素を用いて行うが、水素ガスを窒素等の不活性ガスで希釈して使用することも可能である。
【0022】
パラジウム化合物としては、触媒調製工程に使用する溶媒に可溶性であれば特に限定されないが、例えば、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、テトラアンミンパラジウム臭化物、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、テトラアンミンパラジウム硫酸塩、塩化パラジウム酸等の水溶性化合物;ビス(2,4−ペンタンジオナト)パラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム等の有機溶媒に可溶な錯体が使用でき、硝酸パラジウム、塩化パラジウム酸、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムが好ましい。
【0023】
触媒調製に用いる溶媒は、パラジウム化合物を溶解するものであれば特に制限されないが、水溶性のパラジウム化合物を用いる場合には水が好適であり、有機溶媒に可溶なパラジウム化合物を用いる場合には、エタノール、アセトン、クロロホルム等の有機溶媒であって該パラジウム化合物を溶解するものが好適である。
【0024】
前記炭素粒子担体1g当たりのパラジウムの担持量は、特に制限されないが、パラジウム元素に換算して、好ましくは、1.0μmol〜5mmol、より好ましくは100μmol〜3mmolである。
【0025】
<芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物との鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合の生成反応>
前記パラジウム炭素触媒の存在下にて湿式で芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物とを鈴木―宮浦カップリングさせることにより、炭素−炭素結合を生成させることができる。「湿式で」とは、通常、「溶媒の存在下で」を意味し、好ましくは「溶媒中で」を意味する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、前記パラジウム炭素触媒の存在下にて湿式で、上記一般式(I)で表される芳香族ボロン酸エステルと、上記一般式(II)で表される芳香族化合物とを鈴木−宮浦カップリングさせることにより、炭素−炭素結合を生成させることができる。その結果、上記一般式(III)で表される炭素−炭素結合生成反応生成物を製造することができる。
【0027】
例えば、フェニルボロン酸エステルである5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンと、1−ブロモ−4−ニトロベンゼンとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応では、前記パラジウム炭素触媒を用いることにより、4−ニトロジフェニルを室温(15−25℃、以下同じ)にて収率90%以上で得ることができる。
【0028】
上記一般式(I)及び(III)において、R1、R2、R3、R4およびR5は、好ましくは独立に水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペンチロキシ基、n−ヘキシロキシ基等の炭素原子数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子であり、ただし、R1およびR2、R2およびR3、R3およびR4、またはR4およびR5が結合してアルキレン基、アルケニレン基またはベンゾアルケニレン基を形成してもよい。
【0029】
前記アルキレン基の好ましい例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素原子数2〜10のアルキレン基が挙げられる。前記アルケニレン基の好ましい例としては、−CH=CH−、−CH=CH−CH2−、−CH2−CH=CH−CH2−、−CH2−CH=CH−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−等の炭素原子数2〜10のアルケニレン基が挙げられる。前記ベンゾアルケニレン基の好ましい例としては、炭素原子数6〜10のベンゾアルケニレン基が挙げられる。
【0030】
ベンゾアルケニレン基とは、下記一般式(IV):
【0031】
【化4】

(式中、mは0〜1の整数、nは0〜3の整数)
で表される二価の炭化水素基を意味する。
【0032】
上記一般式(I)において、R6およびR7は、好ましくは独立に水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基であり、ただし、R6およびR7が結合してアルキレン基を形成してもよい。
【0033】
前記アルキレン基の好ましい例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素原子数2〜10のアルキレン基が挙げられる。
【0034】
上記一般式(II)及び(III)において、R8、R9、R10、R11およびR12は、好ましくは独立に水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペンチロキシ基、n−ヘキシロキシ基等の炭素原子数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子である。
【0035】
上記一般式(II)において、Xは、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;またはトリフラート基であり、より好ましくは臭素原子またはヨウ素原子である。
【0036】
芳香族ボロン酸エステルの添加量は、該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物1molに対して、好ましくは0.5〜2.5mol、より好ましくは0.9〜2.0molである。
【0037】
本発明で用いる触媒は、反応物の一である、芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物に対してパラジウム元素に換算して、好ましくは0.01〜20モル%の範囲で用いられ、より好ましくは0.1〜10モル%の範囲で用いられ、更により好ましくは0.5〜5モル%の範囲で用いられる。
【0038】
炭素−炭素結合生成反応に用いる溶媒は、特に制限されないが、好ましくは、水;メタノール、エタノール、2−プロパノールなどの炭素原子数1−6のアルカノール、1,4−ジオキサンなどの極性有機溶媒;またはこれらの組み合わせであり、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどの炭素原子数1−3のアルカノールと水との混合溶媒が特に好ましい。
【0039】
この炭素−炭素結合生成反応は、例えば、空気雰囲気中または窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気中、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、通常、室温から200℃の温度領域で1〜24時間程度で行われる。
【0040】
芳香族ボロン酸エステルの具体例としては、5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナン、5,5−ジメチル−2−(4−フルオロフェニル)−1,3,2−ジオキサボリナン、3−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)安息香酸メチル、5−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン−1,3−ジカルボン酸ジメチル、4,4,5,5−テトラメチル−2−(2−アズレニル)−1,3,2−ジオキサボロラン、5,5−ジメチル−2−(2,4,6−トリメチルフェニル)−1,3,2−ジオキボリナン等が挙げられる。
【0041】
前記芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物の具体例としては、1−ブロモ−4−ニトロベンゼン、p−ブロモアニソール、o−ブロモトルエン、1−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン、4−ブロモ−2,6−ジクロロフェノール、2−ブロモベンゾニトリル等が挙げられる。
【0042】
本発明の炭素−炭素結合の生成方法により得られる反応生成物の具体例としては、4−ニトロジフェニル、4−メトキシジフェニル、2−メチルジフェニル、4−メトキシ−4’−フルオロジフェニル、4’−メトキシジフェニル−3−カルボン酸メチル、4’−メトキシジフェニル−3,5−ジカルボン酸ジメチル、2−フェニルアズレン、2−フェニルベンゾニトリル、2,4,6,2’,4’,6’−ヘキサメチルジフェニル等が挙げられる。
【0043】
芳香族ボロン酸エステルおよび該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物のおのおのは一種単独で使用しても二種以上併用してもよい。芳香族ボロン酸エステルおよび該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物の一方または両方を二種以上併用した場合、得られる反応生成物は二種以上の混合物であってもよい。
【0044】
本発明の炭素−炭素結合の生成方法は、好ましくは、上記の成分に加え、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、メタほう酸ナトリウム等の塩基の存在下で実施することもできる。塩基の添加量は、前記芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物1molに対して、好ましくは1〜10mol、より好ましくは2〜5molである。また、本発明の炭素−炭素結合の生成方法は、他の任意成分として、塩化ナトリウム等の無機塩等の存在下で実施してもよい。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例および比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
(1−ブロモ−4−ニトロベンゼンと5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による4−ニトロジフェニルの合成)
1−ブロモ−4−ニトロベンゼン0.5mmolと5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナン0.55mmolと炭酸ナトリウム1.25mmolとをアルゴン気流下、50重量%エタノール水溶液2mlに溶解させて溶液を得た。得られた溶液に10%パラジウムカーボン粉末触媒(炭素粒子担体のBET法による比表面積:1190m2/g、レーザー散乱法により測定したメジアン径:26μm、炭素粒子担体1g当たりのパラジウムの担持量:パラジウム元素に換算して0.94mmol、エヌ・イー ケムキャット(株)製)をパラジウム元素に換算して2.5μmol加え、アルゴン雰囲気下、室温で4時間攪拌することにより反応を行った。反応終了後、触媒をろ過分離することにより、ろ液として、50重量%エタノール水溶液に溶解した状態の4−ニトロジフェニルを得た。得られたろ液を50重量%エタノール水溶液で希釈してガスクロマトグラフィー(以下、「GC」という)にかけ、4−ニトロジフェニルの収率を測定した。投入した1−ブロモ−4−ニトロベンゼンに対する4−ニトロジフェニルの収率は91%であった。
【0047】
<実施例2>
(p−ブロモアニソールと5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による4−メトキシジフェニルの合成)
実施例1において、1−ブロモ−4−ニトロベンゼンの代わりにp−ブロモアニソールを用いた以外は実施例1と同様にして、反応を行った。反応終了後、反応混合物にジエチルエーテルと水とを加え、触媒をろ過分離し、ろ液をジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル画分を食塩水で洗浄した後、乾燥させて4−メトキシジフェニルを得た。得られた4−メトキシジフェニルの重量を測定し収率を算出した。投入したp−ブロモアニソールに対する4−メトキシジフェニルの収率は89%であった。
【0048】
<実施例3>
(o−ブロモトルエンと5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による2−メチルジフェニルの合成)
実施例2において、p−ブロモアニソールの代わりにo−ブロモトルエンを用い、触媒の量をパラジウム元素に換算して5μmolとし、攪拌時間を2.5時間とした以外は実施例2と同様にして、2−メチルジフェニルを得、その収率を測定した。投入したo−ブロモトルエンに対する2−メチルジフェニルの収率は42%であった。
【0049】
<実施例4>
(p−ブロモアニソールと5,5−ジメチル−2−(4−フルオロフェニル)−1,3,2−ジオキサボリナンとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による4−メトキシ−4’−フルオロジフェニルの合成)
実施例2において、5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンの代わりに5,5−ジメチル−2−(4−フルオロフェニル)−1,3,2−ジオキサボリナンを用い、触媒の量をパラジウム元素に換算して5μmolとし、攪拌時間を14時間とした以外は実施例2と同様にして、4−メトキシ−4’−フルオロジフェニルを得、その収率を測定した。投入したp−ブロモアニソールに対する4−メトキシ−4’−フルオロジフェニルの収率は78%であった。
【0050】
<実施例5>
(p−ブロモアニソールと3−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)安息香酸メチルとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による4’−メトキシジフェニル−3−カルボン酸メチルの合成)
実施例2において、5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンの代わりに3−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)安息香酸メチルを用い、触媒の量をパラジウム元素に換算して5μmolとし、攪拌時間を24時間とした以外は実施例2と同様にして、4’−メトキシジフェニル−3−カルボン酸メチルを得、その収率を測定した。投入したp−ブロモアニソールに対する4’−メトキシジフェニル−3−カルボン酸メチルの収率は43%であった。
【0051】
<実施例6>
(p−ブロモアニソールと5−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン−1,3−ジカルボン酸ジメチルとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による4’−メトキシジフェニル−3,5−ジカルボン酸ジメチルの合成)
実施例2において、5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンの代わりに5−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゼン−1,3−ジカルボン酸ジメチルを用い、触媒の量をパラジウム元素に換算して5μmolとし、攪拌時間を24時間とした以外は実施例2と同様にして、4’−メトキシジフェニル−3,5−ジカルボン酸ジメチルを得、その収率を測定した。投入したp−ブロモアニソールに対する4’−メトキシジフェニル−3,5−ジカルボン酸ジメチルの収率は52%であった。
【0052】
<比較例1>
(パラジウム炭素触媒(炭素粒子担体の比表面積920 m2/g)を用いた1−ブロモ−4−ニトロベンゼンと5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による4−ニトロジフェニルの合成)
実施例1において、パラジウム炭素触媒として10%パラジウムカーボン粉末触媒(炭素粒子担体のBET法による比表面積:920m2/g、レーザー散乱法により測定したメジアン径:41μm、炭素粒子担体1g当たりのパラジウムの担持量:パラジウム元素に換算して0.94mmol、エヌ・イー ケムキャット(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にして、4−ニトロジフェニルを得、その収率を測定した。投入した1−ブロモ−4−ニトロベンゼンに対する4−ニトロジフェニルの収率は22%であった。
【0053】
<比較例2>
(パラジウムアルミナ触媒(アルミナ担体の比表面積90 m2/g)を用いた1−ブロモ−4−ニトロベンゼンと5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3,2−ジオキサボリナンとの鈴木―宮浦カップリングによる炭素−炭素結合生成反応による4−ニトロジフェニルの合成)
実施例1において、10%パラジウムカーボン粉末触媒の代わりに10%パラジウムアルミナ粉末触媒(アルミナ担体のBET法による比表面積:90m2/g、エヌ・イー ケムキャット(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にして、4−ニトロジフェニルを得、その収率を測定した。投入した1−ブロモ−4−ニトロベンゼンに対する4−ニトロジフェニルの収率は0%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物とを、比表面積1000m2/g以上の炭素粒子にパラジウムを固定したパラジウム炭素触媒の存在下にて湿式で鈴木−宮浦カップリングさせることを特徴とする炭素−炭素結合の生成方法。

【公開番号】特開2012−31190(P2012−31190A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215916(P2011−215916)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2006−58635(P2006−58635)の分割
【原出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】